説明

3軸電子コンパスを用いた方位測定方法および方位測定装置

【課題】3軸電子コンパスとこれを搭載した撮影装置の姿勢にかかわらず、撮影装置の特定方向、例えば撮影装置の撮影光学系の撮影光軸の方位を正確に測定できる3軸電子コンパスを用いた方位測定方法を得る。
【解決手段】3軸電子コンパスと、この3軸電子コンパスの傾斜を検出する傾斜センサとを用いて3軸電子コンパスに対する特定方向の方位を測定する方位測定方法であって、特定方向と水平面の成す仰角を傾斜センサから取得して、取得した仰角に応じて、3軸電子コンパスから得られる3つの出力値のうち、選択する2つの出力値を切り換える段階と、切り換えられた2つの出力値により地磁気の方位を取得する段階と、傾斜センサから特定方向回りの回転角を取得する段階と、取得した仰角、地磁気の方位、及び回転角に基づいて、切り換えによって発生する特定方向の方位のずれ角を算出する段階と、算出したずれ角により特定方向の方位を補正する段階とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搭載された撮影装置(デジタルカメラ)の姿勢にかかわらず、常に撮影装置の特定方向の方位(例えば撮影装置の撮影光学系の撮影光軸の方位)を正確に測定できる3軸電子コンパスを用いた方位測定方法および方位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子コンパスを搭載した双眼鏡等の機器が知られている。例えば、特許文献1には、視野内に電子コンパスを表示できる双眼鏡が開示されており、特許文献2には、観察されている目標物の方位を視野内に表示する双眼鏡が開示されている。しかし、特許文献1、2にあっては、対物光学系光軸や視線が水平に対して大きく傾いた状態、例えば空、天頂を見上げた状態において、方位を正しく検出することができない。
【0003】
また近年、互いに直交する3軸の地磁気センサを備えた3軸電子コンパスが開発されている。この種の3軸電子コンパスが搭載された携帯電話などの機器は、互いに直交する3軸の地磁気センサが地磁気を検出し、さらに重力方向(機器の前後方向の傾き)を検出して、携帯電話のユーザーが向いている方位を求めている(特許文献3)。
【0004】
さらに、地球の自転により撮影装置に対して相対的に移動(日周運動)する天体を撮影するために、撮影装置を固定したままで、撮影装置の撮像素子を駆動(移動)させながら撮影する天体自動追尾撮影が提案されている(特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−13420号公報
【特許文献2】特開平7−43162号公報
【特許文献3】特開2007−40982号公報
【特許文献4】特開2008−289052号公報
【特許文献5】特開2010−122672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような天体自動追尾撮影では、より精度の高い天体追尾を行うために、撮影装置の撮影光学系が向いている撮影方位を正確に測定する必要がある。
【0007】
しかしながら、特許文献3のような従来の3軸電子コンパスを特許文献4、5のような天体自動追尾撮影に適用して、撮影装置を天頂方向(またはそれに近い方向)に向けた状態で、撮影装置の撮影光学系が向いている撮影方位を測定しようとすると、全く異なる方位が撮影装置の撮影光学系が向いている方位として測定される場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような問題意識に基づき、3軸電子コンパスとこれを搭載した撮影装置の姿勢にかかわらず、撮影装置の特定方向の方位(例えば撮影装置の撮影光学系の撮影光軸の方位)を正確に測定できる3軸電子コンパスを用いた方位測定方法および方位測定装置を得ることを目的とする。
【0009】
本発明の3軸電子コンパスを用いた方位測定方法は、直交3軸地磁気センサを有し該センサから得られる各軸の3つの出力値のうち2つを選択して使用する3軸電子コンパスと、この3軸電子コンパスの傾斜を検出する傾斜センサとを用いて、3軸電子コンパスに対する特定方向の方位を測定する方位測定方法であって、上記特定方向と水平面の成す仰角を上記傾斜センサから取得して、取得した仰角に応じて、上記3軸電子コンパスから得られる3つの出力値のうち、選択する2つの出力値を切り換える段階と、上記切り換えられた2つの出力値により地磁気の方位を取得する段階と、上記傾斜センサから上記特定方向回りの回転角を取得する段階と、上記取得した仰角、地磁気の方位、及び回転角に基づいて、上記切り換えによって発生する上記特定方向の方位のずれ角を算出する段階と、上記算出したずれ角により上記特定方向の方位を補正する段階と、を有することを特徴としている。
