説明

A重油組成物

【課題】燃焼性が高く、近年の高性能エンジンへの使用に耐え得り、冬期においてワックスによるフィルターの目詰まりを起こさず、かつ、常温においてスラッジによるフィルターの目詰まりを起こさないA重油組成物を提供すること。
【解決手段】FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油、流動接触分解軽油およびエキストラクトを用いて得られるA重油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A重油組成物に関する。更に詳しくは、近年の高性能エンジンへ十分な性能を持ち、優れた低温流動性を有し、かつ常温でのフィルター通油性能に優れるA重油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
A重油は、ボイラー等の外燃機器燃料、小型漁船や建設機械等の陸上輸送用以外のディーゼルエンジン機器燃料、ガスタービン機器燃料などとして広く用いられている。
A重油を用いる各種燃焼機器には、燃料油中の異物を除去する目的で、燃料系統に目開き5〜250μmのフィルターが設けられている。しかし、このような燃焼機器を冬季に使用すると、A重油から析出したワックスなどにより、フィルターの閉塞が起こりやすくなる。
一方、A重油には税法上10%残留炭素分が0.2質量%以上になるように残留炭素分付与基材を含有させている。しかしながら、従来より残留炭素付与基材に起因するスラッジにより燃料フィルターが閉塞し、燃料供給が不可能となる問題がしばしば生じており、特に近年の燃料フィルターの目開き微細化により、さらに大きな問題となっている。このため、スラッジにより燃料フィルターを閉塞させない、常温におけるフィルター通油性に優れるA重油の要望が高まっている。
【0003】
そこで、かかる問題を解決すべく、A重油の低温流動性などの低温性能を改善するための検討が行われており、重質油の配合、残渣油の増量、低温流動性向上剤の添加などの方法が提案されている(例えば、特許文献1、2及び非特許文献1を参照。)。
しかし、上述の各方法で得られるA重油はそれぞれ次の点で改善の余地があり、いずれもA重油として実用に供し得るには未だ十分とは言えない。すなわち、重質油の増配合はワックス析出点(曇り点)の悪化につながり、残渣油の増量は燃焼ガス中の煤塵量の増加の原因となり得るばかりか、他基材との溶解性が悪化し、常温時のスラッジ生成に伴うフィルター通油性が懸念される。また、低温流動性向上剤の性能は、使用基材との相性によるところが多く、単に添加するだけではA重油として充分な低温性能を得ることは困難である。
【特許文献1】特開平9−333583号公報
【特許文献2】特開平7−97581号公報
【非特許文献1】野村宏次,「舶用燃料の科学」,成山堂,1994年,p.164−166
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
A重油は、ボイラー燃料やディーゼルエンジン燃料として用いられているが、近年A重油に使用されるエンジンの高出力化及び低燃費化等に伴い、A重油としては、より高性能化の要望が年々高まっている。これら高性能エンジンの燃料としてA重油を用いた場合、着火性の悪化や、煤の発生が増大してバーナー及び炉内の清掃頻度が増えるといった燃焼性に関する問題が生じることがある。一方、A重油としては、ガソリンや灯油に比べ重質分をより多く含んでいるため、低温時のワックス析出が問題となることがある。低温時におけるワックス析出は、燃料系統中の夾雑物防止用のフィルターを閉塞させ、最悪の場合燃料供給が不可能となる恐れがある。低温時のワックス析出を抑える方法としては、流動性向上剤を添加する方法が一般的であるが、実際の厳しい冬期の使用条件下では充分な効果が発揮できないのが現状である。また、従来は低温時のフィルター目詰まり性の判断に、目詰まり点による試験が用いられてきた。この試験方法では流動性向上剤を添加することにより、低温流動性が改善されるが、この試験方法は試料油の冷却速度が急冷(約40℃/時間)であるため、実際の使用条件下とは大きく異なる。冷却速度が遅ければ遅いほど、析出するワックスが大きくなりフィルターの目詰まりを起こすことが知られており、目詰まり点による評価では不十分であることが分かっている。一般に、低温性能に優れたA重油は、燃焼性が悪くなる場合が多く、これら全ての性能を同時に満たすA重油が望まれている。また、残留炭素分付与用基材から起因されるスラッジにより、常温でも上記燃料系統中の夾雑物防止用のフィルターを閉塞させ、燃料供給が不可能となる問題がしばしば生じる。これを解決する方法として、残留炭素付与用基材から起因されるスラッジを溶解するために、A重油製品の芳香族分を多くすることが考えられる。しかし、A重油の芳香族分を多くすると、燃焼性が悪化する傾向がある。このように、低温性能、燃焼性、常温通油性能の全てを同時に満たすA重油は得られていない。