説明

C型肝炎ウイルス阻害剤を検出するためのアッセイ方法

【課題】本発明は、HCV増殖環の全過程から選択される何れかの過程を標的とするHCVの阻害剤・治療剤またはHCVの増殖促進効果を有する薬剤の検出および探索を可能とする検査方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ヒト肝癌由来Huh7細胞、試験検体および感染性HCVを接触させたのち、HCVを測定することを特徴とする検査方法による。HCVが、コアタンパク質と2つのエンベロープタンパク質(E1、E2)ならびに複製に必要な非構造タンパク質(NS2、NS3、NS4、NS5)を含み、該HCVのRNAゲノムが、コアタンパク質をコードする配列の上流にPolIプロモーター配列、下流にPolIターミネーター配列を配置させてなる感染性HCVレプリコンゲノムによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎ウイルスの増殖環の全過程から選択される何れかの過程を標的とするC型肝炎ウイルス阻害剤を検出するためのアッセイ方法に関する。より正確には、HCVの感染から、複製、HCVタンパク質の翻訳、成熟、修飾、組立て、さらにウイルス放出にいたるHCV増殖のいずれかのステップに影響を及ぼす各種物質の探索を可能とするアッセイ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(HCV:hepatitis C virus)は、一本鎖RNAウイルスで、フラビウイルス科ヘパシウイルス属に属する。 HCV1〜6までの6種の遺伝子型に分類される。さらにそれらの遺伝子型がいくつかのサブタイプに分類される(Hepatology, 10, p1321-1324 (1994); Hepatology, 42, p962-973 (2005))。現在では、HCVの複数の遺伝子型についてゲノム全長の塩基配列が決定されている(Science, 244, p359-362 (1989); J. Med. Virol., p334-339 (1992); J. Gen Virol., 73, p673-679 (1992); Hepatology, 16, 293-299 (1992))。
【0003】
HCVは、約9.4kbの一本鎖RNAをゲノムとする。ゲノムの両端に存在する非翻訳領域は二次構造にとみ、5’末端には通常のmRNAで観察されるキャップ構造がなく、そのかわりにキャップ非依存的にrRNAがRNAの翻訳を開始可能なIRES(Internal Robosomal Entry Site)が存在する。ウイルスRNAから約3000アミノ酸からなる巨大な前駆体タンパク質が翻訳され、宿主細胞由来のタンパク質分解酵素によりウイルスの粒子を構成するコアタンパク質と2つのエンベロープタンパク質(E1、E2)に、また粒子には取り込まれないが、複製に必要な非構造タンパク質(NSタンパク質)は、NS2とNS3が有するタンパク質分解酵素によって各タンパク質に切断される。
【0004】
HAART(Highly active antiretroviral therapy)の導入によって、エイズ患者の予後が大幅に改善された結果、わが国を含む先進国では、ヒト免疫不全ウイルス(HIV:Human Immunodeficiency Virus)感染者においてもエイズ以外の病因で死亡するケースが急増している。特に共感染したHCVによる肝障害・肝不全の合併が死因の重要な部分をしめるようになっている。特に、非加熱凝固因子製剤によるHIV感染者では、HIVとHCVの共感染は97%にもおよび、HCV感染症の治療はポストHAART時代の医療課題として重要なものとなっている。現在、HCV感染症に対して、インターフェロンとリバビリン(Ribavirin (1-β-D-ribofuranosyl-1H-1,2,4-tri-azole-3-carboxamide))の併用療法が一般的であるが、患者全体の50%にしか有効ではなく、また、血球減少症・溶血性貧血など重篤な副作用をおこすことが知られている。
【0005】
