説明

BST波形の時間幅算出方法

【課題】特殊な装置を用いなくてもBST波形の時間幅を算出できるBST波形の時間幅算出方法を提供する。
【解決手段】AL値を異ならせた各第1駆動信号をインクジェットヘッドに入力し、各第1駆動信号毎の記録媒体の質量の計測結果からインクの吐出量が最小となるAL値を算出する。所定の駆動周期内に前記AL値の駆動波形が1つとBST波形とを備える第2駆動信号において、BST波形の時間幅を異ならせた各第2駆動信号毎の記録媒体の質量を計測する。AL値の駆動波形が2つとBST波形とを備える第3駆動信号においてBST波形の時間幅を異ならせた各第3駆動信号毎の記録媒体の質量を計測する。計測結果に基づいて、BST波形および1つ目の駆動波形によるインクの吐出量と2つ目の駆動波形によるインクの吐出量とが等しくなるBST波形の時間幅を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BST波形の時間幅算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の駆動周期内に目標階調に応じた数の駆動波形が挿入された駆動信号が入力され、所定の駆動周期内に駆動波形の数に応じた回数インクを吐出する(例えば目標階調が8階調の場合7ドロップする)ことにより目標階調のドットを形成するマルチドロップ駆動方式のインクジェットヘッドが知られる(例えば、特許文献1)。この種のインクジェットヘッドでは、1ドロップ目のインクの吐出量は、一般的に、2ドロップ目以降の吐出量よりも少なくなる。そこで、1ドロップ目の吐出量を増やすために、1ドロップ目の駆動波形の前にいわゆるBST(Boost)波形が挿入される。
従来、BST波形の時間幅は、インクジェットヘッドから吐出されるインクを飛翔液滴観察装置等の特殊な装置を用いて観察することにより算出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、飛翔液滴観察装置等の特殊な装置を用いてBST波形の時間幅を算出する従来の方法は、プリンタにインクジェットヘッドを組み込んだ状態ではBST波形の時間幅を算出できないうえ、BST波形の時間幅の算出に飛翔液滴観察装置等の特殊な装置が必要になるという問題がある。
【0004】
本発明は、画像形成装置にインクジェットヘッドを組み込んだ状態でBST波形の時間幅を算出でき、かつ特殊な装置を用いなくてもBST波形の時間幅を算出できるBST波形の時間幅算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、所定の駆動周期内に複数の駆動波形が挿入された第1駆動信号においてAL値を異ならせた各第1駆動信号をインクジェットヘッドに入力して記録媒体への印字を行わせ、前記各第1駆動信号毎の記録媒体の質量を計測して計測結果からインクの吐出量が最小となるAL値を算出し、前記所定の駆動周期内に前記AL値の駆動波形が1つと前記駆動波形の前に挿入されたBST波形とを備える第2駆動信号において、前記BST波形の時間幅を異ならせた各第2駆動信号を前記インクジェットヘッドに入力して記録媒体への印字を行わせ、前記各第2駆動信号毎の記録媒体の質量を計測し、前記所定の駆動周期内に前記AL値の駆動波形が2つと前記2つの駆動波形の前に挿入されたBST波形とを備える第3駆動信号において、前記BST波形の時間幅を異ならせた各第3駆動信号を前記インクジェットヘッドに入力して記録媒体への印字を行わせ、前記各第3駆動信号毎の記録媒体の質量を計測し、前記第2、第3駆動信号による計測結果に基づいて、前記BST波形および前記1つ目の駆動波形によるインクの吐出量と、前記2つ目の駆動波形によるインクの吐出量とが等しくなるBST波形の時間幅を算出するBST波形の時間幅算出方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
以上に詳述したように、本発明によれば、画像形成装置にインクジェットヘッドを組み込んだ状態でBST波形の時間幅を算出でき、かつ特殊な装置を用いなくてもBST波形の時間幅を算出できるBST波形の時間幅算出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態のPCを示すブロック図である。
【図2】BST波形の時間幅算出方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】第1駆動信号を示す図である。
【図4】インクの吐出量が最小となるUL値を示す図である。
【図5】第2駆動信号を示す図である。
