説明

5−フタランカルボニトリル及びシタロプラムの製造方法

【課題】シタロプラム製造の中間体として有用なオキシム化合物の脱水反応を比較的低い温度で実施でき、着色が少ない生成物を得ることができる方法を提供する。
【解決手段】式(I)で表される化合物を、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で脱水剤(但し、オキサリルクロリドを除く)と反応させて、式(II)で表される化合物を製造し、次いで3−ジメチルアミノプロピルハライドと反応させて、シタロプラムを得る。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗うつ剤であるシタロプラム及びその中間体として有用な5−フタランカルボニトリル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(III):
【0003】
【化1】

【0004】
で表される化合物(シタロプラム)は、抗うつ剤として有用な化合物であり、その製造は、以下の反応スキームにて行うことが開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
【化2】

【0006】
上記反応スキーム中、式(I)で表されるオキシム化合物の脱水反応は、従来より脱水剤を用いて行われている。例えば、特許文献1では、無水酢酸を用いて無溶媒で130℃程度に加熱することにより行われている。しかし、工業的規模での製造を考えるとこの反応温度は高く、より低い温度で行うことが望ましい。
また、特許文献2では、チオニルクロリドを用いてトルエン中で80℃程度に加熱することにより行われている。この場合、トルエン中で反応の進行のためには加熱が必要となるが、この加熱により生成物(式(II)で表されるニトリル化合物)が着色してしまうという問題があり、当該化合物が医薬品の製造に用いられることを考えると、このような着色は好ましくない。また、工業的規模での製造の点から、80℃程度の温度でも依然として高い。
【特許文献1】特開2002−121161号公報
【特許文献2】国際公開第01/62754号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、シタロプラム製造の中間体として有用なオキシム化合物の脱水反応を比較的低い温度で実施でき、着色が少ない生成物を得ることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、オキシム化合物の脱水反応で使用する溶媒に着目し、比較的低い温度でも脱水反応が進行し、生成物の着色を抑制できるような溶媒の選択について鋭意検討を行った。その結果、当該脱水反応を、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒の存在下で行えば、加熱を行わなくとも室温程度の比較的低い温度でも脱水反応が十分に進行し、生成物の着色も抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
[1]式(I):
【0009】
【化3】

【0010】
で表される化合物(以下、化合物(I)ともいう)を非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で脱水剤(但し、オキサリルクロリドを除く)と反応させることを特徴とする、式(II):
【0011】
【化4】

【0012】
で表される化合物(以下、化合物(II)ともいう)の製造方法。
[2]非プロトン性極性溶媒が1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンである、上記[1]記載の製造方法。
[3]脱水剤がチオニルクロリドである、上記[1]または[2]記載の製造方法。
[4]0〜50℃の温度条件下で行われる、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]溶媒が芳香族炭化水素類をさらに含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]芳香族炭化水素類がトルエンである、上記[5]記載の製造方法。
[7](工程1)化合物(I)を非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で脱水剤(但し、オキサリルクロリドを除く)と反応させて、化合物(II)を得る工程;および
(工程2)化合物(II)を3−ジメチルアミノプロピルハライドと反応させて、式(III)
【0013】
【化5】

【0014】
で表される化合物(以下、化合物(III)ともいう)を得る工程;
を包含することを特徴とする、上記化合物(III)の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、化合物(I)の脱水反応を、加熱を行わなくとも室温程度の比較的低い温度でも実施でき、また着色が少ない化合物(II)を得ることができる。従って、このような反応による工程は、最終目的物であるシタロプラムの工業規模での製造に非常に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明における製造方法の工程スキームを以下に示す。
【0017】
【化6】

