説明

2フェーズの架橋速度を有する、湿分で架橋可能な安定化されたポリマー

本発明の対象は、架橋されたポリマー(PV)に対して湿分架橋可能なポリマー(P)と、水捕捉剤として、加水分解性の基を少なくとも1つ有するシラン(W)とを含有する安定化された混合物(M)であって、前記ポリマー(P)が、ポリマー主鎖の2つの末端に相当しない少なくとも1箇所に、加水分解性のシラン基を有し、前記水捕捉剤が、25℃、1barで湿分架橋性ポリマー(P)よりも早く水と反応するものである。本発明の対象はまた、特定のシラン(W)との混合物(M)中のポリマー(P)を、水で架橋するための方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性シラン基を有する湿分架橋性ポリマー含有混合物、水捕捉剤、及び当該混合物を水と水捕捉剤で架橋させるための方法に関する。
【0002】
水捕捉剤で安定化された湿分架橋性ポリマーは、文献から公知である。水捕捉剤の添加により、湿分架橋性ポリマーの加工は、水を含有する大気中の空気によっても可能になる(その空気が予備乾燥されていなければ)。水捕捉剤は、架橋に影響を与えることなく、入り込む水と反応する。この系における基本的な問題は、安定化された系の湿分架橋の速度が、加工の間のみ抑制されるのではなく、その後、つまり湿分架橋性ポリマーを適切に架橋したい場合にも、抑制されてしまうことである。
【0003】
そこで例えば、EP 245 938、EP 7 765、及びUS 4 043 953には、シラン官能基によって湿分架橋可能なポリマーが記載されており、これらは加水分解性シランを水捕捉剤として用いて安定化されたものである;EP 7 765は水捕捉剤として、さらにトリアルキルオルトホルミエートを挙げている。EP 351 142は、ジペンタエリトリトールエステルで安定化された湿分架橋性ポリマーを記載している。EP 149 903は、リン化合物及びアンチモン化合物を、水捕捉剤として用いることを記載している。
【0004】
EP 1 414 909、及びEP 1 529 813の文献は、シラン末端基を有する有機ポリマーを記載しており、これには、加水分解性基を有する化合物が、たいていは、シラン末端化されたポリマーよりも水に対して反応性が高いシランが添加されている。シラン末端化されたポリマーの場合、このような水捕捉剤を、硬化特性、及びシラン末端化されたポリマーの粘度を改善するために添加し、この改善は連鎖延長によって、すなわち、水捕捉剤と、シラン末端化されたポリマーとの共縮合によって起こる。このため水捕捉剤の添加は、系全体の架橋を強化する架橋剤の添加とも考えることが予期されるべきであった。
【0005】
US 4 043 953に基づけば当業者は、水と迅速に共縮合する化合物は、安定剤というよりむしろ架橋剤として作用すると予期すべきであり、このため湿分架橋性ポリマーを添加すれば、架橋は極めて容易に加速されるべきであった。シラン末端化されたポリマーについては、EP 1 414 909及びEP 1 529 813を参照されたい。これらの文献は特に、シラン末端化されたポリマーの連鎖延長について、当業者が水捕捉剤の添加により評価することを記載している。
【0006】
本発明の対象は、架橋されたポリマー(PV)へと湿分架橋可能なポリマー(P)と、水捕捉剤として加水分解性の基を少なくとも1つ有するシラン(W)とを含有する、安定化された混合物(M)であって、ここで、前記ポリマー(P)は、ポリマー主鎖の2つの末端に対応しない少なくとも1箇所に加水分解性シラン基を有し、前記水捕捉剤は、25℃、1barで、又は90℃、1barで、湿分架橋性ポリマー(P)よりも早く水と反応する。
【0007】
90℃、1barで、湿分架橋性ポリマー(P)よりも早く水と反応するシラン(W)は通常、他の条件、特に0〜300℃の温度範囲、及び0〜5000barの圧力範囲、特に25℃、1barで前記ポリマー(P)よりも早く水と反応する。
【0008】
湿分架橋性ポリマー(P)を含有する前記混合物(M)は、前記ポリマー(P)よりも早く、入り込む水と反応する少なくとも1種の水捕捉剤(W)で安定化されていれば、かつ前記ポリマー(P)が、少なくとも1種の加水分解性シラン基を、ポリマー主鎖の2つの末端には相当しない少なくとも1箇所に有していれば、2フェーズの架橋速度を有することが判明した。分枝鎖状ポリマーの場合、ポリマー主鎖は非常に長くなりうる繰り返し単位である。
【0009】
(P)の加水分解速度の調整対、(W)の加水分解速度の調整、また(P)の縮合速度によって、混合物(M)を2フェーズの架橋速度によって架橋させることが可能になり、ここで架橋速度の第一フェーズは、同じ系を水捕捉剤(W)無しで架橋させるのに比べてゆっくりであり、架橋速度の第二フェーズは、同じ系を水捕捉剤(W)無しで架橋させるのに比べて速い。
【0010】
このような系(M)の利点は、湿分作用当初では、まったく架橋が起こらないか、又は非常に制限された架橋が起こり、これにより例えば、水捕捉剤(W)で安定化された湿分架橋性のポリマー(P)を、大気中の湿った空気で加工することが可能になり、さらに加工後の架橋は、つまり架橋が適切に望まれているのであれば、制限されない速度で進行する。架橋の基準として好適には、ポリマー(P)の架橋の間にゲル含分が上昇することが用いられる。
【0011】
ポリマー(P)は好適には、一般式Iの構造単位
【化1】

