説明

5−ヒドロキシ−3−オキソ−ヘキサン酸誘導体の新規な製造方法

本発明はアトロバスタチンとロスバスタチンなどのスタチン系の化合物の製造に有用な中間体である、光学活性の5−ヒドロキシ−3−オキソ−ヘキサン酸誘導体またはその互変異性体を製造する新規な方法に関するものである。(S)−4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルとα−ハロアセテートのブレーズ反応を主反応として利用して、副産物の最小限の形成と良い収率で目的物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高コレステロール血症又は高脂血症治療剤として公知のアトロバスタチン(Atorvastatin)、ロスバスタチン(Rosuvastatin)などのスタチン(statin)系化合物の製造に有用な中間体である、下記式(1)の光学活性な、5−ヒドロキシ−3−オキソ−ヘキサン酸誘導体又はその互変異性体の新規な製造方法に関するものである。
【0002】
【化4】

【0003】
式中、Rは水素、飽和C−Cアルキル又は不飽和C−Cアルキルを示し、XはBr、Cl、Iなどのハロゲンを示す。
【背景技術】
【0004】
前記式(1)の化合物を製造するための従来の方法では、光学活性な3−ヒドロキシエステル化合物を、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)又はリチウムヘキサメチルジサラジド(LHMDS)を処理して得られる、酢酸t−ブチルのリチウムエノレートと低温(−78℃)条件下で反応させて式(1)の化合物を得ている(米国特許第5,278,313号参照)。最近、クライゼン縮合の前にグリニャール試薬を添加することにより、前記と類似の反応が成功的に行われた。この条件によると、5℃でも反応が遂行され得た(ヨーロッパ特許公開第1104750号参照)。
【0005】
しかし、前記の製造方法は、工業生産において使用するには問題点があるリチウムヘキサメチルジサラジドやリチウムジイソプロピルアミドを過量使用している。さらに、前者の場合、非常に低い温度で反応しても、所望しない副産物が相当量形成されることで工程が複雑になる(Tetrahedron Lett., 2002, 43, 2679-2682参照)。後者の場合、前者に比べて収率がだいぶ低い結果となる。後者の方法の唯一の利点は、反応を5℃で遂行することができるということである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは(S)−4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル及びα−ハロアセテートを有機酸又はその誘導体によってイン・シトゥー(in situ)で活性化させた金属亜鉛を用いてブレーズ反応して、式(1)の化合物を製造する新規な方法を開発した。この新規な方法は、副産物が最小限の量で形成され、そして全ての反応が室温又はそれ以上で遂行される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は有機酸又はその誘導体によってイン・シトゥーで活性化させた金属亜鉛を用いるブレーズ反応を利用して、前で定義されたような式(1)の化合物又はその互変異性体を製造する有効的な方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、 下記式(1)
【0009】
【化5】

【0010】
(式中、Rは水素、飽和C−Cアルキル又は不飽和C−Cアルキルを示し、そしてXはハロゲンを示す)の化合物又はその互変異性体の製造方法であって、次の工程;
1)有機溶媒中、有機酸又はその誘導体で活性化させた金属亜鉛の存在下で、下記式(2)
【0011】
【化6】

【0012】
(式中、Xは前記定義と同義であり、及びPは水素又はヒドロキシ保護基を示す)の(S)−4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル誘導体と、下記式(3)
【0013】
【化7】

【0014】
(式中、Rは前記定義と同義であり、及びYはBr又はIを示す)のα−ハロアセテート化合物を反応させる;及び、
2)工程1)で得られた生成物を酸水溶液存在下に加水分解させる;
を含有してなる製造方法に関する。
【0015】
式(1)の化合物の互変異性体は下記式(1a)のエノール形の化合物を意味する。
【0016】
【化8】

【0017】
しかし、本発明に係る方法では式(1)の化合物が主生成物として得られる。
【0018】
本発明の重要な特徴は有機酸又はその誘導体で活性化させた金属亜鉛を用い、式(3)のα−ハロアセテート化合物のブレーズ反応に、式(2)のニトリル官能基を適用して、式(1)のβ−ケトエステル基を導入することである。反応メカニズムは下記反応式1のように表すことができる:
【0019】
【化9】

