説明

4−ヒドロキシタモキシフェンによる乳房痛の治療

治療方法が、乳房痛患者に対して4−ヒドロキシタモキシフェンを経皮投与する段階を有する。4−ヒドロキシタモキシフェンは、水性アルコールゲルまたはアルコール溶液で製剤することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ヒドロキシタモキシフェン(4−OHT)による乳房痛すなわち乳房の疼痛の治療に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳房痛は「マストジニア(mastodynia)」とも称され、女性が一般開業医の診察を受ける最も一般的な乳房の問題となっている。それの重度は多様であるが、乳房痛が長引いたり強いために通常の日常活動に支障がある場合があり、罹患者が身体障害をきたす場合がある。乳房痛は、3種類の疼痛源に従って、(1)周期性乳房疼痛、(2)非周期性乳房疼痛、および(3)乳房外疼痛に分類することができる。周期性乳房痛は、月経周期の黄体期中のエストロゲン依存性血管変化によって起こる生理的乳房拡張によって生じるものであり(Sambrook,
1987; Graham, 1995)、閉経前女性の大半に影響を与えている。周期性乳房痛は、用量依存的効果で、エストロゲン置換療法を受けている閉経後女性において再発する可能性もある(Callantine,
1975)。最近のある大規模な調査で、年齢18〜54歳の女性の67%が過去6ヶ月中に周期的な乳房の不快感を経験しており、そのうちの17%が毎月7日以上続く疼痛を報告している(Ader,
1997)。「非周期性乳房痛」は、その名称が示唆しているように、月経周期とは関係のない乳房における疼痛を指す。多くの状態が非周期性乳房痛を生じるものであり、それには硬化性腺症、ティーツェ症候群および希に乳癌などがある。最後に、乳房外乳房痛には、例えば患者が乳房の奥にある筋肉または肋骨からの疼痛を感じる場合に起こるような、他の疼痛源から乳房に出てくる乳房疼痛などがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまで、医師は乳房痛に対して多くの可能な薬物治療を試みてきた。非周期性乳房痛は通常は薬物療法に応答せず、極端な場合には一部の女性においてそれが原因で両側乳房切除術を受ける場合がある。周期性乳房痛については、医師は多様な薬剤を投与しており、それにはエストロゲン、アンドロゲン類、ピリドキシン(ビタミンB6)、α−トコフェロール(ビタミンE)、ブロモクリプチンおよびダナゾールなどがある(Fentiman, 1986)。特に、ブロモクリプチンおよびダナゾールは、周期性乳房痛の緩和にはいくらか効力を示しているが、やはり吐き気、嘔吐、眩暈、頭痛、アクネ、発汗、無月経および体重増などの望ましくない副作用を引き起こしている(Mansel
et al., 1978; Gorins et al., 1984)。
【0004】
抗癌薬であるタモキシフェンは、乳房痛治療でもいくらか有望さを示している。いくつかの報告された試験で、経口投与タモキシフェンが、中等度ないし重度の乳房痛患者の71〜90%で疼痛を軽減した(Fentiman, 1986; Fentiman et al., 1988; Fentiman et al., 1989(総称して「フェンティマン(Fentiman)」)参照)。周期性乳房痛患者および非周期性乳房痛患者の下位群で、タモキシフェンは疼痛軽減において、それぞれ94%および56%有効であったと報告されている(Fentiman
et al., 1988)。
【0005】
タモキシフェンは、この文脈においてかなり大きい欠点を有する。それの作用は、身体における全てのエストロゲン受容体に影響を与える可能性であり、作働薬と拮抗薬の両方として、タモキシフェンは非常に広範囲の全身効果を誘発する。それらの効果は、子宮体癌、子宮内膜増殖症およびポリープ、深部静脈血栓症および肺動脈塞栓症、肝臓酵素レベルにおける変化、ならびに白内障などの眼球障害のリスクを高めるものである。さらに、経口タモキシフェン治療を受けた乳房痛患者は、一過性熱感、膣帯下、抑鬱、無月経および吐き気があったと報告している(Ibis, 2002;Fentiman、同上を参照)。
【0006】
従って、全身の副作用をほとんど誘発せずに疼痛を効果的に軽減する乳房痛治療があれば、かなり有用であると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、4−ヒドロキシタモキシフェンを投与することによる乳房痛の治療方法を包含する。その治療手法は、好ましくは局所的に行われるものであり、疼痛を効果的に軽減し、他の乳房痛治療と比較して、誘発される全身性副作用が少ない。
