説明

C型肝炎ウイルスのインヒビター

本発明は、ペプチドまたはペプチド誘導体を使用してC型肝炎ウイルス感染を抑制する方法に関連する。本発明は、1部では、C型肝炎ウイルスのE2エンベロープ糖タンパク質が、HCV感染の早期段階において必要である細胞またはウイルスタンパク質との相互作用にとって重要である従来開示されていないドメインを有するという発見に基づく。本発明は、ペプチド類並びにC型肝炎ウイルスおよび関連ウイルスによって誘発される疾患の治療および予防方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本出願は、2004年9月29日に出願された、Robert F. Garry, Jr.およびJane A. McKeatingによる“Inhibitors of Hepatitis C Virus”と題する米国仮特許出願第60/614,280号に対する優先権を主張する;該米国特許出願は、参考としてその全体を本明細書に合体させる。
【0002】
(技術分野)
本発明は、ペプチド類並びにC型肝炎ウイルスのウイルス細胞結合および侵入を抑制する方法に関する。本発明の特定の実施態様は、C型肝炎ウイルス(HCV)による感染の抑制を意図する。
【0003】
(背景技術)
ウイルス類は、宿主細胞に感染して複製し、蔓延性の感染を発生させ、疾病を発症させなければならない。エンベロープ型ウイルスによる感染は、ビリオンを細胞表面上の1以上の構造体に結合することを必要とする(FlintおよびMcKeating、2000年)。初期段階は、低親和性の非特異結合であり得る(Barth等、2003年)。その後、ウイルスは、高親和性でもって一次レセプターに、次いで、ある場合には、二次レセプターまたはコレセプターに結合する(Bartosch等、2003年;Hsu等、2003年;Roccasecca、2003年;Cormier等、2003年;Pohlmann等、2003年、Zhang等、2004年)。細胞表面結合段階は、ビリオン表面タンパク質の種々の構造再配列、およびウイルス表面タンパク質間のタンパク質-タンパク質相互作用の変化に関連し得る(JardetskyおよびLamb、2004年;Modis等、2004年;Bressanelli等、2004年;Gibbons等、2004年)。後者の段階は、融合ペプチド、即ち、細胞膜と相互作用し得るウイルス糖タンパク質の疎水性ドメインを露出させ得る(Flint等、1999年;Allison等、2001年)。ある場合には、細胞表面レセプターへのウイルスの結合は、細胞内または同様な小胞経路を介してのウイルスの取込みを誘発させる(GarryおよびDash、2003年;JardetskyおよびLamb、2004年)。融合タンパク質を暴露させることのような、小胞内でのより酸性条件への暴露は、ウイルス表面タンパク質の構造変化を誘発させ得る(Kuhn等、2002年;Lescar等、2001年)。殆どのウイルスにおいて、細胞レセプターへの結合は、主として、1つのウイルス表面タンパク質の機能であり、一方、ウイルスと細胞膜との融合は、主として、もう1つの表面タンパク質の機能である。別々のレセプター結合性タンパク質および融合タンパク質を有するウイルスの例は、HIVである。HIVのレセプター結合性タンパク質は表面糖タンパク質(SU;gp120)であり、融合タンパク質は膜貫通糖タンパク質(TM;gp41)である(Kwong等、1998年;Gallaher等、1987年、1989年)。融合タンパク質がアミノ末端またはその近くに位置する群Iの融合タンパク質を含む殆どのウイルス、例えば、レトロウイルス類、オルソミクソウイルス類、パラミクソウイルス類、アレナウイルス類およびコロナウイルス類は、ひとつのタンパク質をレセプター結合のために、もう1つのタンパク質を融合のために使用する(Wilson等、1981年;Gallaher等、1996年、2001年)。アルファウイルス類は、内部融合タンパク質を含む群IIの融合タンパク質を有し、これも1つのタンパク質を主としてレセプター結合のために使用し、もう1つのタンパク質をウイルスと細胞膜との融合のために使用する(StrausおよびStraus、1994年)。フラビウイルス科のフラビウイルス属のメンバーがコード化しているエンベロープ(E)タンパク質は、内部融合タンパク質を有するものの、レセプター結合と融合の双方の機能を奏する(Allison等、2001年)。
【0004】
C型肝炎ウイルスは、双方ともC-末端膜貫通性アンカードメインを有する2つのエンベロープ糖タンパク質、E1 (gp35)およびE2 (gp70)をコード化している(FlintおよびMcKeating、2000年)。E2は、数種の細胞表面タンパク質(CD81、SR-BIおよびL-SIGN)と相互作用し、このE2がHCVのレセプター結合性タンパク質であることを示唆している(McKeating、2004年)。E1の機能は、あまり明らかではなく、E2をシャペロンするように機能している可能性がある(Flint等、1999年;GarryおよびDash、2003年)。C型肝炎ウイルスE2に相応する合成ペプチド類は、C型肝炎ウイルスが介在する感染を阻止し得る。C型肝炎ウイルスE2の構造を決定することは、薬物およびワクチン開発においてC型肝炎ウイルスE2の数種のこれまで未知であった特徴の同定を可能にする。
