説明

3,3’−ジニトロベンジジン化合物又は3,3’−ジアミノベンジジン化合物の製造方法

【課題】工業的に有用な3,3’−ジニトロベンジジン及び3,3’−ジアミノベンジジンの製造方法、さらに、当該化合物製造のための中間体であるジニトロビフェニル化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるジニトロビフェニル化合物とアンモニアとを反応させることを特徴とする式(2)で表される3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。


(式中、R、Rは、それぞれ分岐、エーテル結合、ベンゼン環を含んでいても良い炭素数1〜8のアルキル基、又は置換基を有していても良いフェニル基を表し、RとRは互いに同一でも異なっていてもよい。また、R、Rは、互いに連結していても良い)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3,3’−ジニトロビフェニル化合物を用いた3,3’−ジニトロベンジジン化合物及び3,3’−ジアミノベンジジン化合物の製造方法に関する。また、本発明は、3,3’−ジニトロビフェニル化合物と該化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,3’−ジニトロベンジジン化合物及び3,3’−ジアミノベンジジン化合物は、ポリマー原料として有用である。特に、ポリカルボン酸化合物との反応により得られるポリアミド、ポリイミド樹脂は、耐熱性樹脂として、航空宇宙産業、自動車産業などの分野において有用である。
【0003】
例えば、3,3’−ジアミノベンジジンは、イソフタル酸ジフェニルエステルとの脱フェノール反応等によりポリベンズイミダゾール(PBI)ポリマー類の調製においてモノマーとして使用される。得られるPBIポリマーは、半導体又はフラットマネルディスプレー製造装置用の部品材料、耐熱性繊維、耐熱性接着剤などとして有用であり、近年は、燃料電池用のための水素伝導物質、炭酸ガス吸収膜等として注目されている。また、3,3’−ジアミノベンジジンと1,2−ジケトン構造を有するポリケトン化合物との反応により得られるキノキサリン樹脂も超耐熱性樹脂あるいは、半導体用低誘電率材料として有用である。
【0004】
従来、3,3’−ジニトロベンジジンを製造する方法について多くの研究がなされている。
古典的な方法として、ベンジジン転移反応を用いて、ベンジジンを中間体とする方法が良く知られている。この方法としては、例えば、まず、ベンジジンを無水酢酸でアセチル化してN,N’−ジアセチルベンジジンを製造し、次いで、得られたN,N’−ジアセチルベンジジンを硝酸により芳香族ニトロ化して3,3’−ジニトロ−N,N’−ジアセチルベンジジンを製造し、さらに、得られた3,3’−ジニトロ−N,N’−ジアセチルベンジジンの保護基を加水分解することにより3,3’−ジニトロベンジジンを製造する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
また、上記方法の改良方法として、まず、4,4’−ジアセチルビフェニルとヒドロキシルアミンとを反応させることにより得られるN−オキシム化合物を転移反応させることにより、N,N’−ジアセチルベンジジンを製造し、次いで、ニトロ化、加水分解を行うことにより、3,3’−ジニトロベンジジンを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかし、これら従来の技術は下記に述べるような問題点を有しており、工業的な実施は困難な情況である。まず非許特許文献1に記載される方法に代表される、ベンジジン転移反応を用いてベンジジンを中間体としてジニトロベンジジンを製造する方法は、中間体のベンジジンの毒性が高く日本では製造禁止物質である。また、その改良法である特許文献1に記載の方法も、ベンジジン誘導体であるN,N’−ジアセチルベンジジンを経由することから、中間体の取り扱いやベンジジンが副生するなどの課題があるため工業化が困難である。
さらに、3,3’−ジニトロベンジジンの合成法としては、下記スキームに示す様に、3,3‘−ジニトロビフェノール(3)と酸化エチレン誘導体、或いは環状炭酸エステル類等の環状化合物を反応させる事で、3,3‘−ジニトロ−4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル誘導体(6)とした後、アンモニアと反応することにより3,3’−ジニトロベンジジン(2)を製造する方法が知られている(特許文献2)。
【0006】
【化1】

