説明

2流体ミストスプレーノズルによる連続鋳造鋳片の二次冷却方法

【課題】 高い冷却効率での冷却が可能であり、高い冷却強度を得ることのできる、2流体ミストスプレーノズルによる連続鋳造鋳片の二次冷却方法を提供する。
【解決手段】 連続鋳造機で鋳造中の鋼鋳片を搬送用ガスと冷却用液体との2流体ミストスプレーノズルから噴霧されるミストスプレーで二次冷却するにあたり、搬送用ガスの流量(V)と冷却用液体の流量(W)との比である気液比(V/W)を15以上とし、且つ、2流体ミストスプレーノズルから噴霧される液滴の直径を、下記の(1)式で算出される液滴直径d以下に制御する。
d={(Rt・S/2)・(4π/3W・V2)1/3/[(π/4)・(ρ/σ)1/2]}2…(1)
但し、d:ミストスプレーの液滴直径、σ:冷却用液体の表面張力、ρ:冷却用液体の密度、S:噴霧面積、V:搬送用ガスの流量、W:冷却用液体の流量、RT:定数

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機にて2流体ミストスプレーノズルを用いて鋳造中の鋼鋳片を二次冷却する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、鋳型から引き抜かれた鋳片の凝固を促進するために、鋳型直下以降の鋳片支持ロールの設置範囲において、水スプレーノズルや2流体ミストスプレーノズルなどのスプレーノズルからの水噴霧による強制冷却、所謂、二次冷却が行われている。連続鋳造の生産性を向上させるために、或いは、鋳片の凝固品質を向上させるために、より強い二次冷却強度が求められる場合が多い。このスプレーによる冷却強度を高める手段として、通常、冷却媒体の単位時間あたり及び単位鋳片表面積あたりの量を増大させることが行われている。
【0003】
また、更なる工夫として、例えば、特許文献1には、一つのスプレーノズルからの鋳片への噴霧面積を増大させて、鋳片の引き抜き中に鋳片にスプレーが噴霧される時間割合を増大させ、かくして冷却強度を増大させる技術が開示されている。また、特許文献2には、スプレーの噴射圧を高めてスプレー液滴の鋳片表面への衝突圧を増大させ、冷却強度を増大させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−050121号公報
【特許文献2】特開2004−167521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、より強い二次冷却強度を得ることを目的として、上記2件の特許文献に開示された技術を試験した。しかしながら、特許文献1及び特許文献2の何れにおいても、スプレー水量を増大させると、冷却強度の増加割合はスプレー水量の増加に対して漸近的なものとなり、大水量域にて更なる冷却強度の強化を図ろうとすると、多大なスプレー水を必要とし、設備的に非常に効率の低い技術であることが分かった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、連続鋳造中の鋼鋳片を、搬送用ガスと冷却用液体との2流体ミストスプレーノズルで二次冷却するにあたり、高い冷却効率での冷却が可能であって、高い冷却強度を得ることのできる、2流体ミストスプレーノズルによる連続鋳造鋳片の二次冷却方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る2流体ミストスプレーノズルによる連続鋳造鋳片の二次冷却方法は、連続鋳造機で鋳造中の鋼鋳片を搬送用ガスと冷却用液体との2流体ミストスプレーノズルから噴霧されるミストスプレーで二次冷却するにあたり、搬送用ガスの流量(V)と冷却用液体の流量(W)との比である気液比(V/W)を15以上とし、且つ、2流体ミストスプレーノズルから噴霧される液滴の直径を、下記の(1)式で算出される液滴直径d以下に制御することを特徴とするものである。
【0008】
【数1】

