説明

6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンおよび香料組成物

【課題】天然感、フレッシュ感にあふれる香りを再現することができる新規香料化合物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)
【化1】


[式中、波線の結合はシス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物であることを示す、ただし(6E、8E)−6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンを除く]
で表される6,8,10−ウンデカトリエン−2−オン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料化合物として有用な新規化合物6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンおよび該化合物を有効成分として含有する新規な香料組成物、ならびに該化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多不飽和化合物が重要な香気特性を有することはいくつかの公知文献に記載されており、例えば、ガルバナム精油中における(3E,5E)−1,3,5−ウンデカトリエンおよび(3E,5Z)−1,3,5−ウンデカトリエンの存在ならびに(3E,5Z)−1,3,5−ウンデカトリエンおよび(3E,5E)−1,3,5−ウンデカトリエンの合成法(特許文献1)、1,3,5,7−ウンデカテトラエンの香料としての使用(特許文献2)、パイナップル、ピーチ、マンゴー、キウイフルーツにおける(3E,5Z,8Z)−1,3,5,8−ウンデカテトラエンの存在(非特許文献1、非特許文献2)、2,4,7−デカトリエナールのアセタールの香料としての使用(特許文献3)について報告されている。
【0003】
これらの多不飽和化合物は優れた香気を有し、例えば、特許文献1には、1,3,5−ウンデカトリエンが、花様、例えばヒヤシンス、すみれ、水仙、ラベンダー、クチナシを想起させる香りで、その底に葉の香りが天然と類似した性質を発現または強化すると記載されており、また、特許文献2には、1,3,5,7−ウンデカテトラエンが土壌及び樹木様の香気を有すること、そして、特許文献3には、2,4,7−デカトリエナールのアセタールが快適な天然のグリーンノートを有することが記載されている。
【0004】
一方、非特許文献3は、モリブデンによる炭素−炭素結合形成反応に関する報文であり、そこには、該反応の一例として、(6E、8E)−6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンを合成したことが記載されている。しかしながら、非特許文献3には、この化合物が香気を有することについて全く記載も示唆もされておらず、また、(6E、8E)−6,8,10−ウンデカトリエン−2−オン以外の異性体については何ら開示されていない。
【0005】
【特許文献1】特開昭50−32105号公報
【特許文献2】特開昭59−42326号公報
【特許文献3】特表2005−515249号公報
【非特許文献1】J.Agric.Food Chem.,33(1985),232
【非特許文献2】J.Food Sci.,50(1985),1655
【非特許文献3】J.Chem.,Soc.Chem.Comun,(1991),(15),p.1004−6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、消費者の嗜好性の多様化により、飲食品、香粧品等に使用する香料においても天然感、フレッシュ感にあふれる素材が求められており、従来の香料物質を組み合わせることではその要求に十分に対応しきれないのが現状である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、天然感、フレッシュ感にあふれる香りを再現することができる新規香料化合物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、最近、ガルバナム精油中に、ドライウッディ調を伴うグリーンノートを有し且つ甘く天然感、フレッシュ感にあふれる果実様香気を有する6,8,10−ウンデカトリエン−3−オンおよび6,8,10−ウンデカトリエン−4−オンが存在していることを発見した。本発明者らは、今回、これらの類縁体である6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンを合成したところ、興味深いことに、この化合物もまたドライウッディ調を伴うグリーンノートを有し、しかも、甘く天然感、フレッシュ感にあふれる果実様香気・香味を有していることが判明し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明は下記式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、波線の結合はシス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物であることを示す、ただし(6E、8E)−6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンを除く]
で表される文献未記載の新規化合物6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンを提供するものである。
【0012】
本発明は、また、下記式(2)
【0013】
【化2】

【0014】
[式中、波線の結合はシス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物であることを示す]
で表される6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンを有効成分として含有することを特徴とする香料組成物を提供するものである。
【0015】
本発明は、さらに、下記式(3)
【0016】
【化3】

