説明

CATV用光伝送システム

【課題】地上波に衛星波を加えた広帯域テレビジョン電気映像信号を既存の設備を用いて低劣化で伝送処理する。
【解決手段】テレビジョン電気映像信号を直接変調により1550nm帯光伝送信号に変換して出力する光送信器7と、1550nm帯光伝送信号を伝送する伝送用光ファイバ3とを備える。さらに、伝送用光ファイバ3を、零分散が1550nm帯にシフトされた分散シフト光ファイバから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1550nm帯の光信号を用いてテレビジョン映像信号を伝送するCATV用光伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
CATV(Community Antenna Television)の分野においてテレビジョン電気映像信号は、周波数多重されることで多チャンネル化される。地上波の場合、多チャンネル化されたテレビジョン電気映像信号の帯域は70MHz〜770MHzとなる。このような特性を有するテレビジョン電気映像信号は、光送信器によって光伝送信号に変換されたのち、長距離伝送区間に設けられた伝送用光ファイバに送出される。伝送用光ファイバはシングルモード光ファイバから構成される。長距離伝送区間(伝送用光ファイバ)を伝送した光伝送信号は、光伝送信号の状態で受信者宅に引き込まれる。受信者宅には、光受信器とテレビジョン受信機が設けられており、受信者宅に引き込まれた光伝送信号は光受信器でテレビジョン電気映像信号に変換されたのち、テレビジョン受信機で表示される。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開平8−251578号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
テレビジョン電気映像信号には、地上波のほか衛星波があり、衛星波による放送が急速に普及している。そのため、CATVの分野においても地上波に衛星波を加えた広帯域テレビジョン電気映像信号を、既存の設備を用いて低劣化で光伝送処理することが求められている。ここでいう広帯域テレビジョン電気映像信号の帯域とは、地上波テレビジョン電気映像信号の帯域(70MHz〜770MHz)に、衛星波テレビジョン電気映像信号の帯域(1032MHz〜2150MHz)を加えた70MHz〜2150MHzである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、テレビジョン電気映像信号を、直接変調により1550nm帯光伝送信号に変換して出力する光送信器と、前記1550nm帯光伝送信号を伝送する伝送用光ファイバとを備える。さらに、本発明は、前記伝送用光ファイバを、零分散が1550nm帯にシフトされた分散シフト光ファイバから構成する。これにより、本発明は、広帯域テレビジョン電気映像信号(70MHz〜2150MHz)の光伝送を、低劣化かつ安価に実現する。
【0005】
本発明は、1550nm帯光伝送信号を複数に分配したのち、分配した前記1550nm帯光伝送信号を光増幅器により光増幅し、さらに、複数に分配した前記1550nm帯光伝送信号(光増幅済)を、多心光ファイバケーブル構造を有する伝送用光ファイバによって個別伝送するのが好ましい。そうすれば、多数ある映像信号伝送先(受信先)に対して精度高く1550nm帯光伝送信号を伝送することが可能となる。ここで、光増幅される光伝送信号の帯域は1550nm帯であって、この帯域の光伝送信号は、既存の光増幅器で光増幅することができる。そのため、既存の光増幅器の設備をそのまま流用することが可能となる。
【0006】
本発明は、前記伝送用光ファイバから引き出された前記1550nm帯光伝送信号をテレビジョン電気映像信号に変換する光受信器をさらに備えるのが好ましい。そうすれば、映像信号伝送先(受信先)において、低劣化で1550nm帯光伝送信号をテレビジョン電気映像信号に変換することが可能となる。ここで、変換される光伝送信号の帯域は1550nm帯であって、この帯域の光伝送信号は、既存の光受信器で変換することができる。そのため、既存の光受信器の設備をそのまま流用することが可能となる。
【0007】
