説明

3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパノン及びその抗酸化剤としての使用

本発明は、下記式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノン、式(I)の化合物の調製方法並びに製剤及び製品における抗酸化剤としてのその使用に関する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下記式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンの、化粧品及び/又は局所医薬品組成物における抗酸化剤としての使用に関する。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
抗酸化剤は、容易に酸化される化合物(酸化に不安定な化合物)に影響を与えるので、抗酸化剤は、化粧品及び/又は局所医薬品組成物中における前記化合物の有効期間をかなり増加することができる。
従って、天然及び合成抗酸化剤は、多くの異なる化粧品及び/又は局所医薬品で広範な利用を見出す。
言及した化粧品及び/又は局所医薬品分野では、実際に多数の抗酸化活性化合物が既に使用されているが、それにもかかわらず、代替品を探し続けている。しかし、この文脈では、化粧品及び/又は局所医薬品分野で使用する物質は、
−皮膚に許容されやすいものでなければならず、
−毒物学的に許容性でなければならず、
−安定でなければならず(特に通常の化粧品及び/又は局所医薬品製剤で)、
−大部分及び好ましくは弱臭又は完全に無臭でなければならず、
−白色又は実質的に無色でなければならず、かつ
−調製するために安価でなければならない
ことに留意すべきである。
【0004】
ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)のような合成抗酸化剤以外に、自然も、強力な抗酸化特性を有するカロテノイド、アントシアニン、フラボノイド、カテキン又はオリゴマープロシアニジンのような非常に異なる構造タイプの抗酸化剤を与える。高濃度のカテキン又はオリゴマープロシアニジンの(OPC)のようなフェノール系抗酸化剤を含む、消費者に周知の植物由来製品は、それぞれ茶葉エキス及びブドウ種子エキスである。このような化合物の抗酸化効力は、多くの異なる研究グループによって多数のin vitro及びin vivo試験で証明された。
しかし、合成又は天然源の通常の抗酸化剤は、それ自体不安定であり、着色されているので、化粧品及び/又は医薬品製剤の変色をもたらし、化粧品及び/又は医薬完成品の有効期間中に不活性な誘導体に分解する傾向がある。さらに、該抗酸化剤の分解は変色に帰することが多く、完成化粧品及び/又は医薬品製剤の望ましくない褐変にもつながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、安定で、無色かつその抗酸化活性を長い有効期間にわたって維持するため、化粧品及び/又は局所医薬品組成物で有利に使用できる代替抗酸化剤を提供することである。さらに、着色誘導体への分解を起こさないことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンの、化粧品及び/又は局所医薬品組成物における抗酸化剤としての使用にも関する。
【0007】
【化2】

