説明

2次電池型燃料電池システム

【課題】省エネルギーでシステムのトータル効率の向上を図ることができる2次電池型燃料電池システムを提供する。
【解決手段】化学反応により燃料を発生し、前記化学反応の逆反応により再生可能な燃料発生材6と、燃料発生材6から供給される燃料を用いて発電を行う燃料電池部1とを備える2次電池型燃料電池システムであって、システムの発電時に発生する熱量を潜熱を利用して蓄熱し、蓄熱した熱量をシステムの充電時に放出する潜熱蓄熱材13を備える2次電池型燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電動作だけでなく充電動作も行える2次電池型燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素から水を生成した際に電気を取り出す燃料電池の開発が近年盛んに行われている。燃料電池は、原理的には二酸化炭素を排出しないため、クリーンなエネルギー源として注目を浴びているだけでなく、原理的に取り出せる電力エネルギーの効率が高いため、省エネルギーになり、さらに、発電時に発生する熱を回収することにより、熱エネルギーをも利用することができるといった特徴を有しており、地球規模でのエネルギーや環境問題解決の切り札として期待されている。
【0003】
このような燃料電池は、例えば、固体ポリマーイオン交換膜を用いた固体高分子電解質膜、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用いた固体酸化物電解質膜等を燃料極(アノード)と酸化剤極(カソード)とで両側から挟み込んだものを1つのセル構成としている。そして、このような構成のセルには、燃料極に燃料ガス(例えば水素ガス)を供給する燃料ガス流路と、酸化剤極に酸化剤ガス(例えば酸素や空気)を供給する酸化剤ガス流路とが設けられ、これらの流路を介して燃料ガス、酸化剤ガスがそれぞれ燃料極、酸化剤極に供給されることにより発電が行われる。
【0004】
燃料電池の利用形態は様々であるが、その一つにEV(electric vehicle)に搭載され、EVの動力源として利用される形態がある。このような利用形態では、EVが移動体であるため、燃料電池を、外部から燃料が供給されるタイプではなく、再生可能な燃料発生装置を附属するタイプ(2次電池型)にする必要がある。
【0005】
再生可能な燃料発生装置としては、化学反応により水素を含む燃料を発生し、前記化学反応の逆反応により再生可能な燃料発生装置が挙げられる。そして、化学反応により水素を含む燃料を発生し、前記化学反応の逆反応により再生可能な燃料発生装置としては、例えば基材料(主成分)が鉄であって、水との酸化反応により水素を発生し水素との還元反応により再生可能な水素発生装置が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−186097号公報
【特許文献2】特開2004−247096号公報
【特許文献3】特開2006−185657号公報
【特許文献4】特開2007−273251号公報
【特許文献5】特開2009−94062号公報
【特許文献6】特開2009−140786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池装置と、基材料(主成分)が鉄である水素発生装置とを備える2次電池型燃料電池システムの課題を具体的に説明するために、まず、化学反応におけるエネルギーのやり取りについて説明する。
【0008】
ある化学反応が起こる際、その反応前後の化学的エネルギー(エンタルピ)の差ΔHのエネルギーが放出もしくは吸収される。なお、ΔH<0の場合は余ったエネルギーが放出され、ΔH>0の場合は外部からエネルギーを取り込むことを意味し、通常これらのエネルギーは熱エネルギーとしてやり取りされるため、ΔH<0であれば発熱反応、ΔH>0であれば吸熱反応となる。
【0009】
一方、エンタルピ変化ΔHはギブスの自由エネルギー変化ΔGとエントロピ変化ΔSと絶対温度Tとを用いて、下記の(1)式のように表すことができる。
ΔH=ΔG+TΔS …(1)
【0010】
ΔG<0の場合は、ΔGの絶対値分のエネルギーを電気エネルギー等の仕事として取り出すことができる。これに対して、TΔSは仕事として取り出すことができないエネルギーであり、TΔS<0の場合は発熱し、TΔS>0の場合は吸熱して、熱エネルギーのやり取りが起こる。
【0011】