【0010】
本発明の3軸電子コンパスを用いた方位測定方法は、取得した仰角が、30°から60°の範囲又は−30°から−60°の範囲にある所定の境界値を超えたときに、上記選択する2つの出力値を切り換えることが好ましい。
【0011】
上記ずれ角を算出する段階は、上記仰角をh、上記回転角をθ、上記ずれ角をΔηとしたとき、ずれ角Δηを下記式3によって算出する段階を含むことができる。
Δη=ArcTan(Tan(θ)/sin(h)) ・・・式3
【0012】
上記特定方向の方位を補正する段階では、上記切り換え後の3軸電子コンパスから取得した方位をA、上記切り換え後の特定方向の実際の方位をA′としたとき、実際の方位A′を下記式4によって算出する段階を含むことができる。
A′=A + Δη ・・・式4
【0013】
本発明の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置は、直交3軸地磁気センサを有し該センサから得られる各軸の3つの出力値のうち2つを選択して使用する3軸電子コンパスと、この3軸電子コンパスの傾斜を検出する傾斜センサとを有し、3軸電子コンパスに対する特定方向の方位を測定する方位測定装置であって、上記特定方向と水平面の成す仰角を上記傾斜センサから取得して、取得した仰角に応じて、上記3軸電子コンパスから得られる3つの出力値のうち、選択する2つの出力値を切り換える切換手段と、上記切り換えられた2つの出力値により地磁気の方位を取得する方位取得手段と、上記傾斜センサから上記特定方向回りの回転角を取得する回転角取得手段と、上記取得した仰角、地磁気の方位、及び回転角に基づいて、上記切換手段による切り換えによって発生する上記特定方向の方位のずれ角を算出するずれ角算出手段と、上記ずれ角算出手段が算出したずれ角により上記特定方向の方位を補正する補正手段と、を特徴としている。
【0014】
上記切換手段は、取得した仰角が、30°から60°の範囲又は−30°から−60°の範囲にある所定の境界値を超えたときに、上記選択する2つの出力値を切り換えることが好ましい。
【0015】
上記ずれ角算出手段は、上記仰角をh、上記回転角をθ、上記ずれ角をΔηとしたとき、ずれ角Δηを下記式3によって算出することができる。
Δη=ArcTan(Tan(θ)/sin(h)) ・・・式3
【0016】
上記補正手段は、上記切り換え後の3軸電子コンパスから取得した方位をA、上記切り換え後の特定方向の実際の方位をA′としたとき、実際の方位A′を下記式4によって算出することができる。
A′=A + Δη ・・・式4
【0017】
本発明の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置は、例えばデジタルカメラに搭載することができ、上記特定方向は搭載されたデジタルカメラの撮影レンズの撮影光軸と平行に設定することができる。
【0018】
本発明の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置は、測定した上記撮影レンズの撮影光軸の方位を表示する表示手段を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、3軸電子コンパスとこれを搭載した撮影装置の姿勢にかかわらず、撮影装置の特定方向の方位(例えば撮影装置の撮影光学系の撮影光軸の方位)を正確に測定できる3軸電子コンパスを用いた方位測定方法および方位測定装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】3軸電子コンパスを搭載したカメラの姿勢と3軸電子コンパスの3軸との関係を示した斜視図である。
【図2】同カメラを水平に構えた場合の、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図3】同カメラを上方に向けた場合の側面図である。
【図4】同カメラを上方に向けた場合の(A)は平面図、(B)は同カメラを撮影光軸回りに回転させた平面図である。
【図5】3軸電子コンパスを回転させて測定した地磁気ベクトルの様子を示したグラフである。