なお、本発明は、インターネットプロトコルに基づいた情報が重畳されるとともに前記1550nm帯光伝送信号とは波長が異なるIP情報光伝送信号を、前記1550nm帯光伝送信号に波長多重合波し、その波長多重合波光信号を前記伝送用光ファイバに出力するWDMカプラをさらに備えるのが好ましい。この場合、光受信器は、前記伝送用光ファイバから引き出された前記波長多重合波光信号から前記1550nm帯光伝送信号とIP情報光伝送信号とを分波するものであるのが好ましい。そうすれば、1550nm帯光伝送信号にIP情報光伝送信号を重畳した状態で低劣化で光伝送することが可能となる。ここで、変換される光伝送信号の帯域は1550nm帯であって、この帯域の光伝送信号は、既存の光受信器で変換することができる。そのため、既存の光受信器の設備をそのまま流用することが可能となる。
【0008】
なお、本発明における伝送用光ファイバとして用いる分散シフト光ファイバは、±1.0ps/nm/km程度の分散値を有する光ファイバである。このような伝送用光ファイバを介して例えば、その伝送長(20km程度)まで光伝送信号を伝送すると、光受信器の入力端における光伝送信号の残留分散値は最大20ps/nm程度となる。本発明の光受信器は、このような残留分散値(20ps/nm(−20ps/nm〜+20ps/nm)程度以下)を有する光伝送信号(WDM)を光電変換することに特徴がある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、CATVの分野においても地上波に衛星波を加えた広帯域テレビジョン電気映像信号を既存の設備を用いて低劣化で伝送処理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明の背景となる技術の開発経過を説明する。テレビジョン電気映像信号は、周波数多重されることで多チャンネル化される。70MHz〜770MHzの帯域を有する地上波を、CATVシステムで伝送する場合、テレビジョン電気映像信号は、光送信器によって光伝送信号に変換されたのち、長距離伝送区間に設けられた伝送用光ファイバに送出される。伝送用光ファイバは一般にシングルモード光ファイバから構成される。
【0011】
長距離伝送区間(伝送用光ファイバ)を経た光伝送信号は、光受信器によって受信されてテレビジョン電気映像信号に変換される。変換されたテレビジョン電気映像信号はテレビジョン受信機に送出されてここで映像化される。
【0012】
光ファイバケーブルを用いてテレビジョン電気映像信号を伝送する場合、電気信号を光伝送信号に変換する光送信器の機能が重要となる。光送信器としては、直接変調型光送信器と外部変調型光送信器とが知られている。直接変調型光送信器は、変調信号(電気信号)の変化をそのまま光源(半導体レーザ)の強度変化として出力することで変調を行う。外部変調型光送信器は、光源(半導体レーザ)の出力光に電気光学効果等によって外部から変調を加える。
【0013】
外部変調型光送信器は、構造が複雑で高価であり小型化が困難であるという欠点があるものの、電気信号を既存の光増幅器により光増幅することが可能な1550nm帯光伝送信号に変換することができるという利点がある。一方、直接変調型光送信器は構造が簡単で安価であり小型化が図れるという利点があるものの、電気信号を、上記特徴を有する1550nm帯光伝送信号に変換することができないという欠点がある。
【0014】
従来から、CATVの分野においては、テレビジョン電気映像信号を1550nm帯光伝送信号に変換できるという理由により、外部変調型光送信器によってテレビジョン電気映像信号を1550nm帯伝送用光信号に変換している。
【0015】
ところで、テレビジョン電気映像信号には、地上波のほか衛星波(BS-IF帯+CS-IF帯)があり、衛星波による放送が急速に普及している。そのため、CATVの分野においても 地上波に衛星波を加えた広帯域テレビジョン電気映像信号の伝送処理が求められている。ここでいう広帯域テレビジョン電気映像信号の帯域とは、地上波テレビジョン電気映像信号の帯域(70MHz〜770MHz)に、衛星波テレビジョン電気映像信号の帯域(1032MHz〜2150MHz)を加えた70MHz〜2150MHzとなる。
【0016】
しかしながら、外部変調型光送信器を組み込んだCATV用光伝送システムでは、その構造上、広帯域テレビジョン電気映像信号の帯域(70MHz〜2150MHz)全体を1550nm帯光伝送信号に変換することができない。
【0017】
なお、衛星波テレビジョン電気映像信号を64QAMデジタル変調方式によってデジタル変調したうえで、地上波テレビジョン電気映像信号の帯域(70MHz〜770MHz)のチャンネルに割り当てることは可能である。しかしながら、64QAMデジタル変調方式を実現する装置は非常に高価であるうえ、次のような不都合がある。
