説明

6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドの製造方法

【課題】 医薬等の有用な原料である6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドの製造方法及びその原料である6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】 6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸をジアゾ化し、無機塩の存在下にザンドマイヤー反応に付して6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を得ること、及び当該6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を極性溶剤の存在下、塩素化して6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドを得ることからなり、本発明の方法によれば高収率で6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医薬等の有用な原料である6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドの製造方法及びその原料である6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的化合物である6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドは公知物質であり、医薬等の中間物として有用な化合物であって、その安価かつ工業的な製造方法の確立が強く望まれている。
当該化合物の公知の製造法としては、2−クロロナフタレンをスルホン化し、次いでスルホン基をクロル化する方法が知られているが、異性体の副生により、高純度の製品を得ることが困難である。
一方、6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸若しくはその塩を、ジアゾ化反応及びザンドマイヤー反応により6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸とし、次いで五塩化リン、オキシ塩化リン、塩化チオニルなどの塩素化剤により塩素化する方法も知られている。
【特許文献1】特表平11−511161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記文献記載の方法、例えば同公報第46頁記載の方法では、8.8gの6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸を原料として、ジアゾ化反応及びザンドマイヤー反応に付した後、塩化チオニルで塩素化して6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドを得ているが、その収量は2.49gであり、収率を計算すると約24.2%にしか過ぎない。係る低収率は、ザンドマイヤー反応工程での収率が低いことが一因であると推察される。
また、塩素化反応においても塩化チオニルと共にDMFを大量に使用するため廃液量が大きく、環境負荷が高い方法といえる。塩素化反応に五塩化リンやオキシ塩化リンを使用した場合にはリン廃液の環境負荷が高くなるという問題がある。
このように、従来の製造方法には種々の問題があり、6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドの工業的に確立された製造方法は知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の問題点に鑑み、本発明者らは6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸及び6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドの製造方法を検討したところ、6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸をジアゾ化反応に付した後のザンドマイヤー反応において無機塩の添加により収量及び純度を大幅に向上させ得ることを見出し、また6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸の塩素化工程において非極性溶媒と極性溶媒を併用することで高収率にて6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドが製造できることを見いだした。
【発明の効果】
【0005】
本発明の6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸の製造方法では、ジアゾ化反応後のザンドマイヤー反応において共存する無機塩の塩析作用により、目的物を高純度・高収率で得ることができる。
また、本発明の6−クロロナフタレンスルホニルクロリドの製造方法では、上記の方法で得られた6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を、非極性溶媒と極性溶媒を併用して塩素化しており、塩素化効率を高めることができる。
従って、本発明を利用することにより、医薬等の中間物として有用な6−クロロナフタレンスルホニルクロリドを高収率にて製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の方法は、まず6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸をジアゾ化反応に付してジアゾ化物とし、次いで無機塩の存在下塩化銅と反応させることからなる6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸の製造方法であり;
更に6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を極性溶剤の存在下、塩化チオニルと反応させることからなる6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドの製造方法である。
即ち、6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸を原料とし、ジアゾ化〜ザンドマイヤー反応工程と塩素化工程の2工程により、6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドを製造するものである。
【0007】
上記のジアゾ化〜ザンドマイヤー反応工程の反応自体は当業者に知悉された反応である。
ジアゾ化反応は、常法に準じ、6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸を、水溶媒中、塩酸酸性下において亜硝酸又はその塩によりジアゾ化することにより行うことができる。なお、6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸は塩の形態で使用してもよい。
亜硝酸塩としては、通常、亜硝酸ナトリウムが使用されるが、それに限定されるものではない。
【0008】
次いで、このジアゾ化物を取り出し若しくは取り出すことなく、塩化銅を使用してザンドマイヤー反応に付す。本発明においては、この反応を無機塩の存在下に行うことが特徴である。
無機塩としては、反応に悪影響を及ぼすことがなく、塩析効果を生ずることのできる塩であれば特に限定はされない。係る塩としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、硫酸ナトリウム等)、アルカリ土類塩(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等)などを挙げることができる。
【0009】
