CCR8阻害剤を用いる癒着の診断、予防および治療剤
【課題】 癒着を診断、予防および治療するための薬剤および診断、予防および治療方法を提供すること。
【解決手段】 CCR8阻害剤を有効成分とする、癒着を予防または治療するための医薬組成物が開示される。好ましくは、CCR8阻害剤は、CCR8に結合する抗体、CCR8のリガンドCCL1に対する中和抗体、CCR8ならびにCCL1に対するアプタマー、CCR8のアンタゴニスト、およびCCR8ならびにCCL1遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAからなる群より選択される。また、被検細胞におけるCCR8遺伝子あるいはCCL1遺伝子の発現を検出するか、または被検細胞におけるCCR8またはCCL1の存在量を検出することにより癒着を診断する方法が開示される。さらに、癒着を予防および治療するのに有用な物質をスクリーニング方法が開示される。
【解決手段】 CCR8阻害剤を有効成分とする、癒着を予防または治療するための医薬組成物が開示される。好ましくは、CCR8阻害剤は、CCR8に結合する抗体、CCR8のリガンドCCL1に対する中和抗体、CCR8ならびにCCL1に対するアプタマー、CCR8のアンタゴニスト、およびCCR8ならびにCCL1遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAからなる群より選択される。また、被検細胞におけるCCR8遺伝子あるいはCCL1遺伝子の発現を検出するか、または被検細胞におけるCCR8またはCCL1の存在量を検出することにより癒着を診断する方法が開示される。さらに、癒着を予防および治療するのに有用な物質をスクリーニング方法が開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着、特に腹腔内臓器手術後の腹膜癒着を診断、予防および治療する方法、ならびに癒着の診断・予防および治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔内臓器手術後や消化管炎症における腹膜の炎症及び癒着は、不妊、再手術の原因となるなど、長期にわたる深刻な後遺症を残すだけでなく、腹痛、便秘などのために患者のQOLを著しく損なう。
【0003】
その防止のために、現在とられている措置は、組織面との間に一時的物理的隔離を設けることである。ジェンザイム社が開発した生体吸収性の膜セプラフィルムを手術部位に貼付する。この方法で術後癒着は約半数に減少したが(Becker et al., J. Am Coll Surg 1996, 183: 297-306)、まだ、半数に術後の癒着が起こっている。また、癒着を診断する方法はこれまでに確立されていない。
【0004】
したがって、本発明は、癒着を診断、予防および治療するための薬剤および診断、予防および治療方法を提供することを目的とする。
【0005】
CCR8はChemR1、CY6、CKR-L1またはTER1と呼ばれていたケモカイン受容体の一つで、ヒトクロモゾーム3p21-24に遺伝子が存在する。355アミノ酸からなり、蛋白共役型7回膜貫通型のCCケモカインレセプターである(Rucker et al., J Virol 1997, 71:8999-9007)。CCR8の発現は脾臓、胸腺、NK細胞、単球及びCD4+T細胞にみられ、末梢血白血球でも低いながら定常的に発現している。CCR8はヒト免疫不全ウイルス-1 (HIV-1)の多くの株のコレセプターとして知られておりM指向性HIV-1, T指向性HIV-1, シンシチウム指向性HIV-1、脳細胞指向性HIV-1の感染受容体の一つであるとされている。CCR8に対して高親和性を持つ内因性リガンドにはCCL1(I-309)があり(Tiffany et al., J Exp Med 1997, 186:165-170; Roos et al., J Biol Chem 1997, 272:17251-17254)、CCL1はHIV-1による細胞融合と感染の成立を効率的に阻害することができた(Horuk et al., J Biol Chem 1998, 273:386-391)。TARC (thymus and activation-regulated cytokine)及びマクロファージ炎症性蛋白質-1 ベータ(MIP-1β)もCCRと結合するという報告もあったが、結局否定された。マウスCCR8はヒトCCR8と71%のホモロジーを示し、T細胞、B細胞、マクロファージなど様々な細胞に発現している。
【0006】
T細胞の中ではCD4+CD8+サブセットにわずかに発現しており、CD4+細胞で強く発現するが、CD8+細胞では発現が失われる。 CD4+細胞のうちCCR8の発現はTh2細胞の活性化に際して上昇し(D'Ambrosio et al., J Immunol 1998, 161:5111-5115)、リガンドのCCL1は活性化Th2細胞に対する強力なケモアトラクタントとして作用する。カポジ肉腫ウイルスがコードするケモカインホモログの一つであるvMIP-Iは、CCR8の高親和性アゴニストであることが明らかになり、カポジ肉腫内にみられる顕著なTh2細胞浸潤のメカニズムとされている(Endres et al., J Exp Med 1999, 189:1993-1998)。CCL-1, vMIP-Iはまたマウスリンパ腫細胞におけるステロイド誘導性アポトーシスを阻害する(Louahed et al., Eur J Immunol 2003, 33:494-501)。一方、ヒトヘルペスウイルス8にコードされたvMIP-IIや、伝染性軟属種ウイルス由来のコードするMC148はアンタゴニストとして作用し(Dairaghi et al., J Biol Chem 1999, 274:21569-21574; Luttichau et al., J Exp Med 2000, 191:171-180)、vMIP-IIはマウス・ヒトCCLとともに点鼻投与によりTh2サイトカイン分泌を促し免疫アジュバントの作用も持つ(Singh et al., J Immunol 2004, 173:5509-5516)。Th2細胞はSTAT6依存性にMDCと、CCL1を分泌し、さらなるTh2細胞のリクルートメントを促す(Zhang et al., J Immunol 2000, 165:10-14)。
【0007】
CCR8ノックアウトマウスを用いた実験では、始めにマンソン住血吸虫可溶性卵抗原による肉芽腫形成、卵白アルブミン及びゴキブリ抗原によるアレルギー性気道炎症がいずれも減弱しており、Th2型サイトカインの産生不全と好酸球浸潤の減少が特徴であったという報告があった(Chensue et al., J Exp Med 2001, 193:573-584)。このグループによると、ノックアウトマウスではTh2細胞の発達には欠陥はないが、好酸球の動員が十分でないとされた。しかしながら、その後に2つのグループからこれを否定する結果が報告されCCL1の発現上昇がアレルギー性気道炎症モデルでみられるものの、CCR8ノックアウトマウスでは炎症・好酸球浸潤に影響はなく、CCL1中和抗体の投与にも反応しなかったとしている(Chung et al., J Immunol 2003, 170:581-587; Goya et al., J Immunol 2003, 170:2138-2146)。さらに別の報告ではCCL-1中和抗体は好酸球浸潤を減少させたが、Th2細胞の動員に影響はなく、気道の炎症の重症度、Th2サイトカインの分泌にも影響は見られなかったとしている(Bishop et al., J Immunol 2003, 170:4810-4817)。彼らは、CCL1の吸入により、Th2細胞ではなく好酸球の肺への動員を観察したことから、アレルギー性気道炎症モデルにおいては、Th2細胞より、好酸球への作用の方が重要なのではないかと結論づけている。
【0008】
一方、ヒト末梢血CD4+CD25+細胞は制御性機能を持つとされるがCCR4とCCR8の発現を特徴としており、抑制性T細胞の局所への遊走に関与していると考えられる(Iellem et al., J Exp Med 2001, 194:847-853)。ヒト胸腺のCD4+CD25+細胞は、CD4+CD25-細胞の同種異系刺激による増殖を抑制するが、すべてが腫瘍壊死因子タイプ2受容体、細胞質リンパ球抗原−(CTLA) 4とともにCCR8を発現しており、胸腺マクロファージまたは上皮細胞から分泌されるCCL1に応答する(Annunziato et al., J Exp Med 2002, 196:379-387)。
【0009】
さらに、CCR8はTNF刺激により中枢神経のミクログリア細胞に発現しており、自己免疫性脳炎モデルをCCR8ノックアウトマウスに誘導することによって、急性開始(rapid-onset)脳炎へのCCR8の関与が示された(Murphy et al., J Immunol 2002, 169:7054-7062)。CCR8のミクログリアでの発現は脳梗塞や進行性多発性白質脳症など貧食細胞の関与する病態にみられた(Trebst et al., Am J Pathol 2003, 162:427-438)。CCR8は単球だけでなくヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)や、血管平滑筋細胞(VSMC)に発現しており, CCL1によるVSMCのケモタクシスが観察されたことから血管病変への関与も示唆されている(Haque et al., Blood 2004, 103:1296-1304)。
【0010】
腹腔マクロファージにおいてCCR8が発現しており、CCR8ノックアウトマウスは腹膜炎誘発性敗血症(cecal ligation nad pucture, CLP)に抵抗性でありCCR8欠損マクロファージは野生型に比べて殺菌能、細菌排除能も高いと学会報告されている(松川昭博、第24回日本炎症・再生医学会, 京都, 2003, Nov.26-27)。
【0011】
本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【非特許文献1】Becker et al., J. Am Coll Surg 1996, 183: 297-306
【非特許文献2】Rucker et al., J Virol 1997, 71:8999-9007
【非特許文献3】Tiffany et al., J Exp Med 1997, 186:165-170
【非特許文献4】Roos et al., J Biol Chem 1997, 272:17251-17254
【非特許文献5】Horuk et al., J Biol Chem 1998, 273:386-391
【非特許文献6】D'Ambrosio et al., J Immunol 1998, 161:5111-5115
【非特許文献7】Endres et al., J Exp Med 1999, 189:1993-1998
【非特許文献8】Louahed et al., Eur J Immunol 2003, 33:494-501
【非特許文献9】Dairaghi et al., J Biol Chem 1999, 274:21569-21574
【非特許文献10】Luttichau et al., J Exp Med 2000, 191:171-180
【非特許文献11】Singh et al., J Immunol 2004, 173:5509-5516
【非特許文献12】Zhang et al., J Immunol 2000, 165:10-14
【非特許文献13】Chensue et al., J Exp Med 2001, 193:573-584
【非特許文献14】Chung et al., J Immunol 2003, 170:581-587
【非特許文献15】Goya et al., J Immunol 2003, 170:2138-2146
【非特許文献16】Bishop et al., J Immunol 2003, 170:4810-4817
【非特許文献17】Iellem et al., J Exp Med 2001, 194:847-853
【非特許文献18】Annunziato et al., J Exp Med 2002, 196:379-387
【非特許文献19】Murphy et al., J Immunol 2002, 169:7054-7062
【非特許文献20】Trebst et al., Am J Pathol 2003, 162:427-438
【非特許文献21】Haque et al., Blood 2004, 103:1296-1304
【非特許文献22】松川昭博、第24回日本炎症・再生医学会, 京都, 2003, Nov.26-27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、癒着を診断、予防および治療するための薬剤および診断、予防および治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、CCR8およびそのリガンドCCL1が癒着の形成に関与すること、および、抗CCL1中和抗体を投与することにより癒着の形成を抑制しうることを見いだして、本発明を完成させた。すなわち本発明は、CCR8阻害剤を有効成分とする、癒着を予防または治療するための医薬組成物を提供する。好ましくは、CCR8阻害剤は、CCR8に結合する抗体、CCR8のリガンドCCL1に対する中和抗体、CCR8ならびにCCL1に対するアプタマー、CCR8のアンタゴニスト、およびCCR8ならびにCCL1遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAからなる群より選択される。
【0014】
別の観点においては、本発明は、被検細胞におけるCCR8またはCCL1遺伝子の発現を検出することを特徴とする癒着の検出方法を提供する。別の態様においては、本発明は、被検細胞におけるCCR8またはCCL1の存在量を検出することを特徴とする癒着の検出方法を提供する。
【0015】
さらに別の観点においては、本発明は、CCR8またはCCL1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む、癒着の診断用キットを提供する。別の態様においては、本発明は、CCR8またはCCL1に結合する抗体またはその断片を含む、癒着の診断用キットを提供する。
【0016】
さらに別の観点においては、本発明は、被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質がCCR8とリガンドとの結合を阻害する能力を測定することを含む方法を提供する。別の態様においては、本発明は、被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質がCCR8またはCCL1の発現を阻害する能力を測定することを含む方法を提供する。
【0017】
さらに別の観点においては、本発明は、CCR8あるいはCCL1、またはCCR8あるいはCCL1をコードするオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、またはCCR8を発現する細胞を含む、癒着の予防または治療効果を有する物質をスクリーニングするためのキットを提供する。
【0018】
さらに別の観点においては、本発明は、被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質が、腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することを抑制する能力を測定することを含む方法を提供する。
【0019】