燃料電池装置と、基材料(主成分)が鉄である水素発生装置とを備える2次電池型燃料電池システムでは、燃料電池装置として、例えば、図1に示す通り、O2−を透過する固体電解質101を挟み、両側にそれぞれ酸化剤極102と燃料極103が形成されているMEA(Membrane Electrode Assembly;膜・電極接合体)構造をなす固体酸化物燃料電池を用いることができる。固体酸化物燃料電池では、発電動作時に、燃料極103において下記の(2)式の反応が起こる。
+O2−→HO+2e …(2)
【0012】
上記の(2)式の反応によって生成された電子は、外部負荷104を通って、酸化剤極102に到達し、酸化剤極102において下記の(3)式の反応が起こる。
1/2O+2e→O2− …(3)
【0013】
そして、上記の(3)式の反応によって生成された酸素イオンは、固体電解質101を通って、燃料極103に到達する。上記の一連の反応を繰り返すことにより、固体酸化物燃料電池が発電動作を行うことになる。また、上記の(2)式から分かるように、発電動作時には、燃料極103側においてHが消費されHOが生成されることになる。
【0014】
上記の(2)式及び(3)式より、発電動作時における固体酸化物燃料電池での反応は下記の(4)式の通りになる。下記の(4)式において、例えば600℃ではΔG=−199.7kJ/mol、TΔS=−47.2kJ/molである。したがって、600℃での固体酸化物燃料電池自体の理論発電効率(ΔG/(ΔG+TΔS))は0.81となる。
+1/2O→HO …(4)
【0015】
一方、基材料(主成分)が鉄である水素発生装置は、下記の(5)式に示す酸化反応により、発電動作時に燃料電池装置の燃料極103側で生成されたHOを消費してHを生成することができる。下記の(5)式に示す酸化反応でのエンタルピ変化ΔHは負であり、下記の(5)式に示す酸化反応が起こったときの放出エネルギーΔhFeは、例えば600℃では水素1molあたり25.6kJである。
3Fe+4HO→Fe+4H …(5)
【0016】
また、システムの充電動作時には、外部電源105から電力が供給される燃料電池装置では、上記の(4)式の逆反応である下記の(6)式に示す電気分解反応が起こり、燃料極103側においてHOが消費されHが生成され、基材料(主成分)が鉄である水素発生装置では、上記の(5)式に示す酸化反応の逆反応である下記(7)式に示す還元反応が起こり、燃料電池装置の燃料極103側で生成されたHが消費されHOが生成される。下記の(6)式において、例えば600℃ではΔG=199.7kJ/mol、TΔS=47.2kJ/molである。また、下記の(7)式に示す還元反応が起こったときの吸収エネルギーΔhFeは、例えば600℃では水素1molあたり25.6kJである。
O→H+1/2O …(6)
Fe+4H→3Fe+4HO …(7)
【0017】
上記の通り、システムの発電動作時には燃料電池装置、水素発生装置の双方で発熱反応が起こり、システムの充電動作時には燃料電池装置、水素発生装置の双方で吸熱反応が起こる。
【0018】
ここで、システムの発電動作時は過昇温による部材の劣化や損傷を防止するために、燃料電池装置及び水素発生装置で発生した熱エネルギーを放熱する必要がある。これは元々燃料電池装置及び水素発生装置がそれぞれ持っていた化学エネルギーを無駄に熱エネルギーとして外部に放出していることになるので、システムの発電効率が低下する。
【0019】
また、システムの充電動作時は、吸熱反応によって燃料電池装置、水素発生装置の双方で温度が低下するため、反応可能な温度を維持するためには外部からエネルギーを投入して加熱し続ける必要がある。
【0020】
尚、特許文献1〜5に開示されている燃料電池は、高温化の抑制、温度安定化、コジェネレーションにおける蓄熱量増大を目的としており、再生可能な燃料発生装置を備えていないため、充電動作時における吸熱反応に対応するものではない。また、特許文献6に開示されている組電池もまた、再生可能な燃料発生装置を備えておらず、充電動作時における吸熱反応に対応するものではない。
【0021】
本発明は、上記の状況に鑑み、省エネルギーでシステムのトータル効率の向上を図ることができる2次電池型燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために本発明に係る2次電池型燃料電池システムは、化学反応により燃料を発生し、前記化学反応の逆反応により再生可能な燃料発生材と、前記燃料発生材から供給される燃料を用いて発電を行う燃料電池部とを備える2次電池型燃料電池システムであって、システムの発電時に発生する熱量を潜熱を利用して蓄熱し、蓄熱した熱量をシステムの充電時に放出する潜熱蓄熱材を備える構成(第1の構成)とする。
