説明

ApoEペプチドにより癌を治療する方法

ApoEペプチドを投与することにより、対象における慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、および乳癌を治療する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] 本出願は、2008年7月1日に出願され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国仮出願第61/077,311号に基づく優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
[0002] 本発明は、アポリポタンパク質E(ApoE)に由来する少なくとも1つのペプチドを投与することにより癌を治療する方法に関する。ApoEペプチドの投与は、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し、腫瘍の形成、腫瘍の増殖、および腫瘍細胞の広がりを抑制する。特に、各種の白血病および乳癌を治療する方法が説明される。
【背景技術】
【0003】
[0003] 癌とは、細胞群が、制御不能の増殖、隣接組織に対する浸潤および破壊、ならびに転移(体内の他の位置への異常な細胞の広がり)を示すか、または細胞が、適切な時点におけるプログラム細胞死(例えば、アポトーシス)を起こすことができなくなる疾患の種類である。癌は、すべての死亡のうち、約13%の原因となり、米国癌協会によれば、2007年には、世界中で760万人の人々が癌で死亡している。癌に対する最新の治療は、具体的な癌の種類、また、関与する組織に依存するが、これには、他の方法にもまして、手術、化学療法、放射線療法、免疫療法、およびモノクローナル抗体療法が含まれる。これらの治療方法は、一部の場合には奏効しているが、有害な副作用または有効性の制約が妨げとなっている。例えば、手術による腫瘍の切除を介する癌性組織除去の有効性は、癌が隣接組織に浸潤し、体内の他の部位へと転移する傾向により制約されることが多い。放射線治療のほか、化学療法も、体内の他の組織への毒性または損傷により制約されることが多い。したがって、癌は、依然として主要な健康問題であり、癌を治療する方法の改善が必要とされている。
【0004】
[0004] 米国で男性および女性において最も致死的で一般的な2つの癌は、それぞれ、白血病および乳癌である。白血病には4つの基本的な種類:急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、および慢性骨髄性白血病(CML)が存在する。CLLは、欧米諸国で最も高頻度の白血病であり、7大先進国でほぼ84,000例にのぼる。CLLは、主に、アポトーシスとして知られるプログラム細胞死過程の欠損により引き起こされる悪性状態である。アポトーシスの制御不全の結果として、血液塗抹標本の調製時に容易に破壊される成熟モノクローナルB細胞が、血中に蓄積される(Rozman et al.(1995)N. Engl. J. Med., Vol. 333: 1052-1057)。CLLにおいて、悪性細胞は、一部にわずかな異質性はあるが、成熟B細胞により提示される表面マーカーの大部分の発現を特徴とする、小型のBリンパ球である(Caligaris-Cappio and Janossy(1985)Semin Hematol., Vol. 22: 1-12)。悪性CLL細胞の最も顕著な表現型特徴は、表面のモノクローナル免疫グロブリンが事実上検出不可能な量であること、また、正常時には成熟T細胞上で見出され、成熟B細胞上では見出されない表面マーカーである、CD5の発現である(Boumsell et al.(1978)Eur. J. Immunol., Vol. 8: 900-904; Ternynck et al.(1974)Blood, Vol. 43: 789-795)。CLLの臨床経過は異質であり、一部の患者が、集中治療を必要とする侵襲性の経過を経験しうるのに対し、他の患者は、まったく治療を必要とすることなく、長期にわたる生存を経験しうる。この疾患は、悪性クローンがその悪性挙動を漸進的に増大させる、順次的な遺伝子異常を獲得するので進行性である。CLLは、老齢男性で最も罹患率が高く、診断時における中央値年齢は64歳である。CLLが、イオン化照射または化学物質に対する曝露と関連しない唯一の成人白血病であり、免疫不全症候群を有する患者における発生が高頻度ではないことは注目に値する。
【0005】
[0005] CMLは、世界中でほぼ15,000人の患者がこれに罹患し、また、2つの異なる病期を有する、多能性造血幹細胞の障害である。持続的な骨髄増殖性の慢性期の後、急速な致死性の芽球発症が生じる。CMLでは、染色体の転座により、BCRタンパク質とAblキナーゼとの融合体が生成され、これにより、Ablの構成的活性化がもたらされる。Ablのこの構成的活性化が、慢性期CMLの誘導に十分であることが示されている。Gleevecおよび他のBCR/Abl阻害剤の導入により、CMLの治療には進展がなされているが、近年、Gleevec耐性CMLが報告されており、懸念が増大している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[0006] 特定の種類の癌それぞれに対する個別の治療は多数存在すること、及び、かかる治療の副作用は潜在的に重度であることを踏まえて、健常な組織に対する望ましくない毒性または損傷を引き起こすことなく、複数種類の癌に対して有効な新規の癌治療剤を開発することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007] 本発明は、ApoEペプチドを用いて癌を治療しうるという発見に基づく。したがって、本発明は、それを必要とする対象における癌を治療する方法であって、有効量の、少なくとも1つのApoEペプチドを該対象に投与する工程を含む方法を提供する。一実施形態において、前記ApoEペプチドの投与は、対象における腫瘍の形成を低下させる。別の実施形態において、前記ApoEペプチドの投与は、対象における腫瘍サイズを縮小させる。別の実施形態において、前記ApoEペプチドの投与は、対象における癌細胞のアポトーシスを誘導する。さらに別の実施形態において、前記ApoEペプチドの投与は、対象における健全な組織に対する癌細胞の広がりを抑制する。
【0008】
[0008] ApoEペプチドは、天然のApoEホロタンパク質の10以上の残基を含有しうる。本発明の一実施形態において、ApoEペプチドは、COG133(配列番号1)である。別の実施形態において、ApoEペプチドは、COG112(配列番号2)またはCOG068(配列番号8)である。さらに別の実施形態において、ApoEペプチドは、COG1410(配列番号4)またはCOG345(配列番号6)など、COG133誘導体である。本発明において有用な他のApoEペプチドは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国出願公開第2009/0042783A1号において説明されている。
【0009】
[0009] 一実施形態において、ApoEペプチドは、配列番号1、配列番号2、もしくは配列番号4、あるいはN末端もしくはC末端、またはN末端およびC末端の両方における1〜5のさらなるアミノ酸、またはアミノ酸類似体に連結され、このようなさらなるアミノ酸が、該ペプチドの活性に有害な影響を及ぼさない、米国出願公開第2009/0042783A1号に記載の誘導体のいずれかを含有しうる。配列番号1もしくは配列番号2、または他のApoE由来ペプチドを含有するApoEペプチドは、12以上のアミノ酸、13以上のアミノ酸、14以上のアミノ酸、15以上のアミノ酸、16以上のアミノ酸、17以上のアミノ酸、18以上のアミノ酸、19以上のアミノ酸、20以上のアミノ酸、25以上のアミノ酸、30以上のアミノ酸、35以上のアミノ酸、または40以上のアミノ酸を含有しうる。一部の実施形態において、ApoEペプチドは本質的に、配列番号1、配列番号2、または配列番号4からなる。他の実施形態において、ApoEペプチドは、細胞の透過を容易にするため、タンパク質形質導入ドメインにコンジュゲートさせることができる。タンパク質形質導入ドメインには、アンテナペディア、TAT、SynB1、SynB3、SynB5、およびポリアルギニンに由来するペプチドが含まれうる。
【0010】
[0010] 本発明はまた、有効量の、少なくとも1つのApoEペプチドを投与することにより、それを必要とする対象における白血病を治療する方法も包含する。一実施形態において、前記白血病は、慢性リンパ性白血病(CLL)である。別の実施形態において、前記白血病は、慢性骨髄性白血病(CML)である。一部の実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象におけるCD5+B細胞の数を減少させうる。他の実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象におけるBCR/ABL+細胞の増殖を低下させうる。特定の実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象におけるイマチニブ耐性BCR/ABL+細胞またはダサチニブ耐性BCR/ABL+細胞の増殖を低下させうる。
【0011】
[0011] 本発明はまた、それを必要とする対象における乳癌を治療する方法も意図する。一実施形態において、該方法は、有効量の、少なくとも1つのApoEペプチドを対象に投与する工程を含む。別の実施形態において、乳癌は、Her2の発現を特徴とする。別の実施形態において、乳癌は、エストロゲン受容体の発現を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】[0012]多様な形態の癌における異常なシグナル伝達カスケードの概略図である。(A)PI−3キナーゼ−Aktシグナル伝達カスケードの過剰活性化が、慢性骨髄性白血病(CML)および乳癌において持続的な抗アポトーシス状態を引き起こすことを示す図である。BCR/AblおよびHer2/Neuなどの異常な受容体キナーゼによりもたらされるこの経路の構成的活性化は、Aktキナーゼのリン酸化および活性化を遷延させる。次いで、活性化したAktは、カスパーゼ9およびBadを含めたアポトーシス促進性タンパク質(緑色で示す)をリン酸化し、それらの不活化をもたらす。活性化したAktはまた、IκKも活性化し、これにより、NFκB転写活性が活性化され、これにより、抗アポトーシスタンパク質であるA1、Bcl−xL、および誘導性一酸化窒素シンターゼ(赤色で示す)が発現する。例えば、ApoEペプチドによる治療を介するPP2Aの活性化は、Akt、IκK、およびBadを直接的に脱リン酸化することにより、このシグナル伝達経路の構成的活性化を可逆化する。(B)B細胞性慢性リンパ性白血病(CLL)におけるTCL1−Aktシグナル伝達経路を示す図である。増殖因子および生存因子は、それらの受容体を介してPI−3キナーゼを活性化する。PI−3Kは、細胞膜に位置するリン脂質をリン酸化し、これにより、該膜へのAktキナーゼの転位を誘導し、そこで、Aktは、Thr308およびSer437においてリン酸化し、これにより、該キナーゼを活性化させる。CLLの成熟B細胞において過剰発現するTCL1は、Aktキナーゼに結合し、そのキナーゼ活性をさらに上昇させる。TCL1の過剰発現(CLLにおける)は、Akt標的のリン酸化レベルを上昇させ、結果として、アポトーシスに対する耐性および細胞生存の延長をもたらす。
