説明

CD11b/CD18相互作用ドメインを含むかまたは欠く修飾ボルデテラアデニレートシクラーゼならびにその使用

本発明は、CD11b/CD18結合を欠く修飾ボルデテラアデニレートシクラーゼ毒素に、ならびに百日咳の治療のための、および/またはボルデテラ感染に対する防御のための医薬組成物の製造におけるそれらの使用に関する。本発明は、CD11b/CD18相互作用ドメインを含むボルデテラアデニレートシクラーゼの特異的断片、ならびに特にCD11b発現細胞に対して当該細胞をターゲッティングするためのそれらの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD11b/CD18結合を欠く修飾ボルデテラアデニレートシクラーゼ毒素に、ならびに百日咳の治療のためのおよび/またはボルデテラ感染に対する防御のための医薬組成物の製造におけるそれらの使用に関する。本発明は、CD11b/CD18相互作用ドメインを含むボルデテラアデニレートシクラーゼの特異的断片に、ならびに特にCD11b発現細胞に対して当該分子をターゲッティングするためのそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ボルデテラ属は、4つの種、即ち百日咳菌Bordetella pertussis、パラ百日咳菌Bordetella parapertussis、気管支敗血症菌Bordetella bronchisepticaおよびボルデテラ・アビウムBordetella aviumを含む。
【0003】
ボルデテラは、呼吸器感染に関与するグラム陰性球桿菌である。百日咳菌およびパラ百日咳菌は、厳密にヒト病原体である。気管支敗血症菌は、種々の哺乳類に対して、そしてより稀にヒトに対して病原性であり、そして百日咳菌およびパラ百日咳菌と相違して、宿主の外側で生存し得る。ボルデテラ・アビウムは、鳥類に対して病原性である。
【0004】
ヒトに対して最も有毒な種は百日咳菌であり、これは気管支肺炎および吸気性音声により中断される発作性咳により特性化される百日咳、高度接触伝染性小児呼吸器疾患の病因学的作因である。
【0005】
百日咳に対する予防接種は、不活性化全細菌の助けにより最も普通にこれまで実行されてきた。しかしながらこのようなワクチンは、有毒因子は細菌により分泌されるタンパク質により構成されており、細菌それ自体によって構成されてはいないという事実にかんがみて、常に毒性を欠くというわけではない。したがってタンパク質は、細菌の死亡後でさえ、重篤な病理学的作用を発揮し得る。
【0006】
欧州特許EP 0 424 158号(Institut Pasteur)は、百日咳菌および気管支敗血症菌の両方に対する防御抗原としてのボルデテラアデニレートシクラーゼの使用を列挙する。
【0007】
欧州特許EP 0 338 169号(Institut Pasteur)も、百日咳に対する防御抗原としてのパラ百日咳菌からの活性アデニレートシクラーゼ調製物の使用を記載する。
【0008】
代替的戦略、例えばボルデテラの免疫原性解毒化毒素を用いた無細胞ワクチンの調製も開発されてきた。
【0009】
解毒化百日咳菌毒素を基礎にしたワクチンの一例は、米国特許第6,040,427号(Locht等、2000)に記載されている。
【0010】
百日咳菌により産生される種々の毒素の中で、アデニレートシクラーゼ(以後、CyaAという用語でも言及される)は、気道コロニー形成の早期の間の細菌の毒力戦略における重大な因子である(Goodwin and Weiss, 1990; Khelef et al., 1992)。毒素は、主に好中球およびマクロファージを中毒させて、食細胞無力を引き起こし、マクロファージアポトーシスを誘導することにより、病原体が宿主免疫監視機構を免れさせる(Confer and Eaton, 1982; Gueirard et al., 1998; Harvill et al., 1999; Khelef and Guiso, 1995; Khelef et al., 1993)。百日咳菌の病原性におけるCyaAの役割は、マウス呼吸器モデルで明瞭に実証された。実際、CyaAの発現を欠く遺伝子修飾百日咳菌株は、肺病変を誘発し、致命的感染を引き起こすそれらの能力を減損された(Khelef et al., 1994; Weiss and Goodwin, 1989)。他方、CyaAは、マウスモデルにおいて、百日咳菌肺コロニー形成に対する防御免疫を誘導することが示された(Betsou et al., 1993; Betsou et al., 1995; Hormozi et al., 1999)。
【0011】
CyaAは、4つの機能性ドメイン:アデニレートシクラーゼ活性(AC)ドメイン(残基1〜400)、疎水性チャンネル形成ドメイン(残基500〜700)、カルシウム結合富グリシン/アスパラギン酸塩反復ドメイン(残基1000〜1600)および分泌シグナルを保有するC末端ドメイン(残基1600〜1706)からなる1706アミノ酸残基長ポリペプチドである。CyaAは、真核生物細胞に侵入し、その触媒ドメインを細胞質中に転位し得るが、この場合、内因性カルモジュリンによる活性化時に、それはcAMPへのATPの転化を触媒する(Ladant and Ulmann, 1999)。細胞サイトゾル中のcAMPの蓄積は、この毒素の毒性作用に関与すると考えられる(Rogel et al., 1991)。この中毒の主要結果は、細胞アポトーシスならびに食細胞能力およびスーパーオキシド産生の変化である(Confer and Eaton, 1982; Khelef et al., 1993; Njamkepo et al., 2000; Pearson et al., 1987)。
【0012】
百日咳菌アデニレートシクラーゼの全配列は、配列番号1で示される。
【0013】
気管支敗血症菌アデニレートシクラーゼの全配列は、配列番号3で示される。
【0014】
CyaAは、細胞サイトゾル中への触媒ドメインのデリバリーを可能にする転位特異的立体配座を獲得するためにカルシウムを要する(Rogel and Hanski, 1992; Rose et al., 1995)。主にCyaAは不活性プロトキシンであるプロCyaAとして産生され、これは、アシルトランスフェラーゼによる翻訳後修飾後に、cyaC遺伝子の産物が活性毒素になる。この共有結合性翻訳後脂肪アシル化は、標的細胞膜を通しての毒素の転位およびその触媒性ACドメインの送達のために、ならびに溶血性陽イオン選択的チャンネルの形成のために必要とされる。プロCyaAのアシル化は、保存的RTXアシル化部位内に位置する2つの異なる位置Lys−983およびLys−860で起こる(Barry et al., 1991; Hackett et al., 1994)。Lys−860のアシル化はCyaA活性に必要であるとは思われないが、しかしLys−983のアシル化は重要であることが示されている(Basar et al., 2001)。
【0015】
