説明

C.ヒストリチカムのための哺乳動物源成分を含まない増殖培地

【課題】クロストリジウム・ヒストリチカムの培養のための改良された培地およびコラゲナーゼ酵素のバイオテクノロジーによる製造のための培養物上清を提供する。
【解決手段】培養液は、水、フィッシュゼラチン、および非哺乳動物原料由来のペプトンを含む。培地は、好ましくは、非哺乳動物源由来のペプトンとして、植物由来のペプトンを含む。培地は、また、2つまたはそれ以上の異なるペプトンを含み得る。該培地の滅菌された組成物、クロストリジウム・ヒストリチカムのコラゲナーゼを含む培養物上清、該培養物上清を製造するための方法および該コラゲナーゼを製造するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物学の分野にある。特には、本発明は、クロストリジウム ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)のための培養培地の最適化を扱う。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウム属は、内生胞子を産生することのできる偏性嫌気性菌である、ロッド型のグラム陽性菌を包含する。クロストリジウムは、一般的な自由生活細菌の他にもまた、C.ボツリナム、C.ディフィシル、C.パーフリンゲンス、C.テタニおよびC.ヒストリチカムを含む重要な病原菌をも含む。後者は、外毒素であり、かつ、例えばガス壊疽の広がりを促進することによって毒性因子として働く、コラゲナーゼを産生することで知られている。コラゲナーゼは、通常、筋肉細胞およびその他の体器官の中の結合組織を標的とする。結合組織に対する強力な加水分解活性により、コラゲナーゼ、およびサーモリシンなどのその他のプロテイナーゼは、インビトロでの組織解離のために使用される。
【0003】
C.ヒストリチカムは、土壌から単離され得る。しかしながら、該細菌は、創傷中には殆ど検出されない。C.ヒストリチカムは、厳密な嫌気性ではなく、そして、好気的にインキュベートされた培地において弱いながらも増殖可能である。培養液中では、タンパク質およびペプチドが、ペプチド結合を加水分解することのできる様々な酵素を分泌する、C.ヒストリチカムの主な炭素源である。
【0004】
技術応用のために、C.ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ、すなわち、コラゲナーゼI型およびII型は、例えばインビトロでの器官組織の解離のためなどに、特に重要である。重要なことには、膵臓組織のコラゲナーゼ消化は、現在、ヒトの膵島細胞の製造および単離に使用されている。しかしながら、多数の他の異なる特定の細胞型が、付随的な結合組織から単離されており、それらは、脂肪組織からの脂肪細胞、肝臓からの肝細胞、軟骨からの軟骨細胞、心臓からの筋細胞および骨からの骨芽細胞を含む。
【0005】
実用上の利点は、C.ヒストリチカムが、簡便な液体培地中で大量に培養され得ること、そして、培地中に分泌されるタンパク質分解酵素を定期的に産生することである。
【0006】
RO 51768は、コラゲナーゼを産生するための、クロストリジウム ヒストリチカムを培養するための培地であって、ペプトンおよびパラフィンオイルを含む培地を開示している。
【0007】
RU 2180002は、カゼインおよび大豆油粕加水分解物を含む、クロストリジウム ヒストリチカムのコラゲナーゼの発酵および精製のための培地を開示している。さらなる成分は、リン酸ニ水素ナトリウム一水和物、リン酸水素カリウムニ水和物、ピリドキシン、リボフラビン、臭化チアミン、葉酸、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸、リポ酸およびビオチンである。
【0008】
国際公開第2003/025136号パンフレットは、クロストリジウム コラゲノボランスからのセルラーゼおよびコラゲナーゼの産生のための、ゼラチンベースの発酵培地を開示している。
【0009】
国際公開第2007/089851号パンフレットは、C.ヒストリチカムの発酵に有用な、培地組成および工程を開示している。培地のタンパク質性成分は、ファイトンペプトン、酵母エキス、プロテオースペプトン、トリプトンおよび様々な植物抽出物を含む。豚由来のプロテオースペプトンが、これらの条件下でコラゲナーゼ酵素を培養液中に分泌するC.ヒストリチカム株の増殖を支持することが見出された。プロテオースペプトンを含む培地が、共分泌されるクロストリパインプロテアーゼの量を減少させるために、最適化された。
【0010】
C.ヒストリチカムの培養は、従来、例えばブレインハートインフュージョンなどの動物由来の生成物の使用を必要としてきた(例えば、Jozwiak, J.ら、Enzyme and Microbial Technology 39(2006)28-31)。しかしながら、培地中に哺乳動物起源のタンパク質性原料を必要とすることは、起こりうる培地の汚染に関する懸念を生じさせる。特に、培地が、伝染性海綿状脳症(TSE)の原因となる薬剤またはその他の感染性かつ有害な薬剤で汚染されているかもしれないという懸念が、とりわけ治療上の応用において、このような培養物由来のいかなる因子の有用性をも制限している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、最新のC.ヒストリチカムのための培養培地は、明らかな不利な点を有している。この点を考慮して、C.ヒストリチカムの増殖を支持するための培地のための代替の組成物を提供することが、本発明の目的である。本発明の特別な目的は、哺乳動物由来の成分を含まない増殖培地の提供である。さらには、本発明は、C.ヒストリチカムの発酵に有用である液体培地を提供することを目的とする。加えて、コラゲナーゼ活性を有する酵素の培養培地への分泌、そして、好ましくは、培養上清からの大規模な酵素の経済的な精製を可能にするような量での分泌を支持する培地を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、驚くことに、フィッシュゼラチンおよび非哺乳動物源由来のペプトンの組み合わせが、上記の技術的問題点を解決することを見出した。
【0013】
