説明

5’−ヌクレオチドの製造方法

【課題】酵母エキスをはじめとする各種調味料に有用に利用できる呈味性の5’−ヌクレオチドを、酵母抽出液中のリボ核酸から高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】リボ核酸を含む酵母抽出液に、ホスホジエステラーゼを作用させてリボ核酸を5’−ヌクレオチドに分解するに際し、該酵母抽出液を予め脱ポリアミン(特に、分子中にアミノ基を3基以上有しているポリアミン)処理、弱酸性陽イオン交換樹脂又は吸着樹脂処理、する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母から抽出したリボ核酸をホスホジエステラーゼにより酵素分解し、収率よく5’−ヌクレオチドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母エキスは強い呈味性を有するために他の調味料と配合され、食品素材、調味料等に広く用いられている。酵母エキスの呈味成分は、アミノ酸、ペプチド、糖類、5’−ヌクレオチド等であるが、中でも5’−ヌクレオチド類、特に5’−グアニル酸ナトリウム(以下、単にGMPとも略称する。)及び5’−イノシン酸ナトリウム(以下、単にIMPとも略称する。)は、旨味成分、コク味成分として重要である。そこで、酵母エキスに、これらの天然の5’−ヌクレオチド類を多量に含有させる方法がが開発されてきた(特許文献1)。
【0003】
これら5’−ヌクレオチド類を多量に含有する酵母エキスは、リボ核酸の自己消化による3’−ヌクレオチドの生成を防ぐために、酵母菌体を熱処理し菌体内酵素を失活させると共に菌体内のリボ核酸を抽出し、ホスホジエステラーゼを作用させることにより製造される。
ホスホジエステラーゼによるリボ核酸の分解条件は古くから検討されており(特許文献2)、酵母抽出物においてもそれら条件が適用されるが、酵母抽出物によっては、特にリボ核酸の含有率の高いキャンディダ属の酵母抽出物においては、リボ核酸の分解率が十分ではなく、更なる検討が求められていた。
【特許文献1】WO88/05267号公報、特開平6−113789号公報
【特許文献2】特公昭36−5287号公報、同39−12342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、酵母、特にキャンディダ属酵母、菌体から抽出したリボ核酸を含む抽出液について、収率よくリボ核酸を5’−ヌクレオチドに分解する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意研究の結果、酵母抽出物中のポリアミンがリボ核酸の分解率を抑えていること、ポリアミンを除去することによりリボ核酸の分解率が向上すること、を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)リボ核酸を含む酵母抽出液に、ホスホジエステラーゼを作用させてリボ核酸を5’−ヌクレオチドに分解するに際し、該酵母抽出液を予め脱ポリアミン処理することを特徴とする、5’−ヌクレオチドの製造方法、
(2)酵母がキャンディダ(Candida)属酵母である上記(1)記載の5’−ヌクレオチドの製造方法、
(3)ポリアミンが、分子中にアミノ基を3基以上有しているポリアミンである、上記(1)乃至(2)記載の5’−ヌクレオチドの製造方法、
(4)脱ポリアミン処理が、弱酸性陽イオン交換樹脂又は吸着樹脂によるものである、上記(1)乃至(3)のいずれか一に記載の5’−ヌクレオチドの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、酵母抽出物中のリボ核酸を収率よく呈味性の5’−リボヌクレオチドに分解できる。特にリボ核酸の含有量の高いキャンディダ属酵母はポリアミンの含有量も多く、酵母菌体中のリボ核酸含有量をあげることなく、酵母エキス中の5’−ヌクレオチド含有量をより高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用されるリボ核酸を含む酵母抽出液は、酵母菌体をプロテアーゼ処理、細胞壁溶解酵素処理、加熱抽出、アルカリ抽出等によってリボ核酸を抽出した抽出液であり、菌体内酵素を失活させたものが好ましい。
用いられる酵母は、食用酵母であるサッカロミセス(Saccaromyces)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、キャンディダ(Candida)属の酵母があげられるが、中でもリボ核酸の含有量が高く、抽出物中にはポリアミンの量も多い、キャンディダ属酵母が特に好ましい。
【0008】
ポリアミン類とは、通常、酵母菌体中に含まれているポリアミンをいい、例えば、プトレッシン、スペルミジン、スペルミン等であるが、中でも、分子中にアミノ基を3基以上有しているポリアミンが、ホスホジエステラーゼのリボ核酸の分解能を低下させる割合が高い。
【0009】
抽出液の脱ポリアミン処理は、任意の方法が用いられるが、特に弱酸性陽イオン交換樹脂あるいは吸着樹脂で処理する方法が、簡便で、酵母抽出物中の有効成分のロスも少なく、好ましい。
使用できる弱酸性陽イオン交換樹脂としては、アクリル系のものが好ましく、例えば、アンバーライトIRC−76(オルガノ(株)製)、ダイヤイオンWK10、同20(三菱化学(株)製)、レバチットCNP−80、同CNP−C(バイエル(株)製)等が例示される。
また、吸着樹脂としては、芳香族系又は芳香族系修飾型のものが好ましく、例えば、ダイヤイオンHP20、同21、セパビーズSP207、同825、同850(三菱化学(株)製)、アンバーライトXAD2、同4、同7(オルガノ(株)製)等が挙げられる。
【0010】
これら樹脂による処理条件は、ポリアミン類を吸着できる条件であれば特に制限はないが、通常、通液速度(SV)が0.5〜5程度が好ましい。
【0011】
脱ポリアミン処理された抽出液のホスホジエステラーゼによる分解条件は、公知の条件に準じて実施することができる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
なお、RNA分解率は、以下の方法により求めた。
RNAの酵素分解溶液(0.55ml)に0.4M過塩素酸溶液を加え、遠心分離(10,000ppm、10分間)して上澄と沈殿物に分け、沈殿物を取得した。沈殿物に0.3MKOH溶液0.2mlを加えて攪拌後、45℃で60分間反応させた。反応後、60%過塩素酸0.06ml及び蒸留水0.74mlを加え、遠心分離(10,000ppm、10分間)した。上澄0.1mlを採取して蒸留水2.4mlを加え25倍希釈とし、紫外可視分光光度計(島津製作所Uvmini−1240)を用いて波長260nmでの吸光度(I)を測定した。反応前の溶液についても25倍希釈し吸光度(II)を測定した。
分解率は数1により算出した。
【0013】
【数1】

