説明

9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルおよび9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物ならびにそれらを製造する方法

本発明は、ヒマシ油中に85〜90%程度まで存在するリシノール酸の化学構造を変性してトリアシルオキシアルキルエステル誘導体とすることに関する。したがって、9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物をヒマシ油から調製し、それらのアルキルエステルに変換し、その後、ヒドロキシ基をアシル化して9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物を得た。9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルを粗生成物から精製し、H NMR試験により特性を明らかにした。また、粗生成物を酸価(A.V.)、ヒドロキシル価(H.V.)、ヨウ素価(I.V.)、粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食に関して評価し、油圧、金属加工流体および他の産業用流体の有効なベースストックであることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた潤滑性能特性を有する、新規の化学的に修飾されたヒマシ油脂肪酸化合物、すなわち9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステルおよび9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物ならびにそれらを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
菜種油などの植物油および高オレイン酸種の油は、従来の鉱油系潤滑油および合成エステルを代替するバイオ潤滑剤原料油を調製するための有力な候補であるとみなされている[Randles、S. J.ら、J. Synthetic Lubrication.、9:145頁(1992)(非特許文献1)、Asadauskas, S.ら、Lub. Eng.、52:877頁(1996)(非特許文献2)]。植物油系誘導体は、高められた生分解性、低い毒性を有し、再生可能な油糧種子源に由来するため、石油由来の製品の魅力的な代替物である。エステル結合が固有の潤滑性をもたらし、油が金属表面に付着することを可能にする。さらに、植物油は、鉱油系流体と比較して異物および添加物に対してより高い可溶化能を有する。文献において潤滑剤ベースストックについて報告している研究のほとんどは食用油に基づいている。
【0003】
主要な非食用油、すなわちヒマシ油は、多数の機能性誘導体を製造するための産業用原料としての役割を果たしている[J. Am. Oil Chem. Soc. 51、65頁(1974)(非特許文献3)、J. Am. Oil Chem. Soc. 48、759頁(1971)(非特許文献4)]。ヒマシ油は、ヒドロキシ脂肪酸(12−ヒドロキシ9cis−オクタデセン酸またはリシノール酸)を85〜90%程度まで含有しているため、よく知られた潤滑剤である(Chemical Business、1991、55〜60頁(非特許文献5))。J. Synthetic Lubrication 24、181頁(2007)(非特許文献6)は、ヒマシ油の物理化学的特性について報告している。
【0004】
ヒマシ油は、40℃ならびに100℃で望ましくない非常に高い粘度を有する。ヒマシ油は、また、約200℃以上の温度で脱水される。
【0005】
化学的に修飾されたヒマシ油の流動学的特性は、鉱油および他の植物油系潤滑剤より非常に優れている。主にその低温での物性のため、12位のヒドロキシル基がC、C12、C16およびC18脂肪酸でエステル化されたヒマシ油系エステルが対象である(Eur J Lipid Sci. Technol. 2003、105、214〜218頁(非特許文献7))。遊離ヒドロキシル基を有するエステルは、石油燃料の潤滑力を効率的に向上させる。リシノール酸および12−ヒドロキシオクタデカン酸のメチルおよびエチルエステルが調製され、それらの物理化学的特性を決定したところ、その結果は、遊離ヒドロキシル基の存在が、粘度、密度およびセタン価を除いてそれらのパラメーターに影響を及ぼさず、燃料としてのそれらのエステルの使用を制限しないことを示唆していた(Eur J. lipid Sci.Technol.、2006、108、629〜635頁(非特許文献8))。ダイズ油が修飾されて、不飽和部位が油圧流体、金属加工流体および他の産業用流体として有用なC〜C10ジエステルに変換された(米国特許第6583302号(特許文献1))。その潤滑剤ベースストックとしての有用性に関する、これらのトリヒドロキシ脂肪酸の豊富な混合物の誘導体の調製についての報告はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6583302号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Randles、S.J.ら、J. Synthetic Lubrication.、9:145頁(1992)
【非特許文献2】Asadauskas, S.ら、Lub. Eng.、52:877頁(1996)
【非特許文献3】J. Am. Oil Chem. Soc. 51、65頁(1974)
【非特許文献4】J. Am. Oil Chem. Soc. 48、759頁(1971)
【非特許文献5】Chemical Business、1991、55〜60頁
【非特許文献6】J. Synthetic Lubrication 24,181頁(2007)
【非特許文献7】Eur J Lipid Sci. Technol. 2003、105、214〜218頁
【非特許文献8】Eur J. lipid Sci.Technol.、2006、108、629〜635頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物から出発して様々な潤滑剤ベースストックを生成することである。
【0009】
本発明の別の目的は、直鎖および分岐鎖アルコールを使用して9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物をそれらのアルキルエステルに変換することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、炭素鎖長2〜8の酸無水物と反応させることにより9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物のアルキルエステルをそれらの対応するトリアシルオキシ誘導体に変換することである。
