説明

2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム

【課題】S字状カールの把握により反映させた指標を提案することにより、強靱かつ耐ピンホール性に優れ、S字状カールの歪みを極力抑制する2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムのマイクロ波による測定で得られた、分子配向角(θ)と配向指標(MOR)との積が、「θ×MOR≦18」を満たすと共に、当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムにおいて、突刺強度試験に基づく突刺強度が8N以上であり、かつ、当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム表面の全方向において、沸水収縮率試験に基づく沸水収縮率が5%以下であることを満たし、当該フィルムの製造に際して、ロール縦延伸が行われた後、テンター横延伸による横延伸時の延伸角度を5°以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムに関し、特にS字状カールの発生を抑制した2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン等のポリアミド系樹脂フィルムを2軸延伸により製膜する場合、理想としてはいずれの部分を採ったとしても、その物性が全て揃っていることが望ましい。しかし、現実には、フィルムの中央部分とその中心から離れた側端部分との間では、物性値が異なる。これは、テンター法逐次2軸延伸を用いて延伸を行う際に生じるボーイング現象に由来するものである。このボーイング現象によるフィルムの歪みに起因してS字状カールが引き起こされていた。特にS字状カールは包装資材用に製袋されて使用に供される際、開口部の変形等の不具合発生要因となっていた。
【0003】
上記のS字状カールの原因は主に製法に起因するものであり、テンター法逐次2軸延伸を用いる場合にはほぼ不可避であると考えられてきた。通常、製膜に際しテンター内においてフィルムの両端はクリップにより引張されることによりフィルムの幅方向に広げられる。そこで、延伸時に生じる縦方向の延伸応力や熱固定時に生じる収縮応力等の大きさは、フィルムの中央部分と、その中央部分から離れた側端部分との間で異なる。この結果、横延伸と熱固定を連続に同一のテンターで行う場合には、種々の応力の作用により、クリップで引張されるフィルムの側端部分に比べてフィルムの中央部分は延伸の進行が遅れ気味となる。すなわち、このような延伸の乱れがボーイング現象と呼ばれ、略円弧状に生じる撓みである。
【0004】
従前、上記のボーイング現象を抑制する手法として延伸条件、冷却工程等を管理する製造方法もしくは製造装置に着目されてきた。しかしながら、いずれの手法ともボーイング現象の抑制は十分とは言えなかった。そこで、フィルムの特性(例えば分子配向性等)を利用してフィルムの任意の場所における性状を把握することにより、製品フィルムの品質を規定する発明が行われてきた。
【0005】
この一つとして、少なくとも横方向に延伸され熱固定された熱可塑性樹脂フィルムにおいて、任意の幅方向でのマイクロ波によって測定される分子配向角の変化(異方性指標)が、「Δθor×W/Wf≦64.0...(ア)」を満足する熱可塑性樹脂フィルムが提案されている(特許文献1参照)。なお、(ア)式において、Δθorはフィルムの任意の2点でのマイクロ波によって測定される分子配向角の差(°)、Wfは任意の2点間のフィルム幅(m)、Wはテンター出口でのクリップ間距離(m)である。
【0006】
また、任意のフィルム巾での沸水収縮歪み率の差とマイクロ波によって測定される分子配向角の差とが、「ΔBS×Δθor/Wf≦44.0...(イ)」を満足する二軸配向ポリアミドフィルムが提案されている(特許文献2参照)。なお、(イ)式において、Wfは任意のフィルム巾、ΔBSは沸水収縮歪み率の差(%)、Δθorは任意の2点でのマイクロ波によって測定される分子配向角の差(°)である。
【0007】
さらには、α型結晶の配向主軸の方向が、フィルムの縦方向もしくは横方向に対して14°以下に規定した2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムも報告されている(特許文献3参照)。
【0008】
しかるに、発明者らの検証によると、上記のいずれの特許文献に記載の数値範囲を満たしたとしても、必ずしも製品フィルムにおけるS字状カールの歪みを制御・抑制することはできなかった。より詳しく述べると、製品フィルムの幅方向の中心から左右(幅方向)に離れるほどS字状カールの歪みは大きくなり、歩留まりの悪さが問題視されていた。
【0009】
従って、従前用いられてきたフィルムの物性指標に比して、S字状カールの把握により反映させた指標の構築が求められていた。
【特許文献1】特許第2917443号公報
【特許文献2】特開平4−103335号公報