さらに別の観点においては、本発明は、腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することの測定を実施することを目的とした、腹膜中皮細胞、腹腔マクロファージおよびCCL1の少なくとも2つを含む、癒着の予防または治療効果を有する物質をスクリーニングするためのキットを提供する。
【0020】
本発明の医薬組成物は、癒着、特に腹腔内臓器手術後の腹膜癒着を予防および治療するのに有用である。また、本発明のスクリーニング方法にしたがえば、癒着を予防および治療するのに有用な物質をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の医薬組成物は、CCR8阻害剤を有効成分とすることを特徴とする。CCR8とは、355アミノ酸からなり、蛋白共役型7回膜貫通型のCCケモカインレセプターであり(Rucker et al., J Virol 1997, 71:8999-9007)、その遺伝子の塩基配列は公知である(GenBank: U45983、BC069067)。CCR8阻害剤としては、CCR8に結合する抗体、CCR8のアンタゴニスト、CCR8に対するアプタマー、およびCCR8遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAを挙げることができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。CCR8の内因性アゴニストであるCCL1は、96アミノ酸からなる分泌性タンパク質であり、その遺伝子の塩基配列は公知である(GenBank: M57502、M57506)。CCR8の活性化を抑制することは、CCL1がCCR8に結合することを阻害したりCCL1の発現を抑制したりすることによって実現できる。このメカニズムによりCCR8を阻害しうる物質としては、CCL1に対する中和抗体、CCL1に対するアプタマー、およびCCL1遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAを挙げることができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0022】
本発明のCCR8に結合するポリクローナル抗体は,当該技術分野においてよく知られる方法にしたがって,CCR8を感作抗原として用いて動物を免疫して,抗血清を採取することにより得ることができる。本発明のCCR8に結合するモノクローナル抗体は,当該技術分野においてよく知られる方法にしたがって,CCR8を感作抗原として用いて動物を免疫し,得られる免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞と融合させ,抗体を産生するハイブリドーマをクローニングし,このハイブリドーマを培養することにより得ることができる。
【0023】
本発明のモノクローナル抗体には,ハイブリドーマにより産生される抗体に加えて,抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組換え抗体,キメラ抗体,CDR移植抗体,およびこれらの抗体の断片等が含まれる。
【0024】
遺伝子組み換え抗体は,CCR8に結合するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマから抗体をコードするcDNAをクローニングし,これを発現ベクター中に挿入して,動物細胞,植物細胞などを形質転換し,この形質転換体を培養することにより製造することができる。キメラ抗体とは,ある動物に由来する抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域と,他の動物に由来する抗体の重鎖定常領域および軽鎖定常領域から構成される抗体である。また、CCR8に結合しうる抗体断片としては,Fab,F(ab')2,Fab',scFv,ディアボディー等が挙げられる。
【0025】
同様に本発明のCCL1に対する抗体は、CCL1を感作抗原として用い、抗CCR8抗体作製と同じ当該技術分野においてよく知られる方法にしたがって得ることができる。得られた抗体が中和抗体であるか否かの検定は、CCL1の生理作用を抑制するか否かを検定することにより行うことができる。例としては、これらに限定されるものではないが、CCL1のCCR8への結合、あるいはCCL1によるCCR8発現細胞の遊走または細胞内Ca++増加またはCCL1刺激に感受性のある遺伝子の発現変動、あるいはCCL1による腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージの凝集塊形成などを測定することが挙げられる。
【0026】
アプタマーはタンパク質に結合しうる数十塩基の長さの核酸リガンドである。これまで種々のタンパク質に対するアプタマーが同定されており、例えば、血管内皮増殖因子に対するアプタマーは加齢性黄斑変性症治療に用いられている。アプタマーは、多種の核酸鎖からなるライブラリを製造し、その中から標的タンパク質に結合しうる核酸鎖を選びだすことによって得ることができる。その具体的な方法の例としては、例えば、特許US5270163に記載されるSELEX法が広く知られている。
【0027】
CCR8のアンタゴニストとしては、例えば、vMIP−IIv(viral macrophage inflammatory protein 2)、vMCC−I、MC148、WO2004/058709に記載される式(I)の化合物:
【化1】
WO2004/058736に記載される式(I)の化合物:
【化2】
WO2004/073619およびWO2004/074438に記載される式(I)の化合物:
【化3】
等が知られている。また、CCR8とリガンドCCL1との結合を阻害する物質をスクリーニングすることによっても得ることができる。そのようなアンタゴニストのスクリーニング方法は当該技術分野においてよく知られている。
【0028】
CCR8に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドとは、CCR8をコードするmRNAに特異的に結合してその翻訳を阻害しうるオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドには、アンチセンスRNAおよびアンチセンスDNAが含まれる。siRNAとは、RNA干渉を引き起こすことができる二本鎖RNAである。RNAおよびDNAは化学的に修飾されていてもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAの安定性または細胞取り込みを増強するための種々の核酸修飾が知られており、本発明においては、そのいずれをも用いることができる。
【0029】
CCR8遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを癒着の予防・治療剤として利用する場合には、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを被験者に直接投与するか、または、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを発現するベクターを作製し、これらの発現ベクターを投与することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAまたはこれらを発現するベクターを導入する方法は、当該技術分野においてよく知られている。
【0030】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することができる。例えば、薬学的に許容しうる担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて製剤化することができる。
【0031】
経口投与用には、本発明の組成物を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体と混合することにより、錠剤、丸薬、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として処方することができる。担体としては、当該技術分野において従来公知のものを広く使用することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリンカカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、澱粉等の保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の潤沢剤等を用いることができる。さらに錠剤は、必要に応じ、通常の剤皮を施した錠剤、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0032】
非経口投与用には、本発明の医薬組成物を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうるベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0033】
注射剤用の水溶性ベヒクルとしては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0034】
油性ベヒクルとしてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0035】
本発明の医薬組成物の適当な投与経路には、限定されないが、経口、直腸内、経粘膜、または腸内投与、または筋肉内、皮下、骨髄内、鞘内、直接心室内、静脈内、硝子体内、腹腔内、鼻腔内、または眼内注射が含まれる。投与経路および投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。
【0036】
本発明の医薬組成物の特に好ましい投与経路および投与方法は、本発明の医薬組成物を含む製剤、好ましくは徐放製剤を術中もしくは術後に患部またはその近傍、例えば腹腔内に投与することである。特に適した投与方法は、ポリマーフィルムに本発明の医薬組成物を結合させて、手術後に患部に留置することである。ポリマーフィルムとしては、例えば、術後の癒着予防用に用いられているセプラフィルム(登録商標)、メソフォル(登録商標)等を用いることができる。
【0037】
本発明の医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0038】
別の観点においては、本発明は、被検細胞におけるCCR8遺伝子の発現を検出するか、または被検細胞におけるCCR8の存在量を検出することにより、癒着を診断する方法を特徴とする。本発明にしたがえば、癒着が生じていると疑われる組織におけるCCR8の存在量またはCCR8遺伝子の発現レベルを指標として、癒着が生じているか否かを診断することができる。
【0039】
さらに別の観点においては、本発明は、被検細胞におけるCCL1の存在量を検出することにより、癒着を診断する方法を特徴とする。本発明にしたがえば、癒着が生じていると疑われる組織あるいは腹水などの体液におけるCCL1の存在量を指標として、癒着が生じているか否かを診断することができる。
【0040】
CCR8あるいはCCL1の存在量またはCCR8あるいはCCL1遺伝子の発現レベルを測定する方法としては、例えば、手術後に腹水を排出するために設置されるドレイン管から出る腹水を回収するかまたは腹水を少量採取して、これに含まれるマクロファージまたは中皮細胞のCCR8発現量またはCCL1の発現量を測定することが挙げられる。また、CCL1などのCCR8アゴニスト刺激による採取したマクロファージ遊走能を測定することが挙げられる。さらに、抗CCR8抗体もしくは抗CCL1抗体、またはCCR8に対するアプタマーもしくはCCL1に対するアプタマー、またはCCR8リガンドに標識を行い、これを患者に投与して画像解析により測定するなどの方法が挙げられる。標識としては放射性同位体、安定同位体、磁性体または発泡剤等が挙げられ、画像解析の方法としては、ポジトロン放射トモグラフィー(PET)、シングルフォトンエミッションコンピュータートモグラフィー(SPECT)、核磁気共鳴画像診断(MRI)または超音波画像診断等が挙げられる。
【0041】
CCR8遺伝子の発現レベルは、検体におけるCCR8をコードするmRNAの存在量を測定することにより定量することができる。CCR8をコードするmRNAの存在量は、公知のCCR8遺伝子配列に基づいて設計したプローブまたはプライマーを用いて、当該技術分野においてよく知られる遺伝子解析技術を用いて測定することができる。そのような技術としては、例えば、ノーザンブロット法、DNAマイクロアレイ法、RT−PCR等が挙げられる。CCL1遺伝子の発現レベルは、CCR8遺伝子に対するものと同様の技術により測定することができる。
【0042】
検体におけるCCR8またはCCL1の存在量は、当該技術分野においてよく知られるタンパク質解析技術を用いて測定することができる。そのような技術としては、例えば、CCR8またはCCL1に結合する抗体またはその断片を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA、組織免疫染色法等が挙げられる。
【0043】
さらに別の観点においては、本発明は、癒着の診断用キットを特徴とする。本発明の癒着の診断用キットは、被験者から採取した検体におけるCCR8遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、被験者のCCR8をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、あるいは、被験者のCCR8に結合する抗体またはその断片を含む。本発明の癒着の診断用キットはさらに、被験者から採取した検体におけるCCR8遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、被験者のCCL1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、あるいは、被験者のCCL1に結合する抗体またはその断片を含むものでも良い。本発明の癒着の診断用キットはさらに、CCR8またはCCL1、またはCCR8遺伝子またはCCL1遺伝子の発現産物を定量するための試薬、および使用方法の指針を含むことができる。
【0044】
さらに別の観点においては、本発明は、癒着の予防または治療剤の成分として有用な物質をスクリーニングする方法を特徴とする。本発明の方法にしたがえば、被検物質がCCR8とリガンドとの結合を阻害する能力、または被検物質がCCR8の発現を阻害する能力を測定することにより、被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定することができる。CCR8遺伝子の発現の阻害には、CCR8遺伝子の転写および翻訳のいずれの阻害も含まれる。本発明のスクリーニング方法は、候補物質の存在下および非存在下において、CCR8遺伝子の転写および/または翻訳量を測定することにより、CCR8とそのリガンド、例えばCCL1との結合の阻害を測定することにより、CCR8発現マクロファージをCCL1で刺激したときの遊走能を調べることにより、またはCCR8をCCL1で刺激したときのCa++の変動を測定することにより、またはCCL1遺伝子の転写および/または翻訳量を測定することにより、またはCCL1の細胞からの放出量を測定することにより、または腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することを測定することにより容易に実施することができる。
【0045】
