説明

Al合金基板から貴金属等を回収する方法

【課題】Al合金基板を有する記録メディアからPt、Ru等の貴金属を回収する方法において、Pt、Ru等の貴金属と共に基板であるAl合金をも簡便かつ効率よく分離して回収できる処理方法を提供する。
【解決手段】Al合金基板の表面に磁性層が形成されている記録メディアを、酸素雰囲気下で、450℃以上であってAl合金の融点より低い温度に加熱した後に冷却することによってAl合金基板から磁性層を剥離させ、Al合金を回収すると共に剥離した磁性層から貴金属を回収することを特徴とするAl合金基板から貴金属等を回収する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属を含む電子基板等から貴金属等を効率よく回収する方法に関し、より具体的には、例えば Al合金基板上にPt、Ruなどの貴金属を含む磁性記録層が形成されている記録メディアについて、Al合金基板から磁性記録層を簡便に効率よく分離して貴金属とAl合金を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に含まれる貴金属を回収する方法として、貴金属含有部分を物理的に分離する処理方法や、基板全体を溶解する処理方法などが従来から知られている。例えば、基板表面に貴金属を含むアルミコート層が形成されている材料から貴金属を回収する方法として、アルミコート層をサンドブラスト等によって物理的に剥離した後に、アルミコート層を王水等に浸漬して貴金属を溶解し、回収する湿式回収法が知られている(特許文献1)。また、銅熔錬処理工程に電子基板を投入し、貴金属を銅中に溶融させて回収する乾式回収法(特許文献2)が知られている。
【0003】
ところで、近年大量に生産されているハードディスク(HDD)に使用されている記録メディアにはPt、Ru等の貴金属が微量ではあるが含有しているため、メディア製造工程から発生するスペックアウト品や廃棄ハードディスク中の記録メディアからのPt、Ruの回収が望まれている。
【0004】
一般に、記録メディアにはガラス基板を有するものとAl合金基板を有するものの2種類あり、Al合金基板を有する記録メディアからは貴金属のみならずAl合金も有価金属として回収できれば好ましい。ところが、従来の回収処理方法ではいくつかの問題がある。例えば、記録メディアをそのまま王水等に浸漬し溶解して貴金属を回収する場合、大量の溶液を使用するため薬液コストが高くなると云う問題や、貴金属のみの溶解に留まらず、下地のAl合金基板も溶解してしまうため、回収されるAl合金量が少なくなると云う問題がある。
【0005】
また、基板表面から数百nm〜数μmの深さに存在するPt、Ruを含む磁性層をサンドブラスト処理してAl合金基板から剥離した後に、それぞれを溶解してPt、RuやAlを回収する方法が知られているが、この方法では磁性層が細かく粉砕されて剥離されるので、剥離された磁性層に含まれる貴金属がブラスト粉中に低濃度で分散してしまい、その結果、回収コストが高くなると云う問題がある。さらに貴金属と一緒にAl合金基板も若干ながら剥離してしまうため、Al合金の回収率も低くなる。一方、銅熔錬処理工程等に記録メディアを投入する乾式回収法では、Ptは回収できるが、Ruは酸化体になってスラグ中に溶融してしまうので大部分が回収されず、またAl合金も回収されないと云う問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−212297
【特許文献2】特開平9−78151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、Al合金基板を有する記録メディアからPt、Ru等の貴金属を回収する方法において、従来の回収方法における上記問題を解決したものであり、Pt、Ru等の貴金属と共に基板であるAl合金をも簡便かつ効率よく分離して回収できる処理方法を提供する。
【0008】
本発明は、以下の構成からなる貴金属等の回収方法に関する。
〔1〕Al合金基板の表面に磁性層が形成されている記録メディアを、酸素雰囲気下で、450℃以上であってAl合金の融点より低い温度に加熱した後に冷却することによってAl合金基板から磁性層を剥離させ、Al合金を回収すると共に剥離した磁性層から貴金属を回収することを特徴とするAl合金基板から貴金属等を回収する方法。
〔2〕記録メディアを、酸素雰囲気下で、450℃以上〜600℃未満に加熱した後に、室温まで冷却することによってAl合金基板から磁性層を剥離する上記[1]に記載する貴金属等の回収方法。