【図2】[0013](A)COGペプチドがAkt/NFκBシグナル伝達カスケードの活性化を阻害することを示す図である。6ウェルプレート内のBV2ミクログリア細胞を、5μM COG133の存在下におけるLPS 100ng/mLにより処理した。細胞を回収し、Laemmli試料緩衝液中で溶解させ、10%のポリアクリルアミドゲル上で泳動させ、ニトロセルロースへとウェスタンブロットした。ブロットは、抗リン酸化IκBα抗体、または同類の抗IκBα抗体によりプローブした。(B)刺激されたBV2ミクログリア細胞から単離された核を溶解させ、32Pにより末端標識されたκB結合オリゴヌクレオチドと共にインキュベートすることにより、核内へのNFκBの転位をモニタリングし、ポリアクリルアミドゲル上で泳動させた。ゲルは乾燥させ、X線フィルムに曝露した。矢印が、NFκBの位置を示す。(C)単独の、またはCOG112ペプチドの存在下におけるLPSにより刺激されたミクログリアから単離されたリン酸化Aktキナーゼおよびアクチンについてプローブされたウェスタンブロットの濃度測定解析を示す図である。リン酸化したAktキナーゼからのシグナルは、アクチンからのシグナルにより標準化した。リン酸化Aktキナーゼについてプローブされた代表的なブロットを、棒グラフの下に示す。(D)COG112ペプチドの存在下(黒四角)または不在下(白四角)において、YAMC細胞をC.ローデンチウム(C.rodentium)に曝露したことを示す図である。表示される時点において、刺激された細胞溶解物中のIκK活性をELISA法により測定した。時点0は、C.ローデンチウムにより刺激されていない細胞を示す。C.ローデンチウム単独との対比で、§:p<0.05、§§:p<0.01;n=3;個別の実験を2連で実施した。
【図3】[0014]COG112による処理を介するPP2Aの活性化を示す図である。RAW細胞の培養物を、30分間にわたり表示される化合物により処理した後で、NP40溶解緩衝液中で溶解させた。PP2Aを免疫沈降させ、活性についてアッセイした。
【図4】[0015]ヒト患者に由来するCLL細胞またはPBMC細胞に対するCOG112についての用量反応曲線を示す図である。CLL患者7例からCLL細胞を単離する一方で、健康な患者5例からPBMC細胞を単離した。ヒトCLL細胞およびヒトPBMCを単離し、多様な濃度のCOG112に曝露したときの細胞傷害性についてアッセイした。
【図5】[0016]CLL細胞のアポトーシスに対するCOG112についての用量反応曲線を示す図である。ヒトCLL細胞を単離し、COG112の濃度を上昇させながらこれに曝露した。該細胞をAnnexin V−FITCおよびヨウ化プロピジウムにより染色し、その後フローサイトメトリー解析を行うことにより、アポトーシスを解析した。Annexin V+細胞/ヨウ化プロピジウム+細胞の百分率を、COG112濃度に対してプロットする。陽性対照として、エトポシドを用いた。
【図6】[0017]CLL細胞中ではSETが過剰発現することを示す図である。CLL患者12例(CLL)および正常患者5例(PBMC)に由来する細胞試料について測定された、SET/β−アクチン比の散布プロットを示す図であり、これにより、B−CLL細胞内におけるSET発現の著明な上昇が示される。SETタンパク質およびβ−アクチンタンパク質を表わすウェスタンブロットを、プロットの下に示す。
【図7】[0018]BCR/ABL+ K562 CML細胞に対するCOG112の効果を示す図である。(A)K562 CML細胞に対するCOG112についての用量反応曲線を示す図である。陽性対照として、イマチニブを用いる。(B)COG112およびイマチニブが、K562 CML細胞の増殖に対して相乗効果を及ぼすことを示す図である。BCR/Abl+ K562 CML細胞は、表示される化合物または化合物の組合せの存在下で増殖させ、トリパンブルーにより染色した。培養物中における、トリパンブルー染色された細胞の数をカウントし、時間に対してプロットした。
【図8】[0019](A)化合物により処理されないか、または24時間にわたり用量0.5μMもしくは1.0μMのCOG112により処理された、K562細胞のリン酸化BCR/ABLについてのウェスタンブロット解析を示す図である。(B)24時間にわたり表示される用量のCOG112により処理されたK562細胞のPP2A活性を示す図である。
【図9】[0020]1μM COG112ペプチドの不在下および存在下における、Jurkat T細胞白血病細胞の増殖曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0021] 本発明は、ApoEペプチドを用いて多様な形態の癌を治療しうるという発見に基づく。したがって、本発明は、それを必要とする対象に少なくとも1つのApoEペプチドを投与することにより、該対象における癌を治療する方法を提供する。
【0014】
[0022] COGペプチドとも呼ばれるApoEペプチドは、天然のApoEホロタンパク質に由来するペプチドである。本発明の一実施形態において、ApoEペプチドは、ApoEの残基133〜149を含みうる。別の実施形態において、ApoEペプチドは、COG133(LRVRLASHLRKLRKRLL(配列番号1))である。COG133は、脳虚血または脳炎を治療または軽減するのに有用であることが既に分かっている。2002年9月23日に出願され、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、米国出願公開第2003/0077641A1号を参照されたい。ApoE 130〜150ペプチドの多数の類似体が既に作製され、炎症性サイトカインおよびフリーラジカルの放出に対する抑制についての細胞ベースのアッセイにおいて、また、受容体結合アッセイにおいて、それらの活性が既に調べられている(それらの各々の内容が参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Lynch et al.(2003)J. Biol. Chem., Vol. 278(4): 48529-33;また、2002年9月23日に出願された米国出願公開第2003/0077641A1号;2007年4月17日に交付された米国特許第7,205,280号;および1999年3月1日に出願された米国出願第09/260,430号)。本発明の方法において有用なApoEペプチドは、アミノイソ酪酸およびアセチルリシンなど、非天然のアミノ酸置換、また、該ペプチドのアルファ螺旋含量を増大させる他の修飾を有する誘導体を含めた、天然のApoEタンパク質に由来する10以上の残基を含有するペプチドの誘導体でありうる。例えば、本発明の方法において用いるのに適するApoEペプチド誘導体には、
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

[式中、(NMe)−Lは、N−メチル化ロイシンであり、Aibは、アミノイソ酪酸であり、(orn)は、オルニチンであり、(narg)は、ニトロアルギニンであり、(NLe)は、ノルロイシンであり、(harg)はホモアルギニンであり、(dmarg)は、ジメチルアルギニンであり、(aclys)は、アセチルリシンであり、(azlys)は、アザリシンであり、Acは、アセチル化されたカルボキシ末端である]が含まれるがこれらに限定されない。
【0017】
[0023] 一部の実施形態において、ApoEペプチドは、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、WO2008/080082において説明される通り、また、SETとしても知られる、タンパク質ホスファターゼ2A内因性阻害剤2(I2PP2A)に結合しうる。他の実施形態において、ApoEペプチドは、配列LRVRLASHLRKLRKRLL(配列番号1)を有するペプチドであるCOG133の類似体または誘導体である。別の実施形態において、ApoEペプチドは、COG1410(Ac-AS-Aib-LRKL-Aib-KRLL-NH2(配列番号4))である。別の実施形態において、ApoEペプチドは、COG345(LRVRLAS-aib-LRKLRK(ac)RLL(配列番号6))である。
【0018】
[0024] 本発明の別の実施形態において、COG133および他のApoEペプチドの有効性は、2005年9月2日に出願され、2004年9月2日に出願された米国仮出願第60/606,506号、2004年9月9日に出願された同第60/608,148号、2004年9月2日に出願された同第60/606,507号の優先権を主張し、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、PCT出願第WO2006/029028号において説明される通り、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)へのコンジュゲーションにより改善することができる。PTDは、さもなくば細胞膜の横断が不可能であるか、または最小限度にとどまるであろうカーゴの細胞内送達を促進する、短鎖の塩基性ペプチドである。ApoEペプチドにコンジュゲートしうるPTDの非限定的な一部の例には、アンテナペディア、SynB1、SynB3、SynB5、TAT、およびポリアルギニンが含まれる。例えば、本発明のApoEペプチドにコンジュゲートしうる例示的なPTD配列には、
【0019】
【表3】

が含まれる。
【0020】
[0025] 他の適切な担体は、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、米国特許第7,205,280号で開示されている。好ましい実施形態において、ApoEペプチドは、アンテナペディアにコンジュゲートする。別の好ましい実施形態において、ApoEペプチドは、COG112(RQIKIWFQNRRMKWKKCLRVRLASHLRKLRKRLL(配列番号2))である。一実施形態において、ApoEペプチドは、SynB3にコンジュゲートする。別の実施形態において、ApoEペプチドは、COG068(RRLSYSRRRFLRVRLASHLRKLRKRLL(配列番号8))である。
【0021】
[0026] 加えて、COG1410などの薬剤は、有効性が増強され、より高度の治療指数を示す。本明細書で用いられる「治療指数」とは、動物が死滅しない最大耐量を、傷害後における効能が生理食塩液対照より著明に良好である最小有効量で除した値を指す。
