説明

B型肝炎ウイルスタンパク質中空バイオナノ粒子とリポソームを用いたsiRNAの内包と細胞選択的なsiRNAの導入方法

【課題】siRNAを効率的に標的へ運搬し、標的細胞内の標的遺伝子の発現を減少させるための複合粒子、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】B型肝炎ウイルスタンパク質を含む中空バイオナノ粒子(bio nano capsule: BNC)とリポソームを界面活性剤存在下で複合体を形成させ、これにsiRNAを内包することを特徴とする、BNC・リポソーム複合粒子の製造方法。また、BNCをsiRNA内包リポソームと融合させることを特徴とする、siRNAを内包するBNCとリポソームの複合粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルスタンパク質中空バイオナノ粒子を用いてsiRNAを細胞内に導入する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
RNAi(RNA interference:RNA干渉)は、標的遺伝子と相同な二本鎖RNA(dsRNA)を細胞内に導入すると、標的遺伝子の転写産物であるmRNAの相同部分が特異的に分解され、これにより遺伝子発現が抑制されるという現象である。1998年に線虫でRNAiが発見(Fire et al., Nature, 391, 806-811, 1998)されて以来、さまざまな生物種でRNAi現象が観察されており、2001年にヒトを含む哺乳動物でも21〜23塩基程度のdsRNAであるsiRNA(small interference RNA)によりRNAi現象を起こすことが可能であることが報告された(Elbashirst al., Nature, 411, 494-498, 2001)。
【0003】
現在、RNAi技術を医薬品へ応用することに大きな期待が寄せられている。ほとんどの疾患は何らかのタンパク質の機能異常に起因すると考えられており、その異常タンパク質の発現を抑制することが可能なsiRNAは極めて多くの疾患に適応される可能性がある。また、siRNAによる遺伝子発現抑制効果は配列特異性が高いことから、標的とする原因因子のみに効果が現れ、副作用がほとんど生じないと想定されるためである。なお、現状ではsiRNAを活用した医薬品(siRNA医薬)は従来の薬剤とは異なる作用機序に基づくものであり、ヒトにおける安全性が完全に確立されていないため、有効な既存薬が少ない難病や、ガンや感染症といった疾患の治療薬として開発が先行している。
【0004】
siRNA医薬のもう1つの利点は、疾患と遺伝子の関係が明らかとなれば有効成分としてのsiRNAの設計が可能となり、容易に有効成分を合成できる点である。従来型の低分子医薬品はその有効成分の探索に極めて多くの時間と労力を割いてきたが、siRNA医薬ではそのような努力を最小限にすることが可能である。
【0005】
一方、siRNAは生体内での安定性が非常に悪く、生体膜透過性に乏しいことが大きな問題点としてある。更にもう1つの大きな問題として、標的とする細胞のみへ必要量のsiRNAを長時間持続して送達することが重要である。
【0006】
siRNAのDDS技術に関しては多くの研究が行われている。siRNAを細胞へ導入しその機能を発揮させるには次のように幾つかのステップをクリアーする必要がある。
1.細胞へのsiRNA複合体の到達
siRNAは容易にエキソヌクレアーゼなどの血中の分解酵素によって分解されるため、目的とする部位に到達する前に分解されてしまう。このため分解酵素から保護する必要がある。
・ 細胞へのsiRNAの取り込み
siRNA自体は細胞内へは細胞膜を透過できないため、細胞質へ取り込まれない。このためエンドサイトーシスなどの細胞への取り込み機構を介して取り込ませることが行われている。膜透過性ペプチドやカチオニック脂質などは直接細胞膜に作用し、細胞内へのsiRNAの導入を行うと考えられていたが、少なくとも膜透過性ペプチドはエンドサイトーシスを介した経路でsiRNAを細胞内へ入れることが分かっており、カチオニック脂質についても高濃度で用いる以外の場合にはエンドサイトーシスが関与していると考えられている。
・ 取り込み機構から細胞質への脱出
取り込み機構を介して取り込まれたsiRNAは細胞内ではエンドゾームを主とした細胞内小胞に入る。このままではsiRNAは作用しないので、そこからの脱出が必要である。エンドソームからの脱出にはpH感受性の脂質を用いたもの、一部の膜透過性ペプチド、カチオニック脂質、などが利用されている。
【0007】
以上のステップを総てクリアーした場合に、siRNAによるノックダウン効果が見られることになる。
【0008】
一方、特許文献1〜2は、B型肝炎ウイルスタンパク質を構成要素とする中空バイオナノ粒子(BNC)を用いたsiRNAの送達について記載している。
【0009】
siRNAは、細胞に導入されるまで、あるいは細胞に導入されてからも速やかに分解されるため、長時間継続して細胞にsiRNAを導入する必要がある。
【特許文献1】特開2008-162981
【特許文献2】特開2008-029249
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、長時間継続して標的細胞、組織ないし臓器にsiRNAを導入することができ、毒性が低く、十分に標的遺伝子の発現を抑制できる量を送達可能なsiRNA導入物質/導入剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、リポソームが複合体化したB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子(BNC)にsiRNAを内包させることにより、siRNAを標的に持続的に導入し、標的となる遺伝子の発現を抑制できることを見出した。
【0012】
本発明は、以下のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子、siRNA導入剤およびsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子の製造方法を提供するものである。
項1. siRNAをB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子(BNC)とリポソームの複合粒子に内包してなるsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
項2. 複合粒子の粒子径が70nm〜300nmである、項1に記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
項3. B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体が、細胞、臓器もしくは組織の標的化部分を含む項1または2に記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
項4. 前記複合粒子の表面電荷が-5mV〜+5mVの範囲内にある、項1〜3のいずれかに記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
項5. BNCがB型肝炎ウイルスタンパク質を構成要素とし、肝細胞特異的にsiRNAを導入する項1〜4のいずれかに記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
項6. B型肝炎ウイルスタンパク質が、HBsAg(Q129R,G145R)である、項1〜5のいずれかに記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
項7. 項1〜6のいずれかに記載の複合粒子からなる標的細胞、組織、臓器に対するsiRNA導入剤。
項8. siRNAを内包したリポソームとB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子(BNC)を複合体化させることを特徴とするsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子の製造方法。
項9. リポソームとB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子(BNC)を界面活性剤の存在下に複合体化し、その複合物にsiRNAを加えることを特徴とするsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子の製造方法。
項10. 前記複合粒子の粒子径が70nm〜300nmであり、前記複合粒子の表面電荷が-5mV〜+5mVの範囲内にある、項8または9に記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子の製造方法。
項11. 界面活性剤がMEGA-8、Triton X-100、Tween 20、Tween 80、N-ラウロイルサルコシン-ナトリウム塩、ドデシル硫酸リチウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、SDS、塩化セチルピリジニウム、CTAB、CHAPS、CHAPSO、スルホベタインSB10及びスルホベタインSB16からなる群から選ばれる項9に記載の方法。
項12. B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体が、PreS1領域を有するB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体である、項1〜6のいずれかに記載の複合粒子、項7に記載のsiRNA導入剤、項8〜11のいずれかに記載の製造方法。
