説明

APJ受容体リガンドを同定するための試験システム

【課題】 心疾患の予防または治療等で用いることができるAPJ受容体リガンドを同定および特徴付けするための試験システムを開発すること。
【解決手段】 (a)APJ受容体またはその機能的な変異体、および、(b)GαΔ6qi4myrタンパク質、Gαi4qi4タンパク質、Gα16タンパク質から選択されるGαタンパク質、を含み、ここにおいて、APJ受容体リガンドの該APJ受容体またはその機能的な変異体への結合は、測定可能なシグナルまたは検出可能なシグナルに作用する、APJ受容体リガンドを同定するための試験システム。本試験システムを用いたAPJ受容体リガンドのスクリーニング方法、医薬品の製造方法、心疾患の診断および予後方法、並びに、心疾患の検出または予後に使用できるキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシン受容体様−1(APJ受容体)のリガンドを同定するための試験システムに関し、本システムは、APJ受容体またはそれらの機能的な変異体、および、GαqもしくはGα1タンパク質、または、GαqもしくはGα1タンパク質のような異なるGタンパク質の部分から構築されたハイブリッドタンパク質を含み、さらに、本試験システムを用いたAPJ受容体リガンドのスクリーニング方法、医薬品の製造方法、心疾患の診断および予後方法、および、心疾患の検出または予後に使用できるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物において、生物そのものが存在できるようにするには、細胞が互いに連絡しあうことが必要である。それぞれの細胞の特殊化により、それぞれの細胞の特徴的な機能が、生物そのものの構造および活性に寄与している。これらの機能は一般的に、ホルモン、神経伝達物質、局所ホルモンなどの細胞外シグナルの制御下である。ほとんど全ての細胞外シグナルは、細胞の環境における所定のタイプの分子の濃度変化からなる。一般的に、細胞外シグナルは、細胞内シグナルに翻訳されなければならない。
【0003】
細胞が細胞外シグナルを受信する様々なメカニズムがある。多くのシグナル物質は、細胞膜を通過して細胞に侵入することができない。それゆえに、これらの細胞外シグナルは、細胞内シグナルに変換されなければならない。極めてうまく作動するシグナル伝達のための系は、3種の成分、すなわちGタンパク質共役受容体、Gタンパク質およびエフェクタータンパク質からなる。
【0004】
Gタンパク質共役受容体
Gタンパク質共役受容体ファミリーは、内在性膜タンパク質の大規模なスーパーファミリーである。現在のところ、公共データベースより入手可能なGタンパク質共役受容体の配列は、約2,000種ある。以前から、このような受容体の数種とそれらの内因性のリ
ガンド、同様に、外因性アゴニストおよびアンタゴニストが知られている(例えばβ2
アドレナリン受容体)。その他のものとしては、いずれの既知の内因性のリガンドとも結合しないため、いわゆるオーファンGタンパク質共役受容体というものがある。
【0005】
Gタンパク質共役受容体(また、7回膜貫通、7重らせん、または、ヘビ状受容体(serpentine receptor)としても知られている)は、アミノ酸配列の類似性、同様に構造的な類似性を示す。上記受容体は、細胞膜を7回貫通する単一のポリペプチド鎖で構成されており、細胞外アミノ末端、細胞膜を貫通する7個のほとんど疎水性のαへリックスドメイン(約20〜30個のアミノ酸からなる)、約20個のよく保存されたアミノ酸、および、細胞質内カルボキシ末端からなる。
【0006】
上記受容体へのアゴニストの結合には、受容体のコンフォメーション変化が介在しており、それにより上記受容体は活性型に移行する。活性型の受容体はGタンパク質を活性化し、GTPのGDPへの交換を媒介する。アンタゴニスト(ブロッカー)は、不活性型の受容体を安定化するため、一般的な下流のシグナル伝達経路をブロッキングする。
【0007】
Gタンパク質
Gタンパク質共役受容体は、ヘテロ三量体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)を介してシグナルを変換する。ヘテロ三量体のGタンパク質は、α(39〜42kDa)、β(35〜36kDa)、および、γサブユニット(7〜10kDa)か
らなる。αサブユニットは、GTP/GDPのための結合部位を包含する。Gタンパク質は、細胞質膜の細胞質内側に天然に存在する。
【0008】
細胞外リガンドの結合により、受容体タンパク質においてコンフォメーション変化が生じ、それによりグアニン−ヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)と接触するようになる。活性化Gタンパク質共役受容体はαサブユニットのコンフォメーションを改変し、GTPのGDPへの交換を増強する。不活性状態では、βγ二量体はαサブユニットに結合する。交換の際に、αサブユニットからβγ二量体が解離する。活性化αサブユニットとβγ二量体はいずれも、細胞内エフェクタータンパク質に影響を与えることができる。次にαサブユニットは、GTPのGDPとPiへの加水分解を触媒し、それによりαサブユニットの不活性化が起こり、続いてβγ二量体がαサブユニットに結合する。
【0009】
目下、Gタンパク質のαサブユニットファミリーは、4種の異なるクラス、すなわちGαs、Gαi、GαqおよびGα12に分類される。GαsクラスとGαiクラスはそれぞれ、
アデニリルシクラーゼ活性を刺激するか、または、阻害する。Gαqクラスは、ホスホリ
パーゼCβを刺激するものであり、Gαq、Gα11、Gα14およびGα15/16が含まれる。Gα12は、Gαqと類似しているが、さらに別個のクラスである。
【0010】
一般的に、Gタンパク質共役受容体は、特定のGタンパク質αサブユニットファミリーを特異的に活性化し、それにより、特定のシグナル伝達経路の活性化または不活性化が起こる。
【0011】
エフェクタータンパク質
Gタンパク質は、様々な細胞内酵素、イオンチャンネルおよび輸送体にわたる広範囲の生物活性に作用する。
【0012】
活性化Gタンパク質は、様々なシグナル経路を活性化または不活性化し、それによって、さらなるタンパク質、例えば酵素、および、イオンチャンネル(エフェクタータンパク質と呼ばれる)を活性化または不活性化する。典型的なエフェクタータンパク質は、イオンチャンネル、例えばN型のCa2+チャンネル、および、内向き整流性K+チャンネル(GIRK)をカップリングしたGタンパク質、並びに、酵素(例えばアデニリルシクラーゼやホスホリパーゼC)である。
【0013】
APJ受容体
最も初期のオーファン受容体の1種は、APJ受容体(アンギオテンシン受容体様−1)であり、これはもともと、O’Dowd等によって同定された(O’Dowd等,1993年,Gene 136:355〜360)。近年、APJ受容体の内因性のリガンドであるアペリン−36が同定された(Tatemoto等,1998年,Biochem
Biophys Res Commun 251:471〜476)。アペリン−36は、36個のアミノ酸からなるペプチドアゴニストであるが、アペリン−36のより短い変異体(13〜19個のアミノ酸からなるC末端ペプチド)もまた、APJ受容体においてアゴニスト特性を示す。アペリンは、77個のアミノ酸残基からなるプレプロタンパク質のC末端部分からプロセシングによって生産され、複数の分子形態で存在する。
【0014】
アペリンおよびAPJ受容体のmRNAは、末梢組織、同様に、様々な中枢神経系領域、加えて、特に末梢血液の単核細胞で普遍的に発現されることがわかっている。免疫系において、APJ受容体は、CD−4との共受容体としてHIV−1の侵入を補助することが報告されている(Cayabyab等,2000年,J Virol 74:11972〜11976)。加えて、近年、APJ受容体は、心臓で高レベルのmRNA発現を示すことが発見された(Lee等,2000年,J Neurochem 74:34〜4
1)。内因性のリガンドの活性が、ウシ脳、胃腸組織の抽出物、同様に、心臓の抽出物で見出されている。
【0015】
アペリンは、マウス脾臓からのサイトカイン生産の抑制、細胞外の酸性化の促進、および、チャイニーズハムスター卵巣細胞におけるcAMP生産の阻害、ならびに、血圧および血流の調節に関与することが示されている(De Falco等,2002年,In Vivo 2002 16:333〜336)。心臓において、アペリンは、ホスホリパーゼCおよびプロテンキナーゼCによって媒介されると考えられている用量依存性の陽性変力作用を誘導することが示されている(Szokodi等,2002年,Circ Res 91:434〜440)。その上、Na+/H+交換アイソフォーム−1(NHE)、および、逆モードのNa+/Ca2+交換(NCX)の選択的阻害剤がアペリン応答を著しく抑制し、これは、それらのシグナル伝達経路への関与ことを示す(上記のSzokodi等)。
【0016】
