説明

3次元培養皮膚モデルを用いた紫外線照射実験に適した培地

【課題】3次元培養皮膚モデルの紫外線に対する良好な反応性を引き出し、特に皮膚組織に対する紫外線の影響を感度よく検出することが出来る培地及び評価システムを提供することを目的とする。
【解決手段】人為的に作製した真皮層を有する3次元培養皮膚モデルであって、メラノサイトが表皮基底層に生着した培養皮膚モデルを提供する。更なる上で、この培養皮膚モデルを用いて紫外線照射の影響や紫外線照射に対する薬剤効果の試験を実施する際、培養皮膚モデルの培養培地が、(1)インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコーチゾン、ウシ血清からなる群の中の少なくとも1種類の添加物を含有し、(2)更にメラノサイト活性化因子としてαメラノサイト刺激ホルモン、bFGF、イソブチルメチルキサンチンからなる選択群の中の少なくとも1種類の添加物を含み、かつエンドセリンを含まない培地、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射に反応してメラニン色素産生が亢進する3次元培養皮膚モデルを用いた紫外線照射の影響や紫外線照射に対する薬剤効果を調べる試験を実施する際、皮膚モデルの培養に使用する培地に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動物愛護の観点から実験動物を使用せずに医薬品や化粧品原料の安全性評価等の試験を行う、いわゆる動物実験代替法が盛んに研究されている。その中のひとつとして、皮膚に関する毒性や皮膚科学研究を行うための3次元培養皮膚モデルが種々開発されている。このうち、美白剤研究に用いるため、皮膚モデルの構成細胞としてメラノサイトを含む3次元培養皮膚モデルも開発されている。
【0003】
しかしながら、生体皮膚から分離作成した真皮層(DED;De−epidermis Dermal)の上に表皮角化細胞を重層化して作製した3次元培養皮膚モデルでは、紫外線に反応してメラニン産生が亢進するものは報告されているが(非特許文献1)、人為的に作製した真皮(以下、「真皮同等物」と表現することがある。)層を有する3次元培養皮膚モデルで、且つ、紫外線照射に充分反応する3次元培養皮膚モデルはこれまでに報告が無い。
【0004】
従って、真皮同等物層及び表皮層を有し、且つメラノサイトを有する紫外線照射に充分反応するヒト生体皮膚に極めて近似した3次元培養皮膚モデル、及び該3次元培養皮膚モデルが紫外線照射に対して良好な反応性を示すための最適な培地が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−78224号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Experimental Dermatology, 2003 vol.12, 64−70
【非特許文献2】「機能細胞の分離と培養」,1987年,丸善株式会社,三井洋司ら,p81−89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コラーゲンおよび繊維芽細胞を含む真皮同等物の層を有する3次元培養皮膚モデルを用いて紫外線照射の影響や紫外線照射に対する薬剤の効果を調べる際に、この3次元培養皮膚モデルの紫外線に対する良好な反応性を引き出し、かつ皮膚組織構造を良好に維持することが出来る培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、人為的に作製した真皮層を有する3次元培養皮膚モデルで、且つ紫外線照射に充分反応する3次元培養皮膚モデルが作製できない大きな原因が、メラノサイトが真皮層と表皮層の境界、すなわち表皮基底層に容易には生着しないためであることを見出した。即ち、コラーゲンと線維芽細胞を用いて人為的に作製した真皮層を有する3次元培養皮膚モデルを作製する場合、この真皮層上にメラノサイトを播種し、更に表皮角化細胞を播種して表皮層を形成させると、メラノサイトは表皮基底層に生着することなく表皮角化細胞の増殖による表皮の重層化に伴い表皮上層に押しやられてしまい、間も無くその機能を失ってしまう。
【0009】
上記のような目的を達成するために本発明者は鋭意研究を行った結果、まず3次元培養皮膚モデルを作製する工程において、線維芽細胞およびコラーゲンを含む真皮同等物の上にメラノサイトを播種するに際し、メラノサイト単独では無く線維芽細胞または表皮角化細胞を同時に播種し共存させることによりメラノサイトが効率よく真皮層上に生着することを見出した。我々はこの方法を用いて3次元培養皮膚モデルを作製することによりメラノサイトが表皮基底層に生着した3次元培養皮膚モデルを安定的に作製できることを可能にした。
【0010】
