説明

2重系演算処理装置の監視装置

【課題】 2重系演算処理装置の信頼性及び実用性を向上する。
【解決手段】 照合タイミング生成回路10A、10Bは、A系CPU及びB系CPUのバス制御信号により照合タイミングを生成する他、1回のアクセスに所定クロック以上を要するアクセス条件では、タイマに基づいて一定時間(カウントアップ時間)の間、照合タイミング信号を生成する。照合回路20は、照合タイミング信号に基づく照合タイミングで、2つのCPUのデータバス上のデータを照合して、一致しているときに交番信号を出力し、不一致のときにその交番信号の出力を停止する。異常検出回路30は、照合回路20からの交番信号を監視し交番信号の出力が停止されたときに異常を検出して、監視リレー40を落下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの演算処理装置(CPU)を完全に同期させて処理データ(バス上のデータ)の一致を常時監視することにより処理の正当性を保証する2重系演算処理装置の監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば鉄道信号保安装置や産業ロボットのように高い安全性と高い信頼性の要求される制御システムとして、特許文献1などに示されるように、バス同期2重系演算処理装置が存在している。
【0003】
バス同期2重系演算処理装置は、同期して動作する2個の演算処理装置(CPU)と、これらの演算処理装置のバス(バス上のデータ)を照合する照合回路を含む監視装置とから構成される。
【0004】
監視装置は、同期して動作する2個の演算処理装置(CPU)のバス上のデータを照合して、一致しているときに交番信号を出力し、不一致のときにその交番信号の出力を停止する照合回路と、該照合回路からの交番信号を監視し交番信号の出力が停止されたときに異常を検出する異常検出回路と、を含んで構成される。
【0005】
尚、照合回路は、各演算処理装置(CPU)のバス制御信号(リード、ライト、ウエイト信号など)に基づいて生成される照合タイミングにて、2系統のバス上の所定ビット長のデータをビットごとに比較する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−044309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような2重系演算処理装置の監視装置においては、バス上のデータ照合は、バス制御信号によりアクセスが行われるごとに、1回に行われる。しかし、例えば、リード/ライトに長時間を要するポートにアクセスした場合、バス照合を行う周期が長くなり、その結果、交番信号の周期も延長される。そうすると、照合結果が一致していたにもかかわらず、交番信号の出力が実質的に停止されるため、異常検出回路がこれを検出して、システムを停止させてしまうという問題点があった。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑み、アクセスに時間を要するという理由で交番信号の出力が実質的に停止されて異常検出によるシステム停止に至るのを防止できるようにして、信頼性及び実用性を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る2重系演算処理装置の監視装置は、前提として、2個の演算処理装置のそれぞれに対応し、各演算処理装置のバス制御信号により照合タイミング信号を生成する2個の照合タイミング生成回路と、前記2個の照合タイミング生成回路からの照合タイミング信号に基づく照合タイミングで前記2個の演算処理装置のバス上のデータを照合して、一致しているときに交番信号を出力し、不一致のときにその交番信号の出力を停止する照合回路と、前記照合回路からの交番信号を監視し交番信号の出力が停止されたときに異常を検出する異常検出回路と、を含んで構成される。
【0010】
ここにおいて、前記各照合タイミング生成回路は、前記各演算処理装置のバス制御信号により照合タイミング信号を生成する第1生成部の他、1回のアクセスに所定クロック以上を要するアクセス条件にて、予め定めたタイマのカウントアップ時間の間、照合タイミング信号を生成する第2生成部を有する構成とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1回のアクセスに所定クロック以上を要するアクセス条件において、タイマのカウントアップ時間の間、照合タイミング信号を生成して、この間に複数回の照合を行わせることができる。このため、照合結果が一致しているかぎり、交番信号が次々と出力され、不要な異常検出によりシステム停止に至るのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示す2重系演算処理装置の監視装置の構成図
【図2】第1生成部のみを有する場合の問題点を示すタイムチャート
【図3】第2生成部を有する場合の作用・効果を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す2重系演算処理装置の監視装置の構成図である。
【0014】
本実施形態では、2重系演算処理装置として、共通のクロック信号発生器により完全に同期して動作する2つのCPU(A系CPU及びB系CPU)を備える。
そして、同期して動作する2つのCPUの処理データの一致を常時監視することにより処理の正当性を保証するための監視装置として、2個の照合タイミング生成回路10A、10Bと、照合回路20と、異常検出回路30と、が設けられる。
【0015】
照合タイミング生成回路10A、10Bは、2つのCPUのそれぞれに対応して設けられ、基本的には、各CPUのバス制御信号(リード、ライト、ウエイト信号など)により照合タイミング信号を生成する。