驚くべきことに、目下、心臓血管疾患には、APJ受容体遺伝子の発現の増加が付随し、それにより、APJ受容体のmRNAのレベルの増加、同様に、APJ受容体タンパク質のレベルの増加が起こることが発見されたが、これは、WO03/013576における発見に反している。その上、アペリン発現も高められる。このような発現の増加が付随する心疾患は、特に、うっ血性拡張型心筋症、肥大性心筋症および冠動脈疾患である。
【0017】
冠動脈疾患
冠状動脈疾患は、最も一般的な心疾患の形態である。その症状としては、狭心症、心筋梗塞、息切れ、不規則な心拍または早い心拍などが挙げられる。これらは、ほとんどの場合、コレステロール、脂肪族化合物、カルシウムおよびフィブリンからなるプラークによって引き起こされるアテローム性動脈硬化症が原因で起こる。冠状動脈のアテローム性動脈硬化症により、冠状動脈の血管内腔が狭くなる。内腔が狭くなるため、血流に対する抵抗が増加し、心筋血流が障害を起こし、十分な酸素供給が保障されなくなる。血小板凝集によって生じる血栓形成に加えて、心筋は、その他のメカニズムのいずれかによる冠動脈疾患のために損傷を受ける可能性もある。冠動脈疾患の治療は、心臓への十分な血流を確保することに焦点が当てられており、薬物療法(βブロッカー、カルシウムチャンネルブロッカー、アスピリン、スタチンおよびニトレート)、血管形成術およびバイパス手術などがある。
【0018】
心筋症
この心筋の病気(冠状動脈アテローム性動脈硬化症によって引き起こされるものではない)は、循環において、程度の差はあるが末梢における抵抗を増加させる。いくつかの例において、心臓リズムに障害が発生し、それにより、不規則な心拍または不整脈が起こる。通常、このような筋肉のダメージの正確な原因はわかっていないが、心臓移植の主要な理由である。心筋症には、4つのタイプ(非虚血性心筋症、うっ血性拡張型心筋症、肥大性心筋症および収縮性心筋症)がある。
【0019】
うっ血性拡張型心筋症
この病気は、心臓のポンプ能力の低下を引き起こす少なくとも1つの心室の拡張が関連している。その結果として、心臓は、さらなる拡張と伸張(補うための)によってポンプ性能の制限に対応しようとする。うっ血性拡張型心筋症を患う患者は、一般的に、疲労、脱力感、息切れおよび脚部および足のむくみを示し、これらは体液の蓄積が原因で生じるものであり、さらに肺(うっ血)およびその他の身体各部に影響を与える場合もある。ほとんどの場合、病気の具体的な理由は同定されていない。しかしながら、いくつかの因子(例えばアルコール、ウイルス感染および特定の薬物)が、病気の発症に関連付けされている。この病気は、複雑な因子を回避し、症状コントロールすることによって治療される
。治療は、明らかな危険因子(例えばアルコール摂取)を取り除くことから始められる。加えて、体重の減少や食事の変更も効果的であり得る。
【0020】
肥大性心筋症
肥大性心筋症においては、左心室壁が肥大し硬化する。最も大きい肥大は、隔壁で起こる傾向がある。肥大による、心臓を通過する血液の流れが減少する。肥大性心筋症の症例のほとんどは遺伝性である。その他の症例において、明確な原因はない。肥大性心筋症を患う患者が症状を示す場合(多くは示さない)、患者は、息切れと胸部の不快感に苦しむ。その他の兆候は、身体活動中の失神、強く速い心拍および疲労である。病気の進行期では、患者は、重度の心不全を有する可能性があり、それに関連する症状としては、体液の蓄積またはうっ血が挙げられる。肥大性心筋症の治療は様々であるが、例えば、身体活動の減少、薬物(βブロッカー、カルシウムチャンネルブロッカー、抗不整脈薬による薬物療法および利尿薬)、ペースメーカーおよび外科手術が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
APJ受容体およびアペリンは心疾患に関連するという事実から、APJ受容体およびアペリンは興味深い薬理学的な標的となる。これは、特に、上記で詳述したような心疾患の治療における困難に関して適応される。多くの場合においてうまくいく治療および/または長期の治療、さらに予防法も、未だ見出されていない。
【0022】
それゆえに、本発明の目的の一つは、例えば心疾患の予防または治療で用いることができるAPJ受容体リガンドを同定および特徴付けするための試験システムを開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
驚くべきことに、APJ受容体リガンドを同定するための試験システムが発明され、本システムは、
(a)APJ受容体またはそれらの機能的な変異体、および、
(b)GαqもしくはGαiタンパク質、または、GαqもしくはGαiタンパク質のような異なるGタンパク質の部分から構築されたハイブリッドタンパク質(例えばGαΔ6qi4myrタンパク質)、
を含み、ここにおいて、前記APJ受容体リガンドの前記APJ受容体またはそれらの機能的な変異体への結合は、測定可能なシグナルまたは検出可能なシグナルに作用する。
【0024】
APJ受容体リガンドは、APJ受容体に特異的に結合するあらゆる化合物である。本発明に係るAPJ受容体への特異的な結合としては、これらに限定されないが、解離定数Kdが10-4モル/lを超過しない結合、好ましくは10-5モル/lを超過しない結合が挙げられる。解離定数Kdは、ヒトの心室の膜、および、放射性リガンドとして[125I]−Pyr1)アペリン−13を用いた競合結合実験で、以下の方程式に従って決定することができる(Katugampola等,2001年,Br J Pharmacol
132:1255〜1260):
B[L]=[L]/{[L]+KDL(1+[L*]/KDL*
式中、[L]および[L*]はそれぞれ、APJ受容体リガンドの濃度と、放射性リガ
ンドの濃度を示す。KDLおよびKDL*はそれぞれ、APJ受容体リガンドの解離定数と、
放射性リガンドの解離定数であり、B[L]は、特定のAPJ受容体リガンド濃度での結合(%)である。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、同定しようとするリガンドは、アゴニストまたはアンタゴニストである。アゴニストはAPJ受容体に結合して、それらのコンフォメーシ
ョン変化を誘導し、それぞれのシグナル伝達経路を活性化することによって、測定可能なシグナルまたは検出可能なシグナルを発生させる。また、アンタゴニストまたはブロッカーも受容体に結合するが、通常はシグナル伝達を誘導しない。
【0026】
より好ましい本発明の実施形態において、アゴニストは、完全、部分またはインバースアゴニストである。完全アゴニストは受容体を最大限活性化する。完全アゴニストより低い作用を有する化合物は、シグナル伝達を刺激するが、その程度は完全アゴニストより低いことから、部分アゴニストと呼ばれる。インバースアゴニストは、同受容体を占有することによってアゴニストとは逆の作用を生産するリガンドである。特に、Gタンパク質共役受容体が過剰発現される系において、インバースアゴニストを同定することができる。これらは、受容体に結合する際の測定可能なシグナルまたは検出可能なシグナルの基底レベルを減少させる。
【0027】
同定されたリガンドは、APJ受容体の特徴と機能を解明するのに用いることができる。その上、このようなリガンドは、APJ受容体関連の障害または病気、好ましくは心疾患、最も好ましくはうっ血性拡張型心筋症、肥大性心筋症および冠動脈疾患の治療および予防において有用である可能性がある薬物である。
【0028】
用語「APJ受容体」は、アペリンに関する受容体を意味する。本発明に係るAPJ受容体は、天然に存在するあらゆるAPJ受容体である。APJ受容体には、異なる種、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物のAPJ受容体およびそれらの変異体、同様に、スプライス変異体、または、他の受容体(例えばβ2−アドレナリン受容体)に関して既知の受容体の多型によって生じるAPJ受容体が含まれる。好ましい哺乳動物のAPJ受容体またはそれらの変異体としては、ヒト(図2)、マウス(ハツカネズミ(Mus
musculus),WO00/68244)、および、ラット(ドブネズミ(Rattus norvegicus),WO00/68250)のAPJ受容体が挙げられる。もっとも好ましいAPJ受容体は、ヒトのAPJ受容体またはそれらの変異体である。いずれの場合においても、上記受容体は、シグナルの導入が可能でなければならず、すなわち、リガンド結合の際に、GαqもしくはGαiタンパク質、または、GαqもしくはGαiタンパク質のような異なるGタンパク質の部分から構築されたハイブリッドタンパク質を改変する。本発明に係る「〜を改変する」とは、GαqもしくはGαiタンパク質、または、GαqもしくはGαiタンパク質のような異なるGタンパク質の部分から構築されたハイブリッドタンパク質を活性化または不活性化することを意味する。一般的に、上記受容体は、アゴニストと結合する際に、GαqもしくはGαiタンパク質、または、Gαq
しくはGαiタンパク質のような異なるGタンパク質の部分から構築されたハイブリッド
タンパク質を活性化する。活性化された受容体、例えば構成的に活性なAPJ受容体の変異体の場合、上記受容体は、アンタゴニストと結合する際に、GαqもしくはGαiタンパク質、または、GαqもしくはGαiタンパク質のような異なるGタンパク質の部分から構築されたハイブリッドタンパク質を不活性化する。