更なる上で、この3次元培養皮膚モデルを用いて紫外線照射の影響や紫外線照射に対する薬剤の効果を調べる試験を実施する際に良好な反応性を示す最適な培地組成を鋭意研究した。その結果、(1)インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコーチゾン、ウシ血清及びケラチノサイト増殖因子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物を含有し、及び(2)更にメラノサイト活性化因子としてαメラノサイト刺激ホルモン、bFGF(basic Fibroblast Growth Factor:塩基性繊維芽細胞成長因子)及びイソブチルメチルキサンチンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物を含み、且つ(3)エンドセリンを含まないことを特徴とする培地が、3次元培養皮膚モデルが紫外線照射に対して良好な反応性を示すための最適な培地組成であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明者は、この3次元培養皮膚モデルに上記培地を適用することにより、紫外線照射の試験を実施する際に、表皮基底層に生着しているメラノサイトを維持、活性化でき、紫外線照射に対する反応性を最大限に引き出すことができることを見出した。その結果、紫外線照射の影響や紫外線照射に対する薬剤の効果を感度良く調べることが出来ることを確認し、ヒト生体皮膚に近似した3次元培養皮膚モデルを使った紫外線照射の影響を評価するシステムを完成させた。
【0012】
すなわち本願発明の概要は以下の通りである。
[項1]
真皮同等物層、表皮層、及びメラノサイトを有する3次元培養皮膚モデルの培養に用いる培地であって、
(1)該培地が、インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコルチゾン、ウシ血清及びケラチノサイト増殖因子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物を含有し、
(2)更に、αメラノサイト刺激ホルモン、bFGF及びイソブチルメチルキサンチンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物を含有し、
(3)且つエンドセリンを含まない培地。
[項2]
項1に記載の培地であって、該培地が、αMEM、DMEM、HamF10、HamF12及び199培地からなる群より選ばれる少なくとも1種類の培地を基礎培地として調製される培地。
[項3]
項1または2に記載の培地であって、該培地がフェノールレッドを含まない培地。
[項4]
3次元培養皮膚モデルを使用して紫外線照射の皮膚に対する影響を調べる際の培養に用いる、項1〜3のいずれかに記載の培地。
[項5]
3次元培養皮膚モデルを使用して紫外線照射に対する薬剤の影響を調べる際の培養に用いる、項1〜3のいずれかに記載の培地。
[項6]
紫外線照射の皮膚に対する影響を調べるための方法であって、真皮同等物層、表皮層、及びメラノサイトを有する3次元培養皮膚モデルを項1〜3のいずれかに記載の培地で培養する工程を含む方法。
[項7]
紫外線照射を受けた皮膚に対する薬剤の影響を調べるための方法であって、真皮同等物層、表皮層、及びメラノサイトを有する3次元培養皮膚モデルを項1〜3のいずれかに記載の培地で培養する工程を含む方法。
[項8]
以下の(4)および(5)の構成を含むキット。
(4)真皮同等物層、表皮層、およびメラノサイトを有する3次元培養皮膚モデル
(5)インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコルチゾン、ウシ血清及びケラチノサイト増殖因子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物、並びにαメラノサイト刺激ホルモン、bFGF及びイソブチルメチルキサンチンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物を含有し、エンドセリンを含まない培地。
【発明の効果】
【0013】
メラノサイトは生体内では表皮基底層に存在しており、真皮同等物層の上にメラノサイトを単独で播種し更に表皮角化細胞を播種する場合には、メラノサイトが生体内とは異なる環境に置かれることによりその機能を失い、生着率が低下すると推察される。しかしながら本発明は、メラノサイトを表皮角化細胞または繊維芽細胞と共存させることによってメラノサイトの細胞環境を生体内の環境により近づけることにより、メラノサイトの生存率が格段に上昇し、生着率を向上させることができた。
【0014】
通常、メラノサイトを含む組織を培養する際に用いられる培地にエンドセリンを加えることが一般的である。しかしながら、紫外線照射を受けた皮膚表皮の表皮角化細胞は、障害を受けた結果、エンドセリンを放出する。そこで、培地にエンドセリンを添加した場合、bFGFとの相乗効果により必要以上のメラニンが産生され、紫外線照射に対する反応を正確に測定することができない。
【0015】
そこで、本発明の培地によれば、紫外線照射によって障害を受けた細胞から放出されたエンドセリンを利用することにより、より生体内の生理作用に近づけることができ、真皮層(真皮同等物層)を有する3次元培養皮膚モデルについての紫外線照射に対する反応性、感度をより向上させて、より正確にヒトの皮膚に対する紫外線照射の影響を調べる実験が可能となった。さらに本発明は、この3次元培養皮膚モデルを使用して、紫外線照射に対する薬剤効果を調べる薬剤評価方法を提供することが可能となった。
【0016】
