説明

ADPまたは酵素反応でADPを発生する特定物質のドライケミストリーによる測定方法およびそれに用いる検査器具

【課題】本発明の課題は、ドライケミストリーにより試料中のADPを正確に測定する方法およびそれに使用する検査器具を提供することにある
【解決手段】試料中のADPにADP依存性ヘキソキナーゼ等を用いて酵素反応をさせる際、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを共存させて、ドライケミストリーにより測定することにより、ブランク値が減少し、かつ、検量線の傾きが小さくなり、かつ、結果的にADPの測定可能な濃度を広くし、正確に測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のADPまたは酵素反応でADPを発生する特定物質をドライケミストリーによる測定する方法およびそれに用いる検査器具に関する。
【背景技術】
【0002】
ADPの測定方法は、試料中にあらかじめ存在するADPを測定する方法、酵素反応によりADPを生成する特定物質を測定する方法等に用いるため、種々の方法が開発されてきている(例えば、特許文献1,特許文献2)。
例えば、試料中のADPにホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼとを作用させ、次いで、生成するピルビン酸を補酵素としてNADH存在下で乳酸脱水素酵素を作用させてNADを生成させ、波長340nmの吸光度をもつNADHの減少量からADPを測定する方法が知られている(非特許文献1)。しかしながらこの方法は、検体中のADPが多くなるにつれて吸光度が減少する測定方法なので、測定できるADPの上限値が試薬中のNADHにより制限されたりする場合がある。
さらに、試料中のADPに、マグネシウムイオン存在下でグルコースとADP依存性ヘキソキナーゼを作用させ、次いで、生成するグルコース−6−リン酸をNAD(P)存在下でグルコース−6−リン酸脱水素酵素を作用させ、生成するNAD(P)Hの量から、ADPを測定する方法が知られている(特許文献2)。この方法は、NAD(P)Hの生成量に基づいてADPを測定するので測定限界が高く、また分子吸光係数が明確になっているNAD(P)Hを測定することから測定値の信頼性が高く、試料中の還元物質などの影響を受けないという利点を有し、従って、生体試料中のADPを簡便にして高精度で測定することができるとされている(特許文献2)。
【0003】
しかし、これらの測定方法は、ADPを含む液状流体試料に液状の試薬を加えて、その混合物を紫外分光光度計で測定するものであり、そのため、高価な大型自動分析装置を使う必要がある。そのため、小さい病院でもADPやADPを発生する特定物質を測定できるようにするため、ドライケミストリーで生体試料中のADPや特定物質を測定する方法が望まれている。
他方、特許文献3には、第1の平面および第2の平面から構成される反応室であって、それらの平面には試薬が付着された反応室に、液状流体の試料を導入して、液状流体の試料中の測定対象物質と、該試料中に溶解した試薬とを反応させて測定対象物質を、所謂、ドライケミストリーの技術により測定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−285297号公報
【特許文献2】特開平9−234098号公報
【特許文献3】特開2007−248101号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Appl.Biochem.,1985,7(4−5),303−310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高濃度で試料中に存在するADPまたは酵素反応によりADPを発生する特定物質をドライケミストリーの技術により正確に測定する方法およびそれに用いる検査器具を提供することにある。更には、可視部での吸光度に基づく測定が可能で、ドライケミストリーの分野や小さい病院でも測定できる可視分光光度計を用いた装置に適用でき、かつ、高濃度で試料中に存在するADPまたは酵素反応によりADPを発生する特定物質を正確に測定する方法およびそれに用いる測定器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定物質を酵素反応に付しADPを発生させ、次いで、生成するADPに、ADP依存性ヘキソキナーゼ反応を行い、ADPを正確に測定できるとされているADPの測定方法を、補酵素としてチオNAD(P)を用いてドライケミストリーにより高濃度の尿素等の特定物質の測定に用いることを検討した。しかし、この方法では、試料中の特定物質が高濃度になったり、補酵素としてチオNAD(P)を用いて測定したりすると、検量線の傾きが極めて大きくなり、特定物質を測定できる濃度範囲が極端に狭くなる問題があり、実用性に問題が発生する場合があることを発見した。さらに、その問題を解決するため種々検討した結果、ADP依存性ヘキソキナーゼ等を用いて酵素反応をさせる際、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを共存させて、ドライケミストリーにより測定すると、意外にもブランク値が減少し、かつ、検量線の傾きが小さくなり、かつ、結果的にADPや特定物質の測定可能な濃度を広くし、正確に測定できることを見出した。本発明は、かかる経過によりなされたものである。