【図6】3軸電子コンパスを回転させて測定した地磁気ベクトルの様子を成分分解して示したグラフである。
【図7】本発明の3軸電子コンパスを備えた方位測定装置を適用したデジタルカメラの実施形態の主要構成要素をブロックで示した図である。
【図8】3軸電子コンパスを用いた方位測定方法および方位測定装置により撮影光軸の向いている方位を算出する動作をフローチャートで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、直交3軸の3軸電子コンパス110を搭載したカメラ10の姿勢と、3軸電子コンパス110の3軸(各地磁気センサの最大感度方向軸)との関係を示した斜視図である。この3軸電子コンパス110は、各地磁気センサによって検出される3つの出力値(電圧値など)のうちの2つの出力値を選択して演算し、地磁気(地磁気線)の方位を検出する構成である。3軸電子コンパス110の3軸は、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸で定義される。図1では、3軸電子コンパス110の3軸地磁気センサの一つが、カメラ10の撮影レンズ101の撮影光軸LOと平行に設定されたY軸と一致している。他の2軸地磁気センサは、カメラ10の底面と平行に設定されたX軸、及びカメラ10の上下方向に設定されたZ軸と一致している。
【0022】
地球上での地磁気(磁力線)は、水平方向を向いていると想定される。地磁気は方向と大きさを有するベクトル(以下「地磁気ベクトル」という)なので、地球上でカメラ10を水平に構えた場合、3軸電子コンパス110のX−Y軸が水平になるように設定されている。地磁気ベクトルとカメラ10及び3軸電子コンパス110の3軸との関係は図2(A)、(B)のようになる。なお、カメラ10を水平に構えた場合とは、撮影光軸LOが水平(水平面と平行)であり、かつカメラ10の底面、あるいはカメラの撮像面の長辺が水平(水平面と平行)な状態をいう。このようにカメラ10を水平に構えた場合、X−Y軸が水平になり、Z軸が鉛直になる。このカメラ10の姿勢が基準位置である。図2ないし図4において、符号Sは地磁気のS極(磁北)方向を、符号Nは地磁気のN極方向を意味している。
【0023】
撮影レンズ101の向きを水平面上で変える(パーンする)と、3軸電子コンパス110のX軸、Y軸と地磁気ベクトルの成す角度が変化して、X軸、Y軸方向の地磁気センサの出力が変動するので、X軸、Y軸方向の地磁気センサの出力を合成して、X軸及びY軸により規定される2軸平面(以下、「X−Y平面」という)内における地磁気ベクトルの方向(磁北)を算出できる。
【0024】
地磁気は大きさと方向を持つベクトルなので、X−Y平面に投影される地磁気ベクトルの大きさが大きいほど、つまりX−Y平面と水平面の成す角度(絶対値)が0°に近いほど、地磁気ベクトルの方向(磁北(S極)方向、方位)を精度良く正確に算出可能である。一方、カメラ10を上向きもしくは下向きに傾けると(チルトさせると)、X−Y平面と地磁気の成す角度(絶対値)が大きくなって、X−Y平面に投影される地磁気ベクトルが小さくなって精度が下がり、最大角90°では投影した地磁気ベクトルの大きさが0となるため、3軸電子コンパス110の精度、正確さが極端に下がってしまう。そのため、カメラ10をX−Y平面と地磁気の成す角度45°より上向きもしくは下向きに傾けた場合は、X−Y平面ではなく、X−Z平面で地磁気を測定した方が精度が良い。そこで、本実施形態では、カメラ10に加速度センサ(3軸加速度センサ、傾斜センサ)120(図7)を搭載し、加速度センサ120によりカメラ姿勢、例えば撮影レンズ101の撮影光軸LOと水平面が成す仰角(仰角及び俯角を含む)hを測定して、仰角hの絶対値45°を境に、3軸地磁気センサが出力する3つの出力値のうちの2つの出力値の選択を切り換える。つまり、地磁気ベクトルが水平の場合、仰角hの絶対値が45°未満になるX−Y平面またはX−Z平面を構成する地磁気センサの出力値に切り換える。以下、特定の2軸の出力値を切り換えることを「2軸地磁気センサに切り換える」、特定の2軸の出力値を使って演算することを「2軸地磁気センサで測定する」と言う。
【0025】