フラビウイルス群は、各種の重要なヒトおよび動物の病原体を含む。C型肝炎ウイルス(HCV)は、慢性肝炎、肝硬変、肝不全および肝細胞癌の主要ウイルス因子である(Poynard等、2003年)。米国のみにおいて、推定400万人の人々がHCVに感染している。これは、HIVによる感染数のおよそ4倍である。米国においては、毎年、30〜50,000例の新たなHCV感染が発生し、約15〜20,000人の人々が死亡している。さらにまた、これらの数は、HCV感染者の実質的割合が現在少数しか承認されていない治療法(即ち、インターフェロンおよび/またはリバビリンによる治療)に対する応答を殆どまたは全く示していないことを考慮すると、劇的に増加することが予測される。HCV感染は、主として薬物使用者間の注射針共用により拡大しているが、注射針穿刺事故、1992年以前の血液製剤、長期の血液透析および頻繁な性的接触からのかなりのリスクも存在する。リバビリンおよびインターフェロンを使用する現在のHCVに対する治療は、年間約8,000〜20,000ドルの費用を要し、治療患者の約半分における僅かに1部の成功でしかない。全体的には、HCV保有者の約80%は慢性肝臓炎症および肝硬変を患い、これらのうちの25%は、最終段階肝疾患即ち肝細胞癌(HCC)を発症するであろう(Colombo、2000年)。最終段階HCV疾患は、最も多い肝移植の指標であり、この移植には250,000〜300,000ドルの費用を要する。HCV感染症を治療するためのより一層良好な薬物およびHCV感染症を予防する有効なワクチンが緊急に求められている。
【0005】
(発明の開示)
本発明は、ペプチド類またはペプチド誘導体類を含む組成物、並びにこれらの組成物を使用してC型肝炎ウイルス(HCV)および関連ウイルスによる感染症を治療し、予防しまたは抑制する方法に関する。本発明は、HCVコード化E2糖タンパク質(および関連ウイルス由来のアナログ(1種以上))が、細胞レセプターとの高親和性相互作用において或いはビリオン:細胞膜融合前に生じるE2およびE1-E2タンパク質-タンパク質相互作用における、E2および/またはE1によるE2の相互作用(1以上)および再配列において重要である従来開示されていないドメインを有するという本発明者等の発見によって可能である。即ち、本発明は、HCVおよび関連ウイルスによって誘発される疾患の治療および予防のためのペプチド類および方法を提供する。
本発明は、HCVエンベロープ糖タンパク質E2が、感染および発病を阻止する合成ペプチドによってターゲッティングし得る数種のドメインを有することを教示する。HVC E2の領域は、その低または高親和性細胞レセプターへのHCVの結合において、E2の再配列において或いはビリオン:細胞膜融合前に生じるE2のタンパク質-タンパク質相互作用において重要である。また、本発明は、レセプター結合およびHVC E2が介在する他の融合前段階を抑制し得る合成ペプチド類を教示し、提供する。
【0006】
本発明において同定したC型肝炎ウイルスエンベロープ糖タンパク質2の特徴は、C型肝炎ウイルス感染症を治療または予防するワクチンおまた薬物開発における驚くべき指針を提供する。本発明の1つの実施態様によれば、上記ペプチドに対するターゲットは、E2、即ち、HCVのレセプター結合性タンパク質である。ビリオンレセプター結合相互作用をターゲッティングすることよって感染を阻止する可溶性CD4、ケモカイン類および抗体類のようなタンパク質は開発されてきているものの、このまたは他の融合前段階を遮断するウイルス表面タンパク質のペプチド擬態物は開示されていない。X線構造データ(Qureshi等、1990年;Wild等、1993年、1994年)を利用し得る前に、数種の強力なHIV-1インヒビターが、GallaherのHIV-1 TM融合タンパク質モデルに基づき開発された(Gallaher等、1989年)。これらのインヒビターの1つ、FUZEONR (aka エンヒュービルタイド、DP178;T20)ペプチドは、AIDS患者におけるHIV-1取込みを実質的に減少させることを臨床試験において証明している(Lalezari等、2003年)。本発明の主題である上記ペプチド薬物も、X線構造データの利益なしで開発された。FUZEONRは、HIV融合タンパク質並びにウイルスと細胞膜との融合に関与するHIV侵入段階をターゲッティングする。ある種のC型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチドは、FUZEONRおよび他の既知のウイルスペプチドインヒビターがターゲッティングするのと異なるウイルス複製サイクル中の段階をターゲッティングする。E2系ペプチド薬物は、感染および発病を阻止する合成ペプチドによってターゲッティングし得るE2ドメインの本発明者等の同定に基づき、比較的容易に開発し得るであろう。一旦有効なペプチドインヒビターが開示されると、非ペプチド薬物も開発され得る。
さらに詳細には、本発明は、C型肝炎ウイルスによる感染および発病を抑制する方法を提供する。本発明は、感染および発病を阻止する合成ペプチドによってターゲッティングし得るC型肝炎ウイルスE2ドメインの、本明細書において説明するような発見に関連する。本発明の各種実施態様は、ペプチド類またはペプチド誘導体類を使用してC型肝炎ウイルスレセプター結合、E2構造再配列またはタンパク質-タンパク質相互作用、或いは他の融合前段階を抑制する方法を提供する。本発明は、C型肝炎ウイルスによって誘発される疾患の治療または予防方法を提供する。
【0007】
本発明の各種実施態様は、下記の群の1以上から選ばれた1種以上のペプチドを含む製薬組成物を提供する。
A) 配列番号1〜配列番号:6のいずれかの配列を有するペプチド。
B) 異なるC型肝炎ウイルス株に由来することを除いて、配列番号1〜配列番号:6のいずれか1つに相同性のペプチド。
C) GB型肝炎ウイルスに由来することを除いて、配列番号1〜配列番号:6のいずれか1つに相同性のペプチド。
D) 配列番号1〜配列番号:6のいずれかの1つに機能的に等価のペプチド;該機能的に等価のペプチドは、1種以上のアミノ酸残基が相同性のアミノ酸により置換されて機能的に静の変化(functionally silent change)を生じているか或いは1種以上のアミノ酸が欠落していることを除いて、配列番号1〜配列番号:6の少なくとも1つに同一である。相同性のアミノ酸は、他のアミノ酸と化学的なまたは機能的な類似性を有するアミノ酸である。相同性アミノ酸群は、以下のとおりである:非極性アミノ酸類:アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニン;極性中性アミノ酸類:グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミン;疎水性アミノ酸類:ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン;塩基性アミノ酸類:リシン、アルギニン、ヒスチジン;酸性アミノ酸およびそのアミド類:アスパラギン酸、アスパラギニン、グルタミン酸、グルタミン;芳香族アミノ酸類:チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン、ヒスチジン;アミノ酸アルコール類:セリン、スレオニン;および、小アミノ酸類:グリシン、プロリン。
