説明

3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法、及びそれを用いたポリイミド

【課題】 着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を容易に得ることができる精製方法提供すること、およびその精製方法によって得られた着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を用いて透過性が良好なポリイミドを得ることを目的とする。
【解決手段】 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が0.1g/100g以上の溶剤と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とを、少なくとも一部の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を分離回収することを特徴とする3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物二無水物粉末の精製方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法、及びそれを用いたポリイミドに関する。ここで、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とし、実質的に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる化学原料として好適に用いられる粉末のことである。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会の到来に伴い、光通信分野の光ファイバーや光導波路等、表示装置分野の液晶配向膜やカラーフィルター用保護膜等の光学材料の開発が進んでいる。さらに表示装置分野では、ガラス基板代替として軽量でフレキシブル性に優れたプラスチック基板の検討が行なわれ、それを用いて曲げたり丸めたりすることが可能なディスプレイの開発が進んでいる。
【0003】
ポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られる樹脂であって、高寸法安定性や高耐熱性などの優れた特性を有することから高性能光学材料としての用途展開が望まれている。しかしながら、ポリイミドはその化学構造に起因して容易に着色が起こるのみならず、原料のテトラカルボン酸成分やジアミン成分においても着色を抑制することが容易ではなかった。
【0004】
ポリイミドのテトラカルボン酸成分の原料の一つに、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がある。
特許文献1には、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物を加熱溶融させた後、減圧下、系内の酸素濃度を10ppm以下に保ちながら、307℃以上330℃以下の温度で蒸発させ、その蒸気を冷却し結晶化することによって、着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物を得ることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を、特定の加熱装置を用い、特定の圧力条件下、最高到達温度を210℃〜250℃の範囲内とし、特定の昇温速度で昇温し、且つ150℃〜250℃に特定の時間保持することによって脱水環化して3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を得ること、得られた3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を、さらに250℃以上の温度で、減圧下昇華精製処理して、着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物を得ることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルを加水分解、脱水し、溶媒中で吸着剤を加え濾過後、再結晶することからなるビフェニルテトラカルボン酸無水物の精製方法が記載され、再結晶に用いる溶媒として無水酢酸が好適であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−314296号公報
【特許文献2】特開2006−45198号公報
【特許文献3】特開2004−196687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2の製造方法によって、着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が得られている。しかしながら、特許文献1,2の製造方法は、加熱溶融後に減圧下で特定の酸素濃度雰囲気下高温で蒸発させるための装置や、無水化のための特殊な構造を持った加熱装置などの大掛かりな設備が必要であり、設備コストの面でも問題があった。また厳しい操作条件下で複雑な操作が要求されるという問題があり、改善が求められていた。
特許文献3の製造方法では、アルカリ金属を低減した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が得られている。しかしながら、無水酢酸での再結晶では、着色の低減の効果は十分ではなかった。
【0009】
本発明は、大掛かりな設備を必要とせず、温和な条件下簡便な操作による方法によって、着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を容易に得ることができる精製方法について、種々検討した結果なされたものである。
すなわち本発明は、大掛かりな設備を必要とせず、温和な条件下で簡便な操作による方法によって、着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を容易に得ることができる精製方法提供すること、およびその精製方法によって得られた着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を用いて透過性が良好なポリイミドを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の各項に関する。
1. 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が0.1g/100g以上の溶剤と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とを、少なくとも一部の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を分離回収することを特徴とする3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物二無水物粉末の精製方法。
