説明

4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸を調製する方法

本発明は、4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸を調製する新規方法であって、a)4−クロロメチル−安息香酸をアセトニトリル中、触媒である酸の存在下に硝酸銀と還流温度で反応させ、続いて冷却し、極性非プロトン性溶媒を添加するステップと、b)銀塩を濾過分別し、続いて極性非プロトン性溶媒で洗い出しするステップと、c)水を加えて、ステップb)において得られた濾液から4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸を沈殿させるステップと、d)4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸を乾燥させるステップとを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、具体的にはステロイド系抗炎症薬用の、医薬物質の製造における中間生成物として使用される化合物である4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸を調製する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(I)の4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸の調製については、4−(ブロモ又はクロロ)−メチル−安息香酸(II、X=Br、Cl)をアセトニトリル溶液中又はテトラヒドロフラン(THF)とアセトニトリルとの混合物内で溶液として硝酸銀と処理することによる方法が、すでに複数の著者によって文献(1−10)に記載されている。実験条件にもよるが、報告された収率は54〜84%である(表1)。
【表1】



(1)Endres S.et al.,European Journal of Medicinal Chemistry(1999),34(11),895−901
(2)Wessler C.et al.,European Journal of Medicinal Chemistry(2003),38(6),581−586
(3)Scaramuzzino G.,EP1336602A1,Pub.20030820
(4)Scaramuzzino G.,WO03094923A1,Pub.20031120
(5)Earl R.A.et al.,WO04004648A2,Pub.20040115
(6)Breschi M.C.et al.,Journal of Medicinal Chemistry(2006),49(8),2628−2639
(7)Scaramuzzino G.,IT 2002MI0402A1,Pub.20030828
(8)Wey S.J.et al.,Journal of Medicinal Chemistry(2007),50(25),6367−6382
(9)Calderone V.et al.,Journal of Pharmacy and Pharmacology(2008),60(2),189−195
(10)Chong W.et al.,WO08075152A1,Pub.20080626
【0003】
同様に、(I)の生成について、硝酸及び無水酢酸を−30℃から−10℃の低温で用いた(II、X=OH)のニトロ化による方法が記載されており(11)、収率は83%である(表2)。
【表2】



(11)McIntyre D.G.,US6696592B2,Pub.20040224
【0004】
表1に示された方法は、溶媒の攻撃性がより低く、且つ反応条件がより簡単であるため、通常好ましい。また、特にプロセスを工業化する目的で、安定性がより高く、且つ不快な感覚刺激効果がより弱いために取扱いが最も容易な出発生成物は、4−クロロメチル−安息香酸(III)(II、X=Cl)である。
【化1】

【0005】
しかし、この出発生成物の使用は、低収率(54%)及び式(IV)の二量体の形成という重大な2つの問題を提起する。
【化2】

【0006】
(IV)の存在は、WO2007025632A2に記載の化合物であるステロイド系抗炎症薬(V)のその後の合成において障害となる。
【化3】

【0007】
したがって、収率が良好であり、且つ不純物(IV)の存在が最小である、(I)を得る方法を実現することが必要である。
【0008】
本発明者らは、(I)を得る新規工業的方法であって、はるかに高い収率及び高い純度で生成物をもたらす方法を実現した。
【発明の概要】
【0009】
一つの態様において、本発明は、4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸を優れた収率及びより高い純度で調製する新規工業的方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の目的は、4−クロロメチル−安息香酸(III)と硝酸銀との公知反応に基づいている、4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸(I)を調製する方法を提供することである。しかし、本出願人らは、触媒として酸が存在すると、(I)の生成は収率が良好であり、且つ不純物(IV)の割合が前記触媒を用いずに得られた不純物(IV)の割合よりはるかに低いことを発見した。
【0011】
実際、溶媒及び反応条件を変更し、様々な触媒を試験した予備実験において、本出願人らは、文献に記載の収率より実質的に高い収率を得ることが可能であるにもかかわらず、4−クロロメチル−安息香酸(III)と硝酸銀との反応によって得られた4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸(I)の最高純度は高くても98.74%(HPLC)でしかなく、副生物(IV)の存在を0.82%(HPLC)よりさらに低減することはできないことを見出した。この不純物はステロイド(V)のその後の製造において除去することが非常に困難な他の副生物を生成するので、0.82%は過剰な割合である。
【0012】
本発明の一つの態様を構成する4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸(I)を調製する方法は、
a)4−クロロメチル−安息香酸(III)
【化4】


