説明

6−メチルニコチン酸フェニルエステル類およびその製造方法

【課題】 医薬等の重要な中間体として使用される1−(6−メチルピリジン−3−イル)−2−[(4−メチルスルホニル)−フェニル]エタノンを、より安全で容易に製造するための有用な原料である6−メチルニコチン酸フェニルエステル類およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 式


(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステル類およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬等の中間体の合成原料として有用な6−メチルニコチン酸フェニルエステル類およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬等の重要な中間体として使用される1−(6−メチルピリジン−3−イル)−2−[(4−メチルスルホニル)−フェニル]エタノンの製造方法として、種々の方法が知られている。例えば、6−メチルニコチンアミド化合物と(4−メチルチオ)ベンジルマグネシウムハライドとを反応させる方法(特許文献1参照)、
【0003】
【化1】

【0004】
(4−メチルチオ−フェニル)アセトニトリルと6−メチルニコチン酸エステルとを用いて得られる3−[2−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−シアノアセチル](6−メチル)−ピリジンを加水分解し脱炭酸した後、酸化させる方法(特許文献2参照)、
【0005】
【化2】

【0006】
N,N−ジアルキルアミノ−(6−メチルピリジン−3−イル)アセトニトリルと4−(メチルスルホニル)ベンジルハロゲナイドとを用いる方法(特許文献3参照)
【0007】
【化3】

などが知られている。
【0008】
しかしながら、これらの製造方法には種々の不具合な点がある。例えば、特許文献1に記載の製造方法によると、原料である6−メチルニコチンアミド化合物を製造するために用いるアミン化合物およびそのアミン化合物をアミド化するために用いるグリニア試薬が高価であり、さらにはその製造に多数の工程を必要とすること、並びに(4−メチルチオ)ベンジルマグネシウムハライドが高価であることから、生産性が悪く、高コストになるという問題がある。また、特許文献2に記載の製造方法によると、(4−メチルチオ−フェニル)アセトニトリルを製造する際に毒性の強い青酸ソーダ等を使用すること、および収率が不十分であるといった問題がある。さらに、特許文献3に記載の製造方法によると、原料であるN,N−ジアルキルアミノ−(6−メチルピリジン−3−イル)アセトニトリルを製造するに際して、メチルビニルピリジンのオゾン酸化という特殊な設備を要する工程があることや、毒性の強い青酸化合物を使用する必要がある、といった問題がある。
【0009】
これらのことから、安全であるだけでなく、高収率で効率よく1−(6−メチルピリジン−3−イル)−2−[(4−メチルスルホニル)−フェニル]エタノンを製造する方法およびそのための原料が望まれていた。
【0010】
【特許文献1】特表2001−517654号公報
【特許文献2】特表2003−505449号公報
【特許文献3】特表2003−518002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、1−(6−メチルピリジン−3−イル)−2−[(4−メチルスルホニル)−フェニル]エタノンを、より安全で容易に製造するための原料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下に示すとおりの、6−メチルニコチン酸フェニルエステル類およびその製造方法に関する。
項1. 一般式(1);
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステル類。
項2. 6−メチルニコチン酸と、一般式(2);
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアリ−ル基を示す。)で表されるクロロギ酸エステル類とを塩基の存在下で反応し、引き続き一般式(3);
【0017】
【化6】

【0018】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。)で表されるフェノール類と反応させることを特徴とする一般式(1);
【0019】
【化7】

【0020】
(式中、R〜Rはそれぞれ、一般式(3)におけるR〜Rと同じ。)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステル類の製造方法。
項3. 6−メチルニコチン酸と、一般式(3);
【0021】
【化8】

【0022】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。)で表されるフェノール類とを、一般式(4);
【0023】
【化9】

【0024】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してよいフェニル基を示す。)で表されるスルホン酸類の存在下で反応させることを特徴とする一般式(1);
【0025】
【化10】