【0016】
照合回路20は、2つのCPUのデータバス(データバス上のデータ)を照合して、一致しているときに交番信号を出力し、不一致のときにその交番信号の出力を停止する。
詳しくは、照合回路20には、A系CPUのデータバスとB系CPUのデータバスとが接続され、A系照合データとB系照合データとがそれぞれ入力可能である。また、照合回路20には、照合タイミング生成回路10A、10Bが接続され、照合タイミング生成回路10AからのA系照合タイミング信号と照合タイミング生成回路10BからのB系照合タイミング信号とがそれぞれ入力可能である。
【0017】
照合回路20は、照合タイミング生成回路10Aからの照合タイミング信号に基づく照合タイミングでA系CPUのデータバスから所定ビット長(例えば32ビット長)のデータを取込み、同時に、照合タイミング生成回路10Bからの照合タイミング信号に基づく照合タイミングでB系CPUのデータバスから所定ビット長(同じく32ビット長)のデータを取込む。そして、取込んだ両データを比較することにより、一致・不一致を判定する。そして、データ照合にて一致するごとに、出力信号を、LレベルからHレベルに、又はHレベルからLレベルに、反転させる。従って、一致している間、出力ラインから交互にHレベルとLレベルとに変化する交番信号を出力する。不一致のときは、出力信号を反転させないため、出力ラインからの交番信号の出力が停止される。
【0018】
異常検出回路(交番信号検出回路)30は、交番信号が出力されているか否かを検出するもので、交番信号が検出されている場合は、正常信号を出力し、交番信号が検出されなくなった場合(交番信号が一定時間以上変化しない場合)に、異常信号を出力する。具体的には、自動列車制御装置(ATC)、自動列車運転装置(ATO)、自動列車停止装置(ATS)などを含む鉄道信号保安装置では、異常検出回路30の出力側には監視リレー40があり、正常信号により、監視リレー40を扛上(ON)し、異常信号により、監視リレー40を落下(OFF)する。
【0019】
ここにおいて、本実施形態では、照合タイミング生成回路10A、10Bに、各CPUのバス制御信号により照合タイミングを生成する第1生成部11A、11Bの他、特定のアクセス条件にて、タイマに基づいて、予め定めたカウントアップ時間の間、照合タイミング信号を生成する第2生成部12A、12Bを設ける。
前記特定のアクセス条件とは、1回のアクセスに所定クロック以上を要するアクセスの時である。
【0020】
前記タイマは、予め設定したカウントアップ時間、クロック信号をカウントし、このカウント中、カウントアップ終了まで、前記第2生成部12A、12Bが照合タイミング信号を生成する。
前記第2生成部12A、12Bが、前記タイマのカウントアップ時間中、照合タイミング信号を生成している間、照合回路20では、クロック信号に同期して照合がなされ、1回のアクセス中に複数回の照合がなされる。
【0021】
ここで、前記タイマのカウントアップ時間は、1回のアクセスに要する時間より短く設定される。
このような条件を満たすため、照合タイミング生成回路10A、10Bの第2生成部12A、12Bには、複数(n個)のタイマ13A、13Bがタイマ切替回路14A、14Bを介して接続される。尚、タイマ13A、13B及びタイマ切替回路14A、14Bは、照合タイミング生成回路10A、10Bに内蔵させてもよい。
【0022】
前記タイマ13A、13Bを構成する複数のタイマ(タイマ1、2、・・・n)は、カウントアップ時間を異ならせてあり、アクセスに応じ、選択される。
タイマ切替回路14A、14Bは、カウントアップ時間の異なる複数の選択可能なタイマの中から、アクセスに要する時間に応じて、より具体的には、アクセスするポートに応じて、又は、アクセスの種類、すなわちバス制御信号の種類(リード/ライト)に応じて、適当なカウントアップ時間のタイマを選択するように、タイマを切替える。
【0023】
次に図2及び図3のタイムチャートを参照して作用・効果を説明する。
図2は照合タイミング生成回路10A、10Bが第1生成部11A、11Bのみを有する場合の問題点を示すタイムチャートであり、先ずこれについて説明する。
【0024】
アクセスごとに、照合タイミング生成回路10A、10Bにて、A系制御信号によりA系照合タイミング信号が生成され、B系制御信号によりB系照合タイミング信号が生成され、照合回路20に入力される。
【0025】
照合回路20では、A系照合タイミング信号に基づく照合タイミングにおけるバス上のA系照合データ(例えば照合データ1)と、B系照合タイミング信号に基づく照合タイミングにおけるバス上のB系照合データ(例えば照合データ1)と、が照合される。
照合の結果、一致していれば、交番信号を変化させる。図2のタイムチャートでは、照合データ1の一致判定により、交番信号をLレベルからHレベルに変化させている。
【0026】
また、次のアクセスでは、照合データ2が照合され、照合データ2の一致判定により、交番信号をHレベルからLレベルに変化させている。同様に、次のアクセスでは、照合データ3が照合され、照合データ3の一致判定により、交番信号をLレベルからHレベルに変化させている。これにより、照合回路20から交番信号が出力され続け、異常検出回路30は交番信号を検出し続けるので、監視リレー40はON状態に保持される。
【0027】
しかし、リード/ライトに長時間を要するポートにアクセスした場合(照合データ4の場合)、例えば、計算後にリード/ライトを行うような場合、リード/ライト信号の発生が遅れるため、照合タイミング信号の生成が遅れ、バス照合を行う周期が長くなり、その結果、交番信号の周期も延長される。その結果、照合結果が一致していたにもかかわらず、異常検出回路30で交番信号が検出できなくなり、監視リレー40がOFFになってしまう。