本発明の目的は、近年の高性能エンジンへの使用に耐え得り、冬期においてワックスによるフィルターの目詰まりを起こさず、かつ常温においてスラッジによるフィルターの目詰まりを起こさないA重油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定の基材を組み合せて使用することにより、燃焼性が高く、冬期においてワックスによるフィルターの目詰まりを起こさず、かつ常温においてスラッジによるフィルターの目詰まりを起こさないことを見出し本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のA重油組成物は、FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックス水素化分解した軽油、流動接触分解軽油およびエキストラクトを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、燃焼性が高く、近年の高性能エンジンへの使用に耐え得り、冬期においてワックスによるフィルターの目詰まりを起こさず、かつ、常温においてスラッジによるフィルターの目詰まりを起こさないA重油組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のA重油組成物は、FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油、流動接触分解軽油およびエキストラクトから少なくとも構成される。
【0008】
本発明でいうFT合成で製造される軽油留分とは、水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガス(合成ガスと称する場合もある)に対してフィッシャートロプシュ(FT)反応を適用させて得られる軽油相当の液体留分のことを示す。
【0009】
本発明においてFT合成の原料となる混合ガスは、炭素を含有する物質を、酸素および/または水および/または二酸化炭素を酸化剤に用いて酸化し、更に必要に応じて水を用いたシフト反応により所定の水素および一酸化炭素濃度に調整して得られる。
炭素を含有する物質としては、天然ガス、石油液化ガス、メタンガス等の常温で気体となっている炭化水素からなるガス成分や、石油アスファルト、バイオマス、石炭、建材やゴミ等の廃棄物、汚泥、及び通常の方法では処理しがたい重質な原油、非在来型石油資源等を高温に晒すことで得られる混合ガスが一般的であるが、水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガスが得られる限りにおいては、その原料を限定するものではない。
【0010】
本発明でいうFT反応には金属触媒を用いる。好ましくは周期律表第8族の金属、例えば、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ニッケル、鉄等、更に好ましくは第8族第4周期の金属を活性触媒成分として用いる。また、これらの金属を適量混合した金属群を用いることもできる。これらの活性金属はシリカやアルミナ、チタニア、シリカアルミナなどの担体上に担持して得られる触媒の形態で使用することが一般的である。また、これら触媒に上記活性金属に加えて第2金属を組合せて使用することにより、触媒性能を向上させることもできる。第2金属としては、ナトリウム、リチウム、マグネシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の他に、ジルコニウム、ハフニウム、チタニウムなどが挙げられ、一酸化炭素の転化率向上やワックス生成量の指標となる連鎖成長確率(α)の増加など、目的に応じて適宜使用されている。
【0011】
本発明でいうFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油とは、FT反応により生成したパラフィンワックスを水素化分解することにより得られる炭化水素混合物のことを示す。
本発明でいう水素化分解では、触媒として固体酸性質を有する担体に水素化活性金属を担持したものが一般的であるが、同様の効果が得られる触媒であればその形態を何ら限定するものではない。
【0012】
固体酸性質を有する担体にはアモルファス系と結晶系のゼオライトがある。具体的にはアモルファス系のシリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニアとゼオライトのフォージャサイト型、ベータ型、MFI型、モルデナイト型などがある。好ましくはフォージャサイト型、ベータ型、MFI型、モルデナイト型のゼオライト、より好ましくはY型、ベータ型である。Y型は超安定化したものが好ましい。
【0013】
活性金属としては以下に示す2つの種類(活性金属Aタイプおよび活性金属Bタイプ)が好ましく用いられる。
活性金属Aタイプとしては主に周期律表第6A族および第8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属である。好ましくはNi、Co、Mo、Pt、PdおよびWから選ばれる少なくとも1種類の金属である。これらの金属からなる貴金属系触媒を使う際には、水素気流下において予備還元処理を施した後に用いることができる。一般的には水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