本発明の最初の局面は、クロストリジウム ヒストリチカムの増殖およびコラゲナーゼの分泌を支持するための液体組成物であって、該組成物は、水、非哺乳動物源のペプトンおよびフィッシュゼラチンを含む。本発明のさらなる局面は、本発明による滅菌の液体組成物である。さらに、本発明のさらなる局面は、クロストリジウム ヒストリチカムを培養するためおよび、それからコラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを分泌するための、本発明の組成物の使用である。さらに、本発明のさらなる局面は、クロストリジウム ヒストリチカムの液体培養物の上清であって、該上清が、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む上清を製造するための方法であって、該方法が、(a)クロストリジウム ヒストリチカム菌が接種された、本発明の滅菌組成物を提供する工程;(b)細菌を増殖および培養(培養物、好ましくはバッチ培養物を製造)し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌する工程;(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離する工程を含み;それによって、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清を製造する方法である。さらに、本発明のさらなる局面は、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清であって、該培養物上清が、(a)クロストリジウム ヒストリチカム菌が接種された、本発明の滅菌組成物を提供し;(b)細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌させ;および(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離し、それによって、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清を得る方法により得られ得る培養物上清である。さらに、本発明のさらなる局面は、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを製造するための方法であって、該方法が、(a)クロストリジウム ヒストリチカム菌が接種された、本発明の滅菌組成物を提供する工程;(b)細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌する工程;(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離し、それによって、培養物上清を得る工程;(d)培養物上清から、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを単離する工程を含み;それによって、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上の精製プロテアーゼを製造する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のC.ヒストリチカムのための培養培地は、とりわけ治療上の応用において、このような培養物由来のいかなる因子の有用性をも与える。加えて、本発明の培養培地は、C.ヒストリチカムの増殖、および、コラゲナーゼ活性を有する酵素の培養培地への分泌、そして、好ましくは、培養上清からの大規模な酵素の経済的な精製を可能にするような量での分泌を支持する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の本明細書中において、特定の用語は、特別な意味をともなって使用されるか、または、初めて定義される。本発明の目的のために、使用される用語は、それらの技術分野で受け入れられている定義が存在している場合には、それらの定義が下記で示されている定義と矛盾しない、または部分的に矛盾しない限り、それらの定義によって定義される。定義中に矛盾がある場合には、用語の意味は、下記に示されている定義によってまず定義される。
【0016】
本発明は、Bond, M., D., van Wart, H., E., Biochemistry 23(1984), 3077-3085およびBond, M., D., van Wart, H., E., Biochemistry 23(1984), 3085-3091によって以前に公表された、C.ヒストリチカムのコラゲナーゼ(EC 3.4.24.3)I型およびII型に関する。
【0017】
用語「含む(comprising)」は、「包含するが、必ずしも限定されるわけではない」を意味するために、本発明の明細書および特許請求の範囲において使用される。
【0018】
冠詞「ある(a)」および「ある(an)」は、本明細書中で、冠詞の文法目的である、1つまたは2以上(すなわち、少なくとも1つ)を参照するために使用される。例として、「ある化合物」とは、1つの化合物または2以上の化合物を意味する。
【0019】
例えば、濃度範囲などの数値範囲を表す場合、範囲は単語「間(between)」と、それに続く、1番目の値n1および2番目の値n2とによって示される。指定された範囲の下限は、1番目の値と同等か、またはそれより大きい値であると理解される。指定された範囲の上限は、2番目の値と同等か、またはそれより小さい値であると理解される。したがって、指定された範囲の値xは、n1≦x≦n2によって与えられる。
【0020】
他に示されていない場合、数値nと組み合わせた、用語「約(about)」および文字「〜」(「約n」(about n)、「〜n」)は、その値の±5%の数値によって示される間の値x、すなわち、n−0.05×n≦x≦n+0.05×nを示す。数値nと組み合わせた、用語「約」または文字「〜」が、本発明の好ましい実施態様を記載している場合、nの値は、他に示されていなければ、最も好ましいものである。
【0021】
細菌の「増殖(growth)」は、二分裂と称される過程の間における、1つの細菌の2つの娘細胞への分裂である。したがって、細菌集団の局所的な倍増が生じる。分裂からの両方の娘細胞が、必ずしも生存する必要はない。しかしながら、生存数が、平均して一貫性を凌ぐ場合、細菌集団は、指数関数的に増殖する。バッチ培養中の指数関数的な細菌の増殖カーブの測定は、直接的かつ個別の方法(微視的、フローサイトメトリー)によって、直接的かつバルクな方法(生物量(biomass))によって、間接的かつ個別の方法(コロニー計数法)によって、または、間接的かつバルクな方法(最確数(most probable number)、濁度(turbidity)、栄養摂取(nutrient uptake))によって、例えば、細菌計数(bacterial enumeration)(細胞計数(cell counting))などの、広く公知の方法を用いて計測され得る。バッチ培養物中の細菌の増殖は、4つの異なる期で表され得る:誘導期(A)、対数(exponential)またはログ期(B)、静止期(C)および死滅期(D)。