【特許文献3】特開平8−267569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、S字状カールの把握により反映させた指標を提案すると同時に、強靱かつ耐ピンホール性に優れ、S字状カールの歪みを極力抑制する2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、請求項1の発明は、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムのマイクロ波による測定で得られた、分子配向角(θ)と配向指標(MOR)との積が下記(i)式を満たすと共に、前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムにおいて、下記(I)の突刺強度試験に基づく突刺強度が8N以上であり、かつ、前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム表面の全方向において、下記(II)の沸水収縮率試験に基づく沸水収縮率が5%以下であることを特徴とする2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムに係る。
【0012】
【数2】

【0013】
なお、(i)式において、θは分子配向計のマイクロ波による測定で得られる前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの幅方向もしくは機械方向に対する分子配向角であり、θの値は0°≦θ≦45°を満たす。また、MORは同じく分子配向計のマイクロ波の測定において、「MOR=(透過マイクロ波最大強度)/(透過マイクロ波最小強度)」として得られる値である。
【0014】
また、(I)突刺強度試験は、突刺強度試験機の内径25mmのクランプに、しわ、たるみが生じないようにして均一に2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを装着後、直径1mmの半球状の先端を有する押し棒を前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムに50mm/分の速度で押し当て、前記押し棒が前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを突き破ったときの強度(N)を突刺強度として測定する試験である。
【0015】
さらに、(II)沸水収縮率試験は、1辺21cm四方の2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム表面に半径10cmの円を描くと共に、当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの幅方向を0°として0°から15°ずつ基準線を引き、前記円及び基準線を付した2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを15分間煮沸する。煮沸後、23℃、相対湿度50%の条件下で30分間以上静置し、各々の角度の基準線について、煮沸の前後で計測した長さ(煮沸前長,煮沸後長)より、「収縮率(%)={|(煮沸前長−煮沸後長)|/煮沸前長×100}」として絶対値に置き換えた収縮率を算出し、その収縮率同士の比較において、収縮率の最大箇所を当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの沸水収縮率とする試験である。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1に記載の2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造において、ロール縦延伸が行われた後、テンター横延伸による横延伸時の延伸角度を5°以下として延伸した2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムに係る。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明に係る2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムによると、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムのマイクロ波による測定で得られた、分子配向角(θ)と配向指標(MOR)との積が「θ×MOR≦18」を満たすと共に、当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムにおいて、突刺強度試験に基づく突刺強度が8N以上であり、かつ、当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム表面の全方向において、沸水収縮率試験に基づく沸水収縮率が5%以下であるため、S字状カールの把握により反映させた指標を提案すると同時に、強靱かつ耐ピンホール性に優れ、S字状カールの歪みを極力抑制した2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを得ることができた。
【0018】