【0008】
従って、本発明は、液状流体試料中のADP、または酵素反応によりADPを発生する液状流体試料中の特定物質を測定する方法であって、該液状流体試料と試薬とを反応させる検査器具を用いた測定方法であり、
用いる検査器具が、少なくとも反応室とその反応室を構成するための隣接する面を有し、その面の少なくとも一部に試薬が付着されており、かつ、試薬が、液状流体試料中のADPを測定するための酵素反応を行うための試薬、あるいは、酵素反応によりADPを発生する液状流体試料中の特定物質を測定するための試薬であり、ADPを測定する際、同時に、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを共存させ、かつ、液状流体試料を反応室に供給し、試薬が付着された面と接触させることにより、付着された試薬を液状流体試料中に溶解させて液状流体試料と混合し、ADPまたは特定物質と試薬とによる酵素反応を液状で行い、その液状流体試料中のADPまたは特定物質を測定する、測定方法に関するものである。
更に、本発明は、液状流体試料中のADP、または酵素反応によりADPを発生する液状流体試料中の特定物質を測定するための検査器具であって、
少なくとも反応室とその反応室を構成するための隣接する面を有し、その面の少なくとも一部に試薬が付着されており、かつ、試薬が、液状流体試料中のADPを測定するための酵素反応を行うための試薬、あるいは、酵素反応によりADPを発生する試料中の特定物質を測定するための試薬であり、ADPを測定する際、同時に、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを共存させ、かつ、液状流体試料を反応室に供給し、試薬が付着された面と接触させることにより、付着された試薬を液状流体試料中に溶解させて液状流体試料と混合し、ADPまたは特定物質および試薬による酵素反応を液状で行い、その液状流体試料中のADPまたは特定物質を測定するための、検査器具に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、試料中のADPまたは酵素反応によりADPを生成する特定物質をドライケミストリーにより測定する際、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼとを共存させることにより、検量線の傾きが小さく、かつ、ブランク値を減少させ、その結果、広範囲のADPや特定物質の濃度を正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明で用いる検査器具の一例を示す縦断面図である。
【図2】図1の検査器具の分解斜視図である。
【図3】本発明で用いる検査器具における測定室および流路の関係を示す図である。
【図4】比較例1、実施例1、実施例2で各種濃度の尿素窒素(BUN)を測定したときの吸光度の値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の測定方法は、ドライケミストリーの技術によるものである。なお、本明細書においては、ドライケミストリーとは、特定の化学反応または酵素反応を起こす試薬が乾燥状態で検査器具において用意されていて、そこに液体状の試料が添加されると、試料中の水分を溶媒として試薬が溶解されて、液体状の試料と溶解された試薬が検査器具の反応室中で反応が進行するものをいうものとする。