【0018】
衛星放送のほとんどは有料放送であって、その受信者に対して課金徴収管理が実施される。64QAMデジタル変調方式によって衛星波テレビジョン電気映像信号を地上波テレビジョン電気映像信号の周波数帯域に変換してCATV用光伝送システムで伝送する場合、CATV用光伝送システムの設置管理組織は、衛星波テレビジョン電気映像信号の受信課金を徴収しなければならない。これは、64QAMデジタル変調方式による変調変換を実施すれば、地上波帯のCATV受信装置を有する受信者であっても、衛星放送と同じ内容の放送を受信することが可能となるためである。しかしながら、そのような課金徴収管理は、CATV用光伝送システムの設置管理組織の負担増大に繋がる。
【0019】
これに対して、衛星波テレビジョン電気映像信号を衛星波の帯域のままで(周波数変換および変調変換をしないままで)CATV用光伝送システムで伝送する場合、地上波帯のCATV受信装置を有する受信者では、衛星放送の帯域を受信することが不可能となる。そのため、その場合の衛星放送の受信課金徴収は、本来徴収管理すべき衛星放送の放送実施組織によって管理されればよくなり、CATV用光伝送システムの設置管理組織は、余分な課金徴収管理業務を行う必要がなくなる。
【0020】
以上の理由により、広帯域テレビジョン電気映像信号の帯域(70MHz〜2150MHz)全体を1550nm帯光伝送信号に変換することが可能なCATV用光伝送システムが望まれている。
【0021】
これに対して昨今、直接変調型光送信器の改良が進み、直接変調型光送信器においても電気信号を1550nm帯の光伝送信号に変換することが可能となった。以下、このような直接変調型光送信器を直接変調型光送信器(改良)と呼ぶ。本願発明者が直接変調型光送信器(改良)を組み込んだCATV用光伝送システムを作製して広帯域テレビジョン電気映像信号の帯域(70MHz〜2150MHz)全体を光伝送信号に変換したところ、その帯域(70MHz〜2150MHz)全体を1550nm帯光伝送信号に変換できることが確認された。
【0022】
しかしながら、本願発明者は、直接変調型光送信器(改良)を組み込んだCATV用光伝送システムで広帯域テレビジョン電気映像信号を1550nm帯光伝送信号に変換した後、シングルモードファイバからなる伝送用光ファイバにより長距離伝送区間を伝送させた場合、図4に示すように、その伝送特性を示すCSO(伝送2次歪み:Carrier Secondary Order)が顕著に劣化することを確認した。なお、図4は、アナログ80dBμV10波、デジタル70dBμV80波、およびBSデジタル70dBμV8波を伝送用光信号にして、次の条件でCSOを測定した結果である。
【0023】
[−2dBm(ATT)]
1550nm帯伝送用光信号の信号レベルを可変光減衰器で−2dBmに減衰させて光受信器で変換するという伝送モデルにおいてCSOを測定する。
【0024】
[−2dBm(SMF)]
入力映像電気信号をシングルモードファイバからなる伝送用光ファイバで10km伝送するとともにその信号レベルを光受信器の入力端で−2dBmとなるように可変光減衰器で減衰させる、という伝送モデルにおいてCSOを測定する。
【0025】
[−8dBm(ATT)]
入力映像電気信号の光入力レベルの信号レベルを可変光減衰器で−8dBmに減衰させて光受信器で変換するという伝送モデルにおいてCSOを測定する。
[−8dBm(SMF)]
入力映像電気信号をシングルモードファイバからなる伝送用光ファイバで10km伝送するとともにその信号レベルを光受信器の入力端で−8dBmとなるように可変光減衰器で減衰させる、という伝送モデルにおいてCSOを測定する。
【0026】
図4に示すように、光受信器の光入力レベルが−2dBm、−8dBmのいずれの場合であっても、シングルモードファイバからなる伝送用光ファイバで長距離伝送区間(10km)を伝送させた場合、CSOが顕著に劣化していることが理解できる。
【0027】
以下、本発明の実施の形態の詳細を説明する。図1は、本発明の最良の実施形態に係るCATV用光伝送システムの構成を示すブロック図である。
【0028】
このCATV用光伝送システム1は、局舎装置2と、伝送用光ファイバ3と、クロージャ4と、受信者側端末装置5とを備える。
【0029】