【0023】
このような構成によると、発電時に発生する熱を潜熱蓄熱材で蓄えて充電時に再利用しているので、省エネルギーでシステムのトータル効率を向上させることができる。
【0024】
また、上記第1の構成の2次電池型燃料電池システムにおいて、前記燃料発生材及び前記燃料電池部の少なくとも一つを収納する断熱容器を少なくとも一つ備える構成(第2の構成)とすることが好ましい。
【0025】
このような構成によると、燃料発生材や燃料電池部から外部への放熱によって潜熱蓄熱材で蓄えられる熱量が減少することを抑えることができる。
【0026】
また、上記第2の構成の2次電池型燃料電池システムにおいて、前記燃料発生材と前記燃料電池部とが別々の断熱容器に収容され、前記燃料発生材が収容される断熱容器及び前記燃料電池部が収容される断熱容器それぞれに前記潜熱蓄熱材が収納されている構成(第3の構成)とすることが好ましい。
【0027】
このような構成によると、燃料発生部材と燃料電池部とをそれぞれ最適な温度で管理することが可能となるので、システムのトータル効率をより一層向上させることができる。
【0028】
また、上記第3の構成の2次電池型燃料電池システムにおいて、前記燃料発生材が収容される断熱容器内の前記潜熱蓄熱材の融点は、前記燃料電池部が収容される断熱容器内の前記潜熱蓄熱材の融点よりも低い構成とすることが好ましい。
【0029】
このような構成によると、燃料発生部材を収容する断熱容器の内外温度差が小さくなるので、燃料発生部材を収容する断熱容器の断熱性能も上げやすくなる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る2次電池型燃料電池システムによると、発電時に発生する熱を潜熱蓄熱材で蓄えて充電時に再利用しているので、省エネルギーでシステムのトータル効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】固体酸化物型燃料電池の概略構成例を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの全体構成を示す図である。
【図3】熱の収支を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの動作例を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの全体構成を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの全体構成を示す図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。なお、本発明は、後述する実施形態に限られない。
【0033】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの全体構成を図2に示す。本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムは、燃料電池部1を備えている。燃料電池部1は、電解質膜2の両面に燃料極3と酸化剤極である空気極4を接合したMEA構造である。なお、図2では、MEAを1つだけ設けた構造を図示しているが、MEAを複数設けたり、さらに複数のMEAを積層構造にしたりしてもよい。また、本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムは燃料電池部収容容器5を備えており、燃料電池部1は燃料電池部収容容器5に収容されている。
【0034】
電解質膜2の材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用いた固体酸化物電解質を用いることができ、また例えば、ナフィオン(デュポン社の商標)、カチオン導電性ポリマー、アニオン導電性ポリマー等の固体高分子電解質を用いることができるが、これらに限定されることなく、水素イオンを通すものや酸素イオンを通すもの、また、水酸化物イオンを通すもの等、燃料電池の電解質としての特性を満たすものであればよい。なお、本実施形態においては、電解質膜2として、酸素イオン又は水酸化物イオンを通す電解質、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用いた固体酸化物電解質を用い、発電時に燃料極3側に水を発生させるようにしている。この場合、発電時に燃料極3側に発生した水を用いた化学反応によって水素発生部材6(後述)から水素を発生させることができる。