【0011】
これらのエステルの物理化学的特性を示すことも本発明の目的である。
【0012】
本発明の別の目的は、トリアシルオキシ脂肪酸アルキルエステルの豊富な生成物から全てのトリアシルオキシ脂肪酸アルキルエステルを単離すること、およびH NMR試験によりそれらの構造を同定することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、産業用途に適した広い粘度範囲および低温特性を有する、環境に優しいヒマシ油系潤滑剤ベースストックを調製することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって本発明は、新しい種類の化学的に修飾されたヒマシ油系潤滑剤ベースストックならびにそれらを製造する方法に関する。本発明によると、12−ヒドロキシ9−cis−オクタデセン酸系潤滑剤ベースストックは、ヒマシ油から出発して調製される。したがって、ヒマシ油は、酸触媒の存在下で過酸化水素を使用してジヒドロキシル化され、その後鹸化されてヒドロキシ脂肪酸と非ヒドロキシ脂肪酸との混合物を生じる。9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸は、該生成物中に存在する主要な脂肪酸である。
【0015】
したがって、本発明は、一般式1の9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸アルキルエステルおよび9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルを提供する。
【0016】
【化1】

【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態において、化合物9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルは、油圧、金属加工流体および他の産業用流体に使用するための潤滑剤配合物の調製において、潜在的な潤滑剤ベースストックとして有用である。
【0018】
したがって、本発明は、
(a)酢酸および硫酸をヒマシ油に加え、その後、12〜20℃で過酸化水素を2〜2.5時間の範囲の間加えるステップと、
(b)反応混合物を水に注入し、ベンゼン、クロロホルムおよび酢酸エチルのような水不混和性溶媒で該混合物を抽出して残渣を得るステップと、
(c)ステップ(b)で得られた生成物を水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのような水酸化アルカリと加熱し、HClで中和して9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物を得るステップと、
(d)9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物をアルコールでエステル化して9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物を得るステップと、
(e)キシレン、トルエンのような水共沸混合物形成溶媒から選択される溶媒においてジメチルアミノピリジンDMAPの存在下で、該溶媒の沸点に応じて変動する温度で完全な変換に必要とされる期間、ステップ(d)で得られた9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物を酸無水物でアシル化して、9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物を得、該混合物から9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルを精製するステップと
を含む、式1の9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルを製造する方法を提供する。
【0019】
本発明は、一実施形態において、9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物が約87.0%の9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸を含有する方法を提供する。
【0020】
本発明は、さらに別の実施形態において、それぞれ0.1〜0.2%および1〜2%の濃度の触媒としての塩化第一スズまたは硫酸の存在下で、メタノール、プロパノールおよび2−エチルヘキサノールからなる群から9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸のカルボキシル基のエステル化に使用されるアルコールを選択し得る方法を提供する。
【0021】
本発明は、一実施形態において、1:2〜1:27の範囲の脂肪酸混合物対アルコールのモル比を使用してエステル化を実施し得る方法を提供する。
【0022】
本発明は、別の実施形態において、60〜190℃の温度範囲でエステル化反応を実施し得る方法を提供する。
【0023】
本発明は、別の実施形態において、6〜8時間の範囲の間エステル化反応を実施し得る方法を提供する。
【0024】
本発明の一実施形態において、9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸のヒドロキシル基のアシル化に使用される無水物は、175〜180℃で0.1%の濃度のDMAPの存在下で、プロピオン酸、酪酸、吉草酸およびヘキサン酸無水物からなる群から選択し得る。
【0025】
本発明は、一実施形態において、9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物が、油圧、金属加工流体および他の産業用流体に使用するための潤滑剤配合物の調製において、潜在的な潤滑剤ベースストックとして有用であり得る方法を提供する。
【0026】
本発明は、一実施形態において、9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルが9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な生成物から単離され、それらの構造がH NMRにより同定される方法を提供する。
【0027】
本発明は、一実施形態において、9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルが、エステル化およびその後のアシル化により、容易に入手可能な9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸からも調製することができる方法を提供する。