人為的に作製した真皮層を基に作られた3次元培養皮膚モデルで紫外線照射に充分反応するモデルはこれまでに報告が無く、本発明の培地及び3次元培養皮膚モデルとの組み合わせは、紫外線照射によって引き起こされるシミ、日焼けや皮膚の老化などのメカニズム解明やこうした症状を改善する薬剤の開発等に有用な評価システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を用いた実施例1における、紫外線照射4日後の皮膚組織中メラニン量の比較を示すグラフである。
【図2】本発明を用いた実施例2および比較例における、紫外線照射4日後の皮膚組織中メラニン量の比較を示す表とグラフである。
【図3】本発明を用いた実施例2における、紫外線照射7日後の皮膚組織中メラニン量の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の具体的な実施の形態を説明する。
本発明の培地は、人為的に作製された真皮(真皮同等物)層、表皮層、およびメラノサイトを有する3次元培養皮膚モデルの培養に用いる培地であって、該培地が、
(1)インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコルチゾン、ウシ血清及びケラチノサイト増殖因子からなる群の中の少なくとも1種類の添加物を含有し、
(2)更にメラノサイト活性化因子としてαメラノサイト刺激ホルモン、bFGF及びイソブチルメチルキサンチンからなる群の中の少なくとも1種類の添加物を含み、
(3)かつエンドセリンを含まない培地である。
【0019】
本発明の培地を使用するに当たり好適に用いられる3次元培養皮膚モデルは、例えば以下の方法により作製することが出来る。
まず線維芽細胞およびコラーゲンを含む真皮同等物をトランスウェルなどの支持膜体のある培養基の中に作製する。線維芽細胞は市販されている凍結ヒト線維芽細胞をフラスコで拡大培養し回収したものが好適に用いることができる。
【0020】
コラーゲンと線維芽細胞を混合したものを一定期間培養すると、繊維芽細胞の働きによってコラーゲンが収縮し、真皮同等物が形成される。しかる後に、真皮同等層の上にメラノサイトを播種する。メラノサイトは、市販の凍結ヒトメラノサイトを好適に用いることができる。この場合、フラスコで拡大培養したメラノサイトをトリプシンで消化、分散させた後に回収し、培養液中に懸濁状態にして播種するのが好ましい。
【0021】
本発明における実施態様では、メラノサイト播種を行う際、メラノサイトを真皮同等物上に効率よく接着そして生着させるため、メラノサイトだけではなく、同様に懸濁液状態にした繊維芽細胞あるいは表皮角化細胞を混合するなどして同時に播種することが好ましい。こうすることで、メラノサイトを単独で播種する場合に比べ格段にメラノサイトの生着効率が良くなる。
【0022】
メラノサイト(MC)と線維芽細胞(FB)あるいは表皮角化細胞(KC)の細胞数の比は、MC:FBあるいはMC:KC=1:10〜10:1、好ましくは1:2〜2:1の間が良いが、特に限定はされない。播種する細胞数は皮膚モデルの大きさ等により変化するが、メラノサイトあるいは繊維芽細胞や表皮角化細胞の播種数、液量は当業者であれば適宜選択できる。
【0023】
メラノサイトと線維芽細胞あるいは表皮角化細胞は共存の効果があれば少し時間をずらして別々に播種しても構わず、必ずしも混合して播種する必要はない。
【0024】
また、細胞が凝集塊を形成するのを防ぎ分散性を向上させ、また細胞接着性も向上させる目的で細胞懸濁液に少量のコラーゲンを添加しても構わない。
【0025】
メラノサイトを真皮同等物上に播種した後、一定時間をかけて培養を行い、メラノサイトを生着させる。この工程の培養時間はメラノサイトが接着されるに充分な時間であれば特に限定されないが、8時間以上が好ましく、さらには24時間以上が好ましい。ただし培養時間が長すぎるとこの時点でメラノサイトの色素産生が亢進してしまうため、120時間を越えることは好ましくなく、可能であれば72時間以下が好ましい。メラノサイトが接着したことを確認する方法は、特に限定されないが、例えば、作製した組織切片をフォンタナ・マッソン染色することによりメラノサイトが黒く染まることで確認できる。
【0026】
メラノサイトを生着させた後、表皮層を形成させるために表皮角化細胞を播種し、更に培養する。表皮角化細胞は、市販の凍結ヒト表皮角化細胞をフラスコで拡大培養し回収したものを好適に用いることができる。ここから更に一定期間培養した後(4〜7日が好ましい)、上面を空気に暴露した状態にして更に培養を行い表皮重層化および角質形成をさせて(空気暴露培養)、本発明の3次元培養皮膚モデルを完成させる。
【0027】
3次元培養皮膚モデルの作製に用いられるコラーゲンは特に限定されず、種々のコラーゲンが対象とされるが、I型コラーゲンを好適に利用できる。コラーゲン含有原料としては、コラーゲンを含有する原料であれば何れの材料も使用でき、哺乳類動物(例えば、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ネズミ等)の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器などが例示されるが、好ましくはウシ由来のものが例示される。
【0028】
