説明

2パラメータスペクトルの補正方法

本発明は信号処理の分野、特にX線分光分析法又はガンマ線分光分析法に関する。本発明はまた、2パラメータスペクトルを補正する方法及び改良型処理装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
技術分野及び先行技術
本発明は、信号処理の分野、特にX線又はガンマ線分光分析法に関する。
この技術は半導体検出器を使用する。半導体検出器は多くの場合電荷キャリアの収集に欠陥を有する。
【0002】
入射放射光による分光分析法では、X光子又はガンマ光子の相互作用により生成される電荷キャリアの数を求める試みが為されている。
この目的のために、電極を使用して半導体材料に電界を印加して、これらの電荷を引き出し、これら電荷の数に比例する振幅を有する電気信号を生成する。残念なことに、このようなキャリアの数の測定は、半導体の輸送特性が不完全であるために困難である。実際、電荷の一部分は電極に到達しない。これは収集が不完全になるという問題を生じる。
【0003】
このような不完全な収集を無くすために提案された方法の一つでは、振幅の測定値に加えて、取得された電気信号の形状に関する一つ以上の他のパラメータ(例えば立ち上がり時間)の測定値を使用して、特に半導体媒体における光子の相互作用部位を復元する。相互作用部位に応じて変化する収集効率を較正することにより、光子によって実際に生じる電荷を求めることができる。
このような種類の方法の一例は、仏国特許出願FR2738919又はFR2738693に開示されている。
【0004】
この種類の補正方法では、装置の電極に接続される電荷プリアンプの出力で取得される電気信号の振幅及び立ち上がり時間を測定し、次に2つの量を同時に記録する。データは2パラメータスペクトルと呼ばれる2次元ヒストグラムに保存される。
次に、放射能較正用線源が持つことが知られている2つの基準エネルギーE1及びE2に対して振幅/時間の関係の較正を行なう。
【0005】
このようにして、2つの振幅/時間較正曲線A(T)及びA(T)が得られ、次にこれらの曲線を使用してスペクトル全体の電荷損失を補正し、種々の振幅/時間ペアと等価なエネルギーを推定する。
E=Gain(T)A+Shift(T),
上の式において、
Gain(T)=(E−E)/(A(T)−A(T)),
Shift(T)=E−Gain(T)A(T)
である。
種々の相互作用に対応する複数の振幅/時間ペアの全てを、ここで「相似変換」という用語で呼ぶこのような技術によって補正する。
【0006】
しかしながら、この方法によって、2パラメータスペクトルに含まれる情報に非常に大きな劣化が生じる。
このように、図1は生の2パラメータスペクトルを示し、y軸には立ち上がり時間Tが、x軸には振幅Aが示されている。
【0007】
この種類のスペクトルは2つの他の種類の情報、すなわちエネルギー(FR2738919において説明されている)及び光子の数nを含む。
従って、図1において互いに重複する2つの散乱プロット10及び11は、2つの異なるエネルギーEa及びEbに対応する。
【0008】
実際、この図を完成させると、図2の参照番号13、14及び15で示すような一組の3−D曲線から成る3次元図となり、各曲線は、所定のエネルギーの各々について、信号の立ち上がり時間T及び振幅Aに対する光子の数nを示している。
図3は、いわゆる「相似変換」法によって補正された2パラメータスペクトルを示している。この相似変換法による補正によって、振幅が互いに重複する散乱プロット10及び11が、前記2つの異なるエネルギーEa及びEbに対応する2つの他の個別の振幅散乱プロット10a及び11bに変換される。
【0009】
しかしながら、補正済みの2パラメータスペクトルは劣化情報を含む。図1の図と比べると、散乱プロット10a及び11bに関連する信号は、散乱プロット10及び11に関連する信号よりも広がっていることが分かる。
図1の散乱プロット10及び11が更に類似していた場合、図3の2つの散乱プロット10a及び11bが互いに重複する可能性がある。
【0010】
従って、相似変換法による補正は完全に満足できるものではない。従って、相似変換法によって得られるエネルギースペクトルは、2パラメータスペクトルに含まれる情報の全てを使用するわけではない。
これにより、低振幅パルスを所定のエネルギーピークで検出且つ特定することができる場合でも、それらのパルスを正しく使用することが不可能となる。
よって、2パラメータスペクトルに含まれる情報の包括的な使用を可能にするような、改良型補正方法及び装置を開発する必要があるという問題が生じる。