局舎装置2は、ヘッドエンド装置6と、直接変調型光送信器7と、2分配光スプリッタ8と、光ファイバ増幅器9と、32分配光スプリッタ10と、L2/L3スイッチ11と、集合型メディアコンバータ12と、集合型WDMカプラ13とを備える。
【0030】
ヘッドエンド装置6は、CATVの局舎装置2内に設置されるケーブル・モデム終端装置であって、地上波の受信装置と衛星波の受信装置とを備える。ヘッドエンド装置6が有する地上波の受信装置は70MHz〜770MHzの帯域を有する地上波放送を受信する。地上波の受信装置は、受信した地上波放送から70MHz〜770MHzの帯域を有する多チャンネル化された地上波テレビジョン電気映像電気信号を生成する。ヘッドエンド装置6が有する衛星波の受信装置は、BS−IF帯とCS−IF帯とからなる1032MHz〜2150MHzの帯域を有する衛星波放送を受信する。衛星波放送の受信装置は、受信した衛星波放送から1032MHz〜2150MHzの帯域を有する衛星波テレビジョン電気映像信号を生成する。ヘッドエンド装置6は、それぞれ生成した地上波テレビジョン電気映像電気信号(70MHz〜770MHz)と衛星波テレビジョン電気映像信号(1032MHz〜2150MHz)とを混合してなる70MHz〜2150MHzの帯域を有する電気映像信号を出力する。
【0031】
さらに、ヘッドエンド装置6は、このヘッドエンド装置6に相互通信可能に接続された外部のネットワーク(例:インターネット)からIPデータを含むマルチメディアデータを分配する機能(CMTS:Cable Modem Termination System)を有する。CMTSが有する機能は、具体的には、受信者端末装置5から伝送される上り方向のデータを受信し処理する機能と、CATVネットワークに接続される受信者端末装置5の数に対応して、ヘッドエンド装置6に収容されている各ケーブルモデムに、マルチメディアデータを配信し、外部のネットワークからのIPデータを配信する機能とである。なお、上述した70MHz〜2150MHzのテレビジョン電気映像信号はこのマルチメディアデータに含まれており、ヘッドエンド装置6が有するテレビジョン電気映像信号の受信装置は、CMTSの機能の一部として位置付けすることもできる。
【0032】
直接変調型光送信器7は、ヘッドエンド装置6が出力する電気映像信号(帯域70MHz〜2150MHz)を直接変調により1550nm帯光伝送信号に変換する。直接変調型光送信器7は、前述したように、変調信号(電気信号)の変化をそのまま光源(半導体レーザ)の強度変化として出力することで変調を行う装置であって、構造が簡単で安価であり小型化が図れるという利点がある。さらに、直接変調型光送信器7は、70MHz〜2150MHzの帯域の電気映像信号を光伝送信号に変換可能な前述した直接変調型光送信器(改良)の構成を有する。
【0033】
2分配光スプリッタ8は、直接変調型光送信器7から出力される1550nm帯光伝送信号を2分配する装置であって、既存の光スプリッタの構成を有する。
【0034】
光ファイバ増幅器9は、2分配光スプリッタ8で2分配されることで出力パワーが減衰した1550nm帯光伝送信号それぞれを光増幅する。なお、光ファイバ増幅器9は、増幅後の1550nm帯光伝送信号がさらに複数に分配されてその出力パワーが減衰することを考慮してその増幅率が設定される。具体的には、光伝送信号の伝送途中で実施される総分配数に基づいて伝送出力端における光伝送用信号の最終減衰量を算定し、その最終減数量を補填するように光ファイバ増幅器9の増幅率が設定される。ここで、光ファイバ増幅器9に入力される光伝送信号の帯域は1550nmであって、この帯域の光伝送信号は、既存のEDFA(Erbium Doped Fiber Amplifier)光増幅器により増幅可能である。そのため、光ファイバ増幅器9は、例えば、既存のEDFA光増幅器から構成される。なお、本実施形態では、2分配光スプリッタ8により2分配された1550nm帯光伝送信号を光増幅するため、光ファイバ増幅器9は2つ設けられる。
【0035】
32分配光スプリッタ10は、光ファイバ増幅器9から出力される1550nm帯光伝送信号それぞれをさらに32分配する。なお、本実施形態では、2分配光スプリッタ8により2分配された1550nm帯光伝送信号をさらに32分配しているため、32分配光スプリッタ10は、2つ設けられる。また、本実施の形態では、1550nm帯光伝送信号を、64分配(=2分配×32分配)しているが、このような分配形態は本発明の一例であって、本発明は如何様な分配形態であっても実施できるのはいうまでもない。
【0036】