3次元培養皮膚モデルの作製に用いられる繊維芽細胞は、哺乳類由来のものであれば特に限定されないが、ヒト由来の繊維芽細胞が好ましい。繊維芽細胞は皮膚繊維芽細胞を好適に用いることができる。繊維芽細胞は、胎児由来、新生児由来、成人由来などいずれの年齢由来のものも用いることができる。繊維芽細胞は単一ドナー由来のものでもよく、複数ドナー由来の混合であってもよい。また、初代培養細胞と継代培養細胞のいずれをも用いることができるが、第5代以下の継代培養細胞を用いることが好ましい。
【0029】
3次元培養皮膚モデルの作製に用いられる表皮角化細胞は哺乳類由来のものであれば特に限定されないが、ヒト由来の表皮角化細胞が好ましい。表皮角化細胞は、胎児由来、新生児由来、成人由来などいずれの年齢由来のものも用いることができる。表皮角化細胞は単一ドナー由来のものでもよく、複数ドナー由来の混合であってもよい。また、初代培養細胞と継代培養細胞のいずれをも用いることができるが、第5代以下の継代培養細胞を用いることが好ましい。
【0030】
本発明におけるメラノサイトは、ヒト表皮由来のものを好適に用いることができる。メラノサイトはいずれの年齢由来のものを使用することができるが、好ましくは新生児由来のメラノサイトを用いることができる。黒人由来、白人由来、黄色人種由来のいずれのドナー由来のものを用いることができる。メラノサイトは単一ドナー由来のものでもよく、複数ドナー由来の混合であってもよい。また、初代培養細胞と継代培養細胞のいずれをも用いることができるが、第5代以下の継代培養細胞を用いることが好ましい。
【0031】
ヒト生体皮膚における表皮層に存在する表皮角化細胞(ケラチノサイト)数に対するメラノサイト数の比は約5%であり(非特許文献2参照。)、前記に記載される方法により作製される3次元培養皮膚モデルにおけるメラノサイト数/ケラチノサイト数比は生体皮膚に極めて近似したものである。
【0032】
本発明の3次元培養皮膚モデルの実施態様における、表皮層(表皮基底層を含み、角質層を含まない)に存在する一定断面積当たりの表皮角化細胞数に対するメラノサイト数の比は、1.8%以上であり、好ましくは2.5%以上、より好ましくは3.5%以上であり、更に好ましくは4.5%以上である。空気培養暴露後1日目〜14日目において、これらの数値以上の比を維持していることが好ましい。1.8%以下では皮膚モデルの着色が薄く、目視による黒色化の確認が難しい。一方、表皮層に存在する表皮角化細胞数に対するメラノサイト数の比が大きくなると、ヒト生体に比べてメラニンを多量に産生し、ヒト生体皮膚のモデルとして使用することがはばかられる。したがって、表皮層に存在する表皮角化細胞数に対するメラノサイト数の比は20%以下が好ましく、さらに10%以下であることが好ましい。
【0033】
表皮角化細胞数に対するメラノサイト数の比は、一定断面積あたりのメラノサイトの細胞数を表皮角化細胞の細胞数で割ることにより算出される。一定断面積とは、3次元培養皮膚モデルの縦断面において、表皮層及び表皮基底層を含み、真皮層及び表皮角質層を含まない一定範囲の面積のことをいう。本発明の比の算出における一定断面積は、正方形または円形の2mmであり、この範囲内で細胞数が計測される。
【0034】
また、表皮層に存在する一定断面積当たりのケラチノサイト数に対するメラノサイト数の比を10サンプル測定した場合に、その平均値が3.0%以上であることが好ましく、より好ましくは4.0%以上であり、更に好ましくは4.5%以上である。しかし、表皮層に存在する表皮角化細胞数に対するメラノサイト数の比が大きくなると、ヒト生体に比べてメラニンを多量に産生してしまうため、表皮層に存在するケラチノサイト数に対するメラノサイト数の比は20%以下が好ましく、さらに10%以下であることが好ましい。
【0035】
本発明の実施態様において、本発明は基礎となる培地(基礎培地)にインシュリン、トランスフェリン、ハイドロコルチゾン、ウシ血清、ケラチノサイト増殖因子からなる群より選ばれる1種以上の物質を添加する。
【0036】
本発明に使用される基礎培地としては、αMEM(α‐Minimum Essential Medium)、DMEM(Doulbecco‘s Modified Eagle’s Medium)、BME(Eagle‘s Basal Medium)、EMEM(Eagle’s Minimum Essential Medium)、Ham F12、Ham F10、F12K(Kaighns modified of Ham’s F12)、Leibovitz‘s L−15 medium、McCoy’s 5A、Medium 199(199培地)、RPMI1640、Williams' medium Eなどが例示される。好ましくは、αMEM、DMEM、EMEM、HamF10、Ham F12、199培地であり、より好ましくはαMEM、DMEM、EMEM、Ham F12である。これらの基礎培地は単独で使用してもよいし、混合して使用してもよい。
【0037】