これまではHCVにはウイルス培養系と実験用の感染小動物が存在しないことがHCVの基礎研究の妨げになってきた。KolyhalovらはHCVと同じフラビウイルス科に属するKunjinウイルスのレプリコンシステムを報告した(非特許文献1)。このシステムはKunjinウイルスの構造領域を取り除き、3'utrをEMCVのIRESとネオマイシン耐性遺伝子に置き換えたものであり、この遺伝子構築から作られたRNAを培養細胞に導入し、ネオマイシンで選択培養することにより、KunjinウイルスRNAの持続的な複製とタンパク質発現が観察されるという実験系であった。そして、1999年、LohamannらによりHCVのレプリコンシステムが報告された(非特許文献2)。このシステムはHCVの構造領域の一部(NS2)を取り除き、その部分にEMCVのIRESとネオマイシン耐性遺伝子を挿入したものである。この構造物を鋳型として試験管内でRNAを合成し、Huh7細胞に導入した後にネオマイシン選択培地で選択培養し、この遺伝子構造から作られたRNAを培養細胞に導入し、ネオマイシンで選択培養することにより、複製したHCVレプリコンRNAからネオマイシン耐性遺伝子が発現され、その遺伝子の働きでレプリコンが複製している細胞のみが生存可能となり、増殖したコロニーを形成する。レプリコン複製細胞では、HCVレプリコンRNAが非常に高レベルで複製しており、複製しているRNAや発現しているHCVタンパク質を持続して安定して検出することができる。
【0006】
しかし、それまではレプリコンとして増殖が報告されたHCV株は、全て遺伝子型1の株であった。さらにこれらの株は培養細胞内での増殖時にその複製効率を増強する適応変異を持ち、その適応変異の多くは患者血清から分離されたHCV株では認められない変異であった。また、その適応範囲を感染性クローンに導入し、そのRNAをチンパンジーの肝臓に接種したところ、感染性が失われていることが明らかとなった。
【0007】
遺伝子型が異なるHCVでは、コードされるウイルスタンパク質にも違いがあることが報告されており、遺伝子型1bのHCV由来のサブゲノムレプリコンの解析だけでは、HCVの複製機構を十分に解明することは難しいと考えられる。さらに、インターフェロンの治療効果がHCVの遺伝子型によって異なることから、遺伝子型1bのHCVのサブゲノムレプリコンを含むHCV複製系のみを用いて様々なタイプのHCVに効果を及ぼす抗HCV薬を開発することは特に難しいと考えられる。したがって、数多くの遺伝子型のHCVのレプリコンを作製して、HCV複製機構、および抗HCV薬の研究を行う必要があると考えられる。
【0008】
その後、他の遺伝子型のHCV株の遺伝子を用いたHCVレプリコンが各種報告されている。特に感染性クローンのRNAをT7RNAポリメラーゼを用いて合成するHCVレプリコンについて報告がある(非特許文献3、4、特許文献1)。しかし、従来のレプリコンシステムでは、HCV感染後の後期過程に作用する阻害剤であれば検出することが可能であったが、増殖環の全過程から選択される何れかの過程を標的とするHCVの阻害剤・治療剤を検出するには不十分であり、新たなアッセイ方法が望まれていた。
【非特許文献1】J. Virol., 71, 1497-1505 (1997)
【非特許文献2】Science 285, p.110-113 (1999)
【非特許文献3】Nature Medicine 11, Number 7, July p.791-796 (2005)
【非特許文献4】ウイルス第55巻第2号 pp.287-296 (2005)
【特許文献1】国際公開WO2005/028652号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、HCV増殖環の全過程から選択される何れかの過程を標的とするHCVの阻害剤・治療剤またはHCVの増殖促進効果を有する薬剤の検出および探索を可能とする検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ヒト肝癌由来Huh7細胞、試験検体および感染性HCVを接触させたのち、HCVを測定することを特徴とするHCV阻害剤を検出するためのアッセイ方法を見出し、本発明を完成した。感染性HCVは、感染性HCVレプリコンゲノムから得られる感染性HCVレプリコンによる。
【0011】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.ヒト肝癌由来Huh7細胞、試験検体および感染性HCVを接触させたのち、HCVを測定することを特徴とするHCV阻害剤を検出するためのアッセイ方法。
2.以下の工程を含む、HCV阻害剤を検出するためのアッセイ方法:
1)ヒト肝癌由来Huh7細胞を播種する工程;
2)試験検体を上記播種した細胞を含む培地に加える工程;
3)さらに感染性HCVを播種する工程;
4)37±1℃で加温する工程;
5)培養上清を採取し、HCVを測定する工程。
3.ヒト肝癌由来Huh7細胞が、Huh7.5.1細胞である前項1または2に記載のアッセイ方法。
4.感染性HCVが、コアタンパク質と2つのエンベロープタンパク質(E1、E2)ならびに複製に必要な非構造タンパク質(NSタンパク質)を含み、該HCVのRNAゲノムが、コアタンパク質をコードする配列の上流にプロモーター配列を配置させてなる感染性HCVレプリコンゲノムである前項1〜3のいずれか1に記載のアッセイ方法。