【0009】
但し、(1)式において、dはミストスプレーの液滴直径(m)、σは冷却用液体の表面張力(N/m)、ρは冷却用液体の密度(kg/m3)、Sは2流体ミストスプレーノズルの噴霧面積(m2)、Vは搬送用ガスの流量(Nm3/sec)、Wは冷却用液体の流量(m3/sec)、RTは定数(=0.5)である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い冷却効率での冷却が可能であり、高い冷却強度で鋳片を冷却することが実現される。また、冷却用液体の流量、搬送用ガスの流量及び噴霧面積が決まると、2流体ミストスプレーノズルから噴霧された液滴が鋳片表面へ到達する前に合体凝集したり、鋳片表面が水膜で覆われたりする臨界の液滴径を予測できるので、冷却効率の高いミストスプレーノズルの運転条件、特に高い冷却強度を得るために水量を多くする場合の運転条件を効率良く設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液滴空間占有率Rdが1の場合と0.5の場合とを模式的に示す図である。
【図2】本発明を適用した垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機の概略断面図である。
【図3】第2冷却ゾーンの構成を示す概略図である。
【図4】エアーミストスプレー装置の例を示す概略図である。
【図5】水量と液滴直径とから、空き時間率RTを計算した結果を示す図である。
【図6】ノズルチップ直下の鋳片表面での熱伝達係数の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。先ず、本発明に至った経緯について説明する。本発明者らは、搬送用ガスと冷却用液体との2流体ミストスプレーノズルで連続鋳造鋳片を二次冷却するにあたり、高い冷却効率で且つ高い冷却強度で冷却することを目的として検討・研究を行った。
【0013】
前述したように、特許文献1及び特許文献2では、スプレーの水量を増しても冷却強度が漸近的となり、更なる冷却強度の増大が得られにくくなるが、この原因について以下のように考えた。
【0014】
第一の原因は、冷却強度を増大させるために水量を増大させた場合、液滴の数が多くなり、その結果、液滴が鋳片表面に到達する以前に、液滴同士が空中で衝突して合体する可能性が高くなるということである。液滴が合体してしまうと、液滴径が大きくなるので、冷却効率は低下する。
【0015】
第二の原因は、スプレー水量が多い場合には、水滴同士が鋳片表面で連なり、鋳片表面が水膜で覆われてしまうということである。スプレー冷却では、噴霧された微細な液滴が鋳片表面に接触し、鋳片から液滴への伝熱により、液滴の温度が上昇する際の顕熱、或いは、液滴自身が気化する際の気化熱によって鋳片を冷却している。ここで、鋳片表面に到達した液滴は、液滴の大きさ及び物性によって決まる時間だけ鋳片表面に滞在し、その後、弾性的に反発して鋳片表面から離脱する。と同時に、新たな液滴が次から次へと鋳片表面に到達してくる。従って、先に到着した液滴が鋳片表面から離脱する前に、次の液滴が鋳片表面に到達すると、結果として鋳片表面は多数のスプレー液滴によって覆われることになる。そして、スプレー水量が多い場合には、水滴同士が鋳片表面で連なり、鋳片表面は水膜で覆われてしまう。鋳片表面が水膜で覆われると、水膜と鋳片表面間に蒸気膜が生じるので、結果として熱流束は低下する。
【0016】
このような鋳片表面が水膜によって覆われてしまうことを防止するには、スプレーの液滴が鋳片表面に到達したら、次の液滴が鋳片表面に到達する以前に、先の液滴は鋳片表面から離脱することが望ましく、少なくとも、次の液滴が到達した後、鋳片表面全体が水で覆われる前に、先に到達した液滴が鋳片表面から離脱することが最低限必要な条件である。以下に、これらの原因を解消するために必要なスプレーノズルの条件を示す。
【0017】
最初に、第1の原因について説明する。
【0018】
液滴同士が空中で合体しないようにするには、液滴同士の間隔を一定以上に保つことが必要であることが分かる。液滴同士の間隔の定量指標として、下記の(2)式で示す液滴空間占有率Rdを用いた。
【0019】
【数2】

【0020】
但し、(2)式において、dは液滴の直径(m)、Lは液滴が単位時間当たり流量V(Nm3/sec)の搬送用ガス中で、立体的に等間隔で存在するとした場合の、隣り合う液滴同士の距離、即ち粒子平均間隔(m)である。この粒子平均間隔Lは、下記の(3)式で計算される。
【0021】
【数3】

【0022】
但し、(3)式において、Nはスプレーノズルから生じる単位時間当たりの液滴の個数(個/sec)である。この液滴個数Nは、2流体ミストスプレーにおける冷却用液体の流量をW(m3/sec)とすると、下記の(4)式で表される。
【0023】
【数4】

