説明

2サイクルエンジン

【課題】2サイクルエンジンにおいて、簡潔な金型で製造可能であり、従って安価に製造されるようにする。
【解決手段】掃気通路(9,10)の少なくとも1つの壁部分がシリンダ長手軸線(L)の方向にクランクケース(4)から見てアンダーカットを形成している2サイクルエンジン(1,120)において、前記壁部分は、前記クランクケース(4)側からシリンダ(2,50,70,90,121)内へ押し込まれている別個の部材(シリンダスリーブ20)によって画成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、シリンダ内に形成された燃焼室を備える2サイクルエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2サイクル内燃機関用に鋳造されたシリンダが記載されている。このシリンダはシリンダジャケットに配置される掃気通路を有し、これらの掃気通路は、クランクケース側からシリンダ長手方向に延在している部分と、湾曲した移行部と、シリンダに開口している横断面部とから構成されている。シリンダは、互いに同軸に噛み合って固定結合されている2つの部分から成っている。両シリンダ部分はダイカスト方式で製造され、掃気通路の連通開口部の領域に、シリンダ軸線に対し実質的に横方向に延在する衝き当て面を有している。これに接続して、両シリンダ部分はシリンダヘッドまたはクランク軸のほうへ向けられる摺動面ゾーンを有している。
【0003】
特許文献2からは、シリンダスリーブ内を上下動可能なピストンを含む2サイクルエンジンが知られている。ピストンは上側で燃焼室を画成し、下側で連接棒を介してクランク軸と結合されている。クランク軸はシリンダスリーブの下方に配置されているクランクケース内に回転可能に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】オーストリア特許第393409B号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/003064A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、冒頭で述べた種類の2サイクルエンジンにおいて、より簡潔な金型で製造可能であり、従って安価に製造されるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
掃気通路の一部分が、クランクケース側からシリンダ内に押し込まれている別個の部材によって画成されていることにより、掃気通路の幾何学的形態のアンダーカットを簡単に形成させることができる。シリンダは、アンダーカットを形成している壁が別個の部材で形成されていることにより、それにもかかわらず引張り可能な中子を用いてダイカスト方式で製造することができる。消失中子は必要なく、その結果シリンダの製造は簡単である。連通開口部と掃気窓とがシリンダの周方向においてずれているために燃焼室の掃気が著しく良好になり、よって排ガス値が著しく改善されることが明らかになった。さらに、2サイクルエンジンの燃焼室が小さくなる。また、押込み部材により、種々の押し込み部材を使用することで掃気通路の種々の貫流横断面積を実現することが可能である。これにより、種々のエンジンパワーをもった、標準化されたエンジン用シリンダを使用することができる。
【0007】
別個の部材は特にシリンダスリーブである。シリンダスリーブはその内周においてシリンダ摺動面の少なくとも一部分を形成する。シリンダスリーブは特にシリンダの全高にわたって延在しておらず、シリンダのクランクケース側からほぼ掃気窓まで延在している。この場合、シリンダスリーブは少なくとも1つの掃気窓の下面に終点をもち、または、前記掃気窓の側壁をも部分的に或いは完全に画成することができる。本発明によれば、シリンダスリーブの側面に少なくとも1つの通路が形成され、該通路内で1つの掃気通路が案内され、前記通路は少なくとも1つの側壁を画成している。有利には、複数個の通路がシリンダスリーブの側面に形成されている。特に、すべての掃気通路がシリンダスリーブの通路で案内されている。通路がシリンダスリーブの側面に形成されていることにより、シリンダスリーブもダイカスト方式で簡単に製造することができる。この場合、通路は特に半径方向外側へ開口した溝としてシリンダスリーブの側面に形成され、シリンダ壁によって外部に対し閉鎖されている。これによって、シリンダボアを平滑に形成することができる。従って、掃気通路の、周方向に位置している側壁は、シリンダスリーブの全高にわたって有利には完全にシリンダスリーブ内に形成されている。
【0008】
有利には、1つの掃気通路の一部分はシリンダボアの凹部によって形成され、該凹部は燃焼室側端部で掃気窓を形成している。この領域で掃気通路は有利にはシリンダ長手軸線に対し平行に延在し、その結果凹部はダイカスト方式で簡単に形成される。本発明によれば、シリンダスリーブはスリーブ本体と拡径したスリーブ部分とを有し、該スリーブ部分は少なくとも1つの凹部を半径方向内側で閉鎖している。スリーブ分の上方で燃焼室で終わっている凹部は、ピストンによって開閉制御される掃気窓を形成する。
【0009】
2サイクルエンジンの軽量化を簡単に達成するため、本発明によれば、シリンダスリーブは、シリンダによって完全に閉鎖されている少なくとも1つの凹部を有している。この場合、凹部はシリンダスリーブの側面に設けた凹部であり、内部空間まで延在していない。シリンダスリーブの組み付け後、凹部はシリンダによって完全に閉鎖され、従って2サイクルエンジンを軽量にする、空気で充填されるキャビティを形成する。
【0010】
シリンダスリーブは特にダイカスト部品である。シリンダスリーブの側面は合目的には精密加工され、特に精密旋削されている。精密過去により、シリンダボア内でのシリンダスリーブの密な着座を達成できる。補助的な固定手段は必要ない。これにより簡潔な構成が得られる。シリンダ内へのシリンダスリーブの正確な取り付けを簡単に保証するため、本発明によれば、シリンダ内にシリンダボアの段部が形成され、この段部にシリンダスリーブが当接している。
【0011】
また、本発明によれば、1つの掃気通路の1つの側壁の少なくとも一部分は押し込み部材によって画成されている。この場合、押込み部材は特にシリンダボアに対し間隔をもってシリンダ壁内に配置され、従ってシリンダ摺動面を画成していない。この場合押込み部材は、掃気通路の、クランクケースに連通している連通開口部に境を接する部分を画成している。特に有利には、掃気通路の前記一部分は押込み部材によって完全に画成されており、すなわち掃気通路は押し込み部材の領域ですべての側を押し込み部材によって取り囲まれている。これにより、掃気通路の通路案内を十分自由に選定することができる。