例えば、また、限定するつもりはないが、そのようなペプチドは、1種以上のD-アミノ酸も含み得る。
【0008】
本発明のこの実施態様の各種局面は、下記の特徴の1つ以上を有する1種以上のペプチドを含む組成物を提供する:
A) 配列番号1〜配列番号:42の1以上のアミノ酸配列を有するペプチド;該ペプチドのN-末端はアミノ基中で終端し、該ペプチドのC-末端はカルボキシル基中で終端する。
B) 配列番号1〜配列番号:42のいずれかの配列を有するペプチド;該ペプチドのN-末端はアミノ基中で終端せず、および/または該ペプチドのC-末端はカルボキシル基中で終端せず;該ペプチドのN-末端は、アセチル基、疎水性基、カルボベンゾキシル基、ダンシル基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子担体基からなる群から選ばれた部分中で終端するか、および/または、該ペプチドのC-末端は、アミド基、疎水性基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子基からなる群から選ばれた部分中で終端する。
C) 隣接アミノ酸残基に結合する少なくとも1つの結合が非ペプチド結合であること以外は、配列番号1〜配列番号:42のいずれかの配列を有するペプチド。
D) 少なくとも1つのアミノ酸残基がD-異性体構造であること以外は、配列番号1〜配列番号:42のいずれかの配列を有するペプチド。
E) 少なくとも1個のアミノ酸が異なるアミノ酸によって置換されていること(保存性または非保存性変化のいずれか)以外は、群“A)”または“B)”におけるようなペプチド。好ましくは、該ペプチドは、1、2、3、4、5またはそれ以上の保存性または非保存性変化を含む。本明細書において使用するとき、用語“保存性変化”とは、好ましくは、アミノ酸のペプチド配列中の相同性アミノ酸による置換(例えば、ロイシンのイソロイシンのようなもう1つの疎水性アミノ酸による置換)として定義する。非保存性変化とは、アミノ酸のペプチド配列中の非相同性アミノ酸による置換(例えば、酸性アスパラギン酸の塩基性アミノ酸アルギニンによる置換)として定義する。
F) 上記の群“A)”〜“E)”のいずれかに示しているようなペプチドの機能性フラグメントであるペプチド;該ペプチドは、配列番号1〜配列番号:42のいずれか1つの少なくとも3個の連続ヌクレオチドを有する。本明細書において使用するとき、用語“抑制性ペプチドの機能性フラグメントとは、好ましくは、当該抑制性ペプチドのアミノ酸サブセットからなる短めの配列を有するペプチドとして定義し、該フラグメントは抑制特性を保持する。例えば、“DEFGHKL”は、これが抑制性である場合に、抑制性ペプチド“ABCDEFGHIJKLMNOP”の機能性フラグメントを示し得る。そして、
G) 群“A”〜“F”の2以上の修飾を組合せたペプチド。例えば、2個以上の構成アミノ酸残基を連結する非ペプチド結合を含み、さらに、アミノ基でないN-末端部分を有するペプチド。
【0009】
また、本発明は、上述した1種以上のペプチドと特異的に反応する実質的に精製した抗体も提供する。
また、本発明は、上述したような1種以上のペプチドおよび/または抗体を投与することを含む、HCV感染症の治療または予防方法も提供する。
また、本発明は、そのような治療を必要とする患者に、上述したような1種以上のペプチドおよび/または抗体を含む組成物を、国際出願PCT/US2003/035666号に記載されているようなC型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質1によって少なくとも部分的に介在される融合段階をターゲッティングするペプチドおよび/または抗体またはペプチドと併用して投与することを含む、C型肝炎ウイルス感染症の治療または予防方法も提供する。HCV E2およびE1ペプチドおよび/または抗体は、相乗的に作用し得(即ち、別々に使用するときよりも併用においては低濃度で活性であり得る)、或いは相補的または付加的な形で作用し得る。
略号
HCV:C型肝炎ウイルス
HAS:ヒト血清アルブミン
【0010】
(発明を実施するための最良の形態)
本発明は、フラビウイルス感染症を予防、治療または抑制するための組成物および方法に関する。現在開示されている組成物および方法は、ビリオンエンベロープと細胞膜との融合、即ち、ウイルスゲノムを細胞の細胞質に伝達する過程を抑制することによって操作するものと理論付けされている。
本発明の各種実施態様は、HCV E2糖タンパク質の特異性部分を示すHCV抑制性ペプチドの同定および配列を提示する。これらの抑制性ペプチドタンパク質は、レセプター結合を干渉し、阻止することによって機能するものと信じている。これらのペプチドとしては、配列番号1〜42によって示されるペプチドおよび後述するようなそれらの誘導体がある。
本発明のこの実施態様の特定の局面においては、HCVエンベロープ糖タンパク質2に相応するペプチドを含む組成物が広範囲の投与量において有用である(実施例1において示すように、これらのペプチドは、細胞とのHCV融合を抑制するのに有効である)。
開示の明確化目的のため、また、限定するつもりはないが、本発明の説明を下記の下位項目に分ける:
(i) 本発明のペプチド
(ii) 本発明の有用性(上記ペプチドを使用するための組成物および方法を含む)。
【0011】
【表1】