【0022】
(A)「誘導期」の間、細菌は、増殖条件に順応する。それは、個々の細菌が成熟しつつあるが、まだ分裂することはできない期間である。(B)「対数期」(しばしば、「対数(logarithmic)」または「ログ」期とも称される)は、細胞倍増によって特徴づけられる期間である。単位時間あたりに現れる新しい細菌の数は、存在している集団に比例する。増殖が制限されない場合、倍増は一定の速度で継続し、したがって、細胞数および集団増加の速度の両方が、継続時間毎に倍増する。実際の増殖の速度は、細胞分裂事象の頻度および両方の娘細胞が生存する確率に影響を及ぼす、増殖条件に依存する。しかしながら、培地は、まもなく栄養物に枯渇し、そして、廃棄物が集積されるので、指数関数的な増殖は無限には継続できない。(C)「静止期」の間、増殖速度は、栄養物の枯渇および有毒な生成物の蓄積の結果、減速する。この期は、細菌が使用できる資源を使い果たし始める時に到達される。(D)死滅期では、細菌は栄養物を使い果たし、死滅する。胞子形成型の種は、この期において、胞子形成を行う。
【0023】
現実には、バッチ培養物においてでさえ、4つの期は、はっきりとは定義されない。細胞は、系統だったおよび継続的な促進なしには、共時的には繁殖せず、そして、それらの対数期増殖は、しばしば、一定の速度では決してなく、代わりに、ゆっくりとした死滅速度、すなわち、繁殖すること、ならびに、栄養物濃度の減少および廃棄物濃度の増加に直面して死滅へ向かうことの両方への圧力に対する、継続的な確率論的応答である。
【0024】
「ペプトン」は、タンパク質のアミノ酸への加水分解の間の中間体として形成される様々な水溶性の化合物の混合物であると理解される。ペプトンは、しばしば、動物組織、乳汁、植物または微生物の培養物などの、天然物の酵素消化または酸加水分解によって得られる。大部分の生物体の増殖を促進および維持することのできる、多くの入手可能なペプトンおよび抽出物がある。ペプトンは、タンパク質の断片を含み、そして、断片の組成は、加水分解の開始時に存在しているタンパク質の組成に依存する。
【0025】
しばしば、ペプトンの製造のためのタンパク質源は、肉類および乳製品の製造中に生じる廃棄物の形である。しかしながら、様々なペプトンが、植物源から入手可能である。加水分解処理の前の原材料およびそれらの処理(例えば、原料のタンパク質性成分の精製の程度など)に依存して、ペプチドまたはアミノ酸以外の多くの化合物が、ペプトンの一部となり得る。
【0026】
ペプトンは、例えば、1つまたはそれ以上のタンパク質分解酵素によって消化された動物乳または肉から得られ得る。短鎖のペプチドを含んでいることに加えて、結果として生じる噴霧乾燥された原料は、脂肪、金属、塩、ビタミンおよび多くの他の生物学的化合物を含有し得る。ペプトン含有の培地としての別の例は、ブレインハートインフュージョンブロースであり、本明細書中では、「BHI」とも称される。BHIは、特に、難培養性の微生物に有用である、高度に栄養度の高い多目的増殖培地である。それは、煮沸したウシの心臓および脳からの栄養物の再取出しによって製造される。可溶性の因子が、煮沸工程の間にブロース中に遊離される。ブロースは、その後、流通を容易にするために粉末状に変えられ得る。
【0027】
用語「ゼラチン」は、コラーゲン含有の、多細胞動物(後生動物)の結合組織から抽出された、固体または半固体の物質を指す。コラーゲンタンパク質(本明細書中ではまとめてコラーゲンと称される)は、細胞外マトリックスにおける構造機能を有する。コラーゲンタンパク質は、哺乳動物などの高等動物内だけでなく、非常に原始的な海綿中にさえ存在していることが知られている。
【0028】
コラーゲンは、全ての動物の皮膚および骨に見出される、主な構造タンパク質である。コラーゲン分子は、三重へリックス構造中で相互に巻きついている、3つの個々のポリペプチド鎖(アルファ鎖)からなる。この三重へリックスは、動物の加齢にしたがって起こる、コラーゲン分子の間の水素結合によって安定化されている。3つのアルファ鎖のコラーゲン分子は、長さ3000オングストローム(0.3ミクロン)および直径15オングストロームに達するであろう。それぞれのアルファ鎖は、ともに結合している約1050個のアミノ酸を有する。それぞれのアルファ鎖中には、20個の異なるアミノ酸があり、それぞれの動物の型のゼラチンに対して、これらのアミノ酸は、特異的な反復パターンにある。アミノ酸含有量の3番目に相当するグリシンは、他の2つのアミノ酸とともに反復配列中にある。これは、グリシン−x−yと表されるかもしれない。xがプロリンであり、そして、yがヒドロキシプロリン残基であることは珍しいことではない。
【0029】
ゼラチンは、コラーゲンタンパク質の不可逆的に加水分解された形であり、そして、皮膚、骨、軟骨、結合組織、臓器およびいくつかの腸から抽出されるコラーゲンの部分的加水分解によって製造される。ゼラチンの化学組成は、コラーゲンのものと類似している。ゼラチンは、個々のコラーゲンストランド間の天然の分子結合が、より容易に転位できる形に分解される場合に形成される。したがって、ゼラチンは、加熱された場合溶解し、そして再度冷却された場合に固化する。水とともに、ゼラチンは、半固体コロイド状のゲルを形成する。その濃度に依存して、ゼラチンは、水中で、冷却するとゲル化する高粘性の溶液を形成することができる。
【0030】
特定の形態のゼラチンは、食品産業において材料成分として使用される。この点で、大量のゼラチンが、ウシ、ブタおよびウマなどの哺乳動物から製造されている。しかしながら、代替源からのゼラチン、すなわち、フィッシュゼラチンが知られている。魚からゼラチンを抽出する方法は、数年来公知である。このような方法において、コラーゲンに富む魚の皮(特に、温水魚種)、および、より少ない程度ではあるものの浮袋が、ゼラチンを形成しそして抽出するために処置される。ヒレと鱗を有する魚(コーシャーフィッシュ)が、正統派のユダヤ人、ムスリムおよび多くのベジタリアンにとってより適した原料に相当する。
【0031】