本発明の実施態様においては、更にαメラノサイト刺激ホルモン、bFGF、イソブチルメチルキサンチンなどのメラニン色素産生を促進するメラノサイト刺激因子を含むが、エンドセリンは含まない。エンドセリンはメラニン産生細胞の増殖・色素産生促進剤として知られており(特許文献1)、メラノサイトを含む組織の培養に用いられる培地に通常添加されている。エンドセリンもメラノサイトに働きかけ、メラニン色素合成を促進するが、bFGFと共存することにより、そのメラニン色素促進効果は相乗的に現れる。そのため、培地にエンドセリンを添加した場合、bFGFとの相乗効果により必要以上のメラニンが産生され、紫外線照射に対する反応を正確に測定することができない。一方、紫外線照射を受けた皮膚表皮の表皮角化細胞は、障害を受けた結果、エンドセリンを放出する。従って、本発明の培地にはエンドセリンは含まず、紫外線照射によって障害を受けた細胞から放出されたエンドセリンを利用することにより、より生体内の生理作用に近づけることができ、メラニン合成を促進させメラニン量の変化を感度良く捉えることが可能である。
【0038】
本発明を実施するための形態において、培地の微生物汚染を防ぐために、通常使用される濃度のストレプトマイシン等の抗生物質を添加しても構わない。また、皮膚モデルの外観の黒色化の観察を容易にするため、基礎培地はフェノールレッドフリーのものが好適に使用できる。
【0039】
本発明の培地の使用期間について述べるが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。
3次元培養皮膚モデルを使用した紫外線照射実験は、通常、紫外線を照射してから皮膚モデルの生物学的反応が現れるまで実施する。これは通常、数時間〜2週間程度が適している。本発明の培地は、3次元培養皮膚モデルを用いて紫外線照射に関わる実験を行う際に好適に使用する培地であり、この数時間〜2週間の間の実験期間を含む前後の期間、3次元培養皮膚モデルを維持し、また培養皮膚モデルに含まれるメラノサイトを維持、活性化するために好適に用いることが出来る。
【0040】
3次元培養皮膚モデルを使用して紫外線照射実験を実施する際の方法は、例えば6ウェル細胞培養プレートなどのマルチウェル細胞培養プレートに適合するトランスウェルの多孔性メンブレン上に3次元培養皮膚を作製し、これを実験に用いることが出来る。
【0041】
本発明の培地は、紫外線照射の実験を行う期間の開始時、あるいはその前からこの細胞培養プレートに添加し3次元培養皮膚モデルの培養に使用する。例えば6ウェル細胞培養プレートの各ウェルに1.5mlの培地を添加し、培養皮膚モデルを含むトランスウェルを各ウェルに挿入してこれを培養することができる。2〜3日に1回培地交換し皮膚モデルを培養しながら、その間に紫外線照射実験を行うことが出来る。培地の栄養分はトランスウェル下面の多孔性メンブレンを通じて培養皮膚に効率よく供給される。
【0042】
培養皮膚モデルへの紫外線照射は、この細胞培養プレートの蓋を開けて上方から紫外線を照射することで実施できる。また、トランスウェルを取り出し、別容器へ移して紫外線を照射することもできる。
【0043】
更に、本発明は、上記の培地を当該3次元培養皮膚モデルに適用して紫外線照射の皮膚に対する影響を調べる方法、および、紫外線照射を受けた皮膚に対する薬剤の影響を調べる方法に関する。
【0044】
本発明により紫外線照射への反応性や感度が改善された3次元培養皮膚モデルを用いて、メラニン色素形成のメカニズムの解明や、日焼けやシミに関する生理学的試験を行うことができる。
【0045】
また、これを応用して紫外線照射に対する薬剤の効果を調べ、薬剤評価を行うことが出来る。例えば一定期間、本発明の3次元培養皮膚モデルの上面への紫外線照射と薬剤の添加を繰り返し、その後、皮膚組織内のメラニン量を測定すること等により薬剤の評価を行うことが出来る。薬剤の評価として、例えば薬剤の皮膚の透過性又は吸収性、薬剤有効性や適合性、皮膚への毒性などの試験に利用することができる。本発明に係る3次元培養モデルはヒトの生体皮膚を再現したものであるので、動物実験では完全に再現することのできなかったヒトの皮膚への影響をより正確に試験することができる点で特に有利であり、優れた反応の再現性及び感度を提供する。
【0046】
本発明の別の実施形態は、日焼け止めや美白剤などの化粧品の開発や有効性、安全性等の試験のために3次元培養皮膚モデルを使用する方法である。日焼け止め化粧料には、ベンゾフェノン系化合物、パラアミノ安息香酸化合物、ケイ皮酸系化合物等の紫外線吸収剤や、酸化チタン、微粒子酸化チタン、酸化亜鉛、微粒子酸化亜鉛等の紫外線散乱剤が配合されている。美白剤としては、アルブチン、アスコルビン酸及びその誘導体、コウジ酸、ビタミンC誘導体などがよく用いられている。本発明に係る3次元培養皮膚モデルはヒトの生体皮膚に極めて近似するため、ヒト皮膚の自然な色素形成を再現でき、日焼け止めや美白剤のテストをするのに有利である。また厳しい安全基準が求められる化粧品において、試験における安定した再現性を提供することができる。
【0047】
本発明の別の側面は、3次元培養皮膚モデルおよび紫外線照射実験に適した本発明の培地を含むキットである。キットには、さらに通常の培養に用いられる培地を構成とすることができる。インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコルチゾン、ウシ血清及びケラチノサイト増殖因子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物、並びにαメラノサイト刺激ホルモン、bFGF及びイソブチルメチルキサンチンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物を含有し、エンドセリンを含まない培地は、紫外線照射実験およびその前後にのみ用いることができるが、紫外線照射時以外の培養培地として用いることもできる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び試験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
