説明

2−メチル−2−[N−(ジエトキシホスホリル−2、2−ジメチルプロピル)−アミノオキシ]プロピオン酸アルコキシアミンの製造方法

【課題】2-メチル-2-[N-(ジエトキシホスホリル-2、2-ジメチルプロピル)−アミノオキシ]プロピオン酸アルコキシアミンまたはその塩の製造方法。アルコキシアミンまたはその塩はラジカル重合開始剤として使用できる。
【解決手段】塩基の存在下でアゾ化合物を鹸化する段階、鹸化段階で得られたアゾ化合物の塩をN-(tert-ブチル)-l-ジエチルホスホノ-2,2-ジメチルプロピルニトロオキシドの存在下で、光化学分解する段階、必要に応じて光化学分解段階で得られたアルコキシアミンの塩を酸性化する段階からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾ化合物およびβ-ホスホレート化された(phosphorated)ニトロオキシドから下記式(I):
【化1】

の2-メチル-2-[N-(ジエトキシホスホリル-2、2-ジメチルプロピル)−アミノオキシ]プロピオン酸アルコキシアミンまたはその塩を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記文献には、いわゆるATRA(Atom Transfer Radical Addition)反応に従って2-メチル-2-[N-(ジエトキシホスホリル-2、2-ジメチルプロピル)−アミノオキシ]プロピオン酸アルコキシアミンを合成する方法が記載されている。
【特許文献1】国際特許第WO 2004/014926号公報
【0003】
この方法では金属、特に銅の錯体を使用する。この方法は金属化合物を除去するのにコストのかかる精製段階、例えば水溶液での洗浄を必要とし、しかも、金属を含む多量の廃液が発生する。
【0004】
下記文献には、式(I)のアルコキシアミンではないアルコキシアミンを、のジ(t-ブチル)ニトロオキシドの存在下でのアゾ化合物(4,4'−アゾビス(4-シアノ-n- ペンタノール))光化学分解によって合成する方法が記載されている。
【特許文献2】米国特許第US 4 581 429号明細書
【0005】
しかし、この方法の収率は低く(43%)、得られたアルコキシアミンをシリカカラムでクロマトグラフィで精製する必要があるため、工業スケールでは使用できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は上記従来法の欠点がないアルコキシアミン(I)の製造方法を開発した。本発明方法は下記の利点がある:
(1)アルコキシアミン(I)の収率が高く、β-ホスホレート化されたニトロオキシドに対して定量的な収率が得られる。
(2)反応が低温(< 30℃)で進むので、溶液中のアルコキシアミン(I)の安定性が保たれ、従来法より経済的でもある。
(3)アルコキシアミン(I)の精製が簡単で、簡単な沈殿分離で反応混合物からアルコキシアミン(I)が99%以上の純度で得られる。
(4)同じ反応装置(ワンポット)で2段階または3段階で実施でき、3つの段階で使われる溶剤は同じものであり、中間体を精製する必要がない。
(5)廃液、特に金属を含む廃液がほとんど出ない。
(6)半連続法または連続法に適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明方法は下記の反応スキームに従って2段階または3段階で行なわれる:
【化2】

【0008】
最初の段階は塩基の存在下でジアルキルアゾビスクソブチレート型のアゾ化合物、好ましくはジメチルまたはジエチルアゾビスクソブチレートのエステル官能基を鹸化する段階である。
このジアルキルアゾビスクソブチレートは下記文献に記載のプロセスに従ってアゾビスイソブチロニトリルから調製できる。
【特許文献3】国際特許第WO 2000/042000号公報
【0009】
上記特許文献3(国際特許第WO 2000/042000号公報)に記載のように、アゾビスイソブチロニトリルとアルコール(メタノール、エタノール等)から出発しても本発明の範囲を逸脱するものではない。この場合にはジアルキルアゾビスクソブチレートは系内で作られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
MOH/タイプの塩基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化アンモニウムであるのが好ましい(MはNa+、K+またはNH4+を表す)。
塩基/アゾ化合物モル比は一般に2〜3で、反応は一般に0〜40℃の温度で溶剤の存在下に行なわれる。使用可能な溶剤はアルコール/水、アセトニトリル/水またはテトラヒドロフラン/水の混合物が好ましく、特にメタノール/水またはエタノール//水混合物が好ましい。溶剤を蒸発させてアゾ化合物の塩を単離するか、第2段階で溶液のまま使用できる。
【0011】
第2段階は上記アゾ化合物の塩を下記の式(II):
【化3】