〔3〕加熱と冷却を複数回繰り返す上記[1]または上記[2]に記載する貴金属等の回収方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の回収方法によれば、記録メディアを酸素雰囲気下で加熱冷却することによってAl合金基板と磁性層との間に剥離を生じさせ、Al合金基板から磁性層を剥がすので、Al合金基板から磁性層を簡便かつ効率よく分離することができる。
【0010】
本発明の回収方法はブラスト処理のような機械的剥離を行わないので、剥離した磁性層が粉砕してブラスト粒子に混在して後処理が面倒になることがなく、剥離した磁性層の回収が容易である。この磁性層に含まれるPt、Ru等の貴金属は剥離した磁性層を湿式処理して容易に回収することができる。また、Al合金基板がブラスト処理によって削られることがないので、Al合金の回収率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】記録メディアの代表的な構造を示す模式図
【図2】本発明の処理工程図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の処理方法は、Al合金基板の表面に磁性層が形成されている記録メディアを、酸素雰囲気下で、450℃以上であってAl合金の融点より低い温度に加熱した後に冷却することによってAl合金基板から磁性層を剥離させ、Al合金を回収すると共に剥離した磁性層から貴金属を回収することを特徴とするAl合金基板から貴金属等を回収する方法である。
【0013】
Al合金基板を有する記録メディアの代表的な構造を図1に示す。図示する構造は、Al合金(Al-Mg等)基板の表面に、Al合金基板の表面変形防止のために下地硬化層としてNi-P無電解めっき層が設けられており、この下地硬化層の上に磁性層が設けられている。該磁性層は研磨加工によって平面化した下地硬化層表面にスパッタリング法等によって成膜形成されている。該磁性層にはCo、Cr、Pt、Ru等の貴金属が含まれている。磁性層の表面(記録メディアの最表面)には保護層が設けられている。
【0014】
記録メディアの図示する構造において、磁性層や保護層の成分、膜厚等の詳細はメーカーによって異なるが、何れの記録メディアもAl合金上には共通に下地層としてNi膜(Ni-P膜等)が形成されている。本発明の処理方法は、記録メディアを酸素雰囲気下で加熱冷却することによって、Al合金基板と磁性層のNi-P膜等との間に剥離を生じさせる方法であるので、何れのメーカーの製品についても基本的に適用することができる。なお、本発明の処理方法において、Al合金基板の表面に形成されている磁性層とは下地硬化層(Ni-P膜等)および保護層を含む態様を云う。
【0015】
本発明の処理方法は、図2に示すように、Al合金基板の表面に磁性層が形成されている記録メディアを酸素雰囲気下で加熱した後に冷却する。記録メディアのAl合金基板表面は下地層のNiめっきを施す際に、脱脂や酸化膜除去等の密着性を向上させる処理が行なわれているため、単純な加熱冷却処理を行なっても、Al合金基板と磁性層とを簡単に分離することは難しい。
【0016】
例えば、Al合金(Al-Mg等)の線膨張率はおおよそ19〜25×10-6/Kであり、ニッケル(Ni)の線膨脹率は13.4×10-6/Kであって、6〜12×10-6/K程度異なるが、単純な加熱冷却処理を行なってもAl合金基板と磁性層とは剥離しない。
【0017】
そこで、本発明は加熱温度、加熱時間と共に加熱雰囲気についても検討し、記録メディアを酸素雰囲気下で加熱する。酸素雰囲気は大気下あるいは酸素を含む酸化雰囲気であればよい。
【0018】
酸素雰囲気下で加熱することによって、Al合金基板−Ni膜間にアルミナ−NiO(酸化ニッケル)が生じ、詳細な剥離メカニズムは不明な部分があるが、これら酸化膜ができることにより界面が脆くなり、または酸化物中の金属イオンの外方拡散によりボイドが生じ、界面での接触面積が減少して密着力が減少し、アルミナとNiOとの熱膨張率の差によってアルミナ−NiO間に剥離が生じて磁性層の剥離が進むものと考えられる。なお、アルミナとNiOの線膨張率はそれぞれ5.4×10-6/K、14×10-6/Kであり、約2.6倍の線膨張率の差があるが、この線膨張率の差と共に酸化膜の生成による界面の脆弱化が磁性膜の剥離を促すと考えられる。
【0019】
本発明の処理方法において、加熱温度は450℃以上であってAl合金の融点より低い温度が適当である。450℃未満では90分加熱しても磁性層が剥離しない。一方、加熱温度がAl合金の融点以上になると、Al合金基板が磁性層に癒着した状態になり、磁性層を剥離することができない。一般に600℃以上に加熱するとAl合金基板が軟化した状態になるので、概ね加熱温度は450℃以上〜580℃未満が好ましい。また、加熱温度が550℃以上であれば30分程度の加熱で良い。
【0020】
