説明

4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体の製造方法

【課題】4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体の工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】分子状酸素とアミン化合物の存在下、極性溶媒中で4−置換−1−ナフトール誘導体を酸化的二量化した後、反応液に酸を添加する下記一般式(1)で表される4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体の製造方法。


(一般式(1)において、Rは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基の群から選ばれる何れかを示し、X及びYは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基の群から選ばれる何れかを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体は、ポリマー材料として有用であると共に、重合禁止剤として極めて高い活性を示す等、機能性材料の原料として有用な化合物である。
【0003】
従来、4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体は、4−置換−1−ナフトールの二量化反応により得られている。(特許文献1,非特許文献1)。
【0004】
例えば、4−アルコキシ−1−ナフトールを過酸化水素などの存在下、太陽光、UV光を照射して光酸化することにより、二量化する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、この方法では、太陽光、UV光を照射するため、工業化するには光照射するための設備投資が必要となる。また、収率も満足のいく結果が得られていない。
【0005】
また、酸化第二錫を酸化剤として使用し、空気雰囲気下、溶媒に塩化メチレンやニトロメタンを使用した4−メトキシ−1−ナフトールの酸化的二量化の方法が報告されている(非特許文献1)。しかしながら、この方法によれば、反応時間が72時間と長く、しかも、ナフタレン環がさらに酸化された副生物が生成するため、カラムクロマトグラフによる分離精製が必要となる等、工業的有利な製造法とはいい難い。
【0006】
【特許文献1】特開2006−199893号公報
【非特許文献1】T.Takeya et al./Tetrahedron60(2004)10681−10693
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体の工業的に有利な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、分子状酸素とアミン化合物の存在下、極性溶媒中で4−置換−1−ナフトール誘導体を酸化的二量化した後、反応液に酸を添加することを特徴とする下記一般式(1)で表される4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体の製造方法に存する。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(1)において、Rは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基の群から選ばれる何れかを示し、X及びYは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基の群から選ばれる何れかを示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明により、4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールを短時間で工業的に有利に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の目的化合物である4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体は、2個の同じ縮合環が二量化した環集合体であり、原料の4−置換−1−ナフトール誘導体としては環集合体に対応する化合物が使用される。
【0013】
(目的化合物)
先ず、説明の便宜上、本発明における目的化合物について説明する。
【0014】
前記の一般式(1)において、Rは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基の群から選ばれる何れかを示し、X及びYは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基の群から選ばれる何れかを示す。
【0015】
上記のRにおける、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、n−アミル基、i−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基などが挙げられ、ヒドロキシアルキル基としては、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基などが挙げられ、アルコキシアルキル基としては、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−ブトキシエチル基などが挙げられ、アリールオキシアルキル基としては、フェノキシメチル基、2−フェノキシエチル基などが挙げられ、ハロゲン化アルキル基としては、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、4−クロロブチル基などが挙げられる。
【0016】
上記のX及びYにおける、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、n−アミル基、i−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−メトキシフェニル基、p−エトキシフェニル基などが挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−トリルオキシ基などが挙げられる
【0017】
一般式(1)で表される4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体の具体例としては、次のものが挙げられる。
【0018】
すなわち、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジエトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジプロポキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(n−ブトキシ)−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシメトキシ)−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシメトキシ)−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシエトキシ)−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジフェノキシエトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−クロロエトキシ)−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール等が挙げられる。
【0019】