しかし、X−Z平面を構成する2軸地磁気センサで地磁気を測定するように2軸地磁気センサを切り換えると、2軸地磁気センサはX−Z平面内における地磁気ベクトルを測定することになる。図1に示したカメラ10の場合、例えば3軸電子コンパス110で使用する2軸地磁気センサをX−Z平面に対応する2軸地磁気センサに切り換えると、カメラ10の底部と上部が向いているZ軸方向、またはカメラ10の側面が向いているX軸方向の方位を測定することになる。
【0026】
カメラ10で、上述の特許文献4、5のような天体自動追尾撮影をするための追尾データを算出する場合、撮影レンズ101が向いている方位情報が高精度で要求される。しかし、仰角hが45°を超えた状態、つまり3軸電子コンパス110がX−Z平面を構成する2軸地磁気センサに切り換えられた状態でカメラ10を撮影光軸LO回りに回転させるようにカメラ姿勢を変化させた場合、例えば、カメラ10を上方に向けた図3、図4(A)のカメラ姿勢から図4(B)のカメラ姿勢までカメラ10を撮影光軸LO回りに回転させた場合は、撮影レンズ101の向いている方位は変化していないにも関わらず、X−Z平面に対する地磁気ベクトルの向きが変化してしまうため、3軸電子コンパス110は撮影レンズ101の向いている方位とは異なる方位を測定してしまう。
【0027】
そこで、X−Z平面を構成する2軸地磁気センサに切り換えられた3軸電子コンパス110から測定データ(地磁気線の方向、磁北方向のデータ)を得た際に、カメラ10の姿勢を測定する加速度センサ(3軸加速度センサ)120(図7)から、仰角h(撮影光軸LOと水平面の成す角度)と撮影光軸LO回りの回転角θを得て、3軸電子コンパス110の測定データを撮影光軸LOが向いている方位に補正する。加速度センサ120は、仰角hと撮影光軸LO回りの回転角θを検出する傾斜センサとして機能する。
【0028】
より具体的には、例えばカメラ10を水平に構えた状態(撮影光軸LO及びカメラ10の底面が水平面と平行な状態)を回転角θが0°の状態とし、X−Y平面を構成する2軸地磁気センサによって、撮影光軸LOの方位が「北」(N)と検出されているとする。そしてカメラ10をそのまま撮影光軸LO回りに回転させずに仰角hを変化させた場合に、3軸電子コンパス110の地磁気センサがX−Z平面を構成する地磁気センサに切り換わっても、3軸電子コンパス110が測定する撮影光軸LOの方位は「北」のまま変動しないように設定(プログラム)しているとする。さてカメラ10を水平に構えた状態で撮影光軸LO回りに回転角θ=90°回転させてカメラ10を縦撮りの姿勢とした場合は、この時、既にY−Z平面を構成する2軸地磁気センサに切り換わっているので、カメラ10をこの縦撮り姿勢から、撮影光軸LO回りに回転させずに仰角hを変化させると、X−Z平面を構成する地磁気センサに切り換わった時点で、3軸電子コンパス10の指す撮影光軸LOの方位は、先の場合の方位(「北」)に対して90°(または−90°)ずれてしまい、「西」(または「東」)が検出されてしまうので、縦撮りの姿勢(θ=90°)が検出された場合には検出値(方位)を−90°(または+90°)して補正すれば良い。しかし、回転角θが、0°と90°の途中の角度(0°<θ<90°)の場合には、3軸電子コンパス110の検出値(方位)から、回転角と同じ値のθを差し引いただけでは正確な方位が求められない。
【0029】
カメラ10が仰角h傾いて3軸電子コンパス110の2軸地磁気センサが切り換わった状態で撮影光軸LOの正確な方位角を測定する方法を一般化するには、仰角h(45°<h<90°)に応じて傾いたX−Z平面が、地磁気を検出していることを考慮する。すなわち、仰角hが45°の場合と90°の場合において3軸電子コンパス110が同じ方位0°を指し示していても、仰角hが45°の場合と90°の場合ではX−Z平面上に投影された地磁気ベクトルの大きさが異なる。この地磁気ベクトルの大きさの変化は、水平に構えた円を仰角方向に傾けたときに、上から見た様子は楕円となる様子で説明できる。2軸地磁気センサを水平面で回転させたときに地磁気ベクトルによって得られる点を2軸平面上にプロットしていくと円(以下「磁気円」と呼ぶ)を描く(図5、図6参照)。
【0030】
図5で具体的に説明すると、カメラ10を水平線に向けた初期状態から撮影光軸LO回りに回転させず(θ=0°)に仰角hが90°になるまで上向きに傾けて撮影光軸LOが天頂を向いた状態で、カメラ10を撮影光軸LO回りに回転させると、(X−Z平面は水平面と平行なので)X−Z平面に描かれる磁気円(地磁気ベクトルの軌跡)は円軌道となり、X−Z平面は地磁気ベクトルに対して、撮影光軸LO回りに回転させた角度(回転角θ)だけ回転する。この磁気円を単位円として描いたのが図5の軌跡(2)の円弧であり、カメラ10を撮影光軸LO回りに45°回転させた場合(θ=45°)の磁気ベクトルがZ軸の方位を表す方位線(4)となる。縦軸は、初期状態では撮影光軸LO(Y軸)方向であり、撮影光軸LOが天頂を向いた状態ではZ軸の方向である。Z軸の方位線(4)は、撮影光軸LOの初期方向から45°ずれている(回転している)のがわかる。