【0011】
2. 溶剤の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が、1g/100g以上であることを特徴とする前記項1に記載の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0012】
3. 溶剤が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンであることを特徴とする前記項1または2に記載の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0013】
4. 分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率が75%以上であることを特徴とする前記項1〜3のいずれかに記載の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0014】
5. 分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を、さらに昇華することを特徴とする前記項1〜4のいずれかに記載の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0015】
6. テトラカルボン酸成分が、前記項1〜5のいずれかの精製方法で分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を含んで構成され、ジアミン成分が、脂肪族ジアミン類、脂環構造を有するジアミン類、及びハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかの置換基を有する芳香族ジアミン類からなる群から選択されたジアミン類で構成された、膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が80%以上であることを特徴とするポリイミド。
【0016】
7. 光学材料として用いられることを特徴とする前記項6に記載のポリイミド。
【0017】
8. 前記項1〜5のいずれかの精製方法で分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を含んで構成されたテトラカルボン酸成分と、脂肪族ジアミン類、脂環構造を有するジアミン類、及びハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかの置換基を有する芳香族ジアミン類からなる群から選択されたジアミン類で構成されたジアミン成分とを、重合イミド化することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、大掛かりな設備を必要とせず、温和な条件下簡便な操作による方法によって、着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を容易に得ることができる精製方法を提供することができる。また、本発明の精製方法によって得られた着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を用いて、透過性が良好な高性能光学材料用、特にフレキシブルなディスプレイやタッチパネルなどの表示装置において透明性基材用として好適に用いることができるポリイミドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の記載において、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物をs−BPDA、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末をs−BPDA粉末、と略記することもある。
本発明の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法は、s−BPDAに対する25℃の溶解度が0.1g/100g以上の溶剤と、原料のs−BPDA粉末とを、少なくとも一部のs−BPDA粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解のs−BPDA粉末を分離回収することを特徴とする。
【0020】
ここで、25℃におけるs−BPDAの溶解度が0.1g/100g以上である溶剤とは、当該溶媒100gに、25℃においてs−BPDAが0.1g以上溶解することを意味する。
本発明において、s−BPDAの溶解度は以下の方法で測定した。
すなわち、純度99%以上のs−BPDA粉末5.0gと当該溶剤50.0gとを混合し、25℃で3時間撹拌して混合液を得る。(この攪拌条件で飽和状態となることを事前に確認した。飽和にならないときは粉末の量を2倍、3倍・・・と増やす。)この混合液中の未溶解のs−BPDA粉末をアドバンテック社製のろ紙5Aを用いてろ別し、ろ液としてs−BPDAの飽和溶液を得る。このs−BPDAの飽和溶液の5gをシャーレに秤取り、それを80℃で1時間次いで200℃で1時間加熱して溶剤を除去する。加熱後のシャーレのs−BPDAの質量を求め、その値から25℃の溶解度を算出する。
【0021】
本発明の精製方法で使用する溶剤としては、25℃におけるs−BPDAの溶解度が0.1g/100g以上、好ましくは1.0g/100g以上、より好ましくは2.0g/100g以上、好ましくは100.0g/100g以下、より好ましくは30.0g/100g以下の溶剤を好適に使用できる。溶解度が小さいと着色の少ないs−BPDA粉末を得ることが難しくなる。溶解度が大きいと、着色の少ないs−BPDA粉末を得ることはできるが、原料が過剰に溶解して回収率が低下するので経済的ではなくなる。この溶剤は単一種の溶剤である必要はなく、複数種の溶剤の混合物であっても、混合物としての溶解度が0.1g/100g以上であれば構わない。
【0022】
本発明で使用する溶剤としては、特に限定するものではないが、例えばn−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール、ターシャリーブタノール、ブタンジオール、エチルヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトンなどのエステル類、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、フラン、ジベンゾフラン 、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブチルカルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、 ブチロニトリルなどのニトリル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメトルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホン類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノールなどのフェノール類、その他、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、水などを例示することができる。好ましくは、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンが挙げられる。溶解度が0.1g/100gより小さい溶剤では、溶解度が0.1g/100g以上の溶剤と組み合わせて、混合物の溶解度を0.1g/100g以上として用いることができる。アルコール類や水などを用いる場合には、酸無水物と反応して開環反応を起こすことがあるため、精製後に加熱処理などを行うことが好ましい。また、精製後の加熱処理なしで済ませるためには、これらの溶剤は水分やアルコール分を含まない高純度溶剤が好ましい。