さらには、ナフタレン骨格にアルキル基が置換した化合物としては、4,4’−ジメトキシ−5,5’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジエトキシ−5,5’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジプロポキシ−5,5’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(n−ブトキシ)−5,5’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシメトキシ)−5,5’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)−5,5’−ジメチル−’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシメトキシ)−5,5’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシエトキシ)−5,5’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジフェノキシメトキシ−5−メチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−クロロエトキシ)−5,5’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジメトキシ−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジエトキシ−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジプロポキシ−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(n−ブトキシ)−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシメトキシ)−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシメトキシ)−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシエトキシ)−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジフェノキシメトキシ−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−クロロエトキシ)−6,6’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジメトキシ−7,7’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジエトキシ−7−メチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジプロポキシ−7,7’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(n−ブトキシ)−7,7’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシメトキシ)−7,7’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)−7,7’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシメトキシ)−7,7’−ジメチル−’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシエトキシ)−7,7’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジフェノキシメトキシ−7,7’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−クロロエトキシ)−7,7’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジメトキシ−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジエトキシ−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジプロポキシ−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(n−ブトキシ)−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシメトキシ)−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシメトキシ)−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシエトキシ)−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジフェノキシメトキシ−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−クロロエトキシ)−8,8’−ジメチル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール等が挙げられる。
【0020】
さらには、ナフタレン骨格にハロゲン原子が置換した化合物としては、4,4’−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジエトキシ−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジプロポキシ−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(n−ブトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシメトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシメトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシエトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−クロロエトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジクロロ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール等が挙げられる。
【0021】
さらには、ナフタレン骨格にアリール基が置換した化合物としては、4,4’−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジプロポキシ−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(n−ブトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシメトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシメトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−エトキシエトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジフェノキシメトキシ−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール、4,4’−ジ(2−クロロエトキシ)−ジメトキシ−6,6’−ジフェニル−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール等が挙げられる。
【0022】
(原料化合物)
次に、本発明における原料化合物について説明する。前述の通り、原料の4−置換−1−ナフトール誘導体としては、上記の目的物(環集合体)に対応する化合物が使用される。そこで、説明の実質的な重複を避けるため、原料化合物についてはその代表例を以下に示す。
【0023】