3次元培養皮膚モデルを用いた紫外線照射実験
1.3次元培養皮膚モデルの作製
(1)培養皮膚支持体コラーゲンゲル(真皮同等物)の作製:
コラーゲンゲル作製方法はベルらの方法(Bell,E.et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA. 第76巻、第1274項、1979)に準じて行った。オルガノジェネシス社から購入したヒト繊維芽細胞を10%(v/v)牛血清含有DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)培地(SIGMA製)にて培養し、サブコンフルエントに達した後、同培地にて細胞を回収し、繊維芽細胞懸濁液を得た。4℃において、9容量のウシI型コラーゲン溶液に1容量の10倍濃度のEMEM(Eagle’s minimal essential medium)培地(ギブコ社製)を加え、重曹をpHが中性付近になるまで攪拌しながら加えた。さらに10%(v/v)量の牛血清を加えた後、上記繊維芽細胞懸濁液を最終細胞濃度が2.5×10個/mlになるようゆっくり加え、良く攪拌した。
【0050】
上記のようにして得られた混合溶液を6ウェル細胞培養プレートに入ったトランスウェル(コースター社製、Code:9103)の内側に3mlずつ加え、室温(18℃から28℃の範囲の温度)にて15分間静置してゲル化させた。上記コラーゲンゲルに10%(v/v)牛血清含有DMEM培地を静かに添加して、37℃、10%(v/v)CO条件下で5〜7日間培養し、繊維芽細胞の作用によってコラーゲンゲルを収縮させた後、培養皮膚の支持体に供した。
【0051】
(2)メラノサイト播種(共培養):
メラノサイトはクラボウ社から購入したメラノサイト(Code:NHEM−MP)を、メラノサイト増殖培地(クラボウ、Code:KM−6350)で培養し、サブコンフルエントに達した時点でトリプシンで消化、分散させた後、同培地にて回収し、メラノサイト懸濁液を得た。同様に、オルガノジェネシス社から購入したヒト表皮角化細胞を、DMEM:HAM F12=3:1を基礎とする増殖培地で培養し、サブコンフルエントに達した時点でトリプシンで消化、充分に分散させた後、同培地にて回収し、表皮角化細胞懸濁液を得た。
【0052】
このメラノサイト懸濁液と表皮角化細胞懸濁液を混合し、メラノサイトと表皮角化細胞
の最終細胞濃度がそれぞれ、1.2×10/ml、2.4×10/mlになるように調製した。また、細胞の分散性を向上させるためコラーゲンを全懸濁液量に対し、1/6量(v/v)加え調製した。
【0053】
(1)で作製した、収縮させたコラーゲンゲル(真皮同等物)の培地を抜き取った後に、このメラノサイトと表皮角化細胞の混合懸濁液を80μl/ウェルづつ真皮同等物層の上に添加した。この後、再び10%(v/v)牛血清含有DMEM培地とメラノサイト増殖培地の等量混合培地を1ウェルあたり9ml添加し、3日間培養しメラノサイトを真皮同等物層に生着させた。
【0054】
(3)表皮角化細胞播種:
表皮角化細胞の播種、培養はベルらの方法(Parenteau,N.L.,et al., J.Cellular Biochem. 第45巻、第245項、1991)に従い行った。すなわち、オルガノジェネシス社から購入したヒト表皮角化細胞をDMEM:HAM F12(Nutrient Mixture F−12 Ham)=3:1を基礎とする増殖培地で培養し、サブコンフルエントに達した時点でトリプシンで消化、充分に分散させた後、Epidemalization 用培地(東洋紡績製)に懸濁して細胞懸濁液を作製した。メラノサイト播種後、3日間培養したコラーゲンゲル(真皮同等物)の培地を抜き取った後に、真皮同等物上に同細胞懸濁液を細胞が0.5×10〜1×10個/cmになるように添加した。次いで、同培地を1ウェルあたり9ml静かに添加し、37℃、10%(v/v)CO条件下で5日間培養し、表皮角化細胞を充分伸展、増殖させた。次に、Ca不含DMEM:HAM F12=1:1を基礎とするMaintenance 用培地(東洋紡績製)を、真皮層が培養液下で、かつ表皮角化細胞が空気中に出るよう添加した(空気暴露培養)。この空気暴露培養を6日間行い、表皮層、角質層を形成させメラノサイト含有3次元培養皮膚モデルを作製した。
【0055】
(4)フォンタナ・マッソン染色
前記方法にて作製した3次元培養皮膚モデルについて、空気暴露培養開始後7日目に皮膚組織をホルマリン固定、パラフィン包埋し、常法通りに組織切片を作製した。作製した組織切片についてヘマトキシリンエオジン染色およびフォンタナ・マッソン染色を施し、表皮形成過程におけるメラノサイトの所在を観察した。
【0056】
2.紫外線照射実験