を少なくとも1種、ポリマー主鎖の2つの末端に相当しない少なくとも1箇所に有し、
前記式中、
Pol−は、数平均モル質量Mnが少なくとも500g/molのポリマー基であり、
1は、非置換の、又は1つ若しくは複数の置換基Qによって置換されたC1〜C18アルキル基、又はC6〜C10アリール基、若しくはSi1〜Si20シロキシ基であるか、又は加水分解性の基を1つ、2つ、3つ、又は4つ有するシランの縮合されたシラン加水分解体であり、
2は、非置換の、又は1つ若しくは複数の置換基Qによって置換された、炭素原子を1〜20個有する二価の炭化水素基であるか(当該炭化水素基は、1〜3個のヘテロ原子によって中断されていてよい)、又はSi原子を1〜20個有するシロキサン基であり(このシロキサン基中でSi原子は同様に基R1又はXを有していてよい)、
Qは、フルオロ置換基、クロロ置換基、ブロモ置換基、ヨード置換基、シアナト置換基、イソシアナト置換基、シアノ置換基、ニトロ置換基、ニトラト置換基、ニトリト置換基、シリル置換基、シリルアルキル置換基、シリルアリール置換基、シロキシ置換基、シロキサンオキシ置換基、シロキシアルキル置換基、シロキサンオキシアルキル置換基、シロキシアリール置換基、シロキサンオキシアリール置換基、オキソ置換基、ヒドロキシ置換基、エポキシ置換基、アルコキシ置換基、アリールオキシ置換基、アシルオキシ置換基、S−スルホナト置換基、O−スルホナト置換基、スルファト置換基、S−スルフィナト置換基、O−スルフィナト置換基、アミノ置換基、アルキルアミノ置換基、アリールアミノ置換基、ジアルキルアミノ置換基、ジアリールアミノ置換基、アリールアルキルアミノ置換基、アシルアミノ置換基、イミド置換基、スルホンアミド置換基、イミノ置換基、メルカプト置換基、アルキルチオ置換基、又はアリールチオ置換基、O−アルキル−N−カルバマト、O−アリール−N−カルバマト、N−アルキル−O−カルバマト、N−アリール−O−カルバマト、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたP−ホスホナト置換基、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたO−ホスホナト置換基、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたP−ホスフィナト置換基、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたO−ホスフィナト置換基、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたホスフィノ置換基、ヒドロキシカルボニル置換基、アルコキシカルボニル置換基、アリールオキシカルボニル置換基、環式若しくは非環式のカルボナト置換基、アルキルカルボナト置換基、又はアリールカルボナト置換基であり、
Pの値は0又は1であり、
aの値は1、2、又は3であり、
bの値は1以上の整数であり、
Xは加水分解性の基であり、
ここで複数の基又は残基が式I中で相互に結合して、1つ又は複数の環を形成していてもよい。
【0012】
前記ポリマー(P)は、X線回折又は溶融エンタルピーによって特定可能な特定の結晶度を有することができ、この結晶度はその都度の適用に応じて、有利なように選択することができる。同じことが、(P)の粘度、分枝度、又はモル質量についても当てはまる。ポリマー(P)のモル質量分布は、単一ピーク、双性ピーク、又は多数のピークを有するものであり得る。シラン基は、例えばグラフト(例えばイオン又はラジカルで)、共縮合、付加反応、共重合(例えば、不飽和有機官能基を有するシランと、オレフィンモノマーとのラジカル共重合)により、メタセシス反応により(例えば有機金属で)、又はベンケサー反応により、又は上記反応のうち並列的に若しくは順次実施可能な複数の反応により、ポリマー(P)に導入することができる。
【0013】
Pol−は、ポリマー(P1)の基である。このポリマー(P1)は好適には、ポリオレフィン、直鎖状、分枝鎖状、高分岐状、又は超分岐状のポリオレフィンであって、例えばラジカル条件下でオレフィンの重合により、又はメタロセン触媒、フィリップス触媒、若しくはチーグラーナッタ触媒で、又は連鎖移動異性体化(chain Walking isomerization)が可能な触媒で、又はイオン重合により製造されたもの、例えば、ポリエチレン、分枝鎖状、高分岐状、又は超分岐状のポリエチレン、又はC3〜C18ポリ−α−オレフィン(例えばプロペン、1−ブテン、2−メチル−1−プロペンからのポリマー)、又は上記ポリオレフィンからのコポリマー(例えばエテン−α−オレフィンコポリマー、特にエテン−プロペンのコポリマー、エテン−1−ブテンのコポリマー、エテン−1−ヘキセンのコポリマー、及びエチレン−1−オクテンのコポリマー、エテン−プロペン−1−ブテンのターポリマー、LLDPE);ゴム;ポリビニルアセテート、エテン−ビニルアセテートのコポリマー;エテン−ビニルエーテルのコポリマー、例えばエテン−エチルビニルエーテルのコポリマー、エテン−ブチルビニルエーテルのコポリマー、又はエテン−イソブチルビニルエーテルのコポリマー;ポリオレフィン又はポリ−α−オレフィンのホモポリマーワックス又はコポリマーワックス;ポリエステル、例えばポリ−1,4−ブチレングリコール、又はポリ−1,2−エチレングリコール、又はポリジエチレングリコールのテレフタレート又はアジペート;ポリアミド(Nylon(登録商標)又はPerlon(登録商標)のタイプ);アクリレートポリマー又はアクリレートコポリマー、例えばエチレン−ブチルアクリレートのコポリマー、エチレン−エチルアクリレートのコポリマー、エチレン−メチルアクリレートのコポリマー、エチレン−アクリル酸のコポリマー(これは部分的に又は完全に塩として、例えば亜鉛塩として存在していてよい)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(ブチルアクリレート);メタクリレートポリマー、又はメタクリレートコポリマー、例えばエチレン−ブチルメタクリレートのコポリマー、エチレン−メチルメタクリレートのコポリマー、エチレン−メチルメタクリレートのコポリマー、エチレン−メタクリル酸のコポリマー(これは、部分的に又は完全に塩として、例えば亜鉛塩として存在していてよい)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート);ポリアルキレンオキシド、例えばポリエチレンオキシド若しくはポリプロピレンオキシド、又はポリエーテル、例えばテトラヒドロフランからのポリエーテル、又は2つ若しくは複数の上記ポリマーから得られる、コポリマー若しくはブロックコポリマー若しくはグラフトコポリマーである。
【0014】
1は好適には、非置換のC1〜C6アルキル基又はフェニル基であり、特にメチル基又はエチル基である。
【0015】
2は好適には、炭素原子を1〜10個有する非置換の有機基であり、当該基は、炭素原子を少なくとも3個有する場合、O又はNによって中断されていてよい。好ましくは、O若しくはNによる中断がないか、又はO若しくはNから選択される1個若しくは2個のヘテロ原子によって中断されている。R2は好ましくは、1個、2個、3個、4個、又は5個の炭素原子を有するアルキル基を含む。R2の好ましい置換基Qは、オキソを含む。R2の置換基Qの好ましい数は、0、1、又は2である。
【0016】
好ましい基Xは、アルコキシ、アルケノキシ、アミノ、炭化水素アミノ、アシルアミノ、プロペン−2−オキシ、アミノ、C1〜C10アルキルアミノ、C6〜C20アリールアミノ、C1〜C10ジアルキルアミノ、C6〜C20ジアリールアミノ、及びC6〜C20アリール−C1〜C10アルキルアミノ、特にC1〜C6アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソ−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、イソ−ペントキシ、s−ペントキシ、t−ペントキシである。好ましい基Xは、酸素原子によってケイ素に結合している。
【0017】
aの値は好適には、2又は3である。
【0018】
bは好適には、1〜100から選択される整数であり、好ましくは1〜20から選択される整数であり、特に1〜5から選択される整数である。bの例は、1、2、3、4、5、6、及びそれ以上である。
【0019】
ポリマー(P)の任意の試料に対して、比n(Σb):n(P)、つまりすべてのbの合計(試料のポリマー(P)の全分子についての総和)と、試料中のポリマー(P)の分子の数との比は、好ましくは少なくとも0.01、特に好ましくは少なくとも0.1、好ましくは最大20、特に最大50である。n(Σb):n(P)の比は例えば、ポリマー(P)1g当たりの、一般式Iの構造単位の物質量濃度c(Σb)によって特定できる(単位は[mol/g])。この特定は例えば、核磁気共鳴によって、原子吸光分析によって(「AAS」、定量化元素はSi)、誘導結合プラズマ(「ICP」、定量化元素はSi)によって、赤外線分析によって(積分帯域は例えばSi−OMe)、加水分解により遊離可能なHXの数の測定によって、又は灰化によって(灰中のSi物質量はSiO2として算出)行うことができる。ここでは、
n(Σb):n(P)=c(Σb)×Mn(P)
が当てはまり、この式中でMn(P)は、ポリマー(P)の数平均モル質量である。Mnは例えば、ゲル透過クロマトグラフィーによって特定できる。
【0020】
ポリマー(P)の全質量についてポリマー(P)は、すべての基の質量についてシラン基[(R2p−SiR13-aabを、好ましくは少なくとも0.01%、特に好ましくは少なくとも0.1%、特に少なくとも0.2%、好適には最大50%、特に好適には最大30%、特に最大20%、ポリマー(P)の全質量に対して含有する。
【0021】
水捕捉剤(W)は好適には、一般式(II)のシラン
【化2】