CyaAは、広範囲の細胞型、例えば膜輸送を欠く哺乳類赤血球に浸透する(Bellalou et al., 1990; Gray et al., 1999; Rogel and Hanski, 1992)。これに対比して、CyaA毒性作用、例えば食作用能力の阻害およびアポトーシスの誘発は、主に免疫細胞、即ち好中球およびマクロファージに関して解明された(Confer and Eaton, 1982; Khelef et al., 1993)。さらにマウス呼吸器感染において、CyaAは肺胞マクロファージに対する特異的中毒を表示することが示された(Gueirard et al., 1998)。異種エピトープに固定された百日咳菌により産生された組換えアデニレートシクラーゼ毒素を含むワクチンは、特許公開WO 93/21324(Institut Pasteur, 1993)に記載されている。CyaAはαMβ2インテグリン(CD11b/CD18)を介して標的細胞と特異的に結合する、ということが近年実証された。この結合は飽和可能で、抗CD11bモノクローナル抗体により完全に抑制された。CyaAはCD11b+細胞に対して選択的細胞傷害性を示したが、このことは、CD11bとのその相互作用が触媒ドメインの転移とその後のcAMP増大および細胞死に必要とされることを示す。さらにCyaA細胞傷害性に対するCHO細胞の感受性は、CD11b/CD18ヘテロ二量体の発現時に劇的に増大された。さらに細胞中への触媒ドメイン転移に必要とされるCa2+イオンは、CD11bとのCyaA相互作用にも断固として必要であった(Guermonprez et al., 2001)。CyaAと細胞との相互作用の重要性は、抗原提示細胞、例えば樹状細胞に異種抗原を送達するためのベクターとしてCyaAが用いられる系でさらに実証された。CD11c+CD8α−CD11bhighサブセットの樹状細胞だけが、実際、組換えCyaA中に挿入されたエピトープに対応するMHCクラスIペプチド複合体を表示し得た(Guermonprez et al., 2002)。
【0016】
CD11bタンパク質は、LFA1(CD11a)、MAC−1(CD11b)およびp150,95(CD11c)を含む白血球接着分子であるβ2インテグリンの大ファミリーの一成員である。このファミリーの成員は、β鎖(CD18)を有する必須のヘテロ二量体として発現されるそれらのα鎖により異なる(Arnaout, 1990)。補体3型受容体(CR3)としても既知であるCD11bは、マクロファージ、好中球、樹状細胞、NK細胞、腹膜B−1細胞およびCD8+T細胞のサブセット上で発現される(Arnaout, 1990; Bell et al., 1999)。それは白血球接着機能において重要な役割を演じ、補体被覆粒子の食作用を誘発する(Diamond and Springer, 1993)。CD11bは、種々のリガンド、例えば細胞内接着分子ICAM−1、フィブリノーゲン、凝固因子Xおよび不活性化補体構成成分C3b(iC3b)を結合する(Altieri and Edgington, 1988; Beller et al., 1982; Diamond et al., 1990; Wright et al., 1988)。
【0017】
CD11b/CD18とのCyaAの結合特性に基づいて、欧州特許出願EP 1188446号(Institut Pasteur)は、樹状細胞に対して当該分子、特に抗原をターゲッティングするための組換えボルデテラア属デニレートシクラーゼを含むタンパク質様ベクターを記載する。
【0018】
本発明はここで、アミノ酸1166〜アミノ酸1281に及ぶアミノ酸配列(配列番号2)内に含まれる百日咳菌アデニレートシクラーゼの1つまたは数個の領域が毒素とCD11b/CD18との相互作用のために重要である、という発見を基礎にする。CD11b/CD18とのCyaAの結合能力を提供するために必要なこの領域は、副領域として働くCyaAの他の領域とさらに併合され得る。
【0019】
この発見は、樹状細胞に対して当該分子をターゲッティングし得る効率的且つ万能な分子送達ベクターを調製する機会をもたらす。あるいは、アデニレートシクラーゼの同定されたCD11b/CD18相互作用ドメインの欠失は、ボルデテラ感染、特に百日咳菌感染に対する防御のための安全な無細胞ワクチンを設計するために有益に用いられ得る。
【0020】
本発明は、感染細菌により産生されるネイティブアデニレートシクラーゼと細胞受容体との相互作用を遮断し得る中和抗体を生成するための同定されたCD11b/CD18相互作用ドメインの使用も提供する。
【発明の開示】
【0021】
したがって、1つまたは複数のアミノ酸欠失、置換または挿入によりCD11b/CD18相互作用ドメインにおいて修飾されるボルデテラアデニレートシクラーゼからなるタンパク質であって、CD11b/CD18結合を欠くが、しかし野生型ボルデテラアデニレートシクラーゼを認識する抗血清と特異的に反応性であるタンパク質を提供することは、本発明の一目的である。
【0022】
本発明のタンパク質は、百日咳に対するワクチン中の有効成分として用いられ得る。したがってCD11b/CD18相互作用ドメイン内の突然変異(単数または複数)は、潜在的陰性作用、例えばトキソイドによるインテグリン嵌入時のシグナル伝達および/または補体受容体CR3としても役立つCD11bへの結合に関するCyaAトキソイドとの競合のためのなんらかの機能的妨害から免疫細胞を保護する。
【0023】
本明細書中で用いる場合、「ポリペプチド」という用語は、少なくとも6アミノ酸、好ましくは少なくとも10アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも50アミノ酸を含むペプチド結合により連結されるアミノ酸の一本鎖を指す。
【0024】
「タンパク質」という用語は、本質的に1つまたは複数のポリペプチドからなる高分子を指す。
【0025】
「ボルデテラアデニレートシクラーゼ」という用語は、本発明内では、ボルデテラ属において天然に合成され、そして肺における細菌コロニー形成の初期相に必須の主要病毒因子であるカルモジュリン依存性アデニレートシクラーゼを包含する。
【0026】
好ましい一実施形態では、本発明のタンパク質は、ヒトにおける百日咳の作因である百日咳菌アデニレートシクラーゼの修飾により得られる。
【0027】
百日咳菌では、アデニレートシクラーゼは1706個のアミノ酸のポリペプチド(配列番号1)の形態で合成され、分泌される。カルモジュリン依存性触媒活性は、最初の400アミノ酸に存在し、このドメインは以後「N末端触媒ドメイン」と呼ばれる。上記のように、活性であるために、上記のアデニレートシクラーゼ毒素はcyaC遺伝子産物の同時発現により翻訳後修飾される場合、侵襲性且つ溶血性にされる。
【0028】
本発明によれば、発現「CD11b/CD18相互作用ドメイン」とは、以下のいずれかを指す:
a. 百日咳菌アデニレートシクラーゼのアミノ酸1166からアミノ酸1281に及ぶ百日咳菌のCD11b/CD18相互作用ドメイン(配列番号2)、または
b. 最良局所アラインメントを検索するためのアルゴリズムを用いて、ボルデテラ属のアデニレートシクラーゼの配列を百日咳菌のアデニレートシクラーゼの配列と一列に並べることにより同定した場合の、百日咳菌のCD11b/CD18相互作用ドメインに対応する上記ボルデテラ属のアデニレートシクラーゼのドメイン。
【0029】
最良局所アラインメントを検索するためのアルゴリズムの一例は、BLASTアルゴリズム(Altschul et al., 1990)である。
【0030】
気管支敗血症菌のCD11b/CD18相互作用ドメインは、配列番号4により表される。
【0031】
本明細書中で用いる場合、「CD11b/CD18結合を欠く」という表現は、本発明のタンパク質が、CD11b/CD18αmβ2発現細胞との結合に関して野生型ボルデテラアデニレートシクラーゼと競合しないことを意味する。「CD11b/CD18αmβ2」または「CD11b/CD18」とは、ボルデテラアデニレートシクラーゼの細胞受容体を指す(Guermonprez et al., 2001)。CD11b/CD18αmβ2発現細胞との組換え毒素の特異的結合を評価するための結合検定の例は、以下の実験の部で記載される。本発明のタンパク質は、野生型ボルデテラアデニレートシクラーゼと比較した場合、CD11b/CD18αmβ2に対して好ましくは50%未満の結合親和性を有する。最も好ましくは本発明のタンパク質は、10%未満、さらに好ましくは5%未満の検定結合親和性を有する。
【0032】
本明細書中で以後用いる場合、「CD11b発現細胞」という用語は、それらの表面にCD11b/CD18αmβ2を発現する細胞に関する。特にこれらの細胞は、顆粒球/好中球、マクロファージ、NK細胞、T CD8+およびB細胞のサブセット、ならびに骨髄系樹状細胞である。
【0033】
本発明のタンパク質を提供するために、ボルデテラアデニレートシクラーゼのCD11b/CD18相互作用ドメインは、1つまたは複数のアミノ酸の挿入、欠失または置換により修飾され、その結果生じたタンパク質はCD11b/CD18結合を欠く。
【0034】
本発明の一実施形態では、CD11b/CD18相互作用ドメインはその中への一ペプチドの挿入により修飾される。例えば6〜12残基からなる配列が、CD11b/CD18相互作用ドメインに挿入される。
【0035】
特定の実施形態としては、6〜12個のアミノ酸を含有するペプチドの残基1166〜1167間または残基1281〜1282間(数字は野生型百日咳菌アデニレートシクラーゼ中のアミノ酸の位置を示す)挿入により修飾された百日咳菌アデニレートシクラーゼが挙げられる。これらの位置でのFLAG配列のエピトープ挿入の例は、以下の実験の部に記載されており、以後、CyaA1166/FLAGおよびCyaA1281/FLAGと呼ばれる。
【0036】
あるいはCD11b/CD18との結合に関与することが示される残基は、欠失されるかまたは非機能性残基により置き換えられ得る。
【0037】
特定の一実施形態では、ボルデテラアデニレートシクラーゼは、百日咳菌アデニレートシクラーゼ中の残基1208から1243に及ぶ領域中の、または他のボルデテラアデニレートシクラーゼの対応する領域中の1つまたは複数のアミノ酸の挿入、欠失または置換により修飾される。
【0038】
本発明のタンパク質の好ましい実施形態としては、1つまたは複数のアミノ酸の欠失または非機能性アミノ酸によるそれらの交換を含有する百日咳菌アデニレートシクラーゼが挙げられる。
【0039】
好ましい一実施形態では、ボルデテラアデニレートシクラーゼはCD11b/CD18相互作用ドメインの完全欠失により修飾される。
【0040】
本発明の別の特定の実施形態によれば、百日咳菌アデニレートシクラーゼは位置1245から位置1273に及ぶアミノ酸の欠失により修飾され、これらのアミノ酸は非機能性アミノ酸、例えば実験の部に例示されるようなオクタペプチドにより任意に交換される(本明細書中では以後、CyaAΔ1245−1273と呼ばれる)。
【0041】
さらに本発明のタンパク質の生体における投与の完全な安全性を保証するために、触媒活性が除去されるよう、ボルデテラアデニレートシクラーゼは修飾される。本発明の一実施形態によれば、ボルデテラアデニレートシクラーゼはN末端触媒ドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸の挿入、欠失または置換によりさらに修飾され、この場合、上記修飾ボルデテラアデニレートシクラーゼは、野生型ボルデテラアデニレートシクラーゼ触媒活性と比較した場合に、低減される触媒活性を有する。好ましくは触媒活性は野生型ボルデテラアデニレートシクラーゼの触媒活性の10%未満を示し、さらに好ましくは非有意である。
【0042】
N末端触媒ドメインにおける突然変異体の例は、当該技術分野で記載されている(例えばWO 93/21324, Institut Pasteurに)。
【0043】
本発明のタンパク質の実施形態としては、N末端触媒ドメインの少なくともアミノ酸1〜300を欠く、好ましくはアミノ酸1〜373を欠く修飾ボルデテラ属アデニレートシクラーゼが挙げられる。
【0044】
あるいは、百日咳菌のアデニレートシクラーゼの残基188〜190間の、またはその他のボルデテラ属からのアデニレートシクラーゼ中の対応する残基のATP結合部位中に、ジペプチド挿入が実行され得る。
【0045】
ボルデテラアデニレートシクラーゼのアシル化がCD11b/CD18結合とその後の細胞中への毒素の転移に関与する、ということも本発明において示される。したがって本発明のタンパク質の好ましい一実施形態では、タンパク質はアシル化されない。特にボルデテラアデニレートシクラーゼは、翻訳後にアシル化されるアミノ酸においてさらに修飾される。これらのアミノ酸は、百日咳菌アデニレートシクラーゼのLys−983およびLys−860に対応する。
【0046】
この特定の実施形態では、タンパク質はアデニレートシクラーゼ配列の位置983および/または860でアシル化されない。
別の実施形態では、本発明のタンパク質はアシル化される。
【0047】
本発明のタンパク質は、好ましくは免疫原性、さらに実質的に非毒性タンパク質であり、即ち細胞受容体結合に関して、そして任意にアデニレートシクラーゼ活性において少なくとも欠陥があるが、しかし抗アデニレートシクラーゼ毒素抗体により依然として特異的に認識されるタンパク質である。
【0048】
本発明は、上記のタンパク質を、製薬上許容可能なビヒクルと組合せて含む医薬組成物にも関する。
【0049】
一実施形態によれば、上記組成物はヒトまたは動物における投与に適したワクチンである。ワクチンは、好ましくは百日咳に対する免疫を誘導し得る。このようなワクチンは、免疫防御および非毒性量の本発明のタンパク質を含む。したがって上記の組成物は、1つまたは数個の適切なプライミング・アジュバントをさらに含み得る。望ましくは本発明のタンパク質とともに投与されることが既知であるその他の抗原も、本発明のワクチンに包含され得る。このような付加的構成成分としては、ボルデテラのその他の既知の防御抗原、破傷風毒素および/またはジフテリア毒素が挙げられる。