【0012】
【表2】


















【0013】
【表3】

【0014】
【表4】


















【0015】
【表5】

【0016】
【表6】

【0017】
*表1〜6において、各ペプチドにおける“X”および“Z”は、それぞれ、N-およびC-末端部分を示す。上述したように、N-末端部分は、アミノ基であり得るか、或いは、アセチル基、疎水性基、カルボベンゾキシル基、ダンシル基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子担体基からなる群から選択し得;および/または、上記ペプチドのC-末端部分は、カルボキシ基であり得、或いはアミド基、疎水性基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子基からなる群から選択し得る。
【0018】
本発明のペプチド
ヒトおよび非ヒト宿主に感染するC型肝炎ウイルスE2のペプチドまたはタンパク質のような、C型肝炎ウイルスE2ビリオンエンベロープと細胞膜間の融合を抑制する任意のペプチドまたはタンパク質を本発明に従って使用し得る。本発明の各実施態様においては、これらのインヒビターとしては、限定するものではないが、C型肝炎ウイルスE2の数種の膜相互作用性ドメインに関連するペプチドがある。
C型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチドは、本発明によれば、上記アミノ酸配列と同一または相同性である。
本明細書において使用するとき、用語“保存性置換”とは、好ましくは、アミノ酸のペプチド配列中での相同性アミノ酸による置換を称する。
本明細書において使用するとき、用語“ペプチド誘導体”とは、好ましくは、限定するものではないがカルボベンゾキシル基、ダンシル基、t-ブチルオキシカルボニル基、脂質接合体(lipid conjugate)、ポリエチレングリコール基または炭水化物のような1種以上の基の付加によって修飾したペプチドを称する。
本明細書において使用するとき、用語“類似のペプチド”とは、少なくとも70%の同一または化学的に類似するアミノ酸を有するペプチドを称する。さらに好ましくは、類似のペプチドとは、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%またはそれ以上の同一および/または化学的に等価のアミノ酸残基を有するペプチドを称する。
本明細書において使用するとき、用語“その部分(portion)”とは、上記で列挙したペプチドの末端の一方または双方から1個以上のアミノ酸の除去により生ずるペプチド、即ち、切断ペプチドを称する。除去するアミノ酸の数は、残りのフラグメントが“機能性”である限り、1〜10個で変動し得る。本明細書において定義するとき、用語“機能性フラグメント”とは、ウイルス:細胞融合を抑制し、ウイルス感染力を抑制し得る、切断していないペプチドを認識してそれに特異的に結合し得る抗体を産生し得る、および/またはC型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質2介在性細胞感染を干渉し得るフラグメントを称する。
【0019】
本発明によれば、C型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチド(E2IP)に関連するペプチドは、好ましくは、E2IPペプチドまたは相同性ペプチドの少なくとも3個の連続残基を含み、さらに好ましくは、これらのペプチドは、4、5、6または7個の連続残基を含む。さらにより好ましくは、これらのペプチドは、少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30個、またはそれ以上の連続残基を含み(ペプチド中の残基の最大数まで)、最も好ましくは、これらの配列の全ての残基を含む。本明細書において使用するとき、C型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチドなる用語は、好ましくは、C型肝炎ウイルスE2抑制性タンパク質の相応する部分と同一の配列を有するペプチド並びに1個以上のアミノ酸を機能的に等価のアミノ酸で置換しているペプチドを意味する(下記参照)。また、該用語は、限定するものではないがベンジル化誘導体、グリコシル化誘導体のようなこれらのペプチドの誘導体、並びに天然産生アミノ酸の鏡像異性体を含むペプチドも称する。本発明の他の実施態様においては、C型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチド関連ペプチドまたは誘導体は、タンパク質のような担体分子に連結させる。本発明のこの実施態様に従い好ましいとみなされるタンパク質としては、限定するものではないが、(ヒト血清アルブミン)がある。また、さらなるアミノ酸を含むC型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチド関連ペプチドも本発明に従う有用なものとみなす。
ペプチド類は、天然産生または組換えウイルスタンパク質から製造し得、或いは標準の組換えDNA法(例えば、所望のペプチドをコード化する組換え核酸分子を含有する微生物による適切な転写プロモーターの制御下でのペプチドの発現、および該微生物からの所望ペプチドの採集)を使用して製造し得る。好ましくは、本発明のペプチドは、限定するものではないが、メリフィールド(Merrifield)固相合成のような当該技術において既知の任意の方法を使用して合成し得る(Clark-Lewis等、1986年)。
本発明のE2IPまたはそのフラグメントもしくは誘導体としては、限定するものではないが、一次アミノ酸配列として、アミノ酸配列C型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチド1:LVGLLTPGAKQNIQLINTNGSWHINS (配列番号1);HCV E2 抑制性ペプチド2:CNESLNTGWLAGLFYQH (配列番号:2);HCV E2抑制性ペプチド3:YSWGANDTDVFVLNNTRPPLGNWFGCTWMNSTGF (配列番号:3);または、HCV E2抑制性ペプチド4:DYPYRLWHYPCTINYTIFKVRMYVGGV (配列番号:4);HCV E2抑制性ペプチド5:X-ALSTGLIHLHQNIVDVQYLYGVGSSIASWAIKWEY (配列番号:5);E2抑制性ペプチド6:VVLLFLLLADARVCSCLWMMLLISQAEA (配列番号:6);或いはこれらの単一または複数の機能性部分を含有するものがある。
【0020】