【0028】
ヒマシ油のような植物油は、古代から潤滑剤として使用されてきている。合成エステルに類似したこれらの物質は、鉱油より良好な生分解性を有し、再生可能でもある。植物油には、合成エステルより高い流動点および低い粘度指数などのいくつかの欠点がある。植物油は、不飽和結合が存在するため粘度範囲が制限され、酸化安定性が低い。したがって、植物油単独では、近代的機械潤滑の要件の全てを満たすことはできない。それ故、本発明においては、化学修飾により天然ヒマシ油の化学構造をオクタデカン酸トリエステルに修飾する。9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物をヒマシ油から調製し、それらのアルキルエステルに変換し、その後ヒドロキシ基をアシル化して9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物を得た。該生成物を酸価(A.V.)、ヒドロキシル価(H.V.)、ヨウ素価(I.V.)、粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食に関して評価し、油圧、金属加工流体および他の産業用流体の潜在的なベースストックであることを見出した。9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物の粘度および流動点特性はヒマシ油より優れていた。
【0029】
本発明によると、87.0%リシノール酸(12−ヒドロキシ9cis−オクタデセン酸)を有するヒマシ油はエポキシド化され、エポキシ環はin situで酢酸で開環され、その後アルカリで鹸化され、その後中和されて9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物を生じる。
【0030】
次のステップにおいて、9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物のカルボキシル基は、酸触媒の存在下で、直鎖および分岐鎖アルコール(C1〜)を使用してそれらのアルキルエステルに変換される。
【0031】
本発明の一実施形態において、酸無水物(C〜C)と反応させることにより、9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸アルキルエステル混合物から9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物を調製する効率的な方法が展開される。該生成物中に存在する主要な成分、すなわち9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸アルキルエステルおよび9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの構造は、以下の通りである。
【0032】
【化2】

【0033】
該トリアシルオキシ誘導体を酸価(A.V.)、ヒドロキシル価(H.V.)、ヨウ素価(I.V.)、粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食などのその物理化学的特性に関して評価した。該トリアシルオキシ誘導体は、油圧流体、金属加工流体および他の産業用流体のような生分解性潤滑剤用途のベースストックとしてそれらを有用にする特性を示す。これらの生成物の特定の特性は、従来の添加剤を加えなくても一部の潤滑剤用途の一部の規格を満たすまたは超える。
【0034】
以下の例は本発明をさらに説明することを意図したものであり、本明細書に記載の特定の実施形態に本発明を限定することを意図するものではない。
【0035】
例1
9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸のメチルエステルの調製:ヒマシ油(200g)を2リットルの丸底フラスコに入れ、そこに氷酢酸(700g)、および硫酸(13.3g)を加え、反応混合物を15〜20℃まで冷却した。その冷却し撹拌した懸濁液に、50%過酸化水素(393g)を2時間にわたって滴下した。過酸化水素を完全に加えた後、反応混合物の温度を40℃までゆっくりと上昇させ、さらに5時間撹拌させた。反応時間の最後にその内容物を冷水に注入し、終夜放置した。有機相を酢酸エチル(2×1000ml)で抽出し、水性相のpHが中性になるまで酢酸エチル抽出物を水で洗浄した。酢酸エチル抽出物を無水硫酸ナトリウム床に通し、回転蒸発器(rota vapour)を使用して溶媒を除去して、真空下で乾燥した後、中間生成物(260g)を回収した。中間生成物(260g)を5リットルの丸底フラスコに入れ、そこに3N水酸化ナトリウム溶液(2666ml)を加え、80℃で2時間機械的に撹拌した。2時間後、その内容物を1:1HCl水溶液(800ml)で中和し、懸濁液の温度を約30℃まで下降させ、さらに20分間撹拌した。沈殿物を濾過し、真空乾燥器中で乾燥させて9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物(150g)を回収した。この生成物を2リットルの丸底フラスコに入れ、そこに2%硫酸のメタノール溶液(500ml)を加え、その内容物を60℃で6時間撹拌した。一定の間隔で酸価を測定することにより反応の過程をモニターした。反応の完了後、回転蒸発器を使用してメタノールの部分を蒸発し、残渣を酢酸エチル(1リットル)に入れ、pHが中性になるまで蒸留水(5×250ml)で洗浄した。酢酸エチル抽出物を無水硫酸ナトリウム床に通し、濃縮し、真空乾燥させて、2.2のA.V.、H.V.460および2.0のI.V.を有する生成物(120g)を回収した。
【0036】
9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸のメチルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、H試験により表題生成物の構造を証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.9[t,−CH]、1.2〜1.7[m,12×−CH−]、2.3[t,−CO−CH−]、3.5〜3.9[m,3×(−CH−OH),−O−CH]。
【0037】
例2
