説明

3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンの製造方法

【課題】 3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンの効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを溶媒及び塩基の存在下で、次亜塩素酸塩と反応させることを特徴とする3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンの製造方法、並びにその原料である2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸又は2−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドから効率的に製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬などの中間体として有用な3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンは、医薬、農薬の中間体として公知の化合物であり、その製造方法として特許文献1には2−クロロ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチルピリジンの還元による製法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−48268号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンの製造方法は特許文献1で開示されているものの収率が低く、工業的製造方法としては不十分であった。
本発明の目的は、工業的に収率良く、3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するべく種々の検討を行った結果、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを溶媒及び塩基の存在下で、次亜塩素酸塩と反応させることにより高収率で3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンが製造できることを見出すと共に、その原料である2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを効率的に製造する方法を見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを溶媒及び塩基の存在下で、次亜塩素酸塩と反応させることを特徴とする3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンの製造方法に関する。又、本発明は、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸を塩化チオニル又はオキサリルクロリドと反応させて2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸クロリドを製造し、得られた2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸クロリドをアンモニア水と反応させて2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを製造する方法;並びに、2−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを塩基の存在下でオキシ塩化リンと反応させて、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルを製造し、得られた2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルを濃硫酸と反応させて2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンを工業的に効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の製造方法について詳述する。
反応[A]で示したように、式(I)で表される3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンは、式(II)で表される2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを溶媒及び塩基の存在下、次亜塩素酸塩と反応することにより製造することができる。
【0008】
【化1】

【0009】
本反応に使用することのできる次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムのような次亜塩素酸アルカリ金属塩が好ましく、なかでも次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。次亜塩素酸塩の使用量は、式(II)の化合物に対して、0.5〜1.5倍モル、望ましくは0.7〜1倍モルである。
本反応に使用することができる塩基の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物;水酸化バリウム、水酸化カルシウムのようなアルカリ土類金属水酸化物が挙げられ、その使用量は式(II)の化合物に対して2〜3倍モルである。塩基としては、水酸化ナトリウムが好ましい。
溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればいずれのものでもよく、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、スルホラン、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンのような極性非プロトン性溶媒;水などから1種又は2種以上を適宜選択することができる。溶媒は、式(II)の化合物に対して5〜10倍容量使用することができる。溶媒としては、水が好ましい。
反応は、通常60〜100℃で行うことができ、その反応時間は、通常0.5〜1時間程度である。
【0010】
前記反応[A]の原料である式(II)の化合物は、後記する反応[B]又は[C]により製造することができる。
【0011】
【化2】

【0012】
反応〔B〕は、通常、式(III)で表される2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸を式(IV)で表される2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸クロリド(酸塩化物)に変換させた後、得られる酸塩化物を溶媒の存在の下でアンモニア水で処理することにより式(II)の化合物を得ることができる。
酸塩化物に変換させる反応は、通常、式(III)の化合物と、等モル以上の塩化チオニル又はオキサリルクロリドとを反応させることにより行なうことができる。
本反応は溶媒を使用してもよく、溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればいずれの物でもよく、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類などから1種又は2種以上を適宜選択することができる。
反応は、通常60〜100℃で行うことができ、その反応時間は、通常0.5〜2時間程度である。
本反応で製造される式(IV)の化合物は、精製し、又は精製することなく次反応に使用される。
次に、得られる酸塩化物を、通常、溶媒の存在下で好ましくは20〜30wt%のアンモニア水で処理することにより、式(II)の化合物を製造することができる。
アンモニア水は式(IV)の化合物に対して過剰量使用することができ、望ましくは3倍モル〜10倍モルである。
溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればいずれのものでもよく、例えば、ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタンのようなエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、スルホラン、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンのような極性非プロトン性溶媒などから1種又は2種以上を適宜選択することができる。溶媒は式(III)の化合物に対して1〜3倍容量使用することができる。
反応は、通常0〜40℃で行うことができ、その反応時間は、通常0.5〜2時間程度である。
【0013】
【化3】

反応〔C〕は、通常、式(V)で表される2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルを1〜3倍容量の好ましくは94〜98vol%の濃硫酸で処理することにより行なうことができる。
【0014】
反応は、通常60〜80℃で行うことができ、その反応時間は、通常1〜3時間程度である。
式(V)の化合物は、反応〔D〕により製造することができる。
【0015】
【化4】