【0023】
本発明においては、適切な溶解度を有する溶剤とs−BPDA粉末とを、少なくとも一部のs−BPDA粉末が溶解していない不均一な状態で混合することによって、s−BPDA粉末の着色原因を溶剤に選択的に溶解させ、未溶解の着色の低減されたs−BPDA粉末を分離回収することによって、着色の低減されたs−BPDA粉末を高収率で容易に得ることができる。
【0024】
すなわち、ここで得られる混合液は、溶剤に、その溶解度を越える量のs−BPDA粉末を混合し、その一部は溶解するが、残りの粉末は未溶解の不均一な混合状態の混合液である。したがって、溶剤とs−BPDA粉末との混合割合は、s−BPDA粉末が、混合した混合液の温度における(好ましくは25℃における)溶解度を超える割合にすればよいが、好ましくは溶解度の2〜5000倍、より好ましくは5〜2000倍、さらに好ましくは5〜200倍、特に好ましくは5〜100倍程度の割合が好適である。少な過ぎると溶解して回収できない割合が高くなるので経済的ではなく、多過ぎると精製効果が不十分になることがある。
【0025】
本発明の精製方法で、溶剤とs−BPDA粉末を混合する温度は、溶剤の沸点未満の比較的低温であることが好ましい。具体的には、150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃未満であり、さらに好ましくは0〜50℃である。特に加熱処理しないで0〜50℃の室温で行うことが好ましい。加熱して高温にしたり還流したりすると、溶剤が反応したり、分解したり、酸化劣化して着色することがある。また高温では、s−BPDA粉末自身が酸化等により着色することもある。
【0026】
混合液は、好適には撹拌装置によって撹拌される。撹拌時間は、精製効果が十分に得られれば特に限定はない。本発明において、混合液中の溶液部分は必ずしも飽和状態である必要はなく、粉末の一部が溶解して着色が改善されればよい。また撹拌時間は、通常0.5〜6時間程度である。
【0027】
なお、本発明精製方法で用いる原料のs−BPDA粉末は、限定されるものではなく従来公知のものを好適に用いることができる。例えば特許文献1,2に記載されたs−BPDAの製造方法によって製造したものでもよく、それ以外の公知の製造方法によって製造したものでも構わない。精製後直ちに化学原料として好適に用いためには、純度が98質量%以上、好ましくは99質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上のものが好適である。粒子径や粒子の形態についても特に限定はない。通常は粒子径が5mm以下、好ましくは1mm以下程度の粉末である。また、粉末の結晶性(結晶化度)には特に限定はない。
【0028】
本発明の精製方法においては、好ましくは混合液を十分に撹拌した後で、混合液中の未溶解のs−BPDA粉末を溶剤と分離して回収する。この分離によって、着色原因は溶剤と共に分離され、着色が少ないs−BPDA粉末を好適に回収することができる。混合液から未溶解のs−BPDA粉末を分離回収する方法としては、常圧でのろ過、加圧ろ過、吸引ろ過、遠心ろ過など公知の方法を好適に利用できる。なお、分離工程は、混合液の混合・撹拌時とほぼ同じ温度条件下で行うことが好ましい。分離工程の温度が、混合液の混合・撹拌時の温度よりも低下すると、溶剤へ一旦溶解した着色原因物質が再度析出してs−BPDA粉末を着色させることがある。
分離回収されたs−BPDA粉末には、溶剤が付着し残存している。このため、好ましくは不活性雰囲気中で、熱風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥などの公知の方法によって十分に乾燥することが好適である。なお、精製工程中に酸無水物の一部が開環反応を起こすことがある。その場合には、乾燥時の加熱等によって、閉環することが好ましい。
【0029】
本発明の精製方法においては、s−BPDAに対する25℃の溶解度が0.1g/100g以上の溶剤と、s−BPDA粉末とを、少なくとも一部のs−BPDA粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解のs−BPDA粉末を分離回収することによって得られたs−BPDAを、さらに昇華することが好ましい。
この昇華は、特別の条件下で行う必要はなく、従来公知の条件で好適に行うことができる。特許文献1,2で開示されているような、s−BPDA粉末を加熱溶融させた後、減圧下に250℃以上の高温で蒸発させ、その蒸気を冷却し結晶化する方法でも構わない。また加熱溶融せず、100〜250℃程度の比較的低温で昇華させることによっても、より着色が少ないs−BPDA結晶を好適に得ることができる。このs−BPDA結晶は、凝固していても、粉砕によって容易に粉末化できる。
【0030】
本発明の精製方法によって、大掛かりな設備を必要とせず、温和な条件下簡便な操作による方法によって、着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を容易に得ることができる。得られるs−BPDA粉末は、2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解して得られた溶液に対する波長400nmの光透過率が75%を超えており、好ましくは80%以上である。
【0031】
本発明の精製方法によって得られたs−BPDA粉末を用いることによって、透過性が良好な高性能光学材料用として好適に用いることができるポリイミドを容易に得ることができる。
【0032】
したがって、本発明は以下のポリイミド及びポリイミドの製造方法にも関する。すなわち、本発明のポリイミドは、テトラカルボン酸成分が、本発明の精製方法で分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を含んで構成され、ジアミン成分が、脂肪族ジアミン類、脂環構造を有するジアミン類、及びハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかの置換基を有する芳香族ジアミン類からなる群から選択されたジアミン類で構成された、膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が70%以上であることを特徴とするポリイミドである。