また活性金属Bタイプとしてはこれらの金属を組み合わせたものでよく、例えば、Pt−Pd、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−W、Ni−Co−Moなどが挙げられる。また、これらの金属からなる触媒を使う際には、予備硫化したのち使用するのが好ましい。
【0014】
金属源としては一般的な無機塩、錯塩化合物を用いることができ、担持方法としては含浸法、イオン交換法など通常の水素化触媒で用いられる担持方法のいずれの方法も用いることができる。また、複数の金属を担持する場合には混合溶液を用いて同時に担持してもよく、または単独溶液を用いて逐次担持してもよい。金属溶液は水溶液でもよく有機溶剤を用いてもよい。
【0015】
水素化分解を行う場合の反応温度は、通常200℃以上450℃以下であり、水素圧力は、通常1MPa以上20MPa以下である。液空間速度(LHSV)は、活性金属Aタイプ触媒の場合、通常0.1h−1以上10h−1以下であり、活性金属Bタイプ触の場合、通常0.3h−1以上3.5h―1以下である。また水素/油比は、活性金属Aタイプ触媒の場合、通常50NL/L以上1000NL/L以下であり、活性金属Bタイプ触の場合、通常150NL/L以上2000NL/L以下である。
【0016】
水素化分解装置はいかなる構成でもよく、反応塔は単独または複数を組み合わせてもよく、複数の反応塔の間に水素を追加注入してもよく、気液分離操作や硫化水素除去設備、水素化生成物を分留し、所望の留分を得るための蒸留塔を有していてもよい。
水素化分解装置の反応形式は、固定床方式をとりうる。水素は原料油に対して、向流または並流のいずれの形式をとることもでき、また、複数の反応塔を有し向流、並流を組み合わせた形式のものでもよい。一般的な形式としてはダウンフローであり、気液双並流形式がある。反応塔の中段には反応熱の除去、あるいは水素分圧を上げる目的で水素ガスをクエンチとして注入してもよい。
【0017】
本発明においては、FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油は、A重油基材として使用する。具体的には、その蒸留性状として、50容量%留出温度が250〜350℃であり、15℃の密度が750〜800kg/mの範囲である。
本発明におけるFT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油は、飽和分を90容量%以上、好ましくは95容量%以上含む。飽和分がこの範囲に満たない場合にはディーゼルエンジン用燃料として用いた場合に着火製が悪化するため好ましくない。
【0018】
また本発明のA重油組成物においては、A重油基材として流動接触分解軽油を使用することが必須である。
本発明における流動接触分解軽油とは、流動接触分解装置または残渣流動接触分解装置から得られる軽油留分のことを指す。具体的には、その蒸留性状として、50容量%留出温度が200〜300℃であり、15℃の密度が850〜900kg/mの範囲である留分が用いられる。
本発明における流動接触分解軽油は、芳香族分を50容量%以上含むものが好ましく、より好ましくは60容量%以上含むものである。芳香族分がこの範囲に満たない場合には残留炭素付与用基材や冬季間に添加する流動性向上剤の溶解性が悪化するため好ましくない。
【0019】
本発明のA重油組成物を構成するA重油基材としては、必須成分として、FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油、並びに流動接触分解軽油を使用するものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲で、他のA重油基材を配合することもできる。
かかるA重油基材としては、常圧蒸留装置より得られる直留軽油留分またはその脱硫軽油留分、直留灯油留分またはその脱硫灯油留分、水素化分解軽油、水素化分解灯油、残油脱硫軽油留分、水素化脱硫軽油留分または水素化精製軽油留分の抽出によりノルマルパラフィン分を除去した残分である脱ノルマルパラフィン軽油留分、重質軽油留分、減圧軽油を脱硫した軽油、流動接触分解灯油が挙げられる。
【0020】
本発明において用いるエキストラクトは、残留炭素分付与用基材として使用する。
本発明でいうエキストラクトとは、フルフラール等の溶剤を用いて潤滑油中の芳香族分を除く工程で副生する高芳香族分の油であり、具体的には、その性状として、15℃の密度が950〜1050kg/m3、100℃における動粘度が5〜100mm2/s、硫黄分が0.5〜5.0質量%である。
【0021】
本発明のA重油組成物は上記した通り、少なくとも、FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油、流動接触分解軽油およびエキストラクを含有することが必要である。