そのための検査器具としては、例えば、少なくとも反応室と、ADPや特定物質を測定するための試薬が付着・乾燥された面(例えば支持体で構成される面またはフィルム面)とを有していればよく、その他として、例えば、試料供給部と、前記供給部に供給された試料を前記反応室までの移送するための流路を備えていることが好ましい。試薬は、反応室を構成する面に付着されているのが好ましい。このような装置を用いて、液状流体試料を検査器具に導入することにより、付着された試薬を液体としての試料により溶解させて試料と混合し、ADPまたは特定物質を測定するための酵素反応を反応室中で液状にて行い、その試料中のADPまたは特定物質を測定できる。このようなドライケミストリーによる測定の場合、付着された試薬を試料で溶解させるため、液状試薬で試料を測定する場合に比べ、試料は、試薬に対し多量に使うため、ブランクの上昇を起こしやすくその結果測定範囲が著しく狭くなる。そのため、ドライケミストリーによる測定の場合、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼとを共存させる本発明の測定方法により、検量線の傾きが小さく、かつ、ブランク値を減少させ、その結果、広範囲のADPや特定物質の濃度を正確に測定できるため、本発明の測定方法が特に好適である。
【0012】
このようなADPまたは特定物質を測定する方法においては、用いる検査器具が、少なくとも反応室とその反応室を構成するための隣接する面を有し、その面の少なくとも一部に試薬が付着されており、かつ、試薬が、液状流体試料中のADPを測定するための酵素反応を行うための試薬、あるいは、酵素反応によりADPを発生する液状流体試料中の特定物質を測定するための試薬であり、ADPを測定する際、同時に、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを共存させ、かつ、液状流体試料を反応室に供給し、試薬が付着された面と接触させることにより、付着された試薬を液状流体試料中に溶解させて液状流体試料と混合し、ADPまたは特定物質と試薬とによる酵素反応を液状で行い、その液状流体試料中のADPまたは特定物質を測定できる。
【0013】
本発明に用いる検査器具は、例えば、液状流体試料を供給するための供給部、検査器具内に設けられ、液状流体試料を試薬と反応させる反応室、供給部に供給された液状流体試料を反応室までの移送するための流路を備え、流路および反応室は、通気性があり且つ非通液状性の多孔性膜を介して検査器具外部と接続されており、反応室は、第1の平面およびこれに対向する第2の平面、第1の平面および第2の平面それぞれに接し、第1の平面と第2の平面との間に空間を形成する第3の面で形成されており、流路と反応室とは、第3の面に連結孔が形成されることにより、連結されており、平面の少なくとも一つの面に試薬が付着させられており、供給部に供給された液状流体試料を供給部に設けられた加圧部によって加圧して、反応室内に移送する、検査器具であることが好ましい。
試薬の付着は、第1の平面および第2の平面のいずれか一方に全ての試薬が付着されていてもよく、また、試薬の一部がいずれかの面に、その他の試薬が他の面に付着されていてもよい。
【0014】
本発明に用いられる試料としては、ADPまたは特定物質を含む可能性のあるサンプル、好ましくは液体であれば特に限定しないが、全血、血清、血漿、尿等の生体試料、または、それらのモデルサンプルが好ましい。
本発明において、特定物質とは、酵素反応によりADPを中間的にまたは最終的に発生させうる物質をいう。
本発明において、ADPとは、アデノシン二リン酸(Adenosine diphosphate)をいう。
本明細書において、NAD(P)類とは、例えば、NAD、NADP、チオNAD、チオNADPのいずれかを意味するが、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)反応に用いる補酵素として働くそれらに類似した構造、例えば、リング骨格が同じで補酵素として機能を有することが知られている化合物でもよい。
本明細書において、NADとはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを意味し、NADPとはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートを意味し、チオNADとはチオニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを意味し、チオNADPとはチオニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートを意味する。
本明細書において、NAD(P)H類とは、NAD(P)類の対応する還元型であり、例えば、NAD(P)類がNAD、NADP、チオNAD、チオNADPのときは、それぞれ、NADH、NADPH、チオNADH、チオNADPHを意味する。
本明細書において、NAD(P)とは、NADまたはNADPを意味し、NAD(P)Hとは、NAD(P)の対応する還元型を意味し、NAD(P)がNAD、NADPのときは、それぞれ、NADH、NADPHを意味する。
本明細書において、チオNAD(P)とは、チオNADまたはチオNADPを意味し、チオNAD(P)Hとは、チオNAD(P)の対応する還元型を意味し、チオNAD(P)がチオNAD、チオNADPのときは、それぞれ、チオNADH、チオNADPHを意味する。
