説明

2−ノルボルネン付加重合体フィルム

【課題】機械強度が高く、優れた耐熱性および透明性を有し、かつ、吸水率の低い2−ノルボルネン付加重合体のフィルムを提供すること。
【解決手段】重量平均分子量(Mw)が250,000〜850,000の2−ノルボルネン付加重合体のフィルムであって、温度25℃の条件下で、重量比で100倍量のシクロヘキサンに溶解した際における、2−ノルボルネン付加重合体のシクロヘキサン不溶分が1重量%以下であることを特徴とする2−ノルボルネン付加重合体フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−ノルボルネン付加重合体のフィルムに係り、さらに詳しくは、機械強度が高く、優れた耐熱性および透明性を有し、かつ、吸水率が低く抑えられた2−ノルボルネン付加重合体のフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
2−ノルボルネンをビニル付加重合した2−ノルボルネン付加重合体は、耐熱性、透明性および低吸湿性に優れた材料として注目されている。2−ノルボルネン付加重合体は、耐熱性に優れるという性質を有しているため、2−ノルボルネン付加重合体をフィルム状に成形する際に、射出成形や押出し成形するためには、比較的に高温とする必要があり、操作性に劣るという問題や、さらには熱による劣化が起こるという問題がある。そのため、これらの方法に代えて、溶液キャスト法により、フィルム状に成形する方法が検討されている。ここで、溶液キャスト法においては、重合体を溶剤に溶解して重合体溶液を調製し、得られた重合体溶液を支持体に塗工または流延した後、加熱等などにより、溶剤を蒸発させてフィルムを得ることが、一般的である。
【0003】
たとえば、非特許文献1には、周期表第4族遷移金属化合物、すなわち、いわゆるメタロセン触媒で重合された2−ノルボルネン付加重合体が開示されている。しかしながら、この非特許文献1に開示された2−ノルボルネン付加重合体は、一般溶剤に不溶であるため、重合体溶液を調製することができず、溶液キャスト法による成形ができなかった。
【0004】
また、特許文献1には、ニッケルエチルヘキサノエートなどのニッケル触媒を用いて重合した2−ノルボルネン系の付加重合体が開示されている。ここで、特許文献1には、ニッケル触媒を用いることにより、シクロヘキサンなどの炭化水素溶剤に溶解可能な重合体が得られる旨が記載されている。しかしながら、この特許文献1に開示された2−ノルボルネン系の付加重合体は、シクロヘキサンや他の溶剤にほとんど溶解させることができず、たとえば、室温条件下においては、シクロヘキサンに1重量%以上溶解させようとしても、多量の不溶分が残り、均一に溶解することができないものであった。そのため、この場合においても、重合体溶液を調製することができず、溶液キャスト法による成形ができなかった。あるいは、溶液キャスト法に適した重合体溶液を作製するためには、オルトジクロロベンゼンなどの高沸点ハロゲン系溶剤を用い、2−ノルボルネン付加重合体および溶剤を加熱しながら溶解させる必要があり、さらに、溶剤を除去するために、高温で乾燥しなければならず、この場合には、得られるフィルムが機械強度に劣るものとなる結果となった。
【0005】
【特許文献1】特表平9−508649号公報
【非特許文献1】Macromolecular Symposia 97巻、pp225−246、1995年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、機械強度が高く、優れた耐熱性および透明性を有し、かつ、吸水率の低い2−ノルボルネン付加重合体のフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、2−ノルボルネン付加重合体のフィルムにおいて、フィルムを構成する2−ノルボルネン付加重合体の分子量を所定の範囲に制御し、2−ノルボルネン付加重合体のシクロヘキサンに対する不溶分を所定の範囲に抑えることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、重量平均分子量(Mw)が250,000〜850,000の2−ノルボルネン付加重合体のフィルムであって、温度25℃の条件下で、重量比で100倍量のシクロヘキサンに溶解した際における、2−ノルボルネン付加重合体のシクロヘキサン不溶分が1重量%以下であることを特徴とする2−ノルボルネン付加重合体フィルムが提供される。
【0009】
好ましくは、引張り速度2mm/分の条件で測定した引張強度が、30MPa以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2−ノルボルネン付加重合体のフィルムを、重量平均分子量(Mw)が所定の範囲にあり、かつ、シクロヘキサンに対する不溶分が所定の範囲に抑えられた2−ノルボルネン付加重合体を用いることにより、機械強度が高く、優れた耐熱性および透明性を有し、かつ、吸水率の低いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、重量平均分子量(Mw)が250,000〜850,000の2−ノルボルネン付加重合体のフィルムであって、温度25℃の条件下で、重量比で100倍量のシクロヘキサンに溶解した際における、2−ノルボルネン付加重合体のシクロヘキサン不溶分が1重量%以下である事を特徴とする。
本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、通常、2−ノルボルネン付加重合体を、溶媒に溶解させ重合体溶液を調製し、得られた重合体溶液を用い、重合体溶液から溶媒を蒸発除去して、フィルム状に成形することにより、製造することができる。