【0008】
前記治療方法を行う上で、4−ヒドロキシタモキシフェンを、in vivoでエストロゲン受容体にその薬剤を送達させるどのような手段によっても投与することができる。前述のように、投与を経皮的に(局所的に)行って、4−ヒドロキシタモキシフェンの一次通過効果および関連する肝臓代謝を回避することが好ましい。経皮投与においては、4−ヒドロキシタモキシフェンはいずれの皮膚表面にも投与することができる。4−ヒドロキシタモキシフェンは経皮的に投与するとエストロゲン受容体を有する局所皮下組織で濃縮する傾向があることから、乳房に投与することが有利である。
【0009】
本発明を行う上で、広範囲の局所的配合が好適であるが、水性アルコール溶液および水性アルコールゲルが好ましい。それらの製剤における4−ヒドロキシタモキシフェンの濃度が変動し得るものであるが、用量はエストロゲン誘発効果に有効に対抗する局所4−ヒドロキシタモキシフェン濃度を生じるものでなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
前述のように、本発明は、特に経皮投与した場合に4−ヒドロキシタモキシフェンが効果的に乳房痛を治療するという発見にある。さらに、他の乳房痛治療と比較して、4−ヒドロキシタモキシフェンが誘発する望ましくない副作用が少ないことが発見された。
【0011】
化合物4−ヒドロキシタモキシフェン、すなわち1−[4−(2−N−ジメチルアミノエトキシ)フェニル]−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニルブト−1−(Z)−エンは、特性が十分知られている抗エストロゲン化合物であるタモキシフェンの活性代謝物である。シスおよびトランスの両方の異性体が存在し、そのいずれも単独または組合せで本発明により有用である。しかしながら、トランス異性体が好ましい。
【0012】
4−ヒドロキシタモキシフェンは、エストロゲン受容組織に対する組織特異性を示す選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)として作用する。乳房組織ではそれは、エストロゲン拮抗薬として機能する。4−ヒドロキシタモキシフェンが組織特異的活性に寄与する可能性があるエストロゲン関連受容体の転写活性を調節し得ることが、研究から明らかになっている。in vitroにおいて4−ヒドロキシタモキシフェンは、エストロゲン受容体すなわちERに対する結合アフィニティによる測定でタモキシフェンより高い効力と、エストロゲン受容体に関してエストラジオールと同様の結合アフィニティを示す(Robertson
et al., 1982; Kuiper et al., 1997)。トランス4−ヒドロキシタモキシフェンは、トランス−タモキシフェンと比較して、正常ヒト上皮乳房細胞の培養での増殖を100倍阻害する(Malet
et al., 1988)。
【0013】
4−ヒドロキシタモキシフェンはタモキシフェン代謝物であるが、乳房痛治療におけるそれの有用性は、タモキシフェン自体での過去の経験では予測されないものである。タモキシフェンは、ヒトにおいてチトクロムP−450によって広範囲に代謝される。従って、それのin vivoでの作用は、標的組織内における受容体の占有に関して競合する親化合物とそれの代謝化合物による個々の作用の正味の結果である。例えば、ジョーダンの報告(Jordan,
1982)を見よ。それらの各化合物は、各種細胞で多様かつ予測できない生理活性を示し、その一部は各化合物のエストロゲン受容体配座に対する個別的効果によって測定される。すなわち、各化合物のエストロゲン受容体結合により、特有の受容体−リガンド配座が生じ、それが各種補因子を召集することで、異なる化合物では薬理特性が変動することになる(Wijayaratne
et al., 1999; Giambiagi et al., 1988)。
【0014】
その変動する効果の例がいくつか、報告されている。例えば、タモキシフェンは強力なラット肝臓発癌物質であるが、4−ヒドロキシタモキシフェンはそうではない(Carthew et al., 2001; Sauvez et al., 1999)。さらに、タモキシフェンはp53(−)正常ヒト乳房上皮細胞でのアポトーシスを開始するが、4−ヒドロキシタモキシフェンはそうではない(Dietze
et al., 2001)。対照的に、4−ヒドロキシタモキシフェンは哺乳動物癌細胞系でエストロンスルファターゼ活性に対するかなりの阻害効果を示すが、それに関してタモキシフェンはほとんど効果がない(Chetrite
et al., 1993)。
【0015】