また、機能的に等価のアミノ酸残基により配列内の残基を置換して機能的に静の変化をもたらす、配列番号1〜42のいずれかに対して同類の、より好ましくは、配列番号1〜6のいずれかに対して同類の改変配列(即ち、本明細書において示した任意の配列から改変した)も意図する。例えば、配列内の1個以上のアミノ酸残基を、原アミノ酸を機能的等価物として作用する同様な極性の他のアミノ酸で置換えて機能的に静の変化をもたらすことによって置換し得る。配列内のアミノ酸に対する置換物は、そのアミノ酸が属する群の他のメンバーから選択し得る。例えば、相同性アミノ酸群は、以下のとおりである:非極性アミノ酸類:アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニン;極性中性アミノ酸類:グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミン;疎水性アミノ酸類:ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン;塩基性アミノ酸類:リシン、アルギニン、ヒスチジン;酸性アミノ酸およびそのアミド類:アスパラギン酸、アスパラギニン、グルタミン酸、グルタミン;芳香族アミノ酸類:チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン、ヒスチジン;アミノ酸アルコール類:セリン、スレオニン;および、小アミノ酸類:グリシン、プロリン。例えば、また、限定するつもりはないが、そのようなペプチドは、1種以上のD-アミノ酸も含み得る。さらにまた、本発明のいずれの実施態様においても、上記ペプチドは、非有効性の担体タンパク質を含んでいてもよく、或いは担体タンパク質を全く含んでいなくてもよい。
さらに、前述したように、本発明のいずれの実施態様においても、上記ペプチドのN-末端部分は、アミノ基であり得るか(天然産生タンパク質/ペプチドにおいて典型的に見出されるように)、或いは、アセチル基、疎水性基、カルボベンゾキシル基、ダンシル基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子担体基からなる群から選択し得;および/または、上記ペプチドのC-末端部分は、カルボキシ基であり得るか(天然産生タンパク質/ペプチドにおいて典型的に見出されるように)、或いは、アミド基、疎水性基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子基からなる群から選ばれた部分であり得る。
【0021】
本発明の有用性
本発明のC型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチドは、C型肝炎ウイルス感染症を抑制するのに使用し得、従って、C型肝炎ウイルス感染症の治療において、さらにまたC型肝炎ウイルス感染症に対する予防において使用し得る。本発明のペプチドは、患者に、限定するものではないが、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロースおよび水のような任意の滅菌生体適合性製薬用担体中で投与し得る。ペプチドの患者への投与方法は、当業者にとっては周知である;これらの方法としては、限定するものではないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口および鼻腔内がある。さらに、本発明の製薬組成物は、脳室内および髄腔内注射のような任意の適切な経路により、中枢神経系に導入することも望ましくあり得る。
本発明は、リポソーム、微粒子またはマイクロカプセルによって投与するC型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチド、ペプチドフラグメントまたは誘導体(前述したような)を含む組成物、とりわけ製薬組成物を提供する。本発明の各実施態様は、そのような組成物を使用して、C型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチドの持続性放出を達成することを意図する。他の実施態様は、分子状担体(例えば、HSA)に結合させたFIPまたはその誘導体の投与を意図する。
本発明の各実施態様は、C型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチドおよび/またはこれらのペプチドに対して特異性の抗体のC型肝炎ウイルス感染症を患っているヒト対象者への投与法を提供する。いずれの実施態様においても、上記ペプチドおよび/または抗体は、典型的には、実質的に精製する。本明細書において使用するとき、用語“実質的に精製”とは、約80%よりも高い純度であるペプチド、ペプチドアナログまたは抗体を称する。より好ましくは、“実質的に精製”とは、約90%よりも高いまたは約95%よりも高い純度であるペプチド、ペプチドアナログまたは抗体を称する。最も好ましくは、該用語は、99%よりも高い純度であるペプチド、ペプチドアナログまたは抗体を称する。機能的には、“実質的に精製”とは、本発明の目的に適するようにする程度まで汚染物を含まないことを意味する。他の実施態様は、C型肝炎ウイルス感染のリスクにある対象者に上記ペプチドの予防的投与を提供する。
【0022】
本発明の他の実施態様は、フラビウイルス群のメンバーによる、さらにそれらの構造自体におけるC型肝炎ウイルスレセプター結合、E2構造再配列またはタンパク質-タンパク質相互作用、或いは他の融合前段階に関与する切断C型肝炎ウイルスE2タンパク質の構造を同定する方法を提供する。
本発明の他の実施態様は、下記の1以上から選ばれた式を有するペプチドを提供する。
本発明のE2IP、またはそのフラグメントもしくは誘導体としては、限定するものではないが、一次アミノ酸配列として、アミノ酸配列C型肝炎ウイルスE2抑制性ペプチド1:LVGLLTPGAKQNIQLINTNGSWHINS (配列番号1);HCV E2抑制性ペプチド2:CNESLNTGWLAGLFYQH (配列番号:2);HCV E2抑制性ペプチド3:YSWGANDTDVFVLNNTRPPLGNWFGCTWMNSTGF (配列番号:3);または、HCV E2抑制性ペプチド4:X-DYPYRLWHYPCTINYTIFKVRMYVGGV (配列番号:4);HCV E2抑制性ペプチド5:ALSTGLIHLHQNIVDVQYLYGVGSSIASWAIKWEY (配列番号:5);HCV抑制性ペプチド6:VVLLFLLLADARVCSCLWMMLLISQAEA (配列番号:6);または、これらのペプチドのいずれかのその単一の機能性部分または複数の部分を含有するものがある。
本発明の各実施態様によれば、本明細書において説明するいずれのペプチドも、アミノ末端においてアミノ基を含み得、或いは、以下のいずれかを含むように修飾し得る:アセチル基、疎水性基または巨大分子担体基。同様に、上記ペプチドのいずれかのカルボキシ末端も、カルボキシ基を含み得、或いは、以下のいずれかを含むように修飾し得る:アミド基、疎水性基または巨大分子担体基。本発明のこの実施態様の他の局面においては、アミノ末端基は、疎水性基、カルボベンゾキシル基、ダンシル基、t-ブチルオキシカルボニル基、脂質接合体、ポリエチレングリコール基または炭水化物である。この実施態様のいずれかの局面においては、カルボキシ末端基は、t-ブチルオキシカルボニル基、脂質接合体、ポリエチレングリコール基または炭水化物であり得る。
さらにまた、この実施態様の幾つかの局面は、隣接アミノ酸を連結している少なくとも1つの結合が非ペプチド結合であるペプチドも含む。この実施態様のとりわけ好ましい局面においては、上記非ペプチド結合は、イミド、エステル、ヒドラジン、セミカルバゾイドまたはアゾ結合である。
【0023】
この実施態様の他の局面は、少なくとも1個のアミノ酸がD-異性体アミノ酸であるペプチドを提供する。
本発明のこの実施態様のさらなる局面は、妥協的な少なくとも1個のアミノ酸置換を、第1のアミノ酸残基を第2の異なるアミノ酸残基で置き換えるようになされているペプチドを提供する。これらの置換は、ペプチドが本発明に従い依然として機能性である限り、保存性または非保存性であり得る。