【0011】
発明の開示
本発明によれば、他のパルスから独立した一のパルスに対応するエネルギーを推定することはできない。
第一に、本発明の目的は2パラメータスペクトルの処理方法であって、
−スペクトルのプロファイルパラメータ、及び初期補正関数を選択すること、
−このパラメータに従って選択される全てのプロファイルに対し、補正関数を乗算することにより、既に補正されているプロファイル群の少なくとも一部分の合計に等しくなるようにすることにより、補正処理を実行すること
を含む。
【0012】
前記2パラメータスペクトルは、例えば立ち上がり時間−振幅のタイプとすることができる。従って、前記プロファイルパラメータはスペクトルの立ち上がり時間とすることができ、これらのプロファイルは立ち上がり時間の長い順に選択することができるか、又は更に好適には、精度又は分解能の高い順に選択することができる。
本発明による方法が適用される信号は、相似変換によって既に処理又は補正されている信号か又は2パラメータスペクトルとすることができる。
【0013】
初期補正関数は、例えば一様分布である。
前記補正処理は更に、正規化ステップを含む。
【0014】
従って、第1の別の実施形態によれば、前記補正処理は更に、前記補正関数の積分値による除算を含む。
第2の別の実施形態によれば、前記補正処理は更に、選択されたプロファイルに前記補正関数を乗算した積分値に対する、前記選択プロファイルの積分値の比を更に乗算することを含む。
【0015】
前記スペクトルが、種々の立ち上がり時間チャネル、及び種々の振幅チャネルに渡って変化する光子の数の分布を表わしており、前記分布が小さな不確実性を有する測定値によって決定されるような第3の別の実施形態によれば、前記補正処理は更に、局所正規化ステップを含むことができ、この局所正規化ステップは、
−前記選択されたプロファイルを前記補正関数及び前記不確実性関数の畳み込みによって除算するステップ、
−前記測定値の不確実性に基づくいわゆる不確実性関数を使用して選択された、前記プロファイル中の光子の数の分布の振幅チャネルにより、振幅チャネルを再分布させるステップ
を含む。
前記不確実性関数は、例えばガウス型関数とすることができ、ガウス型関数の標準偏差は前記測定値の不確実性によって変化する。
【0016】
本発明はまた、例えば時間−振幅のタイプの、2パラメータスペクトル処理装置に関し、本装置は、
−スペクトルのプロファイルパラメータ及び初期補正関数を選択する手段、並びに
−このパラメータに従って選択された全てのプロファイルについて、この選択プロファイルに補正関数を乗算することにより、既に補正且つ正規化されているプロファイル群の少なくとも一部分の合計に等しくなるようにする補正処理を実行する手段
を備える。
特定の一実施形態によれば、この処理装置は更に、スペクトルの全てのプロファイルを分解能性能基準に従って分類する手段、並びにスペクトルのプロファイルを分解能性能の低い順又は高い順に選択する手段を備える。
本発明による処理装置はまた、相似変換によってスペクトルを補正する手段を備えることができる。
【0017】
本発明は更に、2パラメータスペクトルの処理装置に関し、本装置は、
−スペクトルのプロファイルパラメータ及び初期補正関数を選択する手段、並びに
−本発明による前記スペクトル処理方法を実行するプログラム手段
を備える。
本発明の技術範囲には医療撮像装置も含まれ、本医療撮像装置は、半導体検出器又はマトリクス状半導体検出器、2パラメータスペクトルの取得手段、本発明による2パラメータスペクトル処理装置、及び2パラメータスペクトルの処理に関する情報の表示手段を備える。
【実施例】
【0018】
本発明による例示的方法を、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
第1ステップS1では、2パラメータスペクトルが取得されていると仮定する。
【0019】
先行技術を記載する際に既に説明したように、前記取得された2パラメータスペクトルは、特に、種々の振幅チャネル及び種々の立ち上がり時間チャネルへの光子の数nの分布に関する情報を含む。スペクトルの所定の立ち上がり時間チャネル、及び所定の振幅チャネルの光子の数は、ペア(信号の立ち上がり時間、振幅)の頻度又は生起回数に相当する。従って、スペクトルの所定の振幅チャネル及び立ち上がり時間チャネルの光子の数nを示すために、本明細書では「ヒット数」という用語を使用する。