【0007】
しかしこの方法は、化合物(3)から化合物(6)に誘導する工程の収率が十分でないこと、化合物(6)から3,3’−ジニトロベンジジン(化合物(2))を製造する反応条件が10時間/160℃と長時間の反応時間及び高温を必要とすること、及び、使用する試薬の性質から化合物(6)の単離が不可欠であることから工業的に有利な方法とは言えない。
3,3’−ジアミノベンジジンを製造する方法については、上記の方法により得られた3,3’−ジニトロベンジジンを還元することにより3,3’−ジアミノベンジジンを合成する方法に加えて、3,3’−ジクロロベンジジンとアンモニアを銅化合物存在下、高温・高圧下(200〜300℃、数十気圧)反応させる事で3,3’−ジアミノベンジジンを製造する方法が知られている(例えば特許文献3〜5参照)。あるいは、3,3’−ジクロロロベンジジンをチタン−スパーオキシド触媒存在下、過酸化水素で酸化し、3,3’−ジクロロロ−4,4‘−ジニトロビフェニルに誘導した後、これとアンモニアを反応させ3,3’−ジアミノ−4,4‘−ジニトロビフェニルとし、これを還元することにより3,3’−ジアミノベンジジンとする方法が知られている(例えば特許文献6参照)。
3,3’−ジアミノベンジジンを製造する方法としては、3,3’−ジニトロベンジジンを還元することにより、3,3’−ジアミノベンジジンを製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。また、3,3’−ジクロロベンジジンとアンモニアを反応させることによっても、3,3’−ジアミノベンジジンを製造できることも知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
しかし、3,3’−ジクロロベンジジンとアンモニアを反応させる方法による3,3’−ジアミノベンジジンの製造方法は、高温高圧下で銅化合物を用いて行われる。そのため、高耐圧且つ、耐腐食性のある設備を必要すること、及び生成物の3,3’−ジアミノベンジジンと銅化合物の親和性が非常に高く分離が困難であり、特殊な精製を必要である等の問題点を有しており工業的な実施が困難である。また、3,3’−ジクロロベンジジンを過酸化水素で酸化し、アンモニアと反応させる方法では、酸化反応を行うにあたりチタン触媒の調製が必要であり、且つ触媒の使用量が多く、収率も低いという問題点を有している。
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,041,666号明細書
【特許文献2】特開2005−320325号公報
【特許文献3】仏国特許第1,475,631号明細書
【特許文献4】米国特許第3,865,876号明細書
【特許文献5】米国特許第3,943,175号明細書
【特許文献6】特表2007−527848号公報
【非特許文献1】J.Poly.Sci.Part A1,1531(1963)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、工業的に有用な3,3’−ジニトロベンジジン及び3,3’−ジアミノベンジジンの製造方法を提供することを目的とする。また、3,3’−ジニトロベンジジン及び3,3’−ジアミノベンジジンを製造するための中間体であるジニトロビフェニル化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、下記式(1)で表される化合物またはこれら化合物の混合物であることを特徴とする新規なジニトロビフェニル化合物を合成原料とする工程を経るルートにより、3,3’−ジニトロベンジジンを効率的に製造できることを見い出した。そして、該ジニトロビフェニル化合物を、アンモニアと反応させることにより3,3’−ジニトロベンジジンを生成しうること、また、3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノールと下記式(3)で表されるスルファモイルクロリド類とを反応させることにより、3,3’−ジニトロビフェニル化合物を製造できることを見い出した。本発明はこれらの知見に基づきなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明は例えば下記の項目からなる。
(1)下記式(1)で表されるジニトロビフェニル化合物とアンモニアとを反応させることを特徴とする式(2)で表される3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R、Rは、それぞれ分岐、エーテル結合、ベンゼン環を含んでいても良い炭素数1〜8のアルキル基、又は置換基を有していても良いフェニル基を表し、RとRは互いに同一でも異なっていてもよい。また、R、Rは、互いに連結していても良い)
【0015】
【化3】