【0026】
(式中、R〜Rはそれぞれ、一般式(3)におけるR〜Rと同じ。)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステル類の製造方法。
項4. 5−エチル−2−メチルピリジンと硝酸とを硫酸の存在下で反応させ、得られた6−メチルニコチン酸を、前記硫酸の存在下で、さらに一般式(3);
【0027】
【化11】

【0028】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。)で表されるフェノール類と反応させることを特徴とする一般式(1);
【0029】
【化12】

【0030】
(式中、R〜Rはそれぞれ、一般式(3)におけるR〜Rと同じ。)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステルの製造方法。
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0032】
下記一般式(1)で表される本発明の6−メチルニコチン酸フェニルエステル類は、医薬等の中間体原料として有用な新規物質である。
【0033】
【化13】

【0034】
一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。
【0035】
〜Rで示されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子および臭素原子等を挙げることができる。
【0036】
〜Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基等を挙げることができる。
【0037】
〜Rで示される炭素数1〜4のアルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基等を挙げることができる。
【0038】
これらの中で、R〜Rの好ましい例としては、水素原子、塩素原子、メチル基を挙げることができる。
【0039】
一般式(1)で表される本発明の6−メチルニコチン酸フェニルエステル類の具体例としては、例えば、6−メチルニコチン酸フェニルエステル、6−メチルニコチン酸(2−クロロフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(4−クロロフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3−クロロフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2−ニトロフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(4−ニトロフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3−ニトロフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2−メチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(4−メチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3−メチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,3−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,4−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,5−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,6−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3,4−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3,5−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2−メトキシフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(4−メトキシフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3−メトキシフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,3−ジメトキシフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,4−ジメトキシフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,5−ジメトキシフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,6−ジメトキシフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3,4−ジメトキシフェニル)エステルおよび6−メチルニコチン酸(3,5−ジメトキシチルフェニル)エステル等を挙げることができる。これらの中で、入手が容易である観点から、6−メチルニコチン酸フェニルエステル、6−メチルニコチン酸(2−クロロフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(4−クロロフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3−クロロフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2−メチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(4−メチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3−メチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,3−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,4−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,5−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(2,6−ジメチルフェニル)エステル、6−メチルニコチン酸(3,4−ジメチルフェニル)エステルおよび6−メチルニコチン酸(3,5−ジメチルフェニル)エステルが好ましい。
【0040】
一般式(1)で表される本発明の6−メチルニコチン酸フェニルエステル類は、例えば、以下のようにして製造できる。すなわち、6−メチルニコチン酸と、一般式(2);
【0041】
【化14】

【0042】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアリ−ル基を示す。)で表されるクロロギ酸エステル類とを塩基の存在下で反応し、引き続き一般式(3);
【0043】
【化15】