取得されるスペクトルは、例えば、図1に示すようなスペクトルであるか、又は図3に示すような、相似変換法により補正されたスペクトルとすることができる。
【0020】
次に(ステップS2)、立ち上がり時間パラメータなどの所定のプロファイルパラメータを、スペクトルのパラメータ群の中から選択し、また、Cと表記される分布、例えば一様分布によって初期化される補正関数を選択する(ステップS3)。
ステップS2及びS3は同時に実行することができるか、又はいずれの順番でも実行することができる。
【0021】
次に、繰り返し処理を実行し、この処理の間、ステップS4に従って、Dと表記される2パラメータスペクトルの第1分布又は第1プロファイルを、一定のプロファイルパラメータとして選択する。この選択は、例えば、一定の立ち上がり時間を有するスペクトルプロファイルの選択とすることができ、この場合、このスペクトルプロファイルの選択は、所定の立ち上がり時間に関し、種々の振幅チャネルへの光子の数nの分布の選択に対応する。
このようなプロファイルの選択は、一以上の基準を満たすことができ、例えば図1のy軸に直交する水平な線をプロットすることにより示すことができる。
【0022】
2パラメータスペクトルにおいて、一定の立ち上がり時間プロファイルは、一組の離散デジタル値に対応する。測定値をデジタル化して2パラメータスペクトルとする過程において行なわれるのは、精度の選択である。この精度はデジタル化ステップに対応し、このステップは特に、立ち上がり時間の測定値の不確実性に基づいて選択することができる。
好適には、高い強度ピークを含むプロファイル、例えば最高強度ピークを含むプロファイルが、図1においてピークP(この強度はスペクトル画像のグレーレベルに比例する)を通過する水平な線yにより定義されているように選択される。
【0023】
選択は、プロファイルの分解能基準に従って行なうことができる。例えば、最高分解能を有するプロファイルは、スペクトルの一定の立ち上がり時間プロファイルの全ての中から選択することができる。従って、処理は、最も「精度の高い」ピーク又はピーク群を含む立ち上がり時間チャネルに基づいて開始することができる。このような選択を可能にするため、各々が一定の立ち上がり時間プロファイルであるスペクトルの種々のプロファイルを、ステップS4の前に、例えば本方法のステップS2の直後に、分解能基準によって分類することができる。分解能は、特に各プロファイルに含まれるピークの半値幅に対して計算することができる。
次に、第1プロファイルDを、少なくとも分布Cに初期化された補正関数を乗算することにより補正する(ステップS6)。
【0024】
これにより、少なくとも部分的に補正されたプロファイルがD’として得られる。
D’=DxC
補正は、「正規化」と呼ばれるステップ(ステップS5)によって完了させることができ、この正規化ステップは乗算ステップS6の前に、ステップS6と同時に、又はステップS6の後に行なうことができる。補正済みの正規化プロファイルをと表記する。
【0025】
第1の別の実施形態によれば、この正規化では、少なくとも部分的に補正された第1プロファイルD’を、補正関数Cの振幅チャネルの全てに渡る積分値(ΣCと表記する)で除算する。

上の等式(1)及び本明細書の残りの部分を通じて、「Σ」はチャネルの全てに渡る合計を表わす。
【0026】
第1の実施形態より改善されている第2の実施形態によれば、正規化ステップS6では、補正済みの第1プロファイルD’に、第1プロファイルの振幅チャネルの全てに渡る積分値(ΣDと記す)と、補正済みの第1プロファイルの振幅チャネルの全てに渡る積分値(ΣD×Cと記す)との比

を乗算する。つまり、

となる。
これにより、補正且つ正規化されたこの第1プロファイルに含まれる光子の数の計数値は、補正前のプロファイルDの計数値と同じである。
【0027】
次に、正規化の後、Cに初期化された補正関数を変更する(ステップS7)。Cに補正済みの第1プロファイルを加算することによりCをインクリメントする。従って、Cと表記される新規の補正関数は次式のように表わされる。
=C
この補正関数Cは、別の一定の立ち上がり時間プロファイルの補正関数として使用することができ、且つ補正済みの第1プロファイルに関する情報を考慮することを可能にする。
【0028】
次に、ステップS4〜S7の間に実行される種類の処理を、2パラメータスペクトルの別の一定立ち上がり時間プロファイルに対して行う。よって、例えば第1プロファイルから始めて立ち上がり時間がだんだん短くなるようにすることにより、又は例えば分解能基準に従って、例えば処理のために残っているスペクトル全ての一定立ち上がり時間プロファイルの中から最高分解能を有するプロファイルを選択することにより、まず第2の一定立ち上がり時間プロファイルDを選択する。