5.感染性HCVレプリコンゲノムに配置されたプロモーターが、PolIプロモーターまたはT7プロモーターである前項4に記載のアッセイ方法。
6.感染性HCVレプリコンゲノムが、NS5タンパク質をコードする遺伝子領域の下流にターミネーターを配置させてなる前項4または5に記載のアッセイ方法。
7.HCVの測定が、HCVコアタンパク質量を測定する前項1〜6のいずれか1に記載のアッセイ方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のHCV阻害剤を検出するためのアッセイ方法によると、HCVの複製またはHCVタンパク質の翻訳に影響を及ぼす各種物質を探索し、検出することができる。これにより、本発明のアッセイ方法は、化合物ライブラリーから新たなHCVの阻害剤・治療剤をスクリーニングするための試験系として利用することができ、HCV増殖環の全過程から選択される何れかの過程を標的とする新たなHCVの阻害剤・治療剤のスクリーニングを可能とする。本発明のアッセイ方法により、例えば表1に記載のHCV阻害剤をスクリーニングすることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.感染性HCV
本発明において、感染性HCVとは文字通り感染性を有するHCVをいう。本発明の感染性HCVは、ヒト肝癌由来Huh7細胞において自律複製能を有していれば、HCVの遺伝子型は、遺伝子型1〜6の6タイプのいずれであっても良く、さらにそれらの各タイプがいくつかのサブタイプのいずれのタイプであっても良い。さらには、一般的な遺伝子型の分類ではなく、劇症肝炎患者から分離したHCVであっても良い。
【0014】
本明細書において劇症肝炎患者から分離したHCVとは、いわゆる当業者が劇症肝炎と定義しうる症状を呈した患者から分離したHCVを意味する。本発明において、劇症肝炎患者由来のHCVは、天然由来HCVのRNAゲノムのみならず、天然由来HCVのRNAゲノム配列に人為的な改変を加えたRNAゲノムを有するウイルスであっても良い。劇症株のHCVの具体例としては、JFH−1株(特開2002−171978号)、ならびにJFH−2.1株およびJFH−2.2株等のウイルスが挙げられる。
【0015】
HCVのRNAゲノムは、5’非翻訳領域(5'NTRまたは5'UTR)、構造領域と非構造領域とから構成される翻訳領域、および3’非翻訳領域(3'NTRまたは3'UTR)からなる。その構造領域には、コアタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、などのHCVの構造タンパク質がコードされており、非構造領域にはNS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4タンパク質、およびNS5などの非構造タンパク質がコードされている。
【0016】
本発明の感染性HCVは、細胞培養を用いてアッセイを可能とするために、HCVのRNAゲノムを改変して作製されたHCV遺伝子から調製されたものであることが好ましい。このように改変されて作製されたHCVを、本明細書において「感染性HCVレプリコン」といい、改変して作製されたゲノムを「感染性HCVレプリコンゲノム」ともいう。
【0017】
本発明の感染性HCVレプリコンは、少なくともコアタンパク質と2つのエンベロープタンパク質(E1、E2)ならびに複製に必要な非構造タンパク質(NS2、NS3、NS4、NS5)を含み、該HCVを構成するゲノム、すなわち感染性HCVレプリコンゲノムは、コアタンパク質をコードする配列の上流に、プロモーター配列を配置させてなる(図1参照)。
【0018】
上記プロモーター配列は、ヒト肝癌由来Huh7細胞においてHCVが自律複製能を発揮しうるように配置されていれば良く、特に限定されないが、例えばPolIプロモーター配列またはT7プロモーター配列が挙げられ、特に好適にはPolIプロモーター配列が挙げられる。
【0019】
本発明に係る感染性HCVレプリコンゲノムの一つの実施形態は、上記配列のほか、例えばNSタンパク質をコードする配列の下流に、ターミネーター配列を配置させていても良い。具体的には、PolIターミネーター配列またはT7ターミネーター配列が挙げられる。さらには、コアタンパク質をコードする配列の上流に、1つのIRES配列を含んでも良く、これにさらに1つの選択マーカー遺伝子やリポーター遺伝子を含んでいてもよい。
【0020】