【0012】
シリンダの簡単な製造を達成するため、シリンダは少なくとも1つのカバーを有し、該カバーは互いに隣接し合って配置されている少なくとも2つの掃気通路をシリンダ外面側で画成する。この場合、カバーは押し込み部材またはシリンダスリーブに加えて設けてよい。有利には、掃気通路はカバーの高さで合流している。
【0013】
作動中の内燃エンジンの小さな排ガス値と良好な燃焼室掃気とを達成するため、本発明によれば、掃気通路は少なくとも部分的にシリンダ長手軸線に対し傾斜して延在している。掃気通路の螺旋形状により、排ガス値を著しく改善することができる。螺旋形状は、本発明による前記別個の部材によって簡単に形成させることができる。この場合、掃気通路は特に1つの共通の部分を有している。共通の部分は有利には掃気通路のクランクケース側端部に配置されている。クランクケースに開口する少なくとも1つの掃気通路の連通開口部が排気口の下に配置されていれば、内燃エンジンの構成幅を小さくすることができる。特に、すべての掃気通路は排気口の下にある1つの共通の連通開口部でもって開口する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
次に、本発明を図面に図示した実施形態に関し詳細に説明する。
【図1】2サイクルエンジンの断面図である。
【図2】図1のシリンダの外観斜視図である。
【図3】図2のシリンダの縦断面図である。
【図4】シリンダに圧入されたシリンダスリーブをも併せて示した図3の拡大断面図である。
【図5】図4のシリンダスリーブの斜視図である。
【図6】図5のシリンダスリーブを半径方向に見た図である。
【図7】掃気通路の形状と延在態様を説明する図である。
【図8】図3の変形実施形態である。
【図9】シリンダに圧入されたシリンダスリーブをも併せて示した図8の断面図である。
【図10】図9のシリンダスリーブの斜視図である。
【図11】図10のシリンダスリーブを半径方向に見た図である。
【図12】シリンダスリーブの他の実施形態の第1の斜視図である。
【図13】図12のシリンダスリーブの第2の斜視図である。
【図14】シリンダスリーブの側面の第1の図である。
【図15】図14の図示に対し90゜回転させて下から見たシリンダスリーブの図である。
【図16】図14の図示に対し90゜回転させて別の角度から見たシリンダスリーブの図である。
【図17】図6のシリンダスリーブの平面図である。
【図18】シリンダの1実施形態の展開図である。
【図19】図18の矢印XIXの方向でシリンダを下から見た図である。
【図20】シリンダに押し込まれた押込み部材をも併せて示した図19のシリンダの図である。
【図21】図20の線XXI−XXIの方向でのシリンダの断面図である。
【図22】図20の線XXIに−XXIにの方向でのシリンダの断面図である。
【図23】シリンダの1実施形態の展開図である。
【図24】図23のシリンダの縦断面図である。
【図25】シリンダ内に配置される押込み部材を省略した示した、線XXVI−XXVIに沿ったシリンダの断面図である。
【図26】押込み部材を配置した、線XXVI−XXVIに沿ったシリンダの断面図である。
【図27】押込み部材の斜視図である。
【図28】2サイクルエンジンの断面図である。
【図29】図28の2サイクルエンジンのシリンダの断面図である。
【図30】圧入した押込み部材をも併せて示した図29のシリンダの図である。
【図31】図30のシリンダスリーブの斜視図である。
【図32】図31のシリンダスリーブの側面図である。
【図33】図31のシリンダスリーブの側面図である。
【図34】図31のシリンダスリーブの側面図である。
【図35】シリンダスリーブの1実施形態の斜視図である。
【図36】図35のシリンダスリーブの側面図である。
【図37】掃気通路の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には2サイクルエンジンが図示されている。2サイクルエンジン1はシリンダ2とクランクケース4とを含んでいる。シリンダ2内には燃焼室3が形成され、燃焼室3は、シリンダ2内でシリンダ長手軸線Lの方向に往復運動するように支持されているピストン5によって画成される。ピストン5の摺動面の一部分は、シリンダボア47の拡張部分に挿着されているシリンダスリーブ20によって形成れている。ピストン5は、連接棒6を介して、クランクケース4内に回転軸線7のまわりに回転可能に支持されているクランク軸8を駆動する。燃焼室3は、図1に図示したピストン5の位置では、4個の掃気通路9と10(そのうち図1には2個の掃気通路だけが見える)を介してクランクケース内部空間11と連通している。掃気通路9,10の構成に関しては後で詳細に説明する。掃気通路9,10の上端には掃気窓9’,10’が形成され、掃気窓9’,10’はピストン5の上昇運動の際にピストン5によって閉鎖される。
【0016】
シリンダ2には、混合気取り入れ口13において混合気通路12が開口している。混合気取り入れ口13は、シリンダスリーブ20に設けた繰り抜き部27(貫通穴として形成されている)を介して、クランクケース内部空間11と連通している。混合気通路12とクランクケース4との連通部はピストン5によって開閉制御される。混合気通路12は気化器21を介してエアフィルタ19と連通している。気化器21内では一連の燃料穴49が混合気通路12に開口している。燃料は、気化器21内で、エアフィルタ19を介して吸い込まれた燃焼空気とともに燃料空気混合気に調製される。燃焼空気供給量を制御するため、気化器21内には、スロットルバルブ22と、該スロットルバルブ22の上流側に配置されるチョークバルブ23とが、それぞれ回動可能に支持されている。シリンダ2の混合気取り入れ口13とは反対の側には、燃焼室3から出ている排気口18が配置されている。
【0017】
2サイクルエンジン1の作動時には、ピストン5の上死点範囲で、燃料空気混合気が混合気取り入れ口13と繰り抜き部27とを介してクランクケース内部空間11内へ吸い込まれる。ピストン5の下降行程時に、燃料空気混合気はクランクケース内部空間11内で圧縮される。掃気窓9’,10’がピストン5によって開口されると、燃焼室3内に新鮮な混合気がクランクケース内部空間11から流れ込む。
【0018】
ピストン5の上昇行程時に、燃料空気混合気は燃焼室3内で圧縮され、ピストン5の上死点範囲で点火プラグ48によって点火される。点火によってピストン5はクランクケース4の方向へ加速される。排気口18が開口すると、排ガスが燃焼室18から流出し、残ガスは、掃気窓9’,10’が開口したときに流入する新鮮な混合気によって掃気される。