細菌や菌類などの微生物を増殖するための培養液中で、ペプトンおよびゼラチンは、例えば、炭素および/または窒素のためなどの有機質源として働き得る。
【0032】
バイオテクノロジー産業においては、製薬過程における使用のための、数多くの専門の酵素が、大規模な発酵過程によって製造されている。その例としては、臓器組織の解離、および、それに続く、解離された臓器組織からの標的細胞の単離のための、C.ヒストリチカムコラゲナーゼ酵素がある。専門の酵素を製造する微生物の培養物は、増殖培地からの成分を吸収するので、哺乳動物の病原性薬剤を含まないペプトンおよび抽出物を開発することが望ましい。プリオンおよびBSEに関する、安全に関した特別な懸念が存在する。
【0033】
本発明のために、本発明者らは、クロストリジウム ヒストリチカムのための培地中の栄養分としての、非哺乳動物源由来のペプトンを評価した。本発明の目的は、(i)細菌の増殖を支持し、そして(ii)培養培地へのコラゲナーゼ活性を有する酵素の分泌を促進する液体培地を提供することである。特に好ましい培地は、培養上清中における高い容量活性を促進する。この点において、表1aに記載の、多くの植物由来の成分(実施例3を参照のこと)が、表2に記載のペプトンベースの培養液を製造するために異なる濃度で使用された。植物由来のペプトンが、C.ヒストリチカムの増殖およびコラゲナーゼ酵素の分泌を支持することがすでに知られている参照ペプトンとしてのBHIと比較された。培養の比較実験が、下記の実施例5に記載されており、そして、細胞密度(ODとして計測された)および上清中のコラゲナーゼ活性の結果がまた、表2に記載されている。
【0034】
培養物は、静止期に達するまで培養される。前述のパラメータが、個々の培養物の増殖(対数)期の間および静止期において計測される。
【0035】
3.7%のBHIを含むペプトンベースの培養液が、容量活性において最も良好な結果を与えたことは驚くべきことではないが、驚くべき結果は、5%VG100(培養物番号82)または2.5%SP6、2.5%VG100(培養物番号185a)または1.5%SP6、1.5%VG100(培養物番号195)または5%BP(培養物番号145)のいずれかを有する培養液が、非常に類似した結果、すなわち、約400U/Lおよび約495U/Lの間の容量活性を与えたことである。したがって、本発明の1つの局面は、C.ヒストリチカムの増殖およびコラゲナーゼの分泌を支持する組成物であって、該組成物が、水、ならびに、(a)エンドウ豆由来のVG100ベジタブルペプトンNo.1(VG100)、濃度5%[w/v]、(b)ソラマメ由来のペプトン(BP)、濃度5%[w/v]、(c)VG100および大豆ペプトンNo110パパインダイジェスト(SP6)の組み合わせ、各濃度2.5%[w/v]、および、VG100およびSP6の組み合わせ、各濃度1.5%[w/v]からなる群より選択される植物源由来のペプトン栄養物を含む。本発明の好ましい実施様態では、組成物は液体組成物である。本発明のさらなる好ましい実施態様では、組成物は、約7.2および約7.4の間のpHを有し、そして、さらになお好ましい組成物は、さらなる成分を含まない。このような組成物は、動物由来成分の完全な非存在下において、C.ヒストリチカムをバッチ培養で経済的に増殖し、かつコラゲナーゼ活性を有する酵素を製造するための初めての土台(basis)を提供する。
【0036】
培養上清におけるコラゲナーゼの容量活性をさらに最適化するために、ペプトンベースの栄養分および種々のゼラチンの組み合わせが使用される増殖実験で、培地が試験された。ゼラチンは、表1bに記載されている(実施例3を参照のこと)。3.7%[w/v]のBHIおよび3%G1の組み合わせが参照として用いられた。
【0037】
非常に驚くべきことに、フィッシュゼラチンは、培養上清におけるコラゲナーゼの容量活性を増強し得ることが示されている(実施例6、表3を参照のこと)。したがって、本発明の別の局面は、クロストリジウム ヒストリチカムの増殖およびクロストリジウム ヒストリチカムからのコラゲナーゼ活性を有する酵素の分泌のための培養液における、フィッシュゼラチンの使用である。本発明のさらなる局面は、水、非哺乳動物源由来のペプトンおよびフィッシュゼラチンを含む組成物である。本発明の好ましい実施様態において、組成物は、液体の培養液である。この点に関して、本発明の組成物において、化合物、すなわち、ペプトンおよびゼラチンおよび他の全ての成分は、水に溶解される、すなわち、溶液を形成していると理解される。ゼラチン成分のために、溶液の粘性は純水よりも高くなり得る。
【0038】
フィッシュゼラチンは、哺乳動物源由来の従来のゼラチンとは、そのアミノ酸含量に関して異なる。全てのゼラチンが、同じ20個のアミノ酸で構成されているが、フィッシュゼラチンは、哺乳動物源由来の従来のゼラチンと比較された場合に、より少ない量のイミノ酸、プロリンおよびヒドロキシプロリンを含む。本発明の好ましい実施態様においては、フィッシュゼラチンのヒドロキシプロリン含量は、子ウシの皮のゼラチンに比べて、約78%および約56%の間である。本発明の別の好ましい実施態様では、フィッシュゼラチンのプロリン含量は、子ウシの皮のゼラチンに比べて、約93%および約74%の間である。
【0039】
本発明の培養液中に使用され得る、フィッシュゼラチンの様々なタイプが商業的に入手可能である。本発明の非常に好ましい実施態様においては、フィッシュゼラチンは、(i)高分子量のフィッシュゼラチン、(ii)液体のフィッシュゼラチン、(iii)コーシャー種である魚由来のゼラチン、およびそれらの混合物からなる群より選択される。魚はコーシャーであるためには、ヒレおよび鱗を有していなければならない、セルフィッシュ、すなわち、例えば、軟体動物、甲殻類、棘皮動物およびほかの魚ではない水生動物などの水生の無脊椎動物はコーシャーではない。したがって、本発明の好ましい実施様態においては、コーシャー種の魚由来のゼラチンは、ヒレおよび鱗を有する、魚(fish)種(魚(pisces))由来のゼラチンである。
【0040】
本発明の非常に好ましい実施態様においては、本発明の組成物中のフィッシュゼラチンの濃度は、約2%および約10%の間であって、このパーセンテージは、単離されたフィッシュゼラチンが乾燥物である場合は、容量あたりの重量を示しており、そして単離されたフィッシュゼラチンが液体物である場合には、容量あたりの容量を示している。さらにより好ましい本発明の実施様態においては、フィッシュゼラチンの濃度は、約3%および約8%の間である。
【0041】