本発明において「選択マーカー遺伝子」とは、その遺伝子が発現された細胞だけが選択されるような選択性を細胞に付与することができる遺伝子を意味する。選択マーカー遺伝子の一般的な例としては抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。本発明において好適な選択マーカー遺伝子の例としては、ゼオシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ピリチアミン耐性遺伝子、アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子などが挙げられるが、ゼオシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子が好ましく、ゼオシン耐性遺伝子がさらに好ましい。但し本発明における選択マーカー遺伝子はこれらに限定されるものではない。
【0021】
また本発明において「リポーター遺伝子」とは、その遺伝子発現の指標となる遺伝子産物をコードするマーカー遺伝子を意味する。リポーター遺伝子の一般的な例としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が挙げられる。本発明において好適なリポーター遺伝子の例としては、トランスポゾンTn9由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、大腸菌由来のβグルクロニダーゼ若しくはβガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、クラゲ由来のイクリオン遺伝子、分泌型胎盤アルカリホスファターゼ(SEAP)遺伝子等が挙げられる。但し、本発明におけるリポーター遺伝子はこれらに限定されるものではない。
【0022】
上記の選択マーカー遺伝子およびリポーター遺伝子は、本発明の感染性HCVレプリコンゲノム中にどちらか一方のみが含まれていてもよいし、両方が含まれていてもよい。
本発明における「IRES配列」とは、RNAの内部にリボソームを結合させて翻訳を開始させることが可能な内部リボゾーム結合部位を意味する。本発明におけるIRES配列の好適な例としては、以下に限定するものではないが、EMCV IRES(脳心筋炎ウイルスの内部リボゾーム結合部位)、FMDV IRES、HCV IRES、等が挙げられるが、EMCV IRES、およびHCV IRESがより好ましく、EMCV IRESが最も好ましい。
【0023】
また本発明に係る感染性HCVレプリコンゲノムには、さらにリボザイムを含んでいてもよい。リボザイムは、5’側のレプリコンRNA中の選択マーカー遺伝子、リポーター遺伝子、または外来遺伝子と、それより3’側のIRES配列、および各NSタンパク質をコードする配列とを連結するように挿入し、リボザイムの自己切断活性により両者が切断されて分離するようにすることができる。
【0024】
本発明に係る感染性HCVレプリコンゲノムにおいては、上述したような選択マーカー遺伝子、リポーター遺伝子、HCVのRNAゲノム上のウイルスタンパク質をコードする配列および外来遺伝子等が、レプリコンRNAから正しい読み枠で翻訳されるように連結される。それらの配列のうち、タンパク質をコードする配列は、HCVのNSタンパク質をコードする配列から翻訳されるポリタンパク質とともに、融合タンパク質として発現させた後で、プロテアーゼによって各タンパク質へと分離するように、プロテアーゼ切断部位等を介して互いに連結させてもよい。
【0025】
2.感染性HCVレプリコンゲノムの作製
本発明の感染性HCVレプリコンに係る感染性HCVレプリコンゲノムは、いわゆる当業者に公知である任意の遺伝子工学的手法を用いて作製することができる。
【0026】
3.感染性HCVレプリコンの作製
本発明の感染性HCVレプリコンは、上記作製した感染性HCVレプリコンゲノムを、細胞に導入することにより作製することができる。感染性HCVレプリコンゲノムを導入する細胞は、ヒト肝癌由来Huh7細胞が好適である。より感度の高いアッセイを行うためには、Huh7.5.1細胞(PNAS, Vol.102, no.26 p9294-9299 (2005))が特に好適である。該RNAゲノムの細胞内への導入は、当業者には公知の任意の技術を使用して行うことができる。そのような導入法としては、例えば、エレクトロポレーション、パーティクルガン法、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、DEAEセファロース法等が挙げられるが、エレクトロポレーションによる方法が特に好ましい。
【0027】
