説明

4−フルオロ置換3−オキソ−アルカン酸のエステル類の調製方法

4−フルオロ置換3−オキソ−アルカン酸のエステル類は、ケテンと対応する酸クロリドとの付加反応、その後のエステル化及び水素化脱塩素により調製することができる。好ましい反応生成物は、4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のエステル類である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロクロロアルキルカルボン酸クロリドのケテンへの付加、エステル化及び水素化脱塩素による4−フルオロ置換3−オキソ−アルカン酸(alcanoic acid)のエステル類の調製方法に関する。特に、本発明は、ジフルオロクロロアセチルクロリドのケテンへの付加、エステル化及びその後の還元による、4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のエステル類の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のエステル、特にそのエチルエステルは、化学合成における基本成分である。これらのエステルは、ピラゾールカルボキシアニリド(pyrazole carboxanilide)殺菌剤の製造のための中間体である3−ジフルオロメチル−4−ピラゾール−カルボン酸エステルを調製するのに有用である。そのような殺菌剤の調製は、国際公開第2006/005612号(特許文献1)において引用される米国特許第5,498,624号明細書(特許文献2)に記載されている。4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のエステル類を、オルトギ酸エチル及び無水酢酸と縮合させて、反応生成物をメチルヒドラジンと反応させる。次いで、結果として生じるピラゾールカルボン酸エステルをさらに反応させて、最終的には上記殺菌剤を得ている。
【0003】
4−フルオロ置換−3−オキソ−アルカン酸、例えば、5,5,5−トリフルオロ−4−フルオロ−3−オキソ−ペンタン酸、のエステル類は溶媒として適している。
【0004】
4,4−ジフルオロ−3−オキソ−アルカン酸のエステル類を調製するための公知の方法として、以下に4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のエステル類の実施例により記載されている。4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のメチルエステル及びエチルエステルは、塩基性条件下での酢酸エステルとの縮合により調製することができる。代替経路として、米国特許第5,498,624号明細書(特許文献3)に記載されている。ポリフルオロカルボン酸クロリドまたは無水物を、第三級アミン(例えば、ピリジン)の存在下でカルボン酸クロリドと反応させる。次いで、アルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)とのエステル化を行う。欠点は、ジフルオロアセトアセテートの場合の低収率である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/005612号
【特許文献2】米国特許第5,498,624号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0694526号明細書
【特許文献4】米国特許第6,525,213号明細書
【特許文献5】米国特許第5,405,991号明細書
【特許文献6】国際公開第2005/085173号
【特許文献7】米国特許第5,545,298号明細書
【特許文献8】米国特許第5,569,782号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主題は、4−フルオロ置換3−オキソ−アルカン酸のエステル類、特に4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のエステル類の調製のための技術的かつ経済的に好都合な方法を提供することである。この目的は、本発明の方法により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の最も広範な態様によれば、4−フルオロ置換3−オキソ−アルカン酸のエステル類は、式(I):
RCFClC(O)Cl (I)
(式中、Rは、C、CF、またはFである)
の化合物をケテンと反応させて付加物を形成し、エステル化工程においてこの付加物を反応させて対応するエステルを形成し、その後に水素化脱塩素して式(II):
RCFHC(O)CHC(O)OR (II)
(式中、Rは上記定義のとおりであり、Rは、1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基または1個または複数のフッ素原子により置換されている1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基である)