【0024】
ここで、図1に、液滴空間占有率Rdが1の場合と0.5の場合とを模式的に示すように、液滴空間占有率Rdが1の場合には、液滴同士が点接触するような状態であり、液滴は合体凝集してしまう。液滴の合体凝集を防止するには、搬送用ガスの流れは乱流であるので、液滴の速度も平均速度の2倍程度まで揺らいでいるとすると、相隣り合う液滴同士の間隔を、少なくとも液滴直径分だけ空いている必要があると考えられる。つまり、液滴空間占有率Rdが0.5以下となるようにすべきであり、従って、本発明では、下記の(5)式に示すように液滴空間占有率Rdの最大値を0.5に設定した。
【0025】
【数5】

【0026】
液滴空間占有率Rdを0.5とする(5)式に、(3)式及び(4)式を代入して、搬送用ガスの流量V(Nm3/sec)と冷却用液体の流量W(m3/sec)との比である気液比(V/W)について解けば、下記の(6)が得られる。
【0027】
【数6】

【0028】
即ち、2流体ミストスプレーノズルにおいて、液滴が鋳片表面に到達する前に、液滴同士が合体凝集しないようにするためには、気液比(V/W)を15以上とすることが必要であることが分かった。
【0029】
次いで、第2の原因について説明する。
【0030】
液滴が鋳片表面に達した際に、液滴が鋳片表面から離脱するまでに次の液滴が鋳片表面にやってくると、液滴同士の合体凝集が生じ、これが連続的に生じると鋳片表面は水膜で覆われることになり、スプレーの抜熱性能は低下する。そこで、このような水膜の発生する条件について以下に導出した。
【0031】
先ず、液滴が鋳片表面に到達する時間の平均間隔を求めた。鋳片に搬送用ガスが衝突する時点での搬送用ガスの線速度u(m/sec)は、スプレーの噴霧面積をS(m2)とすると、下記の(7)式で表される。
【0032】
【数7】

【0033】
従って、液滴が鋳片表面に到達する時間の平均時間間隔ΔT(sec)は、粒子平均間隔L(m)を搬送用ガスの線速度uで除算した値であり、(3)式及び(7)式から、下記の(8)式により求めることができる。
【0034】
【数8】

【0035】
次に、鋳片表面に到達した液滴が鋳片表面に滞在する時間Trを見積もった。鋳片表面に到達した液滴は弾性的に変形し、続いて鋳片表面から離脱する。ここで、「固体表面に滴下された液滴の固体表面での接触時間は、液滴の自由振動の一次周期に等しい」ことが知られている。この自由振動の一次周期は、下記の(9)式で表される自由振動周期Tnのn=2の場合の周期であり、従って、スプレーの液滴の鋳片表面での滞在時間Tr(sec)は、下記の(10)式で表される。但し、(9)式及び(10)において、σは冷却用液体の表面張力(N/m)、ρは冷却用液体の密度(kg/m3)である。
【0036】
【数9】

【0037】
上記に導き出したパラメータを用いて、スプレー液滴が鋳片表面で水膜を生じることがない条件について考える。
【0038】
ここで、一つの液滴の鋳片上での滞在時間Trと、スプレー液滴が次々に到達する平均時間間隔ΔTとの比を、「空き時間率RT(−)」として定義し、下記の(11)式に示す。
【0039】
【数10】

【0040】
ここで、水膜が生じない条件は、鋳片表面に到達した液滴が離脱した後に、次の液滴が鋳片に到達することである。しかも、前述のように、液滴の個々の線速度は、平均線速度uの約2倍まで揺らぐことが予想されるので、水膜を生じない条件、つまり、空き時間率RTの最大値は、下記の(12)式に示すように0.5となる。
【0041】
【数11】

【0042】
そこで、(12)式の分母のΔT及び分子のTrに、それぞれ(8)式及び(10)式を代入して整理すると、下記の(13)式が得られる。
【0043】
【数12】