項13. B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体が、PreS1領域とS領域を有するB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体である、項1〜6のいずれかに記載の複合粒子、項7に記載のsiRNA導入剤、項8〜11のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合体ないし導入剤は、生体に対し医薬として標的となる細胞/組織/臓器にsiRNAを標的遺伝子の発現を抑制する有効量で1日程度から1週間程度のきわめて長期間にわたり導入することができる。
【0014】
DNAの細胞内導入においては、DNA分子が少しでも細胞質内へ導入されれば、時間依存的にその遺伝子産物であるタンパク質の発現量が増大するため、比較的容易に遺伝子導入効果を確認することが可能である。一方、RNA interferenceの場合はsiRNA自体が標的遺伝子のmRNAに対して酵素的に(RNA分解酵素複合体の一構成成分として)働くため、それに見合う量の導入が必要であると言われており、遺伝子導入と比べると難易度が高いことが一般的に言われている。本発明では従来技術では困難であったsiRNAの細胞への導入とそれによる細胞特異的なターゲット遺伝子のノックダウン効果を達成したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の複合粒子は、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子(以下、「BNC」と略すことがある)とリポソームの複合粒子にsiRNAを内包したものである。ここで、「内包」とは、siRNAが標的細胞等に導入される前に血液中などの生体内で分解されない状態でBNCと複合体化することを意味し、BNCの粒子内に封入される場合だけでなく、BNC粒子の外側であるが、リポソームの一部と相互作用して、RNaseなどの酵素による分解を受けない状態で複合体化している場合を含む。
【0016】
本発明に係る中空バイオナノ粒子は、粒子形成能を有するB型肝炎ウイルスタンパク質と脂質膜を構成要素とし、例えば粒子形成能を有するB型肝炎ウイルスタンパク質が球状、楕円体状或いはこれらに類似する形状の脂質膜と複合化した構造を有するものである。
【0017】
本明細書において、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子としては、B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質(HBsAg)と脂質膜を構成要素とする粒子などが例示される。なお、HBsAgタンパク質は、B型肝炎ウイルス内部コア抗原タンパク質と組み合わせて粒子を形成してもよい。
【0018】
本明細書において、中空バイオナノ粒子は、B型肝炎ウイルスタンパク質又はその改変体を主成分として包含し、該タンパク質は脂質膜に保持されている。また、該タンパク質には通常糖鎖が結合している。この糖鎖は、真核細胞でB型肝炎ウイルスタンパク質又はその改変体を発現させたときに真核細胞内で結合されるものであるが、中空バイオナノ粒子が得られた後に、共有結合などにより化学的に糖鎖を結合させてもよい
BNCとしては、酵母、昆虫細胞あるいはCHO細胞などの哺乳動物細胞を含む真核細胞でB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を発現させることにより得られるものが挙げられる。中空バイオナノ粒子の製造法は、特開2001-316298に記載され、HBsAgの調整法は、Vaccine. 2001 Apr 30;19(23-24):3154-63. Physicochemical and immunological characterization of hepatitis B virus envelope particles exclusively consisting of the entire L (pre-S1 + pre-S2 + S) protein. Yamada T, Iwabuki H, Kanno T, Tanaka H, Kawai T, Fukuda H, Kondo A, Seno M, Tanizawa K, Kuroda S.に記載されている。
【0019】
真核細胞でHBsAgタンパク質を発現させると、該タンパク質は、小胞体膜上に膜蛋白として発現、蓄積され、ナノ粒子として放出されるので、脂質膜を有する構造となる。真核細胞で発現させた中空バイオナノ粒子は、HBVゲノムを全く含まないので、人体への安全性が極めて高い。
【0020】
1つの好ましい実施形態において、中空バイオナノ粒子は、65〜80重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、8〜20重量部の脂質、5〜20重量部の糖鎖から構成される。本願の実施例で使用されている中空バイオナノ粒子(L粒子)は、HBsAgまたはその改変体約70重量部、糖鎖約16重量部、脂質約13重量部からなる。
【0021】
siRNAは、標的となる遺伝子のRNA(特にmRNA)を分解させるものであれば特に限定されず、標的となる遺伝子が決まれば、常法に従い設計することができる。siRNAは通常2本鎖であるが、2本鎖RNAの一方または両方の末端を連結したものであってもよい。siRNAの長さは、21〜23塩基であるものが好ましいが、標的のRNAを切断できるのであれば、例えば15〜30塩基のより長いあるいはより短い配列を有するものであってもよい。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、リポソームと複合体化した後の、siRNAを除いたリポソームBNC複合粒子は、10〜60重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、40〜95重量部の脂質(リン脂質を含む)、1〜10重量部の糖鎖から構成され得る。
【0023】
複合粒子を構成する脂質としては、酵母ないし動物細胞などの真核細胞由来の膜成分(例えばトリグリセリド)、リポソームを構成するリン脂質が挙げられる。糖鎖は、真核細胞において発現される際にタンパク質に導入されるものであるが、標的となる細胞/組織/臓器を特異的に認識する部位として糖鎖を結合させることも可能である。標的認識部位として使用可能な糖鎖としては、例えばシアリルルイスXが挙げられる。シアリルルイスXは、炎症を起こしている細胞表面に存在するレクチンタンパク質と相互作用するため、生体内の炎症部位への標的化に使用することができる。シアリルルイスXなどの標的認識分子としての糖鎖は、複合体の導入前と導入後のいずれの粒子に対して導入してもよい。
【0024】
HBsAgに包含され、S粒子の構成要素であるSタンパク質(226アミノ酸)は、粒子形成能を有している。S粒子に55アミノ酸からなるPre-S2を付加したのがMタンパク質(M粒子の構成蛋白)であり、M蛋白に108アミノ酸または119アミノ酸からなるPre-S1を付加したものがLタンパク質(L粒子の構成蛋白)である。Lタンパク質、Mタンパク質はSタンパク質と同様に粒子形成能を有している。従って、PreS1およびPreS2の2つの領域は任意に置換、付加、欠失、挿入を行ってもよい。例えばPre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれる肝細胞認識部位を欠失させた改変タンパク質を用いることで、肝細胞認識能を失った中空粒子を得ることができる。また、PreS2領域にはアルブミンを介して肝細胞を認識する部位が含まれているので、このアルブミン認識部位を欠失させることもできる。一方、S領域(226アミノ酸)は粒子形成能を担っているので、S領域の改変は、粒子形成能を損なわないように行う必要がある。例えばS領域において、129位のGlnをArgに置換し、及び/又は、145位のGlyをArgに置換したタンパク質は、BNCの抗原性が低下し、粒子形成能とsiRNAの細胞への導入能は損なわれないため好ましく、特にLタンパク質のS領域において、129位のGlnをArgに置換し、かつ、145位のGlyをArgに置換したタンパク質であるHBsAg(Q129R,G145R)は、粒子形成能とsiRNAの細胞への導入能を有し、免疫原性が低いために好ましい。Lタンパク質の129位のアミノ酸がGln→Arg、145位のアミノ酸がGly→Argに改変された改変体(HBsAg(Q129R,G145R))を発現させて得たBNCは、実施例において製造されている。
【0025】
なお、PreS1領域、特にPreS1領域の1位〜50位のアミノ酸は、リポソームなどの脂質との融合に寄与することが本発明者らの研究により明らかになった。従って、本発明のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体は、PreS1領域、特にPreS1領域の1位〜50位を有するものが好ましく、この領域に置換、付加、欠失、挿入などの改変があるとしてもこの領域の粒子形成能を損なわないような変異であるのが好ましい。
【0026】
B型肝炎ウイルスタンパク質の改変体としてはウイルス中空ナノ粒子を形成する能力を有する限り種々の改変体が広く包含され、HBsAgを例に取ると、PreS1とPreS2領域に関しては任意の数の置換、欠失、付加、挿入が挙げられ、S領域に関しては、1又は数個もしくは複数個、例えば1〜120個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に1〜5個のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入されていてもよい。置換、付加、欠失、挿入などの変異を導入する方法としては、該タンパク質をコードするDNAにおいて、例えばサイトスペシフィック・ミュータジェネシス(Methods in Enzymology, 154, 350, 367-382 (1987);同 100, 468 (1983);Nucleic Acids Res., 12, 9441 (1984))などの遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法などの化学合成手段(例えばDNA合成機を使用する)(J. Am. Chem. Soc., 89, 4801(1967);同 91, 3350 (1969);Science, 150, 178 (1968);Tetrahedron Lett.,22, 1859 (1981))などが挙げられる。コドンの選択は、宿主のコドンユーセージを考慮して決定できる。