本発明のこの実施態様の他の局面は、少なくとも1個のアミノ酸を欠落しているペプチドを提供する。前述したように、本発明のこの実施態様に従うペプチドは、上述した配列番号の1つの少なくとも3個の連続アミノ酸を含まなければならず、そして、機能性セグメントでなければならない。
本発明の他の実施態様は、本明細書において説明するペプチドおよび/または抗体の1種以上を、単独または担体化合物と一緒に含む組成物を提供する。好ましくは、担体は、製薬上許容し得る賦形剤である。
他の実施態様は、1以上の他の治療処方と組合せた本明細書において説明する方法の使用を提供する。例えば、本発明の1種以上のペプチドおよび/または本発明のペプチドに対して特異性の1種以上の抗体は、C型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質1が介在する膜融合段階を抑制するようにターゲッティングする1種以上のペプチドまたは抗体と併用して使用し得る。そのようなペプチドは、本明細書に参考としてその全体を合体させる国際出願PCT/US2003/035666号に記載されている。HCV E2およびE1ペプチドおよび/または抗体は、相乗的に作用し得る(即ち、これらのペプチドおよび/または抗体は、別々に使用するときよりも併用においては低濃度で活性であり得る)か、或いは相補的または付加的な形で作用し得る。
上述した改変のいずれの組合せも本発明の1部とみなすことに留意されたい。
【0024】
(実施例)
実施例1
HCVエンベロープタンパク質が介在する感染性を抑制剤する肝炎ウイルスE2ペプチドの同定
ウイルスとターゲット細胞との選択的結合は、通常、細胞表面上でのウイルス表面糖タンパク質と単一または複数の特異的レセプター間の相互作用によって判定する。レセプター結合は、感染開始における本質的な段階であり、ウイルスと細胞膜との融合のような他の段階に先行する。ビリオン:レセプター相互作用(1以上)は、宿主範囲およびウイルスの細胞または組織向性を決定し得、病原性を決定し得る。HCVは、2つの推定表面糖タンパク質、即ち、E1およびE2をコード化しており、これら糖タンパク質は、双方とも、これら糖タンパク質をビリオンエンベロープ中に固定するカルボキシル末端膜貫通ドメインを有するものと信じられている。生体外発現試験により、E1およびE2は、結合してヘテロダイマーを形成し、これが小胞体(ER)、即ち、提案されたHCV集合および出芽の部位中に集積することが証明されている(Flint等、2004年)。数例の証拠群は、E2がレセプター結合性タンパク質であることを示唆している(FlintおよびMcKeating、2000年)。E1は、HCV融合タンパク質であることが示唆されている(Flint等、1999年;GarryおよびDash、2003年)。しかしながら、他の研究は、E2が群IIのウイルス融合タンパク質構造を有し、HCVの融合タンパク質を代表することを示唆しており(Yagnik等、2000年)、HCV E1およびE2の双方とも膜融合における役割を有する可能性がある。HCV増殖の生体外系が無いことは、ビリオンおよびその細胞侵入メカニズムについての生物学的および生理化学的研究を妨げており、細胞レセプター類は未知のままである。血漿から精製したHCVは、血漿リポタンパク質と結合して存在していることが報告されており、該ウイルスは低密度リポタンパク質レセプター(LDLR)を使用して細胞への侵入を得ていることを示唆している(Agnello等、1999年)。E2の切断可溶性形は、ヒト細胞に特異的に結合することが報告され、CD81 (Pileri等、1998年;Roccasecca等、2003年;Cormier等、2004年)、スカベンジャーレセプター群Bタイプ1 (SR-B1) (Scarselli等、2002年)および樹状細胞特異性細胞間接着分子3グラビングノンインテグリン (DC-SIGN) (Pohlmann等、2003年)との相互作用を同定するのに使用されている。結果は、E2がC型肝炎ウイルス感染症に対するペプチド薬物を開発するターゲットを示し得ることを示唆している。
【0025】
材料および方法
HCV増殖のための一般的な細胞培養系が無いことを克服するために、HCVエンベロープ糖タンパク質を発現する感染性偽型ウイルスを産生させている(Hsu等、2003年)。HIVコアタンパク質およびHCVエンベロープタンパク質を含む偽型を、293-T細胞と等量の、株H77のHCV E1およびE2並びにHIVエンベロープ欠損プロウイルスゲノム、pNL4.3.Luc.R-E-を発現するプラスミドとの共移入によって産生させた(Pohlmann等、2003年)。7〜10個のアミノ酸が重複し且つHCV株H77(遺伝子型1a)のE2の全アミノ酸配列およびHCV株J4 (遺伝子型1b)の全アミノ酸配列を示す18量体ペプチド群からの各ペプチドを20%DMSO中で可溶化し、希釈した(最終DMSO濃度 <2%)。各ペプチドを、p24抗原標準化HCV偽型ウイルス上清と一緒に37℃でインキュベートした。ペプチドの平均濃度は約25μMであったが、溶液中でのある種のペプチドの実際の濃度は、DMSO中での低溶解性故に、10μM以下であった。上清をDMSOビヒクル単独または偽型感染力を中和することが知られているHCV E2に対するMab (モノクローナル抗体)によっても処理した。ペプチド処理および対照HCV偽型を細胞に添加し、16時間インキュベートし、ウイルスを除去し、細胞を37℃で72時間インキュベートした。その後、細胞溶解物を、開示されているようにして、ルシフェラーゼ活性について試験した(Hsu等、2003年)。
【0026】
結果および考察
50種のHCV H77 1a E2ペプチドをHCV感染力アッセイにおいて試験し、9種が70%よりも高い感染力抑制を示し、7種は約95%の抑制を示した(表7)。試験した46種のHCV J4 1b E2ペプチドのうち、4種が70%よりも高い感染力抑制を示した(表8)。数種の抑制性ペプチド、例えば、HCV H77 1a E2ペプチド4および5、32および33、並びに43、44、45および46は、E2配列中で重複している(図1)。この結果は、数種のペプチドのいずれも特定の領域をターゲッティングし、抑制性であり得ることを示唆している。2群のE2ペプチド、H77とJ4との比較は、類似のペプチドが抑制性であり得るが(即ち、ペプチド32、33と108、109)、密接に関連する配列を有する他のペプチドは抑制性でない(即ち、ペプチド4、5、および99)ことを明らかにしている。
選択したE2抑制性ペプチドを、HIVのコアタンパク質、マウス白血病ウイルス表面および膜貫通糖タンパク質(MuL V SUおよびTM)、または水胞性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV G)を含有する偽型に添加した。これらのペプチドは、HCV E1およびE2を含む偽型を抑制したが(図2A)、MuL VまたはVSV偽型を有意に抑制することはできなかった(図2Bおよび2C)。結果は、これらのHCV E2抑制性ペプチドがHCVの感染力の抑制において特異性であることを示している。また、これらの結果は、E2ペプチドの抗HCV薬物としての可能性を示唆している。

