【0017】
[式中、Rはアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す]
で表されるホスホニウム塩または下記式(4)
【0018】
【化4】

【0019】
[式中、Rは炭素数1〜8のアルキル基またはアリール基を示す]
で表されるホスホナートを下記式(5)
【0020】
【化5】

【0021】
で表されるラクトールとウィッティヒ反応またはホーナー−エモンズ反応させ、得られる下記式(6)
【0022】
【化6】

【0023】
[式中、波線の結合はシス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物であることを示す]
で表される6,8,10−ウンデカトリエン−2−オールを酸化することを特徴とする上記式(2)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の式(2)の化合物は、ドライウッディ調を伴うグリーンノートに加え、甘く天然感、フレッシュ感にあふれる果実様香気・香味およびその優れた持続性を有しており、該化合物は、飲食品類、香粧品類、保健・衛生・医薬品などに用いる香料組成物の調合素材として有用である。
【0025】
以下、本発明の化合物、その製造方法および香料組成物としての用途について、さらに詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の式(2)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンは次の反応経路1に従って合成することができる。
【0027】
【化7】

【0028】
[式中、波線の結合はシス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物であることを示し、Rはアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜8のアルキル基またはアリール基を示す]
【0029】
本明細書において、「アリール基」には、単環式および多環式の芳香族炭化水素基が包含され、例えば、各々場合により置換されていてもよいフェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられ、好ましくはフェニル基である。
【0030】
「アルキル基」は、直鎖状または分枝鎖状の飽和炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、1−メチルエチル基、n−ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基などが挙げられ、好ましくは炭素数1〜6の低級アルキル基である。
【0031】
「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を包含し、Xが示す特に好ましいハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0032】
式(3)のホスホニウム塩と式(5)のラクトールとのウィッティヒ反応、または式(4)のホスホナートと式(5)のラクトールのホーナー−エモンズ反応は、文献(例えば、新実験化学講座14有機化合物の合成と反応[I]P224−243参照)に記載されているこれらの反応に典型的な条件下で実施することができる。
【0033】
式(3)のホスホニウム塩と式(5)のラクトールとのウィッティヒ反応は、通常、不活性有機溶媒中で塩基の存在下に行うことができ、その際に使用することができる有機溶媒としては、例えば、エーテル(例:ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、ハロゲン化炭
化水素(例:ジクロロメタン、クロロホルムなど)、芳香族炭化水素(例:ベンゼン、トルエン、キシレンなど)または極性溶媒(例:ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなど)が挙げられ、特に、トルエン、テトラヒドロフラン,ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはこれらの混合溶媒が好適である。
【0034】
上記塩基としては、ウィッティヒ反応に通常用いられる塩基がいずれも使用することができ、例えば、アルカリ金属水酸化物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど)、アルカリ金属水素化物(例:水素化ナトリウム、水素化カリウムなど)、有機リチウム化合物(例:n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウムなど)、アルカリ金属アミド(例:リチウムアミド、カリウムアミド、ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミドなど)、アルカリ金属ヘキサメチルジシラジド、アルカリ金属アルコラート(例:ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)が挙げられ、これらの塩基は、式(3)のホスホニウム塩1モルあたり、通常0.8〜5当量、好ましくは1〜3当量の範囲内で使用することができる。
【0035】
また、式(5)のラクトールは、式(3)のホスホニウム塩1モルあたり、通常0.8〜5モル、好ましくは1〜3モルの範囲内で使用することができる。
【0036】
上記ウィッティヒ反応は、通常−78〜60℃、好ましくは−10〜25℃の範囲内の温度で、通常0.5〜24時間、好ましくは0.5〜2時間程度行うことができる。
【0037】
また、式(4)のホスホナートと式(5)のラクトールとのホーナー−エモンズ反応は、上記の式(3)のホスホニウム塩と式(5)のラクトールとのウィッティヒ反応の場合と同様にして行うことができる。
【0038】
かくして、式(6)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オールが、用いる反応条件に依存し、式(6)の波線の結合におけるシス:トランス比が一般に10:1〜1:10の範囲内にある幾何異性体混合物の形態で得られる。
【0039】
かくして得られる式(6)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オールの酸化による式(2)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンの生成反応は、2級アルコールをケトンに変換させるためのそれ自体既知の条件下で実施することができる。具体的には、該酸化は、例えば、文献(例えば、新実験化学講座15酸化と還元[I−1] P108−123参照)に記載されている酸化クロム(VI)―希硫酸による酸化、Jones酸化、酸化クロム(VI)−ピリジン錯体による酸化(Sarret酸化、Collins酸化)、ピリジニウムクロロクロメート(PCC)酸化、ピリジニウムジクロメート(PDC)酸化;文献(例えば、新実験化学講座15酸化と還元[I−2] P870−873参照)に記載されているOppenauer酸化;文献(例えば、J.Org.Chem.,48(1983),4155参照)に記載されているDess−Martin酸化;文献(例えば、J.Am.Chem.Soc.,122(2000),7596参照)に記載されているo−ヨードキシ安息香酸(IBX)による酸化;文献(例えば、Synthesis,(1994),639参照)に記載されているテトラプロピルアンモニウムペルルテナート(TPAP)による酸化などを挙げることができる。特に、Dess−Martin酸化、IBXによる酸化、TPAPによる酸化が好ましい。
【0040】
出発原料として使用される式(5)のラクトールは、例えば、以下の反応経路2に従って合成することができる(文献:新実験化学講座15酸化と還元[II] P98参照)。
【0041】
【化8】