【0027】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体としてLタンパク質、などの肝細胞を認識可能なタンパク質から構成される中空バイオナノ粒子の場合には、細胞認識部位を導入する必要はない。一方、Pre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれる肝細胞認識部位を欠失させた改変タンパク質、或いはPreS1とPreS2の両方の領域を欠失させたタンパク質から構成される中空バイオナノ粒子の場合、そのままでは細胞認識ができないので、細胞認識部位を導入して、肝細胞以外の任意の細胞を認識させ、前記ポリマー/核酸複合体を種々の標的細胞に導入することができる。このような特定の細胞を認識する細胞認識部位としては、例えば成長因子、サイトカイン等のポリペプチドからなる細胞機能調節分子、細胞表面抗原、組織特異的抗原、レセプターなどの細胞および組織を識別するためのポリペプチド分子、ウイルスおよび微生物に由来するポリペプチド分子、抗体、糖鎖などが好ましく用いられる。具体的には、癌細胞に特異的に現れるEGF受容体やIL−2受容体に対する抗体やEGF、またHBVの提示するレセプターも含まれる。或いは、抗体Fcドメインを結合可能なタンパク質(例えば、ZZタグ)、ストレプトアビジンを介してビオチン標識した生体認識分子を提示するためにビオチン様活性を示すストレプトタグなどを使用することもできる。
【0028】
細胞認識部位がポリペプチドである場合には、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体をコードするDNAと細胞認識部位をコードするDNAを必要に応じてスペーサーペプチドをコードするDNAを介してインフレームに連結し、これをベクター等に組み込み、真核細胞で発現させることにより、任意の標的細胞を認識する中空バイオナノ粒子を得ることができる。
【0029】
細胞認識部位が抗体である場合、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体をコードするDNAとZZタグをコードするDNAを必要に応じてスペーサーペプチドをコードするDNAを介してインフレームに連結し、これをベクター等に組み込み、真核細胞で発現させ、得られた中空バイオナノ粒子と標的細胞を認識し得る抗体を混合することにより、目的とする、中空バイオナノ粒子を得ることができる。
【0030】
細胞認識部位が糖鎖の場合、糖転移酵素を使用して、細胞認識能を持たない中空バイオナノ粒子にシアリルルイスXなどの細胞を認識可能な糖鎖を連結することにより、得ることができる。
【0031】
HBsAgタンパク質の改変体としては、抗原性(エピトープなどの抗原性に関与する部位を欠失/置換した改変体)、粒子構造の安定性、細胞選択性等を改変した改変体であってもよい。
【0032】
BNCとリポソームの融合は、水又は水性媒体中で該リポソームとBNCを混合し、必要に応じて攪拌ないし振盪することにより容易に実施できる(直説融合法)。
【0033】
あるいは、BNCとリポソーム(siRNAを含まない)の融合は、水又は水性媒体中でリポソームとBNCを界面活性剤の存在下で混合・透析し、複合体を形成した後、siRNAを内包させてもよい 。
【0034】
複合粒子の大きさは、50〜1000nm、好ましくは60〜700nm程度、より好ましくは70〜500nm程度、特に好ましくは70〜300nm程度、特に70〜200nm程度である。複合粒子の粒子径は、生体内(特に血液中)での半減期、クリアランスなどに影響する。
【0035】
複合粒子の表面電荷は、−20〜+20mV程度、好ましくは−10〜+10mV程度、より好ましくは−5〜+5mV程度である。表面電荷が0に近いほど生体内での半減期が長くなるので好ましい。本明細書において、複合粒子の大きさは、動的散乱光法による測定装置、例えば、FPAR1000(大塚電子)により測定することができ、表面電荷はゼーターサイザーナノ-ZS(Malvern Instruments)により測定することができる。
【0036】
本発明の複合粒子の大きさと表面電荷がともに上記の範囲内に入っている場合、生体内(特に血液中)での半減期が長く、siRNAを長期間標的細胞に導入できるので特に好ましい。
【0037】
siRNAを内包したBNC-Liposome複合体の粒子径を調整するには、直接融合法においてはリポソームの粒子径を最小化する処理を行い、その後、粒子サイズを最小化したBNCと融合させる。また、界面活性剤法においても前もって例えば50nm〜100nmの小サイズに調節したリポソームと粒子サイズを最小化したBNCを準備し、これを界面活性剤存在下で融合させ、それの複合体を更に最小化処理を行うことで可能である。
【0038】
リポソームの粒子径の最小化には、例えば、エクストルーダーを用いて孔径が小さいフィルター(例えば、100nm, 80nm,50nmなど)を通過させることによって粒子径を調節可能である。また、別の方法として、ロッド状の超音波発生機により数時間処理することによって粒子径を小さくすることも可能である。勿論、他の方法よるリポソーム粒子径の最小化処理法を利用しても問題ない。BNCの粒子径を最小化する際には、例えば、ロッド状の超音波発生機により数時間処理することによって粒子径を小さくすることが可能であるが、他の方法よる最小化処理法を利用しても問題ない。なお、界面活性剤法による複合体を最小化する際には、例えば、エクストルーダーを用いて孔径が小さいフィルター(例えば、200nm, 150nm,100nmなど)を通過させることによって粒子径を調節可能である。
【0039】
表面電荷を中性付近へもってくるための調整方法としては、電荷を有する脂質の使用量、内包するsiRNA量、BNCの混合量を調節することによって可能である。なお、2箇所のアミノ酸を改変したBNCは陽電荷、陰電荷いずれのリポソームであっても中性付近へ電荷を変化させる効果を有するので、この性質を利用することによって、上記3種の構成成分の適切な混合割を決めることによって最終産物であるsiRNAを内包したBNC-Liposome複合体の電荷を中性付近に持ってくることが可能である。
【0040】
リポソームは、多重層リポソーム、一枚膜リポソームのいずれであってもよい。リポソームの大きさは40〜300nm程度、好ましくは50〜200nm程度、特に60〜150nm程度である。リポソームをBNCと直接融合させる場合、リポソームの大きさは、BNCの0.5〜2倍程度の大きさであるのが好ましい。界面活性剤を用いてリポソ−ムとBNCを複合体化する場合には、リポソームの大きさは任意であるが、上記の大きさのリポソームが好ましく例示される。
【0041】
リポソームは超音波処理法、逆相蒸発法、凍結融解法、脂質溶解法、噴霧乾燥法などにより製造することができる。
【0042】
リポソームはBNCに対し、得られた複合粒子の表面電荷が上記のような0mVに近い値となるように、また、BNCとの複合体/siRNAを含む複合粒子の大きさが上記の範囲内になるように適切な量と組成で作製され、使用される。具体的には、BNC 100重量部に対し、リポソームを20〜1000重量部使用する。siRNA内包型BNCリポソーム複合粒子の表面電荷は、BNCの表面電荷と内包するsiRNA量に影響されるので、複合粒子の所望の表面電荷を得るためのリポソームの組成は、得られた複合粒子の表面電荷が所望の値になるように適宜選択すればよい。
【0043】
リポソームの構成成分としては、リン脂質、コレステロール類、脂肪酸などが挙げられ、具体的にはホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを常法によって水素添加したものの他、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、エレオステアロイルホスファチジルセリン等の合成リン脂質が挙げられる。リン脂質は様々な飽和度を有する脂質を組み合わせて使用するのが望ましい。その他、コレステロール類としては、コレステロール、フィトステロールなどが挙げられ、脂肪酸としてはオレイン酸、パルミトオレイン酸、リノール酸、或いはこれら不飽和脂肪酸を含む脂肪酸混合物が挙げられる。側鎖の小さい不飽和脂肪酸を含むリポソームは曲率の関係から小さいリポソーム作製に有効である。
【0044】
リポソームには、エンドソームからのsiRNAの脱出のためにpH感受性の脂質(例えばCHEMS)、膜透過性ペプチド、カチオニック脂質の少なくとも1種を包含させるのが好ましい。カチオニック脂質としては、DC-6-14(O,O’-ditetradecanoyl-N-(α-trimethylammonioacetyl)diethanolamine chloride)、DODAC(dioctadecyldimethylammonium chloride)、DOTMA(N-(2,3-dioleyloxy)propyl-N,N,N-trimethylammonium)、DDAB(didodecylammonium bromide)、DOTAP(1,2-dioleoyloxy-3-trimethylammonio propane)、DC-Chol(3β-N-(N',N',-dimethyl-aminoethane)-carbamol cholesterol)、DMRIE(1,2-dimyristoyloxypropyl-3-dimethylhydroxyethyl ammonium)、DOSPA(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminum trifluoroacetate)等が挙げられる。