原料である4−置換−1−ナフトールとしては例えば次のものが挙げられる。すなわち、4−メトキシ−1−ナフトール、4−エトキシ−1−ナフトール、4−(n−プロポキシ)−1−ナフトール、4−(i−プロポキシ)−1−ナフトール、4−(n−ブトキシ)−1−ナフトール、4−(i−ブトキシ)−1−ナフトール、4−(n−アミルオキシ)−1−ナフトール、4−(i−アミルオキシ)−1−ナフトール、4−(n−ヘキシルオキシ)−1−ナフトール、4−(n−ヘプチルオキシ)−1−ナフトール、4−(n−オクチルオキシ)−1−ナフトール、4−(2−エチルヘキシルオキシ)−1−ナフトール、4−(n−ノニルオキシ)−1−ナフトール、4−(n−デシルオキシ)−1−ナフトール、4−(n−ドデシルオキシ)−1−ナフトール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−1−ナフトール、4−(2−メトキシプロポキシ)−1−ナフトール、4−(2−メトキシブトキシ)−1−ナフトール、4−(2−エトキシエトキシ)−1−ナフトール、4−(2−クロロエトキシ)−1−ナフトール、4−(2−ブロモエトキシ)−1−ナフトール、4−(2−フェノキシエトキシ)−1−ナフトールが挙げられる。
【0024】
その他としては、上記化合物の6位に塩素原子が置換した、6−クロロ−4−メトキシ−1−ナフトール、6−クロロ−4−エトキシ−1−ナフトール、6−クロロ−4−(n−プロポキシ)−1−ナフトール、6−クロロ−4−(i−プロポキシ)−1−ナフトール、6−クロロ−4−(n−ブトキシ)−1−ナフトール、4−(i−ブトキシ)−1−ナフトール、6−クロロ−4−(n−アミルオキシ)−1−ナフトール、4−(i−アミルオキシ)−1−ナフトール、6−クロロ−4−(n−ヘキシルオキシ)−1−ナフトール、6−クロロ−4−(n−ヘプチルオキシ)−1−ナフトール、6−クロロ−4−(n−オクチルオキシ)−1−ナフトール、4−(2−エチルヘキシルオキシ)−1−ナフトール、6−クロロ−4−(n−ノニルオキシ)−1−ナフトール、6−クロロ−4−(n−デシルオキシ)−1−ナフトール、4−(n−ドデシルオキシ)−1−ナフトール、6−クロロ−4−(2−ヒドロキシエトキシ)−1−ナフトール等が挙げられる。
【0025】
本発明においては、分子状酸素とアミン化合物の存在下、極性溶媒中で4−置換−1−ナフトール誘導体を酸化的二量化する。
【0026】
分子状酸素としては、大気中の空気をそのまま使用してもよく、脱湿した空気を使用してもよい。空気圧力は大気圧もしくは加圧下の何れでもよい。好ましくは大気圧から5気圧程度である。酸化的二量化反応は、空気中の酸素と原料溶液との気液反応であるために空気と原料溶液との接触面積が大きいほど反応時間を短縮できるが、通常の攪拌操作においても十分に酸化的二量化反応を行わせることが出来る。その他、窒素ガス等の不活性ガスで希釈した酸素も同様に使用することが出来る。
【0027】
アミン化合物としては、一級アミン、二級アミン、三級アミンの何れもが使用可能である。アミン化合物は基本的には酸化的二量化の反応触媒として作用するが、アミン化合物の種類によっては生成する二量体と1:1の付加物(ダイマーのアミンアダクト)を生成する。特に、二級アミンまたは三級アミンによって生成する付加物は、安定性が高く、反応液から沈殿として析出する。その結果、二級アミンまたは三級アミンの場合、反応液中のアミン化合物の濃度は二量化反応の進行と共に漸次に低下する。一級アミンの場合、生成する付加物は不安定であるため、反応液中のアミン化合物の濃度は二量化反応の進行に関係なく維持される。
【0028】
一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン,n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、n−デシルアミン、n−ドデシルアミン等が挙げられる。また、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン,ジ−n−オクチルアミン、ジ−n−デシルアミン、ジ−n−ドデシルアミン等が挙げられる。さらに、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、トリ−n−オクチルアミン等が挙げられる。これらのアミンの中では、後述のように使用量が触媒量で済むことから、一級アミンが好ましい。
【0029】
アミン化合物の適切な使用量はアミン化合物の種類によって異なる。一級アミンの場合、その使用量は、4−置換−1−ナフトール誘導体1モルに対し、通常0.001〜2モル、好ましくは0.01〜0.1モルの範囲である。0.001モル未満の場合は反応時間が長くなり、2モルを超える場合は、生成物の反応液に対する溶解度が高くなり、単離収率が低下する。一方、二級アミン又は三級アミン場合、その使用量は、4−置換−1−ナフトール誘導体1モルに対し、通常0.5〜3モル、好ましくは1〜2モルである。0.5モル未満の場合は、前述した付加物の生成のため、反応液中の二級アミン又は三級アミンの濃度が低下し、反応速度が遅くなる。また、3モルを超える場合は、生成物の反応液に対する溶解度が高くなり、単離収率が低下する。
【0030】
極性溶媒としては、アルコール系溶媒、ニトリル系溶媒、ケトン系溶媒、水溶性のエーテル系溶媒が使用可能であり、酸化的二量化反応により生成する4,4’−ジアルコキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体の着色防止の観点から、特に、アルコール系溶媒が好適に使用される。アルコール系溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−エチルヘキシルアルコール等の炭素数1〜8の1価アルコールの他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、等が挙げられる。特に、メチルアルコール又はエチルアルコールは、低沸点で蒸発させ易い等、後処理が容易なため好ましい。
【0031】
極性溶媒の使用量は、4−置換−1−ナフトール誘導体を溶解し得る量であり、具体的には、4−置換−1−ナフトール誘導体の濃度が5〜25重量%程度の範囲になる量を使用する。また、極性溶媒100重量部に対し、20〜30重量部の水を添加することにより、生成する4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールアミン付加体の結晶析出を促進させることが出来る。
【0032】
酸化的二量化における反応温度は、通常0〜80℃の範囲、好ましくは20〜80℃の範囲である。0℃未満の場合は反応が遅くなり、80℃を超える場合は、原料溶液中の溶存酸素量が少なくなるため、反応が遅くなる。
【0033】
酸化的二量化の後、本発明においては、反応液に酸を添加する。これにより、ダイマーのアミンアダクトからアミン化合物が分離される。酸の種類は特に制限されないが、水溶性の酸が好ましく、その具体例としては、硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、燐酸などが挙げられる。通常、これら酸は水溶液として使用され、その濃度は通常5〜50重量%程度である。酸の添加量は、反応に使用したアミン化合物の中和に必要な量でよい。酸添加後の反応液のpHは、通常7以下2以上となる。そして、一般的には、反応液に酸を添加することにより沈殿の量が増える。反応溶媒から析出した結晶(4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体)は、濾過した後に乾燥される。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、原料化合物、溶媒、アミン化合物としては、以下の表1に記載のものを使用した。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1(4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールの合成):
4−メトキシ−1−ナフトール3.48g(0.020モル)を200ml三角フラスコに入れ、メタノール60ml、水14mlを加えた。これにn−ブチルアミン0.148g(0.0020モル)を加え、空気中で4時間攪拌したところ、肌色の沈殿が大量に生じた。このスラリーに10重量%硫酸水溶液を加え、液のpHを酸性にした。その後、析出した沈殿を吸引濾過し、淡い肌色の針状結晶2.60g(0.0075モル)を得た。この針状結晶について、融点、赤外吸収スペクトル(IR)、H−NMRを測定し、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールであることを確認した。単離収率は75モル%であった。
【0037】
(1)融点:233℃
(2)IR(KBr,cm−1):3430,2920,1590,1460,1400,1338,1290,1215,1125,1092,980,815,758.