【0019】
図2は、シリンダ2の外観斜視図である。シリンダ2は外面に冷却フィンを備え、下端にクランクケース4との結合のためにフランジ28を有している。シリンダ2の片側には、フランジ29によって取り囲まれている排気口18がある。
【0020】
図3は図2のシリンダ2の縦断面図であり、シリンダ2の上部領域には、シリンダボア47の第1の部分33に燃焼室3が形成されているとともに、図3には図示していない点火プラグ48を受容するための孔30が設けられている。混合気取り入れ口13と排気口18とは互いにシリンダ2の反対側に配置されている。混合気取り入れ口13と排気口18との間には、シリンダ2の内壁に、実質的に鉛直方向に延在している凹部31と32が設けられている。この軸線方向領域には、シリンダボア47の第2の部分34があり、この第2の部分34は径をいくぶん拡大されており、該第2の部分34に混合気取り込み口13が開口している。凹部31と32は、ダイカスト方式によるシリンダ2の製造時にアンダーカットが生じず、且つこれら凹部31と32を、シリンダ長手軸線Lの方向に引っ張られる中子を用いて成型できるように、構成されている。凹部31と32は、シリンダ長手軸線Lの方向において第2の部分34の全体にわたって延在し、第1の部分33内まで延在している。第1の部分33には掃気窓9’,10’が形成されている。第2の部分34は掃気窓9’,10’の下稜まで突出している。
【0021】
第2の部分34の下方には、径がいくぶん大きな、シリンダボア47の第3の部分35が接続し、これによってシリンダ2に段部39が生じ、第3の部分35は、シリンダ2の、フランジ28にある端部まで達している。
【0022】
図4は、図3のシリンダ2をいくぶん拡大した断面図であり、シリンダボア47に圧入されるシリンダスリーブ20を併せて示してある。シリンダスリーブ20はスリーブ本体36を有し、スリーブ本体36の下端には、クランク軸軸受のための受容面37が形成されている。従って、クランク軸軸受はシリンダスリーブ20の受容面37とクランクケース4との間で受容される。シリンダスリーブ20の上端において、スリーブ本体36には、外径の点でシリンダボアの第2の部分34に整合したスリーブ部分38が接続し、スリーブ部分38は第2の部分34の上端まで達している。このスリーブ部分38には、混合気取り入れ口13側に、貫通穴として形成された繰り抜き部27が設けられている。このスリーブ部分38は凹部31,32を部分的に覆っており、その結果適当な複数個の通路部分が形成される。これらの通路部分は、後で詳細に説明する掃気通路9,10の一部である。凹部31,32の上端はシリンダスリーブ20の上縁から突出し、このようにして掃気窓9’,10’を形成している。従って、掃気通路9と10はその軸線方向の全長にわたってシリンダ内部空間側でシリンダスリーブ20によって画成されている。掃気通路9と10は、図4に図示した、排気口18の下方に配置されている連通開口部46を介して、クランクケース内部空間11に開口している。図4では、シリンダスリーブ20における掃気通路9と10の延在態様が破線で示してある。図4が示すように、掃気通路9と10の間の上部領域には、シリンダ2に一体成形されたシリンダ部分45が突出している。シリンダ部分45は掃気通路9と10を互いに分離させている。この場合、シリンダ部分45は有利にはシリンダ2の第2の部分34に延在している。しかし、シリンダ部分45が第3の部分35の領域内まで突出していてもよい。
【0023】
図5はシリンダスリーブ20の斜視図である。シリンダスリーブ20は、スリーブ本体36と、スリーブ部分38と、受容面37とを含んでいる。スリーブ本体36の壁には、周方向と軸線方向に延在する通路40,41が形成され、これらの通路は軸線方向下部領域で1つの共通の通路42に合体している。通路40,41,42は側壁40’,41’,42’,40”,41”を有している。図からわかるように、通路40,41,42の側壁40’,41’,42’,40”,41”は部分的にシリンダスリーブ20によって形成され、通路40,41,42はシリンダ2の内部に対しシリンダスリーブ20によって画成されている。この場合、少なくとも、通路40と41をクランクケース4の方向で画成している側壁40”と41”は、シリンダスリーブ20に一体成形されている。通路40と41を排気口18の下にある燃焼室3側で画成している側壁40’と41’は、シリンダ2に一体成形されていてもよい。側壁40’と41’をシリンダ2に一体成形した場合も、シリンダ2はダイカスト方式による製造時に、クランクケース40の方向へ引張り可能な中子により脱型される。というのは、これらの側壁40’と41’はクランクケース4の方向においてアンダーカットを形成していないからである。クランクケース4の方向にアンダーカットを形成している側壁40”と41”は、シリンダ2をダイカスト方式で製造できるようにするため、シリンダスリーブ20に完全に一体に成形されている。シリンダ2の第2の部分34で掃気通路9と10を分離させている部分45は、好ましくは、クランクケース4の方向にアンダーカットが形成されるないようにシリンダ部分45の図4に図示した側壁45’が傾斜しているときにシリンダ2に一体成形されている。その結果このシリンダ部分45は、クランクケース4の方向に引張り可能な中子を用いてダイカスト方式で製造することができる。
【0024】
通路40,41の上方には、図3に図示した凹部31,32が接続している。凹部31,32は、スリーブ部分38の外周とシリンダ2との間で、掃気窓9’と10’に通じる通路部分を形成しており、従って通路40,41,42とともに掃気通路9と10を形成し、その形状と延在態様は図7に図示されている。通路40または41内では、それぞれ、排気口に近い掃気通路9と、混合気取り入れ口に近い掃気通路10とが一緒に案内されている。掃気通路9と10は、シリンダ2に一体成形されたシリンダ部分45だけで互いに仕切られている。しかし、シリンダスリーブ20に掃気通路9と10の仕切り部を設けてもよい。
【0025】
さらに図5からわかるように、スリーブ部分38の上縁に凹部44が配置されている。凹部44は排気口18の下に位置決めされて排気口18を画成している。さらに、スリーブ部分38の繰り抜き部27が設けられ、くりぬき部27はシリンダ2内でのシリンダスリーブ20の取り付け位置で混合気取り込み口13側にあり、燃料空気混合気をクランクケース内部空間11に供給する。
【0026】
図6は、図5のシリンダスリーブ20を図4の断面図に対応させて取り付け位置で示したものである。これから、スリーブ本体36と、受容面37と、スリーブ部分38と、通路41,42とが見て取れる。外側輪郭部には、スリーブ本体36とスリーブ部分38との間に、図4に図示したシリンダボアの段部39に当接するために用いる肩部43が形成されている。