【0015】
本発明のADPの測定方法においては、例えば、下記反応式(本明細書ではこの反応をADP依存性ヘキソキナーゼ反応と記載することもある)のように、ADPに、グルコース、ADP依存性ヘキソキナーゼ、および金属イオンを作用させてグルコース−6−リン酸(G6P)およびAMP(Adenosine monophosphate)を生成させ、その生成するグルコース−6−リン酸またはAMPを測定してADPを測定する方法が好ましい。
【化1】

【0016】
金属イオンとしては、マグネシウムイオン、コバルトイオン、マンガンイオンなどが好ましい。
【0017】
本発明において、生成するグルコース−6−リン酸またはAMPを測定する場合、下記反応式のように、グルコース−6−リン酸に、G6PDHとNAD(P)類を作用させグルコノラクトン−6−リン酸(6−GL)とNAD(P)H類を発生させ、そのNAD(P)H類を測定することにより行うことが好ましい。
【化2】

【0018】
本発明において、補酵素のNAD(P)類としてNAD(P)を用いる場合は、生成するNAD(P)Hに由来する340nm付近、例えば、波長330〜350nmの吸光度の増加量からADPを測定することができる。
本発明において、補酵素のNAD(P)類としてチオNAD(P)を用いる場合は、生成するチオNAD(P)Hに由来する405nm付近、例えば、波長390〜415nmの吸光度の増加量からADPを測定することができる。本発明においてこのチオNAD(P)を用いることは、安価で入手しやすい可視分光光度計を用いて測定できる点、ADPの測定領域を著しく改善できる点で好適である。
また、ADPの測定領域をさらに広くするため、補酵素としてチオNAD(P)とNAD(P)を共存させてADP依存性ヘキソキナーゼ反応を行い、NAD(P)HとチオNAD(P)Hを発生させ、生成したチオNAD(P)H由来の波長405nm付近の吸光度の増加を測定することによりADPを測定することが好ましい。
この場合、用いるNAD(P)の量は特に限定しないが、検量線の傾きを適度に調整するため、用いるチオNAD(P)の量の0.3〜30倍モル数が好ましく、0.5〜20倍モル数がさらに好ましい。
【0019】
本発明において、生成するAMPを測定するときには、例えば、そのAMPにミオアデニル酸デアミナーゼを作用させ、生成するアンモニアに、NAD(P)H類およびα−ケトグルタール酸の存在下、グルタミン酸脱水素酵素を作用させて、減少するNAD(P)H類を、例えば、適当な波長、すなわち、上述したNAD(P)H類を測定するために適当な波長の吸光度の減少により測定することにより、AMPを測定することができる。
【0020】
本発明においてADPを測定する場合、例えば、試料中のADPに、グルコース、ADP依存性ヘキソキナーゼ、および金属イオンを作用させる際、同時に、下記反応式のように、ホスホエノールピルビン酸(PEP)とピルビン酸キナーゼ(PK)を共存させてその試料中のADPと反応させる。
【化3】

【0021】
この場合、用いるピルビン酸キナーゼの量は、用いるADP依存性ヘキソキナーゼの1/20〜20倍KUが好ましい。また、ホスホエノールピルビン酸の量は、例えば、測定対象の想定されるADPの1/20〜20倍モル数が好ましく、1/10〜10倍モル数が更に好ましく、1/5〜5倍モル数が特に好ましい。
【0022】
本発明のADPの測定方法は、例えば、グルコース、ADP依存性ヘキソキナーゼ、および金属イオン、生成するグルコース−6−リン酸またはAMPを測定するための成分、ホスホエノールピルビン酸、およびピルビン酸キナーゼを含む、ADPを測定するための試薬を、検査器具の反応室を構成するための隣接する面に付着させ、液状流体試料により、該試薬を溶解させて、反応室中で、例えば、20〜40℃、好ましくは37℃付近で反応させることにより実施できる。
ADPを測定するための試薬には、界面活性剤、緩衝剤を適宜、加えてもよい。ADPを測定するための試薬は、その一部を、検査器具の反応室を構成する第1の平面に付着させ、その他の試薬を、第1の平面に対向する第2の平面に付着させてもよい。
【0023】
さらに、本発明のADPの測定方法は、試料中の特定物質を酵素反応に付しADPを発生させ、そのADPを上記の測定方法に付し、そのADPの量を測定して、試料中の特定物質を測定する、特定物質の測定方法に応用できる。
【0024】
本発明において、特定物質とは、酵素反応によりADPを発生させうる物質であれば特に限定しないが、尿素、クレアチン、コリン等を例示することができる。