【0050】
当然の帰結として、本発明はさらに、ボルデテラ感染および/またはボルデテラ感染により引き起こされる疾患に関連した症候に対してヒトまたは動物を免疫感作するための方法であって、このようなヒトまたは動物に本発明のワクチンを投与することを包含する方法に関する。
【0051】
本発明のワクチンの投与経路は、免疫防御量の本発明のタンパク質を宿主に送達する任意の適切な経路であり得る。しかしながらワクチンは、好ましくは筋肉内または皮下経路により非経口的に投与される。その他の投与経路、例えば経口投与またはその他の非経口的経路、即ち皮内、鼻内または静脈内による経路も、所望により用いられ得る。
【0052】
本発明の別の態様は、百日咳に関連した疾患症候のヒトまたは動物における治療のための、および/またはボルデテラ感染に関連した疾患症候に対してヒトまたは動物を防御するための薬剤の調製における本発明のタンパク質の使用に関する。
【0053】
当然の帰結として、本発明はさらに、ボルデテラ感染および/またはボルデテラ感染により引き起こされる疾患に関連した症候に対してヒトまたは動物を治療するための方法であって、このようなヒトまたは動物に本発明の薬剤を投与することを包含する方法に関する。
【0054】
本発明の別の態様は、CD11b/CD18インテグリンと結合し得るポリペプチドであって、以下の:
a. 30〜500アミノ酸、好ましくは50〜300、さらに好ましくは50〜150アミノ酸を有するボルデテラアデニレートシクラーゼの断片であって、上記ボルデテラアデニレートシクラーゼのCD11b/CD18相互作用ドメインを含むか、またはCD11b/CD18と結合する能力を保有するのに十分な上記野生型CD11b/CD18相互作用ドメインの断片を含む断片、
b. 上記断片と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%の同一性を有する上記断片の変異体であって、CD11b/CD18と結合する能力を保有する変異体
であるポリペプチドである。
【0055】
ボルデテラアデニレートシクラーゼは、好ましくは百日咳菌、パラ百日咳菌および気管支敗血症菌の中から選択され、さらに好ましくは百日咳菌である。
【0056】
本発明のポリペプチドは、CD11b/CD18と結合するための適切な立体配座をとるものの中から選択される。
【0057】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、CD11b/CD18との最適結合に関与するボルデテラアデニレートシクラーゼのその他の副領域を含み得る。領域は、特に1416から1648に及ぶ領域中に含まれるアミノ酸配列を包含する。
【0058】
好ましい一実施形態では、本発明のポリペプチドは、CD11b/CD18相互作用ドメインの10〜50アミノ酸の1つまたは複数の断片からなるbに記載されたような変異体である。例えば好ましい一実施形態では、上記ポリペプチドは、百日咳菌アデニレートシクラーゼのアミノ酸1208からアミノ酸1243に及ぶ百日咳菌アデニレートシクラーゼの領域の10〜50アミノ酸の断片を少なくとも含む。
【0059】
同一性パーセンテージは、両配列がBLASTアルゴリズムを用いて一列に並べられた場合、野生型配列と同一である変異体配列のアミノ酸のパーセンテージに対応する。「CD11b/CD18と結合する能力を保有する」という表現は、それが一列に並べられ得る野生型対応断片と比較した場合、変異体が少なくとも80%のCD11b/CD18に対する結合親和性を、好ましくは少なくとも90%のCD11b/CD18に対する結合親和性を保有する、ということを意味する。
【0060】
好ましい一実施形態によれば、上記のポリペプチドは、ボルデテラ野生型アデニレートシクラーゼ、好ましくは百日咳菌アデニレートシクラーゼを認識する抗血清と特異的に反応性である。さらに好ましくは、上記ポリペプチドは、哺乳類に投与される場合、ボルデテラアデニレートシクラーゼを特異的に認識する抗体を産生し得る。
【0061】
特定の一実施形態では、上記ポリペプチドは、百日咳菌アデニレートシクラーゼの断片である.別の特定の実施形態では、上記ポリペプチドは、本質的に百日咳菌アデニレートシクラーゼのアミノ酸1166からアミノ酸1281に及ぶCD11b/CD18相互作用ドメイン、特に百日咳菌のCD11b/CD18相互作用ドメイン(配列番号2)からなる。
【0062】
その他の特定の実施形態では、上記ポリペプチドはさらに、ボルデテラアデニレートシクラーゼのアシル化ドメインおよび/または疎水性ドメインを含む。上記アシル化ドメインは、WO 93/21324に記載されたように、配列番号1の残基700から残基1000に及ぶ対応する領域に包含され、そしてLys983および/またはLys860を含む。疎水性ドメインは、配列番号1の残基500から残基700に及ぶ領域に対応する。
【0063】
好ましくは上記ポリペプチドは、哺乳類にin vivoで投与される場合、有毒でない。
【0064】
本発明のポリペプチドは、CD11b/CD18インテグリンの結合に関して野生型アデニレートシクラーゼと競合する。
したがって本発明は、百日咳に関連した疾患症候のヒトまたは動物における予防または治療のための、および/またはボルデテラ感染に関連した疾患症候に対してヒトまたは動物を防御するためのワクチンまたは医薬の製造における上記のようなポリペプチドの使用に関する。
【0065】
特に方法は、ボルデテラ感染に対する防御抗体を生成するための本発明の上記ポリペプチドの使用に関する。
【0066】
アデニレートシクラーゼは樹状細胞に対して異なる抗原をターゲッティングして、特に強力なCD4+、ならびにCD8+T細胞応答の生成をもたらし得る効率的分子送達ベクターである、ということがすでに報告されている(EP1188446, Institut Pasteur)。
【0067】
本発明はここで、CD11b発現細胞に対して特異的に当該分子をターゲッティングするためのベクターの調製における本発明のポリペプチドの使用に関する。
【0068】
「特異的に」という用語は、本発明の情況内では、ポリペプチドが、当該分子のためのベクターとして用いられる場合、CD11b/CD18とのCD11b/CD18相互作用ドメインの高結合親和性によりCD11b発現細胞に選択的に向けられ、それにより他の細胞に関して選択的な方法で、上記細胞の表面または上記細胞内で当該分子をターゲッティングするための手段を提供することを意味する。
【0069】
特に一実施形態では、上記分子またはペプチドのターゲッティングは、in vivoで有効である。その他の実施形態では、上記分子のターゲッティングは、in vitroまたはex vivoで有効である。「in vitro」とは、標的細胞がin vitroで培養される細胞である、ということを意味する。「ex vivo」とは、標的細胞が、生体から抽出された細胞であり、in vitroで培養され、そして生体中に再投与されるよう意図される細胞であることを意味する。