【0027】
図7は掃気通路9と10の形状および延在態様を示すもので、掃気通路9と10は掃気窓9’と10’に始点を発し、凹部31,32と通路40,41,42とから形成されている。本来は4個の通路が、クランクケース内部空間に開口する1つの通路にまとめられている。この場合、まず、排気口に近い掃気通路9を混合気取り込み口に近い掃気通路10と合流させる。次に、これら両通路を排気口18の下で1つの共通の通路42に合流させる。他の数量の掃気通路を設けてもよく、たとえばシリンダ片側ごとに3個の、すなわち全部で6個の掃気通路を設けてもよい。
【0028】
図8は、図3のシリンダ2に類似しているシリンダ50の縦断面図である。図3のシリンダ2と異なるのは、シリンダボア47が、第1の部分51と拡径した第3の部分53との間に、軸線方向においてのみ短い移行部分52を有し、この移行部分52が段部54の上方に形成されている点である。従って、シリンダボアに穿設された掃気通路9と10用の凹部55と56も短く、段部54に終点をもつ。燃焼室3と孔30とフランジ28とは図3のものと同一である。図8が示すように、シリンダボアは第3の部分53に、クランク軸8用の繰り抜き部を除いて平滑に形成されている。第3の部分53におけるシリンダ壁は掃気通路9と10を外側に対し画成しているが、シリンダ長手軸線Lに対する周方向においては画成部を成していない。第3の部分の掃気通路は周方向においてはシリンダスリーブ60(図9)だけで画成されている。
【0029】
図9は図8のシリンダ50の断面図であり、シリンダボアに挿着されたシリンダスリーブ60をも併せて示したものである。シリンダスリーブ60はスリーブ本体61を有し、該スリーブ本体61の下端にクランク軸軸受用の受容面59が形成され、上端には端面側の、周回するように延在する隆起部62が一体に成形されている。隆起部62はスリーブ本体61に対し減縮した外径を有し、その結果肩部63が形成され、肩部63は段部54に当接する。隆起部62の外径部は凹部55と56をその下部領域において覆っており、その結果短い通路が形成されている。凹部55,56の上端は隆起部62から突出し、図4の場合と同様に掃気窓9’,10’を形成している。スリーブ本体61には、貫通穴として形成された混合気取り込み口13側の開口部64が設けられ、ピストン5の位置によってこの開口部6が解放されたときに該開口部64を通じて燃料空気混合気がクランクケース内部空間11内へ到達する。他の構成に対しては、すべて図8と参照符号は一致している。
【0030】
図10は、スリーブ本体61と、端面側に一体成形された隆起部62と、クランク軸軸受用の受容面59とを備えたシリンダスリーブ6の斜視図である。スリーブ本体61の側面の壁には、周方向と軸線方向とに延在する通路65,66,67,68,69が形成され、これらの通路は、シリンダスリーブ60をシリンダ50に圧入したときに第3の部分53の内壁によって覆われる。通路65,66,67,68,69は側方を側壁65’,67’,68’,69’,66”,67”,68”によって画成されている。凹部55と56に接続している通路65と66は1つの通路67に統合され、この通路67内に掃気通路9と10が一緒に案内されている。通路65と66は、シリンダスリーブ60に一体成形された仕切り部分77によって互いに仕切られている。仕切り部分77は、シリンダ50内にシリンダスリーブ60を圧入したときに半径方向においてシリンダボアまで突出する。これにより、掃気通路9と10はシリンダ50の第3の部分53においても部分的に互いに仕切られている。仕切り部分77には、側壁65と66を画成している側壁77’と77”が形成されている。
【0031】
スリーブ本体61の反対側に配置されている2つの通路(図では覆われている)は、通路65と66に対し鏡対称に形成され、1つの共通の通路68に統一されている。通路67と68は最終的に1つの共通の通路69にまとめられ、通路69はクランクケース内部空間11に開口している。この実施形態でも、これら通路の側壁はシリンダスリーブ60によって形成されている。この場合、少なくとも、クランクケース側にある側壁66”,67”,68”(クランクケースから見てアンダーカットを形成している)は、完全にシリンダスリーブ60に形成されている。仕切り壁部分77の壁77”もシリンダスリーブ60に形成されていなければならない。というのは、この壁は、シリンダ長手軸線Lの方向でクランクケース4から見て覆われているアンダーカットを形成するからである。燃焼室3側にある側壁65’と67’もシリンダ50に一体成形されていてよい。これらの側壁65’と67’はクランクケース4から見てアンダーカットを形成していないので、これらの側壁を一体成形したシリンダ50は、シリンダ長手軸線Lの方向に引き出し可能な中子を用いてダイカスト方式で脱型することができる。隆起部62にも凹部58が設けられており、凹部58は取り付け位置で排気口18の下に位置する。さらに、スリーブ本体61には、シリンダ50内で混合気取り込み口13側にあって貫通穴として形成される開口部71が設けられている。
【0032】
図11はシリンダスリーブ60を半径方向に見た図であり、この位置は図9に図示したシリンダ50内での取り付け位置に相当している。この図からスリーブ本体61と、隆起部62と、受容面59が見て取れる。スリーブ本体61には上部に肩部63が形成され、肩部63は図9に図示したようにシリンダスリーブ60の圧入状態では段部54に位置している。通路65,66,67はスリーブ本体61の周囲を螺旋状に延在し、図10から見てとれる通路68もそうである。共通の通路69は軸線方向に延在している。図11が示すように、側壁65’,67’,77’はクランクケース4側にある。これらの側壁はクランクケース4を見る方向で部分的に見て取れる。側壁66”,67”,77”は燃焼室3側にあり、燃焼室3を見る方向で部分的に見て取れる。クランクケース4を見る方向でこれらの側壁は覆われており、アンダーカットを形成している。それ故、側壁側壁66”,67”,77”は、ダイカスト方式での製造の際にシリンダ50をクランクケース4の方向に引張り可能な中子を用いて脱型することができるように、シリンダスリーブ60に一体に成形されていなければならない。側壁65’と67’をシリンダ50に一体成形してもよい。仕切り部分77が分割して形成され且つ部分的にシリンダ50に一体成形されていれば、側壁77’も少なくとも部分的にシリンダ50に一体成形されていてよい。掃気通路9,10の周方向にあってアンダーカットを形成している側壁66”,67”,77”がシリンダスリーブ60に一体成形されていることにより、消失中子を用いてもシリンダ50をダイカスト方式で簡単に製造することができる。