【0016】
(2)90℃から180℃で反応させることを特徴とする(1)記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
(3)反応圧力が、常圧以上、反応温度におけるアンモニアの蒸気圧以下の範囲であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
(4)前記式(1)で表されるジニトロビフェニル化合物が、下記式(3)で表される3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノールと下記式(4)で表される化合物との反応により合成されたものである(1)〜(3)のいずれか1項に記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、R、Rは、それぞれエーテル結合、ベンゼン環を含んでいても良い炭素数1〜8のアルキル基、又は置換基を有していても良いフェニル基を表し、RとRは互いに同一でも異なっていてもよい。また、R、Rは、エーテル結合を含んでいても良い炭素数3〜8のアルキル鎖で互いに連結していても良い)
(5)前記式(4)で表される化合物の置換基R、Rが共にメチル基或いはエチル基であることを特徴とする(4)記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
(6)式(3)の化合物と式(4)の化合物とを塩基存在下に反応させることを特徴とする(4)または(5)に記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
(7)前記式(4)で表されるスルファモイルクロリドの使用量が、上記式(2)で表される3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノール1モルに対して1.9から4.0の範囲であることを特徴とする(4)〜(6)のいずれか1項に記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
(8)(1)〜(6)のいずれかの方法により得られた3,3’−ジニトロベンジジンのニトロ基を還元してアミノ基とすることを特徴とする下記式(5)で表される3,3’−ジアミノベンジジンの製造方法。
【0019】
【化5】

【0020】
(9)下記式(1)で表されるジニトロビフェニル化合物。
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R、Rは、それぞれ分岐、エーテル結合、ベンゼン環を含んでいても良い炭素数1〜8のアルキル基、又は置換基を有していても良いフェニル基を表し、RとRは互いに同一でも異なっていてもよい。また、R、Rは、互いに連結していても良い)
(10)上記、式(1)中、R、Rが、メチル基、エチル基であるか、または、R,Rが連結して−CHCHOCHCH−基として環形成していることを特徴とする(9)記載のジニトロビフェニル化合物。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、工業的に有用な3,3’−ジニトロベンジジンおよび3,3’−ジアミノベンジジンを安価に効率よく製造することができる。また、本発明はその製造方法を可能にする新規中間体を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
本発明の実施の形態の一態様において、下記スキームに示される様に、前記式(3)で表される3,3’−ジニトロ−4,4‘−ビフェノールと前記式(4)で表されるスルファモイルクロリド化合物を塩基存在下反応させ、前記式(1)で表される3,3’−ジニトロビフェニル化合物を製造する工程を行う。
【0025】
【化7】

【0026】
次に下記スキームに示される様に、前記式(1)で表される3,3’−ジニトロビフェニル化合物とアンモニアをを反応させることにより、3,3’−ジニトロベンジジンを製造する第2工程を行う。
【0027】
【化8】

【0028】
さらには、下記スキームに示される様に、3,3’−ジニトロベンジジン(2)についてニトロ基の還元反応に供することにより3,3’−ジアミノベンジジン(5)を製造する第3工程からなる。
【0029】
【化9】

【0030】
次に本発明で使用される式(1)、式(4)で表される化合物について詳しく述べる。
式(1)及び式(4)において置換基R、Rは、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、環状アルキル基等のアルキル基、エーテル結合を有するアルコキシアルキル基、ベンゼン環を含むフェニルアルキル基、及び置換フェニル基を表し、これらの置換基は、炭素数1〜8の炭素を含み、置換基R、Rは互いに同じでも異なっていても良い。更に置換基R、Rは、先に規定した置換基を介して連結していても良い。上記、置換フェニル基上の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子の中から選ばれる。
置換基R,Rは、好ましくは、置換基R、Rが同じであり、炭素数1〜4で構成される直鎖アルキル基、分岐アルキル基、またはエーテル結合を有するアルコキシアルキル基であり、或いは、R,Rがエーテル基を含んでいても良い炭素数4〜6のアルキル基で連結された環状の置換基であり、より好ましくは、置換基R、Rが共に、メチル基、エチル基である事、あるいはR,Rが連結して−CHCHOCHCH−基によって環形成する置換基である。
【0031】
次に本発明の式(1)で表される化合物の具体例を下記に示すが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0032】
【化10】