請求項2の発明に係る2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムによると、請求項1に記載の2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造において、ロール縦延伸が行われた後、テンター横延伸による横延伸時の延伸角度を5°以下として延伸したため、S字状カールの歪みを極力抑制することができた。また、1巻きの2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム原反から、優良品のフィルムが多く得られることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下添付の図面に従って本発明を説明する。図1は2軸延伸装置の概略斜視図、図2はテンターによる横延伸時の上面模式図、図3は分子配向計の配向パターンに係る概念図、図4は突刺強度試験に係る概略模式図、図5は沸水収縮率試験に係る概念図である。
【0020】
本発明の2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造に当たり、その原料となるポリアミド系樹脂には、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等及びこれら各ナイロンの共重合体が用いられる。特には、延伸性、強度が勘案されることから、後述する実施例に用いるように、ナイロン6が原料樹脂として好ましく用いられる。次に図1の2軸延伸装置の概略斜視図を用い、原料樹脂の製膜状況を説明する。
【0021】
2軸延伸装置10において、Tダイ11より溶融され押し出しされた原料樹脂は、冷却ローラ12により膜状化される。続いて、回転速度が異なる加熱ローラ13間を経由して縦方向(フィルムの進行方向)、すなわち最初の延伸方向(機械方向とも称される)に縦延伸される(ロール縦延伸)。そして、テンター14にて、両側端より接続されたクリップ15により幅方向(フィルムの進行方向と直交する方向)に横延伸(テンター横延伸)される。その後、熱固定(熱処理)が行われて、巻き取りローラにより巻き取られ、製品フィルム(2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム)20が得られる。
【0022】
上記の通り、原料樹脂の押し出しの条件、冷却ローラ,加熱ローラの温度、縦延伸の距離等をはじめ、横延伸の量が好適に制御されることにより、請求項1の発明に規定する各種の指標を満足する2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムが得られる。
【0023】
特に、横延伸の量については、請求項2の発明に規定するように、ロール縦延伸が行われた後、テンター横延伸による横延伸時の延伸角度を5°以下として延伸されることがS字状カールを抑制する上で望ましい。図2のテンター14による横延伸時の上面模式図を用い説明する。
【0024】
図1の加熱ローラ13を介して縦延伸された原料樹脂は、テンター14内に搬送され、その両側端にクリップ15が取り付けられる。この時点における、樹脂フィルムR1の幅の長さを(x)とする。つまり横延伸開始前の樹脂フィルムの幅である。当該樹脂フィルムR1は、進行方向Ds(機械方向に相当)に向けて略Y字形状となるようにクリップ15により引張されて横延伸(テンター横延伸)される。横延伸の距離は図示のとおり(z)である。そして、横延伸終了後、樹脂フィルムR2の幅の長さは(y)となる。符号Dwは幅方向である。
【0025】
図2において、直角三角形ABCでは、その底辺ABの長さは(z)、高さCBは((y−x)/2)である。そして、テンター横延伸による横延伸時の延伸角度は、当該直角三角形における角度「∠CAB」に相当し、この角度(∠CAB:延伸角度)が5°以下を満たすように、横延伸終了後の樹脂フィルムR2の幅(y)、あるいは横延伸の距離(z)はテンター14にて設定される。
【0026】
上記のとおり、適式に縦延伸・横延伸が行われることにより得られた2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、請求項1の発明に規定するように、分子配向計を用いたマイクロ波照射による測定に供される。分子配向計により、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの分子配向角(θ)と配向指標(MOR:Molecular Orientation Ratio)が計測される。
【0027】
この「θ」とは、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを1回転(360°)回転させながら、一定強度のマイクロ波を照射する分子配向計の測定により得られる2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの幅方向Dwもしくは機械方向に対する分子配向角である。図3の分子配向計の配向パターンに係る概念図を用いて説明すると、分子配向性は、X軸方向(幅方向Dw)・Y軸方向(進行方向Ds(機械方向))の座標平面上の図形として表現される。現れた図形より当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの分子配向角は求められる。
【0028】
前出の配向指標(MOR)とは、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを1回転(360°)回転させながら一定強度のマイクロ波を照射した際の「(透過マイクロ波最大強度)/(透過マイクロ波最小強度)」として得られる値である。
【0029】