【図6】第2、第3駆動信号が入力された際のインクの吐出量を示す図である。
【図7】第3駆動信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態のPC1(Personal Computer)を示すブロック図である。
PC1は、プロセッサ11、メモリ12、ASIC13、HDD14、表示部15、および操作部16を備える。
プロセッサ11は、PC1における各種処理を行うとともに、メモリ12に格納されるプログラムを実行することにより種々の機能を実現する。
メモリ12は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、VRAM(Video RAM)であってもよく、PC1に利用される種々の情報やプログラムを格納する。
【0009】
表示部15は、各種の操作画面や測定結果などを表示する。表示部15は、LCD(Liquid crystal display)、EL(Electronic Luminescence)、PDP(Plasma Display Panel)、CRT(Cathode Ray Tube)であってもよい。
操作部16は、キーボード(Keyboard)、マウス(Mouse)、タッチパネル(touch panel)、タッチパッド(touchpad)、ペンタブレット(graphics tablet)、専用ボタン等であってもよい。表示部15および操作部16は、一体として構成され、タッチパネル式の表示装置であってもよい。
PC1には、画像形成装置2および質量計3が接続される。PC1は、画像形成装置2に駆動信号を出力し画像形成装置2を制御する。また、PC1は質量計3を制御する。
【0010】
画像形成装置2は、例えばプリンタであってもよく、紙等の記録媒体Sにインクを吐出し、画像を形成する。画像形成装置2は、インクジェットヘッド21を備える。
インクジェットヘッド21は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等の色インクおよび白インクのいずれかのインクを吐出するものであってもよい。インクジェットヘッド21は、インクジェットヘッド21に入力される駆動信号中の駆動波形に応じて変形する圧電部材と、圧電部材の変形により容積が変わるインク室と、インク室の容積が小さくなった際にインクをインクジェットヘッド21外部に吐出するノズルとを備える。インクジェットヘッド21は、駆動波形が例えば正電圧の際に、圧電部材によりインク室の容積が小さくなり、インクを吐出する。インクジェットヘッド21は、マルチドロップ駆動方式で駆動され、入力される駆動信号において、所定の駆動周期内に挿入された駆動波形の数に応じた回数インクを吐出することにより、目標階調のドットを形成する。
【0011】
質量計3は、インクが吐出された記録媒体Sの質量を計測し、計測結果をPC1に出力する。
【0012】
以下、PC1による本実施形態のBST波形の時間幅算出方法を説明する。図2は、BST波形の時間幅算出方法を説明するためのフローチャート、図3は、第1駆動信号を示す図、図4は、インクの吐出量が最小となるUL値を示す図である。
【0013】
PC1は、まず、図3に示すような所定の駆動周期T内に7つの駆動波形が挿入された第1駆動信号において、UL値((Unit Length)値、AL(Acoustic Length)値とも言う)を異ならせた各第1駆動信号(電圧Vaa一定、BST波形無し)をインクジェットヘッド21に入力して記録媒体Sへの印字を行わせ、各第1駆動信号毎の記録媒体Sの質量を質量計3により計測する。なお、インクジェットヘッド21が記録媒体Sに印字する毎に作業者が記録媒体Sを質量計3に乗せ換えてもよいし、同作業を適宜の機械により自動的に行うようにしてもよい。また、インクジェットヘッド21は、例えば318個のノズルを有し、駆動周波数4.8KHzで駆動される。作業者が記録媒体Sを質量計3に乗せ換えてもよいことや、インクジェットヘッド21が例えば駆動周波数4.8KHzで駆動されることと等は、後述のACT2,3でも同様である。PC1は、UL値を異ならせた各第1駆動信号毎に計測された記録媒体Sの質量からインク付着前の記録媒体Sの質量を引き、図4に示すように、UL値を異ならせた各第1駆動信号毎のインクの吐出量を算出するとともに、インクの吐出量が最小となるUL値を算出する。本実施形態では、PC1は、インクの吐出量が最小となるUL値を2.50μsと算出する(ACT1)。
【0014】