【0033】
本発明のポリイミドにおいて、テトラカルボン酸成分は、本発明のs−BPDA粉末以外のテトラカルボン酸成分を、テトラカルボン酸成分の総モル量に対し、50%以下、好ましくは、25%以下、特に好ましくは、10%以下を用いてもよい。s−BPDA以外のテトラカルボン酸成分を用いることで、ポリイミド前駆体の溶解性が改善し、製造し易くなることがある。
本発明のs−BPDA粉末以外のテトラカルボン酸成分としては、特に限定はなく、通常のポリイミドに原料として採用されるテトラカルボン酸成分であればいずれでも構わないが、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。その様なテトラカルボン酸二無水物としては、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン類、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”−ターフェニル)−3,3”,4,4”−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物、4,4’−(1,4−フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物、など、より好ましくは2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に挙げることができる。
【0034】
ジアミン成分は、脂肪族ジアミン類、脂環構造を有するジアミン類、及びハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかの置換基を有する芳香族ジアミン類(換言すれば置換基としてハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかを有する芳香族ジアミン類)からなる群から選択されるジアミン類を用いることができる。ここで、ジアミン類とは、ポリイミドの原料として通常採用されるジアミンやジイソシアネートなどのジアミン乃至ジアミン誘導体である。ジアミン誘導体は、反応性や生成物の溶解性付与の目的で、ジアミンをシリル化剤(アミド系シリル化剤など)と反応させたジアミン誘導体であってもよい。
【0035】
脂肪族ジアミン類としては、例えばジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノウンデカン、ジアミノドデカンなどの直鎖状および分枝状の脂肪族ジアミンおよびその誘導体を例示できる。
【0036】
脂環構造を有するジアミン類としては、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、3−メチル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、3−メチル−、3−アミノメチル−、5,5−ジメチルシクロヘキシルアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,3′−メチル−4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(アミノメチル)−トリシクロ〔5,2,1,0〕デカン、イソホロンジアミン、1,3−ジアミノアダマンタンなどの脂環構造を有するジアミンおよびその誘導体を例示できる。
【0037】
ハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかの置換基を有する芳香族ジアミン類としては、例えば3,5−ジアミノベンゾトリフルオライド、2−(トリフルオロメチル)−1,4−フェニレンジアミン、 5−(トリフルオロメチル)−1,3−フェニレンジアミン、1,3 −ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス−(4−アミノフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、4,4−ビス(トリフルオロメトキシ)ベンジジン、3,3’−ジアミノ−5,5’−トリフルオロメチルビフェニル、3,3’−ジアミノ−6,6’−トリフルオロメチルビフェニル、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン;2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル] ヘキサフルオロプロパン、4,4’−トリフルオロメチル−2,2’− ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,5,5’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)などのハロゲン基を有する芳香族ジアミンおよびその誘導体、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4−アミノフェニルー4−アミノベンゾエート、テレフタル酸ビス(4−アミノフェニル)エステル、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸ビス(4−アミノフェニル)1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノベンズアニライド、N,N−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)、N,N’−m−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)などのカルボニル基を有する芳香族ジアミンおよびその誘導体、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3、3’−ジアミノー4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、O−トリジンスルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンなどのスルホニル基を有する芳香族ジアミンおよびその誘導体を例示できる。
【0038】
これらのジアミン類では、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンおよびその誘導体は、得られるポリイミドの透明性と耐熱性が優れるためより好ましく、さらにトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンおよびその誘導体は、得られるポリイミドの熱線膨張係数が低いために特に好ましい。
【0039】
本発明のポリイミドは、膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が80%以上であることを特徴とする。したがって、光学材料として好適に用いることができる。