本発明によれば、栄養組成物中のペプトンは、非哺乳動物源由来のペプトンである。本発明の非常に好ましい実施様態においては、ペプトンは植物性生産物である。さらになお好ましくは、ペプトンは、大豆、ソラマメ、エンドウ豆、ジャガイモ、およびそれらの混合物からなる群より選択される植物源由来である。最も好ましくは、ペプトンは、エンドウ豆由来のオキソイド(Oxoid)VG100ベジタブルペプトンNo.1(VG100)、エンドウ豆由来のオキソイドVG200ベジタブルペプトンリン酸ブロース(VG200)、メルク TSB カソブイヨンアニマルフリー(CASO-Bouillon animal-free)(TSB)、インビトロジェン大豆ペプトンNo110パパインダイジェスト(SP6)、フルカ ソラマメ由来ペプトン(BP)、ジャガイモ由来のオルガノテクニ(Organotechnie)植物性ペプトンE1(E1P)、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0042】
特に、培養液の構成およびペプトン濃度に関して、本発明の非常に好ましい実施様態は、本発明の組成物が、2つまたはそれ以上の異なるペプトンを含み、組成物中の植物性ペプトンの総濃度が、約2%および約10%容量あたり重量の間である組成物である。さらにより好ましくは、組成物中の植物性ペプトンの総濃度は、約3%および約5%容量あたり重量の間である。
【0043】
本発明の別の非常に好ましい実施様態においては、単一の型のペプトンが、本発明の栄養組成物中に存在しており、該ペプトンは、BP、E1P、大豆ペプトンE110、VG100、およびVG200からなる群より選択されるペプトンであり、そして、組成物中のペプトンの濃度は、約5%容量あたり重量である。さらに本発明の非常に好ましい実施態様では、単一の型のペプトンが、本発明の栄養組成物中に存在しており、該ペプトンがVG100であり、そして、組成物中のペプトンの濃度は、約2%容量あたり重量である。
【0044】
本発明の好ましい実施様態においては、組成物のpHは、pH7およびpH8の間である。さらにより好ましくは、pH約7.2およびpH約7.4の間のpHである。
【0045】
さらに好ましい実施態様においては、本発明の組成物は、滅菌されており、すなわち、組成物は、自己複製可能ないかなる有機体をも含まないように作製されている。滅菌は、当業者に公知である標準的な方法、例えば、オートクレイビングなどの熱処理によって行うことができる。
【0046】
本発明の組成物は、クロストリジウム ヒストリチカム菌を培養するために特に有用である。本発明の最も好ましい実施態様は、したがって、クロストリジウム ヒストリチカム菌の接種材料を追加に含む、本発明の組成物である。この点において同等に好ましくは、クロストリジウム ヒストリチカムの培養およびクロストリジウム ヒストリチカムからのコラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼの分泌のための、本発明の組成物の使用である。
【0047】
したがって、本発明の別の局面は、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上の精製プロテアーゼを製造するための方法であって、該方法が、(a)クロストリジウム ヒストリチカム菌が接種された、本発明の滅菌組成物を提供する工程;(b)該細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌する工程;(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離し、それによって、培養物上清を得る工程;(d)該培養物上清から、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを精製する工程を含み;それによって、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上の精製プロテアーゼを製造する方法である。
【0048】
さらに、本発明の別の局面は、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清であって、該培養物上清が、(a)クロストリジウム ヒストリチカム菌が接種された、本発明の滅菌組成物を提供し;(b)該細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌され;そして(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離し、それにより、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清を得る方法により得られ得る培養物上清である。本発明の培養上清は、コラゲナーゼのみならず、他の分泌されたタンパク質をも含む複合混合物である。本発明の非常に好ましい実施様態においては、上清は、静止期の液体培養物から得られる。
【0049】
本発明の上清は、そこに含まれる1つまたはそれ以上の成分の精製のために直接、使用され得る。あるいは、上清は、凍結した形態などで、貯蔵され得る。しかしながら、最も好ましくは、上清の凍結乾燥物を貯蔵することである。したがって、本発明のさらなる局面は、本発明の上清の凍結乾燥物である。
【0050】
さらにより詳しくは、本発明は、それらの好ましい実施様態を示している下記の項目によって記載される。
【0051】
1.水、非哺乳動物源由来のペプトンおよびフィッシュゼラチンを含む液体組成物。
【0052】
2.前記フィッシュゼラチンが、高分子量のフィッシュゼラチン、コーシャー種である魚由来のゼラチン、液体のフィッシュゼラチン、およびそれらの混合物からなる群より選択されることに特徴づけられる項目1記載の組成物。
【0053】
3.前記フィッシュゼラチンが、高分子量のフィッシュゼラチン、コーシャーのフィッシュゼラチン、およびそれらの混合物からなる群より選択されることに特徴づけられる項目2記載の組成物。
【0054】
4.組成物中のフィッシュゼラチンの濃度が、約2%および約10%の間であって、そのパーセンテージが、単離されたフィッシュゼラチンが乾燥物である場合は、容量あたりの重量を示しており、そして単離されたフィッシュゼラチンが液体物である場合には、容量あたりの容量を示していることに特徴づけられる項目1〜3のいずれかに記載の組成物。
【0055】
5.フィッシュゼラチンの濃度が、約3%および約8%の間であることに特徴づけられる項目4記載の組成物。