【0029】
本発明に係るAPJ受容体の変異体は、アペリンと結合するが、天然には存在しないAPJ受容体である。アペリンの、APJ受容体の変異体への結合は、放射性リガンドとしてアペリン類似体[125I]−Pyr1)アペリン−13を用いて、放射性リガンドとの結合実験を行うことによって試験することができ、これは、Katugampolaのチームにより説明されている(Katugampola等,2001年,Br J Pharmacol 132:1255〜1260)。用語「変異体」は、天然に存在するAPJ受容体配列とは1個またはそれ以上のヌクレオチドが異なるオリゴヌクレオチド配列を意味するものとして用いられる。このような変異オリゴヌクレオチドは、本明細書で用いられるように、野生型ポリペプチド(APJ受容体)とは1個またはそれ以上のアミノ酸の置換、挿入または欠失において異なるポリペプチド配列を示すタンパク質変異体として発
現される。好ましくは、ある残基が類似の特徴を有する他の残基で置換されるような保存的アミノ酸置換である。典型的な置換は、脂肪族アミノ酸間、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸間、酸性残基を有するアミノ酸間、アミド誘導体間、塩基性残基を有するアミノ酸間、または、芳香族残基を有するアミノ酸間での置換である。変異ポリペプチドは、一次構造(アミノ酸配列)の点で異なるが、野生型と比較して二次構造もしくは三次構造または機能の点では、著しく異なっている場合もあるし、または、それほど相違ない場合もある。また、上記変異体は、アペリンに十分に結合することができるAPJ受容体の部分、または、第二のGタンパク質共役受容体部分に融合したAPJ受容体部分を含む受容体キメラであってもよく、ここにおいて、上記キメラは、アペリンへの結合が可能なままであり、上記第二のGタンパク質共役受容体部分は、その他のあらゆるGタンパク質共役受容体の部分である。あらゆる場合において、上記受容体は、シグナルの導入が可能でなければならなず、すなわち、リガンド結合の際に、GαqもしくはGαiタンパク質、または、GαqもしくはGαiタンパク質のような異なるGタンパク質の部分から構築されたハイブリッドタンパク質(例えばGαΔ6qi4myrタンパク質)を改変する。
【0030】
APJ分析では、3種のGタンパク質が試験されており、APJリガンド(GαΔ6qi4myr、Gα16、および、Gαi4qi4)の検出に用いることができる。GαΔ6qi4myrタンパ
ク質(図1)は、WO02/04665(Gα-6qi4myr,配列番号2)で開示されている。このGタンパク質は、さらなる改変を含む異なるGタンパク質の部分から構築されたハイブリッドGタンパク質であり、1つのタンパク質内に様々なサブユニットの配列が組み合わされている。この異なるGタンパク質からなる融合タンパク質は、1種のGタンパク質のGα受容体認識領域を、その他の種のGタンパク質のGαエフェクター活性化領域に融合することによって設計された。この目的は、Gタンパク質共役受容体からのシグナルを受け取るが、上記受容体が通常は結合しないシグナル伝達経路でスイッチされるGタンパク質ハイブリッドを提供することであった。このような受容体の「再結合」は、測定方法で分析の評価項目(アデニリルシクラーゼ阻害と比較した、細胞内でのCa2+濃度の増加)をより簡単に得ることができ、ハイスループットスクリーニングで用いることができるという利点がある。GαΔ6qi4myrタンパク質を構築するために、Gαqタンパク質の6種の高度に保存されたN末端アミノ酸を欠失させた。加えて、アミノ末端の6個の高度に保存されたアミノ酸の欠失部分に、ハイブリッドは、C末端においてGαiタンパク質配列を有している。最終的に、G-6qi4myrタンパク質(すなわちGαΔ6qi4myrタンパク質)が生産させるように、追加のミリストイル化/パルミトイル化認識配列をGαサブユニットのアミノ末端領域に挿入した。アミノ末端における−6qi4myrのタンパク質配列は、−6q変異体の元の配列におけるMACCに対して、MGCCである。
【0031】
また、Gαi4qi4タンパク質も、WO02/04665に記載されている。このGタンパク質は、さらなる改変を含む異なるGタンパク質の部分から構築されたハイブリッドGタンパク質であり、1つのタンパク質内に様々なGαタンパク質サブユニットの配列が組み合わされている。Gαi4qi4タンパク質を構築するために、Gαqタンパク質の6個の高度に保存されたアミノ酸を欠失させた。加えて、アミノ末端の6個の高度に保存されたアミノ酸の欠失部分に、最初の4つのアミノ酸(MACC)が、Gαiタンパク質の最初の4個のアミノ酸(MGCT)で置換された。さらに、Gαi4qi4タンパク質は、C末端においてGαiタンパク質配列(CGLF)を有する。Gα16タンパク質は、Offermann等(1995年)J.Biol.Chem 270,15175〜15180(Ga15およびGa16が、多種多様の受容体をホスホリパーゼCに結合させる)で開示されている。
【0032】
測定可能なシグナルまたは検出可能なシグナルは、ハイブリッドGタンパク質(GαΔ6qi4myr,Gαi4qi4)より下流の分子であるエフェクターと、シグナル伝達経路におけるGα16タンパク質によって生産される。本発明に係る測定可能なシグナルまたは検出可能
なシグナルは、リガンドがAPJ受容体に結合する際に介在する物質の濃度または帯電のあらゆる変化である。このようなシグナルは、細胞内化合物、例えば、ジアシルグリセロールもしくはイノシトール1,4,5−三リン酸のような第2メッセンジャー、または、Ca2+のようなイオンの濃度変化であり得る。このようなシグナルは、選択電極、抗体、放射標識、蛍光マーカー、酵素などを用いた既知の方法のいずれかによって測定することができる。
【0033】
一般的に、ハイブリッドGタンパク質(GαΔ6qi4myr,Gαi4qi4)、および、Gα16タンパク質は、様々なホスホリパーゼCβアイソフォームに結合し、それにより膜結合型ホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸の加水分解が起こり、ジアシルグリセロール(DAG)およびイノシトール1,4,5−三リン酸(IP3)が生産される。IP3は、細胞内の貯蔵部からCa2+を放出する。それゆえに、測定可能なシグナルまたは検出可能なシグナルとしては、DAG、IP3およびCa2+の変化が挙げられる。
【0034】
DAGを検出および定量化する方法は、当業者既知である。未精製の脂質抽出物中のDAGは、Preiss等の方法で測定することができる(Preiss等,1986年,J Biol Chem 261:8597〜8600)。細胞は、推定のAPJアゴニストで刺激され、可溶化される。生産されたDAGは、DAGキナーゼの存在下で放射標識されたATPと反応し、クロマトグラフィーで単離され、β−またはγ−カウンターでカウントすることによって定量される。ATPに適したマーカーとしては、3H、32P、33P、35S(例えばアデノシンチオ三リン酸を用いた場合)、および、14Cが挙げられる。
【0035】
IP3を検出および定量化する方法は、当業者既知である。IP3は、市販の放射免疫分析(例えばアマシャム(Amersham),イリノイ州,米国)を製造元の説明書に従って用いて測定することができる。IP3を測定するその他の方法としては、細胞と標識されたイノシトールとをインキュベートすること、推定のAPJ受容体アゴニストで細胞を刺激すること、細胞の溶解、陰イオン交換カラムでの分離、および、生産された標識されたIP3の定量化(Berridge,1983年,Biochem J 212:849〜858)が挙げられる。イノシトールに適したマーカーとしては、3Hおよび14Cが挙げられる。
【0036】
より好ましい実施形態において、測定または検出しようとするシグナルは、Ca2+濃度の変化、最も好ましくは細胞内Ca2+濃度の変化であり、これらは、容易に測定または検出することができ、さらに、サンプルのハイスループットを用いたスクリーニング分析で利用可能である。
【0037】
Ca2+を検出および定量化する適切な方法は、当業者既知であり(Takahashi等,1999年,Physiol Rev 79:1089〜1125)、例えば、これらに限定されないが、カルシウム感受性プローブを用いた方法が挙げられる。一般的に、Ca2+は、蛍光色素を用いて測定される。数種の周知のタンパク質ベースの、および非タンパク質ベースのCa2+指標があり、例えば、エクオリン、改変された緑色蛍光タンパク質−カルモジュリンキメラ、Quin、Indo、Fura、BTC、BAPTAなどが挙げられる。これらの全ての方法および蛍光色素は当業者周知である。
【0038】
一般的に、細胞を成長させ、蛍光マーカーを添加し、次に、推定のAPJアゴニストで刺激する。その後、蛍光光度計を用いて、用いられるマーカーに応じて特定の励起波長および発光波長でCa2+を測定する。
【0039】
もっとも好ましい実施形態において、Ca2+は、FLIPR(蛍光イメージングプレー