であり、
前記式中、
3は、上記R1又は上記Xと同じ意味であり、
qの値は、0、1、2、又は3であり、
cの値は、1、2、3、又は4であり、
Yは加水分解性の基であり、
Zは、ヘテロ原子によってCH2基に結合された、ヘテロ原子含有基であり、
q+cの値は、1、2、3、又は4であり、
ここで複数の基又は残基が式II中で相互に結合して、1つ又は複数の環を形成していてもよい。
【0022】
水捕捉剤(W)がポリマー(P)よりも速く水と反応することは好適には、以下のことによって達成される:
一般式(I)及び/又は(II)中で、
(A)X及びYを、共役してY-になるブレンステッド酸YHのpKa値が、共役してX-になるブレンステッド酸XHのpKa値よりも小さくなるように選択し、
ここでY-は一般式IIの構造単位のSi原子上にある脱離基(Abgangsgruppe)であり、X-は一般式Iの構造単位のSi原子上にある脱離基であり、
ここで、X及び/又はYがSi結合されたアミノ官能基である場合には、次の次に共役してX-及び/又はY-になる酸のpKa値、すなわちXH2+及び/又はYH2+のpKa値が、pKa値比較のために考慮され、つまりXHのpKa値は、XもYもアミノ基でない場合に、YHのpKa値と比較し;XHのpKa値は、Yがアミノ基であり、かつXがアミノ基でない場合に、YH2+のpKa値と比較し;XH2+のpKa値は、Yがアミノ基ではなく、Xがアミノ基である場合に、YHのpKa値と比較し;XH2+のpKa値は、Yがアミノ基であり、Xがアミノ基である場合に、YH2+のpKa値と比較し、又は
(B)qは一般式II中で、1、2、若しくは3から選択され、又は
(C)X及びYは、XH及びYHがアルコールであるように選択し、ここでXHはアルコール性ヒドロキシ基の周辺で、YHよりも立体的に要求の高い障害性アルコールであり、ここで置換基の立体的な要求は、アルコール性ヒドロキシ官能基について、小さいものから順に以下のように:
メチル<エチル<n−プロピル<n−ブチル、<C5〜C20n−アルキル、<イソ−ブチル<イソ−プロピル<s−ブチル<C5〜C20s−アルキル<t−ブチル<t−ペンチル≒C6〜C20t−アルキル
整理され、又は
(D)一般式II中でcの値が、一般式I中のaの値よりも大きいように選択されており、又は
上記前提(A)、(B)、(C)、若しくは(D)のうちの1つ、又は上記前提(A)かつ(B)、若しくは(A)かつ(C)、若しくは(A)かつ(D)、若しくは(B)かつ(C)、若しくは(B)かつ(D)、若しくは(C)かつ(D)、若しくは(A)、(B)、かつ(C)、若しくは(A)、(B)、かつ(D)、(A)、(C)、かつ(D)、若しくは(B)、(C)、かつ(D)、若しくは(A)、(B)、(C)、及び(D)が同時に満たされている。
【0023】
好適には前提(B)が満たされ、この場合qの値は好適には1である。
【0024】
一般式IIの構造単位を少なくとも1つ有する特に適切な水捕捉剤(W)は、一般式III
【化3】

のシランであり、
前記式中、
4は、飽和、又は一価若しくは多価不飽和で非置換の、非環式、単環式、又は二環式のC3〜C40アルキル基、又はC7〜C40アリール基、又はC7〜C40アリールアルキル基、又はC7〜C40アルキルアリール基であり、これらの基は炭素原子と水素原子とだけから成っており、
1は、置換又は非置換のC1〜C20アルコキシ基であり、
5は、非置換のC1〜C40炭化水素基であり、
cは、上記定義の通りである。
【0025】
一般式IIIのシランも同様に、本発明の対象である。
【0026】
3は好適には、非置換のC1〜C6アルキル基又はフェニル基、特にメチル基又はエチル基である。
【0027】
4は好適には、非置換のC4〜C20アルキル基、又はC7〜C20アリール基、又はC7〜C20アルキルアリール基、又はC7〜C20アリールアルキル基であり、特にC5〜C20アルキル基である。R4は好ましくは、飽和している。R4は好ましくは、非環式である。R4は好ましくは、直鎖状である。
【0028】
5は好適には、非置換のC1〜C6アルキル基又はフェニル基、特にメチル基又はエチル基である。
【0029】
好ましい基Yは、好ましい基Xに対応する。基Yは好ましくは、酸素原子によってケイ素に結合している。
【0030】
好ましい基Y1は、非分枝鎖状のアルコキシ基、又は(アルコキシアルコキシ)基であり、特にメトキシ基、エトキシ基、又は(2−メトキシエトキシ)基である。
【0031】
Zは好適には、フルオロ置換基、クロロ置換基、ブロモ置換基、ヨード置換基であるか、又は酸素、硫黄、窒素、若しくはリンを介して結合された一価の基である。Zは好ましくは、
【化4】