【0070】
それにより本発明は、ある種の白血球、特に骨髄系樹状細胞、好中球またはマクロファージのターゲッティングを要する動物またはヒト宿主への投与に適した組成物の設計に適切な手段を提供する。
【0071】
本発明は特に、CD11b発現細胞に対して当該分子をターゲッティングするためのベクターであって、上記当該分子に結合された上記のようなCD11b/CD18と結合し得るポリペプチドを含むベクターに関する。
【0072】
本発明は、CD11b発現細胞に対して当該分子をin vitroターゲッティングするための方法であって、以下の:
a. 生体から抽出されるCD11b発現細胞を提供し、
b. 上記CD11b発現細胞に対して上記ベクターをターゲッティングするための適切な条件下で本発明のベクターとともに上記CD11b発現細胞を培養する
ことを包含する方法にも関する。
【0073】
本発明は、上記の方法により得られるような当該分子を含むCD11b発現細胞も提供する。
【0074】
本発明によれば、「当該分子」という表現は、任意の分子、好ましくは百日咳菌アデニレートシクラーゼの断片でない分子を指す。
【0075】
当該分子は、核酸、例えばDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、プラスミドおよびコスミドの中からも選択され得る。それらは、ペプチドまたはポリペプチド、特に酵素、補酵素、受容体リガンド、ハプテン、抗原、抗体およびその断片の中からも選択され得る。当然の帰結として、当業者は、所望の用途によって適切な分子を選択する。
【0076】
当該分子は、薬剤の有効成分、免疫毒素、酸化防止剤、抗生物質、増殖因子、細胞内ホルモン、サイトカイン、毒素、神経伝達物質、抗菌剤、特に抗ウイルス剤、抗細菌剤、抗寄生生物剤または抗真菌剤、さらに一般的には任意の当該治療薬または予防薬の中から選択され得る。
【0077】
特定の一実施形態によれば、当該分子は以下の:ペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、多糖、オリゴ糖、核酸、脂質および化学物質からなる群の中で選択される。
【0078】
特定の実施形態では、当該分子は異種抗原またはエピトープであり、「異種」という用語は、ベクターそれ自体の中に含まれるアデニレートシクラーゼ抗原決定因子以外の抗原またはエピトープを指す。
【0079】
当該分子は、本発明のポリペプチドに結合されて、本発明のベクターを提供する。
本明細書中で用いる場合、「結合される」という用語は、当該分子とポリペプチドの物理的会合を可能にする任意の相互作用を意味する。好ましくは結合は、共有結合である。それは、直接共有結合または接合体を形成するための結合剤の使用による間接結合であり得る。化学結合法は、当該技術分野で周知である。化学結合は、例えばマレイミド、ペプチド、ジスルフィドまたはチオエーテル結合の中から選択され得る。例N−ピリジルスルホニル活性化スルフヒドリルを用いたジスルフィド結合が用いられ得る。
【0080】
特定の一方法は、ポリペプチドにリンカーを付加することにあり、上記リンカーは、ジスルフィド結合のために容易に用いられ得る少なくとも1つのシステインからなる。別のアプローチは、ストレプタビジンへの関連する他の分子の結合を可能にするビオチニル部分を化学的に結合することからなる。
【0081】
異なるシステイン残基とのジスルフィド結合により本発明のポリペプチドに多数の分子が化学結合され得るが、但し、結合はCD11b/CD18との相互作用を妨げない。
CD11b発現細胞の機能的特性は、これらの特定細胞に対してターゲッティングする薬剤のためのタンパク質様ベクターの製造における本発明の上記ポリペプチドの使用をさらに限定する。この情況において、本発明の特定の一実施形態では、いわゆる当該分子は薬剤の有効成分である。上記有効成分は、本発明のポリペプチドに化学的または遺伝子的に結合され得る。有益には、当該分子は、アデニレートシクラーゼ毒素に結合されると、炎症応答に関与する細胞、例えば好中球の表面に特異的にターゲッティングされる抗炎症薬である。
【0082】
CD11b発現細胞、そしてとくに骨髄系樹状細胞、好中球およびマクロファージは、免疫および生得的防御系の必須機能に、特に炎症および特異的免疫応答に関与し、本発明の好ましい実施形態では、本発明のベクターはCD4+およびCD8+細胞応答を初回刺激するようより特定的に設計され、上記応答は、CD11b発現細胞、特に骨髄系樹状細胞に対する当該分子のターゲッティングに引き続いて起こる。
【0083】
この情況では、当該分子は好ましくはエピトープまたは抗原であるか、あるいはそれらを含む。さらに特定的には、当該分子は特に、以下の:例えばポリオウイルス抗原、HIVウイルス抗原、インフルエンザウイルス抗原、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、エピトープ、ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原、細菌性抗原、結核マイコバクテリア抗原からなる群から選択される抗原であり得る。
【0084】
したがって本発明は、CD11b発現細胞に対して抗原またはエピトープをin vivoターゲッティングすることにより、あるいは抽出CD11b発現細胞に対して抗原またはエピトープをex vivoターゲッティングして、その結果生じた細胞を上記患者に再投与することにより、患者におけるCD4+およびCD8+細胞応答を初回刺激するための手段を提供する。
【0085】
したがって本発明は、CD11b発現細胞に対して抗原またはエピトープをin vitroターゲッティングするための方法であって、以下の:
a. 生体から抽出されるCD11b発現細胞を提供し、
b. 上記CD11b発現細胞に対して上記ベクターをターゲッティングするための適切な条件下で当該分子として抗原またはエピトープを保有する本発明のベクターとともに上記CD11b発現細胞を培養する
ことを包含する方法に関する。
【0086】
好ましくは生体から抽出されるCD11b発現細胞は、骨髄系樹状細胞である。
本発明は、上記の方法により得られる異種抗原またはエピトープを含むCD11b発現細胞も提供する。
【0087】
したがって本発明は、抗原に対してヒトまたは動物を免疫感作するための細胞療法物質であって、上記の方法により得られる異種抗原またはエピトープを含む効率的量のCD11b発現細胞を製薬上許容可能なビヒクルと組合せて含むことを特徴とする物質に関する。
【0088】
本発明はさらに、抗原に対してヒトまたは動物を免疫感作するための細胞療法物質の調製における、上記の方法により得られるような上記高原またはエピトープを含むCD11b発現細胞の使用に関する。