添加する無機塩の量は任意に選択し得るが、一般的には無機塩が溶解する範囲において適宜選択でき、好ましくはジアゾ化物に対して1-30モル比、より好ましくは5-20モル比の範囲より選択される。
また、使用する塩化銅(I)については、ジアゾ化物に対して1.0-10モル比程度が好ましく、より好ましくは1.0-2.0モル比程度が望ましい。
反応温度は室温から100℃の間の任意の範囲にて反応可能である。
上述のザンドマイヤー反応は塩酸の存在下に行うのが好ましく、塩酸の添加量は、ジアゾ化物に対して1-30モル比程度が好ましく、より好ましくは5-20モル比が望ましい。
係る工程により、通常、6−クロロナフタレン−2−スルホン酸は反応系から析出するので、析出物を濾取し、必要に応じて精製を行い、または精製することなく次工程に使用する。
【0010】
本発明の製造方法は、上記で調製された6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を極性溶剤の存在下、塩化チオニルと反応させことからなる6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドの製造方法である。
係る塩素化工程は、極性溶剤と他の溶剤との混合溶剤中で行われる。他の溶剤としては、反応に悪影響を与えない溶剤であれば種々の溶剤を使用することができるが、回収使用が容易に実施しうるベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素等の非極性溶媒が好適に使用される。
係る溶媒の使用量は、6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸が溶解する範囲であれば任意に設定しうるが、経済性を考慮すると6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸に対して1重量部から50重量部の範囲が望ましい。
【0011】
また、添加物される極性溶媒はジメチルホルムアミド、ジメチルアセタミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒が望ましく、添加量は6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸に対して0.1〜10重量部の範囲が好ましい。
反応試剤である塩化チオニルは、6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸に対し1.0〜2.0モル比の範囲であればよいが、経済性を考慮すると1.05~1.20モル比の範囲が好ましい。
反応温度は室温から還流下の任意の範囲で実施可能である。
反応終了後、常法に準じて後処理することにより、6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドを得ることができる。
【実施例】
【0012】
実施例1
ジアゾ化〜ザンドマイヤー工程
水449.6gに、6−アミノ2−ナフタレンスルホン84.4g(0.2997mol)及び濃塩酸236.9gを加え、混合し冷却した。ここへ、NaNO22.4gを水45.0gに溶解させた溶液を氷冷下で滴下した後1.5hr反応した。それに尿素2.0gを添加しジアゾ化液を得た。
水191.8g、濃塩酸212.2g、塩化銅44.0g、食塩101gを仕込み氷冷した後、前述のジアゾ化物を氷冷下で滴下し、2時間反応させた。次いで生成した結晶を濾取し、6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸71.2g(収率91%)が得られた。これを精製することなく次工程に使用した。
【0013】
スルホニルクロリド化工程
6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸71.2g(0.2691mol)、トルエン350.3g及びDMF33.3gを混合し、ここにSOCl38.3gを滴下ロートから徐々に加えた後、98℃まで昇温した。100℃で4hr保温後、常温まで冷却した。反応物を水1467.1gに40℃以下で加え、25℃で1時間攪拌後有機層を分取した。得られた有機層を洗浄後、減圧濃縮し、残渣にヘプタン159gを43〜56℃で滴下し、生成した結晶を濾取、乾燥することにより6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリド63.6gを得た(0.2435モル、収率90.5%)。
【0014】
比較例1
実施例1のザンドマイヤー反応において、食塩を使用せずにザンドマイヤー反応を行った結果、得られた6‐クロロ−2−ナフタレンスルホン酸の収量は38.3g(収率49%)であった。
【0015】
実施例2
実施例1のザンドマイヤー反応において、食塩の代わりに塩化カリウムを使用する以外は同様に行い、ほぼ同様な収率で6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を得た。
【0016】
実施例3
実施例1のザンドマイヤー反応において、食塩の代わりに硫酸ナトリウムを使用する以外は同様に行い、ほぼ同様な収率で6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を得た。
【0017】
実施例4
実施例1のスルホニルクロリド化工程において、DMFの代わりにN−メチルピロリドンを使用する以外は同様に行い、ほぼ同様な収率で6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドを得た。
【0018】
比較例2(特表平11−511161号公報の第46頁記載の方法)
亜硝酸ナトリウム(2.7g)の水(5ml)溶液を0℃ まで冷却した、6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸(8.8 g)、希塩酸水溶液(2.8%重量/体積,20ml)および水(15ml)の撹拌混合物に2時間かけて加えた。混合物を0℃で30分間撹拌し、ついで、塩化第1銅(3.96g)の希塩酸水溶液(2.8%,20ml)撹拌懸濁液に注いだ。混合物を周囲温度で18時間貯蔵した。混合物を蒸発させると、6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を与え、これは、さらに精製することなく使用した。
上記物質をDMF(40ml)に懸濁させ、5℃ まで冷却した。チオニルクロライド(8.6m l)を滴下し、混合物を5℃で3時間撹拌した。混合物を氷に注ぎ、塩化メチレンで抽出した。有機溶液を(MgSO4で)乾燥し、蒸発させた。ヘキサンと酢酸エチルとの20:1混合物を溶離液として使用し、カラムクロマトグラフィーによって残渣を精製した。かくして、6−クロロ−2−ナフチルスルホニルクロライド(2.49g)が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸をジアゾ化反応に付してジアゾ化物とし、次いで無機塩の存在下で塩化銅と反応させることにより6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を得ることを特徴とする6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸の製造方法。
【請求項2】
6−クロロ−2−ナフタレンスルホン酸を極性溶剤の存在下、塩化チオニルと反応させ、6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドを得ることを特徴とする6−クロロ−2−ナフタレンスルホニルクロリドの製造方法。

【公開番号】特開2006−56815(P2006−56815A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239366(P2004−239366)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000107561)スガイ化学工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】