説明

5−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−ニトロ安息香酸化合物の製法

【課題】5−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−ニトロ安息香酸化合物の製法。
【解決手段】一般式(1)で示される4,5−ジメトキシ−2−ニトロ安息香酸化合物と塩基とを反応させた後、溶媒及び酸を加え、得られた抽出液から、一般式(2)で示される5−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−ニトロ安息香酸化合物を得る。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物から5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を製造する方法に関する。5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物は、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物から5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を製造する方法としては、例えば、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸を20%水酸化カリウム水溶液中で反応させた後、濃塩酸で酸性化して5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸カリウムを得、更に、濃塩酸で酸性化して、収率85%で5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸を得る方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、2回における濃塩酸による酸性化が必要であるとともに、一旦、中間体である5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸カリウムを取り出さなければならないという問題があり、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物の工業的な製法としては不利であった。
【非特許文献1】J.Ind.Chem.Soc.,Vol.47,No.10,925(1970)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、煩雑な操作をすることなく、簡便な方法にて、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物から、高収率で5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を得ることが出来る、工業的に好適な5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物の製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、一般式(1)
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、Rは、水素原子又はアルキル基、R及びRは、反応に関与しない基を示す。)
で示される4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物と塩基とを反応させた後、抽出溶媒及び酸を加え、得られた抽出液から、一般式(2)
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、R及びRは、前記と同義である。)
で示される5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を得ることを特徴とする、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物の製法によって解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、煩雑な操作をすることなく、簡便な方法にて、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物から、高収率で5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を得ることが出来る、工業的に好適な5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物の製法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の反応において使用する4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物は、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Rは、水素原子又はアルキル基であり、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0011】
又、R及びRは、反応に関与しない基を示すが、例えば、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、シアノ基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はカルボキシル基を示す。
【0012】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0013】
前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0014】
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0015】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、p-トリル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0016】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0017】
前記アルコキシル基としては、例えば、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0018】
前記アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0019】
本発明の反応で使用する塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の有機アミン類;ピリジン、ピコリン等のピリジン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド等のアルカリ金属アルコキシド等が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属水酸化物、更に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが使用される。なお、これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0020】
前記塩基の使用量は、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜20モル、更に好ましくは0.5〜10モルである。
【0021】
本発明の反応は、溶媒の存在下で行うのが望ましく、使用される溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;N,N'-ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0022】
前記溶媒の使用量は、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物1gに対して、好ましくは0.5〜100ml、更に好ましくは1〜50mlである。
【0023】
本発明の反応は、例えば、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物、塩基及び溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは10〜200℃、更に好ましくは20〜120℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0024】
本発明においては、前記の反応終了後、抽出溶媒及び酸を加え、得られた抽出液から5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を得ることが出来る。
【0025】
前記抽出溶媒としては、水と混和せず、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-6-ニトロ安息香酸化合物を抽出出来るものであれば特に限定されないが、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のカルボン酸エステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類が挙げられる。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0026】
前記抽出液の使用量は、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を十分に抽出出来る量ならば特に制限されない。
【0027】
前記酸としては、例えば、塩酸、硫酸等が挙げられる。なお、これらの酸は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0028】
前記酸の使用量は特に制限されないが、好ましくは水層のpHを2以下にする量以上を使用する。
【0029】
本発明によって5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を含む抽出液が得られるが、この抽出液を濃縮(抽出溶媒を留去)することによって、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を得ることが出来る。又、得られた5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物は、例えば、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な製法によって、更に精製することも出来る。
【0030】
なお、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物は、酸の存在下、エステル化剤と反応させることによって、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸エステル化合物へ誘導出来る(参考例1参照)。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0032】
実施例1(5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸の合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積200mlのガラス製容器に、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸20.0g(88.0mmol)及び4mol/l水酸化ナトリウム水溶液99ml(396mmol)を加え、攪拌しながら95〜105℃で6時間反応させた。反応終了後、酢酸エチル(抽出溶媒)60ml及び濃塩酸40.33ml(484ml)を加え、有機層(抽出液)を分液した(この時の水層のpHは0.35であった)。得られた抽出液を減圧下で濃縮し、黄色固体として、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸18.04gを得た(単離収率;96%)。
5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸の物性値は以下の通りであった。
【0033】
1H-NMR(DMSO-d6,δ(ppm));3.50(1H,brs)、3.89(3H,s)、7.08(1H,s)、7.56(1H,s)、10.6(1H,brs)
EI-MS(m/e);213(M+)
【0034】
参考例1(5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸メチルの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積200mlのガラス製容器に、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸16.0g(75mmol)、メタノール160ml及び濃硫酸4.3mlを加え、攪拌しながら60〜70℃で55時間反応させ、更に、オルトギ酸メチル8.21ml(75mmol)及び濃硫酸6.5mlを加え、攪拌しながら攪拌しながら60〜70℃で20時間反応させた。反応終了後、反応液を減圧下で濃縮し、濃縮物を濾過して得られた固体をエーテルで洗浄した後に乾燥させ、薄黄色固体として、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸メチル14.8gを得た(単離収率;87%)。
5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸メチルの物性値は以下の通りであった。
【0035】
1H-NMR(DMSO-d6,δ(ppm));3.91(3H,s)、4.01(3H,s)、6.22(1H,s)、7.14(1H,s)、7.52(1H,s)
EI-MS(m/e);227(M+)
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物から5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を製造する方法に関する。5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物は、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はアルキル基、R及びRは、反応に関与しない基を示す。)
で示される4,5-ジメトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物と塩基とを反応させた後、抽出溶媒及び酸を加え、得られた抽出液から、一般式(2)
【化2】

(式中、R及びRは、前記と同義である。)
で示される5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物を得ることを特徴とする、5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物の製法。
【請求項2】
抽出溶媒が、カルボン酸エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類及びハロゲン化脂肪族炭化水素類からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出溶媒である請求項1記載の5-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-ニトロ安息香酸化合物の製法。

【公開番号】特開2007−31331(P2007−31331A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216116(P2005−216116)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】