【0027】
【表7】



【0028】
【表7−2】



































【0029】
【表8】



【0030】
【表9】



【0031】
【表9−2】


























【0032】
【表10】



【0033】
【表10−2】

【0034】
表7〜10のペプチドは、HCVの2つの株(H77およびJ4)のE2を示すペプチドの重複群である。配列番号1〜6は、表7〜10において黄色で強調した“的中物”の長めの形である。配列番号1〜6の設計の論拠は、最適の抑制性ペプチドがフランキング配列を含み得ること並びに究極の最適ペプチドはこの長めのペプチドのフラグメントであり得ることである。配列番号:7〜42は、HCVの他の主要遺伝子型のE2タンパク質由来の同類配列を示す配列番号1〜6の変異体である。
【0035】
実施例2
HCV E2のプロテオミクス計算モデル
HCVは細胞培養において増殖させ得ないので、不十分な数のビリオンしか構造解析を行なうのに利用できない。従って、HCV E2の分子構造は、決定されてなく、現在のところ未知である。HCV E2のX線結晶学的構造の不存在においては、有用な構造的情報は、既知の構造を有する他のウイルス糖タンパク質との比較によって補完する新たに開発された計算解析を使用して引出すことが可能である。HCV E2のそのようなモデルは、E2抑制性ペプチドの潜在的作用メカニズムを明確にするのに有用であり得る。
材料および方法
C型肝炎ウイルスの最も一般的なサブタイプの代表を、配列および構造比較において使用した。試験した株は、ヒトプロトタイプHCV株H77 (サブタイプ1a、Genbank Accession NP_751921)、株HC-J4 (サブタイプ1b、Genbank Accession BAA01583)、株NDM59 (サブタイプ2a、Genbank Accession AF169005)、株TrKj (サブタイプ3b、Genbank Accession D49374)、株ED43 (サブタイプ4a、Genbank Accession Y11604)、株EUH1480 (サブタイプ5a、Genbank Accession Y13184)、株euhk2 (サブタイプ6a、Genbank Accession Y12083)であった。
表面糖タンパク質の一般的モデルを引出す方法は、以前に開示されている(Gallaher等、1989年)。Smith-Watermanの配列アラインメントアルゴリズム(SmithおよびWaterman、1981年)を使用するrdf2 (PearsonおよびLipman、1988年)から引出したプログラムであるPRSS3を使用してタンパク質アラインメントの有意性を判定した。PRSS3は、ftp.virginia.eduから匿名ftpにより利用し得る配列解析プログラムのFASTAパッケージの1部である。blosum50スコアリングマトリックス、ギャップオープニングペナルティー 12およびギャップエクステンションペナルティー 2を含むPRSS3用のデフォルト設定を使用した。MacMolly (Soft Gene GmbH社、ベルリン) を使用して、限られた配列類似性の領域を模索し、Chou-FasmanおよびRobson-Garnier解析 (Biou等、1988年;ChouおよびFasman、1974年)を行なった。PHDsec (Columbia University Bioinformatics Center、http://cubic.bioc.columbia.edu/predictprotein/)は、二次構造予測の好ましい方法である(RostおよびLiu、2003年)。PHDsecは、複数の配列アラインメントからの二次構造を、神経回路網システムにより予測し、3つの状態、即ち、ヘリックス、ストランドおよびループについて72%の予測平均精度で評価される。膜貫通ヘリックスを形成する有意の性向を有するドメインを、TMpred (ExPASy、Swiss Institute of Bioinformatics、http://www.ch.embnet.org/software/TMPRED_form.html)により同定した。TMpredは、天然産生膜貫通糖タンパク質のデータベースであるTMベースの統計解析に基づく(HofmannおよびStoffel、1993年)。脂質二分子層に分割する性向を有する配列を、デフォルト設定を使用するStephen WhiteラボラトリーからのMembrane Protein eXplorerバージョン2.2aによって同定した(White等、2003年)。
【0036】
結果および考察
HCV E2の二次元モデルを、プロテオミクス計算解析の応用および他のレセプター結合性エンベロープタンパク質の既知の構造との比較に基づき開発した(図3)。図3に示すHCV E2の二次構造は、PHDsec二次構造アラインメントアルゴリズムに一致しており、さらにまた、Chou-FasmanおよびRobson-Garnier予測にも概して一致している。該E2モデルの重要な特徴は、分子のアミノ末端2/3におけるベータシート構造と分子のカルボキシル末端1/3におけるアルファ螺旋構造の優勢である。ジシステイン連結が、レトロウイルスのエンベロープ糖タンパク質との比較に基づき予測された。レトロウイルスエンベロープタンパク質においては、15個よりも多いアミノ酸によって分離されている隣接システインは、典型的に、相互に共有結合している。15個よりも少ないアミノ酸によって各々分離されている4個のシステイン集団は、集団内の隣接していないシステインと典型的に共有結合している。E2のカルボキシル末端1/3における最初の2つの長い予測アルファヘリックスは、他のフラビウイルスエンベロープタンパク質の幹領域(Allison等、1999年)と同類の予測幹構造を形成している。描いている膜貫通ドメイン構造は、TMPREDアルゴリズムによって予測した。
アミノ末端領域、システイン集団、幹および膜貫通ドメインに相応するHCV E2モデル上の領域に対するHCV E2抑制性ペプチドマップ(図3の陰影領域)。HCV E2のこれらのドメインは、C型肝炎ウイルスレセプター結合、E2構造再配列またはタンパク質-タンパク質相互作用、または他の融合前段階に関与し得る。HCV E2抑制性ペプチドは、図4に示すように、HCV感染におけるこれらの早期段階を干渉するように使用し得る。
【0037】
本発明は、本明細書に記載した特定の実施態様に範囲を限定するものと解釈すべきでない。むしろ、記載した特定の実施態様は、単なる例示である。実際には、本明細書において説明した以外の本発明の種々の修正が、上記の説明および添付図面から、当業者にとって明らかとなるであろう。そのような修正は、特許請求の範囲に属するものとする。種々の刊行物を本明細書において引用しており、これら刊行物の各々の開示は、参考として本明細書にその全体を合体させる。本出願のいずれの説明区分におけるいずれの文献の引用または選別も、そのような文献が本発明に対する従来技術として入手し得ることの告白と解釈すべきではない。
【0038】
参考文献
下記の各文献は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。