次に、第2プロファイルに、初期補正関数C及び補正済みの第1プロファイルの和から成る変更済みの補正関数Cを乗算する(ステップS9)。これにより、少なくとも部分的に補正された第2プロファイルD’が得られる。
D’=DxC
D’=Dx[C
【0029】
第1プロファイルを処理する方法と同じ方法により、第2プロファイルに対して、第1プロファイルに実行した種類の第2の正規化ステップを、可能であれば乗算ステップS9と同時に実行することができる(ステップS10)。
ステップS6で別の第1の正規化が使用されている場合、この第2の正規化では、少なくとも部分的に補正された第2プロファイルを、新規の補正関数Cの振幅チャネルの全てに渡る積分値で除算することができる。
=D’/ΣC
=(DxC)/ΣC
=(Dx[C])/Σ[C
【0030】
ステップS6で別の第2の正規化が使用されている場合、この第2の正規化では、補正済みの第2プロファイルD’に、第2プロファイルDの振幅チャネルの全てに渡る積分値(ΣDと記す)と、補正済みの第1プロファイルの振幅チャネルの全てに渡る積分値(ΣD×Cと記す)との比を乗算することができる。

上の演算は、選択される連続プロファイルの全てに関して更新される。よって、まず各プロファイルDに、以前に補正され、次いで正規化されたプロファイルを考慮した補正関数Cを乗算する。つまり、
’=DxC
を行う。上の式の乗算では、C=(Ck−1k−1)であり、且つk−1はプロファイルDの直前に補正及び正規化されたプロファイルであり、更には、別の第1の正規化が次に行なわれた場合の正規化は

であり、別の第2の正規化が次に行なわれた場合の正規化は

である。
【0031】
2パラメータスペクトルの一定立ち上がり時間プロファイルの全てをこのようにして処理する。プロファイルの全てを処理した後、最終の2パラメータスペクトルを補正する(ステップS)。
本方法の最後に得られる補正関数をCと記す。関数C−C、すなわち初期分布Cの減算対象となる最終補正関数Cは、それ自体が、補正済みの2パラメータスペクトルに基づいて、立ち上がり時間の全てに繰り返し構成されたエネルギースペクトルに対応する。
【0032】
本発明による方法は、先行技術として上記で説明した相似変換法と組み合わせることができる。
2パラメータスペクトルが相似変換によって既に処理されている場合、次のように処理を進めることができる。
【0033】
2つのパラメータ(通常、振幅A及び立ち上がり時間T)を取得し、次に2つの基準ピークに対して較正を行なって、ゲイン(T)及びシフト(T)の較正を可能にする。
次に、これらの基準ピークの一方を援用して、スペクトルの種々の立ち上がり時間チャネルを、通常は最高精度(プロファイルの分解能が最良である精度)から最低精度まで分類する。次に、エネルギースペクトルを繰り返し構成する。
【0034】
2パラメータスペクトルの各立ち上がり時間Tに関して、次の方法に従って種々のチャネルを処理する。
1)所定の立ち上がり時間に関して、法則E=gain(T)A+Shift(T)に従って各振幅チャネルを補正する。すなわち、Eを中心とする法則(適切な種類の法則、例えばガウスゲイン幅(T)x1チャネル)に従ってチャネルヒットを再分布させる。このように、前記所定の立ち上がり時間に関し、スペクトルのプロファイルDを相似変換により補正する。
2)このプロファイル又はこの分布Dに、以前に補正された分布により得られた補正関数Cを乗算することにより、事前知識を考慮に入れる。
3)結果として得られる分布D’を正規化して、この分布に対し、補正対象のチャネルヒットの数に等しいヒット回数を割り当てる。
4)補正済みの正規化分布を加算することにより補正関数Cを変更する。
5)プロセスを繰り返して2パラメータスペクトルのポイントの全てを処理する。
処理の最後に、Cと表記される最終補正関数が得られる。C−C−0と表記される、初期補正関数の減算対象となる最終補正関数に等しい関数は、立ち上がり時間の全ての積算合計により得られる前記エネルギースペクトルに相当する。
【0035】
ここで、補正関数は一様分布によって初期化することができ、これにより初期知識が無いことを示すことができることに注目されたい。
補正関数に元々含まれている光子の数、又はヒットの数の計数値は、統計学的に信頼度の高い、従って重要な情報の量に相当する。
【0036】