4−ヒドロキシタモキシフェンの製造方法は公知である。例えば米国特許第4919937号(Mauvais-Jarvisらに対する特許)には、ロバートソンらの報告(Robertson and Katzenellenbogen,
1982)に由来する合成が記載されている。その合成は、下記の数段階で行われる。
【0016】
段階1 4−(β−ジメチルアミノエトキシ)−α−エチルデオキシベンゾインとp−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)フェニルマグネシウムブロミドとの間の反応;
段階2 段階1とは別に、1,2−ジフェニル−1−ブタノンのヒドロキシル化による1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニル−1−ブタノンの形成;
段階3−段階1の生成物と段階2の生成物との間の反応による1−(4−ジメチルアミノエトキシフェニル)−1−[p−2−テトラヒドロピラニルオキシ)フェニル]−2−フェニルブタン−1−オールの形成;
段階4 メタノール/塩酸による脱水によるシスおよびトランス異性体の混合物としての1−[p−(β−ジメチルアミノエトキシ)フェニル]−トランス−1−(p−ヒドロキシフェニル)−2−フェニル−1−ブト−1−エン =4−OH−タモキシフェンの生成;
段階5 クロマトグラフィーおよび結晶化によるシスおよびトランス異性体の分離による一定の比活性の実現。
【0017】
本発明によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンはin vivoで活性化合物をエストロゲン受容体に、好ましくは乳房エストロゲン受容体に送達するどのような製剤および系でも投与することができる。好ましくは、4−ヒドロキシタモキシフェンは「経皮投与」によって投与される。その表現は、患者の皮膚の表面から、角質層、表皮層および真皮層を通って、微小循環に至る薬剤の送達形態を指す。それは典型的には、濃度勾配の下降にそう拡散によって得られる。その拡散は、細胞内浸透(細胞を通って)、細胞間浸透(細胞間で)、経付属器浸透(毛嚢、汗および皮脂腺による)またはそれらのいずれかの組合せを介して生じ得る。
【0018】
4−ヒドロキシタモキシフェンの経皮投与には、いくつか長所がある。第1に、それは経口投与後に起こる肝臓代謝を回避するものである(Mauvais-Jarvis et al., 1986)。第2に、経皮投与は全身薬剤曝露およびそれに伴う身体全体での非特異的なエストロゲン受容体の活性化によるリスクを大幅に低減させる。それは、局所投与4−ヒドロキシタモキシフェンが主として局所組織に吸入されるためである。特に、4−ヒドロキシタモキシフェンを乳房に経皮的に投与すると、恐らく多くのエストロゲン受容体が乳房組織にあるために、高濃度がそこに蓄積して、血漿濃度が高くならない(Mauvais-Jarvis
et al., supra)。従って本発明に関して、4−ヒドロキシタモキシフェンはいずれの皮膚表面にも投与可能であるが、好ましくは片方または両方の乳房に投与する。
【0019】
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、抗エストロゲン剤が標的外組織でエストラジオールと置き換わると、その薬剤の臨床的に重大な副作用が生じる。4−ヒドロキシタモキシフェンおよびエストラジオールはエストロゲン受容体に対して同様の結合アフィニティを有することから、受容体結合についてのそれらの間の競合は、各化合物の濃度が他方のものとほぼ同じである場合にはほとんど同等であると考えられる。4−ヒドロキシタモキシフェン濃度がエストラジオール濃度より高い場合、前者の方がエストロゲン受容体より優先的に結合し、その逆も当てはまる。
【0020】
従って、約80pg/mL未満の血漿濃度または正常な閉経前女性での平均エストラジオール濃度未満を生じる4−ヒドロキシタモキシフェンの用量が好ましい。より好ましくは、4−ヒドロキシタモキシフェンの用量は、約50pg/mL未満の血漿濃度を生じるものである。投与される1日用量は最初に、4−ヒドロキシタモキシフェンの吸収係数、所望の乳房組織濃度および超えてはならない血漿濃度に基づいて計算することができる。当然のことながら、初期用量は、個々の応答に応じて、各患者で最適化しても良い。
【0021】