【0012】
2−ノルボルネン付加重合体
まず、本発明のフィルムを構成する2−ノルボルネン付加重合体について、説明する。
本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体は、下記式(1)で示される繰り返し単位を、主として含む重合体である。2−ノルボルネン付加重合体中における、下記式(1)で示される繰り返し単位の含有割合は、通常、95重量%以上であり、好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体は、重合体末端に、重合開始反応、連鎖移動反応または重合停止反応に伴って導入される任意の置換基を有していてもよい。また、本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体は、一般式(1)で示される繰り返し単位以外に、2−ノルボルネンと共重合可能な単量体単位を有していてもよい。このような2−ノルボルネンと共重合可能な単量体としては、エチルノルボルネン(5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン)、エチリデンノルボルネン(5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン)等の置換基を有するノルボルネン誘導体を挙げることができる。
【化1】

【0013】
本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体の重量平均分子量(Mw)は、250,000〜850,000であり、好ましくは260,000〜830,000、より好ましくは300,000〜820,000である。また、数平均分子量(Mn)は、好ましくは100,000〜450,000、より好ましくは110,000〜450,000、さらに好ましくは120,000〜450,000である。本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、溶媒としてクロロホルムを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した場合における、ポリスチレン換算での分子量である。なお、本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体は、高温GPCでも測定できるが、室温での溶解性に優れるため、一般的なGPCでも測定することが可能であり、上記分子量は、一般的なGPCで測定した場合の分子量である。
【0014】
本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体の分子量が低すぎると、フィルムとした場合における耐熱性や強度が低くなる。また、分子量が高すぎると、溶媒に溶解した場合における溶液粘度が高くなってしまい、キャスト成形し難くなり、結果として、良好なフィルムを得ることができない。
【0015】
本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体は、下記式(2)で表される2−ノルボルネンを付加重合させることにより製造される。
【化2】

【0016】
本発明において、2−ノルボルネンを付加重合させる方法としては、特に限定されないが、2−ノルボルネンを、下記式(3)で示されるニッケル化合物(A)とボラン化合物(B)とからなる触媒の存在下で付加重合させることが好ましい。このようなニッケル化合物(A)とボラン化合物(B)とからなる触媒の存在下で付加重合させることにより、得られる2−ノルボルネン付加重合体の分子量を上記範囲とすることができ、しかも、フィルムとした場合においても、シクロヘキサンに十分溶解するものとすることができる。
【化3】

上記式(3)中、Rは、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む官能基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む官能基;または、ハロゲン原子または前記の官能基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;である。ここで、RとRとは、それらが結合している炭素原子と共に環を形成していてもよい。Xは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜20の炭化水素基である。Lは、中性の電子供与性配位子である。
【0017】
本発明においては、上記式(3)で示されるニッケル化合物(A)のなかでも、下記式(4)で示される化合物が、2−ノルボルネンに対する重合活性が高く、得られる2−ノルボルネン付加重合体を、シクロヘキサンに十分溶解するものとすることができる点より、好ましい。
【化4】

上記式(4)中、R〜Rは、水素原子;ハロゲン原子;ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む官能基;または、炭素数1〜10の炭化水素基;である。Xは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜20の炭化水素基である。Lは、中性の電子供与性配位子である。
【0018】