【0044】
ここでは空き時間率RTの最大値を求めようとしているので、(13)式のパラメータのうち、搬送用ガスの流量V及び冷却用液体の流量Wに最大値を設けてしまうと、これは冷却媒体の量そのものに最大値を設けてしまうこととなり、スプレーノズルの抜熱性能の向上を目的とする場合には不都合である。そこで、パラメータのうちで液滴直径dに最大値を設けることで、空き時間率RTが最大値以上にならないように制御することとした。
【0045】
即ち、(13)式を液滴直径d(m)について解いて下記の(1)式を求め、(1)式において、空き時間率RT=0.5としたときの液滴直径dを、2流体ミストスプレーノズルからの液滴直径の最大値として、液滴径を制御することにした。(1)式において、冷却用液体の表面張力σ及び冷却用液体の密度ρは、使用する冷却用液体の物性値から一義的に定まり、スプレーの噴霧面積Sはスプレーノズル特性から定まり、搬送用ガスの流量V及び冷却用液体の流量Wはそのときの二次冷却条件から定まる。
【0046】
【数13】

【0047】
このように、(6)式及び(1)式を満足すれば、2流体ミストスプレーノズルから噴霧された液滴が、鋳片表面へ到達する前に合体凝集してしまったり、鋳片上に水膜が生じたりすることはないことが分かる。従って、この臨界の液滴径を満たすような構造のミストスプレーノズルチップを用い、且つ、冷却用液体と搬送用ガスとの流量比率を所定値以上に設定すればよいことが分かった。
【0048】
本発明は、上記検討結果に基づきなされたものであり、連続鋳造機で鋳造中の鋼鋳片を搬送用ガスと冷却用液体との2流体ミストスプレーノズルから噴霧されるミストスプレーで二次冷却するにあたり、搬送用ガスの流量(V)と冷却用液体の流量(W)との比である気液比(V/W)を15以上とし、且つ、2流体ミストスプレーノズルから噴霧される液滴の直径を、上記の(1)式で算出される液滴直径d以下に制御することを特徴としている。
【0049】
以下、添付図面を参照して本発明の具体的な実施方法を説明する。図2は、本発明を適用した垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機の概略断面図である。
【0050】
図2に示すように、スラブ鋳片を鋳造するための連続鋳造機1には、溶鋼20を注入して凝固させるための鋳型4が設置されており、この鋳型4の上方には、取鍋(図示せず)から溶鋼20を受け、受けた溶鋼20を浸漬ノズル3を介して鋳型4に供給するタンディッシュ2が配置され、一方、鋳型4の下方には、対向する一対のロールを1組として複数組の鋳片支持ロール5が設置されている。そして、鋳片支持ロール5の下流側には、複数本の搬送ロール6と、搬送ロール6の上方に位置して鋳片21の鋳造速度と同期するガス切断機7とが設置されている。また、鋳片支持ロール5の配置される範囲には、鋳型4の直下から下流側に向かって、第1冷却ゾーン8,8、第2冷却ゾーン9,9、第3冷却ゾーン10,10、第4冷却ゾーン11,11、第5冷却ゾーン12,12、及び第6冷却ゾーン13,13の合計12箇所に分割された冷却ゾーンからなる二次冷却帯が設置されている。
【0051】
タンディッシュ2から浸漬ノズル3を介して鋳型4に注入された溶鋼20は、鋳型4で冷却されて凝固シェル22を形成し、内部に未凝固部23を有する鋳片21として、鋳片支持ロール5に支持されつつ下方に連続的に引き抜かれる。鋳片21は鋳片支持ロール5を通過する間、二次冷却帯で冷却され、凝固シェル22の厚みを増大して、やがて中心部までの凝固を完了する。凝固完了後の鋳片21はガス切断機7により切断されて鋳片21aとなる。
【0052】
図3に、第2冷却ゾーン9の構成を例示するように、各冷却ゾーンには、冷却用液体を搬送するための搬送用ガスを供給する搬送用ガス供給配管14が設置され、搬送用ガス供給配管14の枝分かれした各先端部には、鋳片21の表面に対向するノズルチップ16が設置されている。また、二次冷却用の冷却用液体を供給する冷却用液体供給配管15が並んで設置され、冷却用液体供給配管15の枝別れした各先端部は、それぞれの搬送用ガス供給配管14に合流している。搬送用ガス供給配管14には流量調整弁17が配置され、冷却用液体供給配管15には流量調整弁18が配置されており、流量調整弁17を調整することで搬送用ガスの流量が調整され、流量調整弁18を調整することで冷却用液体の流量が調整されるようになっている。通常、冷却用液体としては工業用水が使用され、搬送用ガスとしては空気が使用される。