9,10,12−トリプロポキシオクタデカン酸メチルエステルの豊富な脂肪酸メチルエステル混合物の調製:例1で調製した9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸メチルエステル(300g)を1リットルの丸底フラスコに入れ、そこにプロピオン酸無水物(681g)、ジメチルアミノピリジン(DMAP、300mg)およびキシレン(100ml)を加え、その内容物を180℃で6時間磁気的に撹拌した。反応の過程をTLCによりモニターした。反応の完了後、キシレンおよび未変換のプロピオン酸無水物およびプロピオン酸を減圧下で蒸留し、残渣を酢酸エチルに入れた。酢酸エチル抽出物を蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムに通し、真空下で濃縮して、0.3のA.V.、3.3のH.V.および2.0のI.V.を有する生成物(270g)を回収した。該生成物を粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食に関して評価し、そのデータを以下の表に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
9,10,12−トリプロポキシオクタデカン酸メチルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、表題生成物の構造をH試験により証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.9[t,−CH]、1.1〜1.8[m,12×−CH,3×−CH]、2.2〜2.4[m,4×(−CO−CH−)]、3.6[s,−O−CH]、4.8〜5.2[m,3×(−O−CH)]。
【0040】
例3
9,10,12−トリブチロキシオクタデカン酸メチルエステルの豊富な脂肪酸メチルエステル混合物の調製:9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸メチルエステルの豊富な脂肪酸メチルエステル混合物(97g)を0.1のA.V.、2.4のH.V.および2.0のI.V.を有する実験2による酪酸無水物(260g)と反応させることにより表題化合物(190g)を調製した。該生成物を粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食に関して評価し、そのデータを以下の表に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
9,10,12−トリブチロキシオクタデカン酸メチルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、表題生成物の構造をH試験により証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.9[m,4×(−CH)]、1.2〜1.8[m,15×−CH−]、2.2〜2.3[m,4×(−CO−CH−)]、3.6[s,−O−CH]、4.8〜5.2[m,3×(−O−CH)]。
【0043】
例4
9,10,12−トリバレロキシオクタデカン酸メチルエステルの豊富な脂肪酸メチルエステル混合物の調製:9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸メチルエステルの豊富な脂肪酸メチルエステル混合物(90g)を0.3のA.V.、1.9のH.V.および2.0のI.V.を有する実験2による吉草酸無水物(352g)と反応させることにより表題化合物(210g)を調製した。該生成物を粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食に関して評価し、そのデータを以下の表に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
9,10,12−トリバレロキシオクタデカン酸メチルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、表題生成物の構造をH試験により証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.8〜1.0[m,4×−CH]、1.2〜1.7[m,18×−CH−]、2.2〜2.4[m,4×−CO−CH−]、3.6[s,−O−CH]、4.8〜5.2[m,3×(−O−CH)]。
【0046】
例5
9,10,12−トリヘキシルオキシオクタデカン酸メチルエステルの豊富な脂肪酸メチルエステル混合物の調製:9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸メチルエステルの豊富な脂肪酸メチルエステル混合物(45g)を0.3のA.V.、2.0のH.V.および2.0のI.V.を有する実験2によるヘキサン酸無水物(162g)と反応させることにより表題化合物(113g)を調製した。該生成物を粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食に関して評価し、そのデータを以下の表に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
9,10,12−トリヘキシルオキシオクタデカン酸メチルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、表題生成物の構造をH試験により証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.9〜1.0[m,4×−CH]、1.2〜1.4[m,21×−CH−]、2.2〜2.4[m,4×−CO−CH−]、3.6[s,−O−CH]、4.8〜5.1[m,3×−O−CH]。
【0049】
例6
9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物のプロピルエステルの調製
例1で調製した9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物(400g)を1リットルの丸底フラスコに入れ、そこに1−プロパノール(108g)および塩化第一スズ(400mg)を加え、その内容物を96℃で8時間にわたって撹拌した。一定の間隔で酸価を測定することにより反応の過程をモニターした。反応の完了後、回転蒸発器を使用して1−プロパノールの部分を蒸発し、残渣を酢酸エチルに入れ(600ml)、蒸留水(5×500ml)で洗浄した。酢酸エチル抽出物を無水硫酸ナトリウム床に通し、濃縮し、真空乾燥させ、濃縮物を塩基性アルミナカラムに通して、2.5のA.V.、420のH.V.および5.0のI.V.を有する生成物(405g)を回収した。
【0050】
