説明

2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールおよび4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]の製造方法

【課題】 電気化学的還元や高トルク攪拌装置のような大掛かりな設備を必要とせず、また鉛やビスマスなどの重金属を使用せずに、さらに加熱を行うことなく反応をコントロールして、効率よく、工業的にも有利に2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールおよび4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 トルエンとn−ブタノールとの混合溶媒中、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドを亜鉛還元することを特徴とする、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高脂血症治療薬である4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]およびその中間体である2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールは、高脂血症治療薬である4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]の有用な中間体であり、その製造方法として、従来はビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドをトルエン中で亜鉛を用いて還元する方法が提案されている(特許文献1参照)が、還元反応が途中で停止するなど反応に一貫性が無いために、亜鉛と酸を大過剰に使用し、長時間反応させる必要があった。また、これまで還元を効率的に進行させるために、亜鉛に鉛を添加する方法(特許文献2参照)、ビスマス化合物を触媒として添加する方法(特許文献3参照)や鉛陰極を用いて電気化学的還元する方法(特許文献4参照)などが提案されている。
これら従来法では、鉛やビスマスなどの重金属を使用している。重金属は環境だけでなく、人体にも好ましくない。つまり、医薬品となる工程およびその直前の工程において重金属を反応で使用することは残留性など安全上、好ましくない。
また、電気化学的還元は大掛かりな設備を必要とすることから、工業的にも好ましい方法とはいえない。
【0003】
これらの問題点を解決するために、亜鉛還元をトルエンとエタノールの混合溶媒中で行なう方法が提案されている(特許文献5参照)。しかし、この方法においては亜鉛が反応系中で沈みやすく攪拌負荷が大きくなるため、攪拌効率が悪くなるという問題があった。このため、亜鉛の仕込み量が制限され、またトルクが大きい特別な攪拌設備が必要であった。さらにこの方法では、55〜60℃の反応温度が必要であるため、加熱や反応終了後の冷却が必要となるが、工業的生産を考慮すれば、このような加熱や冷却を行なわず反応をコントロールできることが望ましい。
【特許文献1】米国特許第3479407号明細書(第1頁、段落2、54−70行)
【特許文献2】特許第2511281号公報
【特許文献3】特開平04−283560号公報
【特許文献4】米国特許第4772363号明細書
【特許文献5】特開2004−107294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、電気化学的還元や高トルク攪拌装置のような大掛かりな設備を必要とせず、また鉛やビスマスなどの重金属を使用せずに、さらに加熱を行うことなく反応をコントロールして、効率よく、工業的に有利に2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールおよび4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドを亜鉛還元する際に使用する溶媒において、トルエンと混合するアルコールとして、エタノールの代わりにn−ブタノールを採用することにより、亜鉛が反応系中で分散しやすくなり攪拌効率が大幅に向上することを見出した。さらにn−ブタノールを使用した効果として、加熱することなく反応温度を室温付近にコントロールしても、反応がスムーズに進行して、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールが満足できる収率で効率的に製造できることを見出した。
【0006】
さらに、原料であるビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドを製造する工程の反応温度を、従来(−20〜−15℃)よりも高い−10〜−7℃に設定しても反応が問題なく進行することも併せて見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]トルエンとn−ブタノールとの混合溶媒中、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドを亜鉛還元することを特徴とする、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールの製造方法。
[2]加熱することなく行なわれる、上記[1]記載の製造方法。
[3]15〜35℃の範囲の反応温度で行なわれる、請求項[1]または[2]記載の製造方法。
[4]トルエンとn−ブタノールとの体積混合比が100:5〜30である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]トルエン中、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールと一塩化硫黄との反応により得られるビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドを使用する、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]2,6−ジ−tert−ブチルフェノールと一塩化硫黄との反応が、−10〜−7℃の範囲の反応温度で行われる、上記[5]記載の製造方法。
[7]上記[1]記載の製造方法により、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールを得、これを酸性条件下にアセトンと反応させる、4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドをトルエンとn−ブタノールとの混合溶媒中で亜鉛還元することにより、攪拌効率が大幅に向上させることができる。さらに、加熱することなく室温付近(15〜35℃)に反応温度をコントロールしても、反応がスムーズに進行し、満足できる収率で効率的に、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールを製造することができるので、製造コストを低減させることができ、経済的である。