【0033】
上記の実施形態の説明から明らかであるように、本構成の主要な特徴は、通路がシリンダの長手軸線に対し傾斜して延在していること、すなわち掃気通路9’,10’によって形成されている、燃焼室3への掃気通路の連通開口部が、クランクケース4またはクランクケース内部空間11への前記通路の連通開口部46(図4)に対し周方向にずれていることにある。これら通路がシリンダスリーブの外面に配置され、これら通路の少なくとも1つの側壁がシリンダスリーブによって形成されているので、シリンダの簡単な製造が可能である。このようなシリンダのダイカスト金型は、脱型のために分割面のみを必要とするにすぎないので、簡潔に実施されていてよい。同様にシリンダスリーブの製造も簡単な工具によって可能であり、この場合必要な表面状態は、シリンダスリーブの側面を精密加工することによって、たとえば精密旋削によって生じさせる。このようにして、シリンダのケーシング内へのシリンダスリーブの圧入後に必要な密封が達成されている。
【0034】
図12は、シリンダスリーブ100の他の実施形態の斜視図である。シリンダスリーブ100はスリーブ本体101を含み、スリーブ本体101はその上面に2つのフランジ面102と103を有し、これらのフランジ面の間に、スリーブ本体101の側面に形成された通路104,105と、通路107,108とがそれぞれ始点をもっている。これらの通路104,105または107,108の延在方向は周方向および軸線方向であり、すなわち実質的に螺旋状である。通路104,105は特定の距離だけ延在した後に1つの共通の通路106に合流し、他方通路107,108は対応的に1つの通路109に統合されている。通路106と109は最終的に1つの共通の通路110にまとめられている。通路104ないし110は、すでに図5および図10に関し説明し図示したように、それぞれ側壁によって画成されている。このシリンダスリーブ100においては、通路104ないし110は孔12を仕切っている壁111からスリーブ本体101の下縁まで案内されており、その結果この縁のすぐ下方に、図1に図示したクランクケース内部空間11との連通部が与えられている。通路104ないし110は、シリンダスリーブ100をシリンダ内に圧入したときにシリンダの内壁によって覆われる。このとき孔112はピストン摺動面の一部分を形成する。
【0035】
図13はシリンダスリーブ100を他の方向から見た斜視図であり、この図からはスリーブ本体101の通路104,105および107,108が見て取れる。他の参照符号は図12のものと同一であり、図14も同様である。尚図14は、スリーブ本体101の側面を見た図であり、すなわち通路案内全体を示している領域を見た図である。図14が示すように、通路104と105はシリンダスリーブ100の軸線方向の高さの中央部で通路106に合流している。同様のことは、鏡対称に形成されている通路108,108,109に対しても言える。通路106と109は下面113に対し間隔をもって通路110に合流している。
【0036】
図15はシリンダスリーブ100の下面113を見た図であり、スリーブ本体内には孔112が設けられ、壁111の半径方向外側に通路110はその側壁を備えている。図16は、スリーブ本体101を、通路104,105,106が形成されている外周側から見た図であり、上部フランジめん102,103は1つの共通の平面を形成し、スリーブ本体101の下縁には下面113がある。この場合、フランジ面102,103は掃気窓9’,10’の高さで延在している。掃気窓9’,10’の下部部分はシリンダスリーブ100によって画成され、シリンダスリーブ100は掃気窓9’,10’のほぼ半分の高さまで突出している。掃気窓9’と10’の上縁は、図示していないシリンダに形成されている。掃気窓9’と10’はその上稜を除外してシリンダスリーブ100に形成してもよい。これによってシリンダの簡潔な構成が得られる。
【0037】
図17はシリンダスリーブ100の平面図であり、シリンダスリーブ100は、スリーブ本体101に配置されているフランジ面102,103と、スリーブ本体101に形成された通路104,105および107,108とを備えている。通路104,105および107,108は壁111によって孔112から仕切られている。
【0038】
図18ないし図22には、シリンダ70の実施形態が図示され、この実施形態では、掃気通路はシリンダ外面側でカバー76によって閉鎖されている。この場合、並設されている2つの掃気通路9と10に対しそれぞれ1つのカバー76が設けられている。カバー76は、掃気通路9と10を、掃気窓9’と10’の高さからシリンダ70のフランジ28の上方までシリンダ長手軸線Lに対し半径方向において外部に対し画成している。図18ないし図22においても同一の部材に対してはこれまでの図と同じ参照符号が附してある。
【0039】
カバー76はそれぞれ5個の固定ねじ79を用いてシリンダ70に固定されている。各カバー76には1つの仕切り壁78が固定され、仕切り壁78はシリンダ部分72と協働する。仕切り壁78とシリンダ部分72とは、掃気窓9’と10’に境を接している領域において掃気通路9と10を仕切っている。この場合、仕切り壁78は実質的に半径方向においてシリンダ部分72の外側で該シリンダ部分72に当接している。掃気窓9’と10’に隣接している仕切り壁78は該掃気窓9’と10’付近まで突出している。
【0040】
カバー76には壁部分80が一体成形されている。壁部分80は周方向にある掃気通路9の側壁を画成しており、すなわち掃気通路9の排気口18側の側壁を画成している。カバー76にはさらに屋根部分81が一体成形され、屋根部分81はシリンダルーフの方向において掃気通路9と10を画成している。
【0041】
図18が示すように、掃気通路9と10はシリンダ部分72のクランクケース4側で1つの共通の通路73に合流している。シリンダ70内に形成される通路73の輪郭はフランジ28側へ開口している。これは、シリンダ70を下から見た図19に図示されている。これにより、クランクケース側へ下方へ引張り可能で且つカバー76の領域において半径方向外側へ引張り可能な中子を用いてダイカスト方式でシリンダ70を製造する際に掃気通路9と10を脱型することができる。これにより、シリンダ70の製造のために消失中子は必要ない。通路73はクランクケース側で押込み部材82によって画成され、押込み部材82には、通路73とをクランクケース4側で画成している側壁83と、通路73をシリンダ内部空間側で画成している内壁84とが形成され、側壁83と内壁84とは湾曲した輪郭をもっており、その結果掃気通路9と10に好ましい流動状態が与えられている。通路73は、シリンダ長手軸線Lを含んでいる対称面に関し鏡対称に形成され、この場合それぞれの通路73に対し押し込み部材82が設けられている。