【0044】
(式中、R〜Rはそれぞれ、一般式(1)におけるR〜Rと同じ。)で表されるフェノール類と反応させることにより、目的とする6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得ることができる(以下、「第1の製造方法」ということがある)。
【0045】
一般式(2)で表されるクロロギ酸エステル類において、Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基等を挙げることができる。
【0046】
で示されるアリ−ル基としては、例えば、フェニル、4−メチルフェニル、2−クロロフェニルおよび4−クロロフェニル等を挙げることができる。
【0047】
一般式(2)で表されるクロロギ酸エステル類の具体例としては、例えば、クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸n−プロピル、クロロギ酸イソプロピル、クロロギ酸n−ブチル、クロロギ酸イソブチルおよびクロロギ酸フェニル等を挙げることができる。
【0048】
クロロギ酸エステル類の使用量は、収率を向上させる観点および経済性の観点から、6−メチルニコチン酸1モルに対して、1〜4モルであることが好ましい。
【0049】
本発明の6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得るための前記反応に用いる塩基としては、特に限定されないが、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンおよびピリジン等を挙げることができる。
【0050】
塩基の使用量は、収率を向上させる観点および経済性の観点から、6−メチルニコチン酸1モルに対して、1〜10モルであることが好ましい。
【0051】
第1の製造方法において、6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得るための前記フェノール類を用いる反応は、例えば、前記6−メチルニコチン酸と前記クロロギ酸エステル類との反応溶液に前記フェノール類を加えることで実現することができる。このとき、フェノール類と未反応のクロロギ酸エステルとが反応することによる、6−メチルニコチン酸とクロロギ酸エステル類との反応率の低下を防ぐために、6−メチルニコチン酸とクロロギ酸エステル類との反応が終了したことを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等で確認した後、該反応溶液にフェノール類を加えることが好ましい。
【0052】
一般式(3)で表されるフェノール類におけるR〜Rは、一般式(1)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステル類におけるR〜Rと同じである。
【0053】
フェノール類の具体例としては、例えば、フェノール、2−クロロフェノール、4−クロロフェノール、2−メチルフェノール、2,3−ジメチルフェノール、2−メトキシフェノールおよび2,3−ジメトキシフェノール等が挙げられる。
【0054】
フェノール類の使用量は、収率を向上させる観点および経済性の観点から、6−メチルニコチン酸1モルに対して、0.5〜10モルであることが好ましい。
【0055】
第1の製造方法に用いられる溶媒は、当該反応に対して不活性な溶媒であるなら特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼンおよびジクロロベンゼン等を挙げることができる。
【0056】
溶媒の使用量は、操作性を向上させる観点および経済性の観点から、6−メチルニコチン酸100重量部に対して、300〜10000重量部であることが好ましい。
【0057】
反応温度は、特に限定はないが、−20〜80℃であるのが好ましい。反応温度が80℃を超えると、副反応が問題となり、一方、−20℃未満であると、反応速度が実用上遅過ぎるので好ましくない。反応時間は、反応温度により異なるために一概には言えないが、1〜24時間であるのが好ましい。
【0058】
また、一般式(1)で表される本発明の6−メチルニコチン酸フェニルエステル類は、以下のようにして製造することができる。すなわち、6−メチルニコチン酸と、一般式(3);
【0059】
【化16】

【0060】
(式中、R〜Rはそれぞれ、一般式(1)におけるR〜Rと同じ。)で表されるフェノール類とを、一般式(4);
【0061】
【化17】