(3)H−NMR(重DMSO,270MHz):δ3.95(s,6H),6.94(s,2H),7.57(m,4H),8.19(d、J=8Hz,2H),8.30(d,J=8Hz,2H),8.95(bs,2H).
【0038】
実施例2(4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールの合成):
実施例1において、n−ブチルアミンの使用量を0.814g(0.011モル)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で反応させた。淡い肌色の針状結晶2.65g(0.0077モル)を得た。この針状結晶について、融点、赤外吸収スペクトル(IR)、H−NMRを測定し、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールであることを確認した。単離収率は77モル%であった。
【0039】
実施例3(4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールの合成):
実施例1において、n−ブチルアミン0.148g(0.0020モル)に代えてn−ジブチルアミン1.42g(0.011モル)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で反応させた。淡い肌色の針状結晶2.6g(0.0075モル)を得た。この針状結晶について、融点、赤外吸収スペクトル(IR)、H−NMRを測定し、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールであることを確認した。単離収率は75モル%であった。
【0040】
実施例4(4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールの合成):
実施例1において、n−ブチルアミン0.148g(0.0020モル)に代えてジエチルアミン0.80g(0.011モル)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で反応させた。淡い肌色の針状結晶2.7g(0.0078モル)を得た。この針状結晶について、融点、赤外吸収スペクトル(IR)、H−NMRを測定し、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールであることを確認した。単離収率は78モル%であった
【0041】
実施例5(4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールの合成):
実施例1において、n−ブチルアミン0.148g(0.0020モル)に代えてトリエチルアミン1.10g(0.011モル)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で反応させた。淡い肌色の針状結晶2.8g(0.0080モル)を得た。この針状結晶について、融点、赤外吸収スペクトル(IR)、H−NMRを測定し、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールであることを確認した。単離収率は80モル%であった。
【0042】
比較例1(4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールの合成):
実施例1において、n−ブチルアミンを使用しなかった以外は、実施例1と同様の方法で反応させた。薄いピンク色の針状結晶0.50g(0.00145モル)を得た。この針状結晶について、融点、赤外吸収スペクトル(IR)、H−NMRを測定し、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールであることを確認した。単離収率は14モル%であった。
【0043】
実施例6(4,4’−ジプロポキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールの合成):
4−プロポキシ−1−ナフトール4.04g(0.020モル)を200ml三角フラスコに入れ、メタノール60ml、水20mlを加え、溶解させた。これにn−ジブチルアミン1.42g(0.011モル)を加え、空気中で4時間攪拌した。その後、析出した結晶を吸引濾過し、淡い肌色の針状結晶2.65g(0.0076モル)を得た。この針状結晶について、融点、赤外吸収スペクトル(IR)、H−NMRを測定し、4,4’−ジプロポキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールであることを確認した。単離収率は76モル%であった。
【0044】
(1)融点:152℃
(2)IR(KBr,cm−1):3410,2950,1590,1450,1416,1380,1294,1228,1150,1120,1086,950,920,812,752.
(3)H−NMR(CDCl,270MHz):δ1.10(t,J=8Hz,6H),1.94(m,4H),4.04(m,4H),5.60(bs,2H),6.72(s,2H),7.59(m,4H),8.31(m,4H).
【0045】
比較例2(4,4’−ジプロポキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールの合成):
実施例6において、n−ジブチルアミンを使用しなかった以外は、実施例6と同様の方法で反応させた。淡い肌色の針状結晶0.95g(0.0027モル)を得た。この針状結晶について、融点、赤外吸収スペクトル(IR)、H−NMRを測定し、4,4’−ジプロポキシ−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオールであることを確認した。単離収率は27モル%であった。
【0046】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子状酸素とアミン化合物の存在下、極性溶媒中で4−置換−1−ナフトール誘導体を酸化的二量化した後、反応液に酸を添加することを特徴とする下記一般式(1)で表される4,4’−ジ置換−2,2’−ビナフタレン−1,1’−ジオール誘導体の製造方法。
【化1】

(一般式(1)において、Rは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基の群から選ばれる何れかを示し、X及びYは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基の群から選ばれる何れかを示す。)
【請求項2】
アミン化合物が一級アミンである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
極性溶媒が、炭素数1〜8の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−47524(P2010−47524A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213875(P2008−213875)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】