【0020】
本発明の方法では、攪拌している金属亜鉛の有機溶媒懸濁液に有機酸又はその誘導体を触媒量加えた後、混合物を還流攪拌して金属亜鉛を活性化させる。この混合物に式(2)のニトリル化合物及び式(3)のα−ハロアセテート化合物をゆっくり加えると式(4)のエナミン中間体が製造される。反応完結後、全混合物を酸水溶液で加水分解すると目標とする式(1)の化合物が得られる。それぞれの反応条件を以下でさらに具体的に説明する。
【0021】
式(2)における基Pは水素又はヒドロキシ保護基を示す。ヒドロキシ保護基はSiRR、エトキシエチル、及びテトラヒドロピラニルを含み、ここで、Rは前記定義と同義であり、R及びRはそれぞれ水素、飽和C−Cアルキル、不飽和C−Cアルキル、又はC−C12芳香族基を示す。好ましいSiRR基は、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、t−ブチルジメチルシリル(TBDMS)、およびt−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)を含む。純度及び収率の面でトリメチルシリルは最も好ましいヒドロキシ保護基である。
【0022】
反応溶媒としては、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン及びエーテルを使用することができる。その中でも純度及び収率面でテトラヒドロフランが最も好ましい。
【0023】
式(3)のα−ハロアセテート化合物は0.5〜2.0時間にわたって滴下して添加する、この添加時間を1.0〜1.5時間の間にした場合に、純度及び収率が最も満足できる。式(3)の化合物を式(2)の化合物に対して1.0〜3.0当量で使用することが好ましい。特に、Rが飽和C−Cアルキルである式(3)の化合物の使用が望ましい。アルキル−ハロアセテートの中で、メチル又はエチルハロアセテートよりイソプロピルハロアセテートが収率の面でより望ましく、イソプロピルハロアセテートよりt−ブチルハロアセテートがより望ましい。
【0024】
金属亜鉛は式(2)の化合物に対して、1.0〜3.0当量で使用することが好ましい。金属亜鉛は、普通、20〜120℃範囲の温度で溶媒と共に還流攪拌する。金属亜鉛は亜鉛末又は亜鉛粉を使用することが好ましい。
【0025】
金属亜鉛を活性化するための有機酸又はその誘導体としては、RCOH、RSOH、RCOTMS、RSOTMS又は(RSONH(ここで、Rは水素、飽和C−Cアルキル、不飽和C−Cアルキル、ハロゲンで置換された飽和C−Cアルキル、ハロゲンで置換された不飽和C−Cアルキル、C−C12芳香族又はハロゲンで置換されたC−C12芳香族を示す)を使用することが好ましく、式(2)の化合物に対して、0.001〜0.1当量を使用することが好ましい。
【0026】
塩酸又は硫酸水溶液を加水分解反応工程で使用することができ、塩酸水溶液がより適している。反応液のpHを3ないし4に調整することが純度及び収率面で好ましい。酸水溶液は0ないし5℃の温度範囲で滴下して添加し、加水分解反応は同じ温度で攪拌して遂行することが好ましい。
【0027】
本発明に係る製造工程は先行工程以上の利点:1)副産物の形成が最小化され、2)全ての反応が室温付近又はそれ以上で遂行され、3)有機酸を使用して活性化させることによって、α−ハロアセテート化合物及び亜鉛のような試薬の使用を最小化することができる:を提供する
【0028】
全てのこのような改善は工程の効率的な遂行をもたらし、生成物の品質及び収率を高める。
【0029】
以下、本発明を下記実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0030】
(S)−6−クロロ−5−ヒドロキシ−3−オキソ−ヘキサン酸t−ブチルエステルの製造
【0031】
【化10】