【0053】
図4に、冷却用液体として工業用水を使用し、搬送用ガスとして空気を使用するエアーミストスプレー装置の例を示す。空気を供給する搬送用ガス供給配管14及び工業用水を供給する冷却用液体供給配管15のそれぞれにオリフィス19が配置され、オリフィス19で絞られた空気及び水は高速化され、オリフィス19を通過した後、互いに激しく混合するようになっている。混合した空気及び水は、ノズルチップ16から鋳片21の表面に向けて噴射される。
【0054】
本発明を実施する上で、全ての二次冷却ゾーンにこのようなエアーミストスプレー装置を配置する必要はなく、従来の水スプレーであってもよいが、少なくとも1箇所はこのようなエアーミストスプレー装置が配置されており、特に冷却強度を高める必要のある二次冷却帯の上流側半分はこのようなエアーミストスプレー装置を配置することが好ましい。尚、冷却ゾーンの設置数は図2では合計12であるが、連続鋳造機1の機長などに応じて幾つに分割してもよい。
【0055】
鋳造中の鋳片21をエアーミストスプレー装置で冷却するにあたり、(6)式で示す気液比(V/W)が15以上になり、且つ、ノズルチップ16から噴霧される液滴直径が、(1)式で算出される液滴直径dと同等かそれよりも小さくなるように制御する。
【0056】
この場合、気液比(V/W)を15以上にすることは、流量調整弁17及び流量調整弁18の調整によって容易に実施することができる。但し、ノズルチップ16は、15以上の気液比(V/W)で噴霧可能であることが必要である。
【0057】
一方、ノズルチップ16から噴霧される液滴直径は、ノズルチップ16の特性によって変化する。従って、ノズルチップ16から噴霧される液滴直径が、(1)式で算出される液滴直径d(m)と同等かそれよりも小さくなるように制御するためには、予め、対象とする二次冷却条件に基づき、(1)式を用いて液滴直径dを算出し、算出した液滴直径dと同等かそれよりも小さい液滴を噴霧するノズルチップ16を、二次冷却帯に配置しておく必要がある。尚、(1)式から算出される液滴直径dは二次冷却条件によって異なるので、強冷却条件では本発明を満足しないノズルチップ16であっても、冷却強度を下げた場合には本発明を満足することも起こり得る。
【0058】
このように、15以上の気液比(V/W)で噴霧可能であり、且つ、15以上の気液比(V/W)において、噴霧する液滴が(1)式で算出される液滴直径dと同等かそれよりも小さくなるノズルチップ16を予め二次冷却帯のエアーミストスプレー装置に配置し、このノズルチップ16を用い、気液比(V/W)を15以上に調整して、鋳造される鋳片21を冷却する。
【0059】
このようにして鋳片21を冷却することで、高い冷却効率での冷却が可能であり、高い冷却強度で鋳片21を冷却することが実現される。また、本発明においては、冷却用液体の流量、搬送用ガスの流量及び噴霧面積が決まると、2流体ミストスプレーノズルから噴霧された液滴が鋳片表面へ到達する前に合体凝集したり、鋳片表面が水膜で覆われたりする臨界の液滴径を予測できるので、冷却効率の高いミストスプレーノズルの運転条件、特に高い冷却強度を得るために水量を多くする場合の運転条件を効率よく設定することが可能となる。
【実施例1】
【0060】
垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機において、鋳造中の鋳片を液滴直径が異なるノズルチップを用いて冷却する試験を実施した。試験を行った垂直曲げ型スラブ連鋳機の仕様を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
本実施例では、二次冷却帯の上流側にある第3冷却ゾーン用のエアーミストスプレーノズルについて試験した。この冷却ゾーンに用いたミストスプレーノズルの条件は、以下の通りである。
【0063】
W:ノズルチップ1個あたりの水量=6〜48L/min
V:ノズルチップ1個あたりの空気量=720NL/min (水量が最大の48L/minのときに気液比が15となるように設定)
ノズルチップから鋳片表面までの距離=126mm
ノズルチップの噴角=115°
S:噴霧面積=0.01495m2 (ノズルチップとして扇形噴霧タイプを用いたので、噴霧面積を楕円として考え、噴霧範囲内の水量密度最大値〜最大値の1/2までを噴霧面積として計算した)