さらに別の観点においては、本発明は、癒着の予防または治療薬の成分として有用な物質をスクリーニングする方法として、腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージを混合培養し、これらの細胞に例えばCCL1を培養皿中に加えるなどの刺激を与えることによりこれらの細胞が凝集塊を形成する反応を利用する方法を特徴とするin vitroの試験方法を提供する。被検物質がこの凝集塊形成反応を抑制するか否かによって癒着の予防または治療効果を検定することができる。あるいは、被検物質が形成された凝集塊を小さくするか否かによって癒着の予防または治療効果を検定することができる。
【0046】
以下に、限定されるものではないが、その方法の一例を示す。動物臓器から採取した細胞の培養を行う一般的な手順にしたがい、動物(ヒトを含む)の腹腔内の膜から中皮細胞の単層培養を作成する。より具体的な例としては、次の手順による。マウスの大網を採取し、小片に切った後に0.01%コラゲナーゼを含むDulbecco modified Eagle medium (DMEM)により37℃において30 min消化する。消化した組織はコラーゲンコートしたFalcon培養皿(Becton Dickinson、Franklin Lakes, NJ, USA)に移し、20% 牛胎児血清(FCS)、5 μg/mL マウスリコンビナント上皮成長因子、およびペニシリン−ストレプトマイシンならびにアンホテリシンBを含むDMEMにより培養する。継代を5から6回行い14日間培養する。
【0047】
同時に、動物から採取したマクロファージの培養を行う一般的な手順にしたがい、動物(ヒトを含む)の腹腔マクロファージを培養する。より具体的な例としては、次の手順による。マウス腹腔液を採取し、それに含まれる細胞を2% FCSを含むDMEM培地中で45 minインキュベーションし、付着した細胞を採取することで腹腔マクロファージを得る。なお、その後の細胞塊の測定を容易にするために、これらの細胞に標識を施しておいても良い。その具体的な例としては、腹腔マクロファージに対してHoshino et al., Biochem Biophys Res Commun 2004, 314:46-53の方法により、蛍光発色を示すカンタムドットで標識することを行うことが挙げられる。
【0048】
細胞塊を形成させるために腹腔マクロファージを中皮細胞と共培養する。その具体的な方法の例として、腹腔マクロファージを10%FCS-DMEM培地に移し、これをスポイトによって中皮細胞の単層培養を行っている培養皿に添加する。次に、この腹腔マクロファージと中皮細胞を混合培養している培養皿中に刺激を加えることよって細胞塊を形成する反応を生じさせる。その具体的な方法の例として、刺激剤としてCCL1を添加することが挙げられる。CCL1の濃度は0.1 ng/mLから10 ng/mLが望ましく、さらに望ましくは5 ng/mLが良い。また、CCL1の代わりにCCL1/CCR8受容体系のシグナリングを活性化する刺激物質を添加することや同じ機能を示す遺伝子導入を行っても良い。そのような刺激物質の例として、リポ多糖、細菌あるいは細菌由来のペプチドグリカン、オリゴデオキシヌクレオチド、サイトカイン等の起炎物質が挙げられる。
【0049】
被検物質は、腹腔マクロファージと中皮細胞を混合培養している培養皿中に刺激前、刺激と同時、刺激後、細胞塊の形成後に添加することができる。細胞塊は顕微鏡を用いて観察および測定することができる。観察および測定を容易にするために標識した細胞の標識を用いることも良い。観察および測定の際に画像処理装置を用いても良い。また、細胞塊をスポイトやピンセットなどにより取り出して体積の代わりに重量を測定しても良い。被験物質を添加した培養皿における細胞塊形成の程度を被験物質を添加しない細胞皿における細胞塊形成の程度と比較すること、あるいは刺激物質添加前後の細胞塊形成の程度を比較することによって、被験物質の効果を判定することができる。
【0050】
さらに別の観点においては、本発明は、癒着の予防または治療剤の成分として有用な物質をスクリーニングするためのキットを特徴とする。本発明のキットは、CCR8、またはCCR8をコードするオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、またはCCR8を発現する細胞、またはCCL1、またはCCL1をコードするオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含むものであり、これらのスクリーニング用キットはさらに、アッセイに必要な試薬および溶液、ならびに使用方法の指針を含むことができる。あるいは、本発明のキットは、腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することを測定することを目的としたものであり、この測定を実施することに適した研究材料を含むものであり、本発明のキットはさらにアッセイに必要な試薬および溶液ならびに使用方法の指針を含むことができる。この測定を実施することに適した研究材料の例として、腹腔マクロファージまたは、腹膜中皮細胞、すなわち消化管などの臓器、大網、腹膜あるいは腹水由来の中皮細胞が挙げられる。
【0051】
本発明のスクリーニング方法によって見いだされた物質は、癒着の予防・治療剤として有用である。これらの癒着の予防・治療剤は、CCR8遺伝子またはCCL1遺伝子の発現を阻害することにより、あるいは、CCR8の機能を阻害することにより、癒着の予防・治療効果を発揮しうると考えられる。
【0052】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
マウス大腸炎モデルの穿孔部位における腹腔マクロファージの集積とCCR8の発現
C57BL/6マウスの腹腔マクロファージを慣用法(Hoshino et al., Biochem Biophys Res Commun 2004, 314:46-53)によりカンタムドット(quantum dots; Q dot)でラベルし、同種マウス腹腔内に移植するとともに、高用量(100μg/g体重)のトリニトロベンゼンスルホン酸注腸による腸炎(TNBS腸炎)を誘導した。
【0054】
24時間後、全層性潰瘍による大腸の部位を採取して凍結切片を作成し、Qdot蛍光標識したマクロファージを蛍光顕微鏡を用いて観察した。また、TNBS腸炎誘導24時間後に大腸を取り出し、縦に切開しリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて洗浄した。漿膜表面および潰瘍穿孔部に生じたプラーク部分に集積した細胞を剥した。大腸標本は30 min 2 mMエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA) PBS処置を施し上皮細胞を除去した。残った部分に対し、洗浄およびタイプFコラゲナーゼ(Sigma-Aldrich, MO, USA)を用いて20 min消化する過程を2回繰り返し、粘膜固有層単核球(LPMC)を得た。プラーク部分に集積した細胞サンプルおよび大腸LPMCサンプルについて、フローサイトメトリを用いて蛍光標識した抗CD11b抗体陽性細胞とQ dot 蛍光標識したマクロファージを測定した。
【0055】
大腸壁内に多数のCD11b陽性のマクロファージ浸潤がみられたにもかかわらず、Q dot 蛍光標識した腹腔マクロファージは穿孔部位のプラークのみに集積し、大腸壁内への浸潤が全く認められなかった。
【0056】
次に、プラーク部分に集積した細胞をマイクロダイセクションによって切り取り、mRNAを抽出し、ケモカイン受容体の発現を無刺激の腹腔マクロファージと、定量RT-PCRにより比較した。ケモカイン受容体の発現の変化を図1に示す。図中、X軸は無刺激腹腔マクロファージでの発現に対する比を示し、Exp1及び2は独立して行った実験結果を示す。
【0057】
また、マウス抗CCR8抗体により凍結切片を蛍光抗体法で染色したところ、プラーク部分及び大腸漿膜側の細胞が陽性を示した。
【0058】
本実施例において、腹腔に投与した腹腔マクロファージは、癒着の前段階であるプラークには集積していたが、大腸壁内には移行しないことが明らかとなった。本実施例においてプラークに集積した腹腔マクロファージでは、CCR8の発現量が高く、他のケモカイン受容体の発現は少なくなることが明らかになった。この結果から、プラークに集積した腹腔マクロファージにおけるケモカインに関する主要なシステムは、リガンドCCL1および受容体CCR8による情報伝達システムであることが示された。また、腹腔マクロファージのCCR8の存在量または発現レベルを測定することにより、その時点およびその後の癒着の有無を検出しうることを示唆する。
【実施例2】
【0059】
CCL1による腹腔マクロファージのCCR8、CCL1およびCD49dの発現増加
実施例1においてプラークに集積した腹腔マクロファージは、炎症などの刺激によりCCR8発現が高くなる活性化をしたことが示されたので、本実施例では、CCR8の内因性リガンドであるCCL1を培養腹腔マクロファージに適用して、その効果を検討した。C57BL/6マウスから採取した腹腔マクロファージ、および定法により骨髄をマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を用いて分化させた骨髄マクロファージを培養した。これらの細胞の培地に、刺激剤として、CCL8のリガンドであるCCL1、あるいは対照として免疫反応を誘発する細菌成分である大腸菌O55B5由来のリポ多糖(LPS; Sigma-Aldrich)(100 ng/mL)または黄色ブドウ球菌由来のペプチドグリカン(PGN; Fluka、Buchs、Switzerland)(1 μg/mL)または塩基配列が5'-TCCATGACGTTCCTGATGCT-3'である非メチル化シトシン−グアニン配列オリゴデオキシヌクレオチド(CpG)(タカラバイオ、東京、日本)(1 μg/mL)、あるいは炎症を誘発するサイトカインである腫瘍壊死因子−α(TNF-α) (1 μg/mL)またはインターロイキン−1β(IL-1β)(10 μg/mL)を適用した。腹腔マクロファージからmRNAを抽出し、CCR8 mRNA発現量あるいはCCL1 mRNA発現量を定量RT-PCRにより測定した。mRNA発現量はGAPDHのmRNA量により標準化した。
【0060】
各刺激因子適用2 h後のCCR8 mRNA発現量の、刺激適用前のmRNA発現量を1とした相対値を図2に示す。腹腔マクロファージ(PMΦ)において、CCL1(10 ng/mL)刺激によりCCR8 mRNA発現が増加した。CCL1 (10 ng/mL)の効果は、LPS (100 ng/mL)、PGN (1 μg/mL)、CpG (1 μg/mL)、TNF-α (1 μg/mL)、IL-1β (10 μg/mL)によるCCR8 mRNA発現増加効果に比べて強かった。一方、骨髄マクロファージ(BMΦ)においては、CCL1および他の刺激因子もCCR8 mRNAの発現量を顕著に増加させる効果は示さなかった。
【0061】
次に、各刺激因子適用2 h後のCCL1 mRNA発現量の、刺激適用前のmRNA発現量を1とした相対値を図3に示す。CCL1 (10 ng/mL)刺激により腹腔マクロファージ(PMΦ)のCCL1 mRNA発現が増加した。CCL1 (10 ng/mL)刺激のCCL1 発現増加効果は、顕著にCCL1発現量を増加させたLPS (100 ng/mL)の効果よりも弱く、PGN (1 μg/mL)およびCpG (1 μg/mL)と同程度であった。
【0062】
さらに、腹腔マクロファージによるCCR8受容体タンパク質の発現を確認するために、マクロファージの表面抗原であるCD-11bに対する抗体および抗CCR8抗体を用いた免疫組織化学染色による検討を行った。腹腔マクロファージにCCL1 (10 ng/mL)あるいはLPS(100 ng/mL)を適用した12時間後に染色を実施した。その結果、CCL1およびLPSがCCR8タンパク質の発現を増加させることが示された。図4にその代表例を示す。白線は抗CD-11b抗体染色で検出した細胞の形を示し、白色の領域がCCR8陽性の染色領域を示す。CCR8は細胞の表面の一部分に発現していた。また、腹腔マクロファージにCCL1 (10 ng/mL)刺激を行った48時間後にCD-11bに対する抗体および抗CD49d抗体を用いた免疫組織化学染色による検討を行った結果、CD49dの発現が増加していることが明らかになった。図5にその代表例を示す。白線は抗CD-11b抗体染色で検出した細胞の形を示し、白色の領域がCD49d陽性の染色領域を示す。
【0063】
以上の結果は、腹腔マクロファージが刺激を受けるとCCR8を発現させる反応は、骨髄マクロファージには見られない、腹腔マクロファージに特徴的な性質であることを示す。また、腹腔マクロファージにおいては、受容体CCR8のリガンドであるCCL1が受容体CCR8およびCCL1自身の発現を増加させる、ポジティブフィードバックの機構があることが示された。この結果から、急速に大量の腹腔マクロファージが障害部位に集積することにCCL1/CCR8系が関与している可能性が示唆された。本実施例ではさらに、CCL1刺激により腹腔マクロファージがCD49d(インテグリンα4β1;VLA4)を発現することが示された。CD49dは、腹膜や腹腔内の臓器を覆う細胞である腹膜中皮細胞に発現するVCAM1と結合するタンパク質である。したがって、本実施例の結果からCCL1/CCR8系が癒着形成時に腹腔マクロファージと中皮細胞が接着することに関与している可能性が示された。
【実施例3】
【0064】
腹膜中皮細胞によるCCL1の産生
実施例2で腹腔マクロファージと腹膜中皮細胞の接着にCCL1/CCR8系が関与している可能性が示された。そこで、腹膜中皮細胞によるCCL1産生について検討した。
【0065】
C57BL/6マウスの大網由来の中皮細胞を次の方法を用いて培養した。小片に切った大網組織を、0.01%コラゲナーゼを含むDulbecco modified Eagle medium (DMEM)により37℃において30 min消化した。消化した組織はコラーゲンコートしたFalcon培養皿(Becton Dickinson、Franklin Lakes, NJ, USA)に移し、20% 牛胎児血清(FCS)、5 μg/mL マウスリコンビナント上皮成長因子、およびペニシリン−ストレプトマイシンならびにアンホテリシンBを含むDMEMにより培養した。継代を5から6回行い14日間培養した。細胞の純度は抗マウスパンサイトケラチン抗体を用いた免疫組織化学染色によって確認した。中皮細胞をコラーゲンコートした24ウエルの培養皿に移し、コンフルエントになるまで培養した。各刺激因子を添加して6 h培養し、細胞からmRNAを抽出し、定量RT-PCRを用いて、CCR8、CCL1、IL-1β、IL-6、およびTNF-αのmRNA発現量を測定した。
【0066】
各刺激因子適用後のCCL1 mRNA発現量の、無刺激でのmRNA発現量を1とした相対値を図6に示す。中皮細胞は、LPS (100 ng/mL)、PGN (100 ng/mL)、TNF-α (1 μg/mL)刺激により、CCL1のmRNA発現を著しく増加させた。その増大はCCL1に選択的であった。また、IL-1β (10 μg/mL)刺激により、CCL1 mRNA、およびTNF-αの増加が示された。CpG(1μg/mL)はCCL1 mRNA発現を増加させなかった。中皮細胞にはCCR8の発現が認められたが、これらの刺激因子を適用した場合にはCCR8 mRNAの発現増加は示されなかった。一方、CCL1 (5ng/mL)刺激により、CCL1、IL-1β、およびCCR8のmRNAの発現が顕著に増加した。
【0067】