【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】活性ペプチドの位置を示す、2つのC型肝炎ウイルス株に由来するタンパク質E2ペプチド配列のアラインメントである。H77、即ち、HCVの遺伝子型1a株およびJ4、即ち、HCVの遺伝子型1b株に由来するE2配列をアラインメントしている。2つの配列において、“:”は同一のアミノ酸を示し、“.”は化学的に類似のアミノ酸を示している。ペプチド配列上下のバーは、表7および8において番号付けし、HCV偽型による感染を抑制するペプチドの位置を示す。
【図2】HCV E2抑制性ペプチドの特異性を示す。表7および8におけるようにして番号付けした各E2ペプチドを、HIVおよびHCV E1、E2のコアタンパク質、マウス白血病ウイルス表面および膜貫通糖タンパク質(SUおよびTM)、または水胞性口内炎ウイルス糖タンパク質(G)を含有する偽型に添加した。また、上清をDMSOビヒクル単独または偽型感染力を中和することが知られているHCV E2に対するMab (モノクローナル抗体)によっても処理した。ペプチド処理および対照偽型を細胞に添加し、これらを37℃で72時間インキュベートした。その後、細胞溶解物を、開示されているようにして、ルシフェラーゼ活性について試験した(Hsu等、2003年)。
【図3】表7および8におけるようにして番号付けした活性ペプチドの位置を示す、ヘパシウイルスE2糖タンパク質の構造である。HCVエンベロープタンパク質2の二次元モデルを、プロテオミクス計算用具および他のRNAウイルスのレセプター結合性タンパク質との比較を使用して構築した。HCV偽型感染力の70%よりも高い低下率をもたらした配列を示している。
【図4】HCV E2ペプチドの融合前活性部位を示すモデルである。パネルA:HCVビリオン内でのE1-E2相互作用またはE2-E2相互作用のHVC E2ペプチド分裂。パネルB:HCVビリオン-レセプター相互作用のHCV E2分裂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記からなる群から選ばれる1種以上のペプチド類を含む、製薬組成物:
a) 配列番号1〜配列番号:6のいずれかの配列を有するペプチド;
b) 別のC型肝炎ウイルス株由来またはGB型肝炎ウイルス由来の配列番号1〜配列番号:6のいずれか1つに相同性のペプチド;および、
c) 配列番号1〜配列番号:6のいずれかの1つに機能的に等価のペプチド;該機能的に等価のペプチドは、1種以上のアミノ酸残基が相同性のアミノ酸により置換されて機能的に静の変化を生じているか或いは1種以上のアミノ酸が欠落していることを除いて、配列番号1〜配列番号:6の少なくとも1つに同一である。
【請求項2】
以下の1種以上から選ばれる少なくとも1種のペプチドを含む、製薬組成物:
a) N-末端部分がアミノ基であり、C-末端部分がカルボキシル基である、配列番号1〜配列番号:6の1以上のアミノ酸配列を有するペプチド;
b) N-末端部分がアミノ基ではないかおよび/またはC-末端部分がカルボキシル基ではなく、アミノ部分の代わりに、N-末端部分は、アセチル基、疎水性基、カルボベンゾキシル基、ダンシル基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子担体基からなる群から選ばれるか、および/または、カルボキシル部分の代わりに、C-末端部分は、アミド基、疎水性基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子基からなる群から選ばれる、配列番号1〜配列番号:6のいずれかの配列を有するペプチド;
c) 隣接アミノ酸残基を連結する少なくとも1つの結合が非ペプチド結合である、配列番号1〜配列番号:6のいずれかの配列を有するペプチド;
d) 少なくとも1つのアミノ酸残基がD-異性体構造である、配列番号1〜配列番号:6のいずれかの配列を有するペプチド;
e) 少なくとも1個のアミノ酸が異なるアミノ酸によって置換されていることを除き、項“a)”または“b)”に記載のペプチド;または、
f) 配列番号1〜配列番号:42のいずれか1つの少なくとも3個の連続ヌクレオチドを有する、項“a)”〜“e)”のいずれかに記載のペプチドの機能性フラグメント。
【請求項3】
少なくとも1種のペプチドが、配列番号1、2、3、4、5および6からなる群の1以上から選ばれるアミノ酸配列を有する、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
N-末端アミノ酸の末端部分が、アセチル基、疎水性基、カルボベンゾキシル基、ダンシル基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子担体基であり;および/または、C-末端アミノ酸の末端部分が、疎水性基、tブチルオキシカルボニル基または巨大分子基である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
N-末端アミノ酸の末端部分が、脂質接合体、ポリエチレングリコールまたは炭水化物から選ばれる巨大分子担体基であり;および/または、C-末端アミノ酸の末端部分が、脂質接合体、ポリエチレングリコールまたは炭水化物から選ばれる巨大分子担体基である、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの結合が、イミド結合、エステル結合、ヒドラジン結合、セミカルバゾイド結合およびアゾ結合からなる群から選ばれる非ペプチド結合である、請求項3記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1個のアミノ酸が、D-異性体アミノ酸である、請求項3記載の組成物。
【請求項8】
N-末端アミノ酸基の末端部分がアミノ基であり、C末端アミノ酸の末端部分がカルボキシル基である、請求項3記載の組成物。
【請求項9】
前記ペプチドが、配列番号1、2、3、4、5および6からなる群の1以上から選ばれる、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1種のペプチドが、配列番号:7〜42の配列から選ばれる配列を有するペプチドの群から選ばれる、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
患者に請求項1〜10のいずれか1項記載の有効量の製薬組成物を投与することを特徴とする、C型肝炎ウイルス感染症の治療または予防方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のペプチドに対して特異的な、実質的に精製した抗体。
【請求項13】
患者に、請求項1〜9のいずれか1項記載の1種以上のペプチドおよび/または請求項11記載の抗体および/またはC型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質1が介在する膜融合段階を抑制することをターゲッティングする1種以上のペプチドおよび/または1種以上の抗体を投与することを特徴とする、C型肝炎ウイルス感染症の治療または予防方法。
【請求項14】
請求項1〜9および/または11に由来する化合物とC型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質1が介在する融合を抑制するペプチドおよび/または抗体の併用が、HCV感染の予防または抑制において相乗性である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
配列番号1〜6のいずれか1つの配列を有するペプチドまたはその抑制性部分。
【請求項16】
配列番号1〜6のいずれか1つの配列からなるペプチド。
【請求項17】
配列番号:7〜42のいずれかの1つの配列を有するペプチドまたはその抑制性部分。
【請求項18】
配列番号:7〜42のいずれか1つの配列からなるペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−514717(P2008−514717A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534728(P2007−534728)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/034777
【国際公開番号】WO2006/039326
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(502137178)ザ アドミニストレイターズ オブ ザ テューレイン エデュケイショナル ファンド (5)
【出願人】(596171834)ザ ロックフェラー ユニヴァーシティ (11)
【Fターム(参考)】