上述のように、4−ヒドロキシタモキシフェンを乳房組織に向かわせることで、その組織で高濃度を達成しながら、同時にエストラジオール受容体に関する重大な全身的競合が起こるまで4−ヒドロキシタモキシフェン血漿レベルが上昇しないようにすることができる。2mg/日(1mg/乳房/日)の経皮用量で、乳房組織での4−ヒドロキシタモキシフェン濃度は、乳房組織での正常なエストラジオール濃度の4倍となる(Barrat et al., 1990; Pujol et al., supra)。さらに、このように投与された4−ヒドロキシタモキシフェンは、乳房組織で、血漿中の濃度の一桁高い濃度、すなわち10:1の濃度に達する。それとは対照的に、タモキシフェンの経口投与後における4−ヒドロキシタモキシフェンの乳房組織/血漿の比率は、約5:1である。
【0022】
経皮製剤では、0.5mg/日〜3mg/日(0.25〜1.5mg/乳房/日)のレベルの用量によって所望の結果が得られるはずであり、約1.0mg/日、1.5mg/日および2.0mg/日(0.5〜1.0mg/乳房/日)の用量が好ましい。
【0023】
経皮投与は、主として(i)治療活性化合物またはそれの無毒性で製薬上許容される塩を好適な医薬担体および適宜に浸透促進剤と混合して、軟膏、乳濁液、ローション、液剤、クリーム、ゲルなどを形成し、その製剤の所定量を皮膚の特定の領域に投与する、あるいは(ii)公知の技術に従って貼付剤または経皮投与系に治療活性物質を組み込むという2つの異なる方法で行うことができる。
【0024】
経皮薬剤投与の有効性は、薬剤濃度、投与の表面積、投与の時刻および期間、皮膚含水性、薬剤の物理化学特性ならびに製剤と皮膚の間の薬剤の分配などの多くの要素によって決まる。経皮での使用を意図した薬剤の製剤は、これらの要素を利用して、最適な送達を得るものである。そのような製剤は多くの場合、角質層の物理化学特性を可逆的に変えることでその層の抵抗を低下させ、角質層の含水性を変え、共溶媒として働き、あるいは細胞間空間での脂質およびタンパク質の構成を変えることで経皮吸収を改善する浸透促進剤を含む。そのような経皮吸収の促進剤には、界面活性剤、DMSO、アルコール、アセトン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、脂肪酸、脂肪アルコールおよび関連分子類、ピロリドン類、尿素および精油などがある。化学的促進剤以外に、物理的方法によって経皮吸収を増加させることができる。例えば、閉鎖包帯によって皮膚の水分増加が誘発される。他の物理的方法には、イオン泳動および超音波泳動などがあり、それらはそれぞれ電場および高周波数超音波を用いて、大きさおよびイオン特性のためにほとんど吸収されない薬剤の吸収を促進するものである。
【0025】
経皮薬剤送達に関係する多くの要素および方法については、文献に総説がある(REMINGTON: THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY, Alfonso R. Gennaro
(Lippincott Williams & Wilkins, 2000), pp.836-58; PERCUTANEOUS ABSORPTION:
DRUGS COSMETICS MECHANISMS METHODOLOGY, Bronaugh and Maibach (Marcel Dekker,
1999))。これらの刊行物が明らかにしているように、医薬分野での当業者は、各種の要素および方法を駆使して、効果的な経皮送達を得ることができる。
【0026】
4−ヒドロキシタモキシフェンは、非常に親油性が高い巨大分子である。従って、浸透促進剤の助けがなければ、それは皮膚にほとんど浸透しない。従って、本発明で用いられる4−ヒドロキシタモキシフェンの製剤は好ましくは、1以上の浸透促進剤を含む。4−ヒドロキシタモキシフェンはアルコールに可溶であることから、アルコールが好ましい促進剤である。ミリスチン酸イソプロピルも好ましい促進剤である。
【0027】
経皮投与においては、4−ヒドロキシタモキシフェンは、軟膏、クリーム、ゲル、乳濁液(ローション)、粉剤、オイルまたは同様の製剤で投与することができる。そのために前記製剤は、従来の賦形剤添加物を含むことができ、それには扁桃油、オリーブ油、桃仁油、落花生油、ヒマシ油などの植物性油、動物性油、DMSO、脂肪および脂肪様物質、ラノリンリポイド類、ホスファチド類、パラフィン類などの炭化水素類、黄色ワセリン、ロウ類、洗剤乳化剤、レシチン、アルコール類、カロテン、グリセリン、グリセリンエーテル類、グリコール類、グリコールエーテル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、非揮発性脂肪アルコール類、酸類、エステル類、揮発性アルコール系化合物、尿素、タルク、セルロース誘導体および保存剤などがある。
【0028】