【0042】
容易に入手し得る式(7)のδ−ヘキサラクトンを、不活性ガス雰囲気下に、例えば、水素化ジイソブチルアルミニウムなどの還元剤を用い、トルエン、ヘキサンなどの不活性有機溶媒中にて還元反応させることにより、式(5)のラクトールを得ることができる。
【0043】
式(3)のホスホニウム塩または式(4)のホスホナートはそれ自体既知の物質であり、文献、例えば前記特許文献1に記載の方法により、例えば、以下の反応経路3に従って合成することができる。
【0044】
【化9】

【0045】
[式中、Rはアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜8のアルキル基またはアリール基を示す]
【0046】
出発物質である式(8)のグリニャール試薬はハロゲン化ビニルと金属マグネシウムから常法に従って製造することができ、ハロゲン化ビニルとしては、塩化ビニルおよび臭化ビニルが好適である。式(9)のギ酸エチル1モルに対し、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの溶媒中で2当量以上の式(8)のグリニャール試薬を反応させることにより式(10)のアルコールを得ることができる。
【0047】
上記のグリニャール反応において、式(9)のギ酸エチルの代わりに、アクロレインを用いても同様に式(10)のアルコールを得ることができる。
【0048】
次いで、式(10)のアルコールをハロゲン化水素(HX)と求核置換反応させることにより、式(11)のハロゲン化物を得ることができる。ハロゲン化水素(HX)として
は、塩化水素もしくは臭化水素が好ましく、本反応は式(10)のアルコール1モルに対して1〜3当量の塩化水素もしくは臭化水素の20〜60%水溶液を添加することにより行うことができる。
【0049】
引き続き、式(11)のハロゲン化物1モルを1〜5当量のホスフィン[P(R]または亜りん酸エステル[P(OR]と常法により反応させることにより、式(3)のホスホニウム塩または式(4)のホスホナートを得ることができる。
【0050】
本発明により提供される式(2)の化合物は、ドライウッディ調を伴うグリーンノートを有し、しかも甘く天然感、フレッシュ感にあふれる果実様香気・香味を有しており、香料組成物に特定の割合で配合することにより、香料組成物にフレッシュで天然感にあふれた香りを賦与することができる。
【0051】
式(2)の化合物は、前記式(2)における波線で示す部分の結合がシス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物のいずれであっても、上記の如き香気・香味特性を有しており、したがって、本発明の化合物は、波線で示す部分の幾何学的配置にかかわりなく香料組成物において使用することができる。
【0052】
式(2)の化合物を香料組成物に配合する場合、その配合量は、配合の目的や香料組成物の種類などによって異なるが、香料組成物の重量を基準にして、通常の0.00001〜10重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲内とすることができる。
【0053】
かくして、本発明の式(2)の化合物は、例えば、果物(例:ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰など)、柑橘類(例:レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリンなど)、和柑橘類(例:みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑など)、茶類(例:紅茶、ウーロン茶、緑茶など)などの香料組成物に上記の量で添加することにより、香料組成物にフレッシュで天然らしさのある果実感を賦与・強調することができる。また、ベルガモット調、ゼラニウム調、ローズ調、ブーケ調、ヒヤシンス調、ラン調、フローラル調などの調合香料に式(2)の化合物を上記の量で添加することにより、その香気の特徴をより強調することができ、天然精油が本来有するフレッシュで天然感にあふれた香りを再現することができる。
【0054】
さらに、本発明によれば、式(2)の化合物を有効成分として含有する香料組成物を飲食品類、香粧品類、保健・衛生・医薬品類などに配合することにより、式(2)の化合物を香気・香味成分として含有する飲食品類、香粧品類、保健・衛生・医薬品類などを提供することができる。
【0055】
例えば、炭酸飲料、果汁飲料、果実酒飲料類、乳飲料などの飲料類;アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類などの冷菓類;和・洋菓子、チューインガム類、パン類、コーヒー、紅茶、お茶、タバコなどの嗜好品類;和風スープ類、洋風スープ類などのスープ類;ハム、ソーセージなどの畜肉加工品;風味調味料、各種インスタント飲料ないし食品類、各種のスナック類などに、式(2)の化合物を有効成分として含有する香料組成物の適当量を添加することにより、そのユニークな香気・香味が賦与された飲食品類を提供することができる。また、例えば、シャンプー類、ヘアクリーム類、その他の毛髪化粧料基剤;オシロイ、口紅、その他の化粧用基剤や化粧用洗剤類基剤などに、式(2)の化合物を有効成分として含有する香料組成物を適当量添加することにより、そのユニークな香気が賦与された化粧品類を提供することができる。さらにまた、式(2)の化合物を有効成分として含有する香料組成物を例えば、洗濯用洗剤類、消毒用洗剤類、防臭
洗剤類、その他各種の保健・衛生用洗剤類;歯磨き、ティシュー、トイレットペーパーなどに適当量配合することにより、そのユニークな香気が賦与された各種保健・衛生材料類;医薬品類などを提供することができる。
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0057】
実施例1
下記の一連の反応式にしたがって式(2)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンを合成した。なお、工程番号の下のカッコ内の百分率は各工程の収率を示す。
【0058】
【化10】