上記式(4)中のR〜Rにおける、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む官能基としては、たとえば、ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリロキシ基;カルボキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アセチルオキシ基等のエステル基;ニトロ基;メチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基等のアリールチオ基;トリメチルシリル基等のシリル基;等を挙げることができる。
また、上記式(4)中のR〜Rにおける、炭素数1〜10の炭化水素基としては、たとえば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;等を挙げることができる。なお、これらの炭化水素基は、さらに上述のハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む官能基を置換基として有していてもよい。
【0019】
上記式(4)中のR〜Rとしては、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であることが好ましく、なかでも、水素原子、アルキル基およびアリール基がより好ましい。
【0020】
上記式(3)または(4)中のXにおける、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。同様に、Xにおける、炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;等を挙げることができる。
としては、炭素数1〜20の炭化水素基が好ましく、なかでもアルキル基およびアリール基がより好ましい。
【0021】
上記式(3)または(4)中のLの具体例としては、酸素原子、水、カルボニル、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、ホスフィナイト類、ホスファイト類、スルホキシド類、チオエーテル類、アミド類、芳香族化合物、環状ジオレフィン類、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネート類、複素環式カルベン化合物、等が挙げられる。これらの中でも、ピリジン類、ホスフィン類、エーテル類および複素環式カルベン化合物が好ましく、ホスフィン類がより好ましい。
【0022】
上記式(4)で示されるニッケル化合物(A)としては、たとえば、R〜R、XおよびLが、それぞれ、以下のものであるニッケル化合物(A−1)〜(A−5)が好ましく用いられる。なお、以下において、Hは水素原子、Meはメチル基、Etはエチル基、iPrはイソプロピル基、Phはフェニル基、PPhはトリフェニルホスフィンを示す。
【0023】
ニッケル化合物(A−1):R=H,R=H,R=H,R=H,R=H,X=Ph,L=PPh
ニッケル化合物(A−2):R=Me,R=H,R=H,R=H,R=Me,X=Ph,L=PPh
ニッケル化合物(A−3):R=Me,R=H,R=Me,R=H,R=Me,X=Ph,L=PPh
ニッケル化合物(A−4):R=Et,R=H,R=H,R=H,R=Et,X=Ph,L=PPh
ニッケル化合物(A−5):R=iPr,R=H,R=H,R=H,R=iPr,X=Ph,L=PPh
【0024】
また、上記式(4)で示されるニッケル化合物(A)は、既知の合成方法、たとえば、Macromolecular Rapid Communications,27巻、17号、pp1418−1423(2006年)に記載された合成方法により、合成することができる。
【0025】
ニッケル化合物(A)と組み合わせて用いられるボラン化合物(B)は、BR10(ここで、R10は互いに同一でも異なっていてもよく、フッ素原子、フェニル基、またはフッ素原子もしくはフッ素原子置換アルキル基等の置換基を有していてもよいフェニル基である。)で示される化合物である。このような、ボラン化合物(B)としては、たとえば、トリフェニルボラン、トリス(4−フルオロフェニル)ボラン、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(4−フルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン等が好ましく用いられる。
【0026】
2−ノルボルネンを付加重合させる際には、上記したニッケル化合物(A)およびボラン化合物(B)に加えて、さらに触媒としての有機アルミニウム化合物(C)を併用してもよい。有機アルミニウム化合物(C)としては、たとえば、下記式(5)で示される化合物が挙げられる。
(R11AlX3−z (5)
上記式(5)中、R11は炭素原子数が1〜15、好ましくは1〜8の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子、水素原子、アルコキシド又はアリーロキシドであり、zは1〜3の整数である。
【0027】
上記式(5)中のR11を構成する炭素原子数が1〜15の炭化水素基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、n−オクチル基等のアルキル基;シクロアルキル基;アリール基;が挙げられる。
【0028】
上記一般式(5)で示される有機アルミニウム化合物(C)としては、たとえば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec−ブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジメチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド等のジアルキルアルミニウムハライド;ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド;ジメチルアルミニウムメトキシド等のジアルキルアルミニウムアルコキシド;ジエチルアルミニウムフェノキシド等のジアルキルアルミニウムアリーロキシド;等が挙げられる。