9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸のプロピルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、表題生成物の構造をH試験により証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.9〜1.0[m,2×−CH]、1.2〜1.7[m,13×−CH−]、2.3[t,−CO−CH−]、3.3〜3.4,3.5〜3.7,3.7〜3.9[3m,3×−CH−OH]、4.0[t,−O−CH−]。
【0051】
例7
9,10,12−トリプロポキシオクタデカン酸プロピルエステルの豊富な脂肪酸プロピルエステル混合物の調製:
例6で調製した9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸プロピルエステルの豊富な脂肪酸プロピルエステル(200g)を1リットルの丸底フラスコに入れ、そこにプロピオン酸無水物(313.6g)、DMAP(200mg)およびキシレン(100ml)を加え、その内容物を180℃で6時間磁気的に撹拌した。反応の過程をTLCによりモニターした。反応の完了後、キシレンおよび未変換のプロピオン酸無水物およびプロピオン酸を減圧下で蒸留し、残渣を酢酸エチル(600ml)に入れた。酢酸エチル抽出物を蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムに通し、真空下で濃縮し、濃縮物を塩基性アルミナカラムに通して、0.3のA.V.、0.5のH.V.および5.0のI.V.を有する生成物(190g)を回収した。該生成物を粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食に関して評価し、そのデータを以下の表に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
9,10,12−トリプロポキシオクタデカン酸プロピルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、表題生成物の構造をH試験により証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.8〜1.0[m,5×−CH]、1.1〜1.7[m,13×−CH−]、2.2〜2.4[m,4×−CO−CH−]、4.0[t,−O−CH−]、4.8〜5.2[m,3×−O−CH−]。
【0054】
例8
9,10,12−トリバレロキシオクタデカン酸プロピルエステルの豊富な脂肪酸プロピルエステル混合物の調製:
例6で調製した9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸プロピルエステルの豊富な脂肪酸プロピルエステル(200g)を1リットルの丸底フラスコに入れ、そこに吉草酸無水物(447g)、DMAP(200mg)およびキシレン(100ml)を加え、その内容物を180℃で6時間磁気的に撹拌した。反応の過程をTLCによりモニターした。反応の完了後、キシレンおよび未変換の吉草酸無水物および吉草酸を減圧下で蒸留し、残渣を酢酸エチル(600ml)に入れた。酢酸エチル抽出物を蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムに通し、真空下で濃縮し、濃縮物を塩基性アルミナカラムに通して、0.2のA.V.、0.7のH.V.および5.0のI.V.を有する生成物(198g)を回収した。該生成物を粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食に関して評価し、そのデータを以下の表に示す。
【0055】
【表6】

【0056】
9,10,12−トリバレロキシオクタデカン酸プロピルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、表題生成物の構造をH試験により証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.85〜1.0[m,5×−CH]、1.2〜1.7[m,19×−CH−]、2.2〜2.4[m,4×−CO−CH−]、4.0[t,−O−CH−]、4.8〜5.2[m,3×−O−CH−]。
【0057】
例9
9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物の2−エチルヘキシルエステルの調製:9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物(200g)を1リットルの丸底フラスコに入れ、そこに2−エチルヘキサノール(156g)、塩化第一スズ(200mg)およびキシレン(100ml)を加え、その内容物を190℃で8時間磁気的に撹拌した。反応の過程をTLCによりモニターした。反応の完了後、過剰な2−エチルヘキサノール、キシレンを減圧下で蒸留した。残渣を酢酸エチル(600ml)に入れ、pHが中性になるまで有機層を水洗した。回転蒸発器を使用して溶媒を蒸発して、0.9のA.V.および5.0のI.V.を有する生成物(180g)を回収した。
【0058】
9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の2−エチルヘキシルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、表題生成物の構造をH試験により証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.8〜0.9[m,3×−CH]、1.1〜1.7[m,16×−CH−]、2.3[t,−CO−CH−]、3.6[m,−CH−OH]、3.7[m,−OCH−]、4.2〜4.3[m,2×−CH−OH]。
【0059】
例10
9,10,12−トリプロポキシオクタデカン酸2−エチルヘキシルエステルの豊富な脂肪酸2−エチルヘキシルエステル混合物の調製:例9で調製した9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸2−エチルヘキシルエステルの豊富な脂肪酸2−エチルヘキシルエステル(150g)を1リットルの丸底フラスコに入れ、そこにプロピオン酸無水物(257g)、ジメチルアミノピリジン(150mg)およびキシレン(100ml)を加え、その内容物を180℃で6時間磁気的に撹拌した。反応の過程をTLCによりモニターした。反応の完了後、キシレンおよび未変換のプロピオン酸無水物およびプロピオン酸を減圧下で蒸留し、残渣を酢酸エチルに入れた。酢酸エチル抽出物を蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムに通し、真空下で濃縮して生成物(257g)を回収した。該生成物は、0.9のA.V.、1.5のH.V.および5.0のI.V.を有していた。該生成物を粘度、粘度指数(V.I.)、流動点、引火点および銅板腐食に関して評価し、そのデータを以下の表に示す。