【0012】
のN-(tert-ブチル)-l-ジエチルホスホノ-2,2-ジメチルプロピルニトロオキシドの存在下で光分解(photolysing)する段階である。
【0013】
式(II)のニトロオキシド(SGlと略記)は例えば下記文献に記載の方法で製造できる:
【特許文献4】国際特許第WO 2000/040526号公報
【特許文献5】国際特許第WO 2000/040550号公報
【特許文献6】国際特許第WO 2002/048159号公報
【0014】
ニトロオキシド(II)/アゾ化合物のモル比は一般に0.5〜5、好ましくは1〜2.5にする。光の照射は例えば200〜600ナノメートルの波長を有する光を出す一つまたは複数の水銀蒸気ランプを使用して実行できる。この光反応は一般に0〜40℃の温度で溶剤の存在下で実行される。使用可能な溶剤は第1段階と同じく、アルコール/水混合物、アセトニトリル/水混合物またはテトラヒドロフラン/水混合物、好ましくはメタノール/水またはエタノール/水混合物である。好ましくは第1段階と第2段階の溶剤は同一にする。
【0015】
反応は不活性雰囲気(窒素、アルゴン等)下に強力撹拌下に行うか、拡散装置を用いて窒素をバブリングしながら行なうか、循環ポンプを使用して行なうのが好ましい。アルコキシアミンは沈殿または溶剤を蒸発させるか、第3段階で反応混合物中で酸の形にして沈殿て塩の形に単離させることができる。
【0016】
第3段階はアルコキシアミン塩を酸性化して酸の形でアルコキシアミンを回復する段階である。使用する酸は塩化水素酸(気体または水溶液の形)または硫酸にするのが好ましい。この酸性化は一般に0〜30℃の温度で実行される。アルコール/水型の溶剤の使用、例えば第1段階および第2段階と同じメタノール/水またはエタノール/水を使用するのも好ましい。そうすることでアルコキシアミン(I)を沈殿させ、例えば濾過で回収することができる。
【0017】
本発明方法はバッチ法、半連続法または連続法で実施できる。バッチ式の場合には上記の3つの段階を順次実施する。使用する溶剤は同じで、中間体を精製する必要はない。第2段階の反応混合物を連続的に取出し、それを強酸で酸性化してアルコキシアミン(I)を沈殿させ、例えば濾過で回収することができる。
【0018】
本発明で得られたアルコキシアミン(I)はラジカル重合開始剤、特に制御されたラジカル重合の開始剤として使用できる。この点に関しては例えば下記文献を参照されたい:
【特許文献7】米国特許第4 581 429号明細書
【特許文献8】国際特許第WO 2000/49027号公報
【特許文献9】国際特許第WO 2004/014926号公報
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例
(a)DEABのナトリウム塩の製造
ジエチルアゾビスイソブチレート(DEAB)は特許文献3(国際特許第WO 2000/042000号公報)に記載の方法で製造する。
500mlのガラス製反応装置中に25gのDEAB(96.8mmol)と125mlのメタノールとを入れる。滴下ロート中で250mlの水に9.7gの水酸化ナトリウム(242mmol)を溶かす。温度を25℃に維持し、水酸化ナトリウム溶液をDEAB溶液中へ滴下し、反応を室温で1時間行う。
(b)アルコキシアミン(I)の合成
特許文献6(国際特許第WO 2002/048159号公報)に記載の実施例に従って式(II)のニトロオキシドSGlを調製する。
使用した光化学反応の装置は石英製のランプ−ソケットを備えた有効容積1リットルのジャケット付きガラス反応装置であり、使用するランプは出力が700Wの高圧水銀蒸気ランプである。このランプは240nm〜580nmの波長の光を出し、最大放射は366nmにある(Heraeus、TQ718)。撹拌は拡散装置を介した窒素のバブリングで行った。
【0021】
上記光化学反応装置中に、上記で用意したDEABのナトリウム塩溶液を入れた後、125mlのメタノールに溶かした9.5gのニトロオキシドSGl(32.3mmol)を加えた。反応混合物を10℃にし、15分間の窒素のバブリングを続けて脱気し、光の照射を開始した。反応は窒素のバブリングをしながら10℃で、5時間続けた(反応混合物が無色になるまで)。
次に、反応混合物を20ml の37%塩化水素酸(647mmol)を含む2.5リットルの水中に注いだ。形成された白い粉末を濾過で除去し、ペンタンで洗浄し、減圧乾燥した。11.5 gの白い固形物(収率= 93%)の形でアルコキシアミン(I)が得られた。
生成物は1H、13C、31PNMRで特徴付けた。得られた結果は特許文献1(国際特許第WO 2004/014926号公報)に記載の実施例1のデータと同じであった。
元素分析(実験式C1736NO6P)結果は[表1]に示してある。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例2
実施例1と同じ操作を繰り返したが、水酸化ナトリウム/DEABの比を変え(2.5でなくて3にし)、DEAB/ニトロオキシドSGlの比を変えた(3でなくて2.3にし)、光化学分解温度を変えた(1O℃でなくて20℃にした)。
【0024】
【表2】