【0022】
[0027] 理論に拘束されずに述べると、本発明の発明者らは、COG133およびその誘導体が、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)の活性化剤であると考える根拠を有する。したがって、本発明の一実施形態において、ApoEペプチドは、治療される細胞におけるPP2A活性を上昇させる。ApoEペプチドによるPP2Aの活性化はまた、Aktキナーゼ、IκKキナーゼ、およびNFκBの活性も低下させ、これによりアポトーシスの誘導を促進する。したがって、一部の実施形態において、ApoEペプチドは、治療される細胞におけるAktキナーゼの活性を低下させる。他の実施形態において、ApoEペプチドは、治療される細胞、すなわち、癌細胞のアポトーシスを誘導する。
【0023】
[0028] 本発明のペプチドは、当技術分野で知られる標準的な技法により作製することができる。本発明のペプチドは、検出および追跡のために、放射性標識、重原子標識、および蛍光標識など、各種の標識部分に結合させる場合もある。蛍光標識には、ルシフェリン、フルオレセイン、エオシン、Alexa Fluor、Oregon Green、ロダミンGreen、テトラメチルロダミン、ロダミンRed、Texas Red、クマリンおよびNBDフルオロフォア、QSY 7、ダブシル(dabcylおよびdabsyl)発色団、BODIPY、Cy5などが含まれるがこれらに限定されない。
【0024】
[0029] これらのペプチドに関連する機能的活性を増強する、本明細書で開示されるペプチドの修飾は、当業者によるならば容易に達成することができるであろう。例えば、機能的活性を保持しながら、可溶性、血清中における安定性などのパラメータを増強する目的で、本発明の方法で用いられるペプチドを、化学修飾することもでき、他の分子にコンジュゲートさせることもできる。特に、本発明のペプチドは、N末端においてアセチル化させ、かつ/またはC末端においてアミド化させることもでき、アルブミン、免疫グロブリンおよびそれらのフラグメント、トランスフェリン、リポタンパク質、リポソーム、α−2−マクログロブリン、α−1−糖タンパク質、PEG、ならびにデキストランが含まれるがこれらに限定されない、血清中における安定性を増強する分子にコンジュゲート、複合体化、または融合させることもできる。このような分子は、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、US6,762,169において詳細に説明されている。
【0025】
[0030] 本発明のペプチド剤の別の変異体は、治療用ペプチドのN末端アミノ酸またはC末端アミノ酸に対する、1〜15アミノ酸または類似体の連結である。本発明のペプチドの類似体はまた、活性ペプチドのN末端、C末端、またはN末端およびC末端の両方に1〜15のさらなるアミノ酸を付加することによっても調製することができ、この場合、このようなアミノ酸付加は、該ペプチドが、本発明のペプチドが結合する部位において、受容体に結合する能力に有害な影響を及ぼさない。例えば、COG133、COG1410、およびCOG345の変異体は、該活性ペプチドのN末端、C末端、またはN末端およびC末端の両方に1〜15のさらなるアミノ酸を付加することにより作製することができる。
【0026】
[0031] 本発明のApoEペプチドには、本明細書で記載されるペプチドの保存的変異体がさらに含まれる。本明細書で用いられる保存的変異体とは、ペプチドの生物学的機能に有害な影響を及ぼさないアミノ酸配列の変化を指す。変化した配列が、ペプチドと関連する生物学的機能を阻止または破壊する場合、置換、挿入、または欠失は、該ペプチドに有害な影響を及ぼすと言う。例えば、ペプチドの全体的な電荷、構造、または疎水性/親水性特性は、生物学的活性に有害な影響を及ぼすことなく変化させることができる。したがって、ペプチドの生物学的活性に有害な影響を及ぼすことなく、該ペプチドを、例えば、より疎水性または親水性とするように、アミノ酸配列を変化させることができる。通常、ペプチドの保存的置換による変異体、類似体、および誘導体は、開示される配列である配列番号1、2、4、および6に対して、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約96%〜99%のアミノ酸配列同一性を有する。本明細書において、このような配列に関する同一性または相同性とは、該配列を整列し、必要な場合、ギャップを導入して百分率による最大の相同性を達成し、また、保存的置換を配列同一性の一部としては考えずにおいた後で、候補配列中において、既知のペプチドと同一なアミノ酸残基の百分率として定義される。ペプチド配列中のN末端、C末端、または内部における伸長、欠失、または挿入は、相同性に影響を及ぼすとはみなさないものとする。
【0027】
[0032] したがって、本発明のペプチドには、配列番号1、2、4、および6で開示されるアミノ酸配列を有する分子;該治療用ペプチドのうち、少なくとも約3、4、5、6、10、15以上のアミノ酸残基に対する保存的配列を有するそれらのフラグメント;開示される配列のN末端もしくはC末端、またはその内部にアミノ酸残基が挿入される、このようなペプチドのアミノ酸配列変異体;別の残基により置換された、開示される配列、または上記で定義されたそれらのフラグメントのアミノ酸配列変異体が含まれる。本発明のペプチド配列を含むペプチド化合物は、約12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50以上のアミノ酸でありうる。意図される変異体には、例えば、相同組換え、部位指向性突然変異誘発、またはPCRによる突然変異誘発を介する、所定の突然変異を含有する変異体、ならびにウサギ、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、および非ヒト霊長動物種が含まれるがこれらに限定されない他の動物種の対応するペプチド、ならびに天然のアミノ酸以外の部分を伴う置換、化学的手段、酵素的手段、または他の適切な手段(例えば、酵素または放射性同位体などの検出可能部分)を介して、ペプチドが共有結合により修飾されている誘導体がさらに含まれる。
【0028】
[0033] COG133、COG112、およびこれらの誘導体が含まれるがこれらに限定されないApoEペプチドは、遊離形態の場合もあり、薬学的に許容される塩形態の場合もある。これらには、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガンなどの無機塩が含まれる。また、酢酸、プロピオン酸、ピルビン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、サリチル酸などが含まれるがこれらに限定されない有機酸によって、ペプチドの各種の有機塩を作製することもできる。
【0029】
[0034] 一実施形態において、本発明のペプチドは、薬学的に許容される担体と組み合わせて用いられる。したがって、本発明はまた、対象への投与に適する医薬組成物も提供する。このような組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせた、有効量の、本発明のApoEペプチドを含む。担体は、組成物が非経口投与に適合するように液体の場合もあり、固体、すなわち、経口投与用に調合された錠剤または丸薬の場合もある。さらに、担体は、組成物が吸入用に適合するように、噴霧用液体または噴霧用固体の形態でもありうる。非経口投与される場合、組成物は、発熱物質を含まず、許容される非経口担体中にあるものとする。活性薬剤は、代替的に、既知の方法を用いて、リポソーム中に封入する形で調合することもできる。当技術分野で知られる技法を用いて、本発明のペプチドを鼻腔内投与用に調製することができる。本発明のペプチドは、例えば、クリームまたはゲルの形態における局所投与用に調合することもできる。局所用製剤は特に、皮膚癌を治療するのに有用である。他の実施形態では、ApoEペプチドを、坐剤形態など、直腸内投与用に調合することもできる。一部の実施形態において、ApoEペプチドの直腸内投与は、結腸直腸癌の治療に好ましい場合がある。
【0030】
[0035] 本発明のペプチドの医薬調製物は、任意選択により、薬学的に許容される希釈剤または添加剤を包含しうる。
【0031】
[0036] 本発明のApoEペプチドの有効量とは、腫瘍のサイズ、腫瘍の増殖、癌細胞の広がり、癌細胞数、生存など、癌と関連する少なくとも1つの症状または病態を、該ペプチドの不在下において生じる症状または病態と比較して軽減する量である。一実施形態において、有効量のApoEペプチドは、対象の細胞内におけるAktキナーゼ活性またはPP2A活性を調節する。有効量(および投与方式)は、個体ベースで決定され、用いられる具体的なペプチド、ならびに対象(体格、年齢、全般的な健康状態)、治療される具体的な癌(例えば、CLL、CML、乳癌)、治療される症状の重症度、求められる結果、用いられる具体的な担体または医薬製剤、投与経路、および当業者には明らかな他の因子の考慮に基づく。有効量は、当技術分野で知られる技法を用いて、当業者により決定されうる。本明細書で記載されるペプチドの治療有効量は、当技術分野で知られるin vitro試験、動物モデル、または他の用量−反応試験を用いて決定することができる。
【0032】
[0037] 本発明のペプチドを投与する代替的な方法は、対象に、該ペプチドをコードする核酸配列を保有するベクターを投与することによっても実施され、この場合、該ベクターは、該ペプチドが発現し、分泌されるように、体内の細胞に入ることが可能である。適切なベクターは、DNAウイルス、RNAウイルス、およびレトロウイルスを含めたウイルスベクターであることが典型的である。ベクター送達系を用い、遺伝子治療を実施する技法は、当技術分野で知られている。ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、およびレンチウイルスベクターが、本発明の化合物を投与する工程において用いうるベクターの具体的な種類である。
【0033】
[0038] 本発明のペプチドは、癌を治療するのに単独で用いることもでき、例えば、化学療法剤(クロラムブシル、シクロホスファミド)、コルチコステロイド(プレドニゾン、プレドニゾロン)、フルダラビン、ペントスタチン、クラドリビン、イマチニブ(Gleevec)、ダサチニブ(Sprycel)、ホルモン療法(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤)、および放射線照射など、癌を治療するのに一般的に用いられる他の治療剤と組み合わせて用いることもできる。
【0034】
[0039] 本発明のペプチドは、急速投与(すなわち、癌の診断をもたらす事象の発症時、またはその直後における投与)も可能であり、予防投与(例えば、予定される手術の前、または癌の徴候もしくは症状の出現前における)も可能であり、投与しなければ発生する症状の進行を抑制または改善するように、癌の経過中における投与も可能である。投与回数および投与間隔は対象の症状により変化し、当業者により決定される通り、数時間、数日間、数週間以上の時間経過にわたり、数時間から数日間の間隔投与することができる。
