説明

9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物の製造方法

【課題】 ポリアミドやポリイミドの原料として有用な9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物を、温和な条件下で、かつ収率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物を、テトラヒドロフランのような溶媒の存在下、ボラン・テトラヒドロフラン錯体のようなボラン錯体、あるいは水素化ホウ素化合物とルイス酸を用いて還元し、相当する9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドやポリイミドの原料として有用な9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物の経済的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物は、自由体積を大きくするカルド骨格を有しており、特異な性質を有するポリアミドやポリイミドの原料として期待されている。従来、この9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物の具体的な製造例としては、9,9−ビス(シアノエチル)フルオレンを、高圧下で水素還元して9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレンを製造する方法が知られているに過ぎない(特許文献1〜3参照)。しかしながらこれら文献に開示されている方法においては、高圧設備を要するという難点のほかに、反応収率が高くないという問題があった。また9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物を水素化リチウムアルミニウムで還元する方法も考えられるが、還元剤の反応性が非常に高いため、安全面から工業的に行うには問題があった。
【0003】
【特許文献1】アメリカ特許第2320029号明細書
【特許文献2】アメリカ特許第3728284号明細書
【特許文献3】アメリカ特許第4007226号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の目的は、高圧設備を必要とせず、また取り扱いの容易な還元剤を用いて、9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物を還元し、相当する9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物を収率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明によれば、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、Xは水素、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す)で示される9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物を、ボラン系還元剤を用いて還元することを特徴とする、下記一般式(2)
【0006】
【化2】

(式中、R及びXは上記と同じ)で表される9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物の製造方法が提供される。
【0007】
ボラン系還元剤としては、ボランの錯体を使用するか、あるいは水素化ホウ素化合物とルイス酸を用いることにより、反応系中でボランを形成させながら使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリアミド、ポリイミドの原料として有用な9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物を、工業的に有利に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記一般式(1)で表される9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物において、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、例えばメチレン、エチレン、トリメチレン、イソプロピリデン、テトラメチレンなどであり、Xは、水素;ハロゲン、例えば、フッ素、塩素、臭素、沃素など;炭素数1〜4のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、t−ブチル基など;あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などを表し、二つのXは同一でも、異なるものであってもよい。9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物としてより具体的には、9,9−ビス(シアノメチル)フルオレン、9,9−ビス(2−シアノエチル)フルオレン、9,9−ビス(3−シアノプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−シアノプロピル)フルオレン、9,9−ビス(4−シアノブチル)フルオレン、9,9−ビス(3−シアノブチル)フルオレン、9,9−ビス(2−シアノブチル)フルオレン、2,7−ジクロロ−9,9−ビス(2−シアノエチル)フルオレン、2,7−ジブロモ−9,9−ビス(2−シアノエチル)フルオレン、2,7−ジメチル−9,9−ビス(2−シアノエチル)フルオレン、2,7−ジメトキシ−9,9−ビス(2−シアノエチル)フルオレンなどを代表例として例示することができる。
【0010】
本発明においては、上記9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物をボラン系還元剤により還元して、相当する9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物を製造するものである。還元に使用されるボラン系還元剤としては、具体的には、ジボラン(B)、ボラン(BH)のテトラヒドロフラン錯体、ジエチルエーテル錯体、ジメチルアミン錯体、ジメチルスルフィド錯体、トリメチルアミン錯体などのボラン錯体を例示することができる。これらの中では、ボランのテトラヒドロフラン錯体、ジエチルエーテル錯体などのエーテル錯体を使用することが好ましい。
【0011】