【0025】
15.6 gのアルコキシアミン(I)が回収された(すなわち収率97%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(4)の段階から成る、下記式(I)の2-メチル-2-[N-(ジエトキシホスホリル-2、2-ジメチルプロピル)−アミノオキシ]プロピオン酸アルコキシアミンまたはその塩の製造方法:

(1)塩基、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化アンモニウムの中から選択される塩基の存在下で、ジアルキルアゾビスイソブチレート型のアゾ化合物、好ましくは、ジメチルまたはジエチルアゾビスイソブチレートを鹸化する段階、
(2)N-(tert-ブチル)-l-ジエチルホスホノ-2,2-ジメチルプロピルニトロオキシドの存在下で、鹸化によって得られたアゾ化合物の塩を光化学分解する段階、
(3)必要に応じて、光化学分解段階で得られたアルコキシアミンの塩を、好ましくは塩化水素酸(気体または水溶液)または硫酸を用いて、酸性化する段階、
(4)アルコキシアミンまたはその塩を回収する段階。
【請求項2】
鹸化段階での塩基MOH/アゾ化合物モル比を2〜3にし、温度を0〜40℃にし、溶剤、好ましくはアルコール/水混合物、アセトニトリル/水混合物、テトラヒドロフラン/水混合物、特に好ましくはメタノール/水またはエタノール/水混合物の中から選択される溶剤を使用する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光化学分解段階で、ニトロオキシド/アゾ化合物のモル比を0.5〜5、好ましくは1〜2.5にし、光の照射を200〜600ナノメートルの波長の光を出す一つまたは複数のランプを用い、0〜40℃の温度で、溶剤、好ましくはアルコール/水混合物、アセトニトリル/水混合物、テトラヒドロフラン/水混合物、特に好ましくはメタノール/水またはエタノール/水混合物の中から選択される溶剤、好ましくは鹸化段階と同じ溶剤を使用して不活性雰囲気下かつ撹拌下に行なう、請求項1また2に記載の方法。
【請求項4】
酸性化段階で、温度を0〜30℃にし、溶剤、好ましくはアルコール/水混合物、例えばメタノール/水またはエタノール/水混合物の中から選択される溶剤、好ましくは鹸化段階および光化学分解段階の溶剤と同じを使用する請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
バッチ、半連続法または連続法で実施する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−537201(P2007−537201A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512128(P2007−512128)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005799
【国際公開番号】WO2005/113566
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】