【0029】
2−ノルボルネンを付加重合させる際における、各触媒成分(ニッケル化合物(A)、ボラン化合物(B)および有機アルミニウム化合物(C))の比率は、適宜選択すればよく、特に限定されない。たとえば、ニッケル化合物(A)とボラン化合物(B)との割合は、(A):(B)のモル比で、1:0.1〜1:100の範囲が好ましく、より好ましくは1:0.5〜1:50、さらに好ましくは1:1〜1:20の範囲である。また、有機アルミニウム化合物(C)を併用する場合には、ニッケル化合物(A)と有機アルミニウム化合物(C)との割合を、(A):(C)のモル比で、1:0.1〜1:100の範囲が好ましく、より好ましくは1:0.5〜1:50、さらに好ましくは1:1〜1:20の範囲である。
【0030】
これらの各触媒成分は、混合して用いることが好ましい。触媒成分の混合は、必要に応じて溶剤中で行なってもよい。触媒成分の混合に用いる溶剤として用いる有機溶媒としては、特に限定されないが、不活性であり、工業的に汎用されるものが好ましい。このような溶剤としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン溶媒;等を使用することができる。
これらの中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類およびハロゲン溶媒が好ましい。
【0031】
触媒成分を混合する際の温度は、特に限定されないが、通常、−200℃〜200℃、好ましくは、−150℃〜150℃、より好ましくは、−100℃〜100℃の範囲である。
【0032】
また、2−ノルボルネンに対する触媒の割合は、ニッケル化合物(A)中のニッケル原子:2−ノルボルネンのモル比で、1:100〜1:2,000,000の範囲が好ましく、より好ましくは1:200〜1,000,000、さらに好ましくは1:500〜1:500,000の範囲である。触媒量が多すぎると触媒除去が必要な場合にその操作が困難となり、一方、少なすぎると十分な重合活性が得られない場合がある。
【0033】
また、2−ノルボルネンを付加重合させる際には、単環の環状オレフィンを添加しても良い。単環の環状オレフィンを添加することにより、得られる2−ノルボルネン付加重合体の分子量を調整することができ、これにより、目標とする分子量を有する重合体を得ることができる。
【0034】
単環の環状オレフィンとしては、たとえば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロデセン等の環状(ジ)オレフィンを挙げることができる。
【0035】
単環の環状オレフィンの2−ノルボルネンに対する割合は、重合体の目標分子量によって任意に選択することができるが、2−ノルボルネン付加重合体の重量平均分子量(Mw)を、上記範囲に制御するという点より、環状オレフィン/2−ノルボルネンのモル比で、1/5〜1/1,000の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1/10〜1/500である。
【0036】
2−ノルボルネンの付加重合は、2−ノルボルネン、ニッケル化合物(A)、ボラン化合物(B)、必要に応じて用いられる有機アルミニウム化合物(C)、および単環の環状オレフィンを混合することによって、進行させることができる。これらを混合する順序は特に限定されないが、たとえば、2−ノルボルネン、ニッケル化合物(A)、および単環の環状オレフィンを含む溶液に、ボラン化合物(B)を加えて重合しても良いし、あるいは、ニッケル化合物(A)とボラン化合物(B)をあらかじめ混合した後、2−ノルボルネンと単環の環状オレフィンを含む溶液に添加しても良い。もちろん、これ以外の方法であっても構わない。
【0037】
2−ノルボルネンの付加重合は、通常、有機溶液中で行われる。溶液として用いる有機溶媒は特に限定されないが、不活性であり、工業的に汎用されるものが好ましい。
有機溶媒としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン溶媒;等が挙げられる。
これらの溶媒の中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類およびハロゲン溶媒が好ましい。
【0038】
有機溶媒中の2−ノルボルネンの濃度は、1〜50重量%の範囲が好ましく、より好ましくは2〜45重量%、さらに好ましくは5〜40重量%である。有機溶媒中における、2−ノルボルネンの濃度が低すぎると生産性が低下する。一方、濃度が高すぎると、重合後の溶液粘度が高くなりすぎてしまい、その後の取り扱いが困難となる場合がある。
【0039】
2−ノルボルネンを重合する際の重合温度は、特に制限はないが、一般には、−30℃〜100℃、好ましくは0℃〜80℃である。重合温度が低すぎると重合速度が遅くなり、生産性が低下する。一方、重合温度が高すぎると重合触媒が失活したり、重合体が溶けにくくなる場合がある。重合時間は、特に制限はなく、任意に設定すれば良い。
【0040】
付加重合反応の後、触媒を除去することが好ましい。触媒の除去方法としては、シリカ、アルミナ、活性炭等の吸着剤により吸着除去する方法;イオン交換樹脂により除去する方法;キレート剤を加えて触媒残渣を不溶化させてろ過する方法;重合体溶液を多量のメタノール、アセトン等の貧溶媒に添加して凝固する方法;等を挙げることができる。