各成分の配合割合については特に制限はないが、その効果を十分に発揮させるためには、FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油をA重油組成物全量基準で20容量%以上使用することが好ましく、40容量%以上使用することがより好ましく、60容量%以上使用することがさらに好ましく、65容量%以上使用することが最も好ましい。
【0022】
また残留炭素付与用基材や冬季間に添加する流動性向上剤の溶解性を高めるため、A重油製品の芳香族分を多くすることが考えられる。その効果を十分に発揮させるためには、流動接触分解軽油は、A重油組成物全量基準で1容量%以上使用することが好ましく、5容量%以上使用することがより好ましく、10容量%以上使用することが最も好ましい。しかし、A重油の芳香族分を多くすると、燃焼性が悪化する傾向があるため、燃焼性を考慮すると50容量%以下で使用されることが好ましく、30容量%以下で使用されることがより好ましい。
【0023】
またエキストラクトは、残留炭素分についての免税条件を満たすために、通常A重油組成物全量基準で0.5容量%以上使用することがより好ましく、1容量%以上で使用されることがより好ましい。また、ドライスラッジによる常温でのフィルター目詰まり、低温流動性等を考慮すると、5容量%以下で使用されることが好ましく、3容量%以下で使用されることがより好ましい。
またその他の残留炭素付与用基材を併用して用いることもできる。かかるその他の残留炭素付与用基材としては、常圧残油、直脱残油、減圧残油、スラリー油等が挙げられ、これらの中の1種のみを使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0024】
本発明のA重油組成物のセタン指数は特については制限はないが、セタン指数は燃焼性の点から、58以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。本発明において、セタン指数はJIS K 2204−1992「軽油」に準拠して得られた値を表すものを意味している。つまり次の式によって算出する。
[セタン指数(C)=0.49083+1.06577(X)−0.0010522(X)2]
[X=97.833(logA)2+2.2088BlogA+0.01247B2−423.51logA−
4.7808B+419.59]
A:(9/5)[101.3kPa(760mmHg)における50%留出温度(℃)]+32
B:API度(101.3kPa(760mmHg)における50容量%留出温度(℃)は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」によって測定し、API度は、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」によって15℃の密度から換算して求める。)
【0025】
本発明のA重油組成物の曇り点については特に制限はないが、燃料系統中の夾雑物阻止用のフィルターを閉塞させる低温時のワックス析出を減少させる点から、0℃以下であることが好ましく、−2℃以下であることがより好ましく、−5℃以下であることがさらに好ましく、−10℃以下であることが最も好ましい。
【0026】
本発明のA重油組成物の流動点については特に制限はないが、低温時のワックス析出を減少させる点から、−15℃以下であることが好ましい。本発明において、曇り点及び流動点とは、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0027】
また、本発明のA重油組成物のCFPP(目詰まり点)については特に制限はないが、冬期においてワックスによるフィルター目詰まりの防止の点により優れることから、−15℃以下であることが好ましく、−18℃以下であることがより好ましく、−20℃以下であることが最も好ましい。本発明において、CFPPとは、JIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0028】
本発明の修正目詰まり点については特に制限はないが、冬期においてワックスによるフィルター目詰まりの防止の点により優れることから、9℃以下であることが好ましく、より好ましくは−12℃以下であることがより好ましい。修正目詰まり点が9℃より高い場合は、冬季にポンプやバーナーのフィルター閉塞が起こりやすくなるため好ましくない。なお、本発明でいう修正目詰まり点は、石油学会規格 JPI−5S−47−96「A重油の低温流動性試験方法」の解説に記載の修正法4で測定される値を意味する。
【0029】
また、本発明のA重油組成物の硫黄分、窒素分については特に制限はないが、排ガス中の有害物質を低減するには、硫黄分は0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることが最も好ましい。窒素分は0.02質量%以下であることが好ましく、0.015質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが最も好ましい。本発明において、硫黄分、窒素分とは、それぞれ、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」、JIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0030】