また、この方法は、電気化学的還元などの大掛かりな設備や有害な重金属を使用する必要もなく、工業的に有利な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールの製造方法
本発明において使用されるビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドとは、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)トリスルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)テトラスルフィドから高次のスルフィドまでを含み、特にS−S結合の数を限定することはない。しかも、これら単独の場合も2種以上の混合物の場合も含む。
【0010】
本発明の2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールの製造方法は、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィド(以下、スルフィド体と省略する場合もある)を、トルエンとn−ブタノールとの混合溶媒中で亜鉛還元することを特徴とする方法であり、還元には亜鉛および塩酸を用いる。
本発明は、トルエンと混合するアルコールとして、n−ブタノールを選択したことを特徴とし、これにより、エタノールを採用していた従来法に比べ、亜鉛が分散しやすくなり、攪拌効率が格段に向上する。
さらに、トルエンとエタノールの混合溶媒では55〜60℃の反応温度が必要であったため、加熱や後処理前の冷却が必要であったが、本発明において、トルエンとn−ブタノールとの混合溶媒を使用することにより、室温付近(15〜35℃)で反応がスムーズに進行するため、加熱やその後の冷却をする必要がなくなり製造コストが低減できると共に、熱の出し入れに要する時間も節約できるので、工業的に有利な方法である。
【0011】
トルエンとn−ブタノールの使用量は、反応系を撹拌できる程度であればよい。溶媒の各構成成分の使用量は以下の通りである。
トルエンの使用量は、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィド100重量部当たり、通常50〜110重量部、好ましくは70〜95重量部である。50重量部より少ないと攪拌しにくくなり、110重量部を越えると経済的に好ましいとはいえなくなる。
【0012】
n−ブタノールの使用量は、トルエン100容量部に対して、通常5〜30容量部、好ましくは10〜20容量部である。5容量部より少ないと反応性が低下し、30容量部を越えると反応液の分液性が悪くなり、トルエンが分離し難くなり、再使用し難くなる。
【0013】
塩酸は容積効率の観点からその濃度は10%(w/w)以上が好ましく、35%(w/w)の濃塩酸を使用するのが特に好ましい。
塩酸の使用量は、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィド1モル当たり、通常4〜6モル量、好ましくは4.6〜5.3モル量である。塩酸の添加は発熱を伴うため、通常滴下により添加する。
【0014】
亜鉛の使用量はビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィド1モル当たり、通常1.3〜2.1モル量、好ましくは1.6〜1.8モル量である。1.3モル量より少ないと反応率が低下し、2.1モル量を越えると廃棄物が増え、経済的であるとは言い難くなる。亜鉛はどのような形態のものを使用してもよく、通常市販されている亜鉛末で良い。
【0015】
反応温度は室温程度、具体的には、15〜35℃の範囲であれば良く、20〜30℃の範囲がより好ましい。15℃未満では反応が遅くなり、亜鉛が還元以外の反応に消費され易くなる。35℃を越えると発熱反応が抑制されにくくなり、危険である。
なお、塩酸の添加は上記の通り発熱を伴うが、必要に応じて、保冷、保温や滴下時間の調整を適宜行なって、上記温度範囲にコントロールすればよい。
塩酸滴下終了後は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により、スルフィド体のピーク面積が1%以下となった時点で終了とし、通常1〜2時間で反応は終了する。
【0016】
反応終了後、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールは以下の方法により容易に単離精製することができる。
反応終了後、不溶物があればこれを濾去し、濾液に塩酸などの酸(好ましい塩酸濃度は約10%(w/w))を加えて洗浄し、静置分液する。有機層を水で洗浄後、アルカリを用いて抽出し、これを酸性化し、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールを結晶として析出させる。析出した結晶を濾取し、これを水および50%(v/v)水−メタノールで洗浄することにより、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールを単離精製することができる。
【0017】
アルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物などが挙げられ、中でも水酸化カリウムが好ましい。アルカリは、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールの酸化を防ぐために脱気しておくことが好ましい。脱気法としては、減圧した後、窒素で復圧する操作を数回繰り返すなどの方法が挙げられる。アルカリ金属水酸化物は水溶液として用い、濃度は通常5〜10%(w/w)、好ましくは7〜9%(w/w)である。
【0018】
アルカリを用いた抽出は2回行うことが好ましい。例えば、アルカリはビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィド1モルに対して、通常2.3〜3.2モル量、好ましくは2.3〜2.5モル量用いて1回目の抽出を行ったあと、さらに通常0.6〜1.7モル量、好ましくは0.6〜0.8モル量用いて2回目の抽出を行う。抽出時の温度は20〜40℃、好ましくは25〜35℃である。
【0019】