【0045】
好ましい1つの実施形態において、本発明のリポソームは、カチオニック脂質、リン脂質、コレステロールを含む。これらの比率としては、リポソーム全体を100重量部として
カチオニック脂質:10〜60重量部、好ましくは20〜50重量部、より好ましくは30〜40重量部、
リン脂質:10〜50重量部、好ましくは15〜45重量部、より好ましくは20〜40重量部、
コレステロール:10〜50重量部、好ましくは15〜45重量部、より好ましくは20〜40重量部。
【0046】
リン脂質としては、DSPE-PG10G、DSPE-PEG350のようにPEGなどで修飾されたリン脂質を使用することもできる。
リポソームとBNCの複合粒子の製造法の例を具体的に説明すると、例えば前記したリン脂質、コレステロール等を適当な有機溶媒に溶解し、これを適当な容器に入れて減圧下に溶媒を留去して容器内面にリン脂質膜を形成し、これに水溶液、好ましくは緩衝液を加えて攪拌して、リポソームを得ることができる。該リポソームを直接、またはいったん凍結乾燥した後に、BNCと混合することにより、リポソームとBNCの複合粒子を得ることができる(直接融合法)。別の方法として、例えば前記したリン脂質、コレステロール等を適当な有機溶媒に溶解し、これを適当な容器に入れて減圧下に溶媒を留去して容器内面にリン脂質膜を形成し、水又は水性媒体中で水和しリポソームを作製する。作製したリポソームを凍結融解し超音波処理によりサイズ調整を行い、界面活性剤を加える。これに界面活性剤が含有されているBNC溶液を混合し、透析処理を実施することによりリポソームとBNCの複合粒子を得ることも出来る(界面活性剤法)。界面活性剤としては、界面活性剤がMEGA-8、MEGA-9、 MEGA-10、n-オクチル-α‐D-グルコピラノシド、n-オクチル-α‐D-チオグルコシド、n-ヘプチル-β‐D-チオグルコシド、Triton X-100、Tween 20、Tween 80、N-ラウロイルサルコシン-ナトリウム塩、ドデシル硫酸リチウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、SDS、塩化セチルピリジニウム、CTAB、CHAPS、CHAPSO、スルホベタインSB10及びスルホベタインSB16、などが挙げられる。
【0047】
界面活性剤法によるリポソームとBNCの融合の場合、界面活性剤の濃度は、0.1〜5%程度、好ましくは0.5〜2%程度である。この場合、水などの溶媒100重量部あたりBNCは0.01〜0.5重量部程度、好ましくは0.02〜0.1重量部程度使用され、リポソームは0.03〜10重量部程度、好ましくは0.06〜5重量部程度使用される。界面活性剤法を実施するときの温度は5〜75℃程度、好ましくは10〜60℃程度の温度で、10分から6時間、好ましくは20分〜3時間程度で好ましく実施することができる。
【0048】
直接融合法の場合、水などの溶媒100重量部あたりBNCは0.005〜0.5重量部程度、好ましくは0.02〜0.2重量部程度使用され、リポソームは0.01〜10重量部程度、好ましくは0.03〜5重量部程度使用される。直接融合法を実施するときの温度は0〜50℃程度、好ましくは0〜40℃程度の温度で、1分〜120分、好ましくは2分〜60分程度で好ましく実施することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0050】
実験方法
材料
BNCは、HBsAg(Lタンパク質)を特開2001-316298の実施例Jに記載のLタンパク質の129位のGlnをArgに置換し、145位のGlyをArgに置換したHBsAg(Q129R,G145R)にした以外は特開2007-209307の記載に従い、組み換えBNC発現酵母を出発材料としてAKTA(GE healthcareBioscience co., Japan)を用いて精製した。コレステロールはWako Pure Chemical Industries, Ltd. (Osaka, Japan)から、dioleoylphosphatidylethanolamine(DOPE)、distearoylphosphatidylethanolamine-polyglycerine (DSPE-PG)及びリポソーム(Coatsome EL-01-D)はNOF corporation (Tokyo, Japan)から、DC-6-14はSogo Pharmaceutical Co. Ltd. (Tokyo, Japan) からそれぞれ購入した。1,2-Dioleoyloxy-3-trimethylammoniumpropane chloride(DOTAP)はSigma Aldorich Japan (Tokyo, Japan)で購入した。3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate (CHAPS)、3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-2-hydroxypropanesulfonate (CHAPSO)、n-Nonanoyl-N-methyl-D-glucamine (MEGA-9)、n-Octyl-β-D-glucopyranoside (OG)はDOJINDO LABORATORIES (Kumamoto, Japan)から購入した。
【0051】
Luciferase siRNAは既知の論文(Elbashir, S. M., Harborth, J., Lendeckel, W., Yalcin, A., Weber, K and Tuschl, T.(2001) Nature,411 (6836), 494-498)に記載の配列(センス鎖:CUUACGCUGAGUACUUCGAdTdT, アンチセンス鎖:UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT, dT はdeoxythymidine)をGeneDesign, Inc. (Osaka, Japan)で合成し使用した。Negative control用のsiRNAとしてSilencer Negative Control #1 siRNA (Ambion、Applied Biosystems Japan Ltd. (Tokyo, Japan)より購入したsiRNA、またはluciferase siRNA のscrambled 配列(センス鎖:UCGCGCGAUCAAUUAGUCUdTdT, アンチセンス鎖:AGACUAAUUGAUCGCGCGAdTdT, dT はdeoxythymidine)をB-Bridge International, Inc. ( Mountain View, CA)で合成したsiRNAを使用した。
【0052】
GAPDHに対するsiRNAは、Silencer GAPDH siRNA (Human)(Ambion)をApplied Biosystems Japan Ltd. (Tokyo, Japan)より購入した。なお、この場合の陰性コントロールsiRNAはSilencer negative control #1 siRNA (Ambion)を用いた。
【0053】
Small DNA (sDNA)及び5'-carboxyfluoresceinlabeled-small DNA (FAM-sDNA)はluciferase siRNAと相似のDNA配列として設計し(センス鎖:CTTACGCTGAGTACTTCGATT 又はFAM- CTTACGCTGAGTACTTCGATT, アンチセンス鎖:TCGAAGTACTCAGCGTAAGTT)、Sigma Aldrich Japan(Tokyo, Japan)で合成した。合成したセンス鎖、アンチセンス鎖は95℃で熱変性後、温度を緩やかに室温まで下げ2本鎖を形成させ使用した。
【0054】
細胞
HepG2/luc (human hepatocellular carcinoma expressing firefly luciferase gene、大阪大学のS. Kurodaから得た)細胞、A549/luc (human lung adenocarcinoma epithelial cell line expressing firefly luciferase gene、大阪大学のS. Kurodaから得た)細胞、HUH-7 (human hepatocellular carcinoma、 慶応義塾大学より譲渡を受けた)細胞は10%ウシ胎仔血清(FBS)を添加したダルベッコの改良MEM培地、5%CO2中37℃の条件下で培養した。
【0055】
siRNA/BNC/リポソーム複合粒子の作製
siRNA/BNC/リポソーム複合粒子の作製は大きく分けて2つの方法で作製可能である。一つは界面活性剤存在下でリポソームとBNCを混合し、透析によって界面活性剤を除去することによってBNC/リポソーム複合体を形成させ、siRNAを添加することによって、siRNA/BNC/リポソーム複合粒子を作製可能であり、これを界面活性剤法と呼ぶ。またもう一つの方法は、最初にリポソーム(市販の導入試薬も含む)にsiRNAを内包後、BNCを混合してsiRNA/BNC/リポソーム複合粒子を作製可能とする方法であり、これを直接融合法と呼ぶ。
【0056】
粒子サイズ、表面電位解析