本発明のA重油組成物の10%残留炭素分は0.2重量%以上であり、好ましくは0.2〜1.0重量%である。この範囲より小さい場合、10%残留炭素分が0.2重量%以上というA重油の免税条件を満たさなくなる。また、10%残留炭素分が好ましい範囲より多くなった場合、色相が悪くなり商品のイメージが悪くなる、ドライスラッジが増え、常温でフィルターに目詰まりを起こしやすくなる、低温流動性に悪影響を及ぼす等の恐れがある。本発明において、10%残留炭素分とは、JIS K 2270「原油及び石油製品−残留炭素分試験方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0031】
また、本発明のA重油組成物の蒸留性状については何ら制限はないが、通常は下記性状を満たすものが好ましい。
蒸留初留点: 130〜210℃
10容量%留出温度(T10): 180〜260℃
50容量%留出温度(T50): 250〜330℃
90容量%留出温度(T90): 300〜380℃
本発明において、上記蒸留性状は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して得られる値を意味している。
【0032】
本発明のA重油組成物の動粘度については特に制限はないが、通常30℃で3〜5mm/s、50℃で2〜3.5mm/sであることが好ましい。本発明において、動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0033】
本発明のA重油組成物の引火点については特に制限はないが、通常50〜120℃であることが好ましい。本発明において、引火点とは、JIS K 2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0034】
本発明のA重油組成物の密度については特に制限はないが、通常800〜920kg/mであることが好ましい。本発明において、密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0035】
また、本発明のA重油組成物には、必要に応じて添加剤を配合することができる。ここでいう添加剤としては、セタン価向上剤、酸化防止剤、安定化剤、分散剤、金属不活性化剤、微生物殺菌剤、助燃剤、帯電防止剤、識別剤、着色剤等の各種添加剤が挙げられ、これら添加剤を適宜加えることができる。これらの中でも、冬期においてワックスによるフィルター目詰まりを防止する効果により優れることから、流動性向上剤を添加することが好ましい。流動性向上剤としては、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体等のポリマー型添加剤、油溶性分散剤型添加剤及びアルケルコハク酸等を用いることが出来る。また、流動性向上剤の添加量については何ら制限はないが、A重油組成物全量基準で0.001〜0.1容量%であることが好ましく、0.01〜0.05質量%であることがより好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【0037】
[実施例1,2及び比較例1〜3]
表1に示す性状を有する各基材(FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油、直留軽油、分解軽油、エキストラクト、常圧残油)を表2の各例に示すような容量比で混合し、実施例1、2及び比較例1〜3のA重油組成物を調製し、これら調整した各組成物の性状を表2に記載した。各試料油(各組成物)について、低温流動性性能評価、燃焼性性能評価及び常温通油性性能評価を下記の方法により行った。その結果を表3に記した。
【0038】
(低温流動性性能評価)
試料容器として、20Lペール缶を用意し、ペール缶の上面に試料吸引管を差し込む穴を設けた。穴の形成位置は、上面の中心と外周上の点とを結ぶ直線の中点とした。一方、試料吸引管として外径10mmの銅管を用意し、その一端をシリコンゴム管を介してフィルター(ネポン株式会社製、コードNo.120267)の入口に接続した。また、フィルターの出口を銅管を介して吸引ポンプに接続した。吸引ポンプは、通油量を1〜10L/hrの範囲内で調節可能なものを用いた。