L2/L3スイッチ11は、ヘッドエンド装置6から出力されるIPデータからレイヤ2のデータやレイヤ3のデータを選択的に取り出すスイッチである。なお、ヘッドエンド装置6やL2/L3スイッチ11においてIPデータは電気信号形態で処理される。以下、IPデータが重畳される電気信号を電気信号(IP)という。
【0037】
集合型メディアコンバータ12は、L2/L3スイッチ11から出力される電気信号(IP)を光伝送信号に変換する。ここで、集合型メディアコンバータ12が作製する光伝送信号(以下、光伝送信号(IP)という)は、伝送速度が100Mbpsや1Gbpsであって、その光伝送速度とその波長とは1550nm帯光伝送信号と全く異なる光伝送信号である。
【0038】
集合型WDMカプラ13は、32分配光スプリッタ10から出力される1550nm帯光伝送信号と集合型メディアコンバータ12から出力される光伝送信号(IP)とを光波長多重処理して、その光伝送信号(以下、光伝送信号(WDM)という)を局舎装置2から出力する。集合型WDMカプラ13からは、複数系統(本実施形態では、64系統)の光伝送信号(WDM)が出力される。
【0039】
伝送用光ファイバ3は局舎装置2から出力される複数系統の光伝送信号(WDM)を伝送する。伝送用光ファイバ3は、1550nm帯に零分散がシフトされた分散シフト光ファイバから構成される。伝送用光ファイバ3として用いる分散シフト光ファイバは、±1.0ps/nm/km程度の分散値を有する光ファイバである。伝送用光ファイバ3は例えば最大長20kmの長さを有し、その分散値(±1.0ps/nm)から換算すると、最大長20km先の伝送用光ファイバ3の出力端における残留分散値は20ps/nmとなる。伝送用光ファイバ3は、石英系光ファイバから構成されており、例えば、屈折率分布形状等を任意に調整することで零分散が1550nm帯にシフトされる。
【0040】
伝送用光ファイバ3は、複数系統(本実施形態では64系統)の光伝送信号(WDM)を伝送するため、多心光ファイバケーブルの構成を有する。ただし、1550nm帯光伝送信号と光伝送信号(IP)とが光波長多重された光伝送信号(WDM)は、各伝送用光ファイバ3の単心それぞれに送出される。
【0041】
伝送用光ファイバ3を多心光ファイバケーブル化するため、CATV用光伝送システム1では、伝送用光ファイバ3を例えば図2に示すケーブル構成にしている。このケーブル構成は、4心の光ファイバ心線20を並列配置して樹脂で一体化してなる4心テープ心線21を有する。この4心テープ心線21の複数本を溝付きスペーサ22に収納する。具体的には、溝付きスペーサ22の周面には軸方向に延びる複数の収納溝23が設けられており、4心テープ心線21は、それぞれ収納溝23に収納される。なお、図2中、符号24は溝付きスペーサ22の軸心に設けられたテンションメンバであり、25は、溝付きスペーサ22の周面を覆う押さえ巻きである。
【0042】
クロージャ4は、伝送用光ファイバから光伝送信号(WDM)を分岐させる装置であって、伝送用光ファイバ3の伝送途中における任意の位置に設けられる。クロージャ4において伝送用光ファイバ3のケーブル構造体から分岐された1本の伝送用光ファイバ3(1本の4心テープ心線21からさらに1本に分岐された光ファイバ心線20)は、ドロップケーブル14に光接続されており、このドロップケーブル14がCATV受信者宅15に引き込まれる。ドロップケーブル14は、伝送用光ファイバ3と同様に分散シフト光ファイバから構成される。光伝送信号(WDM)はこのような分岐構造を介してCATV受信者宅15に引き込まれる。
【0043】
受信者端末装置5は、光受信器16とテレビジョン受信機17とIPデータ処理装置18とを備える。光受信器16は、ドロップケーブル14を介してCATV受信者宅15に引き込まれる光伝送信号(WDM)を1550nm帯光伝送信号と光伝送信号(IP)とに分波し、さらにこれら1550nm帯光伝送信号と光伝送信号(IP)とをそれぞれ電気映像信号(帯域70MHz〜2150MHz)と電気信号(IP)とに光電変換して出力する。光受信器16は、電気映像信号(帯域70MHz〜2150MHz)を同軸ケーブル30を介してテレビジョン受信機17に伝送し、電気信号(IP)を、UTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブル31を介してIPデータ処理装置18に伝送する。
【0044】