【0033】
次いで、本発明における各反応工程について説明する。
まず、第1工程について説明する。本工程は、式(3)で表される3,3‘−ジニトロ−4,4’−ビフェニルと式(4)で表されるスルファモイルクロリド化合物を塩基存在下、反応させ式(1)で表される3,3‘−ジニトロビフェニル化合物を合成する工程である。
ここで使用される式(3)で表される3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノールは、一般に既知の方法を用いて製造することができる。例えば、欧州特許1277727に示されているように、工業的に入手可能な4,4’−ビフェノールと硝酸を反応させる方法により製造することができる。具体的には、4,4’−ビフェノールを塩化メチレンに懸濁させておき、0℃から5℃の温度範囲で、70%硝酸を滴下し生成した黄褐色の固体を濾過、洗浄、乾燥することにより、3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノールを高収率、高純度で得ることができる。
また、式(4)で表されるスルファモイルクロリド化合物は、R、Rが共にメチル基或いはエチル基であるものが容易に入手できるが、特開平3−127769号公報に記載の方法を参考に種々のスルファモイルクロリド化合物を合成し用いても良い。
本工程を実施するにあたり、生成物の着色を防ぐために窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で反応を行うことが好ましい。また、この反応は無溶媒で行っても良いし適当な溶媒に溶解又は分散して行っても良い。
【0034】
本発明の第1工程に用いる事の出来る溶媒としては、水、アルコール(例えば、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール等)、芳香族系溶媒(例えば、トルエン、アニソール、クロロベンゼン、アセトフェノン等)、アミド系溶媒(例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等)、尿素系溶媒(例えば、N,N‘−ジメチルイミダゾリドン)エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ニトリル系溶媒(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等)、スルホン系溶媒(例えば、スルホラン等)、または炭化水素系溶媒(例えば、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等)が挙げられる。
これらの溶媒は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。溶媒の使用量は、式(3)で表される化合物の1質量部当たり、通常0.1〜1000質量部、好ましくは、0.5〜100質量部、さらに好ましくは1〜50質量部の割合である。
本反応における式(3)で表される3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノールと式(4)で表されるスルファモイルクロリド化合物との反応における、3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノール1モルに対する式(4)で表されるスルファモイルクロリド化合物の使用量は、1.0倍モル〜10倍モルが好ましく、1.8倍モル〜6倍モルがさらに好ましく、特に好ましくは2倍モル〜4倍モルである。
また、本工程において、好ましくは塩基を用いることが好ましい。本工程に用いることができる塩基としては、例えば、水酸化化合物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等、水酸化テトラブチルアンモニウム等)、炭酸化合物(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、リン酸化合物(リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等)、3級アミン類(トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、DABCO等)、含窒素ヘテロ環化合物(DBU等)の有機塩基、アルコキシド化合物(ナトリウムメトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシド等)などが挙げられる。
【0035】
これら塩基は一種単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。塩基の使用量は、式(3)で表される化合物の1モル当たり、通常0.2〜20モル、好ましくは、1.0〜10モル、さらに好ましくは2〜5モルの割合である。