【0018】
工程1:脱水反応
当該工程では、化合物(I)を非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で脱水剤と反応させることにより、化合物(II)を製造することができる。試薬の添加順序は特に限定されないが、操作性を考慮すると、化合物(I)を非プロトン性極性溶媒を含む溶媒に溶解させ、そこに脱水剤を添加する方法が好ましい。
【0019】
出発物質である化合物(I)は、例えば、特開2002−121161号公報の記載に従って製造することができる。
【0020】
脱水剤としてはオキサリルクロリド以外の自体公知の脱水剤、例えば、チオニルクロリド、五塩化リン、オキシ塩化リン、無水酢酸、メタンスルホニルクロリド、クロロ炭酸エチル等が挙げられ、中でもチオニルクロリドが好ましい。
脱水剤の使用量は、化合物(I)1モルに対し、通常1〜2モルであり、好ましくは1〜1.5モルである。
【0021】
当該工程は、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で行われる。これにより、加熱を行わなくとも比較的低い温度でも脱水反応が十分に進行するのである。
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられ、中でもDMIが好ましい。
非プロトン性極性溶媒の使用量は、脱水剤1モルに対して0.4〜4モルが好ましく、1〜2モルがより好ましい。非プロトン性極性溶媒の使用量がこの範囲より少ないと低温での反応速度が遅くなる、攪拌性が悪くなるなどの問題が生じる。また、非プロトン性極性溶媒をこの範囲より多く使用しても、コストが高くなり、また後処理での抽出効率が悪くなるため好ましくない。
【0022】
当該工程では、非プロトン性極性溶媒以外に他の溶媒を含んでいてもよく、そのような溶媒は反応を阻害しない溶媒であれば特に限定はなく、例えば、酢酸エチル;アセトニトリル;ニトロエタン;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン溶媒;及びこれらの混合溶媒等が挙げられ、これらのうち、好ましくはアセトニトリル、酢酸エチル、芳香族炭化水素類等が挙げられる。中でも、芳香族炭化水素類(特にトルエン)は、少ない溶媒量および低い反応温度においても、反応系の攪拌性が低下することなく反応が進行するため、収率及び経済性の観点から、とりわけ好ましい。
【0023】
上記の非プロトン性極性溶媒以外の他の溶媒の使用量は、化合物(I)1kgに対し、通常0.5〜20L、好ましくは1〜10L程度の使用量である。
なお、非プロトン性極性溶媒と他の溶媒(特に芳香族炭化水素類)との比率(体積比)は、好ましくは1:1〜1:20、より好ましくは1:2〜1:10である。
【0024】
反応温度としては、通常0〜50℃であり、好ましくは10〜40℃である。
反応時間としては、通常10分〜5時間であり、好ましくは30分〜2時間である。
【0025】
反応終了後、反応液を中和後、抽出、結晶化、濃縮等の公知方法により、目的の化合物(II)を単離することができる。さらに、再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の方法により目的の化合物(II)を精製することができる。
【0026】
工程2:アルキル化反応
当該工程では、化合物(II)を3−ジメチルアミノプロピルハライド(例、3−ジメチルアミノプロピルクロリド、3−ジメチルアミノプロピルブロミド、3−ジメチルアミノプロピルヨージド等)と反応させることにより、抗うつ薬として有用な化合物(III)(シタロプラム)を製造することができる。
具体的には、国際公開第98/19511号パンフレットまたはUS6458975号明細書に記載の方法によって実施することができ、US6458975号明細書に記載のN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンまたは1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを添加する方法が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1 1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリル(工程1:脱水反応)
トルエン(55ml)、DMI(7ml)、1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルバルデヒド オキシム (13.6g)を仕込み、30±2℃でチオニルクロリド(6.8g)を30分かけて滴下し、30分同温で保温した。LC分析で原料消失を確認後、反応混合物にトルエン(14ml)を仕込み、水(70ml)を20〜30℃で滴下した。30分攪拌後、水層を分液し、有機層を10%ソーダ灰水(70g)、次いで水(70g)で洗浄した。水層分液後、有機層に無水硫酸マグネシウム(1.36g)を加えて脱水したのち、無機物をろ別し、1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリルのトルエン溶液(89.7g)を得た。LC定量分析により、1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリルの含量は13.4%であった。(計算収率:96.0%)
【0029】
実施例2(色相比較)
トルエン(12mL)、DMI(1.5mL)および1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルバルデヒド オキシム(3.0g)を仕込み、30±2℃でチオニルクロリド(1.67g)を30分かけて滴下し、30分同温で保温した。LC分析で原料消失を確認後、反応液のガードナー色数をJIS K5400に準拠して測定した結果、12であった。
【0030】
比較例1(色相比較)
トルエン(10 mL)、1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルバルデヒド オキシム(2.6g)を仕込み、80±2℃でチオニルクロリド(1.3 mL)を10分かけて滴下し、1時間同温で保温した。LC分析で原料消失を確認後、反応液のガードナー色数をJIS K5400に準拠して測定した結果、14であった。
【0031】
実施例3 1-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリル(シタロプラム)の合成(工程2:アルキル化反応)
1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(540mL)およびトルエン(240mL)の混合溶媒中で、実施例1と同様の方法で得られた1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロベンゾフラン-5-カルボニトリル(120g)、3-ジメチルアミノプロピルクロリド(82g)および60重量%水素化ナトリウム(24g)を混合し、内温60℃で反応させた。反応終了後、5重量%塩酸700gに反応液を加え、静置後、有機層と水層に分離した。水層を25重量%水酸化ナトリウム水溶液160gで中和した後、トルエンで2回(1回目600mL使用、2回目240mL使用)抽出した。有機層を水洗後、無水炭酸カリウム(48g)およびシリカゲル(18g)を加え、攪拌、濾過し、溶媒を留去することにより、粘稠オイル状の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-(4’-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリル(シタロプラム)51gを得た。(収率=93%)
【0032】
比較例2
トルエン(10mL)、1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルバルデヒド オキシム(2.6g)を仕込み、80±2℃でチオニルクロリド(1.3mL)を10分かけて滴下し、1時間同温度で保温した。LC分析で原料消失を確認後、反応液のガードナー色数をJIS K5400に準拠して評価した結果、14であった。
冷却後、反応液を濃縮し、ヘプタンで再結晶することにより、1-(4'-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリル(2.0g)を得た(収率=84%)。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の製造方法は、抗うつ剤であるシタロプラムの製造に非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】


で表される化合物を非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で脱水剤(但し、オキサリルクロリドを除く)と反応させることを特徴とする、式(II):
【化2】


で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
非プロトン性極性溶媒が1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
脱水剤がチオニルクロリドである、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
0〜50℃の温度条件下で行われる、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
溶媒が芳香族炭化水素類をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
芳香族炭化水素類がトルエンである、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
(工程1)式(I):
【化3】


で表される化合物を非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で脱水剤(但し、オキサリルクロリドを除く)と反応させて、式(II):
【化4】


で表される化合物を得る工程;および
(工程2)式(II)で表される化合物を3−ジメチルアミノプロピルハライドと反応させて、式(III):
【化5】


で表される化合物を得る工程;
を包含することを特徴とする、上記式(III)で表される化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−45807(P2007−45807A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328799(P2005−328799)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】