ここでR11、R14、及びR15は、置換若しくは非置換のC1〜C20アルキル基、又はC6〜C20アリール基であり、R12及びR13は水素、又は置換若しくは非置換のC1〜C20アルキル基、又はC6〜C20アリール基であり、R11、R12、R13、R14、及びR15は、基Zの内部で相互に結合され、環を形成していてよい。
【0032】
先に(A)で挙げた実施態様を実現する場合、YH及び/又はYH2+のpKa値は、好ましくは部分的に又は完全に少なくとも0.5単位、特に少なくとも1.0単位、XH及び/又はXH2+のpKa値よりも小さく、ここでYH及び/又はYH2+のpKa値を、XH及び/又はXH2+のpKa値と比較するかどうか決めるに当たっては、前述の選択基準を考慮する。
【0033】
水捕捉剤(W)と、ポリマー(P)との物質量比については、(W)中のすべての加水分解性基Yの物質量の合計(=n(ΣY))と、(P)中のあらゆる加水分解性基Xの物質量の合計(=n(ΣX))との比を考慮する。この物質量比n(ΣY):n(ΣX)は、好ましくは少なくとも1:100、特に少なくとも1:10であり、最大で100:1、特に最大10:1である。この比と、絶対存在濃度、すなわちn(ΣY)/m(M)及び/又はn(ΣX)/m(M)が、架橋速度の2つのフェーズの特性を決める。この濃度n(ΣY)/m(M)が大きくなり、n(ΣY):n(ΣX)の比が小さくなればなるほど、その分だけ、その点以外は同等の条件下で、架橋速度の第一フェーズ(安定化フェーズ)は長くなり、またその逆も然りである。湿分架橋に対する混合物(M)の安定化の程度及び期間を、所望の通りに所定の条件で達成するため、どれくらいの水捕捉剤(W)を、その他の所定の混合成分に対して混合物(M)が含まなければならないかについては、当業者はそのための試験によって容易に見つけ出すことができる。混合物(M)は好ましくは、少なくとも0.01%、特に好ましくは少なくとも0.1%、特に少なくとも0.2%、好ましくは最大50%、特に好ましくは最大30%、特に最大20%、水捕捉剤(W)を含有する。
【0034】
この混合物(M)は、少なくとも1種のポリマー(P)に、水捕捉剤(W)を加えることによって製造できる。
【0035】
この方法は二回又は三回、ポリマー(P)に続いて水捕捉剤(W)という順序で繰り返すことができる。この混合物(M)は例えば、1軸式押出成形機、又は2軸式押出成形機(好ましくは連動式のもの)で、又は可動式ミキサーで、若しくはスタチックミキサーで、又は撹拌槽、若しくは衝撃式ミキサー、若しくは滞留槽で製造できる。混合体は好ましくは、ポリマー(P)の融点を超える温度で製造するが、混合物は例えば水捕捉剤(W)を固体のポリマー(P)に拡散させることにより製造することもできる。この混合物(M)は同様に、不均一に混合されたポリマー(P)、及び水捕捉剤(W)を含有することができ、これにより適用者が加工する際に完全混合が達成される;そこで例えば混合物(M)はポリマー(P)含有顆粒と、水捕捉剤(W)を含有する第二の顆粒とを含むことができる。水捕捉剤(W)はまた、ポリマー(P)の製造プロセスにおいて直接添加混合することもできる。
【0036】
混合物(M)は小分けすることができる。よって混合物(M)はそのまま、又はさらなる添加剤との混合体として、例えば溶融物として充填し、任意で冷却(これにより例えば、冷却後に硬化した溶融ブロックが得られる)、又は例えば機械により固体から顆粒化、粉砕、破断、切断、ローラ加工、プレス加工、押出成形、又は溶融物若しくは溶液から結晶化又は沈殿、ペレット化、又は液状若しくは半液状で液滴として、任意で担体材料上で冷却してペレットにする、又は液体若しくは固体の状態で溶剤の作用により溶解させる、又は例えば担体シート上に塗りつけることができ、これにより搬送形態、例えばストランド、ロッド、プレート、シート、ペレット、フレーク、顆粒、粉末、ブロック、溶液、又は溶融物として得られ、これらは任意ですぐに使える容器(例えばカートリッジ)に充填するか、又は繊維、シート、袋、又はバッグといった容器内に包装することができ、これらは好適には大気中の湿分の侵入から保護するものである。添加物としては例えば、触媒、乾燥剤、酸化防止剤、又は凝集防止剤を添加することができる。好ましくは、小分け、機械的な微粉砕、溶液への投入、成形、充填、貯蔵、発送、及び使用といった工程を、好適には水含分が1000ppm未満、特に100ppm未満の不活性ガス雰囲気下で行う。この不活性雰囲気は好ましくは、主に窒素又はアルゴンを含有する。この意味合いで不活性とは、水含分が少ないことである;不活性雰囲気は同時に窒素を含有することができ、ここで酸素含分は5体積%未満、特に1体積%未満であるのが好ましい。
【0037】
本発明の対象はまた、混合物(M)中のポリマー(P)を水で架橋させる方法である。この架橋は好ましくは、部分的に若しくは完全に、まず混合物(M)加工の際、又はその加工後に行う。
【0038】
少なくとも1種のポリマー(P)を含有する混合物(M)中のポリマー(P)を湿分架橋すると、架橋されたポリマー(PV)ができる。(PV)が形成する他に、(PV)のさらなる縮合生成物が生じることがあり、中間段階を飛び越えることもある。
【0039】
速度全体の第一フェーズでは水捕捉剤(W)が、侵入してくる水と主に反応して、場合により縮合副生成物を脱離しながら、加水分解された水捕捉剤(WH)、湿分架橋された水捕捉剤(WV)、又はこれに対応する、ポリマー(P)との縮合生成物([(P)(W)]、[(P)(WH)]、若しくは[(P)(WV)]と呼ぶ)、又はこれらの化合物の混合物を形成する。本発明の意味合いにおいて「主に」とは、シラン(W)で安定化された、ポリマー(P)含有混合物(M)が、(P)の湿分架橋生成物((PV)と呼ぶ)を、水捕捉剤(W)が無い点以外では同一の系よりもゆっくりと形成することを意味する。架橋速度の第一フェーズの間には、ポリマー(P)の加水分解生成物(PH)が形成されることがあり、これはまた水捕捉剤(W)との、又は水捕捉剤の加水分解生成物(WH)との、又は水捕捉剤の縮合生成物(WV)との縮合生成物を形成可能なものである(これらは[(PH)(W)]、[(PH)(WH)]、若しくは[(PH)(WV)]と呼ぶ)。しかしながら湿分架橋速度の第二フェーズの間には、水捕捉剤(W)(これはこの間、水捕捉剤(W)として、又は加水分解された形で(WH)、又は架橋された形で(WV)、又は縮合物として([(P)(W)]、[(P)(WH)]、[(P)(WV)]、[(PH)(W)]、[(PH)(WH)]、若しくは[(PH)(WV)])、又はこれらの混合物として存在しうる)は、最初に水捕捉剤(W)を添加しなかった点以外では同一の系よりも速く水と反応する。架橋速度の第二フェーズの間には著しい量で、湿分架橋されたポリマー(PV)、又は水捕捉剤(W)との、若しくは水捕捉剤(W)の加水分解生成物(WH)との、若しくは水捕捉剤(W)の縮合生成物(WV)との縮合生成物が形成され、これらは[(PV)(W)]、[(PV)(WH)]、又は[(PV)(WV)]と呼ぶ。水捕捉剤(W)はまた当初から、部分的に若しくは完全に加水分解された割合(WH)、又は部分的に若しくは完全に縮合された割合(WV)を含有することができるか、又は当初から、ポリマー(P)との縮合物として、又は部分的に若しくは完全に加水分解されたポリマー(PH)を含有することができる。すなわち水捕捉剤は、[(P)(W)]、[(P)(WH)]、[(P)(WV)]、[(PH)(W)]、[(PH)(WH)]、又は[(PH)(WV)]の形で存在しうる。同様にポリマー(P)はまた当初から、部分的に又は完全に加水分解された割合(PH)を含有することができる。
【0040】
ここに記載した2フェーズの架橋速度により、このように安定化された混合物(M)を、第一フェーズでは湿分に触れながら、例えば大気中の空気条件下で加工することができ、この際に湿分の影響によって加工が阻害されることはない。その加工後(これには通常、例えば管又は絶縁ケーブルへの成形、又は中実成形体への成形、又は接着箇所の製造、若しくは接着された構造が含まれる)には、可能な限り迅速な架橋が望ましい。このことはまさに、本発明により安定化された混合物(M)により可能になる。慣用の(本発明によらない)水捕捉剤は、系の湿分架橋速度を、全時間にわたって、すなわち両方のフェーズの間、抑制してしまう。第一フェーズの間にはこのことが望まれているのだが、本発明によらない水捕捉剤は通常、架橋の第一フェーズ速度を、水捕捉剤(W)が行うほど効果的には抑制しない。しかしながら本発明によらない水捕捉剤の主な欠点は、本発明によらない水捕捉剤が第二フェーズの間にも(つまり、迅速な架橋が適切に望まれている場合にも)、湿分架橋性ポリマー(P)の架橋速度がさらに抑制されることである。一方、これに対して水捕捉剤(W)はこの第二フェーズで架橋剤として作用する。つまり意想外にも、当業者によりこれらの化合物に当初から期待されていた効果、すなわち加工の間には予備架橋が抑制され、かつその後に所望の場合には迅速な架橋が可能になるという効果が初めて発揮されたのである。
【0041】
架橋に必要な水は、蒸気として、及び/又は液状の水として使用することができ、又は空気中の湿分により調達できる。架橋は好ましくは少なくとも0℃、特に好ましくは少なくとも5℃、特に少なくとも10℃、特に好ましくは少なくとも15℃、好ましくは最大300℃、特に好ましくは最大200℃、特に最大170℃、特に好ましくは最大140℃で行うことができる。架橋は少なくとも0bar、特に好ましくは少なくとも0.5bar、特に少なくとも0.9bar、好ましくは最大5000bar、特に好ましくは最大20bar、特に最大10bar、特に好ましくは大気圧で行うことができる。架橋は好適には、混合物(M)の加工の際、又はその加工後に開始する。この架橋法は、1種又は数種の触媒の存在下で行うことができる。これらの触媒は、混合物(M)中のポリマー(P)の湿分架橋に対して促進作用をもたらすことができる。これは触媒が、ポリマー(P)中に含まれる加水分解性シラン基の加水分解(水の作用下で)、及び/又はそのシロキサンへの縮合を触媒することによる。触媒は同様に、水捕捉剤(W)にも影響を与えることができる。
【0042】
ポリマー(P)を少なくとも1種含有する少なくとも1種の混合物(M)は、ここで例えば触媒、又は触媒のマスターバッチ(すなわち触媒と、適切な同種若しくは異種のポリマーとの混合物)を用いて、好ましくは溶融物中で混合し、好適には押出成形機中で混合する。
【0043】
混合物(M)は好適には、ポリマー(P)100質量部あたり少なくとも0.1質量部、特に少なくとも0.2質量部、好適には最大5質量部、特に最大20質量部、触媒を含有する。
【0044】
好適には完成した混合物(M)は、少なくとも0.0001質量%、好適には少なくとも0.001質量%、特に好適には少なくとも0.01質量%、好適には最大5質量%、好適には最大1質量%、特に好適には最大0.2質量%、触媒を含有する。
【0045】
触媒としては例えば、有機スズ化合物、例えばジラウリン酸ジブチルスズ、ジラウリン酸ジオクチルスズ、ジブチルスズ酸化合物、ジオクチルスズ酸化物、スズ塩、例えばスズ(II)イソオクタノエート、チタン化合物、例えばチタン(IV)イソプロピレ−ト、アザ化合物、例えば1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカー7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、塩基、例えば有機アミン、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、エチレンジアミン、又は無機酸若しくは有機酸、例えばトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、若しくはミリスチン酸が使用できる。混合物(M)中のポリマー(P)の架橋は特に好適には、スズ又はスズ化合物を添加せずに行う。スズの含有率は特に、混合物(M)中の元素(Sn)について、Sn<30ppm、特に好適にはSn<5ppmである。
【0046】
触媒がその都度意図されている適用においてそもそも必要なのか、またどれくらいの量が必要なのかは、当業者がそのための試験によって自ら容易に確かめることができる。
【0047】
混合物(M)は反応性溶融接着剤として、被覆又は様々な基材の接着を製造するため、成形体を製造するため、又は長く引き延ばした物品(例えば絶縁ケーブル、被覆ケーブル、又は管)を製造するために使用できる。
【0048】
混合物(M)は好適には、相応する水捕捉剤(W)を有さない同様の系を加工可能な手法と同じように加工することができ、ここで本発明による混合物は、不所望の予備架橋に対して安定性が向上していることにより、その加工の際に利点を有し、またその加工後の迅速な架橋により、目的生成物を架橋する際に方法的な利点を有する。
【0049】
上記式の全ての上記記号は、それぞれ相互に無関係に上記意味を有する。特に記載しない限り、%についての上記記載は質量パーセントであり、圧力についての上記記載は、絶対圧力である。全ての式中でケイ素原子は四価である。特に記載しない限り、後述の実施例における反応(架橋反応も含む)は、大気圧(約1bar)で行った。
【0050】
実施例
シラン合成−水捕捉剤(W)の製造
実施例1.(カプリラトメチル)トリメトキシシランの合成
【化5】