(1)上記方法にて作製した3次元培養皮膚モデルに紫外線照射装置(DNA−FIX、アトー社)を使って、紫外線(UVB)(波長312nm)を照射した。照射量は、50mJ/cmとし、4日間連続で計4回を照射した。対照群は、紫外線は照射しないで照射群と同様の操作を行った。
【0057】
(2)紫外線照射実験期間中の培地
フェノールレッドを含まないαMEM培地を基礎培地とし、この基礎培地に、インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコルチゾン、1%ウシ胎児血清、および100nMのαメラノサイト刺激ホルモン、3ng/mlのbFGFおよび100nMのイソブチルメチルキサンチンを添加して調製した培地を紫外線実験開始時から実験終了まで使用した。
【0058】
(3)メラニン定量
4回目の紫外線照射から24時間後、メラニン色素を含む中央部分の皮膚組織を直径12mmの大きさで切り取った。切り取った皮膚組織を300μlの1N水酸化ナトリウム溶液中でホモジナイズし、37℃で一晩インキュベートした後、メタノール:クロロホルム(1:2)の混合液を100μl添加し激しく攪拌した。これを遠心分離機(HITACHI社 CF 16RX 型)を用いて11000rpmで10分遠心分離した上清を96ウェルプレートに100μl分取し、415nmの吸光度を測定した(吸光度測定器:Spectra Classic,TECAN社)。同様に処理したメラニン標準液についても測定し、検量線を描いてサンプルのメラニン量を求めた。
【0059】
4日間のUVB照射の後、皮膚組織中のメラニン量を測定した結果、図1に示す通り、UVB照射群では、非照射群に対し、著明にメラニン量が多かった。即ち、本発明の培地を用いた3次元培養皮膚モデルは紫外線照射に対し良好に反応し、メラニン産生量が亢進した。
【0060】
(実施例2)
紫外線照射実験における紫外線照射実験期間中の培地の比較実験
(1)3次元培養皮膚モデルの作製
実施例1と同じ方法でメラノサイトを含む3次元培養皮膚モデルを作製した。
【0061】
(2)紫外線照射実験
(1)で作製した3次元培養皮膚モデルに紫外線照射装置(DNA−FIX、アトー社)を用い、紫外線(UVB)(波長312nm)を照射した。照射量は、50mJ/cmとし、4日間連続で計4回を照射した。対照群は、紫外線は照射しないで照射群と同様の操作を行った。
【0062】
(3)紫外線照射実験期間中の培地(実施例2)
フェノールレッドを含まないαMEM培地を基礎培地とし、この基礎培地にインシュ
リン(5μg/ml)、トランスフェリン(5μg/ml)、ハイドロコルチゾン(0.4μg/ml)、ウシ胎児血清(1%,v/v)、αメラノサイト刺激ホルモン(100nM)、bFGF(3ng/ml)およびイソブチルメチルキサンチン(100nM)を添加し調製した培地を紫外線照射実験開始時から実験終了まで使用した。
【0063】
(4)紫外線照射実験期間中の培地(比較例)
フェノールレッドを含まないαMEM培地を基礎培地とし、この基礎培地にインシュ
リン(5μg/ml)、トランスフェリン(5μg/ml)、ハイドロコルチゾン(0.4μg/ml)、ウシ胎児血清(1%,v/v)、αメラノサイト刺激ホルモン(100nM)、bFGF(3ng/ml)、イソブチルメチルキサンチン(100nM)およびエンドセリン−1(10nM)を添加し調製した培地を紫外線照射実験開始時から実験終了まで使用した。
【0064】
(5)メラニン定量
4回目の紫外線照射から24時間後、メラニン色素を含む中央部分の皮膚組織を直径12mmの大きさで切り取った。切り取った皮膚組織を300μlの1N水酸化ナトリウム溶液中でホモジナイズし、37℃で一晩インキュベートした後、メタノール:クロロホルム(1:2)の混合液を100μl添加し激しく攪拌した。これを遠心分離機(HITACHI社 CF 16RX 型)を用いて11000rpmで10分遠心分離した上清を96ウェルプレートに100μl分取し、415nmの吸光度を測定した(吸光度測定器:Spectra Classic,TECAN社)。同様に処理したメラニン標準液についても測定し、検量線を描いてサンプルのメラニン量を求めた。
【0065】
4日間のUVB照射の後、皮膚組織中のメラニン量を測定した結果、図2に示す通り、実施例2のエンドセリン−1を含まない培地を紫外線照射期間中に用いた場合には、紫外線照射群と非照射群のメラニン量に有意な差が認められたのに対し、エンドセリン−1を含む培地を用いた比較例においては、紫外線照射群と非照射群の差は不明瞭であった。
即ち、本発明の培地を紫外線照射実験に用いることによって、紫外線照射の影響を鋭敏に検出できることが明らかとなった。
【0066】
(実施例3)
紫外線照射に対する美白剤の効果を調べる実験
(1)紫外線照射
実施例1記載の方法で作製した3次元培養皮膚モデルに紫外線照射装置(DNA−FIX、アトー社)を使って、紫外線(UVB)(波長312nm)を照射した。照射量は、50mJ/cmとし、7日間連続で計7回を照射した。
【0067】
(2)紫外線照射実験期間中の培地
フェノールレッドを含まないαMEM培地を基礎培地とし、この基礎培地に、インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコルチゾン、1%ウシ胎児血清、および100nMのαメラノサイト刺激ホルモン、3ng/mlのbFGFおよび100nMのイソブチルメチルキサンチンを添加して調製した培地を紫外線実験開始時から実験終了まで使用した。