【0041】
付加重合反応後の2−ノルボルネン付加重合体を重合系から分離回収する場合には、分離回収は、重合体溶液から直接溶剤を除去する方法、メタノール等の貧溶媒で凝固・分離する方法等の公知の方法により行なうことができる。
【0042】
2−ノルボルネン付加重合体溶液
本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体溶液は、上述した2−ノルボルネン付加重合体を溶媒に溶解することにより調製することができる。2−ノルボルネン付加重合体を溶媒に溶解し重合体溶液とすることにより、重合体溶液を用いた溶液キャスト法によるフィルムの成形が可能となる。
【0043】
2−ノルボルネン付加重合体溶液を調製する際に用いる溶媒としては、上述した2−ノルボルネン付加重合体を溶解できる溶媒であれば何でも良いが、炭化水素溶媒を主成分とする溶液が好ましい。本発明において、炭化水素溶媒を主成分とする溶液とは、溶液を構成する各成分のうち、炭化水素溶媒が最多量成分であることを意味する。炭化水素溶媒の量は、全溶液組成の30重量%以上であることが好ましく、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上である。
【0044】
このような炭化水素溶媒を主成分とする溶液に含有される炭化水素溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、2−メチルペンタン、2−メチルヘキサン等の直鎖状または分岐状脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;等を挙げることができる。なかでも、本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体に対する溶解性が優れるという点より、脂環族炭化水素溶媒または芳香族炭化水素溶媒が好ましく、特にシクロヘキサンが好ましい。
【0045】
本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体溶液中における、2−ノルボルネン付加重合体の含有量は、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは4〜38重量%、さらに好ましくは5〜35重量%である。
【0046】
また、本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体溶液の粘度は、好ましくは1,000〜150,000mPa・s、より好ましくは2,000〜130,000mPa・s、さらに好ましくは2,500〜120,000mPa・sである。粘度が低すぎても、高すぎても、フィルム状に成形することが困難となり、良好なフィルムが得られなくなる場合がある。
【0047】
本発明で用いる2−ノルボルネン付加重合体溶液の調製方法としては、特に限定されないが、たとえば、2−ノルボルネンの重合後、重合系から分離して得られた2−ノルボルネン付加重合体と、炭化水素溶媒を主成分とする溶液と、を混合、攪拌、振とう、加熱等することにより、重合体を均一に溶解することによって得ることができる。あるいは、2−ノルボルネンの重合を、炭化水素溶媒を主成分とする溶液中で行うことにより、得られた重合反応液そのものを2−ノルボルネン付加重合体溶液とすることができる。また、この場合においては、得られた重合反応液を、さらに濃縮しても良いし、炭化水素溶媒を主成分とする溶液で希釈してもよい。
【0048】
2−ノルボルネン付加重合体フィルム
本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、上述の2−ノルボルネン付加重合体溶液を用い、2−ノルボルネン付加重合体溶液から溶媒を蒸発除去して、フィルム状に成形することにより、製造される。
【0049】
具体的には、上述の2−ノルボルネン付加重合体溶液を、スチールベルトやキャリアフィルムなどの支持体上に、塗工または流延し、次いで、2−ノルボルネン付加重合体溶液中に含まれる溶媒を除去することにより、製造される。
あるいは、2−ノルボルネン付加重合体溶液を、型内に流し込み、次いで、溶媒を除去することによりフィルム化しても良いし、また、2−ノルボルネン付加重合体溶液を、特定の部品や基材に付着させた後、溶媒を除去することによりフィルム化しても良い。
【0050】
さらに、2−ノルボルネン付加重合体溶液をガラスクロス等の織布または不織布に含浸させ、溶媒を除去することにより、織布または不織布を含むフィルムとしても良い。
【0051】
なお、フィルム状に成形する際に、2−ノルボルネン付加重合体溶液に含有されている溶媒を除去する方法としては、特に限定されず、たとえば、室温で乾燥することにより溶媒を除去しても良いが、40〜200℃で加熱して、溶媒を除去する方法が好ましい。
【0052】
本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムの厚みは、特に限定されないが、通常、1〜1,000μm、好ましくは2〜500μmである。フィルムの厚さがこの範囲内であるとき、フィルム状に成形するのに要する時間が短く、得られるフィルムの強度を優れたものとすることができる。
また、本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムを構成する2−ノルボルネン付加重合体のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点から、好ましくは200〜450℃、より好ましくは250〜400℃、特に好ましくは300〜400℃である。