本発明を実施する上で、好ましい製剤は水性アルコールゲルの中で4−ヒドロキシタモキシフェンを含む。ゲル100g当たりの4−ヒドロキシタモキシフェンの量は、約0.001g〜約1.0gの範囲とすることができる。好ましくは、約0.01g〜約0.1gの範囲とする。表1に、2つの非常に好ましい4−ヒドロキシタモキシフェンゲル製剤の組成を示した。
【0029】
【表1】

【0030】
本発明によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンは経皮貼付剤を介して投与することもできる。1実施形態においてその貼付剤は、4−ヒドロキシタモキシフェン製剤の貯留部を有する。その貼付剤は、(a)溶液不浸透性の裏材ホイル、(b)空洞部を有する層状様の要素、(c)微孔性膜または半透膜、(d)自己接着層、および(e)オプションで取り外し可能な裏材フィルムを有することができる。空洞部を有する層状要素は、裏材ホイルと膜によって形成することができる。あるいは前記貼付剤は、(a)溶液不浸透性の裏材ホイル、(b)貯留部としての開放孔フォーム、密閉孔フォーム、組織様層または繊維質のウェブ層、(c)(b)による層が自己接着層でない場合には自己接着層、および(d)オプションで取り外し可能な裏材フィルムを有することができる。
【0031】
下記の内容に関して、例示した実施例は本発明についての理解をさらに深める上で役立つものである。
【実施例】
【0032】
実施例1:経皮4−ヒドロキシタモキシフェン投与の実証
乳癌患者4名に、12時間〜7日間の所定の間隔で乳房に直接投与することでアルコール溶液での[H]−4−ヒドロキシタモキシフェンを投与してから、患部組織の摘出手術を行った。手術後、摘出組織と腫瘍周囲の正常乳房組織の両方に放射能が含まれていた(Kuttennetal.,1985)。
【0033】
追跡調査試験で、ホルモン依存型乳癌の摘出手術の予定があった患者12名中の9名に、トランス−[H]−4−ヒドロキシタモキシフェン(80μCi)の60%アルコール溶液投与を行い、患者3名に比較のためトランス−[H]−タモキシフェン(80μCi)の投与を行った。患者には、12時間〜7日間の所定の間隔で患部乳房に直接投与することで[H]−標識薬剤を投与してから、患部組織の摘出手術を行った。3つの領域からの乳房組織、すなわち腫瘍、その腫瘍を直接囲む組織および正常組織を摘出し、液体窒素でただちに冷凍した。さらに、血漿および尿のサンプルを予定の間隔で採取し、分析まで冷凍した。
【0034】
表2に、実施した分析からの結果を示した。4−ヒドロキシタモキシフェンは、エストロゲン受容体が存在する乳房組織のサイトゾル画分および核画分に主に濃縮されていた。これらの細胞内部位では、トランス体からシス体への限定的な異性化があった以外は、4−ヒドロキシタモキシフェンが代謝されずに残っていた。乳房での保持は、4−ヒドロキシタモキシフェン群ではほぼ4日間続いたが、タモキシフェン群ではそれより短く、かなり弱かった。
【0035】
【表2】

【0036】
経皮投与後に乳房組織で[H]−4−ヒドロキシタモキシフェンとして確認された放射能のパーセントは、7日間かけて徐々に低下した(97%から65%)。その期間中、トランス異性体からシス異性体への異性化が徐々に進行し、第7日で同様のパーセントとなった(32%と33%)。
【0037】
H]−4−ヒドロキシタモキシフェンによる血液中の放射能は徐々に増え、第4日〜第6日では横這い状態であった。それは、血液中に急速に現れ、第2日で横這い状態となった[H]−タモキシフェンとは対照的である。経皮[H]−4−ヒドロキシタモキシフェン投与から36時間後では、投与した放射能の0.5%のみが血液中で示された。
【0038】
血液中では4−ヒドロキシタモキシフェンの顕著な代謝が起こったのとは対照的に、乳房組織でのそのような代謝はほとんどなかった。投与から24時間後、血中放射能の68%が4−ヒドロキシタモキシフェンによるものであり、18%がN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェンによるものであり、11%がビスフェノールによるものであった。
【0039】
ピーク尿排出は、4−ヒドロキシタモキシフェンの経皮投与では、経皮タモキシフェンと比較して遅かった。4−ヒドロキシタモキシフェン投与後、ほとんどがN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェンとビスフェノールである代謝物の漸増が、尿中において認められた。
【0040】
本実施例は、4−ヒドロキシタモキシフェンの乳房への経皮投与により、薬剤の実質的かつ継続的局所組織濃度が得られ、代謝はごく少量であり、安定かつ非常に低い血漿濃度であり、尿からの排出が遅いことを示している。
【0041】
実施例2:20mg経口タモキシフェンと比較した経皮投与4−OH−タモキシフェンの薬物動態および薬力学の実証