図3に例示する座標平面上の図形は楕円を示す。この楕円の長軸方向(AL1,AL2)とX軸方向(幅方向Dw)との成す角度はφ1となり、同時にY軸方向(進行方向Ds(機械方向))との成す角度はφ2となる。ちなみに図3(a)においてφ1は30°であるため、分子配向角は、当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの幅方向に対して30°となる。一方、図3(b)においてφ1は65°であるため、分子配向角は、当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの機械方向に対して25°(=φ2)となる。従って、常時、θの値は0°≦θ≦45°を満たす。
【0030】
また、図中、XY座標平面(幅方向Dw・進行方向Ds平面)に表される図形において、透過マイクロ波最大強度は長軸長さ(Max)として、透過マイクロ波最小強度は短軸長さ(Min)として表現される。そのため、配向指標(MOR)である「透過マイクロ波最大強度/透過マイクロ波最小強度」とは、前記の長軸長さ(Max)/短軸長さ(Min)となる。S字状カールの発生等をはじめとする2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの性状を勘案すると、この配向指標(MOR)の値が“1”に近づくほど、幅方向と進行方向(機械方向)との間の均整が満たされ、好ましいと言える。
【0031】
すなわち、分子配向角(θ)と配向指標(MOR)の双方に着目することにより、延伸時における分子の挙動の把握が容易となる。後述する実施例からも明らかなとおり、下記(i)式に示す分子配向角(θ)と配向指標(MOR)との積を18以下に規制することにより、S字状カールの抑制は明らかである。この結果、S字状カールの把握に好適な指標となる。
【0032】
【数3】

【0033】
また、突刺強度試験により、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム自体の突刺強度を把握することができ、強靱さ、すなわち耐ピンホール性の指標とすることができる。請求項1に規定する発明のとおり、(I)の突刺強度試験とは、図4(a)に示すとおり、図示しない突刺強度試験機において、そのクランプ41,42(クランプ内径25mm)内に、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム20(製品フィルム20)は、しわ、たるみが生じないようにして均一に装着される。そして、直径1mmの半球状の先端44を有する押し棒43をクランプの中心位置の2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムに対し、50mm/分の速度で押し当てるように降下させる。続いて、図4(b)に示すとおり、この押し棒43が前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム20を突き破ったとき、突刺強度試験機に示される強度(N)を突刺強度として測定する試験である。
【0034】
上記の突刺強度試験とすることにより、得られた2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム自体の強靱さ、すなわち耐ピンホール性の評価に有用である。後述する実施例からも理解されるように、突刺強度は8N以上、特には10N以上が望ましいといえる。突刺強度が高いほどピンホールの発生は抑制されるため、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを包装資材に用いる際の指標に好適である。
【0035】
続いて、請求項1に規定する発明において、(II)の沸水収縮率試験とは、まず図5(a)に示すとおり、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム20を1辺21cmの正方形に裁断される。このフィルム表面に半径10cmの円Cを描くと共に、当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの幅方向(図2のDw方向)を0°として、0°から15°ずつ基準線Ln0〜Ln11を引く。そして、円及び基準線を付した2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム20を15分間煮沸される。
【0036】
煮沸後、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム20を23℃、相対湿度50%の条件下で30分間静置し、各々の角度の基準線Ln0〜Ln11(基準線の長さは当然直径である20cmとなる。つまり煮沸前長である。)について、図5(b)に示すとおり、煮沸後の基準線Lb0〜Lb11の長さを計測する(煮沸後長となる。)。このように煮沸の前後で計測した長さ(煮沸前長,煮沸後長)を下記(ii)式に代入し、絶対値に置き換えて収縮率(%)が算出される。そこで、その収縮率同士の比較を行い、収縮率の最大箇所を当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの沸水収縮率とする試験である。
【0037】
【数4】

【0038】