【0042】
図19も示すように、両シリンダ側の通路73は、シリンダ70に一体成形された仕切り部分85によって互いに仕切られている。フランジ28の下面86の上方にしてこの下面86に対し小さな間隔をもって両シリンダ側の通路73は1つの共通の通路75に合流している。通路75は下面86において連通開口部74によりクランクケースに開口している。連通開口部74は排気口18の下方に配置されており、その結果すべての掃気通路9と10は排気口18の下方でクランクケース4に開口している。各シリンダ側に他の数量の掃気通路を設けても合目的である。また、掃気通路9と10をシリンダの互いに反対側で異なる構成で形成するか、または、異なる数量の掃気通路を両シリンダ側に設けてもよい。
【0043】
図20は、シリンダ70の下面86を、押込み部材82を掃気通路内へ押し込んだ状態で示した図である。連通開口部74を除けば、掃気通路9と10はクランクケース側で押込み部材82によって閉鎖されている。
【0044】
図21と図22には、シリンダ70が断面で図示されている。図21は排気口に近い掃気通路9’の断面図であり、図22は混合気取り込み口に近い掃気通路10’の断面図である。図21が示すように、仕切り壁78は掃気通路9と10のシリンダボア47側の内壁まで突出している。屋根部分81はシリンダボア47付近まで突出している。この場合、シリンダ長手軸線Lに対し外側へ引っ張られる中子を用いたダイカスト方式でシリンダ70を製造する場合に生じるであろうアンダーカットは、カバー76に形成される。輪郭を形成させる中子は半径方向外側へ直接引張る必要はなく、また斜め側方へ引張ることもできない。これによって製造を簡単にすることができる。図21が示すように、押込み部材82の側壁83は掃気通路をシリンダ70の下面86側で画成している。
【0045】
図22が示すように、掃気通路9と10はシリンダ外面側でカバー76によって画成されている。カバー76と押し込み部材82との協働により、シリンダ70の簡潔な構成が生じる。
【0046】
図23はシリンダ90の実施形態を示すもので、その掃気通路は同様にシリンダ外面側でカバー76によって画成されている。この場合、カバー76の構成は図18ないし図22に図示したカバー構成にほぼ対応している。図23の展開図が示すように、掃気通路9と10はクランクケース4側で1つの共通の押し込み部材92によって画成され、押込み部材92は、クランクケース4側の下面86からシリンダ長手軸線Lに平行にシリンダ90内へ押し込まれる。図24は、シリンダ内での受容部87での押込み部材92の配置を示している。図25も示しているように、受容部87はシリンダボア47のまわりに円弧状に実施されている。図24が示すように、受容部87は押し込み部材92とともにフランジ28の全高にわたって延在している。フランジ28の上方には、図23に図示したカバー76が接続しており、その結果掃気通路9と10はそれぞれの横断面図において有利にはほぼその全長にわたって補助部材によって画成され、シリンダ90内でのみ案内されていない。
【0047】
図26が示すように、押込み部材92内の通路23は互いに分離して案内されている。これら2つの通路73はシリンダ90内で1つの共通の通路に合流しておらず、別個の通路としてクランクケースに開口している。
【0048】
この点は図27の図示も示している。図27が示すように、押込み部材92はリング部分として形成され、その平坦な上面88と反対側の平坦な下面89とには貫通穴91が開口し、貫通穴91内で通路73が案内されている。なお、上面88と下面89は、シリンダ長手軸線Lに対し垂直な押込み部材92の端面である。図27が示すように、貫通穴91は湾曲して延在している。貫通穴91は、半径方向に向けられて互いに隣接し合っている側壁94を有し、側壁94はクランクケースを見る方向から見てとれる。反対側の側壁93は燃焼室3を見る方向から見てとれ、クランクケース4を見る方向でアンダーカットを形成している。それ故貫通穴9は、シリンダ90内に形成する場合、該シリンダの長手軸線Lの方向に引っ張られる中子で脱型することができない。押込み部材92は、シリンダ90のクランクケース4側からシリンダ90内へ挿入できるように構成され、その結果シリンダ90をダイカスト方式で簡単に製造することができる。
【0049】
掃気通路を画成する押込み部材は他の構成でもよい。この場合、有利には、1つの掃気通路の少なくとも1つの側壁、すなわちクランクケースから燃焼室を見る方向では見えず、この方向でアンダーカットを形成している側壁は、押込み部材に形成されている。クランクケースを見る方向で見ることができて、シリンダ長手軸線Lに対し平行に延在している側壁はシリンダ90に形成してもよく、別個の押し込み部材によって画成する必要はない。
【0050】
図28は、空気予備蓄積掃気型エンジンとして構成された2サイクルエンジン120の実施形態を示している。これまでの図面に図示した部材と構成が同じ部材には同一の符号が付してある。2サイクルエンジン120はシリンダ121を有し、シリンダ121には、混合気通路12と、燃料をほとんど含んでいない空気を供給する供給通路14との双方が開口している。供給通路14は供給通路取り込み口17でもってシリンダボア47に開口している。有利には2つの供給通路取り込み口17が設けられ、これらの供給通路取り込み口はそれぞれ混合気取り込み口に近い掃気通路10の掃気窓10’の下に配置されている。ピストン5はピストンポケット26を有し、ピストンポケット26はピストン5の上死点範囲で供給通路取り込み口17を掃気通路9’と10’に連通させ、その結果掃気通路9と10には、供給通路14からの燃料をほとんど含んでいない空気を予備蓄積することができる。この予備蓄積された掃気予備蓄積空気は、ピストン下降行程の際に、掃気通路9’と10’がピストン5によって開口したときに燃焼室3内へ流動する。予備蓄積された掃気予備蓄積空気は、燃焼室3から来る排ガスを排気口18を通じて掃気し、クランクケース内部空間11から流動してくる新鮮な混合気を排ガスから分離させる。これによって小さな排ガス値を達成できる。
【0051】