の化合物を形成することにより調製される。好ましくは、Rは、メチル、エチル、またはプロピルである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の最も好ましい態様、すなわち、ジフルオロクロロアセチルクロリド(すなわち、式(I)においてRがFである化合物)及びケテンからの4,4−ジフルオロ−4−クロロ−3−オキソブタン酸のエステルの調製を考慮して、本発明をさらに説明する。本発明のこの特に好ましい方法によれば、付加工程において、ジフルオロクロロアセチルクロリドをケテンと反応させて4,4−ジフルオロ−4−クロロ−3−オキソブタノイルクロリドを形成し、次いで、エステル化工程において、この4,4−ジフルオロ−4−クロロ−3−オキソブタノイルクロリドを反応させてそれぞれの4,4−ジフルオロ−4−クロロ−3−オキソ−ブタン酸エステルにし、還元工程において、この4,4−ジフルオロ−4−クロロ−3−オキソ−ブタン酸エステルを還元して4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のそれぞれのエステルを形成する。
【0009】
付加工程は、気相または液相において行うことができる。好ましくは、気体のケテンが液体ジフルオロクロロアセチルクロリドに導入されるように圧力が選択される。温度は、好ましくは−50℃〜+60℃の範囲にある。好ましくは、圧力は周囲圧力に一致するが、周囲圧力よりも高くし得る。好ましくは、圧力は、5バール(絶対圧力)以下である。
【0010】
ジフルオロクロロアセチルクロリドとケテンとの間のモル比は、好ましくは、1:0.95〜1:2の範囲にある。所望であれば、さらに多くのケテンが使用され得る。
【0011】
所望であれば、付加反応は、非プロトン性有機溶媒(例えば、脂肪族もしくは芳香族炭化水素またはハロゲン化炭化水素(例えば、塩素化炭化水素))において行われ得る。
【0012】
一実施形態において、形成された付加物を、例えば蒸留により、反応混合物から単離し、次いで、単離された生成物を、エステル化工程においてさらに反応させる。別の実施形態において、反応混合物は、付加物を単離せずにエステル化工程に直接導入される。
【0013】
エステル化は、任意の既知の方法で行われ得る。非常に簡単な実施形態は、塩基の非存在下または存在下における酸クロリドとそれぞれのアルコールとの反応を提供する。
【0014】
エステル化工程は、好ましくは、液相において行われる。好ましくは、圧力は、周囲圧力と等しい。圧力はまた、周囲圧力より高く(例えば、5バール(絶対圧力)まで)てもよい。
【0015】
酸クロリドとアルコールとの間のモル比は、好ましくは、1:0.8〜1:1.5の範囲にある。
【0016】
所望であれば、付加反応は、塩基(例えば、第三級アミン)により促進され得る。塩基が加えられる場合は、反応混合物を冷却することが望ましい。あるいは、エステル化は、米国特許第6,525,213号明細書(特許文献4)及び米国特許第5,405,991号明細書(特許文献5)に記載される通り、オニウム塩の存在下で行われ得る。この種の反応の利点はエステル相が分離し得るという点であり、単離が非常に容易になる。塩基が全く用いられない場合は、反応生成物であるHClを反応混合物から除去することが好都合である。これは、減圧を適用するか、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、または乾燥空気)を反応混合物に通すか、または反応混合物を加熱することにより達成され得る。
【0017】
最後にCFCl基はCFH基に還元される。これは、既知の方法により達成され得る。非常に簡単でかつ好ましい方法は、金属(例えば、亜鉛)を用いた還元である。この反応は、国際公開第2005/085173号(特許文献6)に記載される通りに行われ得る。塩素含有化合物を、好ましくは、水素原子により置換される塩素原子1個当たり0.9〜2.1当量の金属亜鉛と反応させる。アルコールがプロトン源として存在する。好都合には、アルコールは、ブタン酸エステルのエステル基のアルコールと一致する。アルコールは過剰に存在し得、その場合、溶媒として働き得る。所望であれば、他の溶媒(例えば、非プロトン性有機溶媒(例えば、先のバッチで生成されたアルカン酸のエステル、すなわち、この好ましい実施形態においては、先のバッチで生成された4,4−ジフルオロ−4−クロロ−3−オキソブタン酸のそれぞれのエステル))が存在し得る。
【0018】