【0059】
工程1:式(10)のアルコールの合成
アルゴン雰囲気下で、2Lフラスコに、マグネシウム48.6g(2.00mol)、テトラヒドロフラン300mLおよびヨウ素(触媒量)を仕込み、室温で撹拌しながら臭化ビニル214.0g(2.00mol)のテトラヒドロフラン(780mL)溶液を約20ml滴下した。反応溶液を30〜40℃まで加熱し反応を開始させてから、30〜40℃の反応温度が維持されるように1時間かけて臭化ビニルのテトラヒドロフラン溶液の残りを滴下した。滴下終了後、室温で1.5時間撹拌し、その後氷水で冷却した。それに式(9)のギ酸エチル74.0g(1.00mol)を5〜15℃で1時間かけて滴下し、その後室温で1時間撹拌した。反応溶液を1Lの飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ、有機層を分離し、水層をジエチルエーテルを用いて抽出した。有機層を合わせ、飽和塩化アンモニウム水溶液および飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮を行った。得られた残渣(96.7g)を減圧下蒸留(〜54℃/7.8kPa)し、式(10)のアルコール68.2g(0.811mol,収率81
%、純度96%)を得た。
【0060】
工程2:式(13)のブロマイドの合成
300mLフラスコに式(10)のアルコール52.5g(0.625mol)を仕込み、メタノール−氷で冷却しながら、48%臭化水素水溶液126.2g(0.749mol)を1.5時間で滴下した。有機層を分離し、水で洗浄を行い、硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、式(13)のブロマイド57.1g(0.388mol、収率62%、純度97%)を得た。
【0061】
工程3:式(14)のホスホニウム塩の合成
500mLフラスコに、トリフェニルホスフィン106.8g(0.407mol)およびトルエン250mLを仕込み、室温で式(13)のブロマイド57.1g(0.388mol)を15分かけて滴下した。さらに、室温で22時間撹拌した後、析出した結晶を濾過して、式(14)のホスホニウム塩132.4g(0.323mol、収率83%)を得た。
【0062】
工程4:式(5)のラクトールの合成
アルゴン雰囲気下で、200mLフラスコに、式(7)のδ−ヘキサラクトン3.00g(26.3mmol)、トルエン50mLおよびヘキサン30mlを仕込み、−66〜−60℃で攪拌しながら水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)の0.98Mヘキサン溶液30mL(29.8mmol)を20分かけて滴下した。滴下終了後そのままの温度で20分間撹拌し、反応溶液を5%シュウ酸二水和物水溶液70mlに注ぎ、室温で30分間攪拌した。混合溶液を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下溶媒を留去した。残渣として得られた式(5)のラクトール3.54gをそのまま次の工程に用いた。
【0063】
工程5:式(6)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オールの合成
アルゴン雰囲気下で、50mLフラスコに式(5)のラクトール3.54g、式(14)のホスホニウム塩10.8g(26.3mmol)およびジメチルホルムアミド(DMF)16mlを仕込み、氷水で冷やしながらナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液)5.60g(28.9mmol)を滴下し、そのままの温度でさらに1時間撹拌した。反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ、酢酸エチルを用いて抽出して有機層を分離し、有機層を飽和食塩水にて洗浄後、硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣(9.18g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより2回精製し(1回目:ヘキサン:酢酸エチル=10:1、2回目:ヘキサン:酢酸エチル=60:1)、式(6)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オール1.18g(7.18mmol、収率27%)を得た。