この試験では、タモキシフェンの経口投与後の4−ヒドロキシタモキシフェンの組織濃度および血漿濃度と、水性アルコールゲルでの経皮投与後の4−ヒドロキシタモキシフェンの組織濃度と血漿濃度とを比較した(Pujol et al.)。
乳癌手術の予定がある患者31名を5群中の1群に無作為に割り当てた。その患者に、表3に示したように経口タモキシフェンまたは経皮4−ヒドロキシタモキシフェンのいずれかを投与した。投与は1日1回行い、3〜4週間続けてから手術を行った。この試験では、3つの異なる用量の4−ヒドロキシタモキシフェン(0.5、1または2mg/日)および2種類の投与面積(両方の乳房あるいは両腕、両前腕および両肩などの大面積の皮膚のいずれかに)を評価した。1群の患者には、20mg/日(10mgを1日2回)の経口タモキシフェンの投与を行った(ノルバルデックス(Nolvaldex;登録商標))。
【0042】
【表3】

【0043】
4−ヒドロキシタモキシフェンゲル(4−ヒドロキシタモキシフェン20mg/水性アルコールゲル100g;Besins-Iscovesco Laboratories)は、加圧計量式ポンプに充填し、それによってゲル1.25g/計量用量(すなわち4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/投与)を投薬した。
【0044】
手術中、乳房組織の検体2種類(それぞれ1cm)を摘出し、一方は腫瘍組織であり、他方は肉眼観察で正常な組織とした。それらは、液体窒素で直ちに冷凍して、アッセイまで保存した。手術当日および手術前日に採血を行った。全ての組織および血漿検体について、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC−MS)によって4−ヒドロキシタモキシフェン濃度を分析した。
【0045】
投与前および投与後の血液検体について、全血球算定(CBC)、ビリルビン、血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)、血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(SGOT)、アルカリホスファターゼ、クレアチニン、エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、コレステロール、高密度リポタンパク質(HDL)、低密度リポタンパク質(LDL)、トリグリセリド類、フィブリノゲンおよびアンチトロンビンIIIのアッセイを行った。
【0046】
下記の表4に、乳房組織および血漿で認められた4−ヒドロキシタモキシフェンの濃度をまとめた。正常乳房組織および腫瘍乳房組織は、5つの投与群のいずれにおいても同様の濃度の4−ヒドロキシタモキシフェンを含んでいた。4−ヒドロキシタモキシフェンは、ゲルを他の広い皮膚表面ではなく乳房に直接投与した際には、乳房組織で比較的多量に濃縮されていた。
【0047】
副作用による重大な問題は生じなかった。皮膚投与による局所刺激は起こらなかった。群2の女性1名(0.5mg/日の4−ヒドロキシタモキシフェンゲル)が、一時的な眩暈、膀胱炎および軽度の膣炎が投与第7日に起こったと報告した。群1の女性1名(経口タモキシフェン)が、投与第5日に一過性熱感および軽度の膣炎を報告している。
【0048】
4−ヒドロキシタモキシフェンゲルの投与を受けた患者では、血液学的評価および血清化学評価のいずれにおいても投与前血液検体と投与後血液検体の間に差はなかった。しかしながら、アンチトロンビンIIIおよびフィブリノゲンにおける統計的に有意な低下ならびに血小板数およびリンパ球数における統計的に有意な上昇が、経口タモキシフェン群で認められ、それは他の試験で認められたこの薬剤の生理効果と一致していた。
【0049】
【表4】

【0050】
実施例3:健常女性での経皮投与4−OH−タモキシフェンの耐容性および薬物動態の実証
本試験は、年齢18〜45歳の健常閉経前女性における局所投与4−ヒドロキシタモキシフェンゲルの耐容性および薬物動態を示すものである。各参加者には、2月経周期の期間にわたり、1日1回のゲル投与を行った。
【0051】
表5にまとめたように、3種類の用量および2種類のゲル濃度を調べた。群A〜Cでは、4−ヒドロキシタモキシフェン20mg/100gを含むゲルを、4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/用量を放出する加圧計量式ポンプから投薬した。片方の乳房に投与するにはゲルの量が多すぎたことから、群Cの試験は中断した。群DおよびEには、4−ヒドロキシタモキシフェンをほぼ3倍含む(4−ヒドロキシタモキシフェン57mg/ゲル100gまたは4−ヒドロキシタモキシフェン50mg/ゲル100mL)相対的に濃度の高いゲルを投与した。この相対的に高い濃度のゲルも、4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/用量を供給する計量式ポンプによって投薬した。