【0014】
実施例1
RNA溶液(50mmol/L酢酸溶液5.9mlと50mmol/L酢酸ナトリウム溶液14.1mlから調整した酢酸緩衝溶液(pH5.0)に10g/LとなるようにRNAを溶解したもの)500μl、及び該RNA溶液に0.42mmol/Lになるようにリン酸スペルミンを添加した溶液500μl、に、酵素溶液(リボヌクレアーゼアマノD(天野製薬製)、2g/L)をそれぞれ50μL添加し、65℃で反応した。
反応時間とRNA分解率の結果を表1及び図1に示す。
表1及び図1から、リン酸スペルミンが存在する場合は、RNAの分解率が低いことが分かる。
【0015】
【表1】

【0016】
実施例2
実施例1において、リン酸スペルミンの添加量を変化させた以外は実施例1と同様に実施し、RNA分解率を求めた。なお、反応時間は、実施例1の結果から10分間とした。
結果を表2及び図2に示す。
表2及び図2から、リン酸スペルミンの添加量が多いほど分解率も低下することが分かる。
【0017】
【表2】

【0018】
実施例3
実施例1において、ポリアミンとしてプトレッシン、スペルミジン、スペルミンを用いた以外は実施例1と同様に実施し、RNA分解率を求めた。なお、反応時間は、実施例1の結果から10分間とした。
結果を表3及び図3に示す。
表3及び図2から、分子内に有するアミノ基の数によってRNA分解率が異なることが分かる。
【0019】
【表3】

【0020】
実施例4
キャンディダ・ウチリスCS7529株の10%菌体懸濁液1000mlを90℃30分間加熱し、菌体内酵素を完全に失活させた後、40℃に冷却し、プロチンPC−10(大和化成製プロテアーゼ製剤)0.5gを添加し、40℃で10時間撹拌し、次いで該酵素を加熱失活させることにより、酵素抽出物を得た。
得られた酵素抽出液10mlを用い、弱酸性陽イオン交換樹脂(WK−11)2.5mlを加え、pHを5.6に制御撹拌した後、濾過することにより樹脂を除き、脱ポリアミン処理液を得た。
該処理液2mlをとり、リボヌクレアーゼアマノD(天野製薬製)2ml(2g/L溶液)を加え、65℃で反応した。
結果を表4に示す。
【0021】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0022】
以上説明してきたように、本発明によると、酵母抽出液中のリボ核酸から高収率で呈味性の5’−ヌクレオチドを製造することができるため、酵母エキスをはじめとする各種調味料に有用に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】リン酸スペルミンのRNA分解率に対する影響を示す図である。
【図2】リン酸スペルミンの濃度とRNA分解率との関係を示す図である。
【図3】ポリアミン分子中のアミノ基の数とRNA分解率との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボ核酸を含む酵母抽出液に、ホスホジエステラーゼを作用させてリボ核酸を5’−ヌクレオチドに分解するに際し、該酵母抽出液を予め脱ポリアミン処理することを特徴とする、5’−ヌクレオチドの製造方法。
【請求項2】
酵母がキャンディダ(Candida)属酵母である請求項1記載の5’−ヌクレオチドの製造方法。
【請求項3】
ポリアミンが、分子中にアミノ基を3基以上有しているポリアミンである、請求項1乃至2記載の5’−ヌクレオチドの製造方法。
【請求項4】
脱ポリアミン処理が、弱酸性陽イオン交換樹脂又は吸着樹脂によるものである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の5’−ヌクレオチドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−237125(P2008−237125A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83175(P2007−83175)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】