【0062】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してよいフェニル基を示す。)で表されるスルホン酸類の存在下で反応させることにより、目的とする6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得ることができる(以下、「第2の製造方法」ということがある)。
【0063】
この第2の製造方法によれば、高価なクロロギ酸エステル類を用いることなく、また反応工程が短縮されることから、第1の製造方法に較べてより安価で容易に6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得ることができる。
【0064】
第2の製造方法に用いられるフェノール類としては、第1の製造方法に用いられるフェノール類と同じものを用いることができる。
【0065】
第2の製造方法において、フェノール類の使用量は、収率を向上させる観点および経済性の観点から、6−メチルニコチン酸1モルに対して、1〜25モルであることが好ましい。
【0066】
一般式(4)で表されるスルホン酸類において、Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等を挙げることができる。
【0067】
また、Rで示される置換基を有してよいフェニル基における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基および炭素数1〜4のアルコキシル基等を挙げることができる。
【0068】
ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子および臭素原子等を挙げることができる。
【0069】
炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基等を挙げることができる。
【0070】
炭素数1〜4のアルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基等を挙げることができる。
【0071】
一般式(4)で表されるスルホン酸類の具体例としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシ−3−メチルベンゼンスルホン酸および4−クロロ−2−ヒドロキシ−ベンゼンスルホン酸等を挙げることができる。
【0072】
スルホン酸類は、市販されているものをそのまま使用してもよい。また、スルホン酸類が、一般式(4)におけるRが置換基を有してよいフェニル基であって、その置換基のうちの一つが水酸基である場合には、前記一般式(3)で表されるフェノール類と硫酸より調製したものを使用してもよい。
【0073】
スルホン酸類の使用量は、収率を向上させる観点および経済性の観点から、6−メチルニコチン酸1モルに対して、0.5〜5モルであることが好ましい。
【0074】
第2の製造方法において、必ずしも溶媒を用いる必要はないが、用いる際の溶媒としては、当該反応に対して不活性な溶媒であるなら特に限定されず、例えば、イソプロピルエーテル等のエーテル類、トルエンおよびモノクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ならびに、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)およびスルホラン等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。これらの中で、6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得る反応において副生する水を共沸脱水により除去し易いといった観点から、芳香族炭化水素類が好ましく用いられる。
【0075】
溶媒の使用量は、操作性を向上させる観点および経済性の観点から、6−メチルニコチン酸100重量部に対して、10〜3000重量部であることが好ましい。
【0076】
反応温度は、特に限定はないが、40℃〜300℃であるのが好ましく、80℃〜200℃であるのがより好ましい。反応温度が300℃を超えると、副反応が問題となり、一方、40℃未満であると、反応速度が実用上遅過ぎるので好ましくない。反応時間は、反応温度により異なるために一概には言えないが、1〜40時間であるのが好ましい。
【0077】
さらに、一般式(1)で表される本発明の6−メチルニコチン酸フェニルエステル類は、以下のようにして製造することができる。すなわち、5−エチル−2−メチルピリジンと硝酸とを硫酸の存在下で反応させ、得られた6−メチルニコチン酸を、前記硫酸の存在下で、一般式(3);
【0078】
【化18】