例えば、Dw方向より75°にあたるLn5の長さは、当然ながら円Cの直径である20cmである。そして、煮沸後のLb5の長さが19.2cmとなる場合、その収縮率は、「{|(20.0cm−19.2cm)|/20.0cm×100}」として求められ、4%となる。なお、計測間隔については、計測の煩雑さを回避しながらも表面全体の収縮率を把握する必要から、15°ずつとすることが好適とされる。よって、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム表面の全方向の収縮率が一応計測できることとなる。むろん、フィルムの性状、手間等より、計測間隔を15°以外とすることは当然に可能である。
【0039】
上記の沸水収縮率試験とすることにより、得られた2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム自体の煮沸変形の生じにくさの評価に有用である。後述する実施例からも理解されるように、沸水収縮率は5%以下、特には3.5%以下が望ましいといえる。沸水収縮率が低いほど煮沸変形は抑制されるため、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを包装資材に用いる際の指標に好適である。併せて、レトルト調理等の加熱が行われる食材等の包装において、印刷面に変形を来さないため好適といえる。
【0040】
これまでに詳述するように、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムに対して、1)分子配向角(θ)と配向指標(MOR)との積、2)突刺強度試験に基づく突刺強度、3)沸水収縮率試験に基づく沸水収縮率の3つの指標を同時に勘案することにより、S字状カールの歪みを極力抑制しながらも、耐ピンホール性、煮沸変形に対応させることができる。従って、本発明の2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、食品をはじめとする種々の物品の包装用途に優れている。
【実施例】
【0041】
[作成例1]
2軸延伸ポリアミド系樹脂として、宇部興産株式会社製:ナイロン6樹脂(相対粘度3.68)を用いた。前記図1に示した2軸延伸装置にナイロン6樹脂を充填して溶融し、Tダイより押し出しながら冷却ロールにより引き取った。続いて加熱ロールにより60℃で進行方向(機械方向に相当)に3.0倍ロール縦延伸(縦延伸)した。引き続き、テンター内において、110℃で延伸角度を4.2°としながら3.0倍の横延伸(テンター横延伸)を行った(図2参照)。このときのテンター幅は4200mmであった。次いで、同テンター内にて220℃の熱固定を施し、両端を切りそろえて巻き取り、幅3800mmのナイロン6フィルムの原反(作成例1)を得た。作成例1のフィルムの厚さは15μmであった。
【0042】
得られたナイロン6フィルムの原反に対し、図6に示すように、幅方向Dw上の中央位置SC(細破線にて図示)を中心に含むようにして500mmずつの間隔でスリット目(図中の破線SL)を入れ、ナイロン6フィルムの原反200上の製品位置S1,S2,S3,S4を確定した。そこで、試料1は位置S1部分、試料2は位置S2部分、試料3は位置S3部分、試料4は位置S4部分より分取した。
【0043】
[作成例2]
作成例1において、延伸角度を9.0°とする以外、他の条件は全て同一として、ナイロン6フィルムの原反(作成例2)を得た。この場合も図6に示すとおり、試料5は位置S1部分、試料6は位置S2部分、試料7は位置S3部分、試料8は位置S4部分より分取した。作成例2のフィルムの厚さは15μmであった。
【0044】
[作成例3]
作成例1において、延伸角度を15.0°とする以外、他の条件は全て同一として、ナイロン6フィルムの原反(作成例3)を得た。この場合も図6に示すとおり、試料9は位置S1部分、試料10は位置S2部分、試料11は位置S3部分、試料12は位置S4部分より分取した。作成例3のフィルムの厚さは15μmであった。
【0045】
[作成例4]
作成例1において、テンター内における熱固定を190℃とする以外、他の条件は全て同一として、ナイロン6フィルムの原反(作成例4)を得た。作成例4のフィルムの厚さは15μmであった。作成例4のナイロン6フィルムの原反より図6に示す位置S2部分を分取し、試料13とした。
【0046】
[作成例5]
作成例1において、縦延伸及び横延伸を共に2.5倍ずつとする以外、他の条件は全て同一として、ナイロン6フィルムの原反を得た。作成例5のフィルムの厚さは15μmであった。作成例5のナイロン6フィルムの原反より図6に示す位置S2部分を分取し、試料14とした。
【0047】
[作成例6]
作成例1において、横延伸のみを4.5倍とする以外、他の条件は全て同一として、ナイロン6フィルムの原反を得た。作成例6のフィルムの厚さは15μmであった。作成例6のナイロン6フィルムの原反より図6に示す位置S2部分を分取し、試料15とした。
【0048】
[分子配向角等の測定]
王子計測機器株式会社製:分子配向計MOA−6020を用い、試料1ないし試料15のフィルムについて、分子配向角(θ)と配向指標(MOR)を測定した。測定条件として、測定周波数を19.5GHz、測定面積を直径12mmの円とした。
【0049】
[突刺強度の測定]