【0028】
図3は照合タイミング生成回路10A、10Bが第1生成部11A、11Bに加え第2生成部12A、12Bを有する場合の効果を示すタイムチャートである。
照合タイミング信号は、バス制御信号(リード、ライト、ウエイト信号など)により生成される他、特定のアクセス条件にて、一定時間の間、生成される。
【0029】
バス制御信号に基づく照合タイミング信号による照合データ1〜3の照合については図2と同じであるので説明を省略し、アクセスに時間を要する照合データ4の照合の場合について説明する。
【0030】
1回のアクセスに数クロック以上を要するアクセス(例えば、リード/ライトに時間がかかるポートへのアクセス)の場合、予め定めたタイマのカウントアップ時間の間、照合タイミング信号が生成され、その間、照合回路20では、クロック信号に同期して照合がなされる。従って、1回のアクセスの中で、複数回のバス照合がなされる。
【0031】
従って、図3の例では、A系タイマ及びB系タイマにて、99→0へのクロック信号のカウントアップがなされ、このカウントアップ時間の間、カウントごと(クロック信号ごと)に照合がなされ、照合結果が一致する限り、交番信号は、カウントごと(クロック信号ごと)に反転する。これにより、照合回路20から交番信号が出力され続け、異常検出回路30は交番信号を検出し続けるので、監視リレー40はON状態に保持される。よって、1回のアクセスに数クロック以上を要するアクセスにおいても、一定時間は交番信号を出力するため、監視リレー40は落下しない。
【0032】
タイマのカウントアップ時間は1回のアクセスにかかる時間よりも短くする。従って、タイマのカウントアップが終了すると、照合タイミング信号は消失するが、その後、バス制御信号により照合タイミング信号が生成され、照合データ4の照合がなされる。以下、同様に、バス制御信号による照合タイミング信号に同期して、照合データ5、6、7、・・・の照合がなされる。
【0033】
尚、タイマのカウントアップ時間は、1回のアクセスにかかる時間より短くするので、タイマは、当該ポートにアクセスする度に、カウントアップすることになる。
【0034】
本実施異形態によれば、更に次のような効果が得られる。
アクセスに長時間を要するポートが複数あり、それぞれに要する時間が異なる場合には、カウントアップ時間が異なるタイマを複数用意しておいて、アクセスするポートにより用いるタイマを切替回路により切替えることで対応できる。
また、アクセスの種類(例えばリードとライト)でタイマを分け、カウントアップ時間を変えることも容易に対応できる。
【0035】
また、アクセスする度にタイマをカウントアップすることで、万一、A/B系いずれかのタイマが故障し、カウントアップのタイミングがずれた場合においても、照合タイミングが両系でずれてしまうため、フェイルセーフな照合回路で不一致を検出し、監視リレーを確実に落下させることができる。
また、タイマを複数個持ち、それぞれを切替える場合において、切替回路が故障した場合も、確実に監視リレーを落下させることができる。
【0036】
尚、図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0037】
10A、10B 照合タイミング生成回路
11A、11B 第1生成部
12A、12B 第2生成部
13A、13B タイマ
14A、14B タイマ切替回路
20 照合回路
30 異常検出回路
40 監視リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期して動作する2重系演算処理装置の監視装置であって、
2個の演算処理装置のそれぞれに対応し、各演算処理装置のバス制御信号により照合タイミング信号を生成する2個の照合タイミング生成回路と、
前記2個の照合タイミング生成回路からの照合タイミング信号に基づく照合タイミングで前記2個の演算処理装置のバス上のデータを照合して、一致しているときに交番信号を出力し、不一致のときにその交番信号の出力を停止する照合回路と、
前記照合回路からの交番信号を監視し交番信号の出力が停止されたときに異常を検出する異常検出回路と、
を含んで構成され、
前記各照合タイミング生成回路は、前記各演算処理装置のバス制御信号により照合タイミング信号を生成する第1生成部の他、1回のアクセスに所定クロック以上を要するアクセス条件にて、予め定めたタイマのカウントアップ時間の間、照合タイミング信号を生成する第2生成部を有する構成としたことを特徴とする、2重系演算処理装置の監視装置。
【請求項2】
前記タイマのカウントアップ時間は、1回のアクセスに要する時間より短く設定されることを特徴とする、請求項1記載の2重系演算処理装置の監視装置。
【請求項3】
前記タイマとして、選択可能な、カウントアップ時間の異なる複数のタイマを備えることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の2重系演算処理装置の監視装置。
【請求項4】
前記複数のタイマをアクセスするポートに応じて切替えるタイマ切替回路を備えることを特徴とする、請求項3記載の2重系演算処理装置の監視装置。
【請求項5】
前記複数のタイマをバス制御信号の種類に応じて切替えるタイマ切替回路を備えることを特徴とする、請求項3記載の2重系演算処理装置の監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−230448(P2012−230448A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96708(P2011−96708)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】