始めの2パラメータスペクトルに関係なく、種々の立ち上がり時間の処理時系列は予め選択することができる。
最も精度の高いスペクトルポイントから始めることが好ましい。そのためには、2パラメータスペクトルの種々のポイントを精度の順に分類する。この分類は、必ずしも立ち上がり時間値の数値順と何らかの相関を有さなくてもよい(即ち、分類ポイントは、必ずしもスペクトル上で隣り合う訳ではない)。参照番号16で示すスペクトルは、本発明による方法を使用して補正される2パラメータスペクトルの立ち上がり時間全ての合計に対応し、且つ本発明による方法の最後に得られ、初期補正関数Cが減算されている補正関数Cのグラフ表示に対応する。
【0037】
大きい信号振幅に対応するスペクトルの領域におけるプロファイルが、小さい振幅に対応するスペクトルの領域におけるプロファイルよりも一般に精度が高いことが分かれば、この原理は厳密度を下げて適用可能であり、従って立ち上がり時間の降順に処理時系列を選択することができる。
他の理由により、昇順又はランダムな順番、或いは所定の順番を選択することができる。
【0038】
本発明による方法の別の実施例では、Gと表記する不確実性関数を利用して、2パラメータスペクトルの処理の間に局所正規化を使用する。
この例示的方法では、2パラメータスペクトルの各一定立ち上がり時間プロファイルを、例えば分解能基準に基づいて事前に設定した順番で補正する。
【0039】
選択された所定の一定立ち上がり時間プロファイルD(例えば、図1のy軸に直交するように引いた水平な線により表わされる)の場合、このプロファイルを、種々の振幅チャネルの全てについて振幅チャネルごとに以下の方法に従って処理する。
所定の振幅チャネルi(例えば、図1のx軸に直交する垂直な破線により表わされる)に関して、
1)前記所定の振幅チャネルiのプロファイルDに含まれるヒットの数又は光子の数を選択し、D(i)と表記する。
2)この数を前記不確実性関数に従って、前記所定の振幅チャネルiを中心として再分布させ、Gと表記する。
この不確実性関数は、例えば標準偏差が測定の不確実性に依存するガウス分布とすることができ、よって2パラメータスペクトルの取得が可能となる。
【0040】
3)この再分布の結果に補正関数Cを乗算し、正規化する。補正関数Cは、上述で説明したように、既に処理され且つ補正されている一定立ち上がり時間分布を合計することにより得られる。正規化に関しては、正規化は、中央に分布する不確定関数Gと補正関数Cとの積を、振幅チャネルの全てに渡って積分した値で除算することにより行なうことができ、積分はΣG×Cと表記され、iは前記所定の振幅チャネルに対応する。
局所的に行なわれるこの正規化によって、ヒットの数D(i)を補正済みの最終スペクトルに保持することができる。次に、今説明したプロセスを振幅チャネルの全てに繰り返す。
【0041】
次に、チャネル全ての合計を計算し、と表記する補正済みの正規化プロファイルを得る。

この処理を要約すると、各チャネルiのヒット数をチャネルiに近い領域において分布G×Cに従って再分布させる。この処理は、各チャネルiの近傍における補正関数の局所的選択に相当する。このようにして、各チャネルのヒット数が、これらのヒット数が元々位置していた領域であって、且つこれらのヒット数の存在がほとんど重要ではないか、又は物理的に重要でない領域から離れたスペクトル領域に再分布することが防止される。
【0042】
スペクトルのプロファイルDの処理は次式によっても表わされる。

ここで、「*」は畳み込みを表わす。
この処理が複数の一定立ち上がり時間プロファイルの各々に対して行なわれ、このとき、補正関数Cを、この関数に補正されたばかりのプロファイルを加算することによりインクリメントする。
次に、別の一定立ち上がり時間プロファイルに処理を繰り返す。2パラメータスペクトルの複数の一定立ち上がり時間プロファイルの全てが補正されると、Cと表記される最終補正関数が処理の最後に得られる。最終の補正関数から最初の補正関数を減算して得られる関数であるC−Cと表記される関数は、立ち上がり時間全ての積算合計により得られる前記エネルギースペクトルに相当する。
【0043】
図5は、本発明による方法により補正された、前述した図3と同じ種類の2パラメータスペクトルを示し、これは相似変換による処理により得られたものである。この図では、2つの個別の散乱プロット10c及び11dが得られており、これらのプロットは図3におけるプロットよりも細かく、且つ良好に分離されていることが分かる。