【0051】
テトラブチルホスホニウムブロミド(Fluka社製)14.78g(43.6mmol)を、(クロロメチル)トリメトキシシラン(Wacker Chemie AG社製)372.1g(2.18mol)に入れた溶液に、カプリル酸ナトリウム([=n−C715−C(O)Na]、Fluka社製)181.1g(1.09mol)を加え、このバッチを2.5時間の間、130℃で撹拌した。それからさらにカプリル酸ナトリウム181.1g(1.09mol)を添加し、さらに3.5時間、130℃で撹拌した。このバッチを室温に冷却、濾過し、そのフィルターケーキをキシレン(異性体混合物)150mLで三回、後洗浄し、濾液及び洗浄溶液を一つにまとめ、真空中で蒸留した。生成物を収率71%(431.3g、1.55mmol)で、透明な無色の液体として得た(沸点115℃/2.5mbar)。
【0052】
ポリマー(P)、混合物(M)、及び架橋特性の製造
以下で記載する「部」は、すべて「質量部」のことである。
【0053】
試験のためには、以下のシランを用いた:
シランA:ビニルトリメトキシシラン(GENIOSIL(登録商標)XL 10、Wacker Chemie AG、ドイツ)
シランB:実施例1から得られる(カプリラトメチル)トリメトキシシラン
シランC:ヘキサデシルトリメトキシシラン(シラン25013 VP、Wacker Chemie AG、ドイツ)。
【0054】
実施例2a〜b:実験室用押出成形機を用いた、ポリマーへのシラングラフト、ポリマー(P)の製造、及び本発明による混合物(M)の製造
グラフト反応は、同期して回転する二軸式押出成形機(Berstorff社製、ZE 25型)で、L/D比47、スクリュー直径25mmで行った。この押出成形機は、以下のパラメータで稼働させた:温度プロフィール(℃):
130/130/150/190/210/215/215/210/210(ヘッド温度);処理量約10kg/h;回転数200回転/分。
【0055】
使用した中密度のポリエチレン(MDPE、Medium Density Polyethylene)は、溶融指数が3.5g/10分(2.16kg/190℃)、密度は944kg/m3、VICAT軟化点は約123℃と特定されている。
【0056】
実施例2aでは、シランA、シランB、及び過酸化物を1.00:1.87:0.10の質量比で混合;実施例2bではシランAと過酸化物を1.00:0.10の比で混合;それぞれの混合物は、第三の加熱ゾーンに150℃で、Viscotec 社製の供給ポンプでポリマー溶融物中に供給した。
【0057】
この試験のためには、過酸化物としてジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP、Merck社)を用いた。
【0058】
実施したシラングラフトは、以下の表1にまとめてある。
【表1】