【0035】
[0040] 毎日の典型的なレジメは、1日当たり約0.01μg/体重kg、1日当たり約1mg/体重kg、1日当たり約10mg/体重kg、1日当たり約100mg/体重kg、1日当たり約1,000mg/体重kgでありうる。投与される具体的なApoEペプチドに応じて、用量は、1日当たり約1mg/体重kg〜約500mg/体重kg、好ましくは1日当たり約25mg/体重kg〜約400mg/体重kg、またはより好ましくは1日当たり約50mg/体重kg〜約250mg/体重kgでありうる。
【0036】
[0041] 本発明は、有効量の、本明細書に記載の少なくとも1つのApoEペプチドを投与することにより、それを必要とする哺乳動物対象における癌を治療する方法を提供する。ApoEペプチドは、腫瘍の形成、腫瘍の増殖、癌性細胞の数、健全な組織への癌性細胞の広がり、および生存の短縮が含まれるがこれらに限定されない、癌と関連する1または複数の症状を軽減しうる。本発明のペプチドおよび方法により治療しうる癌には、多様な形態の白血病(CLL、CML、ALL、AML)、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、前立腺癌、結腸直腸癌、肺癌、膵臓癌、脳腫瘍、皮膚癌(黒色腫および非黒色腫)、頭頚部癌、膀胱癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、甲状腺癌、胃癌、食道癌、胆嚢癌、肝臓癌、リンパ腫、および肉腫が含まれるがこれらに限定されない。一実施形態において、ApoEペプチドは、多様な形態の癌において異常な形で活性化されるAkt/NFκB経路など、シグナル伝達経路の活性化を低下させうる(実施例1を参照されたい)。ApoEペプチドはまた、PP2Aも活性化させうる(実施例2)。PP2Aは、癌における血管新生および腫瘍転移に必要とされる内皮細胞運動性を負に調節することが報告されている(Gabel et al., 1999, Otolaryngol Head Neck Surg. 121: 463-468; Young, MR., 1997, Adv Exp Med Biol. 407: 311-318)。オカダ酸によるPP2Aの阻害は、細胞骨格ネットワークを破壊することにより細胞運動性を増大させ、これにより、腫瘍細胞の浸潤特性を増強する。したがって、本発明のペプチドは、PP2Aを活性化させることにより、腫瘍細胞の転移、および癌に関連する血管新生を抑制する。本発明の一実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象の癌細胞におけるPP2A活性を上昇させる。別の実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象の癌細胞におけるAktキナーゼ活性を低下させる。別の実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象の癌細胞におけるIκKキナーゼ活性を低下させる。別の実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象の癌細胞におけるNFκBキナーゼ活性を低下させる。さらに別の実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象における癌細胞のアポトーシスを誘導する。
【0037】
[0042] 本発明はまた、白血病の治療方法であって、少なくとも1つのApoEペプチドを、該ペプチドの不在下において生じる症状と比較して、該疾患の症状を軽減する量で投与する工程を含む方法も提供する。一実施形態において、白血病は、慢性骨髄性白血病(CML)である。PP2Aに対する負の内因性調節物質であるSETは、CMLにおいて過剰発現されており、PP2Aを阻害し、したがって、発癌性のBCR/ABLキナーゼ経路の活性化を維持する(Neviani et al.(2005)Cancer Cell. 8: 355-368)。したがって、COG133、COG1410、COG112などのApoEペプチド、または他の任意のApoE類似体を投与すれば、PP2Aが活性化され、次いで、これにより、細胞増殖および細胞生存の調節物質の脱リン酸化のほか、BCR/ABLキナーゼの発癌活性の抑制が自由に行われ、したがって、白血病誘発が抑制される。一部の実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象におけるBCR/ABL+細胞の増殖を低下させる。特定の実施形態において、BCR/ABL+細胞はイマチニブ(Gleevec)および/またはダサチニブ(Sprycel)に対して耐性である、すなわち、このようなイマチニブおよび/またはダサチニブ耐性細胞の増殖は、これらいずれの化合物によっても阻害されない。理論に拘束されずに述べると、ApoEペプチドは、細胞内におけるPP2A活性を上昇させることによりイマチニブ耐性細胞またはダサチニブ耐性細胞の増殖を有効に阻害することが可能であり、これにより、BCR/ABLキナーゼが脱リン酸化および脱活性化されると考えられる。このような機構は、BCR/ABLキナーゼに直接的に作用し、該キナーゼの突然変異により影響される、イマチニブまたはダサチニブの機構とは異なる。別の実施形態において、白血病は、慢性リンパ性白血病(CLL)である。好ましい実施形態において、ApoEペプチドの投与は、対象におけるCD5+ B細胞の数を減少させる。別の実施形態において、白血病は、急性リンパ性白血病(ALL)である。
【0038】
[0043] 本発明はまた、有効量の、少なくとも1つのApoEペプチドを対象に投与することにより、該対象における乳癌を治療する方法も包含する。一実施形態において、乳癌は、Her2の発現を特徴とする。別の実施形態において、乳癌は、エストロゲン受容体の発現を特徴とする。ApoEペプチドの投与は、それらの投与後において、腫瘍の増殖を低下させることが好ましい。
【0039】
[0044] 特定の実施形態において、本発明は、少なくとも1つのApoEペプチドを含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態において、本発明は、癌を治療、予防、または改善するための別の薬物と共に、少なくとも1つのApoEペプチドを含む医薬組成物を提供する。本発明のペプチドによる医薬組成物は、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、または経皮投与を含めた、それを必要とする対象への投与を容易にする形で提供することができる。参照により本明細書に組み込まれる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 19th ed. Remington and Gennaro, eds. Mack Publishing Co., Easton, PAを参照されたい。本発明の方法は、CLL、CML、および乳癌などの癌を治療、予防、または改善するための各種の投与スケジュール、投与回数、投与間隔、および投与期間をさらに提供する。また、当技術分野で知られる通り、開示されるペプチドの機能的な変異体も包含される。これに符合して、本発明はまた、本明細書で論じられる多様な形態の癌を治療するための医薬を作製する方法における、開示されるペプチドおよびそれらの機能的変異体の使用も包含する。
【0040】
[0045] 以下の実施例は、本発明を例示する目的で記載されるものであり、それを限定するものとみなすべきではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
COGペプチドはAkt/NFκB経路を調節する
[0046] 癌の多くの種類は、ホスファチジルイノシトール−3キナーゼ(PI-3K)/Akt経路の異常で構成的な活性化を特徴とし、この結果、転帰不良と相関する、癌細胞における抗アポトーシス環境の確立がもたらされる。インスリンなどの増殖因子が、細胞膜におけるP13キナーゼを活性化すると、ホスホイノシチドがリン酸化され、細胞膜へのAktの転位がもたらされ、そこで、Aktは、Thr308およびSer473におけるリン酸化により活性化される。活性化されると、Aktは、2つの機構を介して、細胞の生存にとって本質的なタンパク質を調節する(図1)。第1に、Aktは、キナーゼ媒介型の活性化または阻害を介してこれらの生存タンパク質の機能を制御することにより、生存タンパク質を調節しうる。活性化したAktは、カスパーゼ9およびBadを直接的にリン酸化し、これによりこれらを不活化することが示された。カスパーゼ9が、正常なアポトーシスカスケードの早期において活性化するプロテアーゼであるのに対し、Badは、Bcl−xLに結合し、その生存促進機能を阻害する、Bcl−2ファミリーのアポトーシス促進タンパク質である。AktによるBadのリン酸化は、そのアポトーシス促進活性を阻害し、細胞における増殖促進性の癌性状態を増大させる。活性化されたAktが細胞を抗アポトーシス状態へとシフトさせる第2の機構は、生存タンパク質の転写および生成を増大させるシグナル伝達を介する。例えば、Aktの活性化は、IκBキナーゼ(IκK)を活性化することによりMcl−1の発現を上昇させる。IκBキナーゼは、NFκBの内因性阻害剤であるIκBをリン酸化し、NFκBの放出および活性化をもたらす。NFκBにより調節される他の抗アポトーシス遺伝子には、Bcl−xLおよびA1のほか、誘導性一酸化窒素シンターゼ(iNOS)が含まれる。iNOSの上方調節は、乳癌患者における急速な進行、再発の頻度、および死亡率と相関することが示されている。
【0042】
[0047] 乳癌の約30%では、HER2/Neu遺伝子産物の発現増強まで、Aktの構成的活性化を追跡することができる。HER2/Neu遺伝子産物は、Aktを活性化して、PI−3キナーゼを活性化する、構成的に活性化された受容体チロシンキナーゼである。PI−3Kの同様の活性化は、BCR/Abl融合タンパク質による慢性骨髄性白血病の誘導の一因となる(図1A)。B細胞性慢性リンパ性白血病(B-CLL)の発症機序に関与しているT細胞性白血病/リンパ腫1癌遺伝子(TCL1)は、Aktに直接結合し、Aktキナーゼ活性を増強することが判明した(Pekarsky et al.(2000)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 97: 3028-3033)。したがって、成熟B細胞においてTCL1が発現すれば、Aktキナーゼ活性が増強され、CLLのアポトーシス特徴の破壊をもたらす、複数の抗アポトーシス因子の生成が増大するであろう(図1B)。
【0043】