図6は、2つのエネルギースペクトルを参照番号15及び16で示す。これらのスペクトルは、図3に示す種類の最初の2パラメータスペクトル、及び図5に示す種類の別の2パラメータスペクトルそれぞれの、y軸方向への投影像として得られたものである。本発明による処理方法により得られるスペクトル16の分解能は、参照番号15の分解能よりも高いので、2つのエネルギーE及びEを明確に区別することが可能である。
【0044】
本発明による方法は図7に示すような装置を援用することにより実行することができる。
図7の参照番号100は、検出平面に配置されたマトリクス状の半導体検出素子102を指している。
【0045】
図8は、半導体検出器の構造の一例を示している。半導体検出器は集積電子回路32を備えたプラットフォーム30を含み、この上には、複数の検出素子34が搭載されている。
これらの検出素子34の各々は、2つの平行な両側表面を備える半導体ブロックの形態であり、これらの両側表面の上には電極群が設けられる。これらの電極に印加される電界によって電荷キャリア、すなわち光線と半導体との相互作用により生成される電子及び正孔を移動させることができる。図には示さない電極群も設けることにより電荷を受け取り、これらの電荷をプラットフォーム30の集積回路に転送して検出信号を生成する。
【0046】
これらの検出素子が送出する信号は第1集積回路、例えば特定用途向け集積回路(ASIC)110に向けて転送される。この回路は、各検出素子の信号増幅経路、及びこれらの経路の多重化手段を含む。
第2回路112を設けて各信号の振幅及び立ち上がり時間を求め、これらの量に対応するデータ、並びにイベント座標を表わすデータをフォーマットする。イベント座標は検出平面の該当する検出素子の位置に関連付けられる。回路112のような回路は、例えばFR2738919に記載されている。
【0047】
本発明による処理方法は、立ち上がり時間とは異なるパラメータ、例えば前記電極群から得られるカソード信号対アノード信号比パラメータを、形状パラメータとして有する2パラメータスペクトルに適用することができる。
データは、較正相に関連する計算及び処理を実行し、且つ取得相において画像(例えば、医療用画像)をデータに基づいて構成するように設計されたコンピュータ114に向けて転送される。画像はスクリーン116に表示される。
【0048】
コンピュータは、本発明による方法に従って2パラメータスペクトルを補正するように設計又はプログラムされる。
この方法を実行するためのデータはコンピュータ114又は図7の参照番号120で示すメモリに保存することができる。取得相の間、回路110及び112は、依然として振幅データ、立ち上がり時間データ、及びイベント座標データを検出素子信号に基づいて生成している。
【0049】
図6のようなスペクトルは、上述のような処理により得ることができる。このスペクトルは、取得動作の間にスクリーン116に表示することができる。本発明による装置及び方法は、特許FR2790560の冒頭部分に記載されているように、核医学において実施される医療検査に使用することができるか、或いは天体物理観測、原子核分野(例えば、放射性廃棄物の流れの観察)、非破壊検査の分野において使用することができる。
本明細書を通じて、2パラメータ(時間−振幅)スペクトルを例に挙げて本発明を説明した。半導体媒体における光子の相互作用の深さは、立ち上がり時間の測定値によって近似値を求めることができるか、又は振幅のアノード対カソード比の測定値によっても近似値を求めることができる。本発明はまた、2パラメータスペクトルの他のあらゆる例に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】2パラメータスペクトルを示す。
【図2】2パラメータスペクトルを示す。
【図3】2パラメータスペクトルを示す。
【図4】本発明による方法のステップを模式的に示す。
【図5】本発明による方法により得られるスペクトルの例を示す。
【図6】本発明による方法により得られるスペクトルの例を示す。
【図7】本発明による方法を実行する装置を示す。
【図8】本発明による方法を実行する装置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2パラメータスペクトルの処理方法であって、
−スペクトルのプロファイルパラメータ、及び初期補正関数を選択すること、
−このパラメータに従って選択される全てのプロファイルに対し、補正関数を乗算することにより、既に補正されたプロファイル群の少なくとも一部分の合計に等しくなるようにすることにより、少なくとも1回の補正処理を実行すること