【0032】
亜鉛末(690mg)、テトラヒドロフラン(4.0mL)及びメタンスルホン酸(10mg)を反応容器に入れ、混合物を還流攪拌した。反応混合物に(S)−4−クロロ−3−トリメチルシラニルオキシブチロニトリル(1.00g)を加え、続いて、t−ブチルブロモアセテート(2.04g)を1時間にわたって加えた。反応混合物を30分間還流攪拌し、0℃に冷却した。反応液の酸性度がpH4になるまで3Nの塩酸水溶液を滴下し、反応溶液を3時間攪拌した。反応完結後、テトラヒドロフランを減圧蒸留し、残留物を酢酸エチルで抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル/n−ヘキサン=1/3、v/v)で精製して表題化合物を87%(1.07g)の収率で得た。
【0033】
H NMR (400MHz, CDCl) δ
エノール形(7%): 12.40 (bs, 1H), 5.01 (s, 1H), 4.19 (m, 1H), 3.61 (m, 2 H), 2.88 (m, 2H), 2.54 (m, 1H), 2.49 (bs, 1H), 2.47 (m, 1H), 1.49 (s, 9H).
ケト形(93%): 4.32 (m, 1H), 3.62 (m, 2H), 3.42 (s, 2H), 3.00 (bd, 1H), 2.88 (m, 2H), 1.48 (s, 9H).
Mass (ESI, m/z): 497 (2M+Na+2), 495 (2M+Na), 261 (M+Na+2), 259 (M+Na).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、Rは水素、飽和C−Cアルキル又は不飽和C−Cアルキルを示し、そしてXはハロゲンを示す)の化合物又はその互変異性体の製造方法であって、次の工程;
1)有機溶媒中、有機酸又はその誘導体で活性化させた金属亜鉛の存在下で、下記式(2)
【化2】

(式中、Xは前記定義と同義であり、及びPは水素又はヒドロキシ保護基を示す)の(S)−4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル誘導体と、下記式(3)
【化3】

(式中、Rは前記定義と同義であり、及びYはBr又はIを示す)のα−ハロアセテート化合物を反応させる;及び、
2)工程1)で得られた生成物を酸水溶液存在下に加水分解させる;
を含有してなる製造方法。
【請求項2】
式(2)の(S)−4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル誘導体のPが、水素を示すか、又はSiRRを示すか、(ここで、Rは請求項1の定義と同義であり、R及びRはそれぞれ水素、C−C飽和アルキル、C−C不飽和アルキル、又はC−C12芳香族基を示し)、又はエトキシエチル又はテトラヒドロピラニルを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Pがトリメチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、又はt−ブチルジフェニルシリルである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Pがトリメチルシリルである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
有機溶媒がテトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン及びエーテルからなる群より選択される1つ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
有機溶媒がテトラヒドロフランである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
式(3)のα−ハロアセテート化合物で、Rが飽和C−C−アルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
Rがt−ブチルである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
式(3)のα−ハロアセテート化合物を式(2)の化合物に対して、1.0〜3.0当量の量で使用する、請求項1又は7に記載の方法。
【請求項10】
金属亜鉛を式(2)の化合物に対して、1.0〜3.0当量の量で使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
金属亜鉛が亜鉛末又は亜鉛粉である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
有機酸又はその誘導体がRCOH、RSOH、RCOTMS、RSOTMS及び(RSONH(ここで、Rは水素、飽和C−Cアルキル、不飽和C−Cアルキル、ハロゲンで置換された飽和C−Cアルキル、ハロゲンで置換された不飽和C−Cアルキル、C−C12芳香族、又はハロゲンで置換されたC−C12芳香族を示す)からなる群より選択さる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
有機酸又はその誘導体を式(2)の化合物に対して、0.001〜0.1モル当量の量で使用する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
酸水溶液が塩酸水溶液又は硫酸水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
酸水溶液を反応液のpHを3〜4に調整する量で加える、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
酸水溶液を0〜5℃の温度範囲で滴下して加える、請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2006−513245(P2006−513245A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566329(P2004−566329)
【出願日】平成15年11月17日(2003.11.17)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002470
【国際公開番号】WO2004/063132
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(502345599)エルジー・ライフ・サイエンシーズ・リミテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】LG Life Sciences Ltd.
【Fターム(参考)】