【0031】
一方、カメラ10を初期状態から、撮影光軸LO回りに回転させずに仰角hが45°になるまでチルトさせると(撮影光軸LOの仰角hを45°にすると)、X−Z平面は水平面に対して45°を成すので、X−Z平面に投影される磁気円が軌跡(1)のように楕円となる。この状態でカメラ10を撮影光軸LO回りに45°回転させると、Z軸の方位は方位線(3)のように撮影光軸LOからもZ軸の方位線(4)のデータからもずれた方位を指すことが分かる。これは、図6の軌跡(2)の撮影光軸LO側の円の直径だけが軌跡(1)のように縮小した形となり、撮影光軸LOと垂直の方向では軌跡(2)も(1)も直径は等しいことに原因がある。つまり、図6に示したように、Z軸の方位線(3)と(4)を直交方向のベクトルα、βとベクトルβ、γに成分分解すると、仰角90°と45°の場合において、ベクトルγの大きさは同一であるが、ベクトルαに対してベクトルβが縮小するため、合成するとZ軸の方位線(3)と(4)のようなずれが生じる。そこで本カメラ10は、このように仰角hの変化により生じる撮影光軸LOの方位と3軸電子コンパス110が測定した方位とのずれを、以下の通り補正する。
【0032】
撮影光軸LOとZ軸の方位線(3)の成す角をΔηとすると、
Δη= ArcTan(ベクトルαの大きさ/ベクトルγの大きさ) ・・・式1
となる。
ベクトルγの大きさは、撮影光軸LO回りの回転角をθとして cos(θ)となる。
ベクトルαの大きさは、楕円の式
(X2)/(a2)+(Y2)/(b2)=1 ・・・式2
において変数Yをベクトルαの大きさと考えると、仰角をhとして、a = 1とおくと、X = cos(θ)、b = sin(h)となるので、ずれ角Δηは、
Δη= ArcTan(((1−(cos(θ)2/a2)1/2)×sin(h))/cos(θ))
=ArcTan(Tan(θ)/sin(h)) ・・・式3
により算出できる。
よって、3軸電子コンパス110から得られている方位Aとずれ角Δηから、2軸地磁気センサの切り換えをおこなった場合の撮影光軸LOの実際の方位A′は、
A′=A + Δη ・・・式4
により算出できる。
【0033】
本発明の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置をデジタルカメラに搭載した実施形態について、図7を参照して説明する。本実施形態のカメラ10は、カメラボディ11と撮影レンズ101(撮影光学系L)を備えている。カメラボディ11内には、撮影光学系Lの後方に撮像手段として撮像センサ13が配設されている。撮影光学系Lの撮影光軸LOと撮像センサ13の撮像面14とは直交している。この撮像センサ13は、撮像センサ駆動ユニット(移動手段)15に搭載されている。撮像センサ駆動ユニット15は、固定ステージと、この固定ステージに対して可動な可動ステージと、該固定ステージに対して可動ステージを移動させる電磁回路とを有しており、可動ステージに撮像センサ13が保持されている。撮像センサ13(可動ステージ)は、撮影光軸LOと直交する所望の方向に所望の移動速度で平行移動制御され、さらに撮影光軸LOと平行な軸(光軸と直交する面内の何処かに位置する瞬間中心)を中心として所望の回転速度で回転制御される。このような撮像センサ駆動ユニット15はカメラの像ブレ補正装置の防振ユニットとして公知である。
【0034】
カメラボディ11には、カメラ全体の機能を制御するCPU(切換手段、方位取得手段、回転角取得手段、ずれ角算出手段、補正手段、演算制御手段)21が搭載されている。CPU21は、撮像センサ13を駆動制御し、撮像センサ13が撮影した画像信号を処理してLCDモニタ23に表示するとともに、メモリーカード25に書き込む。(CPU21には、撮像センサ駆動ユニット15を防振ユニットとして用いる際にカメラに加わる振れを検出するために、X方向ジャイロセンサGSX、Y方向ジャイロセンサGSY、及び回転検出ジャイロセンサGSRが検出した信号が入力される。
【0035】