特定物質として尿素を測定するときには、酵素反応として、試料中の尿素にATP、マグネシウムイオン、カリウムイオン、炭酸水素イオンおよびウレアアミドリアーゼを作用させてADPを中間的に発生させてそのADPを本発明のADPの測定方法に付することにより、尿素を測定することができる。尿素を測定する場合に用いるウレアアミドリアーゼ反応の反応式を下記に示す。
【化4】

【0025】
特定物質としてクレアチンを測定するときには、酵素反応として、試料中のクレアチンにATP、マグネシウムイオンとクレアチンキナーゼを作用させてADPを発生させてそのADPを本発明のADPの測定方法に付することにより、クレアチンを測定することができる。そのクレアチンキナーゼ反応の反応式を下記に示す。
【化5】

【0026】
特定物質としてコリンを測定するときには、酵素反応として、試料中のコリンにATP、マグネシウムイオン、コリンキナーゼを作用させてADPを中間的に発生させてそのADPを本発明のADPの測定方法に付することにより、コリンを測定することができる。
【化6】

【0027】
このように、本発明の特定物質の測定方法の場合、試料中の特定物質を酵素反応に付しADPを発生させるには、一般的に、ATPをADPに変換するための酵素、その酵素の基質及びATPを含む試薬を用いることが一般的である。この場合、ホスホエノールピルビン酸の量は、例えば、ATPの1/20〜20倍モル数が好ましく、1/10〜10倍モル数が更に好ましく、1/5〜5倍モル数が特に好ましい。また、本発明の特定物質の測定方法の場合、用いるピルビン酸キナーゼの量は、用いるADP依存性ヘキソキナーゼの1/20〜20倍KUが好ましい。
本発明で特定物質を測定する場合、特定物質を酵素反応によりADPを発生するための成分、グルコース、ADP依存性ヘキソキナーゼ、および金属イオン、生成するグルコース−6−リン酸またはAMPを測定するための成分、ホスホエノールピルビン酸、およびピルビン酸キナーゼを含む、特定物質を測定するための試薬を検査器具の反応室を構成する隣接する面に付着させ、液状流体試料により、該試薬を溶解させて、反応室中で、例えば、20〜40℃、好ましくは37℃付近で反応させることにより実施できる。
特定物質を測定するための試薬には、界面活性剤、緩衝剤を適宜、加えてもよい。特定物質を測定するための試薬は、その一部を、検査器具の反応室を構成する第1の平面に付着させ、その他の試薬を、第1の平面に対向する第2の平面に付着させてもよい。
特定物質を測定するための試薬は、一つの試薬にまとめて、検査器具の反応室を構成する隣接する面に付着させてもよいが、試薬の安定性等を考慮したうえで二試薬に分けて、第1の平面および第2の平面にそれぞれ付着させることが好ましい。
【0028】
特定物質として尿素を測定する場合、例えば、第一試薬にグルコース、カリウムイオン、ATP、ホスホエノールピルビン酸を含ませ、第2試薬にマグネシウムイオン、NAD(P)類、ATP依存性ヘキソキナーゼ、ウレアアミドリアーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ピルビン酸キナーゼを含ませることができる。試薬には、界面活性剤、緩衝剤を適宜、加えてもよい。
このような第一試薬と第二試薬とを用い、測定対象として、特定物質を測定するときは、例えば、次のように行うことができる。特定物質を含む液状流体試料を、前記検査器具における、試料を供給するための供給部に導入し、液状流体試料を、移送するための前記流路を通して前記反応室へ導き、液状流体試料中に、反応室を構成する第1の平面およびこれに対向する第2の平面のいずれかにそれぞれ付着した第一試薬と第二試薬とを溶解させて、0.5〜15分酵素反応を行い、酵素反応後に、反応室に光を照射して、得られる反応液の透過光または反射光由来の吸光度を405nmで測定する。あらかじめ作成した検量線との測定値との比較により、試料中の特定物質の濃度を測定できる。
【0029】
以下に、図面に基づいて、本発明の測定方法およびそれに用いる検査器具について、更に詳細に説明する。
本発明にかかる検査器具の好ましい一実施形態として検査器具100を図面に基づいて説明する。図1に検査器具100の縦断面図を、図2に血液検査器具100の分解斜視図を示す。検査器具100は、図2に示すように、上下方向に積層された4つの第1〜第4プレート1〜4を備えている。最上層側の第1プレート1には、円形の検体供給口11が形成されている。検体供給口11の上部周囲には堰12が設けられている。この堰12には、有底円筒形状の栓体5が着脱可能に設けられている。
【0030】
第1プレート1の下方に配置する第2プレート2には、供給口11との対向部位に円形状の凹入部20が設けられている。凹入部20の内部には円形状の複数のリブ21が同芯状および放射状に形成されている(図1参照)。リブ21は、血球を分離除去する非対称孔径膜からなる血球分離膜6を支持する。
【0031】