【0052】
【表5】

【0053】
以下の月経の第1日に、2月経周期にわたる1日1回投与からなる投与を開始した。第1および第2の周期の第7日、第20日および第25日の午前のゲル投与から24時間後に採血を行った。投与最終日、すなわち第2の月経周期の第25日に、投与前ならびにゲル投与から0.5、1、1.5、2、3、4、6、12、18、24、36、48および72時間後に順次採血を行った。検体について、4−ヒドロキシタモキシフェン、エストラジオール、プロゲステロン、FSHおよびLHを分析した。
【0054】
最後のゲル投与から72時間後で、4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿濃度はまだ検出可能であった。従って、4−ヒドロキシタモキシフェンが血液中で検出できなくなるまでデータ点を得るようにするため、最後のゲル投与から92日後まで時々、一部の参加者から追加の採血を行った。
【0055】
表6に、4−ヒドロキシタモキシフェンの平均±標準偏差(SD)血漿濃度を示し、括弧内に範囲を示した。単一0.5mg用量では4−ヒドロキシタモキシフェンの検出可能な血漿濃度は生じなかったが、単一用量1mg後では患者12名中6名で血漿濃度は検出可能であった(>5pg/mL)。
【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
図1に、第2の月経周期の第25日での最後の投与後における血漿濃度−時間曲線を示した。表7に、第2の月経周期の第25日での最後の投与に関係する平均薬物動態パラメータを示した。
【0059】
【表8】

【0060】
データは、調べた3種類の用量(0.5、1および2mg)を通じて用量応答と一致している。AUCおよびCavに基づいて、相対的に濃度の高いゲルの方が、相対的に濃度が低いゲルより良好に吸収されており、ほぼ2倍であった。
【0061】
生理的耐容性は、患者36名全員で非常に良好であった。この投与は、月経周期中のFSH、LH、エストラジオールおよびプロゲステロンホルモンのレベルに影響しなかった。さらに、投与終了後の卵巣の超音波エコー検査は患者全員において正常であり、正常な大きさの発育卵胞を示した。1名の患者がゲルに対するアレルギー反応を発症し、10名が顔面アクネを報告した。
【0062】
要約すると、本試験は、局所投与後の4−ヒドロキシタモキシフェンへの曝露が用量に応じて増加し、4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿濃度が典型的なエストラジオール濃度(80pg/mL)より低く、全身効果を示す検出可能な臨床検査的および臨床的証拠がないことを示している。
【0063】
実施例4:乳房痛治療における経皮4−ヒドロキシタモキシフェンの有効性の実証
本試験は、経皮投与した際に、4−ヒドロキシタモキシフェンが乳房痛を効果的に治療することを示すものである。
【0064】
月経周期の最後の5日間に両側乳房疼痛があり、月経開始すると退行するという3ヶ月より長期間の病歴がある年齢18〜45歳の患者41名を試験に登録した。患者は全員、過去6ヶ月以内で正常なマンモグラムを示し、試験を通じて、そして試験前の3ヶ月間にわたり避妊を行った。
【0065】
各患者には6ヶ月間の治療を行い、そのうち3ヶ月間はプラシーボゲルによるもの、3ヶ月間は活性ゲルによるものとした。活性ゲル(4−ヒドロキシタモキシフェン20mg/ゲル100g)を、ゲル1.25g/計量用量(すなわち、4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/計量用量)を放出する加圧計量式ポンプを有する容器から投薬した。プラシーボゲルは同様に投薬し、唯一4−ヒドロキシタモキシフェンを含まない以外は活性ゲルと全く同じ有するものとした。各患者には、月経周期の第8日から月経開始まで毎日、各乳房に1計量用量(4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg)のゲルを投与した。
【0066】
検討した一次基準は、1ヶ月当たりの疼痛があった日数および月経周期の最後10日間にわたる平均疼痛重度とした。疼痛の評価は、患者の自己評価によって行った。二次基準には、乳房の柔かさ、小結節形成、乳房の大きさ、局所的な温かさおよび乳房周囲の医師による臨床的評価などがあった。いかなる副作用も記録した。