トリーダー)装置(モレキュラーデバイス(Molecular Devices),カリフォルニア州,米国)によって測定され、一般的には、96ウェルおよび384ウェル様式で細胞内のCa2+レベルが測定される。この分析は製造元の説明書に従って行われる。このCa2+を測定する方法は、ハイスループット分析に非常に適している。
【0040】
本発明の一実施形態において、本試験システムは遺伝操作された細胞に存在しており、その細胞内に、成分(a)または(b)の少なくとも一方(APJ受容体またはそれらの機能的な変異体、GαΔ6qi4myrタンパク質)が導入されている。導入された成分はトランスジーンと称される。
【0041】
これらの細胞としては、これらに限定されないが、HEK293、745−A、A−431、心房筋細胞、BxPC3、C5N、Caco−2、Capan−1、CC531、CFPAC、CHO、CHOK1、COS−1、COS−7、CV−1、EAHY、EAHY926、F98、GH3、GP&envAM12、H−295R、H−4−II−E、HACAT、HACATA131、HEK、HEL、HeLa、HepG2、ハイファイブ(High Five)、Hs766T、HT29、HUV−ECR24、HUV−EC−C、IEC17、IEC18、Jurkat、K562、KARPAS−299、L929、LIN175、MAt−LYLU、MCF−7、MNEL、MRC−5、MT4、N64、NCTC2544、NDCKII、Neuro2A、NIH3T3、NT2/D1、P19、一次ニューロン性細胞、一次樹状細胞、一次ヒト筋原細胞、一次ケラチノサイト、SF9、SK−UT−1、ST、SW480、SWU−2OS、U−373、U−937、および、Y−1が挙げられる。その他の適切な細胞としては、当業者既知のものが挙げられる。
【0042】
好ましい細胞系は、HEK293細胞(一次ヒト胎児腎臓)、3T3細胞(マウス胎児線維芽細胞)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣)、COS−7細胞(アフリカミドリザル細胞系)、HeLa細胞(ヒト頚部の類上皮細胞ガン)、JURKAT細胞(ヒトT細胞白血病)、BHK21細胞(ハムスターの正常な腎臓、線維芽細胞)、および、MCF−7細胞(ヒト乳ガン)である。
【0043】
その他の本発明の実施形態において、本試験システムは、一過性の、または安定なトランスフェクションされた細胞系またはそれらの膜に位置する。トランスジーンをレシピエント細胞に導入する手順は、トランスフェクションと呼ばれる。DNAでのトランスフェクションは、安定な細胞系、同様に、不安定な(一過性の)細胞系を生じる。一過性の細胞系は、トランスフェクションされたDNAの生存を染色体外の形態で反映する;安定な細胞系は、ゲノムへの統合によって生じる。シグナルの測定および検出が細胞全体に限定されない場合において、このような細胞系の単離された膜を用いてもよい。単離された膜は、例えば、細胞を回収し、場合によりそれらをホモジネートし、それらを遠心分離で回収することによって提供される。
【0044】
トランスジーンは、当業者既知で、それぞれの細胞型に適した多種多様な手段で細胞に導入することができる。トランスジーンを導入し、発現するために、核酸分子を導入し発現するための当業界周知の組換えDNAクローニング技術を用いることができる。細胞は、ウイルスベクター、化学的な形質転換体、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈殿、および、直接的なDNAの拡散などのあらゆる適切な手段を用いてトランスフェクションされ得る。
【0045】
本明細書で用いられるように、ベクターは、トランスジーンを細胞に輸送する物質であり、例えば、適切な転写および翻訳制御シグナル、例えばプロモーターが挙げられる。ベクターとしては、プラスミド、ウイルス性プラスミドまたは当業界既知のその他のものが
挙げられる。プロモーターとしては、誘導性プロモーターまたは構成的プロモーター、一般的な、または細胞特異的、核の、または細胞質内の特異的プロモーターが挙げられる。プロモーター、ベクターおよびその他の要素の選択は、当業者のレベルの範囲内で慣例的な設計事項である。このような要素の多くは文献で説明されており、商業的な供給元から入手可能である。通常、トランスファー方法は、細胞へ選択マーカーを移入させることを含む。
【0046】
一般的に、細胞系は、上述の手段のいずれかによってトランスフェクションされ、ここにおいて、トランスジーンは、選択マーカーに機能するように結合する。トランスフェクションに続いて、細胞を、例えば数日間強化培地で成長させ、続いて選択培地に交換する。トランスフェクションされた細胞は、選択に対して耐性を示し、生存可能であるが、それに対して、トランスフェクションされていない細胞は通常死滅する。選択マーカーの例としては、ピューロマイシン、ゼオシン、ネオマイシン(neo)、および、ハイグロマイシンB(ピューロマイシンに耐性を付与する)、ゼオシン、アミノグリコシドG−418、および、ハイグロマイシンがそれぞれ挙げられる。
【0047】
本発明のその他の目的は、APJ受容体リガンドのスクリーニング方法であり、本方法は、以下の工程を含む:
(a)本発明に係る試験システムを提供する工程、
(b)試験化合物を提供する工程、
(c)場合により、既知のAPJ受容体リガンドを提供する工程、および、
(d)APJ受容体が介在するシグナル伝達経路への前記試験化合物の作用を測定または検出する工程。
【0048】
本スクリーニング方法の目的は、試験化合物をAPJ受容体リガンドとして同定すること、および、その特徴付けである。試験化合物は、あらゆる試験化合物が可能であり、天然に存在するものでも、化学合成されたものでもよい。天然に存在する試験化合物としては、特にペプチド、好ましくは内因性のリガンドのアペリンとの類似性を示すペプチドが挙げられる。この例としては、アペリンフラグメント、同様に、特定の配列相同性を有するペプチド(相同性が高ければ、APJ受容体アゴニストが同定される可能性も上昇する)が挙げられる。しかしながら、試験化合物は非タンパク質性リガンドでもよい。Gタンパク質共役受容体の7回膜貫通ドメインは、結合ポケットを形成するという事実がある。カテコールアミン(エピネフリン、ノルエピネフリン)のような非ペプチド性のリガンドは、結合ポケット中で、ペプチドの結合部位よりさらに内部で結合する(ペプチドの結合部位はより外側である)ということは、周知の事実である。その結果として、適切な標的としては、より小さい(ペプチドリガンドと比較して)非ペプチド化合物も可能である。このようなより小さい化合物は、受容体に結合する際に、好ましくは、アンギオテンシン受容体(ロサルタン,カンデサルタン)に関して知られているアンタゴニストの特性を示すと予想される。
【0049】
アゴニスト、好ましくは、完全、部分またはインバースアゴニストおよびアンタゴニストは、分析設計に応じて同定が可能である。
【0050】
完全、部分およびインバースアゴニストの同定に関して、本スクリーニング方法は、工程(a)、(b)および(d)を行うことによって実施することができる。これに関して、本試験システムは、適切な環境下で(緩衝液、温度、基質など)、および、シグナルを検出または測定するのに十分な期間、試験化合物とインキュベートされる。試験化合物がアゴニスト種のいずれかである場合、その濃度は、シグナルを誘導するのに十分な高い濃度であると予想される。その濃度は、毒性レベルを超過しないと予想され、一般的に0.1〜1モル/lである。
【0051】
アゴニストが同定された場合、本試験システムを用いることによってそれをさらに特徴付けることができる。完全および部分アゴニストは、用量反応曲線で特徴付けることができる。ここにおいて、本試験システムは、試験化合物濃度を増加させながらインキュベートされる。シグナルは、アゴニスト濃度に対してプロットされる。得られた曲線は、以下の方程式を用いて解析することができる:
S([C])=Smin+(Smax−Smin)・[C]/([C]+EC50)
[C]=試験化合物Cの濃度、
S([C])=特定の試験化合物Cの濃度におけるシグナル、
min=基本の、または最小のシグナル、
max=最大のシグナル、
EC50=最大シグナルの半分を仲介する試験化合物Cの濃度。
【0052】
次に、試験化合物をEC50とSmaxによって特徴付ける。Smaxが、完全アゴニストを用いて誘導されたSmaxと同じ高さの場合、その試験化合物も完全アゴニストである。それ
より低い場合、その試験化合物は部分アゴニストである。一般的に、低いEC50値を有する薬物が好ましく、これは、同じ作用を達成するために、より高いEC50値を有する薬物と比較してより少ない量の物質でよいためである。
【0053】