【0064】
工程6:式(2)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンの合成
50mLフラスコにo−ヨードキシ安息香酸(IBX)2.78g(9.44mmol)およびジメチルスルホキシド(DMSO)20mlを仕込み、室温でIBXが溶解するまで攪拌した。そこに式(6)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オール1.18g(7.18mmol)を室温下で攪拌しながら加え、室温で2時間攪拌した後、反応液を水に注ぎ、生じた結晶を濾別した。濾液を酢酸エチルで抽出し、有機層を水および飽和塩化ナトリウム水溶液にて順次洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣(10.9g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し(ヘキサン:酢酸エチル=100:1)、式(2)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オン0.894g(5.44mmol、収率77%)を得た。
【0065】
式(2)の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンの物性
6位の幾何異性体比:E:Z=1:1
H−NMR(6位の幾何異性体混合物,CDCl,400MHz):δ 1.66(2H,quin,J=7.6),2.10(2H,s),2.09,2.19(total 2H,each dt,J=7.2,9.2,J=7.2,7.6),2.40,2.42(total 2H,each t,J=7.2,J=7.6),5.03,5.07(total 1H,each d,J=10.0,J=10.0),5.16,5.20(total 1H,each d,J=16.0,J=16.0),5.40,5.64(total 1H,each dt,J=7.6,10.4,J=6.8,15.2),6.00−6.46(4H,m).
13C−NMR(6位の幾何異性体混合物,CDCl,100MHz):δ 23.1,23.4,27.0,30.0,32.0,42.7,42.8,116.6,117.2,128.2,129.3,130.9,131.5,131.9,133.2,133.4,134.5,136.98,137.03,208.8.
MS(m/z):43(37),78(51),91(100),106(70),164(M,15)。
【0066】
実施例2(香気評価)
実施例1で得られた6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンならびに前記特許文献1および2に記載の1,3,5−ウンデカトリエンおよび1,3,5,7−ウンデカテトラエンのそれぞれ0.1%エタノール溶液について、訓練されたパネラーにより香気評価を行った。香気評価は30mlサンプル瓶に前記0.1%エタノール溶液を用意し、瓶口の香気およびその溶液を含浸したにおい紙により行った。5名の平均的な香気評価を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例3
パイナップル様の調合香料組成物として、下記表2に示す成分からなる基本調合香料組成物を調製した。
【0069】
【表2】