【0089】
さらに特定的には、本発明は、抗原に対して患者を免疫感作するための方法であって、以下の:
a. 上記患者からCD11b発現細胞を抽出し;
b. 上記細胞に対して上記ベクターをターゲッティングするのに適した条件下で当該分子として抗原またはエピトープを保有する本発明のベクターとともに上記CD11b発現細胞をin vitro培養し;
c. 上記ベクターを含む効率的量の上記細胞を上記患者に再投与して、CD4+および/またはCD8+応答を初回刺激して、それにより上記抗原に対して上記患者を免疫感作する
ことを包含する方法を提供する。
【0090】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記CD11b発現細胞は骨髄系樹状細胞である。
したがって本発明は、当該分子としてエピトープまたは抗原を保有する本発明のベクターを、製薬上許容可能なビヒクルと組合せて含む医薬組成物にも関する。
【0091】
一実施形態によれば、上記組成物は、ヒトまたは動物における投与に適したワクチンである。好ましくはワクチンは、ポリオウイルス、HIVまたはリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスに対する免疫を誘導し得る。もちろん、誘導される免疫型は、ベクターに保有される選定抗原によっている。別の実施形態では、ワクチンは百日咳に対する免疫を誘導し得る。
【0092】
このようなワクチンは、免疫防御および非毒性量の本発明のベクターを含む。したがって上記組成物は、適切なプライミングアジュバントをさらに含み得る。
本発明はさらに、病原体感染に対してヒトまたは動物を免疫感作するための方法であって、免疫防御および非毒性量の本発明のベクターを含むワクチンをこのようなヒトまたは動物に投与することを包含する方法に関する。
【0093】
本発明は、本発明のポリペプチド、タンパク質またはベクターを調製するための方法にも向けられる。特にそれらの手段は、以下のポリペプチドのうちの1つをコードする核酸を含む:
a. CD11b/CD18結合を欠く本発明のタンパク質;
b. CD11b/CD18インテグリンと結合し得る本発明のポリペプチド;あるいは
c. CD11b発現細胞に対して当該分子をターゲッティングするためのベクター。
【0094】
特に本発明の核酸は、既知の技法を用いて、例えば遺伝子バンクから遺伝子を単離し、mRNA鋳型から、またはポリメラーゼ連鎖反応により、あるいは臨床的種の単離物から相補的またはcDNAを作製することにより、任意のボルデテラ菌株の野生型アデニレートシクラーゼをコードするDNAから得られる。代替的には、野生型アデニレートシクラーゼをコードするDNAは、標準DNA合成技法により合成され得る。種々のボルデテラ菌株は、商業的保管所から公的に利用可能である。
【0095】
ボルデテラアデニレートシクラーゼをコードする野生型DNAの修飾は、慣用的分子生物学技法を用いて、野生型DNAの遺伝子工学処理により生成され得る。
【0096】
本発明の別の目的は、宿主細胞中のコードポリペプチドまたはタンパク質の発現に適した発現ベクター中でクローン化される本発明のポリペプチド、タンパク質またはベクターをコードする核酸により構成される組換え核酸に関する。任意に、組換えDNA分子は、アジュバントのような免疫刺激特性を有する、または本発明のポリペプチドを発現、し、精製しおよび/または処方するのに有用である担体ポリペプチドの付加的コード配列を含む。このコード配列は、本発明の分子をターゲッティングするためのポリペプチド、タンパク質またはベクターのコード配列とともにフレーム内に置かれ得る。
【0097】
発現ベクターの選択は、もちろん、用いられる宿主によっている。
好ましくは上記発現ベクターは、プラスミド、コスミド、ファージミドまたはウイルスDNAである。
【0098】
本発明は、CD11b/CD18に関して欠損がある本発明のタンパク質;上記のCD11b/CD18を結合し得るポリペプチド;あるいはCD11b発現細胞に対して当該分子をターゲッティングするためのベクターの製造方法であって、対応する当該ポリペプチド、タンパク質またはベクターの発現のために適切な宿主細胞中に上記のような組換え核酸を組入れて;形質転換化組換え細胞を培養し、そして本発明の合成組換えポリペプチド、タンパク質またはベクターを回収する方法にも関する。
【0099】
本発明の別の態様は、本発明の組換え核酸で形質転換され、したがって上記のような核酸または組換え核酸を含む宿主細胞である。一実施形態では、組換え核酸は、慣用的技法、例えば相同組換えにより宿主細胞のゲノム中に組み込まれ得る。
【0100】
本発明の好ましい宿主細胞としては、大腸菌種およびボルデテラ属に属するものが挙げられる。適切であり得るその他の宿主としては、哺乳類細胞、昆虫細胞、酵母およびその他の細菌細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
本発明は、本発明のポリペプチド、タンパク質、ベクターを用いた、あるいは本発明の組成物を用いた動物またはヒトの免疫感作により得られるポリクローナル血清も包含する。
【0102】
好ましい一実施形態では、ポリクローナル血清は、ボルデテラアデニレートシクラーゼのCD11b/CD18相互作用ドメイン、好ましくはアミノ酸1166からアミノ酸1281に及ぶ百日咳菌アデニレートシクラーゼのCD11b/CD18相互作用ドメインからなるポリペプチドで動物またはヒトを免疫感作することにより得られる。
【0103】
本発明は、CD11b/CD18相互作用ドメインを含む本発明のポリペプチドに対して特異的に向けられるモノクローナル抗体にも関する。
好ましい一実施形態では、モノクローナル抗体は、CD11b/CD18相互作用ドメイン中に存在するエピトープに対して、好ましくはアミノ酸1166からアミノ酸1281に及ぶ百日咳菌アデニレートシクラーゼのCD11b/CD18相互作用ドメイン中に存在するエピトープに対して向けられる。
【0104】
好ましくは上記のポリクローナル血清またはモノクローナル抗体は、CD11b/CD18との野生型アデニレートシクラーゼの結合を遮断し得る。遮断は、野生型アデニレートシクラーゼ単独の能力と比較した場合の、上記ポリクローナル血清またはモノクローナル抗体と野生型アデニレートシクラーゼとの混合物のCD11b/CD18と結合する能力を評価することにより検定され得る。
【0105】
特定の一実施形態では、上記薬剤はボルデテラ感染に対する受動免疫感作を提供する。
ヒト生物体において用いるために、本発明の抗体は、例えば抗体機能を有さないヒト免疫グロブリンの超可変部を上記の技法から得られるモノクローナル免疫グロブリンの超可変部と取り換えることにより、ヒト化され得る。
【0106】