アンタゴニストを同定するために、本スクリーニング方法は、工程(a)〜(d)を行うことによって実施することができる。アンタゴニストは一般的に測定可能なシグナルまたは検出可能なシグナルの生産を媒介しないため、アンタゴニストは直接同定することはできない。それゆえに、アゴニストの作用をブロックすることによってアンタゴニストの結合が同定される((c)既知のAPJ受容体リガンド)。本試験システムを、適切な環境下で(緩衝液、温度、基質など)、シグナルを検出または測定するのに十分な期間、試験化合物およびアゴニストとインキュベートする。試験化合物がアンタゴニスト種のいずれかである場合、その濃度は、アゴニストによって媒介されるシグナルを阻害するのに十分に高い濃度と予想される。試験化合物およびアゴニストの濃度は、毒性レベルを超過しないと予想され、一般的に0.1〜1モル/lである。
【0054】
アンタゴニストが同定された場合、本試験システムを用いることによってそれをさらに特徴付けることができる。ここにおいて、本試験システムは、所定濃度のアゴニストの存在下で、試験化合物の濃度を増加させながらインキュベートされる。シグナルは、アンタゴニストの濃度に対してプロットされる。得られた曲線は、以下の方程式を用いて解析することができる:
S([B])=Smin+(Smax−Smin){1−[B]/([B]+IC50)}
[B]=試験化合物Bの濃度(ブロッカー=アンタゴニスト)、
S([B])=特定の試験化合物Bの濃度におけるシグナル、
min=基本の、または最小のシグナル、
max=最大のシグナル、
IC50=最大阻害の半分を仲介する試験化合物Bの濃度。
【0055】
ブロッカーの定数Kbは、以下に従って計算することができる:
B=IC50{1+[A]/EC50
[A]=アゴニストの濃度、
EC50=最大シグナルの半分を仲介するアゴニストの濃度。
【0056】
次に、試験化合物をKBによって特徴付ける。一般的に、低いKB値を有する薬物が好ましく、これは、同じシグナルをブロックまたは阻害するために、より少ない量の物質でよいためである。
【0057】
本発明の好ましい一実施形態において、試験化合物は、化学物質ライブラリーの形態で提供される。化学物質ライブラリーは、複数の化学物質を含み、化学合成された分子や天然産物などの複数の源のいずれかから構築したものか、または、コンビナトリアルケミストリー技術で生成したものである。これらは特に、ハイスループットスクリーニングに適している。これらは、特定の構造を有する化学物質、または、特定の生物(例えば植物)由来の化合物で構成されていてもよい。本発明に関して、化学物質ライブラリーは、好ましくは、Gタンパク質共役受容体に関するタンパク質およびポリペプチドまたはリガンドを含むライブラリーである。
【0058】
本発明の好ましいその他の一実施形態において、リガンドをスクリーニングする方法は、細胞全体を用いて行われる。細胞は、当業界既知の細胞のいずれも可能である。有用な細胞の例は上述した通りである。通常、細胞は、使用するまでマルチウェルプレートで成長させる。細胞は、場合により標識され(必要に応じて)、その後APL受容体リガンドで刺激される。細胞全体を用いることは、膜に比べて、細胞内基質、酵素などを本試験システムに添加する必要がないため、有利である。その上、マルチウェルプレート中の細胞全体は特に、ハイスループットスクリーニング試験および自動化試験システムに適している。
【0059】
本発明の方法は、ロボットシステムで行われることが有利であり、このようなシステムとしては、例えば、ロボット式プレーティング、および、例えば微量流体を用いた(すなわち流体を導く構造の)ロボット式液体移送システムを含むシステムが挙げられる。
【0060】
その他の本発明の実施形態において、本方法は、ハイスループットスクリーニング系の形態で行われる。このような系において、スクリーニング方法は自動化かつ小型化されていることが有利である;特に、小型化されたウェルを用い、ロボットにより制御される微量流体を用いる。
【0061】
本発明のその他の目的は、医薬品の生産方法であり、本方法は、以下の工程を含む:
(a)本発明に係るスクリーニング方法を行うことによってAPJ受容体リガンドを同定する工程、
(b)十分な量の前記リガンドを提供する工程、および、
(c)1種またはそれ以上の製薬上許容できる担体または補助剤を用いて測定または検出された試験化合物を製剤化する工程。
【0062】
好ましくは、本医薬品は、APJ受容体関連の病気または障害の予防、治療または診断のために用いられる。APJ受容体関連の病気または障害は、上記受容体の発現レベル、その内因性のリガンド、そのシグナル伝達、そのシグナル伝達経路、または、下流エフェクター分子の作用が変化することを特徴とする状態である。あるいは、APJ受容体は、病気または障害の発症または進行に関与する。
このような病気の例としては、これらに限定されないが、心臓血管疾患、心疾患、血圧調節の機能不全、神経系および免疫系の病気、例えばHIVが挙げられる。
【0063】
より好ましくは、上記病気は、心疾患、最も好ましくはうっ血性拡張型心筋症、肥大性心筋症および冠動脈疾患である。
【0064】
薬物療法のためには、単離された試験化合物またはその製薬上許容できる塩は、製剤の形態でなければならず、これは、一般的に、望ましい特徴が提供されるように組み合わされた製薬上許容できるキャリアーまたは補助剤のような成分の混合物からなる。
【0065】
製剤は、少なくとも1種の適切な製薬上許容できるキャリアー、または、補助剤を含む。このような物質の例としては、脱塩水、等張塩類溶液、リンゲル液、緩衝液、有機または無機酸および有機または無機塩基ならびにそれらの塩、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウムまたは二リン酸カルシウム、グリコール、例えばプロピレングリコール、エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル、糖類例えばグルコース、スクロースおよびラクトース、スターチ、例えばコーンスターチおよびポテトスターチ、可溶化剤および乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油類、例えば落花生油、綿実油、トウモロコシ油、ダイズ油、ヒマシ油、合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、高分子の補助剤、例えばゼラチン、デキストラン、セルロースおよびその誘導体、アルブミン、有機溶媒、錯化剤、例えばクエン酸塩および尿素、安定剤、例えばプロテアーゼまたはヌクレアーゼ阻害剤、好ましくはアプロチニン、ε−アミノカプロン酸またはペプスタチンA、保存剤、例えばベンジルアルコール、酸化阻害剤、例えば亜硫酸ナトリウム、ワックスおよび安定剤、例えばEDTAが挙げられる。また、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、矯味矯臭薬剤および芳香剤、保存剤および抗酸化剤が組成物に含まれていてもよい。生理緩衝溶液のpHは、好ましくは、約6.0〜8.0、特に約6.8〜7.8、特に約7.4であり、および/または、浸透圧モル濃度は、約200〜400ミリオスモル/リットル、好ましくは約290〜310ミリオスモル/リットルである。このような医薬品のpHは、一般的に、例えば適切な有機または無機緩衝液を用いて調節され、好ましくは、リン酸緩衝液、トリス緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPES緩衝液([4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジノ]メタンスルホン酸)、または、MOPS緩衝液(3−モルホリノ−1−プロパンスルホン酸)を用いて調節される。それぞれの緩衝液の選択は一般的に、望ましい緩衝液のモル濃度に依存する。例えば注射および輸液には、リン酸緩衝液が適切である。医薬品を製剤化する方法、同様に、適切な製薬上許容できる担体または補助剤は当業者周知である。製薬上許容できる担体および補助剤は、最も一般的な投薬形態および同定された化合物に従って、適宜(a.o.)選択される。
【0066】
本医薬組成物は、経口、鼻、直腸、非経口、膣、局部または膣への投与に適するように製造することができる。非経口投与としては、皮下の、皮内、筋肉内、静脈内または腹膜内投与が挙げられる。
【0067】
本医薬品は、例えば、経口投与のための固形製剤、例えばカプセル、錠剤、丸剤、粉末および顆粒、経口投与のための液状製剤、例えば製薬上許容できる乳濁液、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップおよびエリキシル、注射用製剤、例えば、滅菌注射用水性または油性懸濁液、直腸または膣投与のための組成物、好ましくは坐剤、および、局所または経皮投与のための製剤、例えば軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ジェル、粉末、溶液、スプレー、吸入剤またはパッチのような様々な投薬形態に応じて製剤化することができる。
【0068】
あらゆる特定の患者に対応する具体的な治療上有効な用量レベルは、多種多様な要素、例えば、同定された化合物の活性、投薬形態、患者の年齢、体重および性別、治療の継続時間など、医療分野で周知の要素に応じて決定されると予想される。
【0069】