【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、局所医薬品組成物は、局所的に皮膚及び/又は毛髪に適用すべき医薬品組成物を意味する。好ましい局所医薬品組成物は、局所的に皮膚及び/又は毛髪に適用すべき皮膚用組成物である。
本発明において、化粧品組成物は、局所的に皮膚及び/又は毛髪にも適用する。
【0009】
本発明は、式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンが、フリーラジカルの捕捉に対して高い活性を有するので、抗酸化活性薬であり、化粧品及び/又は局所医薬品組成物において抗酸化剤として又は複数の抗酸化剤の1つとして使用できるという驚くべき発見に基づいている。
【0010】
3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンは、毒物学的に許容性であり、皮膚に許容されやすく、通常の化粧品及び/又は局所医薬品製剤で安定であり、担体系に溶解した純粋形で白色固体であり、化粧品及び/又は局所医薬品製剤のような無色の組成物をもたらし、ほとんど無臭であり、バニラビーンズに似たわずかな心地よい香りを示し、かつ調製のために安価である。
【0011】
式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンは、天然又は合成由来のものであってよい。それは文献に以前に記載されたことがない新規化合物である。従って、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンの調製方法、その抗酸化特性及びその化粧品、医療機器及び医薬品での使用も本明細書で初めて開示されるものである。
【0012】
驚くべきことに、発明者らによる調査研究は、式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンが、一般的に知られている抗酸化剤トロロクス(Trolox)(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸)又は緑茶エキスよりかなり良好な優れたラジカル捕捉活性を有することを示した。従って、式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパンは強力な抗酸化活性を有し、化粧品及び/又は局所医薬品組成物における抗酸化剤又は複数の抗酸化剤の1つとして使用することができる。安定性研究は、トロロクス、α-トコフェロール又は緑茶エキスのような一般の抗酸化剤とは対照的に、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパンが非常に安定性のあることを示した。
【0013】
式(I)の3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパノンを用いて、化粧品製剤、医療機器及び医薬品中の酸化に不安定な化合物を酸化的分解及び/又は劣化から保護し、ひいては前記製剤の有効期間を延長することができる。
【0014】
式(I)の3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパノンを食糧、食品、栄養製品及び飲料で使用することもできる。
【0015】
好ましくは3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパノンを前述したように化粧品及び/又は局所医薬品組成物で使用する。局所医薬品組成物は、好ましくは局所適用すべき皮膚用組成物である。
【0016】
好ましくは式(I)の3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパノンを前述したように化粧品及び/又は局所医薬品エマルションで使用する。局所医薬品エマルションは、好ましくは局所適用すべき皮膚用エマルションである。
【0017】
化粧品及び/又は局所医薬品組成物中の式(I)の3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパノンの濃度は、化粧品及び/又は局所医薬品組成物の総質量に基づいて、典型的に0.001〜10wt.-%、好ましくは0.005〜5wt.-%、最も好ましくは0.01〜1.0wt.-%の範囲であってよい。
【0018】
以下の工程を含む製造方法で式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンを得ることができる:
(b)3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロペン-1-オンの還元、好ましくは水素化。
【0019】
以下の工程を含む、式(I)の化合物を得るための製造方法が好ましい:
(a)4-ヒドロキシアセトフェノンとバニリンの反応(縮合)、
(b)工程(a)で得られた3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロペン-1-オンの還元、好ましくは水素化。
【0020】
3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロペン-1-オンは公知化合物であり、例えばDE 1 099 732(ポリカルボナート製造のため)、DE 1 447 016(感光性コマテリアル(comaterial)製造のため)、DE 2 256 961(エポキシ樹脂製造のため)、Chem. Pharm. Bull. 1983, 31(1), 149-155(フェニルアラニン-アンモニア-リアーゼ阻害の研究)、Designed Monomers and Polymers (2003), 6(2), 187-196、High Performance Polymers (2006), 18(2), 227-240及びJ. of Macromolecular Science, Part A: Pure and Applied Chemistry (2005), A42(12), 1589-1602(ポリマーの製造)、Journal of Natural Products (2006), 69(2), 191-195(Allium atroviolaceumで検出)に記載されている。
以下の実施例で本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、開示実施例に限定されない。
【実施例】
【0021】
実施例1:式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンの合成
20gの水酸化ナトリウムを100gのジエチレングリコールジエチルエーテルで希釈し、撹拌しながら120℃まで加熱する。14gのp-ヒドロキシアセトフェノンと15gのバニリンの混合物を1時間にわたって連続的に添加する。さらに20分間の撹拌及び加水分解の後、pHを6〜7に調整する。相分離及び溶媒の蒸発後に25gの結晶性3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン-1-オンが得られる。収率:理論の93%。
10gの3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン-1-オンを100gのテトラヒドロフラン(THF)で希釈し、0.2gの木炭上Pd(Pd/C;Pd含量:5wt.-%、含水量:50wt.-%、それぞれ該触媒の総質量に基づく)を加える。常圧及び周囲温度(約20℃)における3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン-1-オンの水素化後、触媒からの分離及び溶媒の蒸発後に9gの式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンが得られる。収率:理論の89%。
式(I)の化合物の分光学データ:13C-NMR (CDCl3; 75,5 MHz): δ (ppm) = 197,42(s), 161,85(s), 147,24(s), 144,44(s), 132,03(s), 130,37(d), 130,37(d), 128,18(s), 120,27(d), 115,11(d), 115,07(d), 115,07(d), 112,53(d), 55,42(q), 39,30(t), 29,42(t); MS: m/z (%) = M+イオン 272(82), 151(24), 137(77), 121(100), 93(19), 65(22)。
【0022】
実施例2:ABTSアッセイ−式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンの抗酸化能力の測定
本明細書で開示する式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンの抗酸化能をABTSアッセイ、無細胞in vitro試験で評価した。このアッセイ原理は、緑色のカチオンラジカル2,2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアオゾリン6-スルホン酸(Azinobis(3-ethylbenzothiazoline 6-sulfonic acid)(ABTS+)の抗酸化剤による変色によって達成される化学的還元に基づく。734nmにて測光法で変色の程度を測定することができる。式(I)の化合物並びにトロロクス、水溶性α-トコフェロール類似体及び緑茶エキスのような標準的抗酸化剤を5つの濃度について96-ウェルマイクロタイタープレートで試験した。2つの独立実験で各濃度を二重に試験した。式(I)の化合物及び比較例のIC50値を表1に示す。
式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノンのABTS研究は、この新規化学薬品が非常に高い抗酸化能を有し、トロロクス又は緑茶エキスのようないくつかの周知製品よりずっと良い結果を示すことを例証する。従って、式(I)の化合物は、異なるタイプのフリーラジカルによって引き起こされる損傷から生体系を保護するか、又は非常に不安定な容易に酸化する分子を含む製品の有効期間を延長するために非常に好適な新製品である。
【0023】
表1:ABTS法で測定した式(I)の3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパノン、トロロクス(2H-1-ベンゾピラン-2-カルボン酸、3,4-ジヒドロ-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-;6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸)及び緑茶エキスのIC50値:



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の化合物。
【化1】

【請求項2】
前記式(I)の化合物の抗酸化剤としての使用。
【請求項3】
化粧品及び/又は局所医薬品組成物中の酸化に不安定な化合物を保護するため並びに化粧品製剤、医療機器及び医薬品の有効期限を延長するために前記式(I)の化合物を使用する、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
下記成分を含むか又は下記成分から成る抗酸化剤組成物:
(a)抗酸化活性量の前記式(I)の化合物、及び
(b)化合物(a)に適合性である担体系。
【請求項5】
前記組成物が、化粧品組成物、医療機器、医薬品組成物、食糧、食品、栄養製品及び飲料から成る群より選択される、請求項4に記載の組成物。

【公表番号】特表2010−534215(P2010−534215A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517355(P2010−517355)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059183
【国際公開番号】WO2009/013168
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(503236223)シムライズ・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンジツト・ゲゼルシヤフト (51)
【Fターム(参考)】