突刺強度試験に用いる突刺強度試験機として、株式会社島津製作所製:精密万能試験機オートグラフAG−I 50N−10kNを用いた。測定に際しては、図4にて詳述したとおり、当該試験機のクランプ(クランプ内径25mm)内に、各試料のフィルムをたるみが生じないようにして均一に装着し、直径1mmの半球状の先端を有する押し棒をクランプの中心位置のフィルムに対し、50mm/分の速度で押し当てるように降下させた。そして、この押し棒が試料のフィルムを突き破ったときの試験機に示される強度(N)を突刺強度として読み取った。
【0050】
[沸水収縮率の測定]
前出の図5を用い詳述したとおり、各試料のフィルムを1辺21cmの正方形に裁断し、このフィルム表面に半径10cmの円を描くと共に、当該フィルムの幅方向(すなわち図2参照のDw方向)を0°として、0°から15°ずつ基準線を油性のサインペンで引いた。そして、円及び基準線を付した各試料のフィルムを15分間煮沸した。
【0051】
煮沸後、各試料のフィルムを23℃、相対湿度50%の条件下で30分間以上静置し、各々の角度の基準線(基準線の長さは当然直径である20cmであり、煮沸前長にあたる。)について、煮沸後の基準線の長さ(煮沸後長)を計測した。煮沸の前後で計測した長さ(煮沸前長,煮沸後長)を前記数式の(ii)式に代入し、絶対値に置き換えて収縮率(%)を算出した。そして、その収縮率同士の比較を行い、収縮率の最大箇所を当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの沸水収縮率とした。
【0052】
[S字状カールの測定]
試料1ないし試料15のフィルムについて、一辺10cmの正方形に裁断して2枚のフィルムのどうしを重ね合わせ、その3辺をヒートシールして10cm四方のフィルム袋201に成形した。
【0053】
試料1ないし試料15のフィルムからなる袋を15分間煮沸し、相対湿度50%の条件下で30分間以上静置した。静置後、図7(a)に示すように、試料1ないし試料15のフィルムからなる袋をテーブル上に置き、当該テーブル面300からのフィルム袋201のそり具合、つまり高さHtを測定した(図7(b)参照)。
【0054】
測定に当たり、各試料のフィルムからなる袋において、最大の高さをその試料のS字状カール(製袋カール)とした。S字状カール(製袋カール)の評価は、以下の通りである。A:高さが2mm以下、B:高さが5mm以下、C:高さが10mm以下、D:高さが10mm以上とした。
【0055】
[ピンホール発生個数の測定]
ピンホールを意図的に発生させるため、屈曲テスト機として、理学工業株式会社製:ゲルボフレックステスターを用いた。前出の屈曲テスト機(ゲルボフレックステスター)は厚さ12.5mm、直径87.5mmの固定円板と、固定円板との距離が175mmで相対する同寸法の回転可動円板とを備える。最初に回転可動円板と固定円板の周囲に各試料のフィルムを巻き付けて固定した。
【0056】
続いて、1)回転可動円板を固定円板の方向に87.5mm前進させながら440°回転させ、円筒状のフィルムを捻り折り曲げる。2)回転可動円板を回転させずにさらに62.5mm前進させる。3)回転可動円板を回転させずに62.5mm後退させる。4)回転可動円板を87.5mm後退させながら逆方向に440°回転させる。これらの1)ないし4)の一連の動作を1回として、23℃、相対湿度65%の条件下にて1000回行った。そこで発生したピンホールを計測した。
【0057】
以上、試料1ないし試料15のフィルムについて、各種の物性、評価等を図8の表として示した。また、各試料の項目別の評価に鑑み、各試料毎の総合評価を付した。併せて、作成例1ないし作成例3のナイロン6フィルムの原反に対しても総合評価を付した。各試料毎及び各原反毎の総合評価に際しては、得られた数値の大小比較に加え、数値同士の均衡、製品性能、歩留まり等も加味して評価を下した。“A”は優、“B”は良、“C”は可、“D”は不可とした。
【0058】
[結果と評価]
試料1ないし試料12までを見る限り、製品位置が中心より離れるほど分子配向角(θ°)が上昇している。しかし、延伸角度を少角度に抑えていると、この分子配向角の上昇は抑制気味となり、同時に配向指標(MOR)も小となる。従って、分子配向角と配向指標との積(θ×MOR)を新たな指標すると、延伸角度とは密接な関連性が示唆される。
【0059】
この点を踏まえ、試料毎、原反毎の総合評価も併せて考慮すると、好適な延伸角度は10°以下(試料5ないし試料8の9.0°)となり、より好適な延伸角度は5°以下(試料1ないし試料4の4.2°)となる。また、製品位置が中心より離れるほどS字状カールの発生度合は高まる傾向にあるものの、延伸角度を少角度に抑えていると、S字状カールの発生度合は改善されることも示されている。そこで、分子配向角と配向指標との積(θ×MOR)を指標とすることにより、S字状カールの発生度合をより適格に把握することができる。とりわけ、θ×MORの値は18以下であることが好ましく、さらには、θ×MORの値は11以下であることがより好ましい。
【0060】
延伸倍率について見ると、試料14に示されるとおり、低倍率の場合、突刺強度及びピンホール発生度合の指標が悪化、つまり、脆弱化していることがわかる。従って、各試料の比較から突刺強度試験に基づく突刺強度は8N以上が適切と考えられる。また、熱固定温度をみると、試料13に示されるとおり、低温の場合、沸水収縮率は悪化している。すなわち、熱変形に影響を受けていることがわかる。そのため、各試料の比較から沸水収縮試験に基づく沸水収縮率は5%以下が望ましいと考えられる。