本発明の方法において、水酸化化合物、炭酸化合物、またはリン酸化合物等の無機塩基を用いる場合、相間移動触媒を使うことも好ましい。このような相間移動触媒としてはアンモニウム塩(例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムヨージド)、ホスホニウム塩(例えば、テトラブチルホスフィニウムブロミド)などが挙げられ、このうちアンモニウム塩が好ましく使用される。相間移動触媒の使用量としては、式(3)で表される化合物の1モル当たり、好ましくは0.001 〜 2モル、より好ましくは0.01〜1モル、さらに好ましくは0.05〜0.5モルの割合で使用される。
本反応の第1工程における反応温度は特に制限はないが、0〜150℃の範囲が好ましく、20〜130℃の範囲がより好ましく、40〜100℃の範囲が特に好ましい。
【0036】
次いで、本発明における第2工程について説明する。本工程は、式(1)で表される3,3‘−ジニトロビフェニル化合物とアンモニア或いはアルカリ金属アミド等のアミノ化剤を反応させ式(2)で表される3,3’−ジニトロベンジジンを製造する工程である。
本反応において用いられるアミノ化剤としては、アルカリ金属アミド(リチウムアミド、ナトリウムアミド等)、アンモニアなどを用いることができるが、アンモニアを用いることがより好ましい。アンモニアとしては、アンモニアガス、液化アンモニア、アンモニア水、又は、アンモニアガス又は液化アンモニアを有機溶媒に溶解した溶液など、種々の形態で使用することができる。
本反応においてアミノ化剤としてアルカリ金属アミドを用いる場合の式(1)で表される3,3‘−ジニトロビフェニル化合物1モル対するアルカリ金属アミド使用量は、2.0〜4モルが好ましく、2.0〜3.0モルが更に好ましい。
また、本反応においてアミノ化剤としてアンモニアを使用する場合の式(1)で表される3,3‘−ジニトロビフェニル化合物1モル対するアンモニアの使用量は、1〜200モルの範囲が好ましく、2〜100モルが更に好ましく、4〜40モルが特に好ましい。
【0037】
本工程の反応において、アミノ化剤としてアルカリ金属アミドを用いる場合、溶媒を用いて反応を行うことが好ましく、この方法に用いることができる溶媒としては、エーテル系溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等)、芳香族系溶媒(例えば、トルエン、エチルベンゼン、アニソール)、アミド系溶媒炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等)が挙げられる。これらの溶媒は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。溶媒の使用量は、式(1)で表される化合物の1質量部当たり、通常0.1〜1000質量部、好ましくは、0.5〜100質量部、さらに好ましくは1〜50質量部の割合である。
本工程の本反応においてアミノ化剤としてアンモニアを使用する場合、反応は無溶媒で行っても良いし適当な溶媒に溶解又は分散して行っても良い。溶媒を用いる場合は、溶媒にアンモニアガス、液化アンモニアを溶解して反応に用いる事も出来る。
この方法に用いる事の出来る溶媒としては、水、アルコール(例えば、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール等)、芳香族系溶媒(例えば、トルエン、アニソール、クロロベンゼン)、アミド系溶媒(例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等)、尿素系溶媒(例えば、N,N‘−ジメチルイミダゾリドン)エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ニトリル系溶媒(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等)、スルホン系溶媒(例えば、スルホラン等)、または炭化水素系溶媒(例えば、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等)が挙げられる。
【0038】
これらの溶媒は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。溶媒の使用量は、式(1)で表される化合物の1質量部当たり、通常0.1〜1000質量部、好ましくは、0.5〜100質量部、さらに好ましくは1〜50質量部の割合である。
【0039】
本工程の反応において、アミノ化剤としてアルカリ金属アミドを用いる場合、反応温度は−20〜100℃が好ましく、更に好ましくは0〜80℃であり、特に好ましくは、20〜70℃の範囲である。