【0070】
上記組成物99.9gに実施例1で製造した6,8,10−ウンデカトリエン−2−オン0.1gを混合して、新規なパイナップル様の調合香料組成物を調製した。この新規調合香料組成物および該化合物を加えていない上記のパイナップル様調合香料組成物の香気について、専門パネラー10人により比較した。その結果、専門パネラー10人の全員が該化合物を加えた新規調合香料組成物は、フレッシュで天然感のある果実感が強調された天然パイナップルの特徴をとらえ、持続性の点でも格段に優れていると評価した。
【0071】
実施例4
ヒヤシンス様の調合香料組成物として、下記表3に示す成分からなる基本調合香料組成物を調製した。
【0072】
【表3】

【0073】
上記組成物99.9gに実施例1で製造した6,8,10−ウンデカトリエン−2−オン0.1gを混合して、新規なヒヤシンス様の調合香料組成物を調製した。この新規調合香料組成物および該化合物を加えていない上記のヒヤシンス様調合香料組成物の香気について、専門パネラー10人により比較した。その結果、専門パネラー10人の全員が該化合物を加えた新規調合香料組成物は、フレッシュ感、天然感にあふれる香りが強調された天然ヒヤシンスの特徴をとらえ、持続性の点でも格段に優れていると評価した。
【0074】
実施例5(6E体と6Z体の香気評価)
実施例1で得られた6位の幾何異性がE:Z=1:1の6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンについて、ガスクロマトグラフィー匂い嗅ぎ法により、(6E,8E)−6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンと(6Z,8E)−6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンそれぞれの香気を評価した。
【0075】
香気評価
(6E,8E)−6,8,10−ウンデカトリエン−2−オン:マイルドなグリーンノートおよび甘く天然感フレッシュ感あふれる果実様香気。
【0076】
(6Z,8E)−6,8,10−ウンデカトリエン−2−オン:ウッディなグリーンノートおよびシャープで甘く天然感フレッシュ感あふれる果実様香気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

[式中、波線の結合はシス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物であることを示す、ただし(6E、8E)−6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンを除く]
で表される6,8,10−ウンデカトリエン−2−オン。
【請求項2】
下記式(2)
【化2】

[式中、波線の結合はシス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物であることを示す]
で表される6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンを有効成分として含有することを特徴とする香料組成物。
【請求項3】
下記式(3)
【化3】

[式中、Rはアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す]
で表されるホスホニウム塩または下記式(4)
【化4】

[式中、Rは炭素数1〜8のアルキル基またはアリール基を示す]
で表されるホスホナートを下記式(5)
【化5】

で表されるラクトールとウィッティヒ反応またはホーナー−エモンズ反応させ、得られる下記式(6)
【化6】

[式中、波線の結合はシス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合
の混合物であることを示す]
で表される6,8,10−ウンデカトリエン−2−オールを酸化することを特徴とする下記式(2)
【化7】

[式中、波線の結合はシス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物であることを示す]
で表される6,8,10−ウンデカトリエン−2−オンの製造方法。

【公開番号】特開2009−84189(P2009−84189A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254720(P2007−254720)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【特許番号】特許第4057638号(P4057638)
【特許公報発行日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】