細胞への感染性HCVレプリコンゲノムの導入に際し、目的の感染性HCVレプリコンゲノムを単独で導入してもよいし、他の核酸と混合させたものを導入してもよい。導入するRNA量を一定にして感染性HCVレプリコンゲノムの量を変化させたい場合には、目的の感染性HCVレプリコンゲノムを、導入する細胞から抽出したトータル細胞性RNAと混合して、細胞内導入に用いればよい。細胞内導入に用いるレプリコンRNAの量は、使用する導入法に応じて決めればよいが、好ましくは1ピコグラム〜100マイクログラム、より好ましくは10ピコグラム〜10マイクログラムの量を使用する。
【0028】
感染性HCVレプリコンゲノムの細胞へ導入し、HCVを作製するに際し、HCVゲノム全体を発現しうる発現ベクターを用いることができる。具体的には、本発明の感染性HCVのRNAゲノム全長cDNAを含む配列を、プラスミドに挿入する。例えば、劇症肝炎の患者から分離したHCV株からJFH−2.1株およびJFH−2.2株のクローンを非特許文献2に記載の方法で作製し、例えばPolIプロモーター配列とターミネーター配列の合成DNAをそれぞれのクローンの5’および3’端に付加し、プラスミドpUC19プラスミドに挿入することができる。
【0029】
細胞内導入のために選択マーカー遺伝子またはリポーター遺伝子を含有する感染性HCVレプリコンゲノムを用いる場合は、該ゲノムが導入され持続的に複製している細胞を、選択マーカー遺伝子またはリポーター遺伝子の発現を利用して、選択することができる。具体的には、例えば、該ゲノムの細胞内導入処理を施した細胞を、選択マーカー遺伝子またはリポーター遺伝子の発現により選択可能となる培地において培養すればよい。
【0030】
一例として、感染性HCVレプリコンゲノムにゼオシン耐性遺伝子またはネオマイシン耐性遺伝子が選択マーカー遺伝子として含まれる場合には、その該ゲノムを用いて細胞内導入処理した細胞を培養ディッシュに播種し、16〜24時間培養した後に、培養ディッシュにゼオシンやネオマイシン等の抗生物質を0.05〜3.0mg/mlの濃度で添加し、その後、週に2〜4回程度培地を交換しながら培養を継続し、播種時から好ましくは10〜40日間、より好ましくは14〜28日間培養した後にクリスタルバイオレットで生存細胞を染色することにより、該RNAゲノムが導入され、持続的に複製されている細胞を、コロニーとして選択することができる。形成されたコロニーからは、常法により細胞をクローン化することができる。
【0031】
樹立した細胞クローンについては、導入された感染性HCVレプリコンゲノムから該細胞クローン中で複製されている該ゲノムの検出、導入された該ゲノム中の選択マーカー遺伝子またはリポーター遺伝子の宿主ゲノムDNAへの組み込みの有無の確認、およびHCVタンパク質の発現の確認を行って、実際に目的の感染性HCVレプリコンゲノムが持続的に複製されていることを確認することが好ましい。
【0032】
導入された感染性HCVレプリコンゲノムから該細胞クローン中で複製された感染性HCVレプリコンゲノムの検出は、当業者には公知の任意のRNA検出法に従って行えばよい。例えば、細胞クローンから抽出したトータルRNAについて、導入された感染性HCVレプリコンゲノムに対して特異的なDNA断片をプローブとして用いるノーザンハイブリダイゼーション法を実施することにより検出することができる。
【0033】
また導入された感染性HCVレプリコンゲノムの宿主ゲノムDNAへの組込みは、例えばHCVタンパク質の発現を検出することによって、確認することができる。
【0034】
HCVタンパク質の発現は、例えば、導入されたレプリコンゲノムから発現されるべきHCVタンパク質に対する抗体を、細胞クローンから抽出したタンパク質と反応させることによって検出することができる。この方法は、当業者には公知の任意のタンパク質検出法によって行うことができるが、具体的には、例えば、細胞クローンから抽出したタンパク質試料をニトロセルロース膜にブロッティングし、それに対して抗HCVタンパク質抗体(例えば、抗NS3特異的抗体、またはC型肝炎患者から採取した抗血清)を反応させ、さらにその抗HCVタンパク質抗体を検出することによって行うことができる。細胞クローンから抽出したタンパク質中からHCVタンパク質が検出されれば、その細胞クローンは、感染性HCV由来のレプリコンゲノムが持続的に複製してHCVタンパク質を発現しているものと判断することができる。
【0035】
以上のようにして、目的の感染性HCVレプリコンゲノムを持続的に複製していることが確認された細胞クローン(レプリコン複製細胞クローン)を得ることができる。また本発明においては、このレプリコン複製細胞から、例えばRNAを抽出し、その中からレプリコンRNAを電気泳動法により分離する等の当業者には公知の任意の方法により、レプリコンRNAを取得することができる。さらに本発明に係るレプリコン複製細胞は、HCVタンパク質を製造するために好適に使用することができる。レプリコン複製細胞からのHCVタンパク質の製造は、当業者であれば常法に従って行うことができる。具体的には、例えば、レプリコン複製細胞を培養し、得られる培養物(培養細胞および培地を含む)から常法によりタンパク質を取得することができる。