【0056】
6.非哺乳動物源由来のペプトンが、フィッシュペプトンではないことに特徴づけられる項目1〜5のいずれかに記載の組成物。
【0057】
7.非哺乳動物源由来のペプトンが、植物性生産物であることに特徴づけられる項目6記載の組成物。
【0058】
8.ペプトンの植物源が、大豆、ソラマメ、エンドウ豆、ジャガイモ、およびそれらの混合物からなる群より選択される植物源由来であることに特徴づけられる項目7記載の組成物。
【0059】
9.ペプトンが、エンドウ豆由来のVG100ベジタブルペプトンNo.1(VG100)、エンドウ豆由来のVG200ベジタブルペプトンリン酸ブロース(VG200)、TSB カソブイヨンアニマルフリー(TSB)、大豆ペプトンNo110パパインダイジェスト(SP6)、ソラマメ由来ペプトン(BP)、ジャガイモ由来の植物性ペプトンE1(E1P)、およびそれらの混合物からなる群より選択されることに特徴づけられる項目8記載の組成物。
【0060】
10.組成物が、2つまたはそれ以上の異なるペプトンを含み、組成物中の植物性ペプトンの総濃度が、約2%および約10%容量あたり重量の間である組成物であることに特徴づけられる項目9記載の組成物。
【0061】
11.植物性ペプトンの総濃度が、約3%および約5%容量あたり重量の間であることに特徴づけられる項目10記載の組成物。
【0062】
12.ペプトンが、BP、E1P、大豆ペプトンE110、VG100およびVG200からなる群より選択されるペプトンであって、組成物中のペプトンの濃度が、約5%容量あたり重量であることに特徴づけられる項目9記載の組成物。
【0063】
13.ペプトンが、VG100であって、組成物中のペプトンの濃度が、約2%容量あたり重量であることに特徴づけられる項目9記載の組成物。
【0064】
14.組成物のpHが、pH7およびpH8の間であることに特徴づけられる項目1〜13のいずれかに記載の組成物。
【0065】
15.項目1〜14のいずれかに記載の滅菌された組成物。
【0066】
16.クロストリジウム ヒストリチカム菌の接種材料を追加に含む項目15記載の組成物。
【0067】
17.クロストリジウム ヒストリチカムの培養およびクロストリジウム ヒストリチカムからのコラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼの分泌のための項目15または16記載の組成物の使用。
【0068】
18.クロストリジウム ヒストリチカムの液体培養物の上清を製造するための方法であって、該上清が、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含み、該方法が、
(a)項目16記載の接種材料を含む滅菌組成物を提供する工程;
(b)該細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌する工程;
(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離し、それによって培養物上清を得る工程;
を含み、それによって、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清を製造する方法。
【0069】
19.クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上の精製プロテアーゼを製造するための方法であって、該方法が、
(a)項目16記載の接種材料を含む滅菌組成物を提供する工程;
(b)該細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌する工程;
(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離し、それによって培養物上清を得る工程;
(d)培養物上清から、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを単離する工程;
を含み、それによって、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上の精製プロテアーゼを製造する方法。
【0070】
20.クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清であって、該培養物上清が、
(a)項目16記載の接種材料を含む滅菌組成物を提供すること;
(b)細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌すること;および
(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離すること:
それによって、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清を得る
方法によって得られ得る培養物上清。
【0071】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために提供されるものであり、本発明の真の範囲は、添付の請求項で示される。発明の精神を逸脱することなく、示された手順を改変できることは理解される。
【実施例】
【0072】
実施例1
一般的な実施条件
一般に、細菌または細菌培養物を含む全ての実施工程は、微生物学における、標準的な実験室での手法を適用した滅菌条件下で行われた。嫌気性の培養物は、インキュベーター中で、30℃の温度で窒素雰囲気下で維持された。接種材料の移植は、周囲の(すなわち、酸素含有の)雰囲気下で、層流フード内で行われた。本明細書中に記載されている全ての培地は、オートクレイビングによって滅菌された。他に示されていない限り、pH7.2〜pH7.4の範囲でのpHの調整は、オートクレイビングの前になされた。他に示されていない限り、1mMのCaCl2が、それぞれの培地1L毎に添加された。オートクレイブされた培地のアリコートが、pH変化に関して規定通りに調べられた。
【0073】
実施例2
C.ヒストリチカム菌の種培養、種バンク、および初期培養物
ATCC 21000の誘導体である、クロストリジウム ヒストリチカム株BMTU 1175が、pH7.2に調整された、水中に溶解された3.7%のBHIおよび3.0%のG1からなる100mLの容量の液体増殖培地の接種材料として使用された。培養物は、約26時間、嫌気性条件下で、578nmでの光学密度(=OD578nm)が5.6に達するまで、インキュベートされた。この液体培養物の1mLのアリコートが、アンプル中に密封され、凍結され、そして液体窒素の気相中で貯蔵された。アリコートは、初期培養物としてのその後の使用のため、最初の種バンクとされた。