例えば抗体をヒト化するための技法は、Waldmann T., June 1991, Science, vol. 252, p. 1657-1662; Winter G. et al, 1993, Immunology Today, vol. 14, No. 6, p. 243-246; Carter et al., May 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 89, p. 4285-4289; Singer et al., 1 April 1993, Journal of Immunology, vol. 150, No. 7, p. 2844-2857により記載された。
【0107】
本発明は、ポリクローナル血清またはモノクローナル血清を、製薬上許容可能なビヒクルと組合せて含む医薬組成物にも関する。
【0108】
本発明は、百日咳に関連した疾患症候のヒトまたは動物における治療のための、および/またはボルデテラ感染に関連した疾患症候に対してヒトまたは動物を防御するための医薬の製造における本発明のポリクローナル血清またはモノクローナル抗体の使用にも関する。
【0109】
以下の実験の部は、(i)CD11bとのCyaA相互作用における翻訳後アシル化の役割、ならびに(ii)百日咳菌アデニレートシクラーゼ中のCD11b相互作用ドメインを同定した結果を示す。
【実施例】
【0110】
実験の部
A.材料および方法
A.1 CyaA由来タンパク質の産生、精製および修飾
宿主としての大腸菌XL1−Blue株(Stratagene, Amsterdam, Netherlands)において、標準プロトコール(Sambrook et al., 1989)に従って、DNA操作を実施した。アシル化野生型プロCyaA(pACT7)、アシル化野生型CyaA(pT7CACT1)、ならびに独特のシステイン残基およびOVAエピトープをその触媒ドメイン中に保有する組換え解毒化CyaA−E5−CysOVA(pCACT−E5−CysOva)をコードするプラスミドは、すでに記載されている(Gmira et al., 2001; Guermonprez et al., 2001; Osicka et al., 2000; Sebo et al., 1991)。CyaA373−1706をコードするプラスミド(pTRCyaAΔ1〜373)は、pTRCAGの誘導体であって(Gmira et al., 2001)、この場合、毒素の触媒ドメインをコードするDNA配列(NdeIおよびBstBI間の部位を構成)が欠失され、アミノ酸配列:Met−Gly−Cys−Gly−Asnをコードする適切な合成二本鎖オリゴヌクレオチドに取り換えられた。
【0111】
CyaA製造のためのプロトコールは、他所ですでに記載されている(Karimova et al., 1998)。全てのタンパク質が大腸菌BLR株中で発現され(Novagen, Merck KG, Darmstadt, Germany)、そして二段階手法、例えばGuermonprez et al., 2000に記載されているようなDEAE−セファロースおよびフェニル−セファロースクロマトグラフィーにより、封入体から95%より大きい均一性(SDSゲル分析により判定)に精製された。メーカーの使用説明書に従って、精製CyaA−E5−CysOVAタンパク質を、スルフヒドリル試薬N−(6−(ビオチンアミド)ヘキシル)−3‘−(2’−ピリジルジチオ)プロピアミド(ビオチン−HPDP)(Pierce, Bezons, France)を用いてその独特のシステイン残基上に標識した。非反応ビオチン−HPDP試薬を除去するために、DEAE−セファロース上でビオチニル化CyaAを再精製した。Ladant et al., 1992に記載されたようにCyaA 1−384を発現し、精製した。
【0112】
全長CyaA毒素に関しては141 mM-1cm-1、CyaA 373−1706に関しては113 mM-1cm-1、およびCyaA 1−384に関しては28 mM-1cm-1の分子吸光係数を用いて、278 nmでの吸着から分光測光的に毒素濃度を確定した。
【0113】
前に限定されたCyaA分子に沿った許容挿入部位を用いて、CyaA−FLAG分子を構築した(Osicka et al., 2000)。合成オクタペプチド挿入物Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Asp-Lysを個々の許容位置に保有した一組の17CyaA構築物をわれわれは生成した(Sigma, Saint Quentin Fallavier, France)。これを達成するために、必要なリーディングフレーム中のFLAGエピトープをコードする3つの二本鎖合成オリゴヌクレオチド対(それぞれ、5’-GTACTGATTATAAAGATGACGATGACAAATCAC+5’-GTACGTGATTTGTCAT CGTCATCTTTATAATCA、5’-GTACTTATCGATTATAAAGATGACGATGACAAA+5’-GTACTTTGTCATCGTCATCTTTATAATCGATAAおよび5’-GTACGTGGATTATAAA GATGACGATGACAAAGC+5’-GTACGCTTTGTCATCGTCATCTTTATAATCCAC)(配列番号5〜10)を、cyaA内に予め導入された独特のBsrG I部位中に挿入した(Osicka et al., 2000)。正確な挿入をDNAシーケンシングにより検査し、組換えCyaA分子を大腸菌中で発現し、精製した。前に記載されたように(Osicka et al., 2000)標的細胞としてヒツジ赤血球を用いて、選定CyaA/FLAG分子の侵襲能力を特性化した。
【0114】
A.2 抗CyaAモノクローナル抗体の産生
CyaA毒素(明礬中20 μg)を腹腔内的に、BALB/cマウスを最初に免疫感作した。約2週間間隔で、明礬中のCyaA10 μgでマウスを3回、追加免疫した。免疫感作プロトコールの間中、マウスを採血し、ELISAにより抗CyaA抗体の存在に関してそれらの血清を試験した。有意の血清力価が検出されたら、最終追加免疫をこれらのマウスに投与し、3日後にそれらの脾臓細胞をP3×63骨髄腫細胞(ATCC, Manassas, USA)と融合させた。ELISAにより、CyaA特異的モノクローナル抗体の産生に関して、生成ハイブリドーマをスクリーニングした。次に高産生性ハイブリドーマを選択し、単一細胞限界希釈によりクローン化し、その後、BALB/cヌードマウスにおいて腹水症を作るために用いて、多量の抗CyaAモノクローナル抗体を生成した。メーカーの使用説明書に従って、T−GelTM精製キット(Pierce, Bezons, France)を用いて、腹水からモノクローナル抗体を精製した。Bio-Radタンパク質検定(Bio-Rad, Marnes la Coquette, France)を用いて、抗体の独活を測定した。これらのモノクローナル抗体の内野2つをこの試験に用いた:即ち、アミノ酸1〜190内に局在するエピトープと反応する抗体5G12、ならびにアミノ酸1006〜1706内に局在するエピトープと反応する抗体6D7。
【0115】
A.3 細胞および培養