[0048] COGペプチドが、PI−3キナーゼ/Akt経路、およびこれに続くNFκBの活性化を調節したかどうかを決定するため、COGペプチドの不在下および存在下にある、細菌または細菌抗原(リポ多糖)に曝露された細胞内において、該経路におけるタンパク質のリン酸化状態を解析した。第1のシリーズの実験では、6ウェルプレート内のマウスBV2ミクログリアを、単独の、または5μM COG133(配列番号1)ペプチドの存在下におけるLPS 100ng/mLと共にインキュベートした。細胞を溶解させ、遠心分離により清明な抽出物を調製した。ポリアクリルアミドゲルに、1レーン当たりの抽出物30μgずつを添加し、SDS緩衝液中で泳動させた。ゲルからニトロセルロース膜へとタンパク質を転写した後で、これを、10%の脱脂粉乳によりブロッキングした。次いで、抗リン酸化IκBα抗体により膜をプローブした。Enhanced Chemiluminescence基質(GE healthcare社製)により膜を発光させ、フィルムへの曝露により可視化した。次いで、膜をストリッピングし、非リン酸化特異的抗IκBα抗体を用いて、全IκBについて再プローブした。抗GAPDH抗体により、2連のブロットをプローブした。図2Aに示す通り、COG133ペプチドは、LPSに誘導されるIκBのリン酸化を抑制した。
【0044】
[0049] 脱リン酸化状態において、IκBは転写因子NFκBに結合し、NFκBが核へと転位して生存促進タンパク質の転写を活性化することを阻止する。COG133がまた、核へのNFκBの転位も抑制するかどうかを決定するため、単独の、またはCOG133存在下におけるLPSによりBV2ミクログリア細胞を刺激し、刺激された細胞からの核抽出物を調製した。核抽出物に由来するタンパク質に、NFκB結合部位を含有する、放射性標識されたオリゴヌクレオチドを添加し、その後、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により該タンパク質を分離した。オートラジオグラフィーにより、核抽出物中に存在するNFκBの量を検出した(図2B)。COG133の存在下において核内NFκBが減少したことは、このシグナル伝達カスケードが、ApoEペプチドにより処理された細胞内において抑制されるというさらなる証拠をもたらす。
【0045】
[0050] COGペプチドがまた、上流におけるAktキナーゼの活性化も抑制するかどうかを決定するため、単独の、または1μM COG112(配列番号2)ペプチドの存在下におけるLPS 10ng/mLにより、BV2ミクログリア細胞を処理した。細胞溶解物を、10%のポリアクリルアミドゲル上で泳動させた後、ニトロセルロース膜へと転写した。抗リン酸化Akt抗体またはアクチンに対する抗体によりブロットをプローブした。ウェスタンブロットの濃度測定解析を実施し、リン酸化Aktキナーゼからのシグナルを、アクチンからのシグナルにより標準化した。濃度測定解析の結果を図2Cに示す。COG112は、LPSに誘導されるAktキナーゼのリン酸化を著明に低下させた。
【0046】
[0051] Aktキナーゼは、IκBキナーゼ(IκK)をリン酸化および活性化することが可能であり、これにより、IκBによるNFκBの抑制が解除される。上記の通り、COGペプチドは、IκBのリン酸化と、その後Toll様受容体4アゴニスト(LPS)により誘導される、NFκBの活性化とを抑制する。COGペプチドがまた、IκK活性にも影響を及ぼすかどうかを決定するため、単独の、またはCOG112(配列番号2)の存在下におけるC.ローデンチウム菌に曝露された、若齢成体マウス結腸(YAMC)細胞内の細胞質溶解物中において、IκK活性を評価した。IκK活性は、特異的ELISAアッセイ(K-LISATM検出キット、Calbiochem/EMD Biosciences社製)を用いて測定した。96ウェルプレートのグルタチオニンでコーティングしたウェル内において、Ser32およびSer36のIκB−αキナーゼリン酸化部位を包含する、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)タグを付したIκB−α融合ポリペプチド基質と共に、細胞質からの細胞抽出物をインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートさせた抗リン酸化IκB−α抗体を用いて、リン酸化したGST−IκB−α基質を検出した。プレートリーダー内において、450nmでキナーゼ活性に比例する光学濃度を測定した。COG112の存在下(黒四角)または不在下(白四角)において、C.ローデンチウムにより誘導されたIκK活性化の時間経過を、図2Dに示す。時点0は、C.ローデンチウムにより刺激されなかった細胞を示す。COG133処理について観察された、IκBのリン酸化およびNFκBの活性化に対する抑制と同様に、COG112は、IκK活性を実質的に抑制した。
【0047】
[0052] これらの実験の結果は、COGペプチドが、刺激により誘導されるAktキナーゼの活性化のほか、下流におけるシグナル伝達も抑制しうることを示し、これは、COGペプチドが、Akt/NFκBシグナル伝達経路の過剰活性化を有効に調節しうることを示唆する。
【0048】
(実施例2)
COG112はPP2Aを活性化する
[0053] マウスマクロファージRAW細胞を、2μM COG112(配列番号2)、10nMオカダ酸(PP2Aの阻害剤)、またはオカダ酸およびCOG112と共にインキュベートした。30分後において、細胞を溶解させ、PP2Aの触媒性Cサブユニットを標的とする抗体を添加することにより、PP2Aを免疫沈降させた。SDS−PAGEにより免疫沈降物の半分を分離し、ニトロセルロース上へとブロットし、抗PP2AC抗体によりプローブした。免疫沈降した酵素に、ホスホトレオニン基質のペプチドを含有するアッセイカクテル125μLを添加することにより、残りの部分の活性についてアッセイした。37℃で振とうしながらインキュベートした後、アリコート25μLを取り出し、遊離リン酸をキレート化し、キレートが形成されると変色する、モリブデン酸アンモニウム溶液(Upstate社製)に添加した。様々な時間間隔でアリコートを取り出し、リン酸標準曲線との比較により、ペプチドから放出される遊離リン酸量を決定した。リン酸放出速度は、時間経過データへの直線近似により決定し、相対PP2A濃度により標準化した。リン酸放出速度により測定されるPP2A活性が、COG112の存在下において上昇した(図3)ことは、ApoEペプチドが、ベースラインにおけるPP2A活性の阻害を緩和することを示唆する。予測される通り、オカダ酸のみの存在下では、PP2A活性が抑制された。しかし、オカダ酸の存在下においてCOG112がPP2A活性を上昇させたことは、細胞内における活性PP2Aと不活性PP2Aとの間に平衡が存在するが、COG112によりこの平衡をシフトさせ、活性PP2A酵素の量を調節しうることを示唆する(図3)。したがって、ApoEペプチドにより、細胞内における活性PP2Aのプールを調節することができる。
【0049】
(実施例3)
COG112はin vitroにおいてB−CLL細胞を死滅させる
[0054] 慢性リンパ性白血病(B-CLL)におけるB細胞の抗アポトーシス状態の遷延は、部分的に、Akt/NFκBシグナル伝達カスケードの過剰活性化に起因すると考えられている。PP2Aは、AktキナーゼおよびIκKキナーゼの脱リン酸化および不活化により、このシグナル伝達経路に拮抗することが知られている(Kuo et al.(2008)J Biol Chem., Vol. 283: 1882-1892; Kray et al.(2005)J Biol Chem., Vol. 280: 35974-82)。PP2Aはまた、カスパーゼの脱リン酸化および活性化によりアポトーシス経路も調節することが可能であり、これが、アポトーシスの誘導早期において役割を果たす。したがって、細胞においてPP2A活性が損なわれるなら、これは、抗アポトーシス状態を温存するAkt経路の構成的活性化に寄与するであろう。実際、PPP2R1B遺伝子の一部を包含する11q22〜q23における欠失は、B−CLLにおいて2番目に一般的な染色体異常を表わす。PPP2R1B遺伝子は、一般に腫瘍抑制因子として知られるPP2AのAβ定常調節サブユニットをコードする。これが欠失する結果、PPP2R1Bの発現が抑制され、これは、B−CLL細胞におけるPP2A活性の低下と関連する(Kalla et al.(2007)Eur J Cancer, Vol. 43: 1328-35)。これらの患者は、生存率の低下を特徴とし、CLLの腫瘍細胞は、生存率の上昇を示す。
【0050】
[0055] 実施例1および2に示した通り、COGペプチドは、Akt/NFκBシグナル伝達カスケードの活性化を抑制しうるほか、PP2Aも活性化しうる。COGペプチドが、B−CLL細胞におけるAkt/NFκB経路の過剰活性化に拮抗し、アポトーシスを有効な形で誘導しうるかどうかを決定するため、COGペプチドにより、CLL患者から新規に単離したB−CLL細胞に対する細胞傷害性試験を実施した。CLL患者から採血し、RosetteSep(商標)ヒトB細胞濃縮カクテルを用いて、CD5+/CD19+ CLL細胞を単離した。T細胞、単球、およびNK細胞をそれぞれ除去する、抗CD14抗体、抗CD2抗体、および抗CD16抗体を含有する適切な抗体カクテルを用いるこの方法では、全血液から、T細胞、単球、およびNK細胞を枯渇させる。抗体カクテルは、Ficoll−Paque(登録商標)など、浮遊密度勾配媒体により遠心分離するとき、ヒト全血液中における無用の細胞が、遊離RBCと共にペレットを形成するように、該細胞を、免疫ロゼットを形成する多数の赤血球へと架橋させ、これにより、ロゼット細胞の密度を増大させる。高度に濃縮されたB細胞またはB−CLL細胞は、Ficollと血漿との間の界面に残る。
【0051】
[0056] 72時間にわたり、単離されたB−CLL細胞(96ウェルプレート内における細胞0.25×10個/ウェル)にCOGペプチドを適用した後で、MTSアッセイ(Pharmacia社製)を用いて生細胞を評価した。投入されたCLL細胞の50%を死滅させるのに有効であるCOGペプチド濃度(ED50)を決定した。表Iに示す通り、COG133(配列番号1)は、COG056(配列番号3)対照と比べて、活性が若干改善された。COG056は、COG133の変化形であり、これと同じアミノ酸組成物を含有するが、このペプチドのin vitroおよびin vivoにおける活性を消失させるスクランブル配列を有する。COG133の改変形であるCOG248(配列番号5)は、COG133と比較して活性の増強を示す。アンテナペディアホメオボックスドメインのタンパク質形質導入ドメインにより細胞透過が上昇する結果、COG133(COG112;配列番号2)のEC50は、224±120nMへと頑健に改善される。ミクログリア細胞において、COG133と比べて、NO生成を抑制する効力の改善を示したCOG1410(配列番号4)が、B−CLL細胞に対する細胞傷害性の効力では差違を示さなかったことは興味深い。
【0052】