ボラン系還元剤としてはまた、水素化ホウ素化合物とルイス酸を使用することにより、反応系中でボランを形成させて使用することもできる。使用することができる水素化ホウ素化合物としては、例えば水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化ホウ素亜鉛、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルコキシホウ素ナトリウムなどを例示することができる。これらの中では水素化ホウ素ナトリウムや水素化ホウ素リチウムの使用が好ましい。
【0012】
ボラン形成のために水素化ホウ素化合物とともに使用されるルイス酸としては、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体のような三フッ化ホウ素の錯体;クロロトリメチルシラン;マグネシウム、アルミニウム、スカンジウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、ハフニウム、鉛、ビスマスなどの金属のハロゲン化物;これら金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩などを例示することができる。これらの中では、とくに三フッ化ホウ素の錯体やクロロトリメチルシランの使用が好ましい。
【0013】
ボラン系還元剤としてボラン錯体を使用する場合、9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物1モル当たり、ボラン錯体を2〜10モル、好ましくは2.5〜5モルの割合で使用するのが好ましい。またボラン系還元剤として水素化ホウ素化合物とルイス酸を使用する場合、9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物1モル当たり、水素化ホウ素化合物を2〜10モル、好ましくは2.5〜5モル、ルイス酸を2〜10モル、好ましくは2.5〜5モルの割合で使用するのがよい。
【0014】
9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物の還元に際しては、溶媒を使用することが好ましい。使用可能な溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンのようなエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどの塩素化炭化水素系溶媒などを例示することができるが、とくにテトラヒドロフランの使用が好ましい。好適な溶媒の使用量は、使用する還元剤の種類によっても異なるが、9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物1重量部に対し、5〜30重量部、好ましくは5〜20重量部である。
【0015】
還元反応は、種々の方法によって行うことができる。例えば、還元剤として、ボラン錯体を使用する場合、反応容器に溶媒及び9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物を仕込み、ボラン錯体を滴下することによって行うことができる。また還元剤として水素化ホウ素化合物とルイス酸を使用する場合、反応容器に溶媒、9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物及び水素化ホウ素化合物を仕込み、ルイス酸を滴下することによって行うことができる。また水素化ホウ素リチウムとクロロトリメチルシランを使用する場合には、反応容器に溶媒と水素化ホウ素リチウムを仕込み、さらにクロロトリメチルシランを添加して塩化リチウムの沈殿を確認した後、9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物を滴下する方法によっても行うことができる。
【0016】
還元反応は、通常、20〜60℃、好ましくは30〜50℃の範囲で行われる。また反応時間は原料の種類や反応温度などによっても異なるが、1〜20時間の範囲が一般的である。反応終了後は、常法によって目的とする9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物を単離することができる。例えば、反応液中の還元剤を失活させた後、酸の存在下で加熱還流し、さらに塩基性にしてから溶剤抽出し、溶剤を留去することによって、粗製の9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物を単離することができる。必要に応じ、これを蒸留、再結晶、クロマトグラフィなどに付することによって精製することができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。尚、実施例における分析は、下記条件の高速液体クロマトグラフィにより実施した。
測定条件
機器:日本分光800
カラム:Inertsil ODS−2 長さ150mm、内径4.6mm
分析サンプル調製法:約50mgを50mlのジクロロメタンに希釈
注入量:5μg
溶離液:(メタノール10%+0.1%リン酸水溶液90%)5分保持
15分かけて
(メタノール45%+0.1%リン酸水溶液55%)
10分かけて
(メタノール80%+0.1%リン酸水溶液20%)
流量:1ml/分
検出器:UV(254nm)
定量法:ピークー面百分率法で算出
(目的物のモル×面百値/原料のモル×面百値)×100
【0018】
[実施例1]
予めガラス製反応容器を窒素ガスで完全に置換しておき、そこにテトラヒドロフラン98g、9,9−ビス(シアノエチル)フルオレン8.2g(30.0ミリモル)及び水素化ホウ素ナトリウム1.9g(89.3ミリモル)を仕込み、この中に氷冷下で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体12.4g(87.4ミリモル)を30分かけて滴下した。30分後、反応液は47℃に上昇した。さらに1時間後、反応液がゲル化したので、テトラヒドロフラン102gを加え、5時間保持した。反応終了後、メタノール170g中に、反応液を30分かけて滴下し、次いで減圧濃縮した。続いて得られた粗9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレンに、メタノール43g及び35%塩酸8gを加え、2時間加熱還流を行い、さらに減圧濃縮した。その後、水60gを加え、トルエン56gにより70℃で洗浄した後、50%NaOH水溶液10gでpHを13.6とし、トルエン68g及び56gにより、70℃で2回抽出した。得られたトルエン抽出液を、水68g、56g、143g及び75gにより70℃で4回洗浄した後、減圧濃縮し、残渣を70℃で真空乾燥することにより、一次精製粗9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレン5.7g(純度83.9%、収率68%)を得た。