【0061】
上記の結果から評価をまとめると、試作例1においては、“優”(試料1ないし3)、“良”(試料4)が得られたため、歩留りは、試作例2,試作例3と比しても格段に優れ、原反製品とした際に好都合である。これは、延伸倍率、熱固定温度に加え、延伸角度が5°以下であること、分子配向角と配向指標との積「θ×MOR」が18以下であることが要因と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】2軸延伸装置の概略斜視図である。
【図2】テンターによる横延伸時の上面模式図である。
【図3】分子配向計の配向パターンに係る概念図である。
【図4】突刺強度試験に係る概略模式図である。
【図5】沸水収縮率試験に係る概念図である。
【図6】試料の分取位置を示す概略模式図である。
【図7】S字カールの測定に係る模式図である。
【図8】各試料の測定及び評価の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0063】
10 2軸延伸装置
11 Tダイ
14 テンター
15 クリップ
20 製品フィルム(2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム)
41,42 クランプ
43 押し棒
200 フィルム原反
201 フィルム袋
300 テーブル面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムのマイクロ波による測定で得られた、分子配向角(θ)と配向指標(MOR)との積が下記(i)式を満たすと共に、
前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムにおいて、下記(I)の突刺強度試験に基づく突刺強度が8N以上であり、
かつ、前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム表面の全方向において、下記(II)の沸水収縮率試験に基づく沸水収縮率が5%以下である
ことを特徴とする2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
【数1】

((i)式において、θは分子配向計のマイクロ波による測定で得られる前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの幅方向もしくは機械方向に対する分子配向角であり、θの値は0°≦θ≦45°を満たす。また、MORは同じく分子配向計のマイクロ波の測定において、「MOR=(透過マイクロ波最大強度)/(透過マイクロ波最小強度)」として得られる値である。)
((I)突刺強度試験:突刺強度試験機の内径25mmのクランプに、しわ、たるみが生じないようにして均一に2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを装着後、直径1mmの半球状の先端を有する押し棒を前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムに50mm/分の速度で押し当て、前記押し棒が前記2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを突き破ったときの強度(N)を突刺強度として測定する。)
((II)沸水収縮率試験:1辺21cm四方の2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム表面に半径10cmの円を描くと共に、当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの幅方向を0°として0°から15°ずつ基準線を引き、前記円及び基準線を付した2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを15分間煮沸する。煮沸後、23℃、相対湿度50%の条件下で30分間以上静置し、各々の角度の基準線について、煮沸の前後で計測した長さ(煮沸前長,煮沸後長)より、「収縮率(%)={|(煮沸前長−煮沸後長)|/煮沸前長×100}」として絶対値に置き換えた収縮率を算出し、その収縮率同士の比較において、収縮率の最大箇所を当該2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの沸水収縮率とする。)
【請求項2】
請求項1に記載の2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造において、ロール縦延伸が行われた後、テンター横延伸による横延伸時の延伸角度を5°以下として延伸した2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−96801(P2006−96801A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281635(P2004−281635)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(592184876)フタムラ化学株式会社 (60)
【Fターム(参考)】