カメラボディ11は、スイッチ類として、電源スイッチ27、レリーズスイッチ28、設定スイッチ29を備えている。CPU21は、これらのスイッチ27、28、29のオン/オフ状態に応じた制御を実行する。例えば、電源スイッチ27の操作を受けて、図示しないバッテリからの電力供給をオン/オフし、レリーズスイッチ28の操作を受けて焦点調節処理、測光処理及び撮影処理を実行する。設定スイッチ29は、撮影モードなどを選択し、設定するスイッチである。
【0036】
カメラボディ11内には、緯度情報入力手段としてのGPSユニット130、方位情報入力手段としての3軸電子コンパス110、及び仰角、傾斜情報入力手段としての加速度センサ(3軸加速度センサ)120が内蔵されている。CPU21には、GPSユニット130から緯度及び経度情報、3軸電子コンパス110から方位A情報、及び加速度センサ120は、撮影光軸LO回りの回転角θ(カメラボディ11の左右傾斜角)及び仰角h情報が入力される。
【0037】
カメラ姿勢は、カメラボディ11(撮像センサ13)の基準位置からの撮影光軸LOを中心とする回転角θに関する情報と、撮影レンズ101(撮影光軸LO)の仰角hに関する情報である。カメラボディ11(撮像センサ13)の基準位置は、例えば、撮影光軸LOと平行な方向をY軸、矩形の撮像センサ13の長辺方向と平行な方向(普通はカメラボディ11の底面と平行な方向)で撮影光軸LOと直交する方向をX軸としたときに、Y−X平面が水平面となる位置である。そして、カメラボディ11の撮影光軸LO回りの回転角θ(カメラボディ11が基準位置から撮影光軸LO回りに回転したときの回転角)、カメラボディ11が上方または下方に向けられたときに撮影光軸LO(Y軸)と水平面の成す角度が仰角hである。なお、カメラボディ11の基準位置では回転角(左右傾斜角)θは0°、仰角hは0°である。
【0038】
3軸電子コンパス110は、Y軸が撮影光軸LOと平行、X軸がカメラボディ11の撮像センサ13の長手方向と平行、Z軸がX軸及びY軸と直交する方向(撮像センサ13の短手方向と平行)に設定されている。そしてCPU21は3軸電子コンパス110を使って撮影光軸LOの方位(撮影方位)を、カメラボディ11の姿勢にかかわらず測定(算出)する。
【0039】
以上のGPSユニット130、3軸電子コンパス110及び加速度センサ120は、カメラボディ11に内蔵する他、いずれか又は全てをカメラボディ11に対する外付けタイプとしてもよい。具体的には、アクセサリーシュー、又は底板に装着されるブラケットにこれらセンサを装備し、アクセサリーシューの接点を介して、又はUSB等のコネクタを介してCPU21に入力する構成とすることができる。
【0040】
CPU21は、GPSユニット130から入力した緯度経度情報、3軸電子コンパス110から入力した方位A、加速度センサ120から入力した仰角h及び回転角(カメラ姿勢)θ、並びに前述の焦点距離検出装置105から入力した焦点距離情報fを、LCDモニタ23に表示し、撮影情報またはログ情報としてメモリーカード25に記録する。
【0041】
カメラ10による撮影光軸LOの方位測定動作について、図8に示したフローチャートを参照して説明する。このフローチャートに入ると、先ず、CPU21は、加速度センサ120から仰角hを取得する(S11)。次に、CPU21は、取得した仰角hが45°より大きいか−45°より小さいかチェックする(S13)。CPU21は、仰角hが45°より大きくなく、かつ−45°より小さくない場合(−45°≦h≦45°、S13:NO)は、3軸電子コンパス110から方位Aを取得して(S15)終了する。この場合、3軸電子コンパス110は、X−Y軸平面を構成する2軸地磁気センサを使用しているので、3軸電子コンパス110から入力した方位Aが撮影光軸LOの撮影方位と一致している。
【0042】
仰角hが45°より大きいか、−45°より小さい場合(45°<h≦90°または−90°≦h<−45°、S13:YES)は、CPU21は、3軸電子コンパス110に、X−Z軸平面を構成する2軸地磁気センサに切り換える切り換え信号を送る。この切り換え信号を受けた3軸電子コンパス110は、X−Z軸平面を構成する2軸地磁気センサに切り換えて(S17)、切り換えた2軸地磁気センサにより地磁気を測定し、方位Aを出力する。CPU21は、3軸電子コンパス110からこの方位Aを取得する(S19)。続いてCPU21は、加速度センサ120から回転角θを取得する(S21)。3軸電子コンパス110から方位Aを取得するステップ(S19)と加速度センサ120から回転角θを取得するステップ(S21)は、その順序を問わない。つまり、加速度センサ120から回転角θを取得した後に、3軸電子コンパス110から方位Aを取得してもよい。