以上の結果は、腹膜中皮細胞が炎症反応などによる刺激を受けた際にCCL1を大量に放出するという機構が存在することを示す。また腹膜中皮細胞においても、CCL1が受容体であるCCR8およびCCL1自身の発現を高めるポジティブフィードバック機構が存在することが明らかとなった。CCL1は、腹腔マクロファージの遊走を高め、実施例2で示されたように接着因子CD49dを発現させる作用を持つ。したがって、本実施例の結果は次のような過程があることを示すものである: 傷害部位の腹膜や臓器表面の膜に存在する中皮細胞が、傷害による刺激を受けて腹腔内CCL1を放出し、その部位に活性化した腹腔マクロファージが集積して、中皮細胞と結合して癒着が形成されて行く。また、本実施例の結果は、中皮細胞によるCCL1の産生または細胞外に放出されたCCL1を検出することで、癒着の診断ができることを示す。
【実施例4】
【0068】
CCL1による腹腔マクロファージと腹腔中皮細胞の凝集塊の形成
実施例1から3の知見から、CCL1が腹腔マクロファージが集積し中皮細胞と結合して癒着を形成してゆく過程に深く関与していることが明らかとなった。そこで、新たに、癒着形成過程を生じさせる培養細胞を用いたin vitroのモデル系を作製した。
【0069】
C57BL/6マウスの大網由来の中皮細胞を次の方法を用いて培養した。小片に切った大網組織を、0.01%コラゲナーゼを含むDulbecco modified Eagle medium (DMEM)により37℃において30 min消化した。消化した組織はコラーゲンコートしたFalcon培養皿(Becton Dickinson、Franklin Lakes, NJ, USA)に移し、20% 牛胎児血清(FCS)、5 μg/mL マウスリコンビナント上皮成長因子、およびペニシリン−ストレプトマイシンならびにアンホテリシンBを含むDMEMにより培養した。継代を5から6回行い14日間培養した。細胞の純度は抗マウスパンサイトケラチン抗体を用いた免疫組織化学染色によって確認した。
【0070】
中皮細胞をコラーゲンコートした24ウエルの培養皿に移し、コンフルエントになるまで培養した。中皮細胞は単層を形成したが、この上にQ dotでラベルした腹腔マクロファージ1×105個/ウエルを含む10%FCS-DMEMを添加し、CCL1あるいは他の刺激因子を加え、37℃で培養した。Q dotによる蛍光の発色は蛍光顕微鏡を用いて観察した。また、評価尺度として、画像解析ソフトウエア(NIH image J、National Institution of Health、Bethesda、MD、USA)を用いて、面積10-10 m2 以上の大きさの蛍光発色領域の面積の総和が1視野に占める割合を算出し、1視野中の凝集塊面積とした。
【0071】
培養腹腔中皮細胞上に添加したQ dotでラベルした腹腔マクロファージは、中皮細胞にゆるく結合し、丸い形態を保っていた。図7にQ dotでラベルした腹腔マクロファージ添加1 h、3 h、6 h後のQ dot蛍光の画像の代表例を示す。刺激を与えない場合(図7a)には腹腔マクロファージの凝集はほとんど生じなかった。この混合培養にCCL1 (10 ng/mL)を加えると凝集塊が大きくなり、3 hあるいは6h後には直径100 μmを超える凝集塊が形成された。図7bに示したCCL1添加後の画像の代表例に関しては、6 h後において直径100 μmを超える大きな凝集塊が認められる。LPS (100 ng/mL)刺激によっても凝集塊が形成されたが、適用6 h後までのLPSの促進効果はCCL1の効果に比べて弱いものであった(図7c)。
【0072】
CCL1刺激下で形成された大きな凝集塊の凍結切片を作製して免疫組織化学染色を行ったところ、中皮細胞のマーカーである抗サイトケラチン抗体陽性細胞が存在した。CCL1を適用後に小さな凝集塊が大きくなって行く過程では、凝集塊が中皮細胞の層の上を転がって行くこと、および凝集塊が中皮細胞上を通った際には中皮細胞が培養皿からはがれて凝集塊に集まって行くことが観察された。なお、培養中皮細胞に腹腔マクロファージを添加しない場合には、CCL1を適用しても中皮細胞が培養皿からはがれることはなかった。
【0073】
また、Q dotでラベルした腹腔マクロファージあるいは骨髄マクロファージを培養中皮細胞に添加し、無刺激あるいは各種濃度のCCL1刺激を加えた24 h後に、1視野中の凝集塊面積を算出した。結果は図8に示す。CCL1は腹腔マクロファージ(PMΦ)と中皮細胞の凝集塊面積を増加させた。その効果は濃度が5 ng/mLの場合に最も強かった。一方、腹腔マクロファージの代わりに骨髄マクロファージ(BMΦ)と中皮細胞を混合培養した場合には、CCL1を適用による顕著な凝集塊面積の増大は認められなかった。LPS(100 ng/mL)は、刺激6 h 後までは強い効果を示さなかったが、刺激24 h後においては顕著に凝集塊面積を増大させることが示された。このことは、LPS刺激によって腹腔マクロファージあるいは中皮細胞からCCL1が放出された結果凝集塊が形成されたことを示唆する。次に、CCL1刺激による腹腔マクロファージと中皮細胞の凝集塊の形成を、ラット抗マウスCCL1中和モノクローナル抗体(R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)により抑制する試験を実施した。CCL1 (5 ng/mL)および抗CCL1中和抗体適用24 h後の1視野中の凝集塊面積を図9に示す。抗CCL1中和抗体は濃度依存的に凝集塊の形成を抑制した。
【0074】
以上の結果は、CCR8受容体のリガンドであるCCL1、および腹腔マクロファージのCCR8受容体が癒着の形成に深く関与していることを示す。また、この癒着形成過程を生じさせるin vitroのモデル系により癒着を抑制する物質のスクリーニングを行うことができることを示す。
【実施例5】
【0075】
抗CCL1中和抗体によるマウス大腸炎モデル穿孔部位における癒着形成の抑制
In vivoにおいてCCL1/CCL8系を阻害することにより癒着を抑制することを示すため、癒着が生じるTNBS大腸炎モデルにおいて、マウスに抗CCL1中和抗体投与を行った。C57BL/6マウスに実施例4で用いた抗CCL1抗体(中和抗体)150 μgを腹腔内投与した3 h後に、実施例1と同様にしてTNBS腸炎を誘導した。対照としては、抗CCL1抗体の代わりにラットIgGを投与したマウスを用いた。腹腔マクロファージの動態に関する画像解析を行う試験、および癒着形成を測定する試験を行った。
【0076】
腹腔マクロファージの動態に関する試験では、Q dotでラベルした腹腔マクロファージ(2.5×105個)をTNBS投与の前日に腹腔内に注入した。TNBS注入1 day後に大腸を取り出し、画像解析装置(リライオン、東京、日本)を用いてQ dotの蛍光発色像を可視光線画像に重ねあわせて観察した。図10aは各群3例についてそれぞれのマウスの大腸全体における標識腹腔マクロファージ集積に関する画像を示す。明るい領域がQ dot標識した腹腔マクロファージが集積した領域を示す。対照のラットIgG投与群では、TNBS投与後に腹腔マクロファージが腸漿膜上の1箇所から数箇所に集積していた。一方、抗CCL1抗体投与群では、腹腔マクロファージの集積が対照よりも少なかった。図10bには、大腸のQ dotの発色が強い部分の切片を作製して蛍光顕微鏡を用いて観察した画像の代表例を示す。明るい領域がQ dot標識した腹腔マクロファージが集積した領域を示す。線は大腸および穿孔部の形を示す。矢印は穿孔部のプラークを示す。対照のラットIgG投与群では、腹腔マクロファージが後に癒着を起こす穿孔部のプラークに集積していた。これに対して、抗CCL1抗体投与群では、Q dotでラベルして腹腔に注入した腹腔マクロファージが固有層および粘膜層に散在していた。これらの結果と実施例1および2の結果から、抗CCL1抗体が、腹腔マクロファージがCCR8受容体発現を増加させる活性化をすること、および腹腔マクロファージの穿孔部位への集積を抑制したことが示された。
【0077】
大腸の癒着はTNBS注入4 day後に開腹して観察し、スコア化した。癒着スコアは次の通りとした: 癒着がない(0点)、薄い膜状の癒着が1箇所ある(1点)、薄い薄膜状の癒着が2箇所以上ある(2点)、1箇所に厚い癒着がある(3点)、底面との厚い癒着または2箇所以上の厚い癒着がある(4点)、非常に厚く血管新生を伴う癒着または2箇所以上の底面との厚い癒着がある(5点)。
【0078】
抗CCL1抗体投与群において、対照群に比較してTNBSによる炎症や傷害が悪化したり、体重を指標とした全身状態が悪化したりすることはなかった。抗CCL1抗体投与により癒着の形成は顕著に抑制された。図11に、各マウスの癒着スコアを四角で、各群の平均値を十字記号で示す。対照のラットIgG投与群では、5例全例にスコア4点または5点の癒着が生じていたが、抗CCL1抗体投与群の癒着スコアは明らかに少なかった。
【0079】
これらの結果は、CCL1/CCR8系が癒着形成に深く関与していることを示す。また、内因性のCCL1が受容体CCR8に結合するシグナリングの経路を、抗CCL1中和抗体やCCR8受容体拮抗薬などを用いて阻害することで、腹腔内臓器の癒着形成が抑制できることを示す。
【実施例6】
【0080】
抗CCL1中和抗体によるマウス開腹手術モデルにおける癒着形成の抑制
ラットにおける開腹手術後の腹膜癒着モデル(Reed et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 , 101:9115-9120)を応用して、C57BL/6マウスを用いた癒着形成モデルを作製し、抗CCL1中和抗体の癒着形成抑制効果を示した。マウスに麻酔をかけ、正中線に沿って開腹手術を行った。腹膜を止血鉗子でつまんで根元を4-0絹糸で結紮することにより、いぼ状の虚血ボタンを作成した。虚血ボタンを左右の腹膜に1箇所ずつ作成した後に閉腹した。実施例4および5で用いた抗CCL1抗体(中和抗体)150 μgを、開腹手術終了直後およびその3 day後に腹腔内投与した。対照としたマウスには抗CCL1抗体の代わりにラットIgGを投与した。開腹手術の7 day後に開腹して癒着を観察した。癒着部位にはマクロファージの集積が認められた。癒着の評価尺度として、左右の虚血ボタンそれぞれについてスコア化し、左右のスコアを合計した。癒着スコアは次の通りとした:癒着がない(0点)、薄い膜状の癒着がある(1点)、厚く癒着している(2点)。
【0081】
図12に各マウスの癒着スコアを四角で、各群の平均値を十字記号で示す。対照のラットIgG投与群では、全9例に癒着が生じ、癒着スコアは平均2.89点であった。抗CCL1抗体投与群では、9例中5例では癒着が認められず、癒着スコアは平均0.78点であり、抗CCL1抗体投与による癒着抑制効果が示された。
【0082】
本実施例の結果は、開腹手術後の癒着形成にCCL1/CCR8系が深く関与していることを示す。また、内因性のCCL1が受容体CCR8に結合することによるシグナリングの経路を、抗CCL1中和抗体やCCR8受容体拮抗薬などを用いて阻害することで、癒着形成が抑制できることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、プラークの腹腔マクロファージと、無刺激の腹腔マクロファージのケモカイン受容体の発現の相違を比率で示す(2回の実験についてそれぞれの実験の結果を示す)。
【図2】図2は、CCR8の内因性リガンドであるCCL1および各種の免疫・炎症刺激因子による、培養腹腔マクロファージ(PMΦ)のCCR8受容体mRNA発現増加を、刺激前を1とした比率で示す(平均値)。また、これらの刺激因子は、培養骨髄マクロファージ(BMΦ)では全く効果がないか、または効果が弱かったことを示す。
【図3】図3は、CCL1および各種の免疫・炎症刺激因子による培養腹腔マクロファージ(PMΦ)のCCL1 mRNAの発現増加を、刺激前を1とした比率で示す(平均値)。
【図4】図4は、CCL1およびLPSによる培養腹腔マクロファージのCCR8受容体の発現増加を示す画像の代表例である。
【図5】図5は、CCL1による培養腹腔マクロファージのCD49dの発現増加を示す画像の代表例である。
【図6】図6は、CCL1および各種の免疫・炎症刺激因子による培養腹腔中皮細胞のCCL1 mRNA発現量を、刺激前を1とした比率で示す(平均値+標準偏差)。また、CCL1 mRNA発現量をCCR8および他の遺伝子のmRNA 発現量と比較した。
【図7】図7は、同時培養した中皮細胞と腹腔マクロファージにおける凝集塊を示す画像の代表例である。CCL1は大きな凝集塊を生じさせる効果を示した。LPSは刺激後6 hまでの凝集塊形成効果は弱かった。
【図8】図8は、同時培養した中皮細胞と腹腔マクロファージにおける、刺激因子適用24 h後の1視野あたりの凝集塊面積を示す(平均値+標準偏差)。CCL1およびLPSは大きな凝集塊を生じさせる効果を示した。
【図9】図9は、同時培養した中皮細胞と腹腔マクロファージにおける、CCL1刺激24 h後における凝集塊形成を抗CCL1中和抗体が抑制したことを示す(1視野あたりの凝集塊面積の平均値+標準偏差)。
【図10】図10は、TNBS投与1 day後における腹腔マクロファージのプラークへの集積を、抗CCL1中和抗体が抑制したことを示す画像である。
【図11】図11は、TNBS投与4 day後に生じる大腸穿孔部の癒着を抗CCL1中和抗体が抑制したことを示す(各マウスの癒着スコア、および各群の平均値)。
【図12】図12は、マウス開腹手術モデル7 day後に生じる腹膜虚血ボタン部位の癒着を抗CCL1中和抗体が抑制したことを示す(各マウスの癒着スコア、および各群の平均値)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着、特に腹腔内臓器手術後の腹膜癒着を診断、予防および治療する方法、ならびに癒着の診断・予防および治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔内臓器手術後や消化管炎症における腹膜の炎症及び癒着は、不妊、再手術の原因となるなど、長期にわたる深刻な後遺症を残すだけでなく、腹痛、便秘などのために患者のQOLを著しく損なう。
【0003】
その防止のために、現在とられている措置は、組織面との間に一時的物理的隔離を設けることである。ジェンザイム社が開発した生体吸収性の膜セプラフィルムを手術部位に貼付する。この方法で術後癒着は約半数に減少したが(Becker et al., J. Am Coll Surg 1996, 183: 297-306)、まだ、半数に術後の癒着が起こっている。また、癒着を診断する方法はこれまでに確立されていない。
【0004】
したがって、本発明は、癒着を診断、予防および治療するための薬剤および診断、予防および治療方法を提供することを目的とする。
【0005】
CCR8はChemR1、CY6、CKR-L1またはTER1と呼ばれていたケモカイン受容体の一つで、ヒトクロモゾーム3p21-24に遺伝子が存在する。355アミノ酸からなり、蛋白共役型7回膜貫通型のCCケモカインレセプターである(Rucker et al., J Virol 1997, 71:8999-9007)。CCR8の発現は脾臓、胸腺、NK細胞、単球及びCD4+T細胞にみられ、末梢血白血球でも低いながら定常的に発現している。CCR8はヒト免疫不全ウイルス-1 (HIV-1)の多くの株のコレセプターとして知られておりM指向性HIV-1, T指向性HIV-1, シンシチウム指向性HIV-1、脳細胞指向性HIV-1の感染受容体の一つであるとされている。CCR8に対して高親和性を持つ内因性リガンドにはCCL1(I-309)があり(Tiffany et al., J Exp Med 1997, 186:165-170; Roos et al., J Biol Chem 1997, 272:17251-17254)、CCL1はHIV-1による細胞融合と感染の成立を効率的に阻害することができた(Horuk et al., J Biol Chem 1998, 273:386-391)。TARC (thymus and activation-regulated cytokine)及びマクロファージ炎症性蛋白質-1 ベータ(MIP-1β)もCCRと結合するという報告もあったが、結局否定された。マウスCCR8はヒトCCR8と71%のホモロジーを示し、T細胞、B細胞、マクロファージなど様々な細胞に発現している。