【0035】
電解質膜2は、固体酸化物電解質の場合であれば、電気化学蒸着法(CVD−EVD法;Chemical Vapor Deposition -Electrochemical Vapor Deposition)等を用いて形成することができ、固体高分子電解質の場合であれば、塗布法等を用いて形成することができる。
【0036】
燃料極3、空気極4はそれぞれ、例えば、電解質膜2に接する触媒層と、その触媒層に積層された拡散電極とからなる構成にすることができる。触媒層としては、例えば白金黒或いは白金合金をカーボンブラックに担持させたもの等を用いることができる。また、燃料極3の拡散電極の材料としては、例えばカーボンペーパ、Ni−Fe系サーメットやNi−YSZ系サーメット等を用いることができる。また、空気極4の拡散電極の材料としては、例えばカーボンペーパ、La−Mn−O系化合物やLa−Co−Ce系化合物等を用いることができる。
【0037】
燃料極3、空気極4はそれぞれ、例えば蒸着法等を用いて形成することができる。
【0038】
本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムは、化学反応により還元性物質(燃料)を発生し、前記化学反応の逆反応により再生可能な燃料発生部材6を備えている。燃料発生部材6としては、例えば、酸化によって水素を発生するもの(例えばFeやMg合金等)を用いることができるが、本実施形態においては、酸化により水素を発生するFeを用いる。また、本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムは燃料発生部材収容容器7を備えており、燃料発生部材6は燃料発生部材収容容器7に収容されている。
【0039】
燃料発生部材6においては、その反応性を上げるために単位体積当りの表面積を大きくすることが望ましい。燃料発生部材6の単位体積当りの表面積を増加させる方策としては、例えば、燃料発生剤の主体を微粒子化し、その微粒子化したものを成型すればよい。微粒子化の方法は例えばボールミル等を用いた粉砕によって粒子を砕く方法が挙げられる。さらに、機械的な手法などにより微粒子にクラックを発生させることで微粒子の表面積をより一層増加させてもよく、酸処理、アルカリ処理、ブラスト加工などによって微粒子の表面を荒らして微粒子の表面積をより一層増加させてもよい。
【0040】
燃料電池部収容容器5の燃料極3側と燃料発生部材収容容器7とはガス循環路8でつながっており、ガスを循環させるためのブロワ9がガス循環路8上に設けられている。また、燃料電池部収容容器5の空気極4側には、外部から熱交換器10を経由して空気が導入、排気される経路11がつながっており、空気を導入、排気させるためのブロワ12が経路11上に設けられている。熱交換器10は、燃料電池部収容容器5から外部に流出する空気から熱を奪い、その熱を外部から燃料電池部収容容器5に流入する空気に与え、熱の外部流出を抑える。
【0041】
また、本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムは、潜熱を利用して蓄熱を行う潜熱蓄熱材13を備えている。潜熱蓄熱材13は潜熱蓄熱材収容容器14に収容されている。潜熱蓄熱材13としては、例えば本システムの動作温度範囲で、充発電可能な温度よりも高い温度(例えば600℃前後)に融点を持つ金属合金等を用いることができる。潜熱蓄熱材13は、融点以下では固相であり、加熱され融点に達すると熱量を吸収して液相に相転移する。潜熱蓄熱材13は、すべてが液相になるまで、この融解潜熱で大きな熱量を蓄熱でき、この間温度は融点に保たれる。具体的な合金としては、アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金等が400〜700℃の範囲に融点を持ち、融解潜熱も大きいので好適である。
【0042】