次に、温度が20〜25℃の試料(A重油組成物)約15Lを上記のペール缶に入れ、ペール缶の上面の穴に試料吸引管付き蓋をした後、ペール缶とフィルターとを低温恒温槽内に収容し、ポンプを駆動させ、通油量が9.5±0.2L/hrとなるようにポンプ圧力を調整した。低温恒温槽としては、プログラム温度調節機能を備え、温度制度±0.5℃以内で−30℃以下まで冷却可能な恒温槽を用いた。ペール缶とフィルターとを低温恒温槽に収容した後、低温恒温槽内を所定の温度プロファイルで冷却し、吸引ポンプを駆動させた。より具体的には、試料の曇り点より8℃高い温度から冷却速度1℃/hrで所定の温度まで冷却した。その温度で3時間保持し、圧力計で圧力を測定して通油限界を判定した。通油限界の判定は、保持温度で60分間通油中に差圧が33kPa(250mmHg)以下である場合を合格、33kPaを超えた場合を不合格とし、不合格となるまで1℃間隔で保持温度を低くして試験を繰り返した。 判定が不合格となった最高温度(目詰まり温度)を低温性能の評価の指標とした。なお、試料は試験ごとに新油に取り替えた。目詰まり温度が−9℃以下を良好(○)、−8℃以上を不良(×)と判断した。得られた結果を表3に示す。
【0039】
(燃焼性性能評価)
以下の方法により、着火遅れを測定することにより燃焼性の性能評価を行った。着火遅れは、エンジン性能、排ガスに悪影響を与え、特に近年の高性能エンジンにおけるトラブルの主要原因となる。燃焼室の容積が1リットルである燃料着火性試験機を用い、圧力45バーレル、温度450℃の空気中に燃料を噴射して、噴射から着火するまでの時間を測定した。その結果を表2に示した。
【0040】
(常温通油性性能評価)
試料容器として、20Lペール缶を用意し、ペール缶の上面に試料吸引管を差し込む穴を設けた。穴の形成位置は、上面の中心と外周上の点とを結ぶ直線の中点とした。一方、試料吸引管として外径10mmの銅管を用意し、その一端をシリコンゴム管を介してフィルター(日本濾過器株式会社製フューエルフィルタ、型番276237、通油面積2.0±0.1cm)の入口に接続した。また、フィルターの出口を銅管を介して吸引ポンプに接続した。吸引ポンプは、通油量を1〜10L/hrの範囲内で調節可能なものを用いた。次に、温度が20〜25℃の試料(A重油組成物)約10Lを上記のペール缶に入れ、ペール缶の上面の穴に試料吸引管付き蓋をした後、ペール缶とフィルターとを低温恒温槽内に収容し、ポンプを駆動させ、通油量が5.0±0.2L/hrとなるようにポンプ圧力を調節した。低温恒温槽としては、プログラム温度調節機能を備え、温度精度±0.5℃以内で調節可能な恒温槽を用いた。ペール缶とフィルターとを低温恒温槽に収容した後、低温恒温槽内を所定の温度プロファイルで冷却し、吸引ポンプを駆動させた。より具体的には、初期温度20℃で2時間保持した後、ポンプを駆動して開始する。圧力計で圧力を測定して通油限界を判定した。通油限界の判定は、保持温度で差圧が26.6kPa(200mmHg)に達する時間を測定した。通油性が悪い場合は、フィルター目詰まりを起こし、短時間で差圧が上昇するのに対し、通油性の良好なA重油は差圧が上昇するまでの時間が長い。60分経過しても26.6kPaに達しない場合を良好(○)、60分未満で26.6kPaに達した場合を不良(×)と判断した。得られた結果を表3に示す。
【0041】
表3の結果から明らかなように、本発明にかかる実施例1および2のA重油組成物は、いずれも着火性がよく燃焼性に優れ、近年の高性能エンジンへ十分な性能を持ち、優れた低温流動性を有し、且つ常温でのフィルター通油性能に優れることが分かる。これに対して、流動接触分解軽油を含まない比較例1は、流動性向上剤の効果が発揮されないため低温流動性が悪く、FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油を含まない比較例2は、低温流動性及び燃焼性が悪く、エキストラクトを含まない比較例3は、常温通油性が悪い。
【0042】
【表1】

【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
FT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油、流動接触分解軽油およびエキストラクトを用いて得られるA重油組成物。
【請求項2】
50容量%留出温度が250〜350℃のFT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油の合計量をA重油組成物全量基準で20容量%以上配合することを特徴とする請求項1に記載のA重油組成物。
【請求項3】
飽和分を90容量%以上含むFT合成で製造される軽油留分およびFT合成で製造されるFTワックスを水素化分解した軽油の合計量をA重油組成物全量基準で20容量%以上配合することを特徴とする請求項1に記載のA重油組成物。
【請求項4】
50容量%留出温度が200〜300℃の流動接触分解軽油をA重油組成物全量基準で1容量%以上配合することを特徴とする請求項1に記載のA重油組成物。
【請求項5】
芳香族分を50容量%以上含む流動接触分解軽油をA重油組成物全量基準で1容量%以上配合することを特徴とする請求項1に記載のA重油組成物。


【公開番号】特開2007−269926(P2007−269926A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95734(P2006−95734)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】