【0040】
本発明のポリイミドの製造方法は、本発明の精製方法で分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を含んで構成されたテトラカルボン酸成分と、脂肪族ジアミン類、脂環構造を有するジアミン類、及びハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかの置換基を有する芳香族ジアミン類からなる群から選択されたジアミン類で構成されたジアミン成分とを、重合イミド化することを特徴とする。
重合イミド化する方法や条件には特に限定はなく、従来のポリイミドの製造方法で採用される重合イミド化する方法や条件を好適に採用できるが、以下に説明するポリイミドの前駆体を経由する製造方法によって、より容易に製造することができる。
【0041】
1)ポリアミド酸
有機溶剤にジアミンを溶解し、この溶液に攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜100℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。
【0042】
2)ポリアミド酸シリルエステル
あらかじめ、ジアミンとシリル化剤を反応させ、シリル化されたジアミンを得る。必要に応じて、蒸留等によりシリル化されたジアミンの精製をおこなう。脱水された溶剤中にシリル化されたジアミンを溶解させ、攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜100℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。ここで用いるシリル化剤として、塩素を含有しないシリル化剤を用いると、シリル化されたジアミンを精製する必要がないので好適である。塩素原子を含まないシリル化剤としては、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。さらにフッ素原子を含まず低コストであることから、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが好ましい。また、ジアミンのシリル化反応には、反応を促進するために、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミンなどのアミン系触媒を用いることができる。この触媒はポリイミド前駆体の重合触媒として、そのまま使用することができる。
【0043】
前記製造方法はいずれも有機溶媒中で好適に行われ、その結果としてポリイミド前駆体溶液組成物を容易に得ることができる。
【0044】
これらの製造方法においては、いずれも、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比は、必要とするポリイミド前駆体の粘度により任意に設定できるが、好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05である。
【0045】
前記製造方法で使用する有機溶媒は、具体的にはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく使用できるので、特にその構造には限定されない。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、0−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。
【0046】
本発明において、ポリイミド前駆体溶液組成物には、必要に応じて、化学イミド化剤(無水酢酸などの酸無水物や、ピリジン、イソキノリンなどのアミン化合物)、酸化防止剤、フィラー、染料、無機顔料、シランカップリング剤、難燃材、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤(流動補助剤)、剥離剤などを添加することができる。
【0047】
本発明のポリイミドは、ポリイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。イミド化の方法は特に限定されず、公知の熱イミド化、化学イミド化方法を適用することができる。得られるポリイミドの形態は、フィルム、ポリイミド積層体、粉末、ビーズ、成型体、発泡体およびワニスなどを好適に挙げることができる。
【0048】
以下例として、ポリイミド/基板積層体、及びポリイミドフィルムの製造方法について述べる。
例えばセラミック(ガラス、シリコン、アルミナ)、金属(銅、アルミニウム、ステンレス)、耐熱プラスチックフィルム(ポリイミド)などの基板に、ポリイミド前駆体溶液組成物を流延し、真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中で、熱風もしくは赤外線を用い、20〜180℃、好ましくは20〜150℃で乾燥する。次に得られたポリイミド前駆体を基板上で、もしくはポリイミド前駆体(フィルム)を剥離し、そのフィルム端部を固定した状態で、真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中で、熱風もしくは赤外線を用い、200〜500℃、より好ましくは250〜450℃で加熱することでポリイミド/基板積層体、もしくはポリイミドフィルムを製造することができる。得られるポリイミドが酸化劣化するのを防ぐため、イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましい。イミド化温度が高すぎなければ空気中で行なっても差し支えない。
【0049】
またイミド化反応は、前記のような熱処理に代えて、ポリイミド前駆体をピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である。また、これらの脱水環化試薬をあらかじめ、ポリイミド前駆体溶液組成物中に投入・攪拌し、それを基板上に流延・乾燥することで、部分的にイミド化したポリイミド前駆体を作製することもでき、これを更に前記のようにして熱処理することでもポリイミド/基板積層体、もしくはポリイミドフィルムを得ることができる。
【0050】
このポリイミドフィルムやポリイミド/基板積層体は、ポリイミドの表面にセラミック薄膜もしくは金属薄膜を形成されるなどして、材料として透明性が要求される、例えばディスプレイ用透明基材、タッチパネル用透明基材、太陽電池用透明基板として好適に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
以下の各例で使用した原材料は、次のとおりである。
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA):宇部興産株式会社製 純度99.9%(開環後した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99.8%