【0079】
(式中、R〜Rはそれぞれ、一般式(1)におけるR〜Rと同じ。)で表されるフェノール類と反応させることにより、目的とする6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得ることができる(以下、「第3の製造方法」ということがある)。
【0080】
この第3の製造方法によれば、高価な6−メチルニコチン酸やクロロギ酸エステル類を直接用いる必要がないこと、また精製した6−メチルニコチン酸を単離することなく、反応溶液のままで6−メチルニコチン酸フェニルエステル類の合成反応に供することができることなどから、極めて安価で容易に6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得ることができる。
【0081】
通常、5−エチル−2−メチルピリジンと硝酸とを用いて6−メチルニコチン酸を製造する際には、反応性が高く危険な5−エチル−2−メチルピリジンの硝酸塩が副生するのを防ぐために、硫酸の存在下で反応させる方法が用いられる。例えば、特開2002−3476号公報には、5−エチル−2−メチルピリジン1モルに対して1〜5モルの硫酸と、必要に応じて硝酸バナジウム、硫酸バナジウム、塩化亜鉛、硝酸銅等の酸化触媒を添加した後、130〜140℃での精留により気相部の硝酸濃度を調整しながら20〜80重量%の硝酸水溶液を用いて、5−エチル−2−メチルピリジン1モルに対して3〜10モルの硝酸を滴下する6−メチルニコチン酸の製造方法が開示されている。この方法によると、安全に高収率で6−メチルニコチン酸を得ることができる。
【0082】
第3の製造方法においては、このようにして6−メチルニコチン酸を製造し、反応液から未反応の硝酸および水を留去した後、残留している硫酸と前記一般式(3)で表されるフェノール類とを反応させることで、ヒドロキシベンゼンスルホン酸類を生じせしめる。このヒドロキシベンゼンスルホン酸類は、第2の製造方法において使用されるスルホン酸類のうち、一般式(4)におけるRが置換基を有してよいフェニル基であって、その置換基のうちの一つが水酸基であるものに相当する。引き続いて、このヒドロキシベンゼンスルホン酸類の存在下、6−メチルニコチン酸と前記一般式(3)で表されるフェノール類とを反応させることにより、6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を製造することができる。
【0083】
第3の製造方法に用いられるフェノール類としては、第1の製造方法に用いられるフェノール類と同じものを用いることができる。
【0084】
フェノール類の使用量は、5−エチル−2−メチルピリジン1モルに対して、1〜30モルであることが好ましい。
【0085】
ヒドロキシベンゼンスルホン酸類を得る反応および引き続き行われる6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得る反応において、必ずしも溶媒を用いる必要はないが、用いる際の溶媒としては、当該反応に対して不活性な溶媒であるなら特に限定されず、例えば、イソプロピルエーテル等のエーテル類、トルエンおよびモノクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ならびに、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)およびスルホラン等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。これらの中で、6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得る反応において副生する水を共沸脱水により除去し易いといった観点から、芳香族炭化水素類が好ましく用いられる。
【0086】
溶媒の使用量は、操作性を向上させる観点および経済性の観点から、5−エチル−2−メチルピリジン100重量部に対して、10〜3000重量部であることが好ましい。
【0087】
ヒドロキシベンゼンスルホン酸類を得る反応における反応温度は、特に限定はないが、0℃〜300℃であるのが好ましく、40℃〜180℃であるのがより好ましい。反応温度が300℃を超えると、副反応が問題となり、一方、0℃未満であると、反応速度が実用上遅過ぎるので好ましくない。反応時間は、反応温度により異なるために一概には言えないが、1〜20時間であるのが好ましい。
【0088】
6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得る反応における反応温度は、特に限定はないが、40℃〜300℃であるのが好ましく、80℃〜200℃であるのがより好ましい。反応温度が300℃を超えると、副反応が問題となり、一方、40℃未満であると、反応速度が実用上遅過ぎるので好ましくない。反応時間は、反応温度により異なるために一概には言えないが、1〜40時間であるのが好ましい。
【0089】
なお、第3の製造方法において、硫酸とフェノール類とからヒドロキシベンゼンスルホン酸類を得る反応、および6−メチルニコチン酸とフェノール類とから6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を得る反応は、両反応において同じフェノール類を用いる場合には、必ずしも明確に反応工程を分ける必要はない。
【0090】
本発明の第2および第3の製造方法において、反応系内に存在するスルホン酸類は、酸触媒として反応に寄与しているものと考えられる。
【0091】
上記のようにして、各種の製造方法により得られる反応混合物から、目的とする6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を単離および精製する方法としては、特に限定されるものではなく、常法通り、該6−メチルニコチン酸フェニルエステル類が液体の場合は、減圧蒸留する方法等を、また固体の場合は、そのまま晶析させる方法や抽出して再結晶させる方法等を挙げることができる。
【0092】
かくして得られた6−メチルニコチン酸フェニルエステル類は、医薬等の中間体製造のための原料として用いることができる。例えば、本発明の6−メチルニコチン酸フェニルエステル類と、一般式(5);
【0093】
【化19】