粒子サイズは、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000 (Otsuka Electronics Co.,Ltd., Osaka, Japan) を用いて25℃で測定し、キュムラント解析に基づいて行った。また、表面電荷はZetasizer Nano-ZS (Malvern Instruments Ltd., U. K.)を用いて25℃で測定した。
【0057】
密度勾配遠心法によるBNC-リポソーム融合解析
塩化セシウム密度勾配遠心法により、BNC/リポソーム複合体と未融合のBNCを分離し、各画分のBNC、脂質の含量を検出することによってリポソームとBNCの融合状態を検定した。HEPES buffer (10 mM HEPES, 100 mM NaCl, 100 mM sucrose)に10, 20, 30, 40 %の塩化セシウムを汲む溶液を作製し、10−40%の密度勾配(10%; 2.6 ml, 20%; 2.6 ml, 30%; 3 ml, 40%; 3 ml)を作製し、サンプルを上層に乗せ、4℃、24,000 rpm で16時間遠心分離した(Himac CP 70MX; rotor P28S, Hitachi Koki Co., Ltd., Tokyo, Japan)。上層から1 mlを一分画として分取し、10番目までの各分画のBNC量とコレステロール量をそれぞれSDS-PAGE、比色定量法を用いて検定した。コレステロールの比色定量にはコレステロールE-テスト(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)を使用し、600 nm の吸光度を分光光度計(U-2810, Hitachi, Ltd., Tokyo, Japan)を用いて測定した。
【0058】
siRNAの内包状態を評価するためにsiRNAの代用としてFAM-sDNAを用いてFAM-sDNA/リポソーム/BNC複合粒子を形成させ、同様に塩化セシウム密度勾配遠心分離にかけ画分画の蛍光強度(励起波長485 nm / 蛍光波長520 nm)をFLUOstar OPTIMA (BMG LABTEC, Offenburg, Germany)を用いて測定することによってFAM-sDNAを検出した。
【0059】
siRNA内包効率の解析
BNC/リポソーム複合体へのsiRNAの内包効率及び内包量は既知の論文に記載のPicogreen assay法(Ferrari M. E., Nguyen C. M., Zelphati O., Tsai Y., Felgner P. L., Ferrari M. E., Nguyen C. M., Zelphati O., Tsai Y. and Felgner P. L. (1998) Hum. Gene Ther. 9 (3), 341-351) に基づきこれを改変したRibogreen assay法によって行った。 即ち、siRNAまたはsDNAを内包したリポソームまたはBNC/リポソーム複合体をHEPES buffer A(10 mM HEPES, 300 mM sucrose, pH 7.4)とHEPES buffer B(+0.1% Triton X-100)でそれぞれ希釈した。これらの希釈液(50 μl)に対してHEPES buffer Aで200倍希釈したQuant-iT RiboGreen RNA reagent (Invitrogen Japan K. K., Tokyo, Jpan) を等量加え、96穴プレートにて蛍光強度(励起波長485 nm / 蛍光波長520 nm)を測定した。蛍光測定にはFLUOstar OPTIMA (BMG LABTEC, Offenburg, Germany)を用いた。内包効率(%)は以下の式によって算出した。
【0060】
内包効率(%)=(B−A)/ B ×100
A(Triton X-100無添加区での蛍光強度) B(Triton X-100添加区での蛍光強度)
内包量は添加したsiRNAの量に内包効率(%)を乗じて算出した。
【0061】
Luciferase発現ノックダウン効果の解析
siRNA/リポソーム/BNC複合体を添加する前日にHepG2/luc細胞、A549/luc細胞をそれぞれ1×104/ 100μl/wellの密度で96穴プレートに播種した。siRNA/BNC/リポソーム複合体の添加2日後に培地を除去し、PBSで3回洗浄後、20 μl のCell Culture Lysis Reagent (Promega K K, Tokyo, Japan)で細胞を溶解した。luciferase酵素活性はLuciferase assay system (Promega K K, Tokyo, Japan)を用いて測定した。50 μl基質溶液を細胞溶解液に添加し、生じた化学発光をFLUOstar OPTIMA (BMG LABTEC, Offenburg, Germany)を用いて測定した。また、細胞溶解液の一部を用いてタンパク質定量(Micro BCA protein assay reagent (Pierce, Rockford, IL)を用いた)行い、この定量値を基にして比活性(count/μg protein)を算出した。また、siRNAとしてnegative control siRNAを用いた実験区の比活性を100%とした時の、luciferase siRNAを用いた実験区の比活性を相対活性として算出し、ノックダウン効果の指標とした。
【0062】
定量的リアルタイムPCRによるGAPDH発現ノックダウン効果の解析
GAPDH siRNA/リポソーム/BNC複合体を添加する前日にHuH-7細胞をそれぞれ4×104/ wellの密度で24穴プレートに播種した。siRNA/BNC/リポソーム複合体の添加2日後に培地を除去し、Trizol Reagent (Invitrogen Japan K. K., Tokyo, Jpan) 300μlで細胞を溶解しRNAを精製した。1μgのRNAをReverTra Ace qPCR RT kit (TOYOBO CO., LTD, Osaka, Japan) を用いて逆転写し、cDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型として、LightCycler 2.0(Roche Diagnostics K.K., Tokyo, Japan)を用いてGAPDHとActinに対するリアルタイムPCRを行った。反応にはCYBBR Green real-time PCR Master Mix-plus (TOYOBO CO., LTD, Osaka, Japan)を用いた。GAPDH、Actinに対するプライマー配列はそれぞれGAPDH-F:GAGTCAACGGATTTGGTCGT、GAPDH-R:GATCTCGCTCCTGGAAGATG、Actin-F:TCCCTGGAGAAGAGCTACGA、Actin-R :AGCACTGTGTTGGCGTACAGを用い、測定条件は95℃, 1 min / (95℃, 5 sec / 55℃, 5 sec / 72℃, 15 sec) 40 cycleで行った。GAPDHの発現量を対照であるActinの発現量で割った値(GAPDH/Actin)でGAPDHの発現量を算出し、ノックダウン効果を評価した。
【0063】
動物
動物は血中滞留性を確認する試験にはICR系マウス 5週齢(日本チャールス・リバー)を購入し、in vivo Luciferase assayにはBALB/cヌードマウス5週齢(日本チャールスリバー)を購入し、それぞれ一定期間馴化した後に使用した。
【0064】
In vivo luciferase assay
ヒト由来のluciferase安定発現株(HepG2 Luc)の10の5乗個を注射針でマウス肝臓部位に移植し,1週間飼育した。その後、下記のin vivo Luciferase assayによって安定な生着が確認できた動物を用いて評価に用いた。
【0065】
in vivo luciferase asayは発光基質であるluciferin400μL(Pormega)をマウス腹腔内に投与し、そのluciferase-luciferin反応による化学発光をIVIS(登録商標)Imaging System(Xenogen)により測定した。測定は2%イソフロラン麻酔下で行い、基質投与1分後から、10〜15分間の測定値を平均することにより観察値とした。
【0066】
実施例1 BNC/リポソーム複合粒子の作製とその効果(界面活性剤法)
<界面活性剤法によるBNC/リポソーム複合粒子及びリポソームの作製>
クロロフォルム中にDC-6-14, DOPE, cholesterolを4:3:3(モル比)で混合し、60℃で加温しながら窒素中で乾燥させ脂質フィルムを作製した。作製した脂質フィルム(脂質総量15mg)に対し1mlのHEPES buffer (10mM Hepes, 100mM NaCl, 100mM Sucrose, pH7.4)を加えて水和し、凍結融解(液体窒素による凍結、37℃恒温水槽による融解)を5回繰り返した。凍結融解後のリポソームを超音波破砕機 (VC750, SONICS & MATERIALS, INC., CT, USA)を用いて、4.8kHzの出力で15分間超音波処理した。超音波処理後のリポソームにCHAPS(最終濃度2%)及びHEPES bufferを加え、脂質濃度を3 mg/mlとし、37℃で3時間インキュベートした。BNCは2%CHAPS、20 mM DTTを含むHEPES buffer に1 mg protein/mlとなるように溶解し、60℃で10 分間インキュベートした後さらに37℃で3時間インキュベートした。インキュベート後、それぞれを混合し、エクストルーダー(Northern Lipid Inc., BC, Canada)を用いてサイズを調整した。透析膜(透析分子量 12,000〜16,000, Sanko Junyaku Co. Ltd.,Tokyo, Japan)に混合液を充填し、HEPES buffer(5L×4回)に対して室温で24時間透析した。コントロール用リポソームは、上記の方法からBNCの添加を除いた(代わりにHEPES bufferを添加)同様の方法で作製した。