供給通路14は、シリンダ121の接続フランジ15に固定されている接続部材16内に形成されている。混合気通路12も接続部材16内に形成されている。供給通路14も同様にエアフィルタ19と連通している。供給通路14の、エアフィルタ19に境を接している部分は、通路部材24内に形成されている。通路部材24内には、掃気予備蓄積空気量を制御するコントロールバルブ25が配置されている。コントロールバルブ25の位置は、有利には、気化器21内でのスロットルバルブ23の位置に連動しており、その結果混合気通路12を介して供給される燃料空気混合気と供給通路14を介して供給される掃気予備蓄積空気との良好な比率が得られる。
【0052】
図28が示すように、シリンダ121内にはシリンダスリーブ122が押込まれており、シリンダスリーブ122は掃気通路9’と10’のクランクケース4側の下部縁まで延在している。
【0053】
図29はシリンダスリーブ122のないシリンダ121を示している。この図が示すように、シリンダ121は第1の部分33を有し、第1の部分33には拡径した第2の部分34が直接接続している。第2の部分34には混合気通路12と供給通路14とが開口し、他方第1の部分33には掃気通路9’と10’が配置されている。第1の部分33と第2の部分34との間には段部18が形成されている。図29が示すように、供給通路14は連通開口部123をもってシリンダ内部空間に開口している。
【0054】
図30が示すように、シリンダスリーブ122はシリンダ121の第3の部分35に圧入される。このときシリンダスリーブ122は段部18に当接し、掃気通路9’と10’の下稜まで突出する。シリンダスリーブ122は繰り抜き部27を有し、繰り抜き部27は貫通穴として形成され、混合気通路12をシリンダ内部空間と連通させている。シリンダスリーブ122は連通開口部123の領域に供給通路部分125を有している。供給通路部分125は上方へ円弧状に延在し、シリンダ121内に延在している供給通路14の一部分を形成している。この場合、供給通路部分125は連通開口部123をシリンダスリーブ122内に形成されている供給通路開口部17と連通させている。シリンダ121は供給通路部分125の領域で平滑に形成されている。シリンダスリーブ122は連通開口部123をシリンダ内部空間に対し閉鎖している。
【0055】
図29と図30が示すように、シリンダフランジ内には、混合気通路12と供給通路14の横にインパルス通路119が形成されている。インパルス通路119も同様にクランクケースに開口している。
【0056】
図31ないし図34はシリンダスリーブ122の詳細構成図である。シリンダスリーブ122はスリーブ本体61を有し、スリーブ本体61には通路65,66,67,68,128,129,69が形成されている。通路65と66は仕切り部分77によって互いに仕切られ、この仕切り壁77の下方で1つの共通の通路67に合流している。これに対応して且つ鏡対称に、シリンダスリーブ122の反対側に配置された通路128と129は1つの共通の通路68に合流している。通路67と68は排気口の下方で通路69に合流している。排気口の下方には、通路65と通路128とを互いに仕切っているスリーブ部分127が配置されている。スリーブ部分127をシリンダ120に一体成形してもよい。スリーブ部分127は通路67と通路68をも互いに仕切っている。
【0057】
図33が示すように、シリンダスリーブ122は貫通穴126を有し、貫通穴126には供給通路開口部17が形成されている。貫通穴126は供給通路部分125を介して互いに連通し、供給通路部分125はU字状に形成され、且つ混合気通路12用の繰り抜き部27を取り囲んでおり、その結果混合気通路12は供給通路14から仕切られている。
【0058】
図35と図36は、シリンダスリーブ132の実施形態を示している。その構成は実質的にシリンダスリーブ122の構成に対応している。同一の部材には同一の符号が付してある。シリンダスリーブ132はスリーブ部分127に凹部133有し、凹部133はスリーブ本体61の外面の窪みとして形成されている。凹部133はシリンダスリーブ132の軽量化のために設けられたものであり、シリンダ121によって完全に閉鎖される。他の凹部133が通路66の下方と供給通路部分125の下方とに設けられている。図35が示すように、シリンダスリーブ132は上面134を有し、上面134は排気口18のための溝135を有している。上面134は、シリンダスリーブ132をシリンダ121に押し込んだときに肩部118まで突出する。
【0059】
図示したすべての掃気通路においては、掃気窓9’と10’は、シリンダの周方向に見て、クランクケース4への掃気通路の連通開口部46に対し互いにずらして配置されている。図37は掃気通路の展開図である。この図が示すように、排気口に近い掃気窓9’は、連通開口部46に対し、シリンダ周方向に測った間隔aを有している。連通開口部46は、シリンダ周方向に見て、掃気窓9’に対しずらして配置されている。掃気通路10’は、連通開口部46に対し、シリンダ周方向に測った間隔bを有している。この間隔bは前記間隔aよりも著しく大きい。連通開口部46は、シリンダ長手軸線Lの方向に見て、掃気窓9’と10’と交わっていない。このように掃気通路9と10が螺旋状に延在していることにより、掃気通路はシリンダ長手軸線方向に引っ張れる中子を用いて形成できない。それにもかかわらずダイカスト方式でのシリンダの製造を可能にするため、1つの掃気通路の1つの側壁を画成する少なくとも1つの押込み部材が設けられている。この場合、前記側壁は、シリンダ長手軸線Lに対し半径方向に測ったその深さ全体で押込み部材に形成されており、その結果この領域でシリンダを平滑に形成することができる。これによって製造が簡単になる。
【0060】
少なくとも1つの押し込み部材を備えた本発明によるシリンダの構成は、他の構成の掃気通路または他の数量の掃気通路に対しても有利である。掃気窓とクランクケース内の連通開口部とは互いに間隔をもっている必要はなく、互いにわずかな間隔でずらして形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1,120 2サイクルエンジン
2,50,70,90,121 シリンダ
3 燃焼室
4 クランクケース
5 ピストン
9,10 掃気通路
9’,10’ 掃気窓
20,60,100,122,132 シリンダスリーブ
46,74 連通開口部