【0094】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表されるフェニル酢酸類とを、金属ハイドライドや金属アルコラート等の塩基の存在下で反応させた後、その反応生成物を加水分解、脱炭酸および酸化することにより、1−(6−メチルピリジン−3−イル)−2−[(4−メチルスルホニル)−フェニル]エタノンを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0095】
本発明によれば、医薬、農薬等の中間体をより安全で容易に製造するための有用な原料である6−メチルニコチン酸フェニルエステル類および、安価で容易なその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0096】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0097】
実施例1
攪拌機、温度計、および冷却管を備えた300mL容の四つ口フラスコに、6−メチルニコチン酸13.7g(0.10モル)、トリエチルアミン14.2g(0.14モル)およびモノクロロベンゼン200gを仕込み、5℃に維持して、攪拌しながらクロロギ酸イソブチル16.4g(0.12モル)を1時間かけて滴下した後、さらに同温度で2時間攪拌した。続いて、フェノール11.3g(0.12モル)およびモノクロロベンゼン12gからなる混合溶液を5℃で1時間かけて滴下した後、15℃に昇温して2時間攪拌して反応させた。この反応液に水70gを添加して分液し、得られた有機層からモノクロロベンゼンを留去後、冷却することにより6−メチルニコチン酸フェニルエステルの白色結晶13.8gを得た。得られた6−メチルニコチン酸フェニルエステルの収率は、6−メチルニコチン酸に対して50%であった。
【0098】
なお、この白色結晶が6−メチルニコチン酸フェニルエステルであることを下記の分析結果により確認した。
【0099】
融点:53〜54℃
元素分析:C73.2;H5.4;N6.5(計算値 C73.2;H5.2;N6.6)
赤外吸収スペクトル(ATRcm−1):1732,1593,1485,1269,1190,1086,1018cm−1
H−核磁気共鳴スペクトル(CDCl溶媒、TMS基準)δ(ppm):2.68(3H,s,−CH),7.20−7.48(6H,m,芳香環),8.33(1H,dd,J8Hz,J2Hz,芳香環),9.28(1H,d,J2Hz,芳香環)
【0100】
実施例2
実施例1において、フェノール11.3g(0.12モル)に代えて、o−クレゾール13.0(0.12モル)を用いた以外は実施例1と同様にして、6−メチルニコチン酸(2−メチルフェニル)エステルの白色結晶10.9gを得た。得られた6−メチルニコチン酸(2−メチルフェニル)エステルの収率は、6−メチルニコチン酸に対して48%であった。
【0101】
なお、この白色結晶が6−メチルニコチン酸(2−メチルフェニル)エステルであることを下記の分析結果により確認した。
【0102】
融点:77〜78℃
元素分析:C73.9;H5.7;N6.2(計算値 C74.0;H5.8;N6.2)
赤外吸収スペクトル(ATRcm−1):1726,1595,1489,1281,1172,1115,1088cm−1
H−核磁気共鳴スペクトル(CDCl溶媒、TMS基準)δ(ppm):2.23(3H,s,−CH),2.68(3H,s,−CH),7.13−7.34(5H,m,芳香環),8.34(1H,dd,J8Hz,J2Hz,芳香環),9.30(1H,d,J2Hz,芳香環)
【0103】
実施例3
実施例1において、フェノール11.3g(0.12モル)に代えて、4−クロロフェノール15.4(0.12モル)を用いた以外は実施例1と同様にして、6−メチルニコチン酸(4−クロロフェニル)エステルの白色結晶14.8gを得た。得られた6−メチルニコチン酸(4−クロロフェニル)エステルの収率は、6−メチルニコチン酸に対して61%であった。
【0104】
なお、この白色結晶が6−メチルニコチン酸(4−クロロフェニル)エステルであることを下記の分析結果により確認した。
【0105】
融点:71〜72℃
元素分析:C63.2;H4.0;N5.5(計算値 C63.0;H4.1;N5.7)
赤外吸収スペクトル(ATRcm−1):1741,1598,1487,1288,1269,1205,1086cm−1
H−核磁気共鳴スペクトル(CDCl溶媒、TMS基準)δ(ppm):2.68(3H,s,−CH),7.14−7.43(5H,m,芳香環),8.31(1H,dd,J8Hz,J2Hz,芳香環),9.26(1H,d,J2Hz,芳香環)
【0106】
実施例4
撹拌器、温度計を備えた3L容の4つ口フラスコに、6−メチルニコチン酸137.1g(1モル)、メタンスルホン酸192.2g(2モル)、フェノール752.9g(8モル)およびトルエン200gを仕込んだ後、ディーンスターク脱水装置を用いて発生する水を除去しながら120℃で24時間撹拌した。反応終了後、減圧蒸留により未反応のフェノールを留去した後、トルエンおよび炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して分液し、得られた油層の溶媒を留去した後、さらに単蒸留により精製することにより、6−メチルニコチン酸フェニルエステルの白色結晶185.5gを得た。得られた6−メチルニコチン酸フェニルエステルの収率は、6−メチルニコチン酸に対して87%であった。
【0107】
実施例5