をアセトニトリル中、触媒である酸の存在下に硝酸銀と還流温度で反応させ、続いて冷却し、極性非プロトン性溶媒を添加するステップと、
b)銀塩を濾過分別し、続いて極性非プロトン性溶媒で洗い出しするステップと、
c)水を加えて、ステップb)の濾液から化合物(I)を沈殿させるステップと、
d)化合物(I)を乾燥させるステップと
を含む。
【0013】
好ましい実施形態において、酸は、ベンゼンスルホン酸、臭化水素酸、塩酸、クロロ酢酸、クロロスルホン酸、エタンスルホン酸、リン酸、メタンスルホン酸、硝酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸、トリクロロ酢酸、トリクロロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、及びトリフルオロメタンスルホン酸など、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。選択される酸は、好ましくは硫酸である。
【0014】
好ましい実施形態において、ステップa)における極性非プロトン性溶媒は、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピオニトリル、及びテトラヒドロフランなど、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。前記溶媒は、好ましくはジメチルホルムアミドである。
【0015】
別の好ましい実施形態において、ステップb)における極性非プロトン性溶媒は、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピオニトリル、及びテトラヒドロフランなど、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。前記溶媒は、好ましくはジメチルホルムアミドである。
【0016】
別の好ましい実施形態において、ステップc)は、その後に(C〜C)アルカノールでの洗い出しを含む。エタノールが、好ましくは選択される。
【0017】
別の好ましい実施形態において、ステップd)における乾燥は、真空中50℃以下の温度、好ましくは40℃以下で行われる。
【実施例】
【0018】
(例1):4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸(I)の合成
a)HSOの存在下における4−クロロメチル−安息香酸(III)とAgNOとの反応
92.9lのアセトニトリルに、9.29kgの4−クロロメチル−安息香酸(III)を添加し、緩い窒素気流下で20分間撹拌した。93mlの硫酸を添加し、混合物を15分間撹拌した。13.65kgの硝酸銀を、(III)を添加したときと同じ操作条件に従って添加した。反応器が光に直接曝露しないように保護し、混合物を15分間撹拌した。次いで、混合物を7時間15分還流した。反応混合物を20℃〜25℃まで冷却した。37.2lのジメチルホルムアミドを添加し、温度を25℃と20℃の間に維持しながら30分間撹拌した。
【0019】
b)銀塩の濾過分別
予め111lの水で洗浄し、28lのジメチルホルムアミドで3回洗浄した9kgのセルロースが入っているフィルターに、銀塩を窒素加圧下で通して濾過分別した。分離した固体廃棄物を9.3lのジメチルホルムアミドで2回洗浄した。セルロースをフィルターから取り出し、ジメチルホルムアミドで流出物が清澄になるまで洗浄し、次いで水ですすいだ。
【0020】
c)水を用いた沈殿
液相を合わせ、温度を25℃と20℃の間に安定させた。温度を20℃と25℃の間に維持しながら、1486lの水を1時間添加した。温度を20℃と25℃の間に維持しながら、混合物を1時間撹拌した。沈殿物を濾過分別し、このようにして得られたケークを、水のpHと同様のpHになるまで水で洗浄した。最後に、ケークを18.6lのエタノールで洗浄した。
【0021】
d)乾燥
湿潤した固体を、真空中40℃以下の温度で、KF含水率が最高でも0.2%でしかなくなるまで乾燥した。9.68kgの4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸(I)が得られた。収率90.2%。HPLC純度99.35%。(IV)の含有率0.23%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の4−ニトロ−オキシ−メチル−安息香酸
【化1】


を調製する方法であって、
a)4−クロロメチル−安息香酸(III)
【化2】


をアセトニトリル中、触媒である酸の存在下に硝酸銀と還流温度で反応させ、続いて冷却し、極性非プロトン性溶媒を添加するステップと、
b)銀塩を濾過分別し、続いて極性非プロトン性溶媒で洗い出しするステップと、
c)水を加えて、ステップb)の濾液から化合物(I)を沈殿させるステップと、
d)化合物(I)を乾燥させるステップと
を含む上記方法。
【請求項2】
酸が、ベンゼンスルホン酸、臭化水素酸、塩酸、クロロ酢酸、クロロスルホン酸、エタンスルホン酸、リン酸、メタンスルホン酸、硝酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸、トリクロロ酢酸、トリクロロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、及びトリフルオロメタンスルホン酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)における極性非プロトン性溶媒が、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピオニトリル、及びテトラヒドロフランからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)における極性非プロトン性溶媒が、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピオニトリル、及びテトラヒドロフランからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)において、その後に(C〜C)アルカノールでの洗い出しを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップd)における乾燥が、真空下50℃以下の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
酸が硫酸である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
極性非プロトン性溶媒がジメチルホルムアミドである、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
極性非プロトン性溶媒がジメチルホルムアミドである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
(C〜C)アルカノールがエタノールである、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
温度が40℃以下である、請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2013−510827(P2013−510827A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538353(P2012−538353)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067444
【国際公開番号】WO2011/058162
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(501108452)フエルレル インターナショナル,ソシエダッド アノニマ (39)
【出願人】(510114918)ニコックス ソシエテアノニム (3)
【Fターム(参考)】