第2プレートには、リブ21の中心部に上下方向に延びる貫通孔81が形成されている(図1参照)。第3プレート3は、所定距離離れた位置に2つの円形の貫通部71、82を有している。貫通部71、82間は、直線状の貫通溝83で連結されている(図1参照)。貫通部82は、第2プレート2と重ね合わせた状態で、貫通孔81とほぼ同心の位置に設けられる。貫通孔81、貫通部82及び溝83により後述するように、液状流体試料Aを反応室7へ導く流路8(液状流体Aの移送用流路)が形成される。
【0032】
また、第2プレート2のうち,第3プレート3と接する面には、貫通部71に対向する位置には、貫通孔が形成された両面テープ2bが貼り付けられている。これにより、第2プレート側には有底状の有底部72が形成される。また、第4プレート4のうち、第3プレート3と接する面には、貫通部71に対向する位置には、貫通孔が形成された両面テープ4bが貼り付けられている。これにより、第4プレート側には有底状の有底部73が形成される。この有底部72,73,および貫通部71によって、液状流体試料Aの反応室7が構成される。
【0033】
測定室7について、図3を用いて説明する。反応室7の第1底面171および、第1底面171に対向する第2底面172には異なる試薬、すなわち、前記した第一試薬および第二試薬がそれぞれ所定量塗布されている。これにより、有底部72,73は所定量の試薬で満たされる。試薬は塗布後に乾燥させればよい。
【0034】
第1プレート1と第2プレート2は、接着剤aを介して、第2プレート2〜第4プレート4は、両面テープ2b、4bにて、積層状態にて一体化される。また、血球分離膜6は、接着剤aにより、前記第1プレート1および第2プレート2と固定される。
【0035】
実際の測定方法について簡単に説明する。図1に示すように、検体供給口11から液状流体試料Aを供給する。そして、栓体5を液状流体試料供給口11に被せ、指で加圧する(図示せず)。これにより、反応室7や流路8内の空気が、第3プレートから外部に排出されて、液状流体試料Aが反応室7内に送り込まれる。反応室7の第1底面171および第2底面172には、それぞれ異なる試薬が塗布されており、反応室7の側面173の孔175から反応室7の空間に、液状流体試料Aが搬送されると、液状流体試料Aと2種類の試薬との反応が開始する。一つの空間内で2種類の試薬とまとめて混合されるので、均一に混合される。
【0036】
測定室7での液状流体試料Aの測定は、透過光を用いた光学測定が採用できる。透過光を用いる光学測定は、前記第2〜第4プレート2〜4の全体を光透過性のある樹脂で形成し、前記反応室7で試薬と液状流体試料Aにより反応を行わせて、第4プレート4の下方から第2プレート2に向かってたとえば、波長405nmの透過光Bを照射し、前記反応室7での透過光Bの吸収により測定すればよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
実施例1、2、3および比較例1
ADP依存性ヘキソキナーゼおよびピルビン酸キナーゼを用いた尿素窒素の測定方法
【0038】
1.方法
ウレアアミドリアーゼ、ADP依存性ヘキソキナーゼ、およびグルコース−6−リン酸脱水素酵素を用いた尿素窒素測定系において、ADPに作用する酵素としてピルビン酸キナーゼを組成中に含んだ測定系を実施例として示す。
ウレアアミドリアーゼを用いた測定法において、試料中の尿素はウレアアミドリアーゼによりATP、重炭酸、カリウムの存在下により分解反応し、ADPとアンモニアを生じる。続いて、発生したADPはグルコースの存在下で、ADP依存性ヘキソキナーゼの作用により、グルコース−6−リン酸とAMPを生じる。発生したグルコース−6−リン酸はチオNAD(P)を補酵素とし、グルコース−6−リン酸脱水素酵素の作用により6−ホスホグルコノラクトンとチオNAD(P)Hを生じる。生じたチオNAD(P)Hの増加量を波長405nmで測定し、試料中の尿素を尿素窒素濃度として測定する。
上記反応において、発生した試料由来のADPに対してADP依存性ヘキソキナーゼを反応させると同時に、ホスホエノールピルビン酸およびピルビン酸キナーゼの存在下でピルビン酸キナーゼと競合反応させることにより、過剰なADPをATPに変換し、適量なADP濃度を測定する。
比較例1として、ホスホエノールピルビン酸、およびピルビン酸キナーゼ(PK)を含まない組成を対照とした。また、補酵素としてチオNAD単独を用いた場合、測定可能な範囲が狭かったが、補酵素としてNAD、チオNADの両方を用いたところ測定可能な範囲が広くなったので比較例および実施例では、補酵素としてその両方を加えた試薬を用いた。
検量線作製のための液状流体試料としては、尿素窒素とし250 mg/dL となる様に尿素溶液を調製し、各濃度に生理食塩水で適宜希釈した。
【0039】