【0060】
【表7】

【0061】
9,10,12−トリプロポキシオクタデカン酸2−エチルヘキシルエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製し、表題生成物の構造をH試験により証明した。
H NMR(CDCl,δ ppm):0.8〜0.9[m,6×−CH]、1.1〜1.7[m,16×−CH−]、2.3〜2.4[m,4×−CO−CH−]、3.9[m,−O−CH−]、4.8〜5.2[m,3×−O−CH−]
本発明の利点:
【0062】
本特許において、優れた潤滑性能特性を有する、新規の化学的に修飾されたヒマシ油脂肪酸誘導体を調製した。これらの生成物は、良好な粘度指数、高引火点および非常に低い流動点を示した。該生成物は、不飽和がないため、優れた熱および酸化安定性を有する。該生成物は、金属加工、油圧および他の産業用流体に有用なベースストックである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1
【化1】

の9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸アルキルエステルおよび9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステル。
【請求項2】
9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルが、油圧、金属加工流体および他の産業用流体に使用するための潤滑剤配合物の調製において、潜在的な潤滑剤ベースストックとして有用である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
(a)酢酸および硫酸をヒマシ油に加え、その後、12〜20℃で過酸化水素を2〜2.5時間の範囲の間加えるステップと、
(b)反応混合物を水に注入し、前記混合物を水不混和性溶媒で抽出して残渣を得るステップと、
(c)ステップ(b)で得られた生成物を水酸化アルカリと加熱し、HClで中和して9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物を得るステップと、
(d)9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物をアルコールでエステル化して9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物を得るステップと、
(e)キシレン、トルエンのような水共沸混合物形成溶媒から選択される溶媒においてジメチルアミノピリジンDMAPの存在下で、前記溶媒の沸点に応じて変動する温度で完全な変換に必要とされる期間、ステップ(d)で得られた9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物を酸無水物でアシル化して、9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物を得、前記混合物から9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルを精製するステップと
を含む、請求項1に記載の式1の9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルを製造する方法。
【請求項4】
9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸の豊富な脂肪酸混合物が約87.0%の9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸を含有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸のカルボキシル基のエステル化に使用されるアルコールが、それぞれ0.1〜0.2%および1〜2%の濃度の、触媒としての塩化第一スズまたは硫酸の存在下で、メタノール、プロパノールおよび2−エチルヘキサノールからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
エステル化が1:2〜1:27の範囲の脂肪酸混合物対アルコールのモル比を使用して実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
エステル化反応が60〜190℃の温度範囲で実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
エステル化反応が6〜8時間の範囲の間実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸のヒドロキシル基のアシル化に使用される無水物が、175〜180℃で0.1%の濃度のDMAPの存在下で、プロピオン酸、酪酸、吉草酸およびヘキサン酸無水物からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な脂肪酸アルキルエステル混合物が、油圧、金属加工流体および他の産業用流体に使用するための潤滑剤配合物の調製において、潜在的な潤滑剤ベースストックとして有用である、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルが9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルの豊富な生成物から単離され、それらの構造がH NMRにより解明される、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
9,10,12−トリアシルオキシオクタデカン酸アルキルエステルが、それぞれ請求項3のエステル化ならびにその後のステップ(d)および(e)のアシル化により、容易に入手可能な9,10,12−トリヒドロキシオクタデカン酸からも製造することができる請求項3に記載の方法。

【公表番号】特表2011−520871(P2011−520871A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509085(P2011−509085)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/IN2009/000287
【国際公開番号】WO2009/139006
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(508176500)カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (27)
【Fターム(参考)】