さらに、本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムは、燃料電池部1及び燃料発生部材6を外部電力で加熱するヒータ15と、燃料電池部1及び燃料発生部材6の温度を検出する温度センサ16と、温度制御部(例えば熱電対)17と、断熱容器(例えば真空断熱構造を有する容器)18とを備えている。
【0043】
温度制御部17は、温度センサ16の出力信号に基づいて、ヒータ15の通電を制御し、断熱容器18の内部温度が上限温度を超えないようにしている。尚、上限温度は各容器の耐熱温度等を考慮して設定するとよい。また、温度制御部17は、例えばマイクロコンピュータで構成され、温度センサ16が熱電対である場合であれば、温度制御部17は熱電対からの電圧値をデジタル信号に変換するA/D変換器を含む。
【0044】
断熱容器18は、経路11の一部、ブロワ12、温度制御部17、及び断熱容器18以外の本システムの構成部品を収容している。
【0045】
システムの発電動作時には、燃料電池部1での反応によるTΔSの絶対値と、燃料発生部材6の放出エネルギーΔhFeと、燃料電池部1での反応によるΔGの一部(損失)との和が発熱量になる。燃料電池部1での反応によるΔGは、理論上は全て電力に変換することができるが、実際上はΔGも全てが電力に変換できるわけではなく、燃料電池部1での反応によるΔGの一部は、電解質膜2の抵抗や、燃料極3、空気極4の反応抵抗等による損失であり、熱となる。
【0046】
一方、システムの発電動作時には、経路11を用いて外部から空気を取り入れ、酸素を消費して排ガスを排出するので、熱交換器10を介しても排ガス(空気)に含まれる一部の熱が外部に漏れる。また、断熱容器18による断熱も完全ではあり得ないので、ここからの放熱もある。
【0047】
したがって、システムの発電動作時に潜熱蓄熱材13に蓄えられる熱量(蓄熱量)は、燃料電池部1での反応によるTΔSの絶対値と、燃料発生部材6の放出エネルギーΔhFeと、燃料電池部1での反応によるΔGの一部(損失)との和から、空気からの放熱と、断熱容器18からの放熱との和を差し引いた量になる。
【0048】
また、システムの充電動作時には、燃料電池部1での反応によるTΔSと、燃料発生部材6の吸収エネルギーΔhFeとの和が吸熱量になる。また、燃料電池部1での電気分解反応によるΔGの一部は、電解質膜2の抵抗や、燃料極3、空気極4の反応抵抗等による損失であり、熱となる。
【0049】
一方、システムの充電動作時には、経路11を用いて酸素を排出するので、熱交換器10を介しても排ガス(酸素を含む空気)に含まれる一部の熱が外部に漏れる。また、断熱容器18による断熱も完全ではあり得ないので、ここからの放熱もある。
【0050】
したがって、システムの充電動作時に燃料電池部1及びでの反応によるTΔSと、燃料発生部材6の吸収エネルギーΔhFeとの和である吸熱量、及び、空気からの放熱と断熱容器18からの放熱との和である放熱量は、潜熱蓄熱材13から放出される熱量(供給熱量)と、燃料電池部1での反応によるΔGの一部(損失)とによって賄われる。
【0051】
燃料電池部1での損失は、材料、構造、電流密度等に関連し、外部への熱の放熱量は、熱交換器10や断熱容器18の性能、使用条件の設定等に関連した設計要件である。この設計要件と燃料発生材6の容量とを考慮し、断熱容器18内の温度が想定した使用条件下で上限温度を超えることがないように、潜熱蓄熱材13の量を設定することが望ましい。
【0052】
次に、本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの動作例について図4を参照して説明する。図4の上段は断熱容器18内の温度変化を時間軸で示したものであり、図4の下段はそのときの潜熱蓄熱材13の液相、固相の割合を示すものである。
【0053】
時点t1では、長時間停止状態が続き、本システムが常温の状態になっている。このとき潜熱蓄熱材13も常温であり全て固相である。発電するためにヒータ15で加熱し、発電可能な温度(発電下限温度)になるとヒータ15による加熱を停止し発電を開始する(時点t2)。発電時の発熱によって断熱容器18内の温度が上昇し、潜熱蓄熱材13の融点に達すると、潜熱蓄熱材13の一部が融解し始める(時点t3)。その後発電を停止すると、断熱容器18からの放熱により熱量を徐々に失うが、潜熱蓄熱材13の液相の割合が徐々に減っていくだけで、断熱容器18内の温度は潜熱蓄熱材13の融点に維持される(時点t4〜時点t5)。つまり、潜熱蓄熱材13が冷えて全て固相になるほど長時間停止していなければ、断熱容器18内の温度は潜熱蓄熱材13の融点に維持され、充電動作、放電動作とも直ちに起動することができる。