本工程の本反応においてアミノ化剤としてアンモニアを使用する場合、反応温度には特に制限は無いが、40〜200℃の範囲が好ましく、60〜150℃の範囲がより好ましく、80℃〜140℃の範囲が特に好ましい。
また、反応圧力は、常圧以上、反応温度におけるアンモニアの蒸気圧以下の範囲であることが望ましく、通常、0.5MPaから3MPaで反応することができる。
【0040】
次いで、第3工程は、3,3’−ジニトロベンジジンを工業的に有用な3,3’−ジアミノベンジジンに還元する工程である。
本工程の還元方法としては、ニトロ基の還元によるアミノ基への変換手法として一般的に広く用いられる方法を用いることができ、工業的に一般に用いられている水硫化ナトリウム、硫化ナトリウムなどの硫黄系還元剤を使用する方法や、水素/金属触媒、ヒドラジン/金属触媒やギ酸/金属触媒とを用いた還元反応、および、塩化第一錫を用いる還元反応などを利用する事が出来る。その反応条件等は、周知の方法に従って定めることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
〔参考例1〕
攪拌機、ジムロート冷却管、温度計を備えた四つ口フラスコに、4,4’−ビフェノール(東京化成製試薬150.0g)と塩化メチレン(和光純薬特級975ml)を仕込み激しい攪拌下、冷メタノールバスで冷却した。反応混合物が1℃以下となったときに、69%硝酸(和光純薬試薬174g)を、反応温度が−5〜5℃となるように滴下した。滴下終了後、反応混合物を室温に戻し、30分間攪拌した。反応混合物を濾過、N,N−ジメチルアセトアミド洗浄(200ml)、5℃以下に冷却した冷メタノール洗浄(200ml×2回)し、wet結晶335gを得た。これを真空乾燥することにより、黄褐色粉末として3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノール202.1g(収率90.8%)が得られた。この黄褐色粉末の高速液体クロマトグラフ分析(以下HPLC分析)を行ったところ、そのHPLCエリア純度は97.5%であった。
【0043】
HPLC分析条件:
カラム=Toso ODS80Ts(4.6mmφ×150mm)
溶離液=蒸留水(450ml)、アセトニトリル(550ml)、トリエチルアミン(2ml)、及び酢酸(2ml)の混合溶液。
分析温度=40℃
流量=1ml/min.
検出器=UV(254nm)
注入量:20μl
サンプル調整:試料粉末10mgを100mlメスフラスコに秤量し、アセトニトリル90ml程度を加え、超音波で溶解し、アセトニトリルを加え100mlの溶液とする。
【0044】
(実施例1)
窒素雰囲気下、4,4‘−ビフェノールから既存の方法により合成された3,3’−ジニトロ−4,4‘−ビフェノール200.0g(724mmol)、N−メチルピロリドン400mlを攪拌機、コンデンサー及び塩化カルシウム管を備えた4つ口フラスコに仕込み、室温でジメチルスルファモイルクロリド224.6g(1,564mmol)を滴下し、外設70℃のウォーターバスで昇温し、内温が45℃になってから、ジイソプロピルエチルアミン224.6g(1,738mmol)を1〜1.5時間掛けて滴下した。滴下終了後、外設70℃のウォーターバス中で2時間反応を行った。反応終了後、60℃以下まで反応液を冷却し、内温40℃以上を保ってメタノール800mlを滴下した。更に同温にて水80mlを滴下後、内温5℃まで冷却し、同温で30分間攪拌し、結晶を減圧濾過し、結晶を冷メタノール(5℃以下に冷却)で洗浄、減圧乾燥することにより、淡黄褐色の結晶として、3,3’−ジニトロ−4,4‘−ビス(N,N−ジメチルアミノスルホキシ)ビフェニル(1a)300.2g(収率84.5%)を得た。。融点231−232℃。この淡黄褐色の結晶のHPLC分析を行った所、HPLCエリア含量98.7%であった。
H−NMR(CDCl3):δ(ppm)=3.097(12H,s,CH3),7.767(2H,d,J=8.8Hz,5−and 5’−H),7.838(2H,dd,J=2.4,8.8Hz,6−and 6’−H),8.174(2H,d,J=2.4Hz,2−and 2’−H).
【0045】
HPLC分析条件:サンプル調整以外の条件は(参考例)のHPLC分析条件と同じ。
サンプル調整:試料粉末10mgを50mlメスフラスコに秤量し、アセトニトリル45ml程度を加え、超音波で溶解し、アセトニトリルを加え100mlの溶液とする。
【0046】
(実施例2)