アルカリ層の酸性化は酸、例えば濃塩酸(好ましくは35%(w/w)濃度)を用いて行うことができ、酸性化時の温度は20〜40℃、好ましくは25〜35℃である。酸性化後のpHは0.5〜2.5、好ましくは1〜2である。
【0020】
2.ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドの調整方法
原料として用いるビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドは、米国特許第3479407号明細書に記載の方法、例えば、トルエン中、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールと一塩化硫黄との反応により得ることができる。米国特許第3479407号明細書においては、当該反応温度を−20℃〜−15℃に制御する必要があり、−7℃〜0℃では収率が低減することが記載されている(表1)。しかし、−20℃〜−15℃の温度範囲を工業的に実施するためには、メタノールを冷媒とする低温ブラインを使用する必要があるため、安全衛生上好ましくなく、熱効率も悪いという問題があった。
本発明者らは、当該反応を−10℃〜−7℃に制御して行なった場合においても、高収率に反応が進行することを見出した。−10℃〜−7℃の範囲であれば、メタノールの水溶液を冷媒とする、いわゆる一般ブラインを使用することがことができるので、より安全であり、熱効率の上で経済的である。
【0021】
具体的には、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールと一塩化硫黄とを、触媒量のヨウ素の存在下に反応させる。当該反応は溶媒中で行うのが好ましく、例えば、脂肪族または芳香族炭化水素(例えば、ヘキサン、トルエン、ベンゼンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、四塩化炭素、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノールなど)、エーテル(例えば、ジエチルエーテルなど)、エステル溶媒(例えば、酢酸エチルなど)などが挙げられ、トルエンが好ましい。溶媒は、撹拌できる量であればよく、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール100重量部に対して、通常70〜120重量部であり、好ましくは80〜100重量部である。
一塩化硫黄の使用量は、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール1モルに対して、通常0.45〜0.6モルであり、好ましくは0.48〜0.52モルである。
ヨウ素の使用量は、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール1モルに対して、通常0.0001〜1モルであり、好ましくは0.0002〜0.5モルである。
反応温度は、上記の通り−10℃〜−7℃の範囲が好ましく、常圧またはそれ以上の圧力下で行う。
反応終了後、混合物を水洗し、有機層を濃縮することによりビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドを単離することができる。なお、トルエンを溶媒として用いた場合は、濃縮することなく、必要量のn−ブタノールを添加することにより、次工程に供することができる。
【0022】
3.4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]の製造方法
本発明の方法で得られた2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールは、例えば、米国特許3576883に記載の方法に従って、酸性条件下にアセトンと反応させることによって、4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]に変換することができる。当該変換は溶媒中で行い、溶媒としては、例えばアセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。溶媒は撹拌できる程度使用すればよく、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノール100重量部に対して、通常150〜200重量部、好ましくは160〜180重量部使用する。
【0023】
当該変換は、例えば塩酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸など、好ましくは塩酸を用いて酸性とした条件下で行う。当該塩酸等の使用量は、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノール1モルに対して0.03〜0.3モルが好ましく、0.05〜0.2モルがより好ましい。アセトンの使用量は、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノール1モルに対して、通常1.1〜2.0モル、好ましくは1.2〜1.4モル使用する。
反応は、通常40〜70℃、好ましくは48〜58℃の範囲で1時間〜10時間行う。
反応終了後、混合物に含まれる4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]は、常法により単離精製することができる。例えば、反応終了後の混合物を0〜5℃に冷却し、析出した結晶をろ過することにより、4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]を単離することができる。さらに、単離された4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]の粗結晶は、1.6〜2倍容量のイソプロパノールから再結晶することにより精製することもできる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
HPLC分析は以下の条件で行なった。
カラム:ODSカラム (YMC−Pack AM−302)
移動相:A液 精製水
B液 アセトニトリル
A液:B液=8:92
検出波長:UV240nm
【0025】
実施例1
トルエン(600ml)に2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(600g)とヨウ素(295mg)を加え、−10℃に冷却した。窒素気流下、−7〜−10℃で一塩化硫黄(31.4g)を滴下し、0.5時間攪拌した。次いで、一塩化硫黄(31.4g)を同温度で滴下し、同温度で0.5時間攪拌後、さらに、一塩化硫黄(141.4g)を滴下し、同温度で1時間攪拌した。HPLC法で原料が0.05%となったことを確認し、水(126ml)を加えて約60℃で攪拌し、静置分液した。得られたトルエン層を3分割した。