【0016】
反応〔D〕は、通常、式(VI)で表される2−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを塩基の存在下、オキシ塩化リンと反応することにより行なうことができる。
本反応に使用するオキシ塩化リンは、式(VI)の化合物に対して2〜3倍モル使用することができる。
本反応に使用することのできる塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン、N−メチルモルホリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N−エチル−N−メチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタンのような第三級アミン類;キノリン;ピリジン;2,6−ジメチルピリジンなどから1種又は2種以上を適宜選択することができる。塩基は、式(V)の化合物に対して1〜3倍モル使用することができる。塩基としては、第三級アミン類又はキノリンが好ましい。
【0017】
本反応は、通常100〜160℃、望ましくは130〜140℃で行うことができ、その反応時間は、通常3〜36時間程度である。
本反応は、必要に応じて溶媒存在下で行うことができる。溶媒としては、反応に悪影響を与えないものであれば良く、例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼンのような芳香族炭化水素類を挙げることができるが、中でも1,2−ジクロロベンゼンが望ましい。
【0018】
また、本発明には以下の方法が含まれる。
(1)前記反応〔B〕により、式(II)の化合物を製造し、式(II)の化合物を塩基の存在下で、次亜塩素酸塩と反応させることにより式(I)の3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンを製造する方法。
(2)前記反応〔C〕により、式(II)の化合物を製造し、式(II)の化合物を塩基の存在下で、次亜塩素酸塩と反応させることにより式(I)の3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンを製造する方法。
(3)前記反応〔D〕及び〔C〕により、式(II)の化合物を製造し、式(II)の化合物を塩基の存在下で、次亜塩素酸塩と反応させることにより式(I)の3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンを製造する方法。
【実施例】
【0019】
本発明をより詳しく述べるために、以下に実施例を記載するが、本発明の解釈はこれらに限定されるものではない。
実施例1 2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルの合成(1)
2−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルニコチンアミド300gにトリエチルアミン300mLを添加し、オキシ塩化リン300mLを少しずつ滴下した。130℃で4時間反応後、放冷した反応液を水1Lに徐々に加えた。氷冷下、30分攪拌後、析出した固体をろ取し、水300mLで洗浄した。ろ取した固体を減圧蒸留(120℃/18mmHg)により精製し、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリル(融点:35〜36℃)247gを得た。1H-NMR(CDCl3) δ=7.75(1H, d, J= 7.8Hz), 8.21(1H, d, J= 7.8Hz).
【0020】
実施例2 2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルの合成(2)
2−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルニコチンアミド100g中にキノリン86mL、オキシ塩化リン136mLを順に加え、140℃で24時間攪拌した。得られた残渣を室温に戻した後水500mL中にゆっくり加え、氷冷下攪拌後、析出した固体を濾取し、減圧蒸留(90℃/4mmHg)により精製し、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリル72gを得た。
【0021】
実施例3 2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルの合成(3)
2−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルニコチンアミド300gの1,2−ジクロロベンゼン600ml懸濁液にトリエチルアミン300mLを添加し、オキシ塩化リン300mLを少しずつ滴下した。140℃で4時間反応後、放冷した反応液を水1Lに徐々に加えた。有機層を分離し、減圧蒸留(110〜120℃/15mmHg)により精製し、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリル220gを得た。
【0022】
実施例4 2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドの合成(1)
2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸49gにオキサリルクロリド49mL、DMF(ジメチルホルムアミド)1滴を滴下し、1時間還流した。反応終了後、過剰のオキサリルクロリドを減圧下に留去し、粗製の2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸クロリド(油状物質)を得た。1H-NMR(CDCl3) δ= 7.78(1H, d, J = 7.6Hz), 8.50(1H, d, J = 7.6Hz).
次に、得られた2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸クロリドにTHF(テトラヒドロフラン)50mLを加えた溶液を氷冷下、28wt%アンモニア水250mLに、少しずつ滴下した。30分攪拌した後、水を加えて、ろ取し、水洗、乾燥して、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミド40.7g(融点:215〜217℃)を得た。1H-NMR(DMSO-d6) δ= 7.97(1H, bs), 8.00(1H, d, J= 7.4Hz), 8.18(1H, bs), 8.18(1H, d, J= 7.4Hz).
【0023】
実施例5 2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドの合成(2)
2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリル100g中に96vol%硫酸140mLを加え、75℃で2時間攪拌した。反応液を冷水500mL中に投入し析出した結晶を濾取、水洗、乾燥して、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミド108gを得た。
【0024】
実施例6 3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンの合成
2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミド200g及び水1000mlの混合物に氷冷下で11.6wt%次亜塩素酸ナトリウム水溶液432ml、次いで10規定水酸化ナトリウム水溶液190mlを滴下し、90℃で30分間攪拌した。反応混合物を10℃まで冷却し、析出した結晶を濾取、冷水100mlで3回洗浄した後、室温で24時間乾燥して、3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジン(融点:96〜97℃)144gを得た。1H-NMR(CDCl3) δ= 4.47(2H, bs, NH2), 7.09(1H, d, J= 7.8Hz), 7.42(1H, d, J= 7.8Hz).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを溶媒及び塩基の存在下で、次亜塩素酸塩と反応させることを特徴とする3−アミノ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルピリジンの製造方法。
【請求項2】
2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸を塩化チオニル又はオキサリルクロリドと反応させて2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸クロリドを製造し、得られた2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸クロリドをアンモニア水と反応させて2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを製造し、次に、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを次亜塩素酸塩と反応させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
2−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを塩基の存在下でオキシ塩化リンと反応させて2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルを製造し、得られた2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルを濃硫酸と反応させて2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを製造し、次に、2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを次亜塩素酸塩と反応させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸を塩化チオニル又はオキサリルクロリドと反応させて2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸クロリドを製造し、得られた2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチン酸クロリドをアンモニア水と反応させることを特徴とする2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドの製造方法。
【請求項5】
2−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドを塩基の存在下でオキシ塩化リンと反応させて2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルを製造し、得られた2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチノニトリルを濃硫酸と反応させることを特徴とする2−クロロ−6−トリフルオロメチルニコチンアミドの製造方法。

【公開番号】特開2009−235062(P2009−235062A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42981(P2009−42981)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】