【0006】
T細胞の中ではCD4+CD8+サブセットにわずかに発現しており、CD4+細胞で強く発現するが、CD8+細胞では発現が失われる。 CD4+細胞のうちCCR8の発現はTh2細胞の活性化に際して上昇し(D'Ambrosio et al., J Immunol 1998, 161:5111-5115)、リガンドのCCL1は活性化Th2細胞に対する強力なケモアトラクタントとして作用する。カポジ肉腫ウイルスがコードするケモカインホモログの一つであるvMIP-Iは、CCR8の高親和性アゴニストであることが明らかになり、カポジ肉腫内にみられる顕著なTh2細胞浸潤のメカニズムとされている(Endres et al., J Exp Med 1999, 189:1993-1998)。CCL-1, vMIP-Iはまたマウスリンパ腫細胞におけるステロイド誘導性アポトーシスを阻害する(Louahed et al., Eur J Immunol 2003, 33:494-501)。一方、ヒトヘルペスウイルス8にコードされたvMIP-IIや、伝染性軟属種ウイルス由来のコードするMC148はアンタゴニストとして作用し(Dairaghi et al., J Biol Chem 1999, 274:21569-21574; Luttichau et al., J Exp Med 2000, 191:171-180)、vMIP-IIはマウス・ヒトCCLとともに点鼻投与によりTh2サイトカイン分泌を促し免疫アジュバントの作用も持つ(Singh et al., J Immunol 2004, 173:5509-5516)。Th2細胞はSTAT6依存性にMDCと、CCL1を分泌し、さらなるTh2細胞のリクルートメントを促す(Zhang et al., J Immunol 2000, 165:10-14)。
【0007】
CCR8ノックアウトマウスを用いた実験では、始めにマンソン住血吸虫可溶性卵抗原による肉芽腫形成、卵白アルブミン及びゴキブリ抗原によるアレルギー性気道炎症がいずれも減弱しており、Th2型サイトカインの産生不全と好酸球浸潤の減少が特徴であったという報告があった(Chensue et al., J Exp Med 2001, 193:573-584)。このグループによると、ノックアウトマウスではTh2細胞の発達には欠陥はないが、好酸球の動員が十分でないとされた。しかしながら、その後に2つのグループからこれを否定する結果が報告されCCL1の発現上昇がアレルギー性気道炎症モデルでみられるものの、CCR8ノックアウトマウスでは炎症・好酸球浸潤に影響はなく、CCL1中和抗体の投与にも反応しなかったとしている(Chung et al., J Immunol 2003, 170:581-587; Goya et al., J Immunol 2003, 170:2138-2146)。さらに別の報告ではCCL-1中和抗体は好酸球浸潤を減少させたが、Th2細胞の動員に影響はなく、気道の炎症の重症度、Th2サイトカインの分泌にも影響は見られなかったとしている(Bishop et al., J Immunol 2003, 170:4810-4817)。彼らは、CCL1の吸入により、Th2細胞ではなく好酸球の肺への動員を観察したことから、アレルギー性気道炎症モデルにおいては、Th2細胞より、好酸球への作用の方が重要なのではないかと結論づけている。
【0008】
一方、ヒト末梢血CD4+CD25+細胞は制御性機能を持つとされるがCCR4とCCR8の発現を特徴としており、抑制性T細胞の局所への遊走に関与していると考えられる(Iellem et al., J Exp Med 2001, 194:847-853)。ヒト胸腺のCD4+CD25+細胞は、CD4+CD25-細胞の同種異系刺激による増殖を抑制するが、すべてが腫瘍壊死因子タイプ2受容体、細胞質リンパ球抗原−(CTLA) 4とともにCCR8を発現しており、胸腺マクロファージまたは上皮細胞から分泌されるCCL1に応答する(Annunziato et al., J Exp Med 2002, 196:379-387)。
【0009】
さらに、CCR8はTNF刺激により中枢神経のミクログリア細胞に発現しており、自己免疫性脳炎モデルをCCR8ノックアウトマウスに誘導することによって、急性開始(rapid-onset)脳炎へのCCR8の関与が示された(Murphy et al., J Immunol 2002, 169:7054-7062)。CCR8のミクログリアでの発現は脳梗塞や進行性多発性白質脳症など貧食細胞の関与する病態にみられた(Trebst et al., Am J Pathol 2003, 162:427-438)。CCR8は単球だけでなくヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)や、血管平滑筋細胞(VSMC)に発現しており, CCL1によるVSMCのケモタクシスが観察されたことから血管病変への関与も示唆されている(Haque et al., Blood 2004, 103:1296-1304)。
【0010】
腹腔マクロファージにおいてCCR8が発現しており、CCR8ノックアウトマウスは腹膜炎誘発性敗血症(cecal ligation nad pucture, CLP)に抵抗性でありCCR8欠損マクロファージは野生型に比べて殺菌能、細菌排除能も高いと学会報告されている(松川昭博、第24回日本炎症・再生医学会, 京都, 2003, Nov.26-27)。
【0011】
本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【非特許文献1】Becker et al., J. Am Coll Surg 1996, 183: 297-306
【非特許文献2】Rucker et al., J Virol 1997, 71:8999-9007
【非特許文献3】Tiffany et al., J Exp Med 1997, 186:165-170
【非特許文献4】Roos et al., J Biol Chem 1997, 272:17251-17254
【非特許文献5】Horuk et al., J Biol Chem 1998, 273:386-391
【非特許文献6】D'Ambrosio et al., J Immunol 1998, 161:5111-5115
【非特許文献7】Endres et al., J Exp Med 1999, 189:1993-1998
【非特許文献8】Louahed et al., Eur J Immunol 2003, 33:494-501
【非特許文献9】Dairaghi et al., J Biol Chem 1999, 274:21569-21574
【非特許文献10】Luttichau et al., J Exp Med 2000, 191:171-180
【非特許文献11】Singh et al., J Immunol 2004, 173:5509-5516
【非特許文献12】Zhang et al., J Immunol 2000, 165:10-14
【非特許文献13】Chensue et al., J Exp Med 2001, 193:573-584
【非特許文献14】Chung et al., J Immunol 2003, 170:581-587
【非特許文献15】Goya et al., J Immunol 2003, 170:2138-2146
【非特許文献16】Bishop et al., J Immunol 2003, 170:4810-4817
【非特許文献17】Iellem et al., J Exp Med 2001, 194:847-853
【非特許文献18】Annunziato et al., J Exp Med 2002, 196:379-387
【非特許文献19】Murphy et al., J Immunol 2002, 169:7054-7062
【非特許文献20】Trebst et al., Am J Pathol 2003, 162:427-438
【非特許文献21】Haque et al., Blood 2004, 103:1296-1304
【非特許文献22】松川昭博、第24回日本炎症・再生医学会, 京都, 2003, Nov.26-27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、癒着を診断、予防および治療するための薬剤および診断、予防および治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、CCR8およびそのリガンドCCL1が癒着の形成に関与すること、および、抗CCL1中和抗体を投与することにより癒着の形成を抑制しうることを見いだして、本発明を完成させた。すなわち本発明は、CCR8阻害剤を有効成分とする、癒着を予防または治療するための医薬組成物を提供する。好ましくは、CCR8阻害剤は、CCR8に結合する抗体、CCR8のリガンドCCL1に対する中和抗体、CCR8ならびにCCL1に対するアプタマー、CCR8のアンタゴニスト、およびCCR8ならびにCCL1遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAからなる群より選択される。
【0014】
別の観点においては、本発明は、被検細胞におけるCCR8またはCCL1遺伝子の発現を検出することを特徴とする癒着の検出方法を提供する。別の態様においては、本発明は、被検細胞におけるCCR8またはCCL1の存在量を検出することを特徴とする癒着の検出方法を提供する。
【0015】
さらに別の観点においては、本発明は、CCR8またはCCL1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む、癒着の診断用キットを提供する。別の態様においては、本発明は、CCR8またはCCL1に結合する抗体またはその断片を含む、癒着の診断用キットを提供する。
【0016】
さらに別の観点においては、本発明は、被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質がCCR8とリガンドとの結合を阻害する能力を測定することを含む方法を提供する。別の態様においては、本発明は、被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質がCCR8またはCCL1の発現を阻害する能力を測定することを含む方法を提供する。
【0017】
さらに別の観点においては、本発明は、CCR8あるいはCCL1、またはCCR8あるいはCCL1をコードするオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、またはCCR8を発現する細胞を含む、癒着の予防または治療効果を有する物質をスクリーニングするためのキットを提供する。
【0018】
さらに別の観点においては、本発明は、被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質が、腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することを抑制する能力を測定することを含む方法を提供する。
【0019】
さらに別の観点においては、本発明は、腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することの測定を実施することを目的とした、腹膜中皮細胞、腹腔マクロファージおよびCCL1の少なくとも2つを含む、癒着の予防または治療効果を有する物質をスクリーニングするためのキットを提供する。
【0020】
本発明の医薬組成物は、癒着、特に腹腔内臓器手術後の腹膜癒着を予防および治療するのに有用である。また、本発明のスクリーニング方法にしたがえば、癒着を予防および治療するのに有用な物質をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の医薬組成物は、CCR8阻害剤を有効成分とすることを特徴とする。CCR8とは、355アミノ酸からなり、蛋白共役型7回膜貫通型のCCケモカインレセプターであり(Rucker et al., J Virol 1997, 71:8999-9007)、その遺伝子の塩基配列は公知である(GenBank: U45983、BC069067)。CCR8阻害剤としては、CCR8に結合する抗体、CCR8のアンタゴニスト、CCR8に対するアプタマー、およびCCR8遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAを挙げることができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。CCR8の内因性アゴニストであるCCL1は、96アミノ酸からなる分泌性タンパク質であり、その遺伝子の塩基配列は公知である(GenBank: M57502、M57506)。CCR8の活性化を抑制することは、CCL1がCCR8に結合することを阻害したりCCL1の発現を抑制したりすることによって実現できる。このメカニズムによりCCR8を阻害しうる物質としては、CCL1に対する中和抗体、CCL1に対するアプタマー、およびCCL1遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAを挙げることができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0022】
本発明のCCR8に結合するポリクローナル抗体は,当該技術分野においてよく知られる方法にしたがって,CCR8を感作抗原として用いて動物を免疫して,抗血清を採取することにより得ることができる。本発明のCCR8に結合するモノクローナル抗体は,当該技術分野においてよく知られる方法にしたがって,CCR8を感作抗原として用いて動物を免疫し,得られる免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞と融合させ,抗体を産生するハイブリドーマをクローニングし,このハイブリドーマを培養することにより得ることができる。
【0023】
本発明のモノクローナル抗体には,ハイブリドーマにより産生される抗体に加えて,抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組換え抗体,キメラ抗体,CDR移植抗体,およびこれらの抗体の断片等が含まれる。
【0024】
遺伝子組み換え抗体は,CCR8に結合するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマから抗体をコードするcDNAをクローニングし,これを発現ベクター中に挿入して,動物細胞,植物細胞などを形質転換し,この形質転換体を培養することにより製造することができる。キメラ抗体とは,ある動物に由来する抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域と,他の動物に由来する抗体の重鎖定常領域および軽鎖定常領域から構成される抗体である。また、CCR8に結合しうる抗体断片としては,Fab,F(ab')2,Fab',scFv,ディアボディー等が挙げられる。
【0025】
同様に本発明のCCL1に対する抗体は、CCL1を感作抗原として用い、抗CCR8抗体作製と同じ当該技術分野においてよく知られる方法にしたがって得ることができる。得られた抗体が中和抗体であるか否かの検定は、CCL1の生理作用を抑制するか否かを検定することにより行うことができる。例としては、これらに限定されるものではないが、CCL1のCCR8への結合、あるいはCCL1によるCCR8発現細胞の遊走または細胞内Ca++増加またはCCL1刺激に感受性のある遺伝子の発現変動、あるいはCCL1による腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージの凝集塊形成などを測定することが挙げられる。