伝送用光ファイバ3として用いる分散シフト光ファイバは、前述したように、±1.0ps/nm程度の分散値を有する光ファイバである。このような伝送用光ファイバ3を介して光伝送信号(WDM)をその最大長20kmまで伝送すると、光受信器16の入力端における光伝送信号(WDM)の残留分散値は最大20ps/nm程度となる。光受信器16はこのような残留分散値(20ps/nm以下)を有する光伝送信号(WDM)を光電変換することに特徴がある。
【0045】
なお、IPデータ処理装置18の最適な例としては、パーソナルコンピュータがあるが、IPデータを処理可能な他の装置でもよいのはいうまでもない。
【0046】
光受信器16はこのような接続形態を可能とするため、その光伝送信号(WDM)入力端にシングルモード光ファイバコネクタ16aが設けられ、その出力端に、同軸ケーブル用コネクタ16bと、UTPケーブル用コネクタ16cとが設けられる。
【0047】
なお、本実施形態では光受信器16は、電気映像信号(帯域70MHz〜2150MHz)と電気信号(IP)とを共に光電変換して出力する一体構成としているが、電気映像信号(帯域70MHz〜2150MHz)を光電変換して出力する装置構成と、電気信号(IP)を光電変換して出力する装置構成とを別々に設けてもよいのはいうまでもない。
【0048】
テレビジョン受信機17は、電気映像信号(帯域70MHz〜2150MHz)から映像を生成して表示する。ここで、各CATV受信者宅15に設置されるテレビジョン受信機17には、地上波(70MHz〜770MHz)の受信機能を備えたテレビジョン受信機と、地上波(70MHz〜770MHz)と衛星波(1032MHz〜2150MHz)の受信機能との両方を備えたテレビジョン受信機とがあり、いずれか一方のテレビジョン受信機17がCATV受信者によって任意に選択されて各CATV受信者宅15に設置される。
【0049】
本実施形態のCATV用光伝送システム1では、衛星波放送は、本来の衛星波の帯域(1032MHz〜2150MHz)にしてCATV受信者宅15に伝送される。そのため、衛星波の受信機能を有するテレビジョン受信機17を備えたCATV受信者宅15においてのみ衛星波の放送を視聴でき、地上波の受信機能だけを有するテレビジョン受信機17を備えたCATV受信者宅15では衛星波の放送を視聴できない。そのため、CATV用光伝送システム1の設置管理組織が衛星波の受信課金の徴収管理を行う必要はない。衛星波の受信課金の徴収は衛星波の放送実施組織によって管理される。
【0050】
IPデータ処理装置18では、光受信器16からUTPケーブル31を介して伝送される電気信号(IP)に基づいて、外部のネットワークとの間でIPデータの双方向通信を実施する。
【0051】
本実施の形態のCATV用光伝送システム1で広帯域テレビジョン電気映像信号(70MHz〜2150MHz)を1550nm帯光伝送信号に変換した後、分散シフト光ファイバからなる伝送用光ファイバ3により長距離伝送区間を伝送させた場合におけるCSO(伝送2次歪み:Carrier Secondary Order)を測定した結果を図3に示す。なお、図3は、図4の測定結果と同様、アナログ80dBμV10波、デジタル70dBμV80波、およびBSデジタル70dBμV8波を伝送用光信号にして、同一条件でCSOを測定した結果である。なお、測定結果[−2dBm(ATT)]、[−2dBm(SMF)]、[−8dBm(ATT)]、[−8dBm(SMF)]については、図4の測定結果と全く同じである。図3の測定では、分散シフト光ファイバからなる伝送用光ファイバ3を用いて、次の測定を実施している。
【0052】
[−2dBm(DSF)]
入力映像電気信号を分散シフト光ファイバからなる伝送用光ファイバ3で10km伝送するとともにその信号レベルを光受信器の入力端で−2dBmとなるように可変光減衰器で減衰させる、というCATV用光伝送システム1の伝送モデルにおいてCSOを測定する。
【0053】
[−8dBm(DSF)]
入力映像電気信号を分散シフト光ファイバからなる伝送用光ファイバで10km伝送するとともにその信号レベルを光受信器の入力端で−8dBmとなるように可変光減衰器で減衰させる、というCATV用光伝送システム1の伝送モデルにおいてCSOを測定する。
【0054】