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、a−BPDAと略記することがある):宇部興産株式会社製 純度99.6%(開環後した2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99.5%をアセトンにて洗浄したものを使用
2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、i−BPDAと略記することがある):CHANGZHOU WEIJIA CHEMICAL株式会社製 純度 99.9%(開環後した2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99%をNMPにて洗浄したものを使用
各溶剤:和光純薬株式会社製 特級もしくは1級相当品
2N 水酸化ナトリウム水溶液:東京化成株式会社製 水酸化ナトリウム水溶液
トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン(以下、t−DACHと略記することがある)):ZHEJIANG TAIZHOU QINGQUAN MEDICAL & CHEMICAL株式会社製 純度 99.1%(GC分析)を昇華精製したものを使用
【0053】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0054】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の評価
[25℃のs−BPDAの溶解度]
ガラス製容器に純度99.9%、酸無水化率99.8%のs−BPDA粉末 5.0g、溶剤 50.0gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。溶け残ったs−BPDAをアドバンテック製ろ紙5Aを用いてろ別し、s−BPDA飽和溶液を得た。s−BPDA飽和溶液5gをアルミ製シャーレに入れ、80℃で1時間、200℃で1時間加熱した。加熱後残分より飽和溶液中に含まれていたs−BPDAの質量を求め、溶解度を算出した。
[光透過率]
所定量のs−BPDA粉末を2N水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、10質量%溶液を得た。大塚電子製MCPD−300、光路長1cmの標準セルを用いて、2N水酸化ナトリウム水溶液をブランクとし、s−BPDA溶液の400nmにおける光透過率を測定した。
【0055】
ポリイミド前駆体、ポリイミドの評価
[対数粘度]
0.5g/dLのポリイミド前駆体 N,N−ジメチルアセトアミド溶液を、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で測定した。
[光透過率(ポリイミド前駆体)]
10質量%のポリイミド前駆体/N,N−ジメチルアセトアミド溶液を、大塚電子製MCPD−300を用いて、光路長1cmの標準セルで測定した。N,N−ジメチルアセトアミドをブランクとし、10質量%のポリイミド前駆体/N,N−ジメチルアセトアミド溶液の400nmにおける光透過率を求めた。
[光透過率(ポリイミド)]
大塚電子製MCPD−300を用いて、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率を測定した。
[弾性率、破断伸度]
ポリイミド膜をIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間 30mm、引張速度 2mm/minで、初期の弾性率、破断伸度を測定した。
[熱膨張係数(CTE)]
ポリイミド膜を幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、島津製作所製TMA−50を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/minで300℃まで昇温した。得られたTMA曲線から、50℃から200℃までの平均熱膨張係数を求めた。
【0056】
〔実施例1〕
ガラス製容器に未精製のs−BPDA 10.0g、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド 10.0gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。溶液をろ別し、得られた固体を100℃ 2時間真空乾燥し、s−BPDA粉末を得た。なお、収量は、9.7gであった。
得られたs−BPDA粉末の評価結果を表1に示す。
【0057】
〔実施例2〜7〕
溶媒を表1記載の溶剤へ変更した以外は、実施例1と同様にして、s−BPDA粉末を得た。なお、収量は、9.6g(実施例2)、9.4g(実施例3)、9.5g(実施例4)、9.6g(実施例5)、9.7g(実施例6)、9.6g(実施例7)であった。
得られたs−BPDA粉末の評価結果を表1に示す。
【0058】
〔実施例8〕
ガラス製容器にs−BPDA 20.0g、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン 200gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。溶液をろ別し、得られた固体を100℃ 2時間真空乾燥したてs−BPDA粉末を得た。収量は、15.2gであった。
このs−BPDA粉末 5.0gをガラス製昇華装置に仕込み、1Torr以下に減圧し、s−BPDA粉末が接している壁下面の温度を200〜220℃に加熱してs−BPDAを昇華させ、昇華装置の上部に設けられた25℃に温調された壁面に冷却固化したs−BPDA結晶粉末を得た。収量は、3.1gであった。
得られたs−BPDA粉末の評価結果を表1に示す。
【0059】
〔比較例1〕
精製等の処理を行っていないs−BPDA粉末の評価結果を表1に示す。
【0060】
〔比較例2〜3〕
溶媒を表1記載の溶剤へ変更した以外は、実施例1と同様にして、s−BPDA粉末を得た。なお、収量は、9.7g(比較例2)、9.7g(比較例3)であった。
得られたs−BPDA粉末の評価結果を表1に示す。
【0061】
〔比較例4〕
精製等の処理を行っていないs−BPDA粉末 5.0gをガラス製昇華装置に仕込み、実施例8と同様にして昇華を行った。収量は、4.4gであった。
得られたs−BPDA粉末の評価結果を表1に示す。
【0062】
〔比較例5〕
ガラス製容器にs−BPDA粉末 5.0g、無水酢酸 200gを仕込み、加熱還流し、3時間攪拌し溶解した。この時、溶液が黄色に着色した。25℃まで冷却し析出させた。溶液をろ別し、得られた固体を100℃ 2時間真空乾燥してs−BPDA粉末を得た。収量は、4.2gであった。
得られたs−BPDA粉末の評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示した結果から分かるとおり、本発明の着色性が低減したs−BPDAは、2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解して得られた溶液に対する波長400nmの光透過率が75%を超えており、好ましくは80%以上である。