【表4】

【0053】
[0057] CLL細胞に対するCOG112の細胞傷害活性が強力であることを踏まえ、正常な単核細胞についての細胞傷害性試験を実施して、その効果が、一般的な細胞傷害効果に起因したのか、または選択的なCLL細胞傷害機構が生じたのかを決定した。白血病患者および正常なボランティア被験者から、それぞれ、さらなるB−CLL細胞および末梢血単核細胞(PBMC;すなわち正常なB細胞)を単離し、ある濃度範囲のCOG112により処理した。図4に示す通り、COG112は、患者から単離されたCLL細胞において細胞傷害性であり、EC50は、上記の表Iに示されるほぼ225nMの濃度であった。正常なボランティア被験者に由来するPBMCにおける細胞傷害性のEC50は、約20μMで、ほぼ2log単位高濃度であることが判明した。同様のデータは、老齢のTCL−1トランスジェニックマウス(CLLのマウスモデル)から単離された脾臓CLL細胞からも得られた。トランスジェニックマウス細胞において、COG112が、約1.5μMのED50で細胞傷害性であったのに対し、対照化合物であるCOG056は、ED50>25uMを示した。これらのデータは、ApoEペプチドが、B−CLL細胞に対して強力で選択的な細胞傷害活性を示すことを裏付け、ApoEペプチドが、B−CLLに有用な治療剤でありうることの証拠となる。
【0054】
(実施例4)
COG112はヒトB−CLL細胞におけるシグナル伝達カスケードを調節する
[0058] 既に論じた通り、Akt/NFκB経路を介する異常なシグナル伝達は、CLL患者におけるB細胞の抗アポトーシス状態の遷延に寄与すると考えられる。CLL患者におけるPP2Aの下方調節は、Akt/NFκB経路の構成的活性化に寄与し、増殖状態の維持を促進する。そこで、本発明者らは、ヒトCLL患者に由来するB細胞内における各種のシグナル伝達カスケードに対するCOG112の効果を示し、これらのカスケードにCOG112が影響を及ぼす機構を解明するための実験をデザインした。
【0055】
[0059] 第1のシリーズの実験では、新規に単離されたB−CLL細胞に対して、Annexin V染色を用いるアポトーシスアッセイを実施し、COG112が、これらの細胞における抗アポトーシス状態を可逆化し、アポトーシスを誘導しうるかどうかを決定した。CLL患者から採血し、RosetteSep(商標)ヒトB細胞濃縮カクテルを用いて、CD5+/CD19+ CLL細胞を単離し(実施例3を参照されたい)、COG112の濃度を上昇させながら、これにより処理した。アポトーシスは、Annexin V−FITCアポトーシス検出キット(BD Bioscinences-Pharmingen社製)を用いて測定した。1倍濃度の結合緩衝液(pH7.4の10mM HEPES、140mM NaCl、2.5mM CaCl)中で15分間にわたり、COG処理細胞およびCOG非処理細胞を、Annexin V−FITC染色およびヨウ化プロピジウム染色し、フローサイトメトリーにより解析した。アポトーシス誘導についての陽性対照として、エトポシド100μg/mLにより、1アリコートの細胞を処理した。図5に示す通り、COG112の濃度が上昇するにつれ、アポトーシスの用量依存的な増大が観察された。アポトーシス誘導のED50は、CLL癌細胞に対するCOG112による細胞傷害性のED50(実施例3を参照されたい)を密接に反映した。これらの結果は、CLL細胞に対するCOG112の細胞傷害性が、少なくとも部分的には、アポトーシスの誘導を介して生じることを示唆する。
【0056】
[0060] 第2のシリーズの実験では、B−CLL細胞におけるSET(タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤2タンパク質(I2PP2A))の発現を評価して、SETの過剰発現が、CMLについて報告される(Neviani et al.(2006)Cancer Cell, Vol. 8: 355-68)通りに、CLLにおける異常なシグナル伝達に寄与するかどうかを決定した。実施例3に記載の通り、RosetteSep(商標)ヒトB細胞濃縮カクテルを用いて、12例の白血病患者からはCD19+/CD5+ CLL細胞、また、5例の正常なボランティア被験者からはCD19+ B細胞を、全血液から単離した。完全プロテアーゼ阻害剤の錠剤(Boehringer Ingelheim社製)およびホスファターゼ阻害剤(Roche社製)を溶解させたリン酸緩衝生理食塩液を含有する抽出緩衝液中において、単離された細胞を溶解させた。免疫ブロッティングを行うため、各試料につき、全タンパク質溶解物40μgずつを、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)上に添加し、ニトロセルロース膜へと転写した。抗SET抗体を用いてSETタンパク質を検出し、これを、LiCor Odyssey蛍光スキャナー上において、β−アクチンをローディング対照として用いて定量化および標準化した。図6に示す通り、PBMC対照群中におけるSET/β−アクチン比(0.010±0.003)と比べ、CLL試料のSET/β−アクチン比(0.048±0.004)は、統計学的に有意な上昇(p<0.0001)を示した。この過剰発現は、患者のapoE遺伝子型の異常または細胞発生異常とは無関係であった。この4.8倍の過剰発現は、びまん性大型B細胞リンパ腫について報告されたSETレベル(Nenasheva et al.(2004)Mol Biol(Mosk), Vol. 38: 265-75; Nenasheva et al.(2005)Int J Med Sci., Vol. 2: 122-128)と同等である。B−CLL細胞においてSETがこのように過剰発現すれば、PP2A活性を低下させるように作用し、Akt経路およびNFκB経路を調節するPP2Aの能力を阻害し、これにより、癌細胞の抗アポトーシス状態を促進するであろう。
【0057】
[0061] 以上の2つのシリーズの実験の結果は、CLL細胞におけるSET過剰発現の結果、PP2A活性の低下がもたらされ、これが、これらの細胞における抗アポトーシス状態の遷延に寄与することを示す。COG112などのCOGペプチドは、CLL細胞におけるアポトーシスを誘導することが可能であり、これは、SETタンパク質へのCOGペプチドの結合を介して生じることが可能であり、これにより、PP2A活性の抑制が緩和される。CLL細胞に対するCOGペプチドの細胞傷害効果の機構をさらに解明するため、重要なシグナル伝達タンパク質のリン酸化状態、およびB−CLL細胞におけるPP2A活性に対するCOG112処理の効果を評価する。CLL細胞では、Erk、Akt、IκK、およびNFκBが、活性化され、iNOS発現およびNO生成が上昇することを、公表された研究は示している。NOの生成は、CLL細胞が正常なアポトーシスを受け損なう際に役割を果たすことが示唆されている。実施例3に記載の通り、RosetteSep(商標)ヒトB細胞濃縮カクテルを用いて、白血病患者からB−CLL細胞を単離する。既に説明されている(Levesque et al.(2001)Leukemia, Vol. 15: 1307-1307; Levesque et al.(2003)Leukemia, Vol. 17: 442-450)通り、単離されたB細胞を、24ウェルの組織培養プレート内のHybridoma SFM(商標)1.5mL中にCLL細胞3×10個/ウェルで播種し、これを培養する。37℃、空気中に5%のCO2で、すべての培養物をインキュベートする。細胞を播種した後で、2μMのCOG112(配列番号2)またはCOG056(不活性対照;配列番号3)を含有する培地を添加し、3時間にわたりインキュベートする。プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含有するNonidet P−40(NP40)溶解緩衝液中における溶解前に細胞を回収および洗浄し、清明な抽出物を調製する。
【0058】
[0062] COG112処理CLL細胞およびCOG112非処理CLL細胞からの抽出物に対して免疫ブロッティングを実施して、リン酸化ERK、Akt、IκK、およびNFκBならびに全ERK、Akt、IκK、およびNFκB(リン酸化したERK、Akt、IκK、およびNFκB、ならびにリン酸化していないERK、Akt、IκK、およびNFκBの和)を決定する。具体的に述べると、BCAアッセイキット(Pierce社製)を用いて、上記の方法により得られる細胞抽出物を解析して、各溶解物のタンパク質濃度を決定する。免疫ブロッティングを行うため、各試料につき、全タンパク質溶解物30μgずつを、12.5%のドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)上に添加し、トリス−グリシンSDS緩衝液(Bio-Rad社製)を用いて電気泳動させる。電気泳動後、PVDF膜(Bio-Rad社製)上にタンパク質をエレクトロブロットする。3時間にわたり、0.1%のTween 20(TBST)を含有するトリス緩衝生理食塩液中に5%の脱脂乳を用いて膜をブロッキングし、TBSTで洗浄し、マウス抗Akt抗体およびウサギ抗リン酸化Akt抗体(Cell Signaling社製)中、4℃で一晩にわたりインキュベートする。洗浄液を3回交換しながら、TBSTで1時間にわたり膜を洗浄し、IRDye(登録商標)800で標識したロバ抗ウサギ抗体、およびIRDye(登録商標)680で標識したヤギ抗マウス抗体(LiCor社製)と共にインキュベートする。Odyssey赤外線スキャナー(LiCor社製)を用いて、タンパク質バンドを可視化および定量化する。この方法により、800nmチャネルの発光を用いるリン酸化Akt、および680nmチャネルの発光を用いる全Aktの同時的な定量化が可能となる。初回の読み取り後、1時間にわたりウサギ抗β−アクチン抗体を膜と共にインキュベートし、膜を洗浄する。800nmにおけるβ−アクチンシグナルを測定し、これを、ローディング対照として用いて、データを標準化しうるように、IRDye(登録商標)800で標識したロバ抗ウサギ抗体を添加し、ブロットを読み取る。適切にマッチする抗体対による同様の方法を用いて、リン酸化ERK、IκK、およびNFκB、ならびに全ERK、IκK、およびNFκBの免疫ブロットを実施および解析する。具体的なリン酸化したタンパク質の量を、具体的なリン酸化したタンパク質および具体的なリン酸化していないタンパク質の総和で除し、これに100を乗じた比として計算され、これにより活性化の百分率を与える、具体的な各タンパク質の活性化指数を決定することにより、定量的解析を完了させる。B−CLL細胞について、非処理試料、COG112により処理した試料、またはCOG056により処理した試料の3つを調べた。COG112処理CLL細胞は、非処理細胞と比べて、リン酸化したタンパク質の量が著明に減少し、これらのシグナル伝達カスケード活性化の抑制を示すと予測される。
【0059】
(実施例5)
Eμ−TCL1トランスジェニックマウスにおけるCLLに対するCOG112の効果