【0053】
本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、2−ノルボルネン付加重合体のみからなるものであってもよいが、他の透明樹脂を任意の割合で含有するものであっても良い。このような他の透明樹脂としては、たとえば、環状オレフィン付加重合体、水素化された環状オレフィン開環重合体、α−オレフィンと環状オレフィンとの付加共重合体、結晶性のα−オレフィン重合体、ゴム状のエチレンと炭素数が3以上のα−オレフィンとの共重合体、水素化されたブタジエン重合体、水素化されたブタジエン・スチレンブロック共重合体、水素化されたイソプレン重合体等が挙げられる。
【0054】
さらに、本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムには、必要に応じて各種添加剤が配合されていても良い。このような添加剤としては、充填材、酸化防止剤、蛍光体、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、染料や顔料等の着色剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤等が挙げられる。
【0055】
充填材としては、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属の酸化物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。
蛍光体は、光を受けて励起し、励起波長よりも長い波長の光を発光するものであり、たとえば、光学素子を封止する場合に、光学素子が発光する青色領域から紫外線領域の波長を受けて、可視領域の波長を発光させるのに用いられる。
【0056】
このようにして得られる本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、上述した2−ノルボルネン付加重合体を用いて得られるものであるため、フィルムを構成する2−ノルボルネン付加重合体が250,000〜850,000の重量平均分子量(Mw)を有し、かつ、温度25℃の条件下で、重量比で100倍量のシクロヘキサンに溶解した際における、2−ノルボルネン付加重合体のシクロヘキサン不溶分が1重量%以下であるという性質を有するものである。なお、上記シクロヘキサン不溶分は、0.5重量%以下が好ましく、0.2重量%以下が特に好ましい。
【0057】
本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルム中の2−ノルボルネン付加重合体のシクロヘキサン不溶分は、2−ノルボルネン付加重合体フィルムをシクロヘキサン中に溶解して得られた溶液を、孔径10μmのフィルターでろ過し、フィルター上に残留した2−ノルボルネン付加重合体の量を測定し、シクロヘキサンに溶解させた2−ノルボルネン付加重合体の量に対する重量割合である(測定法の詳細は、後述の実施例の「シクロヘキサン不溶分量」を参照)。また、2−ノルボルネン付加重合体フィルムをシクロヘキサン中に溶解して得られた溶液は、700nmでの幅1cmの重合体溶液の光線透過率が、90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上であり、溶液が透明で浮遊物や沈殿物がなく、2−ノルボルネン付加重合体が均一に溶解した溶液となる。
なお、2−ノルボルネン付加重合体フィルム中に、他の透明樹脂や添加剤等が含有されておらず、該フィルムが、実質的に2−ノルボルネン付加重合体のみからなるものである場合には、フィルム全体の不溶分量と、2−ノルボルネン付加重合体の不溶分量とは同義となる。
【0058】
そして、このような本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、引張り速度2mm/分の条件で測定した引張強度が、好ましくは30MPa以上、より好ましくは35MPa以上、さらに好ましくは40MPa以上であり、機械強度に優れているという性質を有する。特に、本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、フィルムを構成する2−ノルボルネン付加重合体が、常温において、シクロヘキサンなどの炭化水素溶媒を主成分とする溶液に溶解するため、2−ノルボルネン付加重合体溶液とし、該溶液から溶媒を除去することにより製造することができるものである。そのため、フィルム化する際に、必要以上に加熱する必要がないため、加熱による2−ノルボルネン付加重合体の劣化を防止することができ、結果として、得られるフィルムの機械強度を向上させることができる。なお、引張強度は、JIS K7113に準拠して測定することができる(測定法の詳細は、後述の実施例の「引張強度」を参照)。
【0059】
加えて、本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、全光線透過率が、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。そのため、光学用成形品および表示素子用部材として好適に使用することができる。また、本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、2−ノルボルネン付加重合体の特性である、高い耐熱性および低吸水率も備えるものである。
【0060】