【0026】
アプタマーはタンパク質に結合しうる数十塩基の長さの核酸リガンドである。これまで種々のタンパク質に対するアプタマーが同定されており、例えば、血管内皮増殖因子に対するアプタマーは加齢性黄斑変性症治療に用いられている。アプタマーは、多種の核酸鎖からなるライブラリを製造し、その中から標的タンパク質に結合しうる核酸鎖を選びだすことによって得ることができる。その具体的な方法の例としては、例えば、特許US5270163に記載されるSELEX法が広く知られている。
【0027】
CCR8のアンタゴニストとしては、例えば、vMIP−IIv(viral macrophage inflammatory protein 2)、vMCC−I、MC148、WO2004/058709に記載される式(I)の化合物:
【化1】
WO2004/058736に記載される式(I)の化合物:
【化2】
WO2004/073619およびWO2004/074438に記載される式(I)の化合物:
【化3】
等が知られている。また、CCR8とリガンドCCL1との結合を阻害する物質をスクリーニングすることによっても得ることができる。そのようなアンタゴニストのスクリーニング方法は当該技術分野においてよく知られている。
【0028】
CCR8に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドとは、CCR8をコードするmRNAに特異的に結合してその翻訳を阻害しうるオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドには、アンチセンスRNAおよびアンチセンスDNAが含まれる。siRNAとは、RNA干渉を引き起こすことができる二本鎖RNAである。RNAおよびDNAは化学的に修飾されていてもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAの安定性または細胞取り込みを増強するための種々の核酸修飾が知られており、本発明においては、そのいずれをも用いることができる。
【0029】
CCR8遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを癒着の予防・治療剤として利用する場合には、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを被験者に直接投与するか、または、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを発現するベクターを作製し、これらの発現ベクターを投与することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAまたはこれらを発現するベクターを導入する方法は、当該技術分野においてよく知られている。
【0030】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することができる。例えば、薬学的に許容しうる担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて製剤化することができる。
【0031】
経口投与用には、本発明の組成物を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体と混合することにより、錠剤、丸薬、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として処方することができる。担体としては、当該技術分野において従来公知のものを広く使用することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリンカカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、澱粉等の保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の潤沢剤等を用いることができる。さらに錠剤は、必要に応じ、通常の剤皮を施した錠剤、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0032】
非経口投与用には、本発明の医薬組成物を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうるベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0033】
注射剤用の水溶性ベヒクルとしては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0034】
油性ベヒクルとしてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0035】
本発明の医薬組成物の適当な投与経路には、限定されないが、経口、直腸内、経粘膜、または腸内投与、または筋肉内、皮下、骨髄内、鞘内、直接心室内、静脈内、硝子体内、腹腔内、鼻腔内、または眼内注射が含まれる。投与経路および投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。
【0036】
本発明の医薬組成物の特に好ましい投与経路および投与方法は、本発明の医薬組成物を含む製剤、好ましくは徐放製剤を術中もしくは術後に患部またはその近傍、例えば腹腔内に投与することである。特に適した投与方法は、ポリマーフィルムに本発明の医薬組成物を結合させて、手術後に患部に留置することである。ポリマーフィルムとしては、例えば、術後の癒着予防用に用いられているセプラフィルム(登録商標)、メソフォル(登録商標)等を用いることができる。
【0037】
本発明の医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0038】
別の観点においては、本発明は、被検細胞におけるCCR8遺伝子の発現を検出するか、または被検細胞におけるCCR8の存在量を検出することにより、癒着を診断する方法を特徴とする。本発明にしたがえば、癒着が生じていると疑われる組織におけるCCR8の存在量またはCCR8遺伝子の発現レベルを指標として、癒着が生じているか否かを診断することができる。
【0039】
さらに別の観点においては、本発明は、被検細胞におけるCCL1の存在量を検出することにより、癒着を診断する方法を特徴とする。本発明にしたがえば、癒着が生じていると疑われる組織あるいは腹水などの体液におけるCCL1の存在量を指標として、癒着が生じているか否かを診断することができる。
【0040】
CCR8あるいはCCL1の存在量またはCCR8あるいはCCL1遺伝子の発現レベルを測定する方法としては、例えば、手術後に腹水を排出するために設置されるドレイン管から出る腹水を回収するかまたは腹水を少量採取して、これに含まれるマクロファージまたは中皮細胞のCCR8発現量またはCCL1の発現量を測定することが挙げられる。また、CCL1などのCCR8アゴニスト刺激による採取したマクロファージ遊走能を測定することが挙げられる。さらに、抗CCR8抗体もしくは抗CCL1抗体、またはCCR8に対するアプタマーもしくはCCL1に対するアプタマー、またはCCR8リガンドに標識を行い、これを患者に投与して画像解析により測定するなどの方法が挙げられる。標識としては放射性同位体、安定同位体、磁性体または発泡剤等が挙げられ、画像解析の方法としては、ポジトロン放射トモグラフィー(PET)、シングルフォトンエミッションコンピュータートモグラフィー(SPECT)、核磁気共鳴画像診断(MRI)または超音波画像診断等が挙げられる。
【0041】
CCR8遺伝子の発現レベルは、検体におけるCCR8をコードするmRNAの存在量を測定することにより定量することができる。CCR8をコードするmRNAの存在量は、公知のCCR8遺伝子配列に基づいて設計したプローブまたはプライマーを用いて、当該技術分野においてよく知られる遺伝子解析技術を用いて測定することができる。そのような技術としては、例えば、ノーザンブロット法、DNAマイクロアレイ法、RT−PCR等が挙げられる。CCL1遺伝子の発現レベルは、CCR8遺伝子に対するものと同様の技術により測定することができる。
【0042】
検体におけるCCR8またはCCL1の存在量は、当該技術分野においてよく知られるタンパク質解析技術を用いて測定することができる。そのような技術としては、例えば、CCR8またはCCL1に結合する抗体またはその断片を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA、組織免疫染色法等が挙げられる。
【0043】
さらに別の観点においては、本発明は、癒着の診断用キットを特徴とする。本発明の癒着の診断用キットは、被験者から採取した検体におけるCCR8遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、被験者のCCR8をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、あるいは、被験者のCCR8に結合する抗体またはその断片を含む。本発明の癒着の診断用キットはさらに、被験者から採取した検体におけるCCR8遺伝子の発現レベルを測定するための試薬として、被験者のCCL1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、あるいは、被験者のCCL1に結合する抗体またはその断片を含むものでも良い。本発明の癒着の診断用キットはさらに、CCR8またはCCL1、またはCCR8遺伝子またはCCL1遺伝子の発現産物を定量するための試薬、および使用方法の指針を含むことができる。
【0044】
さらに別の観点においては、本発明は、癒着の予防または治療剤の成分として有用な物質をスクリーニングする方法を特徴とする。本発明の方法にしたがえば、被検物質がCCR8とリガンドとの結合を阻害する能力、または被検物質がCCR8の発現を阻害する能力を測定することにより、被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定することができる。CCR8遺伝子の発現の阻害には、CCR8遺伝子の転写および翻訳のいずれの阻害も含まれる。本発明のスクリーニング方法は、候補物質の存在下および非存在下において、CCR8遺伝子の転写および/または翻訳量を測定することにより、CCR8とそのリガンド、例えばCCL1との結合の阻害を測定することにより、CCR8発現マクロファージをCCL1で刺激したときの遊走能を調べることにより、またはCCR8をCCL1で刺激したときのCa++の変動を測定することにより、またはCCL1遺伝子の転写および/または翻訳量を測定することにより、またはCCL1の細胞からの放出量を測定することにより、または腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することを測定することにより容易に実施することができる。
【0045】
さらに別の観点においては、本発明は、癒着の予防または治療薬の成分として有用な物質をスクリーニングする方法として、腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージを混合培養し、これらの細胞に例えばCCL1を培養皿中に加えるなどの刺激を与えることによりこれらの細胞が凝集塊を形成する反応を利用する方法を特徴とするin vitroの試験方法を提供する。被検物質がこの凝集塊形成反応を抑制するか否かによって癒着の予防または治療効果を検定することができる。あるいは、被検物質が形成された凝集塊を小さくするか否かによって癒着の予防または治療効果を検定することができる。
【0046】
以下に、限定されるものではないが、その方法の一例を示す。動物臓器から採取した細胞の培養を行う一般的な手順にしたがい、動物(ヒトを含む)の腹腔内の膜から中皮細胞の単層培養を作成する。より具体的な例としては、次の手順による。マウスの大網を採取し、小片に切った後に0.01%コラゲナーゼを含むDulbecco modified Eagle medium (DMEM)により37℃において30 min消化する。消化した組織はコラーゲンコートしたFalcon培養皿(Becton Dickinson、Franklin Lakes, NJ, USA)に移し、20% 牛胎児血清(FCS)、5 μg/mL マウスリコンビナント上皮成長因子、およびペニシリン−ストレプトマイシンならびにアンホテリシンBを含むDMEMにより培養する。継代を5から6回行い14日間培養する。
【0047】
同時に、動物から採取したマクロファージの培養を行う一般的な手順にしたがい、動物(ヒトを含む)の腹腔マクロファージを培養する。より具体的な例としては、次の手順による。マウス腹腔液を採取し、それに含まれる細胞を2% FCSを含むDMEM培地中で45 minインキュベーションし、付着した細胞を採取することで腹腔マクロファージを得る。なお、その後の細胞塊の測定を容易にするために、これらの細胞に標識を施しておいても良い。その具体的な例としては、腹腔マクロファージに対してHoshino et al., Biochem Biophys Res Commun 2004, 314:46-53の方法により、蛍光発色を示すカンタムドットで標識することを行うことが挙げられる。
【0048】
細胞塊を形成させるために腹腔マクロファージを中皮細胞と共培養する。その具体的な方法の例として、腹腔マクロファージを10%FCS-DMEM培地に移し、これをスポイトによって中皮細胞の単層培養を行っている培養皿に添加する。次に、この腹腔マクロファージと中皮細胞を混合培養している培養皿中に刺激を加えることよって細胞塊を形成する反応を生じさせる。その具体的な方法の例として、刺激剤としてCCL1を添加することが挙げられる。CCL1の濃度は0.1 ng/mLから10 ng/mLが望ましく、さらに望ましくは5 ng/mLが良い。また、CCL1の代わりにCCL1/CCR8受容体系のシグナリングを活性化する刺激物質を添加することや同じ機能を示す遺伝子導入を行っても良い。そのような刺激物質の例として、リポ多糖、細菌あるいは細菌由来のペプチドグリカン、オリゴデオキシヌクレオチド、サイトカイン等の起炎物質が挙げられる。
【0049】
被検物質は、腹腔マクロファージと中皮細胞を混合培養している培養皿中に刺激前、刺激と同時、刺激後、細胞塊の形成後に添加することができる。細胞塊は顕微鏡を用いて観察および測定することができる。観察および測定を容易にするために標識した細胞の標識を用いることも良い。観察および測定の際に画像処理装置を用いても良い。また、細胞塊をスポイトやピンセットなどにより取り出して体積の代わりに重量を測定しても良い。被験物質を添加した培養皿における細胞塊形成の程度を被験物質を添加しない細胞皿における細胞塊形成の程度と比較すること、あるいは刺激物質添加前後の細胞塊形成の程度を比較することによって、被験物質の効果を判定することができる。
【0050】