を含む方法。
【請求項2】
2パラメータスペクトルが(立ち上がり時間−振幅)スペクトルであり、プロファイルパラメータがスペクトルの立ち上がり時間である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
プロファイルを立ち上がり時間の長い順に選択する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
−スペクトルのプロファイルの全てを分解能性能基準に従って分類し、プロファイルを分解能性能の高い順に選択するステップ
を更に含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
2パラメータスペクトルが、相似変換によって既に補正されているスペクトルである、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
初期補正関数が一様分布である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記補正処理が、前記補正関数の積分値による除算を行なうステップである、前記補正関数の正規化ステップを更に含む、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記補正処理が、選択プロファイルに前記補正関数を乗算した積分値に対する前記選択プロファイルの積分値の比を更に乗算するステップである、正規化ステップを更に含む、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記スペクトルが、種々の立ち上がり時間チャネル、及び種々の振幅チャネルに渡って変化する光子の数の分布を表わし、前記分布は小さな不確実性を有する測定値によって決定され、前記補正処理は更に局所正規化ステップを含むことができ、局所正規化ステップが、
−前記選択プロファイルを前記補正関数及び前記不確実性関数の畳み込みによって除算すること、及び
−前記選択プロファイルに光子の数の分布を有する振幅チャネルにより、前記測定値の不確実性に依存するいわゆる不確実性関数を使用して振幅チャネルを再分布させるステップ
を含む、請求項2ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記関数が、前記不確実性に依存する標準偏差を有するガウス型関数である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
2パラメータ(時間−振幅)スペクトルの処理装置であって、
−スペクトルのプロファイルパラメータ及び初期補正関数を選択する手段、並びに
−このパラメータに従って選択される全てのプロファイルに対し、補正関数を乗算することにより、既に補正且つ正規化されているプロファイル群の少なくとも一部の合計に等しくなるようにする補正処理を実行する手段
を備える装置。
【請求項12】
−スペクトルのプロファイルの全てを分解能性能基準に従って分類する手段、及び
−スペクトルのプロファイル群を分解能性能の低い順又は高い順に選択する手段
を更に備える、請求項11記載の装置。
【請求項13】
相似変換によってスペクトルを補正する手段を更に備える、請求項11又は12に記載の装置。
【請求項14】
−半導体検出器又はマトリクス状検出器、
−2パラメータスペクトルを取得する手段、
−請求項11ないし13のいずれか一項に記載の2パラメータスペクトル処理装置、及び
−2パラメータスペクトルの処理に関する情報を表示する手段
を備える医療撮像装置。
【請求項15】
−スペクトルのプロファイルパラメータ及び初期補正関数を選択する手段、並びに
−請求項1ないし10のいずれか一項に記載の方法を実行するプログラム手段
を備える2パラメータスペクトルの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−536549(P2007−536549A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512297(P2007−512297)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050270
【国際公開番号】WO2005/114257
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(500559536)
【Fターム(参考)】