【0054】
ここで、時点t5において充電を始めると吸熱により、潜熱蓄熱材13における液相の割合がさらに減っていくが、液相が残る間はやはり断熱容器18内の温度は潜熱蓄熱材13の融点に維持されるので、ヒータ15による加熱の必要がない(時点t5〜時点t6)。発電が始まると再度潜熱蓄熱材13における液相の割合が増加していき(時点t6〜時点t7)、潜熱蓄熱材13が全て液相になり(時点t7)、それ以後もさらに発電が続くと、断熱容器18内の温度は潜熱蓄熱材13の融点を超えて上昇する。
【0055】
燃料発生部材6の容量は有限であり、断熱容器18内の温度が想定した使用条件下で上限温度を超えることがないように、潜熱蓄熱材13の量を設定されている場合、断熱容器18内の温度が上限温度に達する前に確実に燃料供給が止まり、発電は停止する(時点t8)。尚、このように潜熱蓄熱材13の量を設定されていない場合には、例えば、断熱容器18内の温度が上限温度に達する前に発電動作を強制的に停止させればよい。
【0056】
その後再度充電を開始し、潜熱蓄熱材13が全て固相になると、断熱容器18内の温度が低下し始める(時点t9)。そして、充電可能な下限温度になると、充電を継続するためにヒータ15による加熱が必要になる(時点t10〜時点t11)。尚、断熱容器18の断熱性能が高ければ、ヒータ15で加熱しなければならなくなる頻度を低くすることができる。
【0057】
上記の説明から明らかなように、本発明の第1実施形態に係る2次電池型燃料電池システムは、発電動作時に発生する熱を潜熱蓄熱材13で蓄えて充電動作時に再利用しているので、省エネルギーでシステムのトータル効率を極めて高くすることができる。
【0058】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの全体構成を図5に示す。尚、図5において図1と同一又は機能的に同一の部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0059】
本発明の第2実施形態に係る2次電池型燃料電池システムでは、燃料電池部1並びに燃料電池部1用の潜熱蓄熱材13、潜熱蓄熱材収容容器14、及びヒータ15が断熱容器19に収納され、燃料発生部材6並びに燃料発生部材6用の潜熱蓄熱材13、潜熱蓄熱材収容容器14、及びヒータ15が断熱容器20に収納されている。そして、温度制御部17が、断熱容器19内の温度と、断熱容器20内の温度とを別々に制御する。
【0060】
この構成により、燃料電池部1と燃料発生部材6とをそれぞれ最適な温度で管理することが可能となるので、システムのトータル効率をより一層高くすることができる。例えば燃料電池部1においては、現在得られている性能では充放電とも400℃程度の温度にする必要があるが、燃料発生部材6においては、発電可能な下限温度は100℃程度であり、充電可能な下限温度は200℃程度であるので、起動時の加熱も比較的低温で良い。したがって、燃料発生部材6用の潜熱蓄熱材13の融点を低くすることが好ましい。燃料発生部材6用の潜熱蓄熱材13の融点を低くすることにより、燃料発生部材6用の断熱容器20の内外温度差が小さくなるので、断熱容器20の断熱性能も上げやすくなる。燃料発生部材6用の潜熱蓄熱材13の具体例としては、ビスマス、錫、鉛を含む合金等が100℃以下から230℃程度の範囲に融点を持ち、融解潜熱も大きいので好適である。例えば、錫(融点232℃)、錫−鉛はんだ(融点184℃〜230℃)、ウッドメタル(Bi−Pb−Sn−Cd)(融点70℃)、ローズ合金(Bi−Pb−Sn)(融点100℃)等を挙げることができる。
【0061】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの全体構成を図6に示す。尚、図6において図5と同一又は機能的に同一の部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0062】
温度制御部17が、断熱容器19内の温度と、断熱容器20内の温度とを別々に制御することにより、断熱容器19から断熱容器20に流入するガスと断熱容器20から断熱容器19に流入するガスとの間に温度差が生じることになる。この温度差に起因する放熱損失を低減するために、本発明の第3実施形態に係る2次電池型燃料電池システムでは、本発明の第2実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの構成に、断熱容器19から断熱容器20に流入するガスから熱を奪い、その熱を断熱容器19から断熱容器20に流入するガスに与える熱交換器10を追加している。