【0043】
次にCPU21は、仰角hが90°または−90°かどうかを判断する(S22)。仰角hが90°または−90°の場合(S22:YES)は、撮影光軸LOは鉛直上向きまたは鉛直下向きであり、撮影光軸LOの方位は定義できない。また回転角θは取得できない。そこで、方位AはS19で取得した方位のままとし、θ=0°を代入する(S24)。このときLCDモニタ23には「鉛直」等と表示してもよい。仰角hが90°または−90°でない場合(45°<h<90°または−90°<h<−45°、S22:NO)、CPU21は、取得した仰角h、回転角θを式3に代入して、ずれ角Δηを算出する(S23)。さらにCPU21は、取得した方位Aと算出したずれ角Δηを式4に代入して、撮影光軸LOの撮影方位である方位A′を算出する(S25)。
【0044】
以上の処理によりCPU21は、カメラボディ11が天頂等を向いていても、撮影光軸LOの正確な撮影方位である方位A′を算出できる。算出した方位A′は、LCDモニタ23に表示され、また撮影データとしてメモリーカード25に書き込まれる。
【0045】
本発明の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置を搭載したカメラ10は、GPSユニット130も搭載しているので、撮影地点の位置情報(緯度、経度情報)とともに、撮影方位、撮影仰角も記録することができる。また以上で得られた情報を特許文献4、5のような天体自動追尾撮影に用いることで、カメラボディ11の仰角によらず、カメラ(撮影装置)10の撮影レンズ(撮影光学系)101が向いている撮影方位を正確に求めることができ、天体自動追尾撮影用の追尾データを正確に算出することができる。
【0046】
以上の実施形態では、取得した撮影仰角が45°または−45°を超えたときに、2軸地磁気センサをX−Y軸平面からX−Z平面に切り換えている。しかし、2軸地磁気センサを切り換える仰角hの境界値は45°または−45°に限定されず、例えば、30°から60°の範囲内または−30°から−60°の範囲内で適宜設定することができる。
【0047】
以上、本発明の3軸電子コンパスを用いた方位測定方法及び方位測定装置をカメラ10に適用した実施形態について説明したが、本発明は他の機器、例えば、天体望遠鏡、望遠鏡、双眼鏡、カメラ付き携帯電話などの機器に適用できる。
【符号の説明】
【0048】
10 カメラ
11 カメラボディ
13 撮像センサ
15 撮像センサ駆動ユニット
21 CPU(切換手段、方位取得手段、回転角取得手段、ずれ角算出手段、補正手段、演算制御手段)
23 LCDモニタ(表示手段)
25 メモリーカード
28 レリーズスイッチ
29 設定スイッチ
101 撮影レンズ(撮影光学系)
110 3軸電子コンパス
120 加速度センサ(傾斜センサ)
130 GPSユニット(緯度経度情報入力手段)
GSX X方向ジャイロセンサ
GSY Y方向ジャイロセンサ
GSR 回転検出ジャイロセンサ
LO 撮影光軸(特定方向、Y方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交3軸地磁気センサを有し該センサから得られる各軸の3つの出力値のうち2つを選択して使用する3軸電子コンパスと、この3軸電子コンパスの傾斜を検出する傾斜センサとを用いて、3軸電子コンパスに対する特定方向の方位を測定する方位測定方法であって、
上記特定方向と水平面の成す仰角を上記傾斜センサから取得して、取得した仰角に応じて、上記3軸電子コンパスから得られる3つの出力値のうち、選択する2つの出力値を切り換える段階と、
上記切り換えられた2つの出力値により地磁気の方位を取得する段階と、
上記傾斜センサから上記特定方向回りの回転角を取得する段階と、
上記取得した仰角、地磁気の方位、及び回転角に基づいて、上記切り換えによって発生する上記特定方向の方位のずれ角を算出する段階と、
上記算出したずれ角により上記特定方向の方位を補正する段階と、