さらに別の観点においては、本発明は、癒着の予防または治療剤の成分として有用な物質をスクリーニングするためのキットを特徴とする。本発明のキットは、CCR8、またはCCR8をコードするオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、またはCCR8を発現する細胞、またはCCL1、またはCCL1をコードするオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含むものであり、これらのスクリーニング用キットはさらに、アッセイに必要な試薬および溶液、ならびに使用方法の指針を含むことができる。あるいは、本発明のキットは、腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することを測定することを目的としたものであり、この測定を実施することに適した研究材料を含むものであり、本発明のキットはさらにアッセイに必要な試薬および溶液ならびに使用方法の指針を含むことができる。この測定を実施することに適した研究材料の例として、腹腔マクロファージまたは、腹膜中皮細胞、すなわち消化管などの臓器、大網、腹膜あるいは腹水由来の中皮細胞が挙げられる。
【0051】
本発明のスクリーニング方法によって見いだされた物質は、癒着の予防・治療剤として有用である。これらの癒着の予防・治療剤は、CCR8遺伝子またはCCL1遺伝子の発現を阻害することにより、あるいは、CCR8の機能を阻害することにより、癒着の予防・治療効果を発揮しうると考えられる。
【0052】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
マウス大腸炎モデルの穿孔部位における腹腔マクロファージの集積とCCR8の発現
C57BL/6マウスの腹腔マクロファージを慣用法(Hoshino et al., Biochem Biophys Res Commun 2004, 314:46-53)によりカンタムドット(quantum dots; Q dot)でラベルし、同種マウス腹腔内に移植するとともに、高用量(100μg/g体重)のトリニトロベンゼンスルホン酸注腸による腸炎(TNBS腸炎)を誘導した。
【0054】
24時間後、全層性潰瘍による大腸の部位を採取して凍結切片を作成し、Qdot蛍光標識したマクロファージを蛍光顕微鏡を用いて観察した。また、TNBS腸炎誘導24時間後に大腸を取り出し、縦に切開しリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて洗浄した。漿膜表面および潰瘍穿孔部に生じたプラーク部分に集積した細胞を剥した。大腸標本は30 min 2 mMエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA) PBS処置を施し上皮細胞を除去した。残った部分に対し、洗浄およびタイプFコラゲナーゼ(Sigma-Aldrich, MO, USA)を用いて20 min消化する過程を2回繰り返し、粘膜固有層単核球(LPMC)を得た。プラーク部分に集積した細胞サンプルおよび大腸LPMCサンプルについて、フローサイトメトリを用いて蛍光標識した抗CD11b抗体陽性細胞とQ dot 蛍光標識したマクロファージを測定した。
【0055】
大腸壁内に多数のCD11b陽性のマクロファージ浸潤がみられたにもかかわらず、Q dot 蛍光標識した腹腔マクロファージは穿孔部位のプラークのみに集積し、大腸壁内への浸潤が全く認められなかった。
【0056】
次に、プラーク部分に集積した細胞をマイクロダイセクションによって切り取り、mRNAを抽出し、ケモカイン受容体の発現を無刺激の腹腔マクロファージと、定量RT-PCRにより比較した。ケモカイン受容体の発現の変化を図1に示す。図中、X軸は無刺激腹腔マクロファージでの発現に対する比を示し、Exp1及び2は独立して行った実験結果を示す。
【0057】
また、マウス抗CCR8抗体により凍結切片を蛍光抗体法で染色したところ、プラーク部分及び大腸漿膜側の細胞が陽性を示した。
【0058】
本実施例において、腹腔に投与した腹腔マクロファージは、癒着の前段階であるプラークには集積していたが、大腸壁内には移行しないことが明らかとなった。本実施例においてプラークに集積した腹腔マクロファージでは、CCR8の発現量が高く、他のケモカイン受容体の発現は少なくなることが明らかになった。この結果から、プラークに集積した腹腔マクロファージにおけるケモカインに関する主要なシステムは、リガンドCCL1および受容体CCR8による情報伝達システムであることが示された。また、腹腔マクロファージのCCR8の存在量または発現レベルを測定することにより、その時点およびその後の癒着の有無を検出しうることを示唆する。
【実施例2】
【0059】
CCL1による腹腔マクロファージのCCR8、CCL1およびCD49dの発現増加
実施例1においてプラークに集積した腹腔マクロファージは、炎症などの刺激によりCCR8発現が高くなる活性化をしたことが示されたので、本実施例では、CCR8の内因性リガンドであるCCL1を培養腹腔マクロファージに適用して、その効果を検討した。C57BL/6マウスから採取した腹腔マクロファージ、および定法により骨髄をマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を用いて分化させた骨髄マクロファージを培養した。これらの細胞の培地に、刺激剤として、CCL8のリガンドであるCCL1、あるいは対照として免疫反応を誘発する細菌成分である大腸菌O55B5由来のリポ多糖(LPS; Sigma-Aldrich)(100 ng/mL)または黄色ブドウ球菌由来のペプチドグリカン(PGN; Fluka、Buchs、Switzerland)(1 μg/mL)または塩基配列が5'-TCCATGACGTTCCTGATGCT-3'である非メチル化シトシン−グアニン配列オリゴデオキシヌクレオチド(CpG)(タカラバイオ、東京、日本)(1 μg/mL)、あるいは炎症を誘発するサイトカインである腫瘍壊死因子−α(TNF-α) (1 μg/mL)またはインターロイキン−1β(IL-1β)(10 μg/mL)を適用した。腹腔マクロファージからmRNAを抽出し、CCR8 mRNA発現量あるいはCCL1 mRNA発現量を定量RT-PCRにより測定した。mRNA発現量はGAPDHのmRNA量により標準化した。
【0060】
各刺激因子適用2 h後のCCR8 mRNA発現量の、刺激適用前のmRNA発現量を1とした相対値を図2に示す。腹腔マクロファージ(PMΦ)において、CCL1(10 ng/mL)刺激によりCCR8 mRNA発現が増加した。CCL1 (10 ng/mL)の効果は、LPS (100 ng/mL)、PGN (1 μg/mL)、CpG (1 μg/mL)、TNF-α (1 μg/mL)、IL-1β (10 μg/mL)によるCCR8 mRNA発現増加効果に比べて強かった。一方、骨髄マクロファージ(BMΦ)においては、CCL1および他の刺激因子もCCR8 mRNAの発現量を顕著に増加させる効果は示さなかった。
【0061】
次に、各刺激因子適用2 h後のCCL1 mRNA発現量の、刺激適用前のmRNA発現量を1とした相対値を図3に示す。CCL1 (10 ng/mL)刺激により腹腔マクロファージ(PMΦ)のCCL1 mRNA発現が増加した。CCL1 (10 ng/mL)刺激のCCL1 発現増加効果は、顕著にCCL1発現量を増加させたLPS (100 ng/mL)の効果よりも弱く、PGN (1 μg/mL)およびCpG (1 μg/mL)と同程度であった。
【0062】
さらに、腹腔マクロファージによるCCR8受容体タンパク質の発現を確認するために、マクロファージの表面抗原であるCD-11bに対する抗体および抗CCR8抗体を用いた免疫組織化学染色による検討を行った。腹腔マクロファージにCCL1 (10 ng/mL)あるいはLPS(100 ng/mL)を適用した12時間後に染色を実施した。その結果、CCL1およびLPSがCCR8タンパク質の発現を増加させることが示された。図4にその代表例を示す。白線は抗CD-11b抗体染色で検出した細胞の形を示し、白色の領域がCCR8陽性の染色領域を示す。CCR8は細胞の表面の一部分に発現していた。また、腹腔マクロファージにCCL1 (10 ng/mL)刺激を行った48時間後にCD-11bに対する抗体および抗CD49d抗体を用いた免疫組織化学染色による検討を行った結果、CD49dの発現が増加していることが明らかになった。図5にその代表例を示す。白線は抗CD-11b抗体染色で検出した細胞の形を示し、白色の領域がCD49d陽性の染色領域を示す。
【0063】
以上の結果は、腹腔マクロファージが刺激を受けるとCCR8を発現させる反応は、骨髄マクロファージには見られない、腹腔マクロファージに特徴的な性質であることを示す。また、腹腔マクロファージにおいては、受容体CCR8のリガンドであるCCL1が受容体CCR8およびCCL1自身の発現を増加させる、ポジティブフィードバックの機構があることが示された。この結果から、急速に大量の腹腔マクロファージが障害部位に集積することにCCL1/CCR8系が関与している可能性が示唆された。本実施例ではさらに、CCL1刺激により腹腔マクロファージがCD49d(インテグリンα4β1;VLA4)を発現することが示された。CD49dは、腹膜や腹腔内の臓器を覆う細胞である腹膜中皮細胞に発現するVCAM1と結合するタンパク質である。したがって、本実施例の結果からCCL1/CCR8系が癒着形成時に腹腔マクロファージと中皮細胞が接着することに関与している可能性が示された。
【実施例3】
【0064】
腹膜中皮細胞によるCCL1の産生
実施例2で腹腔マクロファージと腹膜中皮細胞の接着にCCL1/CCR8系が関与している可能性が示された。そこで、腹膜中皮細胞によるCCL1産生について検討した。
【0065】
C57BL/6マウスの大網由来の中皮細胞を次の方法を用いて培養した。小片に切った大網組織を、0.01%コラゲナーゼを含むDulbecco modified Eagle medium (DMEM)により37℃において30 min消化した。消化した組織はコラーゲンコートしたFalcon培養皿(Becton Dickinson、Franklin Lakes, NJ, USA)に移し、20% 牛胎児血清(FCS)、5 μg/mL マウスリコンビナント上皮成長因子、およびペニシリン−ストレプトマイシンならびにアンホテリシンBを含むDMEMにより培養した。継代を5から6回行い14日間培養した。細胞の純度は抗マウスパンサイトケラチン抗体を用いた免疫組織化学染色によって確認した。中皮細胞をコラーゲンコートした24ウエルの培養皿に移し、コンフルエントになるまで培養した。各刺激因子を添加して6 h培養し、細胞からmRNAを抽出し、定量RT-PCRを用いて、CCR8、CCL1、IL-1β、IL-6、およびTNF-αのmRNA発現量を測定した。
【0066】
各刺激因子適用後のCCL1 mRNA発現量の、無刺激でのmRNA発現量を1とした相対値を図6に示す。中皮細胞は、LPS (100 ng/mL)、PGN (100 ng/mL)、TNF-α (1 μg/mL)刺激により、CCL1のmRNA発現を著しく増加させた。その増大はCCL1に選択的であった。また、IL-1β (10 μg/mL)刺激により、CCL1 mRNA、およびTNF-αの増加が示された。CpG(1μg/mL)はCCL1 mRNA発現を増加させなかった。中皮細胞にはCCR8の発現が認められたが、これらの刺激因子を適用した場合にはCCR8 mRNAの発現増加は示されなかった。一方、CCL1 (5ng/mL)刺激により、CCL1、IL-1β、およびCCR8のmRNAの発現が顕著に増加した。
【0067】
以上の結果は、腹膜中皮細胞が炎症反応などによる刺激を受けた際にCCL1を大量に放出するという機構が存在することを示す。また腹膜中皮細胞においても、CCL1が受容体であるCCR8およびCCL1自身の発現を高めるポジティブフィードバック機構が存在することが明らかとなった。CCL1は、腹腔マクロファージの遊走を高め、実施例2で示されたように接着因子CD49dを発現させる作用を持つ。したがって、本実施例の結果は次のような過程があることを示すものである: 傷害部位の腹膜や臓器表面の膜に存在する中皮細胞が、傷害による刺激を受けて腹腔内CCL1を放出し、その部位に活性化した腹腔マクロファージが集積して、中皮細胞と結合して癒着が形成されて行く。また、本実施例の結果は、中皮細胞によるCCL1の産生または細胞外に放出されたCCL1を検出することで、癒着の診断ができることを示す。
【実施例4】
【0068】
CCL1による腹腔マクロファージと腹腔中皮細胞の凝集塊の形成
実施例1から3の知見から、CCL1が腹腔マクロファージが集積し中皮細胞と結合して癒着を形成してゆく過程に深く関与していることが明らかとなった。そこで、新たに、癒着形成過程を生じさせる培養細胞を用いたin vitroのモデル系を作製した。
【0069】
C57BL/6マウスの大網由来の中皮細胞を次の方法を用いて培養した。小片に切った大網組織を、0.01%コラゲナーゼを含むDulbecco modified Eagle medium (DMEM)により37℃において30 min消化した。消化した組織はコラーゲンコートしたFalcon培養皿(Becton Dickinson、Franklin Lakes, NJ, USA)に移し、20% 牛胎児血清(FCS)、5 μg/mL マウスリコンビナント上皮成長因子、およびペニシリン−ストレプトマイシンならびにアンホテリシンBを含むDMEMにより培養した。継代を5から6回行い14日間培養した。細胞の純度は抗マウスパンサイトケラチン抗体を用いた免疫組織化学染色によって確認した。
【0070】
中皮細胞をコラーゲンコートした24ウエルの培養皿に移し、コンフルエントになるまで培養した。中皮細胞は単層を形成したが、この上にQ dotでラベルした腹腔マクロファージ1×105個/ウエルを含む10%FCS-DMEMを添加し、CCL1あるいは他の刺激因子を加え、37℃で培養した。Q dotによる蛍光の発色は蛍光顕微鏡を用いて観察した。また、評価尺度として、画像解析ソフトウエア(NIH image J、National Institution of Health、Bethesda、MD、USA)を用いて、面積10-10 m2 以上の大きさの蛍光発色領域の面積の総和が1視野に占める割合を算出し、1視野中の凝集塊面積とした。
【0071】
培養腹腔中皮細胞上に添加したQ dotでラベルした腹腔マクロファージは、中皮細胞にゆるく結合し、丸い形態を保っていた。図7にQ dotでラベルした腹腔マクロファージ添加1 h、3 h、6 h後のQ dot蛍光の画像の代表例を示す。刺激を与えない場合(図7a)には腹腔マクロファージの凝集はほとんど生じなかった。この混合培養にCCL1 (10 ng/mL)を加えると凝集塊が大きくなり、3 hあるいは6h後には直径100 μmを超える凝集塊が形成された。図7bに示したCCL1添加後の画像の代表例に関しては、6 h後において直径100 μmを超える大きな凝集塊が認められる。LPS (100 ng/mL)刺激によっても凝集塊が形成されたが、適用6 h後までのLPSの促進効果はCCL1の効果に比べて弱いものであった(図7c)。
【0072】
CCL1刺激下で形成された大きな凝集塊の凍結切片を作製して免疫組織化学染色を行ったところ、中皮細胞のマーカーである抗サイトケラチン抗体陽性細胞が存在した。CCL1を適用後に小さな凝集塊が大きくなって行く過程では、凝集塊が中皮細胞の層の上を転がって行くこと、および凝集塊が中皮細胞上を通った際には中皮細胞が培養皿からはがれて凝集塊に集まって行くことが観察された。なお、培養中皮細胞に腹腔マクロファージを添加しない場合には、CCL1を適用しても中皮細胞が培養皿からはがれることはなかった。
【0073】