上記加熱処理の後に冷却する。冷却は例えば室温まで放冷すればよい。冷却によって磁性膜がAl合金基板から剥がれるので、これらをおのおの回収する。
【0021】
本発明の処理方法は、通常、加熱および冷却を1サイクル行うことによって概ね90%以上の磁性層を剥離することができるが、僅かに剥離残りが生じる場合がある。このときには加熱および冷却を2サイクル以上繰り返すことによって磁性層をほぼ100%剥離することができる。
【0022】
剥離した磁性膜とAl合金基板とを、例えば、比重分離などによって選択的に回収する。磁性膜にはPt、Ruなどの貴金属が含まれているので、これを湿式処理して回収することができる。剥離した磁性膜から例えば以下のような湿式処理によってPt、Ruを回収することができる。
【0023】
(イ)剥離した膜を塩酸と酸化剤(例えば過酸化水素)に浸漬して溶解する。この塩酸浸出によって主にニッケル(Ni)と白金(Pt)が溶解し、ルテニウム(Ru)は残渣中に残る。
(ロ)この液に塩化アンモニウムを加えると、白金が塩化白金酸アンモニウムとして析出するので、これを固液分離して白金を分離・回収することができる。
(ハ)一方、上記残渣を水酸化アルカリと酸化剤(例えば亜塩素酸塩)の液に加えてルテニウム(Ru)を溶解した後、溶液に還元剤(例えばメタノールやヒドラジン)を加えると水酸化ルテニウムが沈澱するので、これを固液分離してRuを回収する。
(二)回収した塩化白金酸アンモニウム、水酸化ルテニウムはそれぞれ必要に応じて高純度化処理を行なう。この高純度化処理は、例えば、白金含有溶液に塩化アンモニウムを添加して塩化白金酸アンモニウムを沈殿させ、この沈澱を回収して塩酸酸性温水に溶解し、この溶液にチオ尿素を添加して白金チオ尿素錯体を沈澱させ、この沈澱を回収し焼成して白金粉を回収する処理を行えばよい(特開2010-222612号、特開2010-222613号参照)。
【0024】
本発明の処理方法は、磁性層を剥離するときにサンドブラスト処理していないので、ブラスト粉に由来する不純物(例えばブラスト主成分であるアルミナやSiC)が含まれていないため、例えば湿式処理によるPt、Ru回収工程での薬液コストが減り、またAl合金も殆ど全量を回収することができる。
【実施例】
【0025】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。なお、記録メディアは加熱炉で加熱し、炉内温度を熱電対で測定した。
【0026】
〔実施例1〕
廃棄された記録メディアを大気中で、550℃で30分加熱した後、室温まで冷却する処理を2回行なったところ、アルミ合金基板の磁性膜は全て剥離され、基板表面に剥離残りが無かった。
【0027】
〔実施例2〕
廃棄された記録メディアを大気中で、550℃で30分加熱した後、室温まで冷却する処理を1回行なったところ、アルミ合金基板の磁性膜の大部分が剥離した。基板表面の剥離残りは表面全体の約10%に止まった。
【0028】
〔比較例1〕
廃棄された記録メディアを大気中で、400℃で90分加熱した後、室温まで冷却する処理を1回行なったところ、加熱温度が低いためにアルミ合金基板の磁性膜は剥離されなかった。
【0029】
〔比較例2〕
廃棄された記録メディアを大気中で、600℃で30分加熱した後、室温まで冷却する処理を1回行なったところ、アルミ合金基板に磁性膜が癒着した状態になり、磁性膜は剥離されなかった。
【0030】
〔比較例3〕
廃棄された記録メディアを、非酸化性雰囲気(窒素ガス雰囲気)で、550℃で30分加熱した後、室温まで冷却する処理を1回行なったところ、アルミ合金基板の磁性膜は剥離されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al合金基板の表面に磁性層が形成されている記録メディアを、酸素雰囲気下で、450℃以上であってAl合金の融点より低い温度に加熱した後に冷却することによってAl合金基板から磁性層を剥離させ、Al合金を回収すると共に剥離した磁性層から貴金属を回収することを特徴とするAl合金基板から貴金属等を回収する方法。
【請求項2】
記録メディアを、酸素雰囲気下で、450℃以上〜600℃未満に加熱した後に、室温まで冷却することによってAl合金基板から磁性層を剥離する請求項1に記載する貴金属等の回収方法。
【請求項3】
加熱と冷却を複数回繰り返す請求項1または請求項2に記載する貴金属等の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153968(P2012−153968A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16629(P2011−16629)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】