82,92 押込み部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(2,50,70,90,121)内に形成されている燃焼室(3)を備え、該燃焼室(3)が前記シリンダ(2,50,70,90,121)内を往復動可能に支持されているピストン(5)によって画成され、該ピストン(5)が、クランクケース(4)内に回転可能に支持されているクランク軸(8)を駆動し、前記クランクケース(4)が、前記ピストン(5)の少なくとも1つの位置で、少なくとも1つの掃気通路(9,10)を介して前記燃焼室(3)と連通し、前記掃気通路(9,10)が前記ピストン(5)によって制御される掃気窓(9’,10’)でもって前記クランクケース(4)に開口し、前記掃気窓(9’,10’)が連通開口部(46,74)において前記クランクケース(4)に開口し、前記クランクケース(4)に通じる混合気取り込み口(13)と、前記燃焼室(3)から出ている排気口(18)とが設けられ、前記掃気通路(9,10)の前記掃気窓(9’,10’)と前記連通開口部(46,74)とが前記シリンダ(2,50,70,90,121)の周方向において互いにずらして配置され、前記掃気通路(9,10)の少なくとも1つの壁部分がシリンダ長手軸線(L)の方向に前記クランクケース(4)から見てアンダーカットを形成している2サイクルエンジン(1,120)において、
前記壁部分が、前記クランクケース(4)側から前記シリンダ(2,50,70,90,121)内へ押し込まれている別個の部材によって画成されていることを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項2】
前記別個の部材がシリンダスリーブ(20,60,100,122,132)であることを特徴とする、請求項1に記載の2サイクルエンジン。
【請求項3】
前記シリンダスリーブ(20,60,100,122)が前記シリンダ(2,50,121)の前記クランクケース(4)側から前記掃気窓(9’,10’)まで延在していることを特徴とする、請求項2に記載の2サイクルエンジン。
【請求項4】
前記シリンダスリーブ(20,60,100,122,132)の側面に少なくとも1つの通路(40,41,42;65,66,67,68,69,128,129)が形成され、該通路内で1つの掃気通路(9,10)が案内され、前記通路は少なくとも1つの側壁(40’,40”,41’,41”,42’,65’,66”,67’,67”,68’,68”,69’,77’,77”)を画成していることを特徴とする、請求項2または3に記載の2サイクルエンジン。
【請求項5】
1つの掃気通路(9,10)の一部分がシリンダボア(47)の凹部(31,32;55,56)によって形成され、該凹部が前記燃焼室(3)側端部で前記掃気窓(9’,10’)を形成していることを特徴とする、請求項2から4までのいずれか一つに記載の2サイクルエンジン。
【請求項6】
前記シリンダスリーブ(20,60)がスリーブ本体(36,61)と拡径したスリーブ部分(38)とを有し、該スリーブ部分(38)が少なくとも1つの前記凹部(31,32;55,56)を半径方向内側で閉鎖していることを特徴とする、請求項2から5までのいずれか一つに記載の2サイクルエンジン。
【請求項7】
前記シリンダスリーブ(132)が、前記シリンダ(121)によって完全に閉鎖されている少なくとも1つの凹部(133)を有していることを特徴とする、請求項2から6までのいずれか一つに記載の2サイクルエンジン。
【請求項8】
前記シリンダスリーブ(20,60,100,122,132)がダイカスト部品であること、前記シリンダスリーブ(20,60,100,122,132)の側面が精密加工されていること、前記シリンダスリーブ(20,60,100,122,132)が前記シリンダボア(47)内に圧入されていることを特徴とする、請求項2から7までのいずれか一つに記載の2サイクルエンジン。
【請求項9】
前記シリンダ(2,50,121)内に前記シリンダボア(47)の段部(39,54,118)が設けられていること、前記シリンダスリーブ(20,60,122,132)が前記段部(39,54,118)に当接している肩部(53,63)を有していることを特徴とする、請求項2から8までのいずれか一つに記載の2サイクルエンジン。
【請求項10】
1つの掃気通路(9,10)の1つの側壁(83,93,94)の少なくとも一部分を画成している少なくとも1つの押し込み部材(82,92)が設けられていること、該押込み部材(82,92)が、前記掃気通路(9,10)の、前記クランクケース(4)に連通している前記連通開口部(74)に境を接する部分を画成していることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか一つに記載の2サイクルエンジン。
【請求項11】
前記掃気通路(9,10)の前記一部分が前記押込み部材(92)によって完全に画成されていることを特徴とする、請求項10に記載の2サイクルエンジン。
【請求項12】
前記シリンダ(70)が少なくとも1つのカバー(76)を有し、該カバー(76)が互いに隣接し合って配置されている少なくとも2つの掃気通路(9,10)をシリンダ外面側で画成し、前記掃気通路(9,10)が前記カバー(76)の高さで1つの共通の通路(73)に合流していることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか一つに記載の2サイクルエンジン。
【請求項13】
前記掃気通路(9,10)が少なくとも部分的に前記シリンダ長手軸線(L)に対し傾斜して延在していること、少なくとも2つの掃気通路(9,10)は、該掃気通路(9,10)が一緒に案内されている1つの共通の部分を有していること、前記掃気通路(9,10)が前記共通の部分をそのクランクケース側端部に有していることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか一つに記載の2サイクルエンジン。
【請求項14】
前記クランクケース(4)に通じる少なくとも1つの掃気通路(9,10)の前記連通開口部(46,74)が前記排気口(18)の下に配置されていることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか一つに記載の2サイクルエンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図37】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate


【公開番号】特開2011−127601(P2011−127601A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277960(P2010−277960)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(598052609)アンドレアス シュティール アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (95)
【Fターム(参考)】