窒素雰囲気下、3,3’−ジニトロ−4,4‘−ビフェノール200.0g(724mmol)、N−メチルピロリドン100ml、トルエン400ml、及びジイソプロピルエチルアミン224.6g(1,738mmol)を攪拌機、コンデンサー及び塩化カルシウム管を備えた4つ口フラスコに仕込み、外設70℃のウォーターバスで昇温し、内温が45℃になってから、ジメチルスルファモイルクロリド224.6g(1,564mmol)を1〜1.5時間掛けて滴下した。滴下終了後、外設70℃のウォーターバス中で3時間反応を行った。反応終了後、60℃以下まで反応液を冷却し、内温40℃以上を保ってメタノール1000mlを滴下した。その後、内温0℃まで冷却し、同温で30分間攪拌後、結晶を減圧濾過した。この結晶を5℃以下に冷却したメタノール/水=90/10(v/v)溶液で洗浄し減圧乾燥することにより、淡黄褐色の結晶として、3,3’−ジニトロ−4,4‘−ビス(N,N−ジメチルアミノスルホキシ)ビフェニル(1a)316g(収率89.0%)を得た。この淡黄褐色の結晶のHPLC分析を行った所、HPLCエリア含量98.1%であった。
【0047】
(実施例3)
窒素雰囲気下、3,3’−ジニトロ−4,4‘−ビフェノール20.0g(72.4mmol)、ピリジン15ml、トルエン60ml、およびトリエチルアミン18.32g(181.0mmol)を攪拌機、コンデンサー及び塩化カルシウム管を備えた4つ口フラスコに仕込み、外設70℃のウォーターバスで昇温し、内温が45℃になってから、ジメチルスルファモイルクロリド22.9g(159.5mmol)を0.5〜1時間掛けて滴下した。滴下終了後、外設70℃のウォーターバス中で4時間反応を行った。反応終了後、60℃以下まで反応液を冷却し、内温40℃以上を保ってメタノール100mlを滴下した。メタノール滴下後、内温0℃まで冷却し、同温で30分間攪拌し、結晶を減圧濾過し、結晶を5℃以下に冷却したメタノール/水=90/10(v/v)溶液で洗浄し減圧乾燥することにより、淡黄褐色の結晶として、3,3’−ジニトロ−4,4‘−ビス(N,N−ジメチルアミノスルホキシ)ビフェニル(1a)32.3g(収率91.0%)得た。この淡黄褐色の結晶のHPLC分析を行った所、HPLCエリア含量97.9%であった。
【0048】
(実施例4)
圧力計を備えた500mlのステンレス製オートクレーブに、3,3’−ジニトロ−4,4‘−ビス(N,N−ジメチルアミノスルホキシ)ビフェニル(1a)50.0g(101.9mmol)と28%アンモニア水200mlを仕込み、バス温120℃のオイルバス中で4時間反応させた。反応容器を冷却後、反応混合物はスラリーとなっていた。このスラリーを濾過、水洗、減圧乾燥することにより、赤橙色の粉末25.4gが得られた。この粉末は、市販の3,3’−ジニトロベンジジンと融点及び、HPLC分析における保持時間が一致した。収率91%。HPLCエリア含量:97.9%、融点:274−275℃。
HPLC分析条件:(参考例)記載のHPLC分析条件と同じ。
【0049】
(実施例5)
圧力計を備えた500mlのステンレス製オートクレーブに、3,3’−ジニトロ−4,4‘−ビス(N,N−ジメチルアミノスルホキシ)ビフェニル(1a)50.0g(101.9mmol)、N−メチルピロリドン50ml、及び28%アンモニア水200mlを仕込み、バス温120℃のオイルバス中で3時間反応させた。反応容器を冷却後、反応混合物はスラリーとなっていた。このスラリーに水150mlを加え30分間攪拌後、スラリーを濾過、水洗、減圧乾燥することにより、赤橙色の粉末24.8gが得られた(収率88.7%)。この粉末のHPLC分析におけるHPLCエリア含量は98.9%であった。
【0050】
(実施例6)
攪拌機、ジムロート冷却管、温度計を備えた300mlの三つ口フラスコに、実施例4で製造した3,3’−ジニトロベンジジン10.0g(36.5mmol)、硫化ナトリウム9水和物61.3g(256mmol)、水80ml、およびメタノール20mlを投入し、80℃で5時間攪拌した。放冷後、このスラリーを濾過、水洗、減圧乾燥することにより淡茶褐色の粉末が6.65g得られた。この粉末は、市販で入手可能な3,3’−ジアミノベンジジンと融点及びHPLC分析による保持時間が一致する事を確認した。収率85%。HPLCエリア含量:97.9%。融点:176−177℃
【0051】
HPLC分析条件:
カラム=Toso ODS80Ts(4.6mmφ×150mm)
溶離液=蒸留水(700ml)、アセトニトリル(300ml)、トリエチルアミン(2ml)、及び酢酸(2ml)の混合溶液。
分析温度=40℃
流量=1ml/min.
検出器=UV(254nm)
注入量:20μl
サンプル調整:試料粉末10mgを100mlメスフラスコに秤量し、溶離液90ml程度を加え、超音波で溶解し、溶離液を加え100mlの溶液とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジニトロビフェニル化合物とアンモニアとを反応させることを特徴とする式(2)で表される3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
【化1】