[0063] COG112は、ヒト患者から単離されたCLL細胞に対して強力で選択的な細胞傷害活性を保有する(実施例3)。この例で概括される実験では、Eμ−TCL1トランスジェニックマウスにおけるCLLに対するCOG112の効果を評価して、COG112が、in vivoにおいても同様の有効性を示すかどうかを決定する。TCL1がCLL細胞では発現するが、正常な成熟B細胞では発現せず、また、TCL1が、Aktと相互作用してその活性を増強するという証拠に基づき、TCL1の発現を標的化することにより、著明なCLL病態を示すマウスモデルが開発されている。Eμ−TCL1トランスジェニックマウスモデルでは、TCL1遺伝子が、B細胞特異的なIgVHプロモーターおよびIgH−Eμエンハンサーの制御下に置かれる。これらのマウスは、成体へと正常に発育するが、後に、血中における高リンパ球カウントを伴う、脾臓、肝臓、およびリンパ節の肥大を発生させる。マウスは最終的に、進行性リンパ節腫脹の発生と共に白血球が蓄積されるため、若齢で死亡する。重要なことに、これらのトランスジェニックTCL1マウスにおける蓄積されたB細胞は、G0〜1期が停止され、ヒトCLL細胞とまったく同様に、CD19+/CD5+/IgM+ CLL細胞を発現する(Bichi et al.(2002)Proc Natl Acad Sci U S A, Vol. 99: 6955-6960)。TCL1トランスジェニックマウスにおけるCLL症状が、臨床的に用いられる抗CLL治療剤であるフルダラビンの投与後において改善されることは、これらのEμ−TCL1トランスジェニックマウスが、ヒトCLLの有効なモデルとして有効であることをさらに検証する。フルダラビン治療は、生理食塩液を注射された非治療対照と比べ、マウスの生存を改善し、治療された動物における白血球カウントを低下させ、脾臓サイズを減少させた(Johnson et al.(2006)Blood, Vol. 108: 1334-1338)。CLLのEμ−TCL1トランスジェニックマウスモデルにおけるCLL細胞の生成および余命に対するCOG112の効果を評価する。
【0060】
[0064] 第1のシリーズの実験では、各群の治療開始時における白血球カウントの平均および範囲が同等となるように、白血病の徴候を示す12匹の老齢トランスジェニックEμ−TCL1マウス(9〜12カ月齢)を、白血球カウントに基づいて2つの治療群(媒体対照群またはCOG112群)のうちの1つに割り当てる。皮下注射を介して、COG112または媒体対照10mg/kgにより、動物(n=6)を毎日治療する。治療の15日後において、眼窩後出血により採血し、白血球を定量化する。白血球カウントは、媒体対照と比べて、COG112治療動物において低下すると予測される。
【0061】
[0065] 第2のシリーズの実験では、白血病の徴候を示す老齢トランスジェニックEμ−TCL1マウス(9〜12カ月齢)を、治療群(対照群、またはCOG112の3つの用量群のうちの1つ)へと無作為に割り当てた。治療の開始時に採血して、ベースラインのCD5+/CD19+ CLL細胞カウントを決定し、媒体対照(乳化リンゲル液)、または用量4.0、1.0、もしくは0.25mg/kgのCOG112により、動物群(n=20)を治療する。容量10mL/kgの腹腔内注射により、COG112または媒体対照を送達する。5週間(35日間の総治療)にわたり、毎週5回ずつ投与するように、動物には、月曜日から金曜日まで毎日注射を施す。生存、総白血球カウントおよびリンパ球カウント、ならびにCD19+/CD5+細胞カウントにより、疾患経過を毎週モニタリングする。
【0062】
[0066] 眼窩後出血により週ベースで各マウスから採血し、総白血球カウントおよびリンパ球カウントのほか、CD19+/CD5+細胞カウントを決定して、白血病負荷を評価する。5週間(35日間の治療)後において、マウスを安楽死させ、細胞カウント、脾臓重量、ならびに骨髄、脾臓、肝臓、およびリンパ節の組織学的解析により、治療後における白血病負荷を測定する。35日以前に死亡するすべてのマウスも、同等の方法で解析する。COG112治療は、媒体で治療した動物と比較して、累積生存率の用量依存的な上昇、ならびに組織学的解析によるCD19+/CD5+細胞カウント、脾臓重量、およびCLL負荷の用量依存的な減少をもたらすことが予測される。
【0063】
(実施例6)
乳癌細胞株に対するCOGペプチドの効果
[0067] 実施例3に示した通り、ApoEペプチドは、癌性B細胞に対して細胞傷害性である。そこで、本発明者らは、COGペプチドが、乳癌など、異常な細胞シグナル伝達と関連する他の種類の癌において有効であることを示すための実験をデザインした。3つの異なる乳癌細胞におけるPI−3K/Aktシグナル伝達経路、および細胞増殖に対するCOGペプチドの効果を評価する。
【0064】
[0068] エストロゲン受容体の活性、Aktの活性化状態、Her2の発現、およびPP2A活性について十分に記録された乳癌細胞株が多数存在する。ER陽性腫瘍およびER陰性腫瘍の両方のほか、Her2/Neu陽性株およびHer2/Neu陰性株を表わす、3つの細胞株を選択して解析した(表II)。公表された研究は、Akt、IκK、およびNFκBが、乳癌細胞株において活性化し、抗アポトーシス状態をもたらすことを示している。これらの細胞株におけるシグナル伝達カスケードに対するApoEペプチドの効果を探索するため、増殖曲線を解析し、免疫ブロッティングを用いて、シグナル伝達に関連するタンパク質を評価し、リン酸化Akt、IκK、およびNFκBならびに全Akt、IκK、およびNFκB(リン酸化したAkt、IκK、およびNFκB、ならびにリン酸化していないAkt、IκK、およびNFκBの和)の相対レベルを決定する。
【0065】
【表5】

【0066】
[0069] 48ウェルプレート内のATCC推奨培地中において、上記の細胞株を培養する。細胞を播種した後で、以下のCOGペプチドまたは不活性ペプチド対照のうちの1つを含有する培地を添加し、37℃、空気中5%のCO2で細胞をインキュベートする。ある範囲の濃度でCOGペプチドを調べ、増殖阻害に関する用量力価を得る。テトラゾリウム化合物である3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、内塩(MTS社製)、およびPromega社(ウィスコンシン州、マジソン)製のCellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution細胞増殖アッセイを用いて、培養物を、増殖について毎日解析する。
【0067】
【表6】

【0068】
[0070] 増殖曲線の決定後、新規の細胞バッチを播種し、上記で列挙したCOGペプチド(COG133、COG112、COG1410、またはCOG345)、または不活性ペプチド対照(COG056またはCOG095)のうちの1つを含有する培地を添加し、様々な時間にわたり培養物と共にインキュベートする。細胞を回収し、洗浄し、完全プロテアーゼ阻害剤の錠剤(Boehringer Inglelheim社製)およびホスファターゼ阻害剤(Roche社製)を溶解させたリン酸緩衝生理食塩液を含有するNonidet P−40溶解緩衝液中において溶解させる。20,000g、4℃で20分間にわたり、溶解物を遠心分離する。上清を未使用の試験管に移し、BCAアッセイキット(Pierce社製)を用いて溶解物のタンパク質濃度を決定する。実施例4に記載の方法により、リン酸化Akt、IκK、およびNFκBならびに全Akt、IκK、およびNFκBについての免疫ブロットを実施する。活性COGペプチドにより処理した乳癌細胞は、非処理細胞または不活性の対照ペプチドにより処理した細胞と比較して、増殖速度の低下、およびリン酸化タンパク質量の著明な減少を示すことが予測される。
【0069】
(実施例7)
乳癌による腫瘍増殖に対するApoEペプチドの効果
[0071] 乳癌の各細胞株(MDA-MB-231、MCF-7、またはBT-474)についての異種移植モデルを用いて、in vivoにおけるCOGペプチドによる腫瘍の治療効果を決定する。1腫瘍種類当たりの非近交系雌ヌードマウス(BT474細胞株の場合、NIHIII)180〜240匹の右腋窩上部に腫瘍断片(30〜70mg)を移植する。数日後、マウスのトリアージを定め、平均腫瘍負荷が約125mgの場合、各群が、初期腫瘍負荷の総平均の10%以内にあるように、治療群に分ける。媒体対照、陰性対照ペプチド(COG056)、陽性対照(パクリタキセル、ゲムシタビン、またはラパチニブ)、または3つの用量(0.25、1.0、または4.0mg/kg)のApoEペプチド(例えば、COG112、COG133、COG1410、およびCOG345)の1つによる腹腔内注射を介してマウス(n=20)を毎日治療した。MCF7細胞株に由来する細胞を移植したマウスには、エストラジオールペレットを毎週植え込む。体重および腫瘍サイズを毎週2回記録し、臨床徴候を毎日モニタリングする。腫瘍負荷が、腫瘍増殖遅延評価項目の1g、また、完全寛解/部分寛解/腫瘍のない生存の決定に達するまで動物を治療する。ApoEペプチド(例えば、COGペプチド)による治療は、媒体または陰性対照ペプチドによる治療と比較して、腫瘍増殖を著明に遅延させることが予測される。
【0070】
(実施例8)
COG112はK562 CML細胞の増殖を阻害する
[0072] 慢性骨髄性白血病(CML)は、無痛性の慢性期(CP)から、急性白血病と生物学的に類似する、骨髄またはリンパ球による侵襲性の芽球期(BP)への進行を特徴とする(Faderl et al.(1999)N. Engl. J. Med., Vol. 341: 164-172)。発生および維持は、BCR/ABL癌タンパク質の抑制されないキナーゼ活性に依存する(Van Etten et al.(1989)Cell, Vol. 58: 669-678; McLaughlin et al.(1987)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 84: 6558-6562)。これらの癌タンパク質のこうした構成的活性により、PI−3K/Akt経路など、発癌性シグナルを伝達する複数の経路が動員および活性化され、造血性前駆細胞の生存延長、増殖増強、および分化停止がもたらされる(図1A;Elefanty et al.(1990)EMBO J, Vol. 9:1069-1078を参照されたい)。
【0071】