3分割したトルエン層(405g)にn‐ブタノール(25ml)と亜鉛末(50g)を加え、20〜30℃で35%塩酸(235.5g)を3時間から3時間30分で滴下した。同温度で1時間攪拌し、HPLC法でビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィド体(スルフィド体)が1%以下となったことを確認した。不溶物をろ過し、トルエン(10ml)で洗浄した。ろ過液を静置し、分液した。有機層に水(150ml)と35%塩酸(50ml)を加えて攪拌し、静置、分液した。有機層を水(67ml)で洗浄した。25〜35℃で、脱気した8%(w/w)苛性カリウム水溶液(816g)で有機層を抽出した。さらに同様の苛性カリウム水溶液(270.7g)で抽出し、先のアルカリ層と合一した。得られたアルカリ層に35%塩酸(163.7g)加えてpH1〜2とし、30分間攪拌した。析出した結晶を濾過、水(400ml)ついで50%(v/v)水‐メタノール(400ml)で洗浄し、乾燥して、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノール(204.5g)を得た。収率は88.5%、純度は97%であった。
【0026】
実施例2
実施例1で3分割したトルエン層(405g)にn‐ブタノール15mlを加え、実施例1と同様に亜鉛還元した。その結果、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノール(202g)を得た。収率は87.4%、純度は97.8%であった。
【0027】
実施例3
実施例1で3分割したトルエン層(405g)にn‐ブタノール(20ml)を加え、実施例1と同様に亜鉛還元した。その結果、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノール(202g)を得た。収率は87.6%、純度は97%であった。
【0028】
実施例4
実施例1と同じ方法で製造したスルフィド体のトルエン層(406g)にn−ブタノール(20ml)を加え、実施例1と同様に亜鉛還元した。その結果、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノール(203.5g)を得た。収率は88%、純度は98.4%であった。
【0029】
実施例5:4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]
実施例4で製造した2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノール(100g)にメタノール(170ml)と水(10g)を加えて50〜55℃に加熱した。アセトン(29.2g)を加え、35%塩酸(4g)を滴下し、同温度で5時間反応した。HPLC法で原料が5%以下となったことを確認した後、0〜5℃に冷却し、同温度で約3時間熟成した。ろ過し、80%イソプロパノール(25.7ml)で結晶を洗浄した。
湿結晶(123.3g)を218mlのイソプロパノールに加熱、溶解し、ろ過、イソプロパノール(17.3ml)で洗浄した。ろ液を一旦加熱して完全に溶解したことを確認したのち、冷却し、0〜5℃で熟成した。結晶をろ過し、イソプロパノール(30ml)で洗浄し、乾燥して、4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]の結晶(88.74g)を得た。収率は82%、純度は99.9%であった。
【0030】
比較例1
実施例1と同じ方法で製造したスルフィド体のトルエン層(406g)にエタノール(20ml)を加え、実施例1と同じ条件で亜鉛還元した。塩酸滴下終了後1時間でスルフィド体が8.8%残存しており、90分後でも6.7%残存していた。
【0031】
上記の結果より、トルエンの混合溶媒としてエタノールではなく、n−ブタノールを使用することにより、室温付近の反応温度でも、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールを効率的に得ることができることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルエンとn−ブタノールとの混合溶媒中、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドを亜鉛還元することを特徴とする、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールの製造方法。
【請求項2】
加熱することなく行なわれる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
15〜35℃の範囲の反応温度で行なわれる、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
トルエンとn−ブタノールとの体積混合比が100:5〜30である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
トルエン中、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールと一塩化硫黄との反応により得られるビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ポリスルフィドを使用する、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
2,6−ジ−tert−ブチルフェノールと一塩化硫黄との反応が、−10℃〜−7℃の範囲の反応温度で行われる、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の製造方法により、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メルカプトフェノールを得、これを酸性条件下にアセトンと反応させる、4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]の製造方法。

【公開番号】特開2006−213669(P2006−213669A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29627(P2005−29627)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】