【0065】
以下では、テトラカルボン酸成分が、本発明の精製方法で分離回収したs−BPDAを含んで構成され、ジアミン成分が脂肪族ジアミン類、脂環構造を有するジアミン類、及びハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかの置換基を有する芳香族ジアミン類からなる群から選択されて構成されたポリイミドについて、実施例によって説明する。
【0066】
〔実施例9〕
反応容器中にトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン(t−DACH) 1.40g(0.0122モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したN,N−ジメチルアセトアミド 28.4gに溶解した。この溶液を50℃に加熱し、実施例3で得られたs−BPDA粉末 3.50g(0.0119モル)と、a−BPDA粉末 0.09g(0.0003モル)とを徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下120℃で1時間、150℃で30分間、200℃で30分間、350℃まで昇温して5分間、加熱して熱的にイミド化を行い、無色透明なポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミド/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が10μmのポリイミドフィルムを得た。
フィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0067】
〔実施例10〕
表2に記載した酸成分を用いた以外は、実施例9と同様にして、ポリイミド前駆体溶液及び、ポリイミドフィルムを得た。
フィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0068】
〔比較例6〕
比較例1の精製をおこなっていないs−BPDA粉末をテトラカルボン酸成分として用いた以外は、実施例9と同様にして、ポリイミド前駆体溶液及び、ポリイミドフィルムを得た。
フィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2から明らかなように、本発明の精製方法で分離回収したs−BPDAを用いることによって、得られるポリイミドの東海製が改善され、膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が80%以上にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によって、大掛かりな設備を必要とせず、温和な条件下簡便な操作による方法によって、着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を容易に得ることができる精製方法を提供することができる。また、本発明の精製方法によって得られた着色の少ない3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を用いて、透過性が良好な高性能光学材料用、特にフレキシブルなディスプレイやタッチパネルなどの表示装置において透明性基材用として好適に用いることができるポリイミドを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が0.1g/100g以上の溶剤と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とを、少なくとも一部の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を分離回収することを特徴とする3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物二無水物粉末の精製方法。
【請求項2】
溶剤の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が、1g/100g以上であることを特徴とする請求項1に記載の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項3】
溶剤が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンであることを特徴とする請求項1または2に記載の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項4】
分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率が75%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項5】
分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を、さらに昇華することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項6】
テトラカルボン酸成分が、請求項1〜5のいずれかの精製方法で分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を含んで構成され、ジアミン成分が、脂肪族ジアミン類、脂環構造を有するジアミン類、及びハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかの置換基を有する芳香族ジアミン類からなる群から選択されたジアミン類で構成された、膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が80%以上であることを特徴とするポリイミド。
【請求項7】
光学材料として用いられることを特徴とする請求項6に記載のポリイミド。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかの精製方法で分離回収した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を含んで構成されたテトラカルボン酸成分と、脂肪族ジアミン類、脂環構造を有するジアミン類、及びハロゲン基、カルボニル基、スルホニル基のいずれかの置換基を有する芳香族ジアミン類からなる群から選択されたジアミン類で構成されたジアミン成分とを、重合イミド化することを特徴とするポリイミドの製造方法。

【公開番号】特開2012−136501(P2012−136501A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159919(P2011−159919)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】