付加工程において用いられるジフルオロクロロアセチルクロリドは、市販の製品である。ジフルオロクロロアセチルクロリドを生成するための好ましい方法は、反応促進剤(例えば、塩素)の存在下または非存在下における、1,1−ジフルオロ−1,2,2−トリクロロエタンと酸素との光化学的酸化の工程を含む。米国特許第5,545,298号明細書(特許文献7)によれば、光酸化は、石英ガラスを通しての照射下で、塩素の非存在下において行われ得る。所望であれば、この反応は、加圧せずに行われ得る。米国特許第5,569,782号明細書(特許文献8)によれば、290nm以下の波長の光の暴露の下で、塩素の非存在下において、光酸化が行われる。所望されない波長は、ホウケイ酸ガラスを用いることにより遮断され得る。あるいは、所望される範囲内の放射線しか基本的に放たない放射線源を用い得る。所望される場合、酸化反応は、非加圧条件下で行われ得る。この反応は、加圧下においても行われ得る。塩素原子によりα置換されているフッ素化カルボン酸クロリドが、それぞれの出発化合物から同様に調製され得る。
【0019】
光酸化反応に必要とされるクロロフルオロ置換された出発化合物は、既知の方法に従って調製され得る。例えば、1,1−ジフルオロ−1,2,2−ジクロロエタンが市販されており、これは、触媒(例えば、ハロゲン化タンタルまたはハロゲン化アンチモン、特に塩化アンチモン(V)またはそのフッ素化生成物)の存在下でテトラクロロエチレンとHFとの反応により調製され得る。
【0020】
本発明に係る方法は、4,4−ジフルオロ−3−オキソブタン酸及びその同族体のエステルの調製のための安価な、技術的に実行可能な方法を提供する。
【0021】
以下の実施例は、本発明を限定することなく本発明をさらに説明することが意図されている。
【実施例】
【0022】
4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のエステルの調製
商業的供給源からの1,1−ジフルオロ−1,2,2−トリクロロエタンを、米国特許第5,569,782号明細書(特許文献8)に示されている条件下で、約290nmより短い波長の光に対するフィルターとしてホウケイ酸ガラスを用いた装置において、塩素の非存在下で酸素と反応させる。
【0023】
HClを除去し、そして、形成されたクロロジフルオロアセチルクロリドの単離を別個に行うことなく塩化メチレンに溶解させた液体酸クロリドにケテンを通すことにより、反応生成物をケテンと反応させる。この反応混合物を冷却し、−10℃〜−30℃の範囲に保つ。その後、軽沸点の物質(lightboiling substance)を除去し、塩基の非存在下において、粗ジフルオロクロロアセチル酢酸クロリドをエタノールでエステル化する。HClを除去し、結果として生じる粗生成物を、国際公開第2005/085173号(特許文献6)に記載される通り、エタノールの存在下において亜鉛末と反応させる。結果として生じる4,4−ジフルオロ−3−オキソ−ブタン酸のエチルエステルを、蒸留により単離する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
RCFClC(O)Cl (I)
(式中、Rは、C、CF、またはFである)
の化合物をケテンと反応させて付加物を形成し、エステル化工程において前記付加物を反応させて対応するエステルを形成し、その後に水素化脱塩素を行って式(II):
RCFHC(O)CHC(O)OR (II)
(式中、Rは上記定義のとおりであり、Rは、1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基、または1個または複数のフッ素原子により置換されている1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基である)
の化合物を形成することにより、4−フルオロ置換3−オキソ−アルカン酸のエステルを調製するための方法。
【請求項2】
RがFである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
が、メチル、エチル、またはプロピル、好ましくはエチルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記エステル化工程が、塩基または相分離剤の非存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物RCFClC(O)Clが、RCFClCHClと酸素との光酸化により調製され、ここで、Rは上記定義のとおりである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記水素化脱塩素が、エステル化工程において用いられたアルコールの存在下で前記エステルを亜鉛と反応させることにより行われる、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−536730(P2010−536730A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520581(P2010−520581)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060674
【国際公開番号】WO2009/021987
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】