これにエタノール19g及び35%塩酸10gを加え、これを減圧濃縮することで9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレン塩酸塩とし、これをエタノール12g及び水3gにより80℃で再結晶を行い、9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレン塩酸塩5.1gを得た。この9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレン塩酸塩に、水11g及び50%NaOH水溶液3gを加え、pH12.2となし、さらにトルエン21gにより、70℃で抽出した。得られたトルエン溶液を、各回、水13gを用いて、70℃で4回洗浄した。トルエン溶液を減圧濃縮し、残渣を真空乾燥することにより、9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレン3.6g(純度95.2%、収率43%)を得た。
【0019】
[実施例2]
予めガラス製反応容器を窒素ガスで完全に置換しておき、水素化ホウ素リチウム2.6g(117.6ミリモル)を仕込んだ。そこに氷冷下で、テトラヒドロフラン61g及びクロロトリメチルシラン25.6g(235.3ミリモル)を仕込み、塩化リチウムの沈殿を確認した後、テトラヒドロフラン30gに溶かした9,9−ビス(シアノエチル)フルオレン8.0g(29.3ミリモル)を20分かけて滴下した。30℃で10時間保持した。反応終了後、メタノール221g中に、反応液を30分かけて滴下し、次いで減圧濃縮した。続いて得られた粗9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレンに、メタノール42g及び35%塩酸8gを加え、2時間加熱還流を行い、さらに減圧濃縮した。その後、水83gを加え、トルエン78gにより70℃で洗浄した後、50%NaOH水溶液9gでpHを12.4とし、トルエン68g及び80gにより、70℃で2回抽出した。得られたトルエン抽出液を、水100g、80g及び83gにより70℃で3回洗浄した後、減圧濃縮し、残渣を70℃で真空乾燥することにより、融点(DSCによる)が93.2℃の一次精製粗9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレン6.3g(純度86.6%、収率76%)を得た。構造は、図1に示すH−NMRスペクトルにより確認した。
H−NMR(CDCl):δ(ppm) 0.71−0.87(4H,m,J=8.0Hz,J=4.0Hz,−CHCHCHNH)、0.87(4H,brs,
−CHCHCHNH)、2.02(4H,dt,J=4.0Hz,−CHCHCHNH)、2.41(4H,t,J=8.0Hz,−CHCHCHNH)、7.26−7.71(8H,arom)
【0020】
[参考例]
予めガラス製反応容器を窒素ガスで完全に置換しておき、2,7−ジブロモフルオレン16.0g(49.3ミリモル)、ジオキサン110g、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド70mg(0.31ミリモル)及び15%NaOH水溶液2.0gを仕込み、そこへ、室温下でアクリロニトリル6.0g(113.6ミリモル)を10分かけて滴下した。30分保持後、ヘプタン80gを添加することにより析出した結晶を濾別し、メタノール132gで洗浄することにより、2,7−ジブロモ−9,9−ビス(シアノエチル)フルオレン20.0g(純度98.1%、収率90.0%)を得た。
【0021】
[実施例3]
予めガラス製反応容器を窒素ガスで完全に置換しておき、テトラヒドロフラン98g及び2,7−ジブロモ−9,9−ビス(シアノエチル)フルオレン10.3g(23.9ミリモル)を仕込み、ここに1モル/Lのボラン−テトラヒドロフラン錯体(テトラヒドロフラン溶液)85.9g(95.7ミリモル)を30分かけて滴下した。30分後、反応液は46℃に上昇しており、これをさらに17時間保持した。反応終了後、メタノール203g中に、反応液を30分かけて滴下し、次いで減圧濃縮した。続いて得られた粗2,7−ジブロモ−9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレンに、メタノール32g及び35%塩酸6gを加え、3時間加熱還流を行い、さらに減圧濃縮した。その後、水79gを加え、トルエン80gにより70℃で洗浄した後、50%NaOH水溶液11gでpHを11.4とし、トルエン84g及び82gにより、70℃で2回抽出した。得られたトルエン抽出液を、水96g、94g、96g及び94gにより70℃で4回洗浄した後、減圧濃縮し、残渣を70℃で真空乾燥することにより、一次精製2,7−ジブロモ−9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレン20.0g(純度98.1%、収率90.0%)を得た。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例2で得られた9,9−ビス(アミノプロピル)フルオレンのH−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、Xは水素、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す)で示される9,9−ビス(シアノアルキル)フルオレン化合物を、ボラン系還元剤を用いて還元することを特徴とする、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R及びXは上記と同じ)で表される9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物の製造方法。
【請求項2】
ボラン系還元剤が、ボラン錯体である請求項1に記載の9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物の製造方法。
【請求項3】
ボラン系還元剤が、水素化ホウ素化合物とルイス酸により形成されたものである請求項1に記載の9,9−ビス(アミノアルキル)フルオレン化合物の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−246439(P2007−246439A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72041(P2006−72041)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】