ヒトまたはその他の哺乳動物に投与される本発明の化合物の、1回または数回に分けた用量での1日用量の総量は、例えば、約0.01〜約50mg/kg体重、または、より好ましくは約0.1〜約25mg/kg体重であり得る。単回投与の組成物には、上記の量またはそれらの約数を1日用量になるように含ませることができる。一般的に、本発明に係る治療計画は、このような治療が必要な患者への、本発明の化合物を、1回または複
数回の用量に、1日あたり化合物約10mg〜約1000mgの投与を含む。
【0070】
本発明のさらにその他の目的は、心疾患の診断または予後の方法であって、本方法は、以下の工程を含む:
(a)試験されるサンプル中における、APJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子の発現レベルを決定する工程、
(b)工程(a)で決定された試験されるサンプル中におけるAPJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子の発現レベルを、コントロールプローブ中におけるAPJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子の発現レベルと比較する工程、および、
(c)APJ受容体および/またはアペリン遺伝子発現が増加したサンプルを同定する工程。
【0071】
APJ受容体およびアペリンは、心疾患、好ましくはうっ血性拡張型心筋症、肥大性心筋症および冠動脈疾患の指標として用いることができる。驚くべきことに、発明者等は、罹患した心臓において、APJ受容体の発現、同様に、アペリンの発現が増加することを発見した(表1)。それゆえに、APJ受容体およびアペリンの発現の増加は、明らかに、心疾患、例えばうっ血性拡張型心筋症、肥大性心筋症および冠動脈疾患の指標である。
【0072】
本発明に係る診断または予後の方法において、APJ受容体遺伝子またはアペリン遺伝子の発現は、核酸増幅法、ハイブリダイゼーション法、酵素免疫検査法、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、または、タンパク質の生物学的分析(例えば、膜、溶液、または、核酸またはタンパク質の検出および/または定量化のためのチップに基づく技術など)によって分析することができる。
【0073】
好ましい実施形態において、 診断および予後の方法 は、前記遺伝子の発現レベルを、前記遺伝子から転写されたmRNAのレベルまたは前記遺伝子から翻訳されたポリペプチドのレベルに基づき決定することによって行われる。
【0074】
多種多様の標識および結合技術が当業者既知であり、様々な核酸およびアミノ酸分析で用いることができる。APJ受容体またはアペリンをコードするポリヌクレオチドに関する配列を検出するための、標識されたハイブリダイゼーションまたはPCRプローブを生産するための手段としては、オリゴ標識、ニックトランスレーション、エンドラベリング、または、標識ヌクレオチドを用いたPCR増幅が挙げられる。あるいは、APJ受容体またはアペリンをコードする配列を、mRNAプローブを生産するためのベクターにクローニングしてもよい。このようなベクターは当業界既知であり、市販されており、インビトロで、標識ヌクレオチドの付加と適切なRNAポリメラーゼ(例えばT7、T3またはSP6)によりRNAプローブを合成するのに用いることができる。これらの手法は、多種多様な市販のキット(アマシャム・ファルマシア・バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)、プロメガ(Promega)、および USバイオケミストリー(US Biochemistry))を用いて行うことができる。検出を簡易化するためにを用いることができる適切なレポーター分子または標識としては、放射性核種、酵素、および 蛍光性物質、化学発光物質またはクロモジェニック物質、同様に、基質、補因子、阻害剤、磁気粒子などが挙げられる。
【0075】
多種多様な当業界既知の技術を用いて、所定のポリペプチドまたはタンパク質が発現されるレベルを定量することができる。このような技術としては、これらに限定されないが、免疫学的技術、例えばELISA、RIAまたはウェスタンブロット、または、定量分析技術、例えば分光分析もしくはフレームクロマトグラフィーが挙げられる。
【0076】
より好ましい実施形態において、診断および予後の方法は、ハイブリダイゼーション法
または核酸増幅法でmRNAのレベルを決定することによって行われる。このような方法は当業者既知であり、例えば、ドットブロットハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、または、RT−PCR方法が挙げられる。
【0077】
その他のより好ましい実施形態において、診断および予後の方法は、ポリペプチドまたはそれらのフラグメントに特異的に結合することができる結合タンパク質、例えば抗体またはアンチカリン(anticalin)を用いてポリペプチドのレベルを決定することによって行われる。
【0078】
所定のポリペプチドに特異的なポリクローナルまたはモノクローナル抗体のいずれかを用いてそのポリペプチドを検出し、測定するための多種多様なプロトコールが当業界既知である。例としては、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および 蛍光活性化セルソーティング(FACS)が挙げられる。
【0079】
この方法に関して、一般的な試験(上記参照)を行うために、APJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子によってコードされたポリペプチドに特異的に結合することができる抗体が用いられる。抗体または抗体フラグメントを製造する手順は、当業者周知の方法に従って、例えば、哺乳動物(例えばウサギ)を、必要に応じて例えばフロインドアジュバントおよび/または水酸化アルミニウムゲルの存在下でAPJ受容体またはアペリンで免疫化することによって実行される(例えば、Diamond,B.A.等.(1981年)The New England Journal of Medicine:1344〜1349を参照)。免疫反応の結果として動物内で形成されるポリクローナル抗体は、その後、周知の方法を用いて血液から単離することができ、さらに、例えばカラムクロマトグラフィーという手段によって精製することができる。モノクローナル抗体は、例えば、WinterおよびMilsteinの既知の方法(Winter,G.& Milstein,C.(1991年)Nature,349,293〜299)に従って製造することができる。
【0080】
本発明のその他の目的は、心疾患の検出または予後に使用できるキットであり、本キットは、APJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子の発現レベルを決定することに使用できるプライマーおよび/またはプローブを含む。
【0081】
心疾患の検出および予後に使用できるキットは、試験されるサンプル中におけるAPJ受容体および/またはアペリン遺伝子の発現レベルの変化を試験するためのキットを含む。本発明のキットは、上記の遺伝子から転写されたmRNAのレベルを定量することができるキットである。発現を試験するために、本キットは、上記遺伝子からのmRNAのレベルを決定するのに使用できるプライマーおよび/またはプローブを含む。
【0082】
本発明のキットは、心疾患に罹っている患者、特にうっ血性拡張型心筋症、肥大性心筋症および冠動脈疾患に罹っている患者の心臓において、APJ受容体およびアペリン遺伝子発現が増加するという驚くべき発見に基づいている。
【0083】
上記プライマーは、上記の遺伝子に対応する核酸に特異的に結合するように設計される。このようなプライマーとしては、従来の核酸増幅法のいずれか(例えばRT−PCR)で用いられる反応条件下で、上記の遺伝子から転写されたmRNAから誘導された核酸配列を特異的に増幅することができるあらゆるプライマーが挙げられる。例えば、プライマーは、これらの遺伝子のヌクレオチド配列に基づき設計し、合成することができる。好ましい実施形態において、本キットは、上記の遺伝子から転写されたmRNAから誘導された核酸配列を特異的に増幅することができるプライマー対を含む。さらに本キットは、mRNAの増幅および遺伝子発現の定量化を行うのに適した試薬を含んでもよい。
【0084】
本発明のその他の目的は、心疾患の検出または予後に使用できるキットであり、本キットは、APJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子によってコードされたポリペプチドに特異的に結合することができる抗体を含む。
【0085】
当業界既知の多種多様な技術を用いて、所定のタンパク質が発現されるレベルを定量することができる。さらなる詳細は、上記を参照。
【0086】
【表1】

【0087】
図面の説明
図1は、pCDNA1に挿入されたマウスGαΔ6qi4myrタンパク質のコード領域のポリヌクレオチド配列を示す(配列番号1に対応する)。