【0067】
透析後のBNC/リポソーム複合粒子を塩化セシウム密度勾配遠心により、解析したところ、主として分画5−7にBNCとリポソームの複合体を確認した(図1A)。
<siRNAの内包>
得られたBNC/リポソーム複合粒子10 μl(リポソーム15 μg、BNC 5 μg)に対し1μlのsiRNA溶液(50 pmol/μl)を添加し、Ribogreen assayによりsiRNAの内包効率を調べた結果、81.4−99.2 %であった。FAM-sDNAを同様の比率で添加し、塩化セシウム密度勾配遠心分離によってFAM-sDNAの分布を調べた結果、FAM-sDNAはBNC/リポソーム複合粒子の分画(分画4−7)と一致して検出された(図1B)。
<ノックダウン効果>
作製したsiRNA/リポソーム/BNC複合体4μl(6μgリポソーム、2μg BNC、20 pmol siRNA)及びsiRNA/リポソーム複合体(6μgリポソーム、20 pmol siRNA)をHepG2/luc細胞、A549/luc細胞にそれぞれ添加した。siRNAとしてはluciferase siRNAまたはSilencer Negative Control #1 siRNAをそれぞれ用いた。添加後1時間で培地を除去し、新しい培地を100μl/wellで加え、2日間37℃で培養した。2日後のluciferase比活性を図2に示す。Luciferase siRNA/リポソーム複合体はHepG2/luc細胞、A549/luc細胞に対してそれぞれ61、57%までluciferase活性を抑制し、発現抑制効果はほぼ同等であった(図2A)。一方、これにBNCを加えたluciferase siRNA/リポソーム/BNC複合体はluciferase活性を抑制したが、その抑制率はHepG2/luc細胞では92%、A549/luc細胞では34%であり、HepG2/luc細胞で特に効果的であった(図2B)。
【0068】
実施例2 BNC/リポソーム複合粒子の作製とその効果(界面活性剤法)−2
実施例1で示した脂質組成に代えてDC-6-14, DOPE, cholesterol, DSPE-PGを3:3:3:1(モル比)でBNC/リポソーム複合粒子を作製した。
<界面活性剤法によるBNC/リポソーム複合粒子の作製>
クロロフォルム中にDC-6-14, DOPE, cholesterol, DSPE-PGを3:3:3:1(モル比)で混合し、60℃で加温しながら窒素中で乾燥させ脂質フィルムを作製した。作製した脂質フィルム(脂質総量15mg)に対し1mlのHEPES buffer (10mM Hepes, 100mM NaCl, 100mM Sucrose, pH7.4)を加えて水和し、更に凍結融解後にリポソームを超音波破砕機 (VC750, SONICS & MATERIALS, INC., CT, USA)を用いて、4.8kHzの出力で15分間超音波処理した。超音波処理後のリポソームにCHAPS(最終濃度2%)及びHEPES bufferを加え、脂質濃度を3 mg/mlとし、37℃で3時間インキュベートした。BNCは2%CHAPS、50 mM glutathione (reduced form) を含むHEPES buffer に1 mg protein/mlとなるように溶解し、60℃で10 分間インキュベートした後さらに37℃で3時間インキュベートした。インキュベート後、それぞれを混合し、エクストルーダー(Northern Lipid Inc., BC, Canada)を用いてサイズを調整した。透析膜(透析分子量12,000〜16,000, Sanko Junyaku Co. Ltd.,.Tokyo, Japan)に混合液を充填し、HEPES buffer(5L×4回)に対して4℃で2日間透析した。
【0069】
透析後のBNC/リポソーム複合粒子10 μl(リポソーム15 μg、BNC 5 μg)に対し1μlのsiRNA溶液(50 pmol/μl)を添加し、Ribogreen assayによりsiRNAの内包効率を調べた結果、64.7−69.2 %であった。
<ノックダウン効果>
作製したsiRNA/リポソーム/BNC複合体4μl(6μgリポソーム、2μg BNC、20 pmol siRNA)をHepG2/luc細胞、A549/luc細胞にそれぞれ添加した。siRNAとしてはluciferase siRNAまたはnetative control siRNAをそれぞれ用いた。添加後1時間で培地を除去し、新しい培地を100μl/wellで加え、2日間37℃で培養した。2日後のluciferase比活性を図3に示す。luciferase siRNA/リポソーム/BNC複合体は何れの細胞でもluciferase活性を抑制したが、その抑制率はHepG2/luc細胞、で62%、A549/luc細胞で13%であり、HepG2/luc細胞で特に効果的であった(図3)。
【0070】
実施例3 BNC/リポソーム複合粒子の作製とその効果(直接融合法)
<siRNA/BNC/リポソーム複合粒子の作製>
市販の遺伝子導入用リポソームであるCoatsome EL-01-Dを滅菌蒸留水1mlで溶解し、脂質濃度を1.5 mg/mlとした。このリポソーム溶液540μlに対し270μlのluciferase siRNA(5 nmol/ml)またはSilencer Negative Control #1 siRNA(5 nmol/ml)溶液を加え混合した。このsiRNA/リポソーム溶液54μlに対し、BNC溶液(1, 0.5, 0.25 mg/ml in HEPES buffer (10 mM HEPES, 100 mM NaCl, pH 7.4))をそれぞれ54μl加え室温で 15分間インキュベートすることによってsiRNA/BNC/リポソーム複合粒子を形成させた。
【0071】
<ノックダウン効果>
siRNA/BNC/リポソーム複合体溶液108μlに対し、72μlの低血清培地Opti-MEM I (Invitrogen Japan K. K., Tokyo, Japan)を混合し、1well当たり20μl(lipid 6 μg、siRNA 10 pmol、BNC 1.5−6 μg)を細胞に添加した。添加後1時間で培地を除去し、新しい培地を100μl/wellで加え、2日間37℃で培養した。2日後のluciferase比活性及び相対活性を図4にそれぞれ示す。融合比率の異なる3種類のsiRNA/BNC/リポソーム複合体溶液(liposome: BNC = 4: 1, 2: 1, 1: 1)何れにおいてもHepG2/luc細胞でのみ顕著なluciferase活性を28−47%まで抑制し、A549/luc細胞では全く減少させないかあるいは減少が顕著ではなかった(110−77%)。以上の結果から直接融合法によって作製したBNC/リポソーム複合粒子は肝細胞選択的にノックダウン効果を示すといえる(図4)。
【0072】
実施例4 BNC/リポソーム(cholesterol / DOTAP)複合粒子の作製(直接融合法)とその効果
<siRNA/BNC/リポソーム複合粒子の作製>
クロロフォルム中にDOTAP, cholesterolを1:1(モル比)で混合し、60℃で加温しながら窒素中で乾燥させ脂質フィルムを作製した。作製した脂質フィルム(脂質総量11.6 mg)に対し2 mlの滅菌蒸留水を加えて水和し、更に凍結融解解後のリポソームをエクストルーダーを用いてサイズ調整した。作製したリポソームを滅菌蒸留水で3.2 mg/mlに希釈し、希釈したリポソーム溶液108.5μlに対して50 pmol/μlのsiRNA溶液を34μl加え、室温で5分間インキュベートすることによってsiRNAをリポソームに内包した。siRNAとしてはluciferase siRNAまたはnegative control siRNAを用いた。142.5μlのsiRNA内包リポソームに対して1 mg/mlのBNC溶液を323.4μl混合し、室温で5分間インキュベートすることによりsiRNA/リポソーム/BNC複合体を形成させた。
<ノックダウン効果>
作製したsiRNA/リポソーム/BNC複合体をsiRNA量として20、10、5 pmol/wellで細胞に添加した。添加後1時間で培地を除去し、新しい培地を100μl/wellで加え、2日間37℃で培養した。2日後のluciferase比活性を図5に示す。luciferase siRNA/リポソーム/BNC複合体はどの添加量(5−20 pmol siRNA/well)においてもHepG2/luc細胞でluciferase活性を27−47%まで抑制し、A549/luc細胞では85−90%が残存し、顕著な抑制は観察されなかった(図5)。
【0073】
実施例5 BNC/リポソーム複合粒子の作製とその効果(直接融合法、ターゲット遺伝子:GAPDH)
<siRNA/BNC/リポソーム複合粒子の作製>
市販の遺伝子導入用リポソームであるCoatsome EL-01-Dを滅菌蒸留水1mlで溶解し、脂質濃度を1.5 mg/mlとした。このリポソーム溶液を40μlずつ分注し、凍結乾燥した。凍結乾燥リポソームを40μlのGAPDH siRNA溶液またはnegative control siRNA溶液(12.5pmol/μl)で水和し、室温で15分間インキュベートした。siRNA内包リポソームに対して120μlのBNC溶液(500, 125, 62.5, 31.25 μg/ml)を混合し、室温で15分間インキュベートすることによりsiRNA/リポソーム/BNC複合体を形成させた。
【0074】
<ノックダウン効果>
作製したsiRNA/リポソーム/BNC複合体溶液160μlに対し840μlのOptiMEM Iを加え全量1mlとした。希釈液を60μl/wellでHUH-7細胞に添加し、添加2日後の細胞からRNAを精製しcDNAを合成した。定量的リアルタイムPCR法によって、Actin遺伝子の発現量を対照にGAPDH遺伝子の発現を解析した結果、negative control siRNA/リポソームを添加した対照区の発現量に対して、GAPDH siRNA/リポソーム/BNCを添加した区では40.4−54.4%までGAPDH遺伝子の発現量が減少した。