なお、本発明の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、二次成形することにより、光学部品、電気絶縁部品、電気・電子部品、電子部品封止剤、医療用器材、包装材料等の成形品とすることも可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、試験、評価は下記によった。
【0062】
2−ノルボルネン付加重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)
クロロホルム(比較例1では、オルトジクロロベンゼン)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、2−ノルボルネン付加重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を、ポリスチレン換算値として測定した。なお、測定時の温度は40℃とした(比較例1では、140℃)。
【0063】
シクロヘキサン不溶分量
2−ノルボルネン付加重合体フィルムを、重量比で、100倍量のシクロヘキサン中に添加し、温度25℃、時間120分の条件で撹拌することにより、2−ノルボルネン付加重合体とシクロヘキサンとを含有する溶液を調製した。そして、得られた溶液を、細孔径10μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いてろ過して、回収された不溶分量を測定し、シクロヘキサン中に添加した2−ノルボルネン付加重合体フィルムの全体の重量に対する不溶分の割合を求めた。
【0064】
引張強度
2−ノルボルネン付加重合体フィルムの引張強度は、厚さ100μmのフィルムを打ち抜いた3号試験片を用いて、引張り速度2mm/分で、JIS K7113
に準拠して測定した。
【0065】
全光線透過率
2−ノルボルネン付加重合体フィルムの全光線透過率は、厚さ100μmのフィルムについて、紫外・可視分光計(JASCO社製、商品名「V−550」)を用いて、波長400から700nmの範囲で測定した。
【0066】
ガラス転移温度
2−ノルボルネン付加重合体フィルムのガラス転移温度は、動的粘弾性で測定される貯蔵弾性率E’の屈曲点の温度で測定した。動的粘弾性の測定には、DMS6100(セイコーインスツルメント社製)を用い、測定周波数が10Hz、昇温速度が5℃/分、加振モードが単一波形、加振振幅が5.0μmのものを用いて貯蔵弾性率E’の屈曲点の温度を測定した。
【0067】
吸水率
フィルム片を23℃の水中に24時間浸漬させ、浸漬前後の重量変化より、2−ノルボルネン付加重合体フィルムの吸水率〔吸水率(%)=(「浸漬後の重量」−「浸漬前の重量」)/「浸漬前の重量」×100〕を求めた。
【0068】
実施例1
2−ノルボルネン付加重合体の製造
まず、上記式(4)で表され、R=iPr,R=H,R=H,R=H,R=iPr,X=Ph,L=PPhであるニッケル化合物(A−5)を、Macromolecular Rapid Communications,27巻、17号、p1418−1423(2006年)に記載の方法にしたがって合成した。
次いで、得られたニッケル化合物(A−5)55μmolを、ガラス製容器に仕込み、室温で1時間真空乾燥した後に窒素置換した。これに2−ノルボルネン/トルエン溶液(2−ノルボルネン量5.4mol/l)30ml、および重合溶媒としてトルエン180mlを加えた。このときの重合溶液量は210mlであり、重合溶液中の2−ノルボルネンの濃度は0.77mol/lであった。そして、この溶液に、ボラン化合物(B)としてのトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン644μmolを含むトルエン溶液を、20ml加え、40℃で重合を開始した。重合を開始してから30分後に、少量のメタノールを加えて重合を停止し、次いで、重合反応液を多量の塩酸含有メタノールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾別洗浄後、60℃で20時間減圧乾燥することにより、2−ノルボルネンの付加重合体を得た。得られた2−ノルボルネン付加重合体の分子量を表1に示した。
【0069】
2−ノルボルネン付加重合体フィルムの作製
得られた2−ノルボルネン付加重合体とシクロヘキサンとを重量比で1:15の割合で混合し、温度25℃にて、5時間攪拌して溶解させたところ、重合体は完全に溶解し、透明な重合体溶液が得られた。そして、得られた重合体溶液を、ガラス板の上にキャストし、室温にて12時間放置した後、ガラス板からキャストフィルムを剥がして、次いで、真空乾燥機にて80℃で3日間乾燥することにより、厚さ100μmの2−ノルボルネン付加重合体フィルムを得た。
【0070】
そして、得られた2−ノルボルネン付加重合体のフィルムを、クロロホルムに溶解し、2−ノルボルネン付加重合体の分子量(Mn、Mw)を測定し、ならびに、2−ノルボルネン付加重合体のフィルムのシクロヘキサン不溶分量、引張強度、ガラス転移温度、吸水率および全光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
実施例2
2−ノルボルネンの付加重合を行う際に、2−ノルボルネン/トルエン溶液とともに、3.67mmolのシクロペンテンを添加した以外は、実施例1と同様にして、2−ノルボルネンの付加重合体を得た。得られた2−ノルボルネン付加重合体の分子量を表1に示した。同様にして、厚さ100μmの2−ノルボルネン付加重合体のフィルムを作製した。そして、得られた2−ノルボルネン付加重合体フィルムについて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