ACT1の後、PC1は、所定の駆動周期T内に、ACT1で算出したUL値(2.50μs)の駆動波形Pが1つと前記駆動波形の前に挿入されたBST波形とを備える第2駆動信号(図5)において、BST波形の時間幅tbを異ならせた各第2駆動信号をインクジェットヘッド21に入力して記録媒体Sへの印字を行わせる。そして、PC1は、各第2駆動信号毎の記録媒体Sの質量を質量計3により計測し、各第2駆動信号毎のインクの吐出量を算出する(図6の1drop参照、ACT2)。
【0015】
ACT2の後、PC1は、所定の駆動周期T内に、ACT1で算出したUL値(2.50μs)の駆動波形Pが2つと前記2つの駆動波形の前に挿入されたBST波形とを備える第2駆動信号(図7)において、BST波形の時間幅tbを異ならせた各第2駆動信号をインクジェットヘッド21に入力して記録媒体Sへの印字を行わせる。そして、PC1は、各第2駆動信号毎の記録媒体Sの質量を質量計3により計測し、各第2駆動信号毎のインクの吐出量を算出する(図6の2drop参照、ACT3)。なお、ACT2、3の順は入れ替ってもよい。
【0016】
ACT3の後、PC1は、第2、第3駆動信号による計測結果に基づいて、BST波形および1つ目の駆動波形によるインクの吐出量と、2つ目の駆動波形によるインクの吐出量とが等しくなるBST波形の時間幅tbを算出する。本実施形態では、PC1は、図6の破線に示すように、該BST波形の時間幅tbを0.72μsと算出する(ACT4)。
なお、上述のPC1での処理における各動作は、メモリ12に格納されているBST波形の時間幅算出プログラムをプロセッサ11に実行させることにより実現される。
【0017】
以上の本実施形態では、画像形成装置2にインクジェットヘッド21を組み込んだ状態でBST波形の時間幅tbを算出できるので、使用温度環境の変化に応じた駆動波形の最適化が可能となる。
本実施形態では、飛翔液滴観察装置等の特殊な装置を使うことなく、一般に市販される質量計3でインクジェットヘッド21の駆動波形を決定できる。
【0018】
なお、前記実施形態では、第1駆動信号中に7つの駆動波形が挿入されていたが、適宜の数、挿入されていてもよい。
【0019】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施の形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、すべて本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0020】
21 インクジェットヘッド、S 記録媒体。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2006−137047号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の駆動周期内に複数の駆動波形が挿入された第1駆動信号においてAL値を異ならせた各第1駆動信号をインクジェットヘッドに入力して記録媒体への印字を行わせ、前記各第1駆動信号毎の記録媒体の質量を計測して計測結果からインクの吐出量が最小となるAL値を算出し、
前記所定の駆動周期内に前記AL値の駆動波形が1つと前記駆動波形の前に挿入されたBST波形とを備える第2駆動信号において、前記BST波形の時間幅を異ならせた各第2駆動信号を前記インクジェットヘッドに入力して記録媒体への印字を行わせ、前記各第2駆動信号毎の記録媒体の質量を計測し、
前記所定の駆動周期内に前記AL値の駆動波形が2つと前記2つの駆動波形の前に挿入されたBST波形とを備える第3駆動信号において、前記BST波形の時間幅を異ならせた各第3駆動信号を前記インクジェットヘッドに入力して記録媒体への印字を行わせ、前記各第3駆動信号毎の記録媒体の質量を計測し、
前記第2、第3駆動信号による計測結果に基づいて、前記BST波形および前記1つ目の駆動波形によるインクの吐出量と、前記2つ目の駆動波形によるインクの吐出量とが等しくなるBST波形の時間幅を算出する
BST波形の時間幅算出方法。
【請求項2】
請求項1に記載のBST波形の時間幅算出方法において、
記録媒体の質量は、質量計により計測するBST波形の時間幅算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−66489(P2012−66489A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213314(P2010−213314)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】