αΔ6qi4myrタンパク質の遺伝子は、pCDNA1の5’および3’にそれぞれBamHIとNsiI部位を介してに挿入された。
図2は、ヒトアペリン受容体の発現プラスミドと、その受容体タンパク質のアミノ酸配列を示す(配列番号2に対応する)。
ヒトアペリン受容体遺伝子をAVEM1139400から切断し、EcoRIで切断されたpEAK8に挿入した。
図3は、一過性にコトランスフェクションされたCHO細胞における、様々なアペリンペプチドのAPJ受容体に対する作用を示す。
【0088】
当業者既知の方法に従って、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)で、APJ受容体を、コントロール(白い柱)、その他のGタンパク質αサブユニットα16(黒い柱)、および、αΔ6qi4myr(縞模様の柱)としてベクターDNAで一過性にコトランスフェクションした。細胞を、1μモル/lの以下の各ペプチド:
1 アペリン様ペプチド/Jeriniペプチド、
2 アペリン12、
3 アペリン13、
4 アペリン36、
5 pyr−アペリン、
を用いて処理し、機能的なFLIPRカルシウム分析で細胞内Ca2+濃度を決定した。ペプチド2〜5は、APJ受容体を介した細胞内カルシウム放出を誘導した。これは、機能的なカルシウム応答は、キメラ/プロミスカスなGタンパク質αサブユニットの存在を必要とすることを示す。示されたデータは、二連で行われた二回の独立した実験の平均値(蛍光強度単位,FIU)である。
【0089】
図4は、Gαi4qi4およびAPJ受容体を過剰発現する、安定してトランスフェクショ
ンされたHEK293細胞における、アペリンのAPJ受容体に対する用量依存性の作用を示す。
【0090】
HEK293細胞を、上述した通りに、GαΔ6qi4myr単独で安定してトランスフェクションし(A)、または、GαΔ6qi4myrとAPJでコトランスフェクションし(B)、
1 なし、
2 50nモル/l、
3 200nモル/l、
4 1μモル/l、
のpyr−アペリン−13(上部)、または、アペリン−36(下部)とインキュベートした。両方のペプチドが、用量依存性のAPJ受容体を介した細胞内カルシウム放出を誘導した。これは、機能的なカルシウム応答は、APJ受容体の存在を必要とすることを示す。示されたデータは、二連で行われた二回の独立した実験の平均値である(蛍光強度単位,FIU)。
【0091】
図5は、GαΔ6qi4myrタンパク質のアミノ酸の配列を示す(配列番号3に対応する)。
図6は、Gαi4qi4遺伝子のコード領域のポリヌクレオチド配列を示す(配列番号4に対応する)
図7は、Gαi4qi4タンパク質のアミノ酸の配列を示す(配列番号5に対応する)。
図8は、ヒトアペリン−12のアミノ酸の配列を示す(配列番号6に対応する)。
図9は、ヒトアペリン−13のアミノ酸の配列を示す(配列番号7に対応する)。
図10は、アペリン−36のアミノ酸の配列を示す(配列番号8に対応する)。
【0092】
配列番号の説明
配列番号1:pCDNA1に挿入されたマウスGαΔ6qi4myrタンパク質のコード領域のポリヌクレオチド配列である。
配列番号2:ヒトアペリン受容体の発現プラスミドのポリヌクレオチド配列(ヒトアペリン受容体遺伝子は、AVEM1139400から切断し、EcoRIで切断したpEAK8に挿入した)、および、受容体タンパク質のアミノ酸の配列である。
配列番号3:マウスGαΔ6qi4myrタンパク質のアミノ酸の配列である。
配列番号4:マウスGαi4qi4遺伝子のコード領域のポリヌクレオチドの配列である。
配列番号5:マウスGαi4qi4タンパク質のアミノ酸の配列である。
配列番号6:ヒトアペリン−12のアミノ酸の配列である。
配列番号7:ヒトアペリン−13のアミノ酸の配列である。
配列番号8:ヒトアペリン−36のアミノ酸の配列である。
【実施例】
【0093】
1:機能的なAPJ受容体/Gαi4qi4タンパク質細胞系
1.1.細胞培養
HEK293細胞(ヒト胚腎臓細胞)を、10%FCS(ウシ胎仔血清)を含むDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)中で、37℃(5%CO2)で成長させた。第二のトランスフェクションの後に、抗生物質ゼオシンおよびピューロマイシンを細胞に添加した。細胞を2または3日のインターバルで継代させた。
【0094】
1.2.HEK293細胞系のGαi4qi4タンパク質でのトランスフェクション
トランスフェクションのために、細胞を100mmプレートに植えた。約24時間後に、細胞を、Gαi4qi4を含むpHOOK3ベクター(インビトロジェン,メリーランド州,米国)でトランスフェクションした(図6)。安定した細胞系を使用まで凍結保存した。
【0095】
1.3.細胞系のAPJ受容体でのトランスフェクション
安定してトランスフェクションされたHEK293細胞系(Gαi4qi4遺伝子を過剰発現する)を、DMEM(10%FCS)10mlを含む100mmプレートで成長させた。24時間後、培地を除去し、新しいDMEM(10%FCS)8mlを添加した。FuGENE6トランスフェクション試薬(ロシュ(Roche),ドイツ)12μl、および、OptiMEM400μlを混合し、5分間インキュベートした。その後、内毒素非含有プラスミドDNA(APJ/pEAK8;図2を参照)4μgを添加し、サンプルをさらに10分間インキュベートした。このトランスフェクション混合物を細胞に添加した。24時間後、培地を、ゼオシン(250μg/ml)、および、ピューロマイシン(500ng/ml)を含む新しい培地で交換した。安定な細胞系を選択するために、機能性の試験で使用する前に細胞を6週間培養した。約2週間後、抗生物質耐性がない細胞は死滅した。
【0096】
2.FLIPRカルシウム分析
FLIPRカルシウム分析により、細胞内カルシウム濃度の変化を検出するための適切な方法が提供される。これは、蛍光に基づく分析であり、製造元(モレキュラーデバイス,カリフォルニア州,米国)の説明書に従って行われた。簡単に要約すると、細胞を96または384ウェルプレートに植え、ローディング緩衝液を細胞に添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を最も一般的なAPJ受容体リガンドで刺激するか、または、刺激を行わなかった。その後、FLIPRシステムのマニュアルに従って、細胞内カルシウム濃度をFLIPRで測定した。
【0097】
2.1:化学物質および器具
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
2.2:細胞系:HEK293−PSCi4qi4−APJ
HEK293−PSCi4qi4細胞を、pEAK8−APJで安定してトランスフェクションした。細胞を、ゼオシン(250μg/ml)、および、ピューロマイシン(500ng/ml)が追加された10%FCSを含むDMEM培地で成長させた。
【0101】
2.3:FLIPR分析の手順(96ウェルフォーマット用に確立された)
初期カルシウム変化を測定するために、細胞を平底の黒い壁の96ウェルのポリ−D−リシンプレートで成長させた。細胞を、200μlで、密度60,000細胞/ウェルで植え、一晩培養した(約18時間)。
【0102】
色素をローディングするために、培地を慎重に除去し、100μl/ウェルの色素ローディング緩衝液で置き換えた。細胞を37℃で1時間インキュベートし、次に分析緩衝液で3回洗浄した。洗浄の後に、90μlの緩衝液/ウェルを残した。
【0103】
90μlの分析緩衝液にアペリンペプチドを添加した(2倍濃縮)。
【表5】

【0104】
2.4:アペリンペプチドのEC50の決定
2回の独立した測定でアペリンペプチドのEC50値を決定した:
【表6】

【0105】
2.5:Z’因子の決定
Z’因子は、以下のように定義される:
【数1】

【0106】
これは、ハイスループットスクリーニングに対する分析の適性を判断するための尺度として用いられる。Z’因子の解釈は、示されるような分類スキームで補助される。
【0107】
2回の独立した測定で、96ウェルプレートの半分に500nMアペリン−13、残りの半分に分析緩衝液を用いてZ’因子を決定した。計算された平均Z’因子は0.91で
あった。
【0108】
(分類:
理想的な分析は、z=1であり、
優れた分析は、1>z>0.5であり、
±許容できる分析は、0.5>z>01であり、
「yes/no」型は、z=0であり、
スクリーニング不可能は、z<0である)。
【0109】
2.6:DMSO依存状態の決定
アペリン−13のEC50値を、DMSO濃度を高めながら(0〜10%)決定した。分析において、アペリン−13のEC50値に影響を与えることなく許容できるDMSOの最大の最終濃度は、2%であった。
【0110】
2.7:アペリンペプチドの安定性の決定
製造元の説明書に従って、アペリンペプチドを滅菌水に溶解させ、+4℃で保存した。それによりアペリンペプチドは安定であり、再現可能なEC50値を示した。室温で5時間放置された場合(分析緩衝液中、最終濃度で)、アペリンペプチドのEC50値は少なくとも2倍低下し、これは、ペプチドはこのような条件下では安定ではないことを示す。