【0074】
種々の培地における増殖実験のための初期培養物は、5%[w/v]のVG100を含む100mLの液体培地に、1mLの種バンクアンプルの内容物を接種し、そして、細菌を嫌気性条件下、30℃で終夜または37℃で約8時間インキュベートすることによって製造された。さらに下記に記載されるように、液体培地(通常100mLまたは200mLの容量)に、約2〜4mLの間の初期培養物をそれぞれ接種した。
【0075】
実施例3
種々の培地におけるC.ヒストリチカムの培養
種々の増殖培地におけるC.ヒストリチカムの増殖が評価された。液体培養物は、振とうしないで、フラスコ中でインキュベートされた。他に示されていない限り、培養物のインキュベーションは40時間続いた。それぞれの実験の間、異なる時点で、1つまたはそれ以上のサンプルが培養物から取り出され、そして、液体培養物のOD578nm、培養物上清のpHおよび培養物上清中のコラゲナーゼのタンパク質分解活性(実施例4参照)がアッセイされた。
【0076】
液体培地は、表1aおよび1bに記載されている成分を用いて製造された。他に示されていない限り、パーセンテージで示されている成分の濃度は、容量あたりの重量%[w/v]を示しており、オートクレイビング前に調整された。例えば、所定の化合物の3%[w/v]濃度とは、3g/培地100mLに相当する。液体成分であるG4の場合、パーセンテージで示されている濃度は、容量あたりの容量%を示している。
【0077】
他に示されていない限り、pH7.2〜pH7.4の範囲でのpHの調整は、オートクレイビングの前になされた。他に示されていない限り、1mMのCaCl2が、それぞれの培地1L毎に添加された。
【0078】
【表1a】

【0079】
【表1b】

【0080】
実施例4
コラゲナーゼのタンパク質分解活性を測定するためのアッセイ
コラゲナーゼのタンパク質分解活性は、合成ペプチド基質を用いた、ブンシュユニット(Wuensch units)(Wuensch, E., Heidrich, H., Z., Physiol. Chem. 333 (1963) 149-159)における標準的な方法によって測定された。コラゲナーゼのタンパク質分解活性は、修飾された基質(「ブンシュ」)ペプチド、4−フェニルアゾ−ベンジルオキシカルボニル−Pro−Leu−Gly−Pro−Arg(バッケム(Bachem)、M1715)のLeuおよびGly残基の間の加水分解を触媒する。活性の1ユニット(U)は、25℃、pH7.1での、1分あたりの1μMのペプチドの加水分解によって定義される。
【0081】
基質ペプチド(「基質」とも言う)は、溶液で、そして、1mg/mLの濃度で準備された。10mgの基質ペプチドが初めに、0.2mLのメタノールに溶解された。溶液の容量は、pH7.1の0.1MのトリスHClを添加することによって、10mLに増量された。さらなる試薬は、水中0.1MのCaCl2溶液ならびに酢酸エチル5容量部および水中0.025Mのクエン酸1容量部からなる抽出混合物であった。0.35〜0.4gの(NH42SO4を含む試験管として、乾燥管が準備された。使用前に、それぞれの乾燥管はパラフィルムで密封された。
【0082】
対照およびサンプル反応は、次の分注手順および工程の流れにしたがって、試験管中において設定された:

【0083】
コラゲナーゼI型およびII型の両方を含む混合物において、ブンシュペプチドを基質として使用して活性のアッセイが実施される場合、測定されるコラゲナーゼIIの活性は、通常、コラゲナーゼIの活性よりも高い。したがって、適用された条件下では、測定されるタンパク質分解活性は、大部分がコラゲナーゼII型を反映したものである。
【0084】
実施例5
種々の培地におけるC.ヒストリチカムの増殖:ゼラチン無添加のペプトンベースの培地
表2は、C.ヒストリチカムの培養のための多くの培地を提供している。それぞれの表の記載は、それぞれの培地の成分を示している。いくつかの場合には、pHは、培地の滅菌および接種の前に調整された。pHの値が表に記されていない場合、他に示されていない限り、培地は、KOHを用いたpH7.2およびpH7.4の間の値へのpH調整の後、接種された。培養物は、標準的な条件下での約40時間のインキュベーションに対応する、静止期になるまで増殖された。578nmにおける光学密度(「OD」とも参照される)が、培養を終了したときに、培養物上清中のコラゲナーゼ酵素活性(実施例4参照)とともに測定された。表中において、容量活性は、培地1Lあたりのブンシュユニット(表にされたデータにおいて、「U/L」とも参照される)が示されている。
【0085】
【表2】





【0086】
ペプトンのみを含む(すなわち、いかなるゼラチンも添加されていない)培地の間で、BHIが、C.ヒストリチカムのコラゲナーゼの培養物上清への分泌を刺激するのに最も効果的であることが見出された。コラゲナーゼの容量活性は、単なる、培養物のODの関数ではないことも発見された。
【0087】
実施例6
種々の培地におけるC.ヒストリチカムの増殖:ゼラチン添加のペプトンベースの培地
異なる原料からの異なるタイプのゼラチンが、ペプトン培地に添加された。表3は、C.ヒストリチカムの培養のための多くの培地を提供している。それぞれの表の記載は、それぞれの培地の成分を示している。いくつかの場合には、pHは、培地の滅菌および接種の前に調整された。pHの値が表に記されていない場合、他に示されていない限り、培地は、KOHを用いたpH7.2およびpH7.4の間の値へのpH調整の後、接種された。培養物は、標準的な条件下での約40時間のインキュベーションに対応する、静止期になるまで増殖された。578nmにおける光学密度(「OD」とも参照される)が、培養を終了したときに、培養物上清中のコラゲナーゼ酵素活性(実施例4参照)とともに測定された。表中において、容量活性は、培地1Lあたりのブンシュユニット(表にされたデータにおいて、「U/L」とも参照される)が示されている。
【0088】
【表3】











【0089】