用いた試薬、および試料は以下の通りである。
第一試薬(pH 9.0)
20 mM Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)
60 mM D−グルコース
60 mM 炭酸水素カリウム
50 mM ATP・2Na(アデノシン三リン酸・二ナトリウム)
50 mM ホスホエノールピルビン酸
1.0 % 界面活性剤
第二試薬(pH 7.0)
200 mM Tris
40 mM 酢酸マグネシウム・四水和物
40 mM NAD
40 mM チオNAD
1.0 % 界面活性剤
600 KU/L HK(ADP依存性ヘキソキナーゼ)
30 KU/L ウレアアミドリアーゼ
30 KU/L グルコース−6―リン酸脱水素酵素
0、60、
600または
6000KU/L PK(ピルビン酸キナーゼ)(比較例1、実施例1、実施例2お
よび実施例3では、それぞれ0、60、600、6000KU/
Lの量で用いた)
【0040】
表1に、比較例1、実施例1、実施例2および実施例3で用いたHKとPKの混合比およびPKの量を示した。
【表1】

【0041】
測定方法
検査器具は、図1から3に示したように、液状流体試料を供給するための供給部、検査器具内に設けられ、液状流体試料を試薬と反応させる反応室、供給部に供給された液状流体試料を反応室までの移送するための流路を持つものを用いた。
上記の通り調製した試薬は、反応室の面を構成する上下のPETシート(透明面を有する)に、第一試薬は0.375μL、第二試薬は0.5μLとなるように各々塗布し乾燥した。乾燥後、第一試薬、および第二試薬が塗布されたシートは、液状流体試料流路を含むシートを、はさみ貼り合わせた。液状流体試料は反応セル体積2.5容中に1容となるように導入し、試薬を溶解させた。具体的には、液状流体試料を供給部から導入後、通路を経由して、反応室に送り込み、その液状流体試料で試薬を溶解させ、その混合液を7分間、37℃で発色反応させた。試薬が塗布された透明部分に対して波長405nmで測光し、発色反応後の吸光度を求めた。
【0042】
2.結果
得られた結果を図4に示す。図4に示されるように、ホスホエノールピルビン酸およびピルビン酸キナーゼを使用しない比較例1に比べて、これらを使用した実施例1から3では、検量線の傾きが小さく、かつ、ブランク値を減少させ、その結果、広範囲の尿素窒素の濃度を正確に測定できる。また、ATP依存性ヘキソキナーゼ(HK)に対するピルビン酸キナーゼ(PK)の混合比が多くなるほど、ブランクの上昇が抑制され傾き直線性範囲が広くなる傾向があることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上に詳細に説明したところから明らかなように、本発明においては、試料中のADPまたは酵素反応によりADPを生成する特定物質をドライケミストリーにより測定する際、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼとを共存させることにより、検量線の傾きが小さく、かつ、ブランク値を減少させ、その結果、広範囲のADPや特定物質の濃度を正確に測定できる。
【符号の説明】
【0044】
1 第1プレート
2 第2プレート
3 第3プレート
4 第4プレート
7 反応室
8 流路
A 液状流体試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状流体試料中のADP、または酵素反応によりADPを発生する液状流体試料中の特定物質を測定する方法であって、該液状流体試料と試薬とを反応させる検査器具を用いた測定方法であり、
用いる検査器具が、少なくとも反応室とその反応室を構成するための隣接する面を有し、その面の少なくとも一部に試薬が付着されており、かつ、試薬が、液状流体試料中のADPを測定するための酵素反応を行うための試薬、あるいは、酵素反応によりADPを発生する液状流体試料中の特定物質を測定するための試薬であり、ADPを測定する際、同時に、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを共存させ、かつ、液状流体試料を反応室に供給し、試薬が付着された面と接触させることにより、付着された試薬を液状流体試料中に溶解させて液状流体試料と混合し、ADPまたは特定物質と試薬とによる酵素反応を液状で行い、その液状流体試料中のADPまたは特定物質を測定する、測定方法。
【請求項2】
ADPを測定するための酵素反応が、そのADPに、グルコース、ADP依存性ヘキソキナーゼ、および金属イオンを作用させて生成するグルコース−6−リン酸またはAMPを測定することにより、試料中のADPを測定する方法である、請求項1に記載のADPの測定方法。
【請求項3】