撹拌器、温度計を備えた3L容の4つ口フラスコに、6−メチルニコチン酸137.1g(1モル)、硫酸204.2g(2モル)、フェノール941.1g(10モル)およびトルエン200gを仕込んだ後、ディーンスターク脱水装置を用いて発生する水を除去しながら120℃で24時間撹拌した。反応終了後、減圧蒸留により未反応のフェノールを留去した後、トルエンおよび炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して分液し、得られた油層の溶媒を留去した後、さらに単蒸留により精製することにより、6−メチルニコチン酸フェニルエステルの白色結晶181.2gを得た。得られた6−メチルニコチン酸フェニルエステルの収率は、6−メチルニコチン酸に対して85%であった。
【0108】
実施例6
撹拌器、温度計、滴下ロートおよび段数5段の精留装置を備えた3L容の4つ口フラスコに、硫酸204.2g(2モル)および硫酸バナジウム3.6g(0.031モル)を仕込んだ後、5−エチル−2−メチルピリジン121.2g(1モル)を20℃で0.5時間を要して滴下した。滴下後、130℃に昇温し、同温度で68重量%硝酸水溶液365.2g(4モル)を1g/分の速度で滴下した。滴下開始後、反応容器内の気相中の硝酸濃度が95重量%に到達した後、51重量%に低下した時点で、還流比3で精留を開始し、精留により系内の水および硝酸を留去しながら68重量%硝酸水溶液の滴下を続けた。滴下終了後、同温度でさらに1時間反応させた。反応終了後、減圧蒸留により未反応の硝酸および水を留去し、6−メチルニコチン酸の硫酸塩溶液349.6gを得た。高速液体クロマトグラフィーにより測定したところ、得られた6−メチルニコチン酸の収率は、5−エチル−2−メチルピリジンに対して79%であった。
【0109】
引き続いて、フェノール188.2g(2モル)を添加し、80℃で2時間撹拌した。さらに、フェノール752.9g(8モル)およびトルエン200gを添加した後、ディーンスターク脱水装置を用いて発生する水を除去しながら120℃で24時間撹拌した。反応終了後、減圧蒸留により未反応のフェノールを留去した後、トルエンおよび炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して分液し、得られた油層の溶媒を留去した後、さらに単蒸留により精製することにより、6−メチルニコチン酸フェニルエステルの白色結晶139.8gを得た。得られた6−メチルニコチン酸フェニルエステルの収率は、6−メチルニコチン酸に対して83%であった。
【0110】
実施例7
実施例6において、フェノール188.2g(2モル)に代えてo−クレゾール216.3g(2モル)を、また、フェノール752.9g(8モル)に代えてo−クレゾール865.1g(8モル)を用いた以外は実施例6と同様にして反応を実施した。反応終了後、減圧蒸留により未反応のo−クレゾールを留去した後、トルエンおよび炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して分液し、得られた油層の溶媒を留去した後、反応生成物をエタノール水溶液により再結晶することにより、6−メチルニコチン酸(2−メチルフェニル)エステルの白色結晶145.4gを得た。得られた6−メチルニコチン酸(2−メチルフェニル)エステルの収率は、6−メチルニコチン酸に対して81%であった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の6−メチルニコチン酸フェニルエステル類を用いると、医薬や農薬等の中間体をより安全で容易に製造することができる。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステル類。
【請求項2】
6−メチルニコチン酸と、一般式(2);
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアリ−ル基を示す。)で表されるクロロギ酸エステル類とを塩基の存在下で反応し、引き続き一般式(3);
【化3】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。)で表されるフェノール類と反応させることを特徴とする一般式(1);
【化4】

(式中、R〜Rはそれぞれ、一般式(3)におけるR〜Rと同じ。)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステル類の製造方法。
【請求項3】
6−メチルニコチン酸と、一般式(3);
【化5】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。)で表されるフェノール類とを、一般式(4);
【化6】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してよいフェニル基を示す。)で表されるスルホン酸類の存在下で反応させることを特徴とする一般式(1);
【化7】

(式中、R〜Rはそれぞれ、一般式(3)におけるR〜Rと同じ。)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステル類の製造方法。
【請求項4】
5−エチル−2−メチルピリジンと硝酸とを硫酸の存在下で反応させ、得られた6−メチルニコチン酸を、前記硫酸の存在下で、さらに一般式(3);
【化8】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシル基を示す。)で表されるフェノール類と反応させることを特徴とする一般式(1);
【化9】

(式中、R〜Rはそれぞれ、一般式(3)におけるR〜Rと同じ。)で表される6−メチルニコチン酸フェニルエステルの製造方法。

【公開番号】特開2006−342150(P2006−342150A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9272(P2006−9272)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】