図3に示すように、光受信器の光入力レベルが−2dBm、−8dBmのいずれの場合であっても、本実施形態のCATV用光伝送システム1の構成(分散シフト光ファイバからなる伝送用光ファイバ3を備えたシステム構成)で広帯域の電気映像信号を長距離伝送区間(10km)にわたって光伝送した場合、CSOが10dB程度向上していることが理解できる。なお、図3、図4の測定では、最も低い周波数として91.25MHzの電気映像信号の伝送結果を、また、最も高い周波数として597.25MHzの電気映像信号の伝送結果をそれぞれ測定している。このような測定結果は、直接変調型光送信器7で変換可能な70〜2150MHzの全ての帯域においても同様に得られるのはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態のCATV用光伝送システムの構成を示すブロック図である。
【図2】伝送用光ファイバをケーブル化した構造例を示す断面図である。
【図3】実施の形態のCATV用光伝送システムのCSO測定結果を示す図である。
【図4】従来のCATV用光伝送システムのCSO測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 CATV用光伝送システム 2 局舎装置
3 伝送用光ファイバ 4 クロージャ
5 受信者側端末装置 6 ヘッドエンド装置
7 直接変調型光送信器 8 2分配光スプリッタ
9 光ファイバ増幅器 10 32分配光スプリッタ
11 L2/L3スイッチ 12 集合型メディアコンバータ
13 集合型WDMカプラ 14 ドロップケーブル
15 CATV受信者宅 16 光受信器
16a シングルモード光ファイバコネクタ
16b 同軸ケーブル用コネクタ 16c UTPケーブル用コネクタ
17 テレビジョン受信機 18 IPデータ処理装置
20 光ファイバ心線 21 4心テープ心線
22 溝付きスペーサ 23 収納溝
24 テンションメンバ 25 押さえ巻き
30 同軸ケーブル 31 UTPケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレビジョン電気映像信号を、直接変調により1550nm帯光伝送信号に変換して出力する光送信器と、
前記1550nm帯光伝送信号を伝送する伝送用光ファイバと、
を備え、
前記伝送用光ファイバを、零分散が1550nm帯にシフトされた分散シフト光ファイバから構成する、
ことを特徴とするCATV用光伝送システム。
【請求項2】
請求項1に記載のCATV用光伝送システムにおいて、
前記テレビジョン電気映像信号の帯域は、70MHz〜2150MHzである、
ことを特徴とするCATV用光伝送システム。
【請求項3】
請求項1に記載のCATV用光伝送システムにおいて、
前記テレビジョン電気映像信号は複数チャンネルの映像信号を含む、
ことを特徴とするCATV用光伝送システム。
【請求項4】
請求項1に記載のCATV用光伝送システムにおいて、
前記1550nm帯光伝送信号を複数に分配する分配器と、
前記分配器により分配された前記1550nm帯光伝送信号を光増幅する光増幅器とを備え、
前記伝送用光ファイバは、分配後に光増幅された前記複数の1550nm帯光伝送信号を個別伝送可能な、多心光ファイバケーブル構造を有する、
ことを特徴とするCATV用光伝送システム。
【請求項5】
請求項1に記載のCATV用光伝送システムにおいて、
前記伝送用光ファイバから引き出された前記1550nm帯光伝送信号をテレビジョン電気映像信号に変換する光受信器を、さらに備える、
ことを特徴とするCATV用光伝送システム。
【請求項6】
請求項5に記載のCATV用光伝送システムにおいて、
インターネットプロトコルに基づいた情報が重畳されるとともに前記1550nm帯光伝送信号とは波長が異なるIP情報光伝送信号を、前記1550nm帯光伝送信号に波長多重合波し、その波長多重合波光信号を前記伝送用光ファイバに出力するWDMカプラをさらに備え、
前記光受信器は、前記伝送用光ファイバから引き出された前記波長多重合波光信号を電気信号に変換するものである、
ことを特徴とするCATV用光伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−5842(P2006−5842A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182424(P2004−182424)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000109668)DXアンテナ株式会社 (394)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】