【0036】
目的の感染性HCVレプリコンゲノムを再導入して感染性HCVを培養上清中に回収するための細胞としては、ヒト肝癌由来Huh7細胞が好適である。より感度の高いアッセイを行うために、Huh7.5.1細胞(PNAS, Vol.102, no.26 p9294-9299 (2005))が特に好適である。感染性HCVレプリコンゲノムの細胞内への導入は、当業者には公知の任意の技術を使用して行うことができる。
【0037】
4.本発明のアッセイ方法
本発明に係るHCV阻害剤を検出するためのアッセイは、ヒト肝癌由来Huh7細胞、試験検体および本発明の感染性HCVを接触させたのち、HCVを測定することにより行うことができる。
より具体的には、以下のようにして行うことができる。
1)ヒト肝癌由来Huh7細胞を、播種する工程;
2)試験検体を上記播種した細胞を含む培地に加える工程;
3)さらに感染性HCVを播種する工程;
4)37±1℃で加温する工程;
5)培養上清を採取し、HCVを測定する工程。
【0038】
上記アッセイ方法について、さらに詳しく説明する。
1)上記ヒト肝癌由来Huh7細胞は、本発明のアッセイ方法をより感度良く行うために、Huh7.5.1細胞(PNAS, Vol.102, no.26 p9294-9299 (2005))を用いるのが特に好適である。なお、使用する細胞は、継代数が第43回目までのものが好ましい。該細胞を、該細胞培養用培地に懸濁し、アッセイ用容器、例えば96穴のマイクロプレートに播種することができる。
2)試験検体としては、HCVの複製を促進または抑制する物質を探索するために候補として挙げられる物質であれば、高分子化合物であっても低分子化合物であっても良い。または、天然物、天然物誘導体であっても良いし、放射菌等の培養抽出物であっても良い。試験検体の濃度は、適宜選択することができる。
3)さらに本発明の感染性HCVを播種することで、試験検体と感染性HCVを含む複製細胞を培養し、得られる培養物中の感染性HCVを検出することができる。感染性HCVは、上述に従い作製することができる。
4)感染性HCVを細胞中で培養するために、3〜10日間、好ましくは4〜7日間、より好ましくは5〜6日間、37±1℃で加温することができる。
5)上記培養後、培養上清を採取し、HCVを測定することにより本発明のアッセイを行うことができる。HCVの測定は、HCVの複製の促進または抑制を確認しうる方法であれば良く、特に限定されるものではないが、例えば市販のキットを用いてHCVコアタンパクの産生量をELISA法などにより確認することができる。
【0039】
さらに、上記のアッセイ方法に加えて、試験検体のHCVの複製の促進または抑制に及ぼす影響をより確実に確認するために、非特異作用を排除するために、並行して細胞毒性試験を行っても良い。このようなアッセイ方法は、HCV感染阻害剤、例えばHCV治療剤や診断剤等を評価するためのスクリーニング方法に利用することができる。具体的には、以下のような例が挙げられる。
【0040】
(1)HCVの増殖を抑制する物質の探索
HCVの増殖を抑制する物質としては、例えば、直接的若しくは間接的にHCVの増殖に影響を及ぼす有機化合物、あるいはHCVゲノム若しくはその相補鎖の標的配列にハイブリダイズすることによりHCVの増殖若しくはHCVタンパク質の翻訳に直接的または間接的に影響を及ぼすアンチセンスオリゴヌクレオチド等が挙げられる。
【0041】
(2)細胞培養中で抗ウイルス作用を有する各種物質の評価
前記各種物質としては、合理的ドラッグデザインまたはハイスループットスクリーニングを用いて得られた物質(例えば、単離精製された酵素)等が挙げられる。
【0042】
(3)抗HCV剤などの薬剤等に対する耐性獲得能の評価および該耐性に関わる変異の同定を行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)アッセイ方法
1)感染性HCVレプリコンゲノムの作製
PNAS, Vol.102, no.26 p9294-9299 (2005)に記載の方法に従い、RNA PolIプロモーター/ターミネーター系を利用したJFH1株(ゲノタイプ 2a)のcDNA発現プラスミド導入細胞株(Huh7.5.1/JFH1 ゼオシン耐性細胞)を用いて、図1に示す感染性HCVレプリコンゲノムから感染性HCVを作製した。HCVストック液は、分注した後、−80℃で保存した。