【0067】
登録した患者41名中35名について、効力を評価した。一次基準(疼痛の自己報告)および二次基準(乳房の柔かさ、小結節形成、触診時疼痛、局所的な温かさおよび乳房測定についての臨床的検査)の解析から、活性薬剤群とプラシーボ群との間に統計的有意差がないことが明らかになった。活性剤治療サイクル中のエンドポイントを、同一患者内で、さらには治療効果、患者効果および期間効果を考慮した標準的な交差設計法に従ってプラシーボサイクルと比較した。活性薬剤治療中の疼痛があった日数(視覚アナログ尺度すなわちVASで20%強)は、プラシーボと有意差はなかった(8.7±8.6と7.2±7.4;p>0.5;ANOVA=1.7)。疼痛のあった日数>40%、60%または80%について調べた場合、有意差は認められなかった。しかしながら、応答には高い個体間変動性があることが認められた。
【0068】
患者9名を続けて試験の第2段階に参加させ、患者の臨床的応答に応じて、1日当たりの4−ヒドロキシタモキシフェンの用量を1mg、1.5mgまたは2mgに増やして投与を行った。以前の段階と同様に、1日1回の疼痛自己評価は続けた。
【0069】
表8および9に示したように、相対的に高用量の4−ヒドロキシタモキシフェンによって、報告される疼痛に有意な低下が生じた。
【0070】
【表9】

【0071】
【表10】

【0072】
1.5mg/日の用量によって、大半の患者で疼痛の緩和があり、平均疼痛強度と疼痛にあった平均日数のいずれにも50%強の低下があった。2.0mg/日のそれより高い用量でも、同様の結果が得られた。
【0073】
引用刊行物
【0074】
【表11】

【0075】
【表12】

【0076】
【表13】

【0077】
【表14】

【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】皮膚投与後の健常女性における4−ヒドロキシタモキシフェンの平均血漿濃度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房痛治療のための医薬の製造における4−ヒドロキシタモキシフェンの使用。
【請求項2】
前記医薬が経皮投与に好適な形態のものである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンが浸透促進剤を含む媒体中のものである請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンがトランス異性体とシス異性体のラセミ体混合物である請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンがトランス異性体である請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
前記医薬が、1日当たり約0.5mg/乳房より多い、好ましくは約0.75mg/乳房より多い、さらに好ましくは約1mg/乳房より多い4−ヒドロキシタモキシフェンを投与できるような量の4−ヒドロキシタモキシフェンを含む請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンがアルコール溶液で製剤されている請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンが水性アルコールゲルで製剤されている請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
前記水性アルコールゲルがエチルアルコール、ミリスチン酸イソプロピルおよびヒドロキシプロピルセルロースを含む請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記乳房痛が周期性である請求項1〜9のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−514949(P2006−514949A)
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560487(P2004−560487)
【出願日】平成15年12月15日(2003.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2003/015028
【国際公開番号】WO2004/054557
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(505233549)ラボラトワール ブザン アンテルナスィヨナル (9)
【Fターム(参考)】