【0111】
3.正常な心臓および罹患した心臓におけるAPJ受容体およびアペリンの遺伝子発現レベル
総数514の明確な正常な心臓および罹患した心臓サンプルに関する発現の特徴(患者の臨床的な情報を伴う)を示す遺伝子発現ライブラリーを、当業者既知の標準的な方法に従って得た。正常な心臓および罹患した心臓における遺伝子発現を、HG−U95A−Eジーンチップ(GeneChips)(アフィメトリックス(Affymetrix),サンタクララ,カリフォルニア州)を用いて比較した。罹患した心臓において、APJ受容体遺伝子は6倍を超えてアップレギュレートされた(表1)。より詳細な解析によれば、うっ血性拡張型心筋症を有する患者(n=124)、冠動脈疾患を有する患者(n=3
01)、および、肥大性心筋症を有する患者(n=37)からの心臓サンプルにおいて、APJ受容体は、コントロールとして正常な欠陥のない心臓(n=52)に比べて著しくアップレギュレートされることが示された。類似の発現パターンを、アペリン、APJ受容体に関する内因性ペプチドリガンドから得ることができ、それにおいて、遺伝子は、罹患した心臓において2倍を超えてアップレギュレートされた。心房と心室、または、左心と右心を比較したところ、両方の遺伝子の発現パターンにおいて有意差は観察されなかった(データ示さず)。
【0112】
[図面の簡単な説明]
図1は、pCDNA1に挿入されたマウスGαΔ6qi4myrタンパク質のコード領域の
ポリヌクレオチド配列を示す(配列番号1に対応する)。
図2は、ヒトアペリン受容体の発現プラスミドと、その受容体タンパク質のアミノ酸配列を示す(配列番号2に対応する)。
図3は、一過性にコトランスフェクションされたCHO細胞における、様々なアペリンペプチドのAPJ受容体に対する作用を示す。
図4は、Gαi4qi4およびAPJ受容体を過剰発現する、安定してトランスフェクションされたHEK293細胞における、アペリンのAPJ受容体に対する用量依存性の作用を示す。
図5は、GαΔ6qi4myrタンパク質のアミノ酸の配列を示す(配列番号3に対応する)。
図6は、Gαi4qi4遺伝子のコード領域のポリヌクレオチド配列を示す(配列番号4に対応する)
図7は、Gαi4qi4タンパク質のアミノ酸の配列を示す(配列番号5に対応する)。
図8は、ヒトアペリン−12のアミノ酸の配列を示す(配列番号6に対応する)。
図9は、ヒトアペリン−13のアミノ酸の配列を示す(配列番号7に対応する)。
図10は、アペリン−36のアミノ酸の配列を示す(配列番号8に対応する)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)APJ受容体またはその機能的な変異体、および、
(b)GαΔ6qi4myrタンパク質、Gαi4qi4タンパク質、Gα16タンパク質から選択されるGαタンパク質、
を含み、ここにおいて、APJ受容体リガンドの該APJ受容体またはその機能的な変異体への結合は、測定可能なシグナルまたは検出可能なシグナルに作用する、APJ受容体リガンドを同定するための試験システム。
【請求項2】
リガンドは、アゴニストである、請求項1に記載の試験システム。
【請求項3】
アゴニストは、完全、部分またはインバースアゴニストである、請求項2に記載の試験システム。
【請求項4】
リガンドは、アンタゴニストである、請求項1に記載の試験システム。
【請求項5】
APJ受容体は、哺乳動物のAPJ受容体またはその変異体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の試験システム。
【請求項6】
APJ受容体は、ヒト、マウスまたはラットのAPJ受容体またはその変異体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の試験システム。
【請求項7】
APJ受容体は、ヒトのAPJ受容体またはその変異体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の試験システム。
【請求項8】
シグナルは、Ca2+濃度の変化である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の試験システム。
【請求項9】
遺伝操作された細胞内に存在しており、成分(a)または(b)の少なくとも一方が、該細胞に導入されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の試験システム。
【請求項10】
一過性の、または安定なトランスフェクションされた細胞系またはそれらの膜に存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の試験システム。
【請求項11】
(a)請求項1〜10のいずれか一項に記載の試験システムを提供する工程、
(b)試験化合物を提供する工程、
(c)場合により、既知のAPJ受容体リガンドを提供する工程、および、
(d)APJ受容体介在シグナル伝達経路に対する上記試験化合物の作用を測定または検出する工程、
を含む、APJ受容体リガンドのスクリーニング方法。
【請求項12】
リガンドは、アゴニストである、請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
アゴニストは、完全、部分またはインバースアゴニストである、請求項12に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
リガンドは、アンタゴニストである、請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
試験化合物は、化合物ライブラリーの形態で提供される、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
細胞全体を用いて行われる、請求項11〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ロボットシステムで行われる、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
APJ受容体リガンドのハイスループットスクリーニング方法である、請求項11〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
(a)請求項11〜18のいずれか一項に記載の方法を行うことによって、APJ受容体リガンドを同定する工程、
(b)十分な量のリガンドを提供する工程、および、
(c)1種またはそれ以上の製薬上許容できるキャリアーまたは補助剤を用いて上記リガンドを製剤化する工程、
を含む、医薬品の製造方法。
【請求項20】
(a)試験されるサンプル中におけるAPJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子の発現レベルを決定する工程、
(b)工程(a)で決定された試験されるサンプル中におけるAPJ受容体および/またはアペリンの発現レベルを、コントロールプローブ中におけるAPJ受容体および/またはアペリンの発現レベルと比較する工程、および、
(c)APJ受容体および/またはアペリン遺伝子発現が増加したサンプルを同定する工程
を含む、心疾患の診断または予後の方法。
【請求項21】
APJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子の発現レベルは、該遺伝子から転写されたmRNAのレベル、または、該遺伝子から翻訳されたポリペプチドのレベルに基づき決定される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
mRNAのレベルは、ハイブリダイゼーション法、または、核酸増幅法によって決定される、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
ポリペプチドのレベルは、ポリペプチドまたはそれらのフラグメントに特異的に結合することができる結合タンパク質を用いることによって決定される、請求項20または21に記載の方法。
【請求項24】
APJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子の発現レベルを決定することに使用できるプライマーおよび/またはプローブを含む、心疾患の発見または予後に使用できるキット。
【請求項25】
APJ受容体遺伝子および/またはアペリン遺伝子によってコードされたポリペプチドに特異的に結合することができる抗体を含む、心疾患の発見または予後に使用できるキット。

【公開番号】特開2011−67208(P2011−67208A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244917(P2010−244917)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【分割の表示】特願2006−525705(P2006−525705)の分割
【原出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】