を有することを特徴とする3軸電子コンパスを用いた方位測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の3軸電子コンパスを用いた方位測定方法において、取得した仰角が、30°から60°の範囲又は−30°から−60°の範囲にある所定の境界値を超えたときに、上記選択する2つの出力値を切り換える3軸電子コンパスを用いた方位測定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の3軸電子コンパスを用いた方位測定方法において、上記ずれ角を算出する段階は、上記仰角をh、上記回転角をθ、上記ずれ角をΔηとしたとき、ずれ角Δηを下記式3によって算出する段階を含む3軸電子コンパスを用いた方位測定方法。
Δη=ArcTan(Tan(θ)/sin(h)) ・・・式3
【請求項4】
請求項3記載の3軸電子コンパスを用いた方位測定方法において、上記特定方向の方位を補正する段階では、上記切り換え後の3軸電子コンパスから取得した方位をA、上記切り換え後の特定方向の実際の方位をA′としたとき、実際の方位A′を下記式4によって算出する段階を含む3軸電子コンパスを用いた方位測定方法。
A′=A + Δη ・・・式4
【請求項5】
直交3軸地磁気センサを有し該センサから得られる各軸の3つの出力値のうち2つを選択して使用する3軸電子コンパスと、この3軸電子コンパスの傾斜を検出する傾斜センサとを有し、3軸電子コンパスに対する特定方向の方位を測定する方位測定装置であって、
上記特定方向と水平面の成す仰角を上記傾斜センサから取得して、取得した仰角に応じて、上記3軸電子コンパスから得られる3つの出力値のうち、選択する2つの出力値を切り換える切換手段と、
上記切り換えられた2つの出力値により地磁気の方位を取得する方位取得手段と、
上記傾斜センサから上記特定方向回りの回転角を取得する回転角取得手段と、
上記取得した仰角、地磁気の方位、及び回転角に基づいて、上記切換手段による切り換えによって発生する上記特定方向の方位のずれ角を算出するずれ角算出手段と、
上記ずれ角算出手段が算出したずれ角により上記特定方向の方位を補正する補正手段と、
を特徴とする3軸電子コンパスを用いた方位測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置において、上記切換手段は、取得した仰角が、30°から60°の範囲又は−30°から−60°の範囲にある所定の境界値を超えたときに、上記選択する2つの出力値を切り換える3軸電子コンパスを用いた方位測定装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置において、上記ずれ角算出手段は、上記仰角をh、上記回転角をθ、上記ずれ角をΔηとしたとき、ずれ角Δηを下記式3によって算出する3軸電子コンパスを用いた方位測定装置。
Δη=ArcTan(Tan(θ)/sin(h)) ・・・式3
【請求項8】
請求項7記載の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置において、上記補正手段は、上記切り換え後の3軸電子コンパスから取得した方位をA、上記切り換え後の特定方向の実際の方位をA′としたとき、実際の方位A′を下記式4によって算出する3軸電子コンパスを用いた方位測定装置。
A′=A + Δη ・・・式4
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれか1項記載の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置において、該方位測定装置はデジタルカメラに搭載されており、上記特定方向は搭載されたデジタルカメラの撮影レンズの撮影光軸と平行に設定されている3軸電子コンパスを用いた方位測定装置。
【請求項10】
請求項9記載の3軸電子コンパスを用いた方位測定装置において、該方位測定装置は、測定した上記撮影レンズの撮影光軸の方位を表示する表示手段を備えている3軸電子コンパスを用いた方位測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−3259(P2013−3259A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132364(P2011−132364)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(311015207)ペンタックスリコーイメージング株式会社 (81)
【Fターム(参考)】