【0059】
得られたグラフトポリマーをペレット化し、窒素下で湿分遮断下、保管した。
【0060】
このグラフトポリマーは、以下の構造単位を有していた:
【化6】

【0061】
これはポリマー(P)の定義に対応するものであり、ここで前記構造単位中、単位Pol−は、使用した中密度のポリエチレンの基を表し、ここでbは主に1〜4の範囲、特に2であった。
【0062】
実施例2aから得られる生成物はさらに、n−C715−C(O)−CH2−Si(OMe)3の構造を有する(カプリラトメチル)トリメトキシシランを含有していた。これは、水捕捉剤(W)の定義に対応するものである。
【0063】
よって実施例2aから製造された生成物は、実施態様(B)における本発明による混合物(M)に対応する。
【0064】
実施例3:触媒マスターバッチの製造
触媒マスターバッチの製造は、同期して回転する二軸式押出成形機(Berstorff社製、ZE 25型)で、L/D比47、スクリュー直径25mmで行った。この押出成形機は、以下のパラメータで稼働させた:温度プロフィール(℃):
130/130/150/190/210/215/215/210/210(ヘッド温度);処理量約10kg/h;回転数200回転/分。
【0065】
担体材料としては中密度のポリエチレン(MDPE)を使用し、これは溶融指数が3.5g/10分(2.16kg/190℃)、密度は944kg/m3、VICAT軟化点は約123℃と特定されている。
【0066】
このポリエチレンを、触媒と事前に混合した。この混合物を、計量供給機(Brabender社製)によって、二軸押出機の投入範囲に供給した。
【0067】
触媒マスターバッチの製造には、以下の触媒を使用した:
触媒A:ジラウリン酸ジオクチルスズ(DOTL)、Wacker Chemie AG社製、ドイツ。
【0068】
混合比は以下のように調整した:
MDPE:98.8部
触媒A:1.2部。
【0069】
得られた触媒マスターバッチをペレット化し、窒素下で湿分遮断下、保管した。
【0070】
実施例4a〜b:架橋用試料体の製造
実施例2a〜bで製造したグラフトポリマーを、実施例3で製造した触媒マスターバッチと、以下の表2に記載のように混合した。
【表2】