【0075】
実施例6
界面活性剤法および直接融合法を用いたsiRNA/BNC/リポソーム複合粒子について、実施例1−5で記したものも含め、各種の条件下で作製したsiRNA/BNC/リポソーム複合粒子のsiRNA内包効率、ノックダウン効果を表1に示す。
【0076】
表から分かるように、界面活性剤法においては各種の界面活性剤の各種濃度において、高い封入効率が得られ、in vitro評価の結果、何れの場合もノックダウン効果も得られた。一方、直接融合法においても各種脂質組成のLipidとBNCの各種混合比率において、高いノックダウン効果が得られた。なお、参考として市販のsiRNA用導入試薬の値が示してあるが、BNCとLiposome複合体のノックダウン効果は市販の試薬と同等の作用を示すことが分かる。
【0077】
実施例7BNCの血中滞留性に及ぼす効果
<ドキソルビシン(DXR)/BNC/リポソーム(BNC-D)の作製>
クロロホルムに溶解したDPPC、DPPE、DPPG-Na及びCholesterolを15:15:30:40(モル比)の割合で混合し、60℃で加温しながら窒素中で乾燥させ脂質フィルムを作製した。。作製した脂質フィルムを10mMHepes buffer・120mM硫酸アンモニウム(pH4)で水和し、凍結融解及びエクストルーダーを用いることにより120mM硫酸アンモニウムを内部に含むLiposomeを作製した。作製したLiposomeにDXRを脂質:DXRを15:1.2(重量比)の割合で添加し、pH勾配法によりドキソルビシンをLiposome内部に内包した(Liposome-D)。作製したLiposome-Dをゲルろ過することにより、未内包のDXRを除去した。
【0078】
作製したLiposome-DにBNCを一定の割合で混合し、BNC-Dを作製した。
<血中滞留性の確認>
投与検体はドキソルビシン(DXR)、Liposome-D、BNC-D及び市販のDXR内包PEG修飾リポソーム(DOXIL)とした。これらの特性を表2に示す。
【0079】
5週齢のICR系マウスにDXR、Liposome-D、BNC-D及びDOXILをDXRとして8mg/kgの用量を尾静脈より投与した。採血は投与後30、60、120及び180分に麻酔下で実施し、採取した血液は4℃、3000rpm、10minで実施し、血漿を得、血中DXR濃度をHPLC法により測定し、血中DXR濃度の推移を持って、血中滞留性の指標とした。各投与検体における経時的な血中濃度を図6に示す。 DXR単独投与の場合は投与直後から急速に血中DXR濃度は減衰し、投与後30分で血中から殆ど消失した。Liposome-Dの場合はDXR単独よりも消失は遅いが、投与後120分では血中から殆ど消失した。BNC-D及びDOXILの血中濃度は投与後180分まで高い値を示した。この結果からDXRの血中滞留性はDOXIL>BNC-D>>Liposome-D>>DXR単独の順で高かった。本結果はLiposome-DにBNCが融合することにより血中濃度が増加することから、BNCが血中滞留性を向上させる作用を有していることを示している。
なお、BNC-Dの粒子径が185nmで、表面電荷はほぼ−1.0mVものでは血中滞留性は低く、投与120分後には1.0μg/ml以下となった。以上のことから、血中滞留性には表面電荷と粒子径が重要であることが分かる。
【0080】
実施例8
安全性に関するデータ
siRNAを内包したBNC-liposomeのin vitroにおける安全性を確認した。luciferaseをターゲットとするsiRNAを内包したBNC-liposome(直接融合法、10%polyglycerol含有DC-6-14, DOPE、cholesterolを4:3:3(モル比)の組成のリポソームにBNCを融合させたもの)、BNC-liposome(界面活性剤法、10%polyglycerol含有DC-6-14, DOPE、cholesterol組成のリポソームに界面活性剤を添加し調製したBNC-liposome)、及びliposome(10%polyglycerol含有DC-6-14, DOPE、cholesterol組成のリポソーム)を、luciferaseを安定発現した2種の細胞、A549及びHepG2細胞に 脂質量として0.375〜6.0μgの範囲で添加し、添加1時間後に細胞を洗浄し、その48時間後のタンパク質を確認した。その結果、vehicleのみを添加したBlankを100とした時の、タンパク質量は、何れの群でもほぼ80%から120%の範囲にあり、BNC-liposome或はliposomeによる細胞毒性は殆どないことが確認された。
【0081】
実施例9 in vivo Luciferase assay
<siRNA/BNC/リポソーム複合粒子の作製>
クロロフォルム中にDC-6-14, DOPE、cholesterolを4:3:3(モル比)で混合し、40℃で加温しながら窒素中で乾燥させ脂質フィルムを作製した。作製した脂質フィルム(脂質総量60.32 mg)に対し8 mlの滅菌蒸留水を加えて水和し、更に凍結融解解後のリポソームをエクストルーダーを用いてサイズ調整した。作製したリポソームを滅菌蒸留水で1.5 mg/mlに希釈し、希釈したリポソーム溶液1600μlに対して5 pmol/μlのsiRNA溶液を800μl加え、室温で5分間インキュベートすることによってsiRNAをリポソームに内包した。siRNAとしてはluciferase siRNAまたは陰性コントロールとしてScrambled 配列siRNAを用いた。2400μlのBNC溶液(2 mg/ml)に対し、2400μlのsiRNA内包リポソーム溶液を混合し、氷上に静置することによりsiRNA/リポソーム/BNC複合体を形成させた。作成した複合体はAmicon Ultracel-100k (Millipore)を用いて遠心濃縮し、Millex-HV (Millipore, 0.45μm)でフィルターろ過した。濃縮した複合体のキュムラント解析による平均粒径値と、ヒストグラム解析(Marquadt)による散乱強度分布のグラフを図7に、その特性を表3に示す。
【0082】
<培養細胞における効果の確認>
siRNA/BNC/リポソーム複合体は遺伝子発現ノックダウン効果をHepG2 Luc(ヒト肝細胞)、A549 Luc(ヒト肺上皮細胞)で比較した。対照として BNCの代わりにBNC希釈buffer を加えた siRNA/liposome を用いて検討した。
【0083】
細胞としてHepG2 LucとA549 Lucを何れも1.0×104 cells/ 100μL で96穴プレートに播種し、培養1日後に以下の操作を行った。即ちsiRNA/liposome/BNC (siRNA 10pmol/well相当)を培地に添加し、1時間後に培地を交換した。添加2日後に培地を除去し、PBSで洗浄後に細胞を溶解処理し、luciferase活性測定と蛋白質量測定を行い、luciferase比活性により評価した。Luc siRNA/liposomeは、両方の細胞で弱いluciferase活性の低下をもたらしたが、BNCを付加したsiRNA/BNC/リポソームによる効果はヒト肝細胞で強かった(図8)。
<in vivoにおけるsiRNA導入効果の確認>
移植マウスの投与前のHepG2 Luc移植組織の発光強度をin vivo imaging systemを用いて観察し、その直後にsiRNA/BNC/リポソーム複合体を尾静脈よりsiRNA量として36μg/マウスの量を投与した。投与2日後に投与前と同じ条件下で移植組織の発光強度を測定した。投与前と投与2日後の発光強度の写真、及び発光強度の変化率を図9に示す。
【0084】
control siRNA/BNC/リポソーム複合体を投与した動物では、何れにおいてもin vivo Luciferase Assayによる発光の強さは投与前と殆ど変化がなかったが、Luc siRNA/BNC/リポソーム複合体を投与した動物では投与2日後に発光強度が減少した。投与2日後のLuc活性は46%であり、54%の抑制が見られた。界面活性剤法で同様の実験をしたところ、投与2日後のLuc活性は対照群と比較して64%のノックダウン効果が見られた。
<siRNAの効果持続時間の検討>
Luc siRNA/BNC/リポソーム複合体投与時のin vivo siRNAノックダウン効果の持続時間を検討した。HepG2移植マウスにLuc siRNA/BNC/リポソーム複合体を静脈内投与し、投与後3日、6日、9日、12日後の発光強度を測定し、その変化率を示した(図10)。Luc siRNA/BNC/リポソーム複合体投与後、3日目、6日目には明らかに投与前値に比べ、in vivo Luciferase Assayによる発光強度は投与前値より低く、Luc siRNAによるノックダウン効果が見られている。なお、投与9日目以降で発光強度は増強しているが、これは移植したヒト肝腫瘍が増殖した結果であると考えられる。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

参考文献
特開2007−209307(P2007−209307A)
(Kuroda, S., Otaka, S., Miyazaki, T., Nakao, M., and Fujisawa, Y. (1992) J. Biol. Chem. 267 (3), 1953-1961)
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Systemic leukocyte-directed siRNA delivery revealing cyclin D1 as an anti-inflammatory target.