[0073] ApoEペプチドは、CMLにおいて構成的に活性化するPI−3K/Aktシグナル伝達経路を調節すること可能であり(実施例1)、また、ApoEペプチドは、CLL細胞を効果的に死滅させた(実施例3)ので、本発明者らは、BCR/Abl+ K562 CML細胞株に対するCOG112の効果を評価し、COG112が、K562細胞の増殖を遅延させうるかどうかを決定した。細胞(20mL)を、細胞0.25×10個/mLの濃度で、T−75フラスコ内に播種した。播種後毎日、細胞懸濁液0.20mLを取り出し、遠心分離して、細胞を回収した。無血清培地500μL中に細胞ペレットを再懸濁させ、トリパンブルー色素100μLを添加し、5分間にわたりインキュベートした後で、血球計によりトリパンブルー陽性細胞をカウントした。COG112は、K562細胞増殖の用量依存的な阻害をもたらした(図7A)。陽性対照として用いたイマチニブ(Gleevec;1μM)は、細胞数を著明に減少させた。COG112の特徴をさらに拡張し、COG112の活性がイマチニブの活性と相乗作用性であるか、またはアンタゴニスト性であるかを決定するため、COG112およびイマチニブの濃度を低下させて、同様の増殖解析を実施した。1μM COG112または75nMイマチニブにより処理したところ、K562細胞増殖の阻害は、最適未満であった(図7B)。しかし、2つの処理を組み合わせたところ、いずれか単独の処理を上回る程度で細胞増殖が阻害されたことは、該処理により相加効果がもたらされたことを示す。これらのデータは、ApoEペプチドが、CML癌細胞の増殖を効果的に抑制し、単独で、またはCMLを治療するための他の薬物との組合せで、有効な治療剤をもたらしうることを示す。さらに、ApoEペプチドは、イマチニブ/ダサチニブ耐性CML、CMLBC、およびPhl(+)ALLの治療のための新規の治療法も提供しうる。
【0072】
[0074] COG112がBCR/Abl+ K562 CML細胞に対する細胞傷害性をもたらす機構をさらに特徴づけるため、K562 CML細胞におけるリン酸化したBCR/ABL融合タンパク質およびPP2Aの活性に対するCOG112の効果を決定した。上記で論じた通り、フィラデルフィア染色体(例えば、t(9;22)(q34;q11)転座の産物)により生成されるBCR/ABL融合タンパク質の構成的活性化が、CMLにおける抑制されない細胞増殖および細胞生存をもたらすシグナル伝達の遷延における主要な原因因子である。COG112が、BCR/ABLの活性化に対して効果を及ぼすかどうかを決定するため、24時間にわたり、K562細胞を非処理のまま放置するか、または用量0.5μMもしくは1.0μMのCOG112により処理した。細胞溶解物を調製し、ウェスタンブロット解析にかけて、活性化したリン酸化BCR/ABLを検出した。COG112によるK562細胞の処理は、リン酸化したBCR/ABLのレベルを用量依存的に低下させた(図8A)。BCR/ABLの活性化に対するCOG112の効果が、PP2Aの活性化に起因しうるかどうかを調べるため、BCR/ABL+ K562 CML細胞を、24時間にわたり、COG112(0.5μMまたは1μM)により処理し、既に説明されている(Neviani et al.(2007)J. Clin. Invest., Vol. 117: 2408-2421)通りに、免疫沈降/リン酸放出アッセイを用いて、PP2A活性を測定した。COG112で処理すると、K562細胞において、PP2Aの頑健な活性化が観察された(図8B)。まとめると、これらの結果は、COG112などのApoEペプチドが、PP2A活性の増強を介してBCR/ABL癌遺伝子の活性化を抑制し、これにより、BCR/ABL+ K562 CML細胞の増殖を抑制しうることを示唆する。このような作用機構であれば、PP2Aの活性化による、イマチニブ/ダサチニブ耐性細胞株の増殖の阻害が報告されている(Neviani et al.(2007)J. Clin. Invest., Vol. 117: 2408-2421)、イマチニブ/ダサチニブ耐性BCR/ABL+癌を治療するのに特に有用であろう。
【0073】
(実施例9)
COG112はJurkat T細胞白血病細胞の増殖を阻害する
[0075] ApoEペプチドが、T細胞白血病に対して治療的でありうるかどうかを決定するため、ヒト急性T細胞白血病細胞株であるJurkat T細胞の増殖速度に対するCOG112の効果を評価した。Jurkat T細胞の播種時に添加する1μM COG112の不在下または存在下にある培地2mL中において、該細胞(6ウェルプレート内において、1ウェル当たりの細胞2×10個)を増殖させた。カウント用に毎日少量のアリコートを取り出した後で、血球計を用いて細胞増殖を測定した。図9に示す通り、COG112が、T細胞の増殖を著明に阻害したことは、ApoEペプチドがまた、B細胞白血病のほか、T細胞白血病にも治療的でありうることを示唆する。
【0074】
[0076] 記載される具体的な方法、プロトコール、および試薬は変化しうるので、開示される発明は、これらに限定されないことが理解される。また、本明細書で用いられる用語法は、具体的な実施形態を説明することだけを目的とするものであり、付属の特許請求の範囲だけによって限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解される。
【0075】
[0077] 本明細書および付属の特許請求の範囲で用いられる単数形の「ある(a)」、「ある(an)」、および「その(the)」は、文脈による別段の指示が明確でない限り、複数の言及を包含することに留意されたい。したがって、例えば、「宿主細胞(a host cell)」に対する言及は、複数のこのような宿主細胞を包含し、「抗体(the antibody)」に対する言及は、当業者に知られる1または複数の抗体およびこれらの同等物に対する言及などである。
【0076】
[0078] 別段に定義しない限り、本明細書で用いられる技術用語および科学用語はすべて、開示される発明が帰属する技術分野の当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験では、本明細書に記載の方法および材料と類似または同等である任意の方法および材料を用いうるが、例示的な方法、デバイス、および材料が説明されている。本明細書で引用されるすべての特許、特許出願、および他の刊行物、ならびにそれらが引用される対象となる材料は、参照により、その全体において具体的に組み込まれる。
【0077】
[0079] 当業者は、本明細書に記載の本発明の具体的な実施形態に対する多くの同等物である日常的な実験だけを用いることを認めるか、または確認することができる。このような同等物は、以下の特許請求の範囲により包含されることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における癌を治療する方法であって、有効量の、少なくとも1つのApoEペプチドを前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項2】
前記ApoEペプチドの投与が、前記対象における少なくとも1つの癌の症状を軽減する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ApoEペプチドの投与が、前記対象の癌細胞におけるPP2A活性を上昇させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ApoEペプチドの投与が、前記対象の癌細胞におけるAktキナーゼ、IκKキナーゼ、またはNFκBの活性を低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ApoEペプチドが、17以上のアミノ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ApoEペプチドが、20以上のアミノ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ApoEペプチドが、30以上のアミノ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ApoEペプチドが、40以上のアミノ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ApoEペプチドが、配列番号1で表される配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ApoEペプチドを、タンパク質形質導入ドメインにコンジュゲートされている、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質形質導入ドメインが、アンテナペディア、TAT、SynB1、SynB3、SynB5、およびポリアルギニンに由来するペプチドからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ApoEペプチドが、配列番号2で表される配列を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記癌が白血病である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記白血病が、慢性リンパ性白血病(CLL)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ApoEペプチドの投与が、対象におけるCD5+ B細胞の数を減少させる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記白血病が、慢性骨髄性白血病(CML)である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ApoEペプチドの投与が、対象におけるBCR/ABL+細胞の増殖を低下させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記BCR/ABL+細胞が、イマチニブまたはダサチニブに対して耐性である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記白血病が、急性リンパ性白血病(ALL)である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記癌が乳癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記乳癌が、Her2の発現を特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記乳癌が、エストロゲン受容体の発現を特徴とする、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−526922(P2011−526922A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516847(P2011−516847)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/049389
【国際公開番号】WO2010/002982
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(504111462)コグノッシ, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】