コラゲナーゼ容量活性に関して、ともに哺乳動物原料由来である3.7%のBHIおよび3%のG1を含む標準の培地に比べて、フィッシュゼラチンと組み合わされた、特定の植物性ペプトンの組成物は、少なくとも同等または大部分はより優れていた。したがって、多数の新規な培地が、C.ヒストリチカムの増殖および培養、ならびに、そのような培養物の上清からのコラゲナーゼプロテアーゼを製造するために提供される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のC.ヒストリチカムのための培養培地は、とりわけ治療上の応用において、このような培養物由来のいかなる因子の有用性をも与える。加えて、本発明の培養培地は、C.ヒストリチカムの増殖、および、コラゲナーゼ活性を有する酵素の培養培地への分泌、そして、好ましくは、培養上清からの大規模な酵素の経済的な精製を可能にするような量での分泌を支持する。
【配列表フリーテキスト】
【0091】
配列番号1:コラゲナーゼのタンパク質分解活性を測定するための「ブンシュ」アッセイ用の修飾された基質ペプチド(バッケム、M1715)。1位において、4−フェニルアゾ−ベンジルオキシカルボニル残基によって修飾されたペプチド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、フィッシュゼラチン、およびフィッシュペプトンを除く、非哺乳動物源由来のペプトンを含む液体組成物。
【請求項2】
前記フィッシュゼラチンが、高分子量のフィッシュゼラチン、コーシャー種である魚由来のゼラチン、液体のフィッシュゼラチン、およびそれらの混合物からなる群より選択されることに特徴づけられる請求項1記載の組成物。
【請求項3】
組成物中のフィッシュゼラチンの濃度が、約2%および約10%の間であって、そのパーセンテージが、単離されたフィッシュゼラチンが乾燥物である場合は、容量あたりの重量を示しており、そして単離されたフィッシュゼラチンが液体物である場合には、容量あたりの容量を示していることに特徴づけられる請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
非哺乳動物源由来のペプトンが、植物性生産物であることに特徴づけられる請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
ペプトンの植物源が、大豆、ソラマメ、エンドウ豆、ジャガイモ、およびそれらの混合物からなる群より選択される植物源由来であることに特徴づけられる請求項4記載の組成物。
【請求項6】
組成物が、2つまたはそれ以上の異なるペプトンを含み、組成物中の植物性ペプトンの総濃度が、約2%および約10%容量あたり重量の間である組成物であることに特徴づけられる請求項5記載の組成物。
【請求項7】
ペプトンが、BP、E1P、大豆ペプトンE110、VG100、およびVG200からなる群より選択されるペプトンであって、組成物中のペプトンの濃度が、約5%容量あたり重量であることに特徴づけられる請求項6記載の組成物。
【請求項8】
ペプトンが、VG100であって、組成物中のペプトンの濃度が、約2%容量あたり重量であることに特徴づけられる請求項6記載の組成物。
【請求項9】
組成物のpHが、pH7およびpH8の間であることに特徴づけられる請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の滅菌された組成物。
【請求項11】
クロストリジウム ヒストリチカム菌の接種材料を追加に含む請求項10記載の組成物。
【請求項12】
クロストリジウム ヒストリチカムの増殖および培養、ならびに、それからのコラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼの分泌のための請求項10または11記載の組成物の使用。
【請求項13】
クロストリジウム ヒストリチカムの液体培養物の上清を製造するための方法であって、該上清が、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含み、該方法が、
(a)クロストリジウム ヒストリチカム菌の接種材料を含む請求項10記載の滅菌組成物を提供する工程;
(b)細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌する工程;
(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離する工程;
を含み、それによって、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清を製造する方法。
【請求項14】
クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清であって、該培養物上清が、
(a)クロストリジウム ヒストリチカム菌の接種材料を含む請求項10記載の滅菌組成物を提供すること;
(b)細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌すること;および
(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離すること:
それによって、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを含む培養物上清を得る
方法によって得られ得る培養物上清。
【請求項15】
クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上の精製プロテアーゼを製造するための方法であって、該方法が、
(a)クロストリジウム ヒストリチカム菌の接種材料を含む請求項10記載の滅菌組成物を提供する工程;
(b)細菌を増殖および培養し、それによって、細菌が、1つまたはそれ以上の、コラゲナーゼ活性を有するプロテアーゼを液相中に分泌する工程;
(c)細胞およびその他の粒子物を液相から分離し、それによって培養物上清を得る工程;
(d)培養物上清から、コラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上のプロテアーゼを単離する工程;
を含み、それによって、クロストリジウム ヒストリチカム由来のコラゲナーゼ活性を有する1つまたはそれ以上の精製プロテアーゼを製造する方法。

【公開番号】特開2009−297028(P2009−297028A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−139667(P2009−139667)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】