上記の条件で、Wを6,12,24,48,96L/min、液滴直径dを1〜10000μmの範囲として、(13)式を用いて空き時間率RTを計算した。計算結果を図5に示す。図5から明らかなように、この試験で最大の水流量として設定した48L/minでは、液滴直径dが約190μm以下の範囲で、空き時間率RTは0.5以下を満たすことが分かる。
【0064】
そこで、水量が48L/min、空気量が720NL/minの条件で、ザウタ平均液滴直径が100μm、200μm、及び500μmとなるような、形状の異なる3種類のノズルチップを用意した。そして、これらのノズルチップを用いて、水量を12〜48L/minまで増加させたときの、ノズルチップ直下での鋳片表面における熱伝達係数を実測した。また、水量が96L/minの条件でも試験的に実施した。熱伝達係数の測定結果を図6に示す。
【0065】
液滴直径が500μmのノズルチップの場合には、図5に示すように水量が24L/minの条件下で空き時間率RTが約0.7であり、0.5を上回っている。実際、図6に示すように、ノズル直下の熱伝達係数をみても、試験した3つのノズルチップの中で液滴直径が500μmのノズルチップが最も低くなっている。
【0066】
液滴直径が200μmのノズルチップでは、図5に示すように水量48L/minの条件下で空き時間率RTが0.5を若干上回っており、従って、図6に示すように、水量48L/minでの熱伝達係数は、液滴直径500μmのノズルチップよりも大きいものの、液滴直径100μmのノズルチップよりは小さくなっている。また、液滴直径が200μmのノズルチップにおいて、水量を12→24L/minに増加させたときと、水量を24→48L/minに増加させたときとで熱伝達係数の増加率を比較すると、24→48L/minに増加させたときは熱伝達係数の増加率が小さくなっていることが分かる。つまり、冷却強度の増加割合がスプレー水量の増加に対して漸近的になっていることが分かる。
【0067】
これらに対して、液滴直径が100μmのノズルチップでは、図5に示すように水量が48L/minの条件下においても空き時間率RTは0.5以下であることから、図6に示すように、熱伝達係数は、試験した3つのノズルチップで最も高くなっている。しかも、水量が48L/minの範囲まで、冷却強度が水量に比例して増加していることが分かる。しかしながら、この液滴直径が100μmのノズルチップで水量を96L/minに増加させた場合には、空き時間率RTが0.5を超えるので、熱伝達係数の水量に対する増加率は鈍る。
【0068】
このように、二次冷却条件に応じて適切なノズルチップを用いて二次冷却することで、鋳片を効率的に冷却できることが分かる。
【符号の説明】
【0069】
1 連続鋳造機
2 タンディッシュ
3 浸漬ノズル
4 鋳型
5 鋳片支持ロール
6 搬送ロール
7 ガス切断機
8 第1冷却ゾーン
9 第2冷却ゾーン
10 第3冷却ゾーン
11 第4冷却ゾーン
12 第5冷却ゾーン
13 第6冷却ゾーン
14 搬送用ガス供給配管
15 冷却用液体供給配管
16 ノズルチップ
17 流量調整弁
18 流量調整弁
19 オリフィス
20 溶鋼
21 鋳片
22 凝固シェル
23 未凝固部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機で鋳造中の鋼鋳片を搬送用ガスと冷却用液体との2流体ミストスプレーノズルから噴霧されるミストスプレーで二次冷却するにあたり、搬送用ガスの流量(V)と冷却用液体の流量(W)との比である気液比(V/W)を15以上とし、且つ、2流体ミストスプレーノズルから噴霧される液滴の直径を、下記の(1)式で算出される液滴直径d以下に制御することを特徴とする、2流体ミストスプレーノズルによる連続鋳造鋳片の二次冷却方法。
【数1】

但し、(1)式において、dはミストスプレーの液滴直径(m)、σは冷却用液体の表面張力(N/m)、ρは冷却用液体の密度(kg/m3)、Sは2流体ミストスプレーノズルの噴霧面積(m2)、Vは搬送用ガスの流量(Nm3/sec)、Wは冷却用液体の流量(m3/sec)、RTは定数(=0.5)である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−253525(P2010−253525A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108598(P2009−108598)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】