また、Q dotでラベルした腹腔マクロファージあるいは骨髄マクロファージを培養中皮細胞に添加し、無刺激あるいは各種濃度のCCL1刺激を加えた24 h後に、1視野中の凝集塊面積を算出した。結果は図8に示す。CCL1は腹腔マクロファージ(PMΦ)と中皮細胞の凝集塊面積を増加させた。その効果は濃度が5 ng/mLの場合に最も強かった。一方、腹腔マクロファージの代わりに骨髄マクロファージ(BMΦ)と中皮細胞を混合培養した場合には、CCL1を適用による顕著な凝集塊面積の増大は認められなかった。LPS(100 ng/mL)は、刺激6 h 後までは強い効果を示さなかったが、刺激24 h後においては顕著に凝集塊面積を増大させることが示された。このことは、LPS刺激によって腹腔マクロファージあるいは中皮細胞からCCL1が放出された結果凝集塊が形成されたことを示唆する。次に、CCL1刺激による腹腔マクロファージと中皮細胞の凝集塊の形成を、ラット抗マウスCCL1中和モノクローナル抗体(R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)により抑制する試験を実施した。CCL1 (5 ng/mL)および抗CCL1中和抗体適用24 h後の1視野中の凝集塊面積を図9に示す。抗CCL1中和抗体は濃度依存的に凝集塊の形成を抑制した。
【0074】
以上の結果は、CCR8受容体のリガンドであるCCL1、および腹腔マクロファージのCCR8受容体が癒着の形成に深く関与していることを示す。また、この癒着形成過程を生じさせるin vitroのモデル系により癒着を抑制する物質のスクリーニングを行うことができることを示す。
【実施例5】
【0075】
抗CCL1中和抗体によるマウス大腸炎モデル穿孔部位における癒着形成の抑制
In vivoにおいてCCL1/CCL8系を阻害することにより癒着を抑制することを示すため、癒着が生じるTNBS大腸炎モデルにおいて、マウスに抗CCL1中和抗体投与を行った。C57BL/6マウスに実施例4で用いた抗CCL1抗体(中和抗体)150 μgを腹腔内投与した3 h後に、実施例1と同様にしてTNBS腸炎を誘導した。対照としては、抗CCL1抗体の代わりにラットIgGを投与したマウスを用いた。腹腔マクロファージの動態に関する画像解析を行う試験、および癒着形成を測定する試験を行った。
【0076】
腹腔マクロファージの動態に関する試験では、Q dotでラベルした腹腔マクロファージ(2.5×105個)をTNBS投与の前日に腹腔内に注入した。TNBS注入1 day後に大腸を取り出し、画像解析装置(リライオン、東京、日本)を用いてQ dotの蛍光発色像を可視光線画像に重ねあわせて観察した。図10aは各群3例についてそれぞれのマウスの大腸全体における標識腹腔マクロファージ集積に関する画像を示す。明るい領域がQ dot標識した腹腔マクロファージが集積した領域を示す。対照のラットIgG投与群では、TNBS投与後に腹腔マクロファージが腸漿膜上の1箇所から数箇所に集積していた。一方、抗CCL1抗体投与群では、腹腔マクロファージの集積が対照よりも少なかった。図10bには、大腸のQ dotの発色が強い部分の切片を作製して蛍光顕微鏡を用いて観察した画像の代表例を示す。明るい領域がQ dot標識した腹腔マクロファージが集積した領域を示す。線は大腸および穿孔部の形を示す。矢印は穿孔部のプラークを示す。対照のラットIgG投与群では、腹腔マクロファージが後に癒着を起こす穿孔部のプラークに集積していた。これに対して、抗CCL1抗体投与群では、Q dotでラベルして腹腔に注入した腹腔マクロファージが固有層および粘膜層に散在していた。これらの結果と実施例1および2の結果から、抗CCL1抗体が、腹腔マクロファージがCCR8受容体発現を増加させる活性化をすること、および腹腔マクロファージの穿孔部位への集積を抑制したことが示された。
【0077】
大腸の癒着はTNBS注入4 day後に開腹して観察し、スコア化した。癒着スコアは次の通りとした: 癒着がない(0点)、薄い膜状の癒着が1箇所ある(1点)、薄い薄膜状の癒着が2箇所以上ある(2点)、1箇所に厚い癒着がある(3点)、底面との厚い癒着または2箇所以上の厚い癒着がある(4点)、非常に厚く血管新生を伴う癒着または2箇所以上の底面との厚い癒着がある(5点)。
【0078】
抗CCL1抗体投与群において、対照群に比較してTNBSによる炎症や傷害が悪化したり、体重を指標とした全身状態が悪化したりすることはなかった。抗CCL1抗体投与により癒着の形成は顕著に抑制された。図11に、各マウスの癒着スコアを四角で、各群の平均値を十字記号で示す。対照のラットIgG投与群では、5例全例にスコア4点または5点の癒着が生じていたが、抗CCL1抗体投与群の癒着スコアは明らかに少なかった。
【0079】
これらの結果は、CCL1/CCR8系が癒着形成に深く関与していることを示す。また、内因性のCCL1が受容体CCR8に結合するシグナリングの経路を、抗CCL1中和抗体やCCR8受容体拮抗薬などを用いて阻害することで、腹腔内臓器の癒着形成が抑制できることを示す。
【実施例6】
【0080】
抗CCL1中和抗体によるマウス開腹手術モデルにおける癒着形成の抑制
ラットにおける開腹手術後の腹膜癒着モデル(Reed et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 , 101:9115-9120)を応用して、C57BL/6マウスを用いた癒着形成モデルを作製し、抗CCL1中和抗体の癒着形成抑制効果を示した。マウスに麻酔をかけ、正中線に沿って開腹手術を行った。腹膜を止血鉗子でつまんで根元を4-0絹糸で結紮することにより、いぼ状の虚血ボタンを作成した。虚血ボタンを左右の腹膜に1箇所ずつ作成した後に閉腹した。実施例4および5で用いた抗CCL1抗体(中和抗体)150 μgを、開腹手術終了直後およびその3 day後に腹腔内投与した。対照としたマウスには抗CCL1抗体の代わりにラットIgGを投与した。開腹手術の7 day後に開腹して癒着を観察した。癒着部位にはマクロファージの集積が認められた。癒着の評価尺度として、左右の虚血ボタンそれぞれについてスコア化し、左右のスコアを合計した。癒着スコアは次の通りとした:癒着がない(0点)、薄い膜状の癒着がある(1点)、厚く癒着している(2点)。
【0081】
図12に各マウスの癒着スコアを四角で、各群の平均値を十字記号で示す。対照のラットIgG投与群では、全9例に癒着が生じ、癒着スコアは平均2.89点であった。抗CCL1抗体投与群では、9例中5例では癒着が認められず、癒着スコアは平均0.78点であり、抗CCL1抗体投与による癒着抑制効果が示された。
【0082】
本実施例の結果は、開腹手術後の癒着形成にCCL1/CCR8系が深く関与していることを示す。また、内因性のCCL1が受容体CCR8に結合することによるシグナリングの経路を、抗CCL1中和抗体やCCR8受容体拮抗薬などを用いて阻害することで、癒着形成が抑制できることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、プラークの腹腔マクロファージと、無刺激の腹腔マクロファージのケモカイン受容体の発現の相違を比率で示す(2回の実験についてそれぞれの実験の結果を示す)。
【図2】図2は、CCR8の内因性リガンドであるCCL1および各種の免疫・炎症刺激因子による、培養腹腔マクロファージ(PMΦ)のCCR8受容体mRNA発現増加を、刺激前を1とした比率で示す(平均値)。また、これらの刺激因子は、培養骨髄マクロファージ(BMΦ)では全く効果がないか、または効果が弱かったことを示す。
【図3】図3は、CCL1および各種の免疫・炎症刺激因子による培養腹腔マクロファージ(PMΦ)のCCL1 mRNAの発現増加を、刺激前を1とした比率で示す(平均値)。
【図4】図4は、CCL1およびLPSによる培養腹腔マクロファージのCCR8受容体の発現増加を示す画像の代表例である。
【図5】図5は、CCL1による培養腹腔マクロファージのCD49dの発現増加を示す画像の代表例である。
【図6】図6は、CCL1および各種の免疫・炎症刺激因子による培養腹腔中皮細胞のCCL1 mRNA発現量を、刺激前を1とした比率で示す(平均値+標準偏差)。また、CCL1 mRNA発現量をCCR8および他の遺伝子のmRNA 発現量と比較した。
【図7】図7は、同時培養した中皮細胞と腹腔マクロファージにおける凝集塊を示す画像の代表例である。CCL1は大きな凝集塊を生じさせる効果を示した。LPSは刺激後6 hまでの凝集塊形成効果は弱かった。
【図8】図8は、同時培養した中皮細胞と腹腔マクロファージにおける、刺激因子適用24 h後の1視野あたりの凝集塊面積を示す(平均値+標準偏差)。CCL1およびLPSは大きな凝集塊を生じさせる効果を示した。
【図9】図9は、同時培養した中皮細胞と腹腔マクロファージにおける、CCL1刺激24 h後における凝集塊形成を抗CCL1中和抗体が抑制したことを示す(1視野あたりの凝集塊面積の平均値+標準偏差)。
【図10】図10は、TNBS投与1 day後における腹腔マクロファージのプラークへの集積を、抗CCL1中和抗体が抑制したことを示す画像である。
【図11】図11は、TNBS投与4 day後に生じる大腸穿孔部の癒着を抗CCL1中和抗体が抑制したことを示す(各マウスの癒着スコア、および各群の平均値)。
【図12】図12は、マウス開腹手術モデル7 day後に生じる腹膜虚血ボタン部位の癒着を抗CCL1中和抗体が抑制したことを示す(各マウスの癒着スコア、および各群の平均値)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CCR8阻害剤を有効成分とする、癒着を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項2】
CCR8阻害剤がCCR8に結合する抗体またはCCR8のリガンドCCL1に対する中和抗体である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
CCR8阻害剤がCCR8に対するアプタマーまたはCCR8のリガンドCCL1に対するアプタマーである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
CCR8阻害剤がCCR8のアンタゴニストである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
CCR8阻害剤がCCR8遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNA、あるいはCCR8のリガンドCCL1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
被検細胞におけるCCR8遺伝子またはCCR8のリガンドCCL1の発現を検出することを含む、癒着の検出方法。
【請求項7】
被検細胞におけるCCR8またはCCR8のリガンドCCL1の存在量を検出することを含む、癒着の検出方法。
【請求項8】
CCR8またはCCR8のリガンドCCL1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む、癒着の診断用キット。
【請求項9】
CCR8またはCCR8のリガンドCCL1に結合する抗体またはその断片を含む、癒着の診断用キット。
【請求項10】
被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質がCCR8とリガンドとの結合を阻害する能力を測定することを含む方法。
【請求項11】
被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質がCCR8またはCCL1の発現を阻害する能力を測定することを含む方法。
【請求項12】
CCR8あるいはCCL1、またはCCR8あるいはCCL1をコードするオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、またはCCR8を発現する細胞を含む、癒着の予防または治療効果を有する物質をスクリーニングするためのキット。
【請求項13】
被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質が腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することを抑制する能力を測定することを含む方法。
【請求項14】
腹膜中皮細胞、腹腔マクロファージおよびCCL1の少なくとも2つを含む、癒着の予防または治療効果を有する物質をスクリーニングするためのキット。
【請求項1】
CCR8阻害剤を有効成分とする、癒着を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項2】
CCR8阻害剤がCCR8に結合する抗体またはCCR8のリガンドCCL1に対する中和抗体である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
CCR8阻害剤がCCR8に対するアプタマーまたはCCR8のリガンドCCL1に対するアプタマーである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
CCR8阻害剤がCCR8のアンタゴニストである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
CCR8阻害剤がCCR8遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNA、あるいはCCR8のリガンドCCL1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
被検細胞におけるCCR8遺伝子またはCCR8のリガンドCCL1の発現を検出することを含む、癒着の検出方法。
【請求項7】
被検細胞におけるCCR8またはCCR8のリガンドCCL1の存在量を検出することを含む、癒着の検出方法。
【請求項8】
CCR8またはCCR8のリガンドCCL1をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む、癒着の診断用キット。
【請求項9】
CCR8またはCCR8のリガンドCCL1に結合する抗体またはその断片を含む、癒着の診断用キット。
【請求項10】
被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質がCCR8とリガンドとの結合を阻害する能力を測定することを含む方法。
【請求項11】
被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質がCCR8またはCCL1の発現を阻害する能力を測定することを含む方法。
【請求項12】
CCR8あるいはCCL1、またはCCR8あるいはCCL1をコードするオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、またはCCR8を発現する細胞を含む、癒着の予防または治療効果を有する物質をスクリーニングするためのキット。
【請求項13】
被検物質が癒着の予防または治療効果を有するか否かを検定する方法であって、前記被検物質が腹膜中皮細胞と腹腔マクロファージが凝集塊を形成することを抑制する能力を測定することを含む方法。
【請求項14】
腹膜中皮細胞、腹腔マクロファージおよびCCL1の少なくとも2つを含む、癒着の予防または治療効果を有する物質をスクリーニングするためのキット。
【図1】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−182759(P2006−182759A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264160(P2005−264160)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(501372514)国立国際医療センター総長 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(501372514)国立国際医療センター総長 (11)
【Fターム(参考)】
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