Science. 2008 Feb 1;319(5863):627-30.
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】2%CHAPS存在下で作製したliposome(DC-6-14, DOPE, cholesterol=4:3:3)/BNC複合体の塩化セシウム密度勾配遠心分離解析。(A)liposome/BNC複合体(B)liposome/BNC複合体に1/10容量のFAM-sDNA (50 pmol/μl)を添加。各分画のコレステロール含量(600nmの吸光度)とFAM-sDNAの蛍光強度(EX 485 nm/EM 520 nm)及びBNCの含量(SDS-PAGE)を測定した。
【図2】界面活性剤法で作製したliposome (DC-6-14, DOPE, cholesterol=4:3:3)とliposome (DC-6-14, DOPE, cholesterol=4:3:3) / BNC複合体の、HepG2/luc細胞およびA549/luc細胞における遺伝子発現ノックダウン効果を検定した。A:liposomeにsiRNAを内包し両細胞に添加した(6μg liposome、20 pmol siRNA)。B:lioosome/BNC複合体にsiRNAを内包し両細胞に添加した(6μg liposome、2μg BNC、20 pmol siRNA)。添加後1時間で培地を除去し、新しい培地を100μl/wellで加え、2日間37℃で培養した。ボックスはそれぞれ、luciferase siRNA内包区(黒色)、陰性対照Silencer Negative Control #1 siRNA内包区(灰色)、無添加区(白色)を、値は添加2日後のluciferase比活性±SD(n=4)を示す。
【図3】界面活性剤法で作製したsiRNA/liposome (DC-6-14, DOPE, cholesterol, DSPE-PG10G=3:3:3:1) / BNC複合体をHepG2/luc細胞およびA549/luc細胞に添加した(6μg liposome、2μg BNC、20 pmol siRNA)。添加後1時間で培地を除去し、新しい培地を100μl/wellで加え、2日間37℃で培養した。ボックスはそれぞれ、luciferase siRNA内包区(黒色)、陰性対照Scrambled 配列siRNA内包区(灰色)、無添加区(白色)を、値は添加2日後のluciferase比活性±SD(n=4)を示す。
【図4】市販のリポソームであるCoatsome EL-01-Dを用いてsiRNA/liposome/BNCを作製し、HepG2/luc細胞、A549/luc細胞に添加した(lipid 6μg、siRNA 10 pmol, BNC 1.5-6μg/well)。ボックスはそれぞれ、luciferase siRNA内包区(黒色)、陰性対照Silencer Negative Control #1 siRNA内包区(灰色)、無添加区(白色)を、値は添加2日後のluciferase比活性±SD(n=4)を示す。
【図5】siRNA/liposome (DOTAP, cholesterol=1:1)/BNC複合体の、HepG2/luc細胞およびA549/luc細胞における遺伝子発現ノックダウン効果を検定した。作製したリポソームにsiRNAを内包後、BNCを融合させることによってsiRNA/liposome/BNC複合体を作製し、両細胞に添加した(siRNA 5-20 pmol/well)。ボックスはそれぞれ、luciferase siRNA内包区(黒色)、陰性対照scrambled 配列siRNA内包区(灰色)、無添加区(白色)を、値は添加2日後のluciferase比活性±SD(n=5)を示す。
【図6】ドキソルビシン(DXR)、ドキソルビシン/BNC/リポソーム(BNC-D)、ドキソルビシン/リポソーム(Liposome-D)及び市販のPEG修飾ドキソルビシン/リポソーム(DOXIL)をマウスの尾静脈より投与し、投与後30、60、120及び180分に経時的に採血し、血中のDXR量を測定した。各測定ポイントをDXR濃度±SD(N=3)で示す。
【図7】in vivo評価用siRNA/BNC/リポソームの粒子径 In vivo luciferase assayで用いたsiRNA/BNC/リポソームの粒径分布解析を示す。各測定サンプル名の括弧内の数値は平均粒子径をnm単位で示す。
【図8】in vivo評価用siRNA/BNC/リポソームの培養細胞におけるノックダウン効果 siRNA/BNC/リポソーム適用時のin vitroにおけるluciferase比活性
【図9】in vivoにおける効果(negative control siRNAとの比較) Luc siRNA/BNC/リポソーム或いはnegative control siRNA/BNC/リポソームをluciferase安定発現株(HepG2)移植マウスに静脈内投与したときの、投与前及び投与後2日のルシフェラーゼ発光の比較。
【図10】in vivoにおける効果(negative control siRNAとの比較)の比較Luc siRNA/BNC/リポソーム或いはnegative control siRNA/BNC/リポソームをluciferase安定発現株(HepG2)移植マウスに静脈内投与したときの、投与前を100%とした時の投与2日後の発光強度の変化。
【図11】siRNA/liposome/BNC投与後のノックダウン効果の持続時間Luc siRNA/BNC/リポソーム或いはnegative control siRNA/BNC/リポソームをluciferase安定発現株(HepG2)移植マウスに静脈内投与したときの、投与前を100%とした時の投与後3、6、9及び12日後の発光強度の変化。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
siRNAをB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子(BNC)とリポソームの複合粒子に内包してなるsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
【請求項2】
複合粒子の粒子径が70nm〜300nmである、請求項1に記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
【請求項3】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体が、細胞、臓器もしくは組織の標的化部分を含む請求項1または2に記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
【請求項4】
前記複合粒子の表面電荷が-5mV〜+5mVの範囲内にある、請求項1〜3のいずれかに記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
【請求項5】
BNCがB型肝炎ウイルスタンパク質を構成要素とし、肝細胞特異的にsiRNAを導入する請求項1〜4のいずれかに記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
【請求項6】
B型肝炎ウイルスタンパク質が、HBsAg(Q129R,G145R)である、請求項1〜5のいずれかに記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の複合粒子からなる標的細胞、組織、臓器に対するsiRNA導入剤。
【請求項8】
siRNAを内包したリポソームとB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子(BNC)を複合体化させることを特徴とするsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子の製造方法。
【請求項9】
リポソームとB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子(BNC)を界面活性剤の存在下に複合体化し、その複合物にsiRNAを加えることを特徴とするsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子の製造方法。
【請求項10】
前記複合粒子の粒子径が70nm〜300nmであり、前記複合粒子の表面電荷が-5mV〜+5mVの範囲内にある、請求項8または9に記載のsiRNA内包型BNCリポソーム複合粒子の製造方法。
【請求項11】
界面活性剤がMEGA-8、Triton X-100、Tween 20、Tween 80、N-ラウロイルサルコシン-ナトリウム塩、ドデシル硫酸リチウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、SDS、塩化セチルピリジニウム、CTAB、CHAPS、CHAPSO、スルホベタインSB10及びスルホベタインSB16からなる群から選ばれる請求項9に記載の方法。
【請求項12】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体が、PreS1領域を有するB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体である、請求項1〜6のいずれかに記載の複合粒子、請求項7に記載のsiRNA導入剤、請求項8〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体が、PreS1領域とS領域を有するB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体である、請求項1〜6のいずれかに記載の複合粒子、請求項7に記載のsiRNA導入剤、請求項8〜11のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−77091(P2010−77091A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249275(P2008−249275)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(503100821)株式会社ビークル (12)
【Fターム(参考)】