説明

7−アルキル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンを調製するためのプロセス

イリノテカンのあらゆる合成において重要な中間体は、7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)カンプトテシンである。この中間体を効率的に合成するためのプロセスは、容易に入手可能な20(s)カンプトテシンを進めることにより実証される。対応する7−アルキル−10−ヒドロキシ−20(s)カンプトテシン中間体を用いることにより、種々の他のテカン化合物を作ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に入手可能な天然産物20(S)−カンプトテシンから7−アルキル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンを調製するための効率的な3段階プロセスに関する。また、本発明は、この合成において有用な新規の中間体を明らかにする。
【背景技術】
【0002】
カンプトテシン誘導体は、有意な細胞毒性を有し、幾つかは開発されて有用な医薬品にされている。詳細には、イリノテカン(カンプト)は、結腸−直腸癌に関して優れた活性を示し、広く市販されている。これは、水溶性であるという点で、他のカンプトテシン誘導体よりもかなりの優位性が認められる。
【0003】
イリノテカンは、重要な中間体である7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンから幾つかの段階で調製される。
10−ヒドロキシ及び7−エチル官能性をカンプトテシン分子に導入することに相当な労力が費やされてきた。従って、これらの個々の基の各々に関連する幾つかの先行技術があるが、これらの官能性を同時に分子に導入することに関しては殆ど知見がない。
【0004】
Sawada(Chem.Pharma.Bull.第39巻第12号3183頁(1991年)は、7−エチル−20(S)−カンプトテシンを公知の方法で合成し、続いてN−オキシドが形成されて光転位が起こり、7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンを生じることにより、7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンの合成を実証している。しかしながら、この合成は、7−エチル−20(S)−カンプトテシンが適切な溶媒に不溶性であるという欠点があり、このため、ごく少量しか調製することができない。
【0005】
10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンは、20(S)−カンプトテシンを水素添加して、1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)カンプトテシンにし、続いて酸化することにより調製されてきた。すなわち、米国特許第5,734,056号は、20(S)−カンプトテシンに水素添加して1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンにし、続いて、ヨードソベンゼン誘導体、詳細にはヨードベンゼンジアセテートのようなエステルで酸化することによる調製を記載している。日本特許第59−5188号は、カンプトテシンを水素添加し、続いてCAN(硝酸アンモニウムセリウム(IV))、クロム酸、過マンガン酸カリウム、フレミー塩などの薬剤で酸化することを開示している。同様に、Sawadaら(Chem.Pharm.Bull.第39巻第120号3183頁1991年)は、四酢酸鉛で還元及び酸化することを記載している。いずれの場合も、7−置換誘導体を用いることは実際には示されていない。
【0006】
7−エチル−20(S)−カンプトテシンの調製は、20(S)−カンプトテシン及びプロピオンアルデヒドを硫酸第一鉄及び硫酸とともに用いることによるフェントン反応でこれまで示されている。
従って、商業的規模で用いることができる7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンの効率的な合成法が必要とされている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,734,056号公報
【特許文献2】日本特許第59−5188号公報
【非特許文献1】Sawada(Chem.Pharma.Bull.第39巻第12号3183頁(1991年)
【発明の開示】
【0008】
本発明は、1つの実施形態として、方式Iに示すように、7−エチル−20(S)−カンプトテシンを形成し、続いて触媒還元、次に酸化して所望の7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンにする新規のプロセスを提供し、これはイリノテカンの合成に有用である。
【0009】
方式I