(式中、R、Rは、それぞれ分岐、エーテル結合、ベンゼン環を含んでいても良い炭素数1〜8のアルキル基、又は置換基を有していても良いフェニル基を表し、RとRは互いに同一でも異なっていてもよい。また、R、Rは、互いに連結していても良い)
【化2】

【請求項2】
90℃から180℃で反応させることを特徴とする請求項1記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
【請求項3】
反応圧力が、常圧以上、反応温度におけるアンモニアの蒸気圧以下の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
【請求項4】
前記式(1)で表されるジニトロビフェニル化合物が、下記式(3)で表される3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノールと下記式(4)で表される化合物との反応により合成されたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
【化3】

(式中、R、Rは、それぞれエーテル結合、ベンゼン環を含んでいても良い炭素数1〜8のアルキル基、又は置換基を有していても良いフェニル基を表し、RとRは互いに同一でも異なっていてもよい。また、R、Rは、エーテル結合を含んでいても良い炭素数3〜8のアルキル鎖で互いに連結していても良い)
【請求項5】
前記式(4)で表される化合物の置換基R、Rが共にメチル基或いはエチル基であることを特徴とする請求項4記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
【請求項6】
式(3)の化合物と式(4)の化合物とを塩基存在下に反応させることを特徴とする請求項4または5に記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
【請求項7】
前記式(4)で表されるスルファモイルクロリドの使用量が、上記式(2)で表される3,3’−ジニトロ−4,4’−ビフェノール1モルに対して1.9から4.0の範囲であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の3,3’−ジニトロベンジジンの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかの方法により得られた3,3’−ジニトロベンジジンのニトロ基を還元してアミノ基とすることを特徴とする下記式(5)で表される3,3’−ジアミノベンジジンの製造方法。
【化4】

【請求項9】
下記式(1)で表されるジニトロビフェニル化合物。
【化5】

(式中、R、Rは、それぞれ分岐、エーテル結合、ベンゼン環を含んでいても良い炭素数1〜8のアルキル基、又は置換基を有していても良いフェニル基を表し、RとRは互いに同一でも異なっていてもよい。また、R、Rは、互いに連結していても良い)
【請求項10】
上記、式(1)中、R、Rが、メチル基、エチル基であるか、または、R,Rが連結して−CHCHOCHCH−基として環形成していることを特徴とする請求項9記載のジニトロビフェニル化合物。

【公開番号】特開2010−83809(P2010−83809A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255248(P2008−255248)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】