実施例3
2−ノルボルネンの付加重合を行う際に、2−ノルボルネン/トルエン溶液とともに、6.61mmolのシクロペンテンを添加した以外は、実施例1と同様にして、2−ノルボルネンの付加重合体を得た。得られた2−ノルボルネン付加重合体の分子量を表1に示した。同様にして、厚さ100μmの2−ノルボルネン付加重合体のフィルムを作製した。そして、得られた2−ノルボルネン付加重合体フィルムについて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
比較例1
2−ノルボルネン付加重合体の製造
ビス(2,4−ペンタンジオナート)ニッケル100μmolを窒素雰囲気下でトルエンに溶解し、10mmolのジエチルアルミニウムクロリドを含むトルエン溶液を加えることにより触媒溶液を調製した。そして、この触媒溶液を、2−ノルボルネン/トルエン溶液が入ったガラスフラスコに加えて、40℃で重合を開始した。このときの重合溶液量は300mlで、重合溶液中の2−ノルボルネンの濃度は1.06mol/lであった。6時間後、少量のメタノールを加えて重合を停止した後、得られた重合反応液を多量のメタノールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾別洗浄後、60℃で20時間減圧乾燥することにより、2−ノルボルネン付加重合体を得た。オルトジクロロベンゼンを溶媒とする高温GPC(測定温度140℃)により、分子量(Mn、Mw)の測定を行った。結果を表1に示す。
【0074】
なお、比較例1の2−ノルボルネン付加重合体は、2−ノルボルネン付加重合体とシクロヘキサンとを重量比で1:15の割合で混合し、25℃、5時間の条件で攪拌しても、シクロヘキサンに溶解しなかった。そのため、比較例1においては、得られた2−ノルボルネン付加重合体とオルトジクロロベンゼンとを重量比で1:15の割合で混合し、160℃、5時間の条件で撹拌して、重合体を溶解させることにより、重合体溶液を作製した。そして、得られた重合体溶液を、ガラス板の上にキャストし、室温にて12時間放置した後、ガラス板からキャストフィルムを剥がして、次いで、真空乾燥機にて80℃で3日間乾燥したが、オルトジクロロベンゼンが残留していたため、さらに真空乾燥機にて250℃で1日間乾燥することにより、厚さ100μmの2−ノルボルネン付加重合体フィルムを得た。フィルムにはクラックが発生していた。
【0075】
そして、得られた2−ノルボルネン付加重合体フィルムのクラックのない部分について、実施例1と同様に評価を行った。ただし、比較例1の2−ノルボルネン付加重合体フィルムは、クロロホルムに不溶であったため、クロロホルムを溶媒とするGPCでは分子量(Mn、Mw)が測定できなかった。そのため、オルトジクロロベンゼンを溶媒とする高温GPC(測定温度140℃)により、分子量(Mn、Mw)の測定を行った。結果を表1に示す。
【0076】
比較例2
2−ノルボルネンの付加重合を行う際に、2−ノルボルネン/トルエン溶液とともに、10.6mmolのシクロペンテンを添加した以外は、実施例1と同様にして、2−ノルボルネンの付加重合体を得た。得られた2−ノルボルネン付加重合体の分子量を表1に示した。同様にして、厚さ100μmの2−ノルボルネン付加重合体のフィルムを作製した。フィルムにはクラックが発生していた。得られた2−ノルボルネン付加重合体フィルムのクラックのない部分について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1より、フィルムを構成する2−ノルボルネン付加重合体の分子量(Mw)が250,000〜850,000の重量平均分子量(Mw)を有し、かつ、シクロヘキサン不溶分量が1重量%以下である場合には、常温でシクロヘキサンなどの溶媒に溶解させることができ、シクロヘキサンなどを用いた溶液キャスト法によるフィルム化が可能であるため、引張強度、全光線透過率、吸水率、および耐熱性に優れたフィルムを得ることができる(実施例1〜3)。
【0079】
一方、フィルムを構成する2−ノルボルネン付加重合体がシクロヘキサン不溶分量が多すぎるものである場合には、常温ではシクロヘキサンなどの溶媒に溶解させることができず、そのため、溶液キャスト法によりフィルム化するためには、200℃以上の高温にする必要があるため、得られるフィルムの分子量は大幅に低下し、引張強度に劣るものとなる結果となった(比較例1)。
また、重量平均分子量(Mw)が250,000よりも小さい2−ノルボルネン付加重合体を用いた場合には、得られるフィルムは脆く、引張強度が低くて、フィルムとして使用できるものではなかった(比較例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量(Mw)が250,000〜850,000の2−ノルボルネン付加重合体のフィルムであって、
温度25℃の条件下で、重量比で100倍量のシクロヘキサンに溶解した際における、2−ノルボルネン付加重合体のシクロヘキサン不溶分が1重量%以下であることを特徴とする2−ノルボルネン付加重合体フィルム。
【請求項2】
引張り速度2mm/分の条件で測定した引張強度が、30MPa以上である請求項1に記載の2−ノルボルネン付加重合体フィルム。

【公開番号】特開2009−149726(P2009−149726A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327231(P2007−327231)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】