【0063】
<第4実施形態>
本発明の第4実施形態に係る2次電池型燃料電池システムの全体構成を図7に示す。尚、図7において図5と同一又は機能的に同一の部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0064】
本発明の第4実施形態に係る2次電池型燃料電池システムは、本発明の第2実施形態に係る2次電池型燃料電池システムから断熱容器18を取り除いた構成である。断熱容器18を設けた方が、断熱容器19の内外温度差及び断熱容器20の内外温度差が小さくなるので、システムのトータル効率が向上するが、特に断熱容器19及び断熱容器20の断熱性能が良い場合にはその効果は小さいので、断熱容器18を設けることによるシステムのトータル効率の向上度合いと断熱容器18を設けることによるコストアップとを比較考量して本発明の第2実施形態、本発明の第4実施形態のいずれかを選択すると良い。
【0065】
<その他>
【0066】
本発明の第1〜第4実施形態においては、電解質膜2として固体酸化物電解質を用いて、発電の際に燃料極3側で水を発生させるようにする。この構成によれば、燃料を燃料発生部材6から燃料電池部1に供給するためのガス循環路によって燃料発生部材6とつながって電極側で水を発生するため、装置の簡素化や小型化に有利である。一方、特開2009−99491号公報に開示された燃料電池のように、電解質膜2として水素イオンを通す固体高分子電解質を用いることも可能である。但し、この場合には、発電の際空気極4側で水が発生されることになるため、この水を燃料発生部材6に伝搬する流路を設ければよい。
【0067】
また、本発明の第2実施形態から本発明の第3実施形態への変形と同様の変形を本発明の第4実施形態に対して行ってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 燃料電池部
2 電解質膜
3 燃料極
4 空気極
5 燃料電池部収容容器
6 燃料発生部材
7 燃料発生部材収容容器
8 ガス循環路
9 ブロワ
10 熱交換器
11 経路
12 ブロワ
13 潜熱蓄熱材
14 潜熱蓄熱材収容容器
15 ヒータ
16 温度センサ
17 温度制御部
18〜20 断熱容器
101 固体電解質
102 酸化剤極
103 燃料極
104 外部負荷
105 外部電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学反応により燃料を発生し、前記化学反応の逆反応により再生可能な燃料発生材と、
前記燃料発生材から供給される燃料を用いて発電を行う燃料電池部とを備える2次電池型燃料電池システムであって、
システムの発電時に発生する熱量を潜熱を利用して蓄熱し、蓄熱した熱量をシステムの充電時に放出する潜熱蓄熱材を備えることを特徴とする2次電池型燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料発生材及び前記燃料電池部の少なくとも一つを収納する断熱容器を少なくとも一つ備えることを特徴とする請求項1に記載の2次電池型燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料発生材と前記燃料電池部とが別々の断熱容器に収容され、前記燃料発生材が収容される断熱容器及び前記燃料電池部が収容される断熱容器それぞれに前記潜熱蓄熱材が収納されていることを特徴とする請求項2に記載の2次電池型燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料発生材が収容される断熱容器内の前記潜熱蓄熱材の融点は、前記燃料電池部が収容される断熱容器内の前記潜熱蓄熱材の融点よりも低いことを特徴とする請求項3に記載の2次電池型燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−234745(P2012−234745A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103674(P2011−103674)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】