【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
7−アルキル−20(S)−カンプトテシン(I)の形成は、公知の方法で達成した。テトラ置換オレフィンの水素添加が極めて困難であることは文献において公知である。従って、この化合物に水素添加して7−アルキル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシン(II)にすることが課題となることが予想された。7−アルキル−20(S)−カンプトテシンが可溶である適切な溶媒中で触媒としてPtO2を用い、良好な収量及び良好な純度でこの水素添加を実際に達成することができることが分かったことは驚きであった。元素プラチナ、ロジウム、ローレンシウム、及びルテニウムのうちの少なくとも1つを含む還元触媒など、PtO2以外の触媒を用いてもよい。更に、水素添加段階は、ジメチルスルホキシド及び水酸化アンモニウムなどの触媒作用調節剤を用いて行うことができる。この目的では酢酸が好ましい溶媒である。この水素添加には、アルコール、及び酢酸とアルコールとの混合物のような他の溶媒系を用いることもできるが、カンプトテシンが酢酸に高い溶解性があるので、酢酸が最も所望の溶媒となる。この触媒水素添加を用いることにより、90%より大きな収量で所望の生成物を容易に得ることができる。
【0011】
公知の1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンとは異なり、7−アルキル−1,2,6,7テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシン(II)は、酸素雰囲気下で容易に酸化されて7−アルキル−20(S)−カンプトテシン(I)に戻ることが見出された。従って、酸化により良好な収量で10−ヒドロキシ誘導体が生成されるかどうかに関して疑問があった。実際、酢酸/水中でヨードベンゼンジアセテートを用いた酸化では、所望の7−アルキル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシン(III)をあまり良好な収量で生成されなかった。この反応は、種々の溶媒系中で行うことができるが、この場合もやはり酢酸/水が最も好都合で好ましい溶媒系であった。他の適切な溶媒には、C1〜C6エステル、C1〜C6酸、C1〜C6アルコール及び水が含まれる。更に詳細には、C1〜C6酸は、ブテン酸、プロパン酸及び酢酸とすることができる。また、この反応は、超原子価ヨウ素、ルテニウム(VIII)、マンガン酸塩(VII)、オスミウム(VIII)、鉛(IV)及びクロム(VI)を含有するものを含む種々の他の酸化剤を用いて行うこともできる。生成物は、反応の間に沈殿し、濾過により集めることができる。得られる生成物は、直接用いるのに十分な純度のものであり、或いは、酢酸などの有機溶媒から再結晶することにより精製することができる。
従って、本発明は、7−アルキル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシン(III)を効率的な合成法を提供する。
【実施例】
【0012】
7−エチル−20(S)−カンプトテシン(I)の調製
20(S)−カンプトテシン(60.Og)、硫酸第一鉄七水化物(12.0g)及び9N硫酸(1200ml)を窒素雰囲気下で、機械的撹拌装置、凝縮装置及び温度計を装備した5L反応器に続いて入れる。得られる混合物を全ての懸濁液が溶解するまで25℃で撹拌し、−10℃から0℃の間まで冷却する。冷却した反応混合物にプロピオニルアルデヒド(10.0g)を加える。冷却した反応混合物に、温度を10〜0℃に維持しながら30〜60分間の時間期間にわたり10%過酸化水素溶液(116.9g)及びプロピオニルアルデヒド(15.0g)を同時に入れる。得られる混合物を同じ温度で60〜90分間撹拌する。反応混合物を水で希釈し、水酸化アンモニウム水溶液で中和して所望の生成物を沈殿させた。粗生成物を酢酸及び水から再結晶すると、49.83gの化合物I(収量71.6%、HPLCによる純度95.16%)が得られた。1H−NMR(DMSO−d6)δ:0.9(3H、t)、1.3(3H、t)、1.85(2H、q)、3.2(2H、q)、5.28(2H、s)、5.44(2H、s)、6.5(1H、s)、7.32(1H、s)、7.7(1H、dd)、7.85(1H、dd)、8.15(1H、d)、8.26(1H、d)
【0013】
7−エチル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシン(II)の調製
7−エチル−20(S)−カンプトテシン(1)(30.0g)及び酢酸(900ml)を共に入れ、80℃まで加熱して溶解を容易にした。次に、得られる溶液を2Lオートクレーブ反応器に移し、室温まで冷却した。得られる懸濁液に水酸化アンモニウム(30%濃度3.4ml)、酸化プラチナ及びジメチルスルホキシド(2.2ml)を25℃で加えた。次いで、得られる混合物に、出発材料7−エチル−20(S)−カンプトテシンIがTLC分析で消失するまで、水素圧5バールで水素添加を行う。セライトのパッドを通して濾過し、酢酸で洗うことにより触媒を除去し、得られる溶液を直接次の反応に用いる。試料は、HPLC、NMR、IR及びLC/MS分析により特性を決定した。HPLCにより、3つのジアステレオ異性体が比率6:61:13で示され、これらは、LC/MSによりMSm/zが380(M+)であることが検出される。1H−NMR(DMSO−d6)δ:0.78(3H,t)、0.82(3H,m)、1.2〜1.35(2H,m)、1.8(3H,m)、2.65(1H,m)、3.12(1H,m)、3.75(1H,dd)、4.08(1H,dd)、4.92(1H,dd)、5.23(1H,s)、6.48(1H,s)、6.5〜6.98(4H,m)、6.62(1H,s);IR(KBr)ν:3310,2967、1744,1652、1586、1491,1465cm-1
【0014】
7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシン(III)の調製
7−エチル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンの水素添加ろ液を窒素雰囲気下で機械的撹拌装置、温度計を装備した3Lの4つ口丸底フラスコに入れ、10℃まで冷却した。この溶液に水(900ml)を加え、得られる溶液をこの温度で20分間撹拌した。続いて、温度を10℃未満に維持しながら、この溶液に少量ずつ数回に分けてヨードベンゼンジアセテート(65.5g)を加えた。得られる混合物は、TLCで監視すると出発材料7−エチル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシン(II)が完全に消失するまでこの温度で撹拌した。メタノール(230ml)を加えることにより反応物を急冷し、生成物の沈殿を容易にした。次いで、反応スラリーを濾過し、集めた固体を酢酸水溶液及びメタノールで洗って所望の生成物28.3g(2段階での全収量が90%)を得た。1H−NMR(DMSO−d6)δ:0.9(3H,t)、1.32(3H,t)、1.88(2H,q)、3.1(2H,q)、5.28(1H,s)、5.42(1H,s)、6.46(1H,s)、7.28(1H,s)、7.4(2H,m)、8.0(1H,d)、10.5(1H,s)
【0015】
7−メチル−20(S)−カンプトテシンの調製
上記の7−エチル−20(S)−カンプトテシンを作るプロセスに対応するプロセスを行うと、生成物が収量60%で25.6g得られた。1H−NMR(DMSO−d6)δ:0.90(3H,t)、1.88(2H,m)、2.79(3H,s)、5.29(2H,s)、5.44(2H,s)、6.51(1H,s)、7.34(1H,s)、7.73(1H,t)、7.86(1H,t)、8.15(1H,d)、8.25(1H,d)
【0016】
7−メチル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンの調製
上記の7−エチル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンを作るプロセスに対応するプロセスを行った。生成物のHPLCにより3つのジアステレオ異性体が比率13:68:19で示される。1H−NMR(DMSO−d6)δ:0.78(3H,t)、1.02(3H,d)、1.72(2H,m)、1.90(3H,m)、3.01(1H,m)、3.17(1H,m)、3.91(1H,m)、4.06(1H,m)、4.91(1H,m)、5.21(1H,s)、6.30(1H,s)、6.56−6.6(2H,m)、6.8−7.0(2H,m)
【0017】
7−メチル−10−ヒドロキシ−20(s)−カンプトテシンの調製
7−エチル−10−ヒドロキシ−20(s)−カンプトテシン(III)を作る上記のプロセスに対応するプロセスを行った。反応生成物のHPLCにより、17%の所望の生成物と、41%の7−メチル−20(S)−カンプトテシンが示される。
本明細書に例示した引例は、その全体が引用により本明細書に組み込まれる。
【0018】
従って、本発明を好ましい実施形態に適用された本発明の基本的な新規の特徴を図示し、説明し、並びに指摘したが、当業者であれば本発明の精神から逸脱することなく、例示したプロセスの形態及び詳細並びにその動作において種々の省略、置き換え、及び変更を行うことができることは理解されるであろう。例えば、実質的に同じ機能を実質的に同じ方法で行って同じ結果を得るこれらの要素及び/又は方法段階の全ての組み合わせが本発明の範囲内であることは、明らかに意図される。更に、本発明の開示されたあらゆる形式又は実施形態に関して図示され、及び/又は説明された構造及び/又は要素及び/又は方法段階は、設計選択肢の一般的な問題として、他の開示又は説明又は提案されたあらゆる形式又は実施形態に組み込むことができることを理解されたい。従って、本発明は、添付の請求項の範囲に示されるものとしてのみ限定されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式:

の化合物。
【請求項2】
次式:

の7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンを調製するプロセスであって、
7−エチル−20(S)−カンプトテシンを還元触媒により触媒される水素ガスで還元して、7−エチル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンにする段階と、
7−エチル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンを酸化剤で酸化して、7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンを生成する段階と、
を含むプロセス。
【請求項3】
前記酸化剤が、超原子価ヨウ素、ルテニウム(VIII)、マンガン酸塩(VII)、オスミウム(VIII)、鉛(IV)及びクロム(VI)から成る群から選択される請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記酸化剤がヨードベンゼンジアセテートである請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記酸化段階が溶媒系中で行われる請求項2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記有機溶媒が、C1〜C6エステル、C1〜C6酸、C1〜C6アルコール及び水から成る群から選択される請求項2に記載のプロセス。
【請求項7】
前記C1〜C6酸が、ブテン酸、プロパン酸、及び酢酸から成る群から選択される請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記C1〜C6酸が酢酸である請求項6に記載のプロセス。
【請求項9】
前記還元触媒が、プラチナ、ロジウム、ローレンシウム、及びルテニウムから成る群から選択される元素を含む請求項2に記載のプロセス。
【請求項10】
前記還元段階が、触媒作用調節剤の存在下で行われる請求項2に記載のプロセス。
【請求項11】
前記触媒調節剤がジメチルスルホキシドである請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記触媒調節剤が水酸化アンモニウムである請求項10に記載のプロセス。
【請求項13】
イリノテカンを生成するプロセスであって、
7−エチル−20(S)−カンプトテシンを還元触媒により触媒される水素ガスで還元して、7−エチル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンにする段階と、
7−エチル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンを酸化剤で酸化して7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンを生成する段階と、
中間体として7−エチル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンを用いてイリノテカン生成物を調製する段階と、
を含むプロセス。
【請求項14】
次式:

の化合物。
式中Rが1〜6炭素原子の低級アルキル基である。
【請求項15】
次式:

(式中、Rはアルキル基である)の7−アルキル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンを調製するプロセスであって、
7−アルキル−20(S)−カンプトテシンを還元触媒により触媒される水素ガスで還元して、7−アルキル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(S)−カンプトテシンにする段階と、
7−アルキル−1,2,6,7−テトラヒドロ−20(s)−カンプトテシンを酸化剤で酸化して、7−アルキル−10−ヒドロキシ−20(S)−カンプトテシンを生成する段階と、
を含むプロセス。
【請求項16】
請求項15に記載のプロセスを含むイリノテカンを生成するプロセス。

【公表番号】特表2007−501275(P2007−501275A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532977(P2006−532977)
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/014827
【国際公開番号】WO2004/100897
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(506254477)サイノファーム シンガポール ピーティーイー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】