【0071】
実施例5a〜b:架橋特性
実施例4a〜bに記載の混合物を、計量器付き一軸押出成形機(Goettfert社製)で、L/D比20、スクリュー直径30mm、有孔ノズル(直径5mm)を通して押出成形し、試料ロッドにした。
【0072】
押出成形機は、以下のパラメータで稼働させた:
温度プロフィール(℃):180/190/195/200(ヘッド温度);回転数25回転/分;充填度100%。
【0073】
実施例4a〜bで製造した試料ロッドを、それぞれ約5cmの長さの試料に切断し、水浴中でそれぞれ0.5h、1h、4h、24h、90℃で貯蔵した。さらにそれぞれの試料体を室温に冷却直後、水中での貯蔵無しでさらに加工した;これらの試料を「0h」とし、これらは押出機での加工直後の生成物の状態を示すものである。
【0074】
水中貯蔵と機械による乾燥後(「0h」の試料は除外:すなわち、冷却後には水中貯蔵も乾燥も無し)、旋盤を用いて試料体から0.7mmの厚さでチップを削り取った。このチップを、DIN EN 579に従って、沸騰させたキシレン中で8時間抽出した。ゲル含分は、抽出前の試料と、抽出後の試料との秤量差によって測定した。この結果が、以下の表3にまとめてある。
【表3】

【0075】
実施例5aについては、0〜0.5時間というスパンが、架橋速度の第一フェーズを表したものであり(安定化相、抑制された架橋、水捕捉剤(W)が、侵入してくる水と反応);0.5〜24時間というスパンが、架橋の第二フェーズを表している(迅速な架橋、ポリマー(P)が架橋)。
【0076】
実施例6:バッチでのポリマーへのシラングラフト、ポリマー(P)の製造
高分岐ポリエチレン(Epolene(登録商標)C-10、Westlake Chemical社製、米国テキサス州、ヒューストン在)1100gを、180℃で溶融させた。この温度で、撹拌された溶融物に30分以内に、シランA96.3g(649.3mmol)と、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン1.65g(5.68mmol)とから得られる混合物を供給した。この混合物を、供給時間終了からさらに20分後に180℃で撹拌し、それから揮発性成分を180℃で真空中で除去し、生成物を室温に冷却した。無色の固体が得られた。ICP(誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma)、分析すべき元素はSi)によるコントロールによれば、グラフト生成物中のケイ素含分は1.15%であった。これはグラフトされたビニルトリメトキシシラン(シランAでグラフト)含分の6.06%(409mmol/kg)に相当する。
【0077】
このグラフトポリマーは、以下の構造単位を有していた:
【化7】

【0078】
これはポリマー(P)の定義に対応し、ここで前記構造単位中、単位Pol−は、使用した高分岐ポリエチレンの基を表し、ここでbは主に1〜6の範囲、特に3であった。
【0079】
実施例7:本発明による混合物(M)の製造、及び架橋用試料体の製造
実施例6からの生成物を溶融させ、3つに分けて表4に記載の混合比で、シランB及び/又はシランC及び/又は触媒Aと混合した。
【表4】

【0080】
実施例7aは、水捕捉剤を含まないため、本発明による混合物(M)ではない。実施例7cによる混合物は、本発明によるものではない。ポリマー結合された加水分解性シラン基からの組み合わせの選択、及び水捕捉剤のシラン基からの組み合わせの選択は、前記式I及びIIの構造単位について本発明による組み合わせの可能性である(A)、(B)、(C)、又は(D)の可能性を満たさないからである。
【0081】
実施例8a〜c:架橋特性
実施例7a〜cから得られる混合物は、保護ガス(アルゴン)下で室温に冷却し、これにより当該混合物は硬化した。穿孔機を用いてチップを取り出し、0.5h、1h、4h、及び24h、水浴中で90℃で貯蔵した。さらにそれぞれの試料体を室温に冷却直後、水中での貯蔵無しでさらに加工した;これらの試料を「0h」とし、これらは混合物(M)の製造直後の生成物の状態を示すものである。
【0082】
水中貯蔵と機械による乾燥後(「0h」の試料は除外:すなわち、冷却後には水中貯蔵も乾燥も無し)、チップをDIN EN 57に従って、沸騰しているキシレン中で4時間抽出した。ゲル含分は、抽出前の試料と、抽出後の試料との秤量差によって測定した。この結果が、以下の表5にまとめてある。
【表5】

【0083】
実施例8bについては、0〜0.5時間というスパンが、架橋速度の第一フェーズを表したものであり(安定化相、抑制された架橋、水捕捉剤(W)が、侵入してくる水と反応);0.5〜4時間というスパンが、架橋の第二フェーズを表している(迅速な架橋、ポリマー(P)が架橋)。この実施例により、本発明による混合物(M)(実施例7bによるもの)が、所望の2フェーズの架橋速度を示すこと、すなわち、第一フェーズでは、水捕捉剤の無い同じ系(=実施例7aから得られる本発明によらない混合物)と比較して、測定可能な架橋が無いのに対して、第二フェーズでは抑制されることなく、迅速な架橋が起こることがわかる。これに対して、水捕捉剤の反応性レベルを段階付けした水捕捉剤は、水に対するポリマー(P)の反応性(実施例7c参照:本発明によらないもの、条件(A)、(B)、(C)、又は(D)を満たしていない)に比べて、水捕捉剤というよりは、むしろ架橋剤として作用している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたポリマー(PV)へと湿分架橋可能なポリマー(P)と、
水捕捉剤として、加水分解性の基を少なくとも1つ有するシラン(W)と、
を含有する安定化された混合物(M)であって、
前記ポリマー(P)が、ポリマー主鎖の2つの末端に相当しない少なくとも1箇所に、加水分解性のシラン基を有し、
前記水捕捉剤が、25℃、1barで湿分架橋性ポリマー(P)よりも早く水と反応する、
前記混合物(M)。
【請求項2】
架橋されたポリマー(PV)へと湿分架橋可能なポリマー(P)と、
水捕捉剤として、加水分解性の基を少なくとも1つ有するシラン(W)と、
を含有する安定化された混合物(M)であって、
前記ポリマー(P)が、ポリマー主鎖の2つの末端に相当しない少なくとも1箇所に、加水分解性のシラン基を有し、
前記水捕捉剤が、90℃、1barで湿分架橋性ポリマー(P)よりも早く水と反応する、
前記混合物(M)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の安定化された混合物(M)であって、
前記ポリマー(P)が下記一般式(I)
【化1】