【0045】
2)アッセイ方法
Huh7・5・1細胞(継代数が第43回目までのものを使用)を、10%FCSを含むDMEM培地に1×104cells/100μl/ウェルとなるように懸濁したものを96ウェルのマイクロプレートに播種し、1日培養後に培地を交換した。この細胞に、各試験化合物を検体として5μMとなるように添加した。15分間静置した後に、上記1)により得た感染性HCV(HCVコアタンパク質量として、約0.2fmol/ウェル)をHuh7・5・1細胞に播種して感染させ、37℃、5%CO2にて5〜6日間培養した。培養後、上清中のHCVコアタンパク質量をオーソHCV抗原ELISAテストにより定量し、各化合物のHCV増殖阻害効果を評価した。
【0046】
(実験例1)HCV阻害効果および細胞毒性試験結果
Enamine社(ナミキ商事)が保有する化合物について、実施例2の方法に従い、アッセイを行った。HCV増殖抑制因子の陽性対照物としてIFN−α(最終濃度100〜200Units/ml)、陰性対照として溶媒として用いたDMSOとした。テトラゾリウム塩WST-8の生成したホルマザンの吸光度を直接測定するWST法により、Huh7・5・1細胞に対する細胞毒性試験を行った。特に代表的な化合物4種類の結果を表1に示した。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のHCV阻害剤を検出するためのアッセイ方法によると、HCVの複製またはHCVタンパク質の翻訳に影響を及ぼす各種物質を探索し、検出することができる。これにより、本発明のアッセイ方法は、化合物ライブラリーから新たなHCVの阻害剤・治療剤をスクリーニングするための試験系として利用することができ、HCV増殖環の全過程から選択される何れかの過程を標的とする新たなHCVの阻害剤・治療剤をスクリーニングを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の感染性HCVレプリコンゲノムおよび発現プラスミドの構造を示す図である。
【図2】本発明のアッセイ方法を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
a(図2) スクリーニングしようとする試験検体。例えば低分子化合物ライブラリーおよび他の試験検体(5μM)
b(図2) Huh7.5.1/pHH-JFH1 ゼオシン耐性細胞の培養上清

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト肝癌由来Huh7細胞、試験検体および感染性C型肝炎ウイルスを接触させたのち、C型肝炎ウイルスを測定することを特徴とするC型肝炎ウイルス阻害剤を検出するためのアッセイ方法。
【請求項2】
以下の工程を含む、C型肝炎ウイルス阻害剤を検出するためのアッセイ方法:
1)ヒト肝癌由来Huh7細胞を播種する工程;
2)試験検体を上記播種した細胞を含む培地に加える工程;
3)さらに感染性C型肝炎ウイルスを播種する工程;
4)37±1℃で加温する工程;
5)培養上清を採取し、C型肝炎ウイルスを測定する工程。
【請求項3】
ヒト肝癌由来Huh7細胞が、Huh7.5.1細胞である請求項1または2に記載のアッセイ方法。
【請求項4】
感染性C型肝炎ウイルスが、コアタンパク質と2つのエンベロープタンパク質(E1、E2)ならびに複製に必要な非構造タンパク質(NSタンパク質)を含み、該C型肝炎ウイルスのゲノムが、コアタンパク質をコードする配列の上流にプロモーター配列を配置させてなる感染性C型肝炎ウイルスレプリコンゲノムである請求項1〜3のいずれか1に記載のアッセイ方法。
【請求項5】
感染性C型肝炎ウイルスレプリコンゲノムに配置されたプロモーター配列が、PolIプロモーターまたはT7プロモーターの配列である請求項4に記載のアッセイ方法。
【請求項6】
感染性C型肝炎ウイルスレプリコンゲノムが、NS5タンパク質をコードする遺伝子領域の下流にターミネーター配列を配置させてなる請求項4または5に記載のアッセイ方法。
【請求項7】
C型肝炎ウイルスの測定が、C型肝炎ウイルスコアタンパク質量を測定する請求項1〜6のいずれか1に記載のアッセイ方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−161080(P2008−161080A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351809(P2006−351809)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】