生成するグルコース−6−リン酸またはAMPを測定することを、生成するグルコース−6−リン酸に、グルコース−6−リン酸脱水素酵素とNAD(P)類を作用させ生成するNAD(P)H類を測定することにより行う、請求項2に記載のADPの測定方法。
【請求項4】
NAD(P)類がチオNADまたはチオNADPであり、生成するNAD(P)H類がチオNADHまたはチオNADPHである、請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
補酵素としてチオNADまたはチオNADPとともにNADまたはNADPを共存させる、請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
液状流体試料中の特定物質が尿素であり、尿素からADPを発生する酵素反応が、尿素にATP、マグネシウムイオン、カリウムイオン、炭酸水素イオンおよびウレアアミドリアーゼを作用させてADPを発生させる、請求項1から5のいずれかに記載の測定方法。
【請求項7】
用いる検査器具が、
液状流体試料を供給するための供給部;検査器具内に設けられ、液状流体試料を試薬と反応させる反応室;および供給部に供給された液状流体試料を反応室までの移送するための流路を備え、
流路および反応室は、通気性があり且つ非通液状性の多孔性膜を介して検査器具外部と接続されており、
反応室は、第1の平面およびこれに対向する第2の平面、第1の平面および第2の平面それぞれに接し、第1の平面と第2の平面との間に空間を形成する第3の面で形成されており、
流路と反応室とは、第3の面に連結孔が形成されることにより、連結されており、
平面の少なくとも一つの面に試薬が付着されており、
供給部に供給された液状流体試料を供給部に設けられた加圧部によって加圧して、反応室内に移送する、
検査器具である、請求項1から6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項8】
第1の平面および第2の平面に、異なる試薬が付着されている、請求項7に記載の測定方法。
【請求項9】
反応後の反応室に光を照射して透過光または反射光由来の吸光度に基づいて、液状流体試料中のADPまたは特定物質を測定する、請求項1から8のいずれかに記載の測定方法。
【請求項10】
液状流体試料中のADP、または酵素反応によりADPを発生する液状流体試料中の特定物質を測定するための検査器具であって、
少なくとも反応室とその反応室を構成するための隣接する面を有し、その面の少なくとも一部に試薬が付着されており、かつ、試薬が、液状流体試料中のADPを測定するための酵素反応を行うための試薬、あるいは、酵素反応によりADPを発生する試料中の特定物質を測定するための試薬であり、ADPを測定する際、同時に、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを共存させ、かつ、液状流体試料を反応室に供給し、試薬が付着された面と接触させることにより、付着された試薬を液状流体試料中に溶解させて液状流体試料と混合し、ADPまたは特定物質および試薬による酵素反応を液状で行い、その液状流体試料中のADPまたは特定物質を測定するための、検査器具。
【請求項11】
液状流体試料を供給するための供給部;検査器具内に設けられ、液状流体試料を試薬と反応させる反応室;および供給部に供給された液状流体試料を反応室まで移送するための流路を備え、
流路および反応室は、通気性があり且つ非通液状性の多孔性膜を介して検査器具外部と接続されており、
反応室は、第1の平面およびこれに対向する第2の平面、第1の平面および第2の平面それぞれに接し、第1の平面と第2の平面との間に空間を形成する第3の面で形成されており、
流路と反応室とは、第3の面に連結孔が形成されることにより、連結されており、
平面の少なくとも一つの面に試薬が付着されており、
供給部に供給された液状流体試料を供給部に設けられた加圧部によって加圧して、反応室内に移送する、検査器具である、請求項10に記載の検査器具。
【請求項12】
第1の平面および第2の平面のいずれか一方に全ての試薬が付着されているか、あるいは、試薬の一部がいずれかの面に、その他の試薬が他の面に付着されている、請求項10または11に記載の検査器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−103826(P2011−103826A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263818(P2009−263818)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【出願人】(305053226)株式会社ティー・ティー・エム (10)
【Fターム(参考)】