【0068】
(3)美白剤の添加
(1)で記載の紫外線照射を行いつつ、皮膚組織上に美白剤であるコウジ酸(1mg/ml、PBSに溶解)を1日1回、紫外線照射直後に50μlづつ添加した(コウジ酸添加群)。対照群には、同様に紫外線照射直後にPBSを50μづつ1日1回添加した。
【0069】
(4)メラニン定量
7回目の紫外線照射から24時間後、メラニン色素を含む中央部分の皮膚組織を直径12mmの大きさで切り取った。切り取った皮膚組織を300μlの1N水酸化ナトリウム溶液中でホモジナイズし、37℃で一晩インキュベートした後、メタノール:クロロホルム(1:2)の混合液を100μl添加し激しく攪拌した。これを遠心分離機(HITACHI社 CF 16RX 型)を用いて11000rpmで10分遠心分離した上清を96ウェルプレートに100μl分取し、415nmの吸光度を測定した(吸光度測定器:Spectra Classic,TECAN社)。同様に処理したメラニン標準液についても測定し、検量線を描いて各サンプルのメラニン量を求めた。
【0070】
図2に示す通り、UVB照射後にコウジ酸を添加した群では、UBV照射後にPBSを添加した群に対して、皮膚組織中のメラニン量が著明に少なかった。即ち、3次元皮膚モデルを用いた紫外線照射実験期間に本発明の培地を用いることにより、紫外線を受けた皮膚に対する薬剤の効果を感度良く検出することが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、真皮層(真皮同等物層)を有する3次元培養皮膚モデルを使用した紫外線照射の影響を感度良く検出する実験が可能となった。さらに、本発明は、この3次元培養皮膚モデルを使用して、紫外線照射を受けた皮膚に対する薬剤効果を調べる薬剤評価方法を提供することが可能となった。これらは、皮膚に関する毒性試験や皮膚科学研究などの産業分野に貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真皮同等物層、表皮層、及びメラノサイトを有する3次元培養皮膚モデルの培養に用いる培地であって、
(1)該培地が、インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコルチゾン、ウシ血清及びケラチノサイト増殖因子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物を含有し、
(2)更に、αメラノサイト刺激ホルモン、bFGF及びイソブチルメチルキサンチンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物を含有し、
(3)且つエンドセリンを含まない培地。
【請求項2】
請求項1に記載の培地であって、該培地が、αMEM、DMEM、HamF10、HamF12及び199培地からなる群より選ばれる少なくとも1種類の培地を基礎培地として調製される培地。
【請求項3】
請求項1または2に記載の培地であって、該培地がフェノールレッドを含まない培地。
【請求項4】
3次元培養皮膚モデルを使用して紫外線照射の皮膚に対する影響を調べる際の培養に用いる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の培地。
【請求項5】
3次元培養皮膚モデルを使用して紫外線照射に対する薬剤の影響を調べる際の培養に用いる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の培地。
【請求項6】
紫外線照射の皮膚に対する影響を調べるための方法であって、真皮同等物層、表皮層、及びメラノサイトを有する3次元培養皮膚モデルを請求項1〜3のいずれか一項に記載の培地で培養する工程を含む方法。
【請求項7】
紫外線照射を受けた皮膚に対する薬剤の影響を調べるための方法であって、真皮同等物層、表皮層、及びメラノサイトを有する3次元培養皮膚モデルを請求項1〜3のいずれか一項に記載の培地で培養する工程を含む方法。
【請求項8】
以下の(4)および(5)の構成を含むキット。
(4)真皮同等物層、表皮層、およびメラノサイトを有する3次元培養皮膚モデル
(5)インシュリン、トランスフェリン、ハイドロコルチゾン、ウシ血清及びケラチノサイト増殖因子からなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物、並びにαメラノサイト刺激ホルモン、bFGF及びイソブチルメチルキサンチンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の添加物を含有し、エンドセリンを含まない培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−92180(P2011−92180A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40234(P2010−40234)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】