の構造単位を少なくとも1つ、ポリマー主鎖の2つの末端に相当しない少なくとも1箇所に有し、
前記式中、
Pol−は、数平均モル質量Mnが少なくとも500g/molのポリマー基であり、
1は、非置換の、又は1つ若しくは複数の置換基Qによって置換されたC1〜C18アルキル基、又はC6〜C10アリール基、若しくはSi1〜Si20シロキシ基であるか、又は加水分解性の基を1つ、2つ、3つ、又は4つ有するシランの縮合されたシラン加水分解体であり、
2は、非置換の、又は1つ若しくは複数の置換基Qによって置換された、炭素原子を1〜20個有する二価の炭化水素基であるか(当該炭化水素基は、1〜3個のヘテロ原子によって中断されていてよい)、又はSi原子を1〜20個有するシロキサン基であり(このシロキサン基中でSi原子は同様に基R1又はXを有していてよい)、
Qは、フルオロ置換基、クロロ置換基、ブロモ置換基、ヨード置換基、シアナト置換基、イソシアナト置換基、シアノ置換基、ニトロ置換基、ニトラト置換基、ニトリト置換基、シリル置換基、シリルアルキル置換基、シリルアリール置換基、シロキシ置換基、シロキサンオキシ置換基、シロキシアルキル置換基、シロキサンオキシアルキル置換基、シロキシアリール置換基、シロキサンオキシアリール置換基、オキソ置換基、ヒドロキシ置換基、エポキシ置換基、アルコキシ置換基、アリールオキシ置換基、アシルオキシ置換基、S−スルホナト置換基、O−スルホナト置換基、スルファト置換基、S−スルフィナト置換基、O−スルフィナト置換基、アミノ置換基、アルキルアミノ置換基、アリールアミノ置換基、ジアルキルアミノ置換基、ジアリールアミノ置換基、アリールアルキルアミノ置換基、アシルアミノ置換基、イミド置換基、スルホンアミド置換基、イミノ置換基、メルカプト置換基、アルキルチオ置換基、又はアリールチオ置換基、O−アルキル−N−カルバマト、O−アリール−N−カルバマト、N−アルキル−O−カルバマト、N−アリール−O−カルバマト、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたP−ホスホナト置換基、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたO−ホスホナト置換基、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたP−ホスフィナト置換基、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたO−ホスフィナト置換基、非置換の、又はアルキル若しくはアリール置換されたホスフィノ置換基、ヒドロキシカルボニル置換基、アルコキシカルボニル置換基、アリールオキシカルボニル置換基、環式若しくは非環式のカルボナト置換基、アルキルカルボナト置換基、又はアリールカルボナト置換基であり、
Pの値は0又は1であり、
aの値は1、2、又は3であり、
bの値は1以上の整数であり、
Xは加水分解性の基であり、
ここで複数の基又は残基が式I中で相互に結合して、1つ又は複数の環を形成していてもよい、前記混合物(M)。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の安定化された混合物(M)であって、
前記ポリマー(P)の全質量について前記ポリマー(P)が、すべての基の質量についてシラン基
−[(R2p−SiR13-aab
を、前記ポリマー(P)の全質量に対して少なくとも0.01%含有する、前記混合物(M)。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の安定化された混合物(M)であって、
前記水捕捉剤のシラン(W)が、一般式II
【化2】

に相当し、
前記式中、
3は、前記R1又は前記Xと同じ意味であり、
qの値は、0、1、2、又は3であり、
cの値は、1、2、3、又は4であり、
Yは、加水分解性の基であり、
Zは、ヘテロ原子によってCH2基に結合された、ヘテロ原子含有基であり、
q+cの値は、1、2、3、又は4であり、
ここで複数の基又は残基が式II中で相互に結合して、1つ又は複数の環を形成していてもよい、前記混合物(M)。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の安定化された混合物(M)であって、
(A)X及びYを、共役してY-になるブレンステッド酸YHのpKa値が、共役してX-になるブレンステッド酸XHのpKa値よりも小さくなるように選択し、
ここでY-は一般式IIの構造単位のSi原子上にある脱離基であり、X-は一般式Iの構造単位のSi原子上にある脱離基であり、
ここで、X及び/又はYがSi結合されたアミノ官能基である場合には、次の次に共役してX-及び/又はY-になる酸のpKa値、すなわちXH2+及び/又はYH2+のpKa値が、pKa値比較のために考慮され、つまりXHのpKa値は、XもYもアミノ基でない場合に、YHのpKa値と比較し;XHのpKa値は、Yがアミノ基であり、かつXがアミノ基でない場合に、YH2+のpKa値と比較し;XH2+のpKa値は、Yがアミノ基ではなく、Xがアミノ基である場合に、YHのpKa値と比較し;XH2+のpKa値は、Yがアミノ基であり、Xがアミノ基である場合に、YH2+のpKa値と比較し、又は
(B)qは一般式II中で、1、2、若しくは3から選択され、又は
(C)X及びYは、XH及びYHがアルコールであるように選択し、ここでXHはアルコール性ヒドロキシ基の周辺で、YHよりも立体的に要求の高い障害性アルコールであり、ここで置換基の立体的な要求は、アルコール性ヒドロキシ官能基について、小さいものから順に以下のように:
メチル<エチル<n−プロピル<n−ブチル<C5〜C20n−アルキル<イソ−ブチル<イソ−プロピル<s−ブチル<C5〜C20s−アルキル<t−ブチル<t−ペンチル≒C6〜C20t−アルキル
整理され、又は
(D)一般式II中でcの値が、一般式I中のaの値よりも大きいように選択されている、前記混合物(M)。
【請求項7】
有機スズ化合物、チタン化合物、アザ化合物、塩基、又は無機酸若しくは有機酸から選択される触媒を少なくとも1種含有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の安定化された混合物(M)。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の混合物(M)中のポリマー(P)を、水で架橋させるための方法。
【請求項9】
以下の式III
【化3】

[式中、
4は、飽和、又は一価若しくは多価不飽和で非置換の、非環式、単環式、又は二環式のC3〜C40アルキル基、又はC7〜C40アリール基、又はC7〜C40アリールアルキル基、又はC7〜C40アルキルアリール基であり、これらの基は炭素原子と水素原子とのみから成っており、
1は、置換又は非置換のC1〜C20アルコキシ基であり、
5は、非置換のC1〜C40炭化水素基であり、
cは、請求項5で定義した通りである]
のシラン。

【公表番号】特表2013−508488(P2013−508488A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534619(P2012−534619)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065082
【国際公開番号】WO2011/047972
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】