説明

9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンおよびその製造法

【課題】 高紫外線吸収能ポリマーの原料および添加剤、非ハロゲン、非リン系難燃性ポリマーの原料および添加剤となるアントラセン化合物を提供すること。
【解決手段】 アルカリ性化合物の存在下、9,10−アントラヒドロキノンと酸化エチレンとを反応させることによって得られる9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンを提供する。特に、9,10−アントラヒドロキノンのアルカリ金属塩水溶液を反応原料としてアントラセン化合物を提供する。
【効果】 上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー原料またはポリマー添加剤として有用な9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンおよびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーには、その用途に応じて種々の機能が求められるが、その機能として、紫外線吸収(反射防止、紫外線増感等)および難燃化が挙げられる。
【0003】
例えば、半導体製造時のKrF線エキシマレーザーのような短波長の露光手段を用いたリソグラフィーにおける反射防止膜には、高い紫外線吸収能が求められており、アントラセン化合物の添加が提案されている(例えば、特許文献1)。また、一般的にポリマーには難燃性が要求されるが、現状では難燃剤としてリン化合物、ハロゲン化合物が多用されている。しかしながら一方で、健康や環境への配慮から脱リン、脱ハロゲンが求められており、難燃性付与のためポリマー骨格へ芳香環を導入する事が知られている。(例えば特許文献2)このようにポリマーの機能を高めるための添加剤として各種のアントラセン化合物が提案されているが、本発明の9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンは知られていない。
【特許文献1】特開平11−249311
【特許文献2】特許第3153875
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこれらポリマーに求められる紫外線吸収、難燃化に対応する原料または添加剤として有用なアントラセン骨格を有する化合物およびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、低コストで工業的に製造可能なアントラセン骨格を有する化合物とその製造法について検討し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、新規な9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン及びアルカリ性化合物の存在下9,10−アントラヒドロキノンと酸化エチレンとを反応させることを特徴とする9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンの製造方法を骨子とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンは、高紫外線吸収能ポリマーの原料および添加剤、非ハロゲン、非リン系難燃性ポリマーの原料および添加剤として有用である。また、この9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンは、アルカリ性化合物の存在下、9,10−アントラヒドロキノンと酸化エチレンとを反応させることによって工業的に容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンは式(1)で示される化合物である。
【0009】
【化1】

【0010】
本発明の9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンは、アルカリ性化合物の存在下、9,10−アントラヒドロキノンと酸化エチレンとを反応させることによって得ることができる。
【0011】
9,10−アントラヒドロキノンは、一般に、9,10−アントラキノンの還元により製造可能である。還元剤としては、ハイドロサルファイト、パラジウム/カーボンを触媒とする水素還元、過酸化チオ尿素等が挙げられる。また、工業的な方法として、ナフトキノンとブタジエンのディールスアルダー反応物のアルカリ金属塩とアントラキノンとの反応により、より簡便に得ることができる。即ち、1,4−ナフトキノンとブタジエンとの反応により得られる1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンを、水性媒体中、アルカリ金属水酸化物のようなアルカリ性化合物の存在下にアントラキノンと反応させることにより9,10−アントラヒドロキノンのアルカリ金属塩の水溶液を得ることができるので、この水溶液を反応原料として用いることができる。
【0012】
酸化エチレンと9,10−アントラヒドロキノンの反応の際に用いるアルカリ性化合物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。9,10−アントラヒドロキノンとして上記の9,10−アントラヒドロキノンのアルカリ金属塩の水溶液を用いる場合、水溶液中にアルカリ金属水酸化物が含まれるため新たにアルカリ金属水酸化物を添加する必要がないので好適である。
【0013】
9,10−アントラヒドロキノンと酸化エチレンの反応に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールのようなアルコールか、もしくはジメチルフォルムアミド、ジエチルフォルムアミドのようなプロトン性溶媒、またはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、さらにはテトラヒドロフランのような水溶性エーテルを用いる。また、これらの混合溶媒でもよい。9,10−アントラヒドロキノンとして上記の9,10−アントラヒドロキノンのアルカリ金属塩の水溶液をそのまま用いる場合、これらの溶媒を用いずに水溶液のまま反応させてもよいし、さらにこれら溶媒を添加して反応させてもよい。
【0014】
9,10−アントラヒドロキノンと酸化エチレンの反応は、添加するアルカリの種類や量、およびその他の条件にもよるが、好ましくは反応温度は10℃以上、80℃以下、反応時間は1時間以上、5時間以下、反応圧力は0.2MPa以上、0.5MPa以下で行われる。
【実施例1】
【0015】
「9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンの合成」
アントラキノンと1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンより得られた20w%アントラキノンのナトリウム塩水溶液154g(アントラキノンとして0.16モル)を窒素ボックス中で攪拌機を付したオートクレーブに入れ密閉した。そこに酸化エチレン35g(0.8モル)を温度を50℃以下、かつ圧力を0.3MPa以下に保ちつつ60分要して導入した。更に、反応温度を40℃に保持しながら反応を3時間続けた。反応終了後、得られた結晶を濾別して水洗した。80℃で乾燥することで9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンを28g得た。(収率58mol%)
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンの使用方法としては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル等のアルコール性−OH基が反応基となり得るポリマー(またはオリゴマー)の原料が挙げられる。また、反応基が残留するポリマー中に溶解または分散して反応させることもできる。さらに、ポリマーとの相溶性にもよるが、物理的に溶解または分散させる使用方法も可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

で示される9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン。
【請求項2】
アルカリ性化合物の存在下、9,10−アントラヒドロキノンと酸化エチレンとを反応させることを特徴とする請求項1に記載の9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンの製造方法。
【請求項3】
9,10−アントラヒドロキノンとして、9,10−アントラヒドロキノンのアルカリ金属塩の水溶液を用いる請求項2に記載の9,10−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンの製造方法。

【公開番号】特開2006−28064(P2006−28064A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207426(P2004−207426)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】