ヒトCD11b/CD18(CHO−CD11b細胞)、ヒトCD11c/CD18(CHO−CD11c)でトランスフェクトされた、またはベクター単独でトランスフェクト化された(CHO細胞)チャイニーズハムスター卵巣細胞を、D. Golenbock氏(Boston University School of Medicine, Boston, MA)の御厚意により提供され、前に記載されたようにネオマイシンの存在下で培養した(Ingalls et al., 1998)。
【0116】
A.4 抗体
ヒトCD11b(ICRF44、マウスIgG1、κ)およびヒトCD11c(B−Ly6、マウスIgG1、κ)に特異的なモノクローナル抗体を、BD Pharmingen(Le Pont de Claix, France)から購入した。
【0117】
A.5 結合検定
Guermonprez et al., 2001に記載されたように、検定を実施した。要するに、2×105細胞を、4.5 mg/mlグルコースを含有するDMEM培地(Life Technologies, Cergy Pontoise, France)中の指示濃度のCyaA分子とともに、氷上で30分間、96ウエル培養プレート中で血清を伴わずにインキュベートした。洗浄後、抗CyaA触媒ドメインMab(5G12)または抗CyaA反復ドメインMab(6D7)を25 μg/mlで付加した。いくつかの実験では、細胞を指示濃度のCyaA分子とともに氷上で30分間予備インキュベートした。次にCyaA−ビオチン(30 nM)、抗CD11b Mab(2 μg/ml)または抗CD11c Mab(2 μg/ml)(BD Pharmigen)を、毒素の連続存在下で、別々に付加した。
【0118】
洗浄し、上清を除去後に、細胞をヤギ抗マウスIgG−PE(Caltag, Le Perray en Yvelines, France)を用いて、またはストレプタビジン−PE(BD Pharmingen)を用いて1:300希釈で染色した。最終洗浄後、5 μg/mlのヨウ化プロピジウムの存在下で、FACStarTM(BDLPCF)上でのフローサイトメトリーにより、細胞を分析した。ヨウ化プロピジウム排除を基礎にしたゲーティングにより、凝集および死細胞を取り去った。平均蛍光強度(MFI)から結合データを推定し、ΔMFI=(CyaAとともにインキュベートされた細胞のMFI値)−(CyaAを伴わずにインキュベートされた細胞のMFI値)として、あるいは結合パーセンテージ=(試料結合)/(最大結合)×100として表した。最大結合は、(競合体の非存在下でCyaAまたは抗CD11bとともにインキュベートされた細胞のMFI値)−(培地単独でインキュベートされた細胞のMFI値)に対応する。試料結合は、(競合体の存在下でCyaAまたは抗CD11bとともにインキュベートされた細胞のMFI値)−(培地単独でインキュベートされた細胞のMFI値)に対応する。
【0119】
A.6 cAMP検定
本質的にGuermonprez et al., 2001に記載されたのと同様に、CyaA毒素に曝露された細胞中に蓄積された環状AMPを実施した。要するに、5×105細胞を、DMEM+グルコース中の指示濃度のCyaAとともに、37℃で20分間、インキュベートした。洗浄後、細胞サイトゾル中に蓄積されたcAMPを、0.1 N HClを用いた溶解により放出し、120℃で5分間煮沸した。0.1 N NaOHで中和後、cAMP−BSA接合体で予め被覆しておいた微量滴定プレートに試料を付加して、次に抗cAMPウサギ抗血清の適切な希釈液とともにインキュベートした。洗浄後、抗cAMP抗体が、アルカリ性ホスファターゼと結合した抗ウサギ抗体とともに明示された。既知のcAMP濃度を付加することにより得られる標準曲線との比較から、各試料のcAMP含量を確定した。
【0120】
A.7 CyaA侵襲性活性
Osicka et al., 2000に前に記載されたように、CyaA分子の侵襲性活性を確定した。要するに、ヒツジ赤血球を毒素とともに30分間インキュベートし、赤血球中に転位され、細胞外付加トリプシンによる消化に対して防御されるAC活性として、侵襲性活性を測定した。
【0121】
B.結果
B.1 CyaAはCD11b+細胞と特異的に結合し、CD11b+細胞とのCyaA−ビオチンおよび抗CD11b結合を抑制する
CD11bとのその相互作用におけるCyaAの生物学的および構造的特性の役割を調べるために、2つの相補的検定;即ち結合検定および競合検定を開発した。結合検定は、ヒトCD11b/CD18を発現するトランスフェクト化CHO細胞(CHO−CD11b細胞)を伴う、または偽トランスフェクト化CHO細胞を伴うCyaA分子のインキュベーションと、その後の、触媒ドメインに特異的な抗CyaAモノクローナル抗体(5G12)を用いた細胞会合毒素の検出にある。図1Aに示したように、この検定を用いて、CD11b+細胞に関してCyaA結合を特異的に検出した。競合検定では、CyaA−ビオチンと競合するそれらの能力、あるいはCD11b+細胞との抗CD11bモノクローナル抗体(Mab)結合に関して、異なるCyaA分子(突然変異体または断片)を試験し得る。ここで、CHO−CD11b細胞を異なる濃度のCyaAとともに、氷上で30分間、インキュベートした。次にCyaAの連続存在下で、CyaA−ビオチン(30 nM)または抗CD11b Mab(2 μg/ml)を付加し、細胞とのそれらの結合をFACSにより評価した。図1Bに示したように、CyaAは、用量依存的に、CHO−CD11bとのCyaA−ビオチンおよび抗CD11b結合をともに効率的に抑制した。CHO細胞により発現されるその特異的受容体(CD11c)に関する別のリガンド(抗CD11c Mab)とCyaAは完全に競合できなかったため、この抑制作用はCD11bに特異的であった(図1C)。
【0122】
B.2 CyaAアシル化の欠如はCD11b+細胞とのその結合に影響を及ぼす
CyaAはその侵襲性活性を実施し、そして溶血性膜チャンネルを形成するためには翻訳後パルミトイル化を必要とする、ということは十分に確立されているため、アシル化の欠如がCD11b+細胞とのCyaA相互作用に影響を及ぼすか否かを、われわれは試験した。結合検定において、CHO細胞またはCHO−CD11b細胞を、CyaAまたは非アシル化プロCyaAとともにインキュベートした。抗CyaA触媒ドメインMab(5G12)を用いて、結合を評価した。図2Aに示したように、低濃度では、CD11b+細胞とのCyaAおよびプロCyaA分子の両方の結合は、アシル化CyaAのわずかに効率的な結合と、かなり共通点があった。これは、細胞膜とのその相互作用増強、結合のためのCyaAのより良好に適合された立体配座および/またはCD11b受容体に対するCyaAのより高い親和性のためであり得る。実際、CyaA結合と比較して、プロCyaA結合は実質的により高いプロトキシン濃度で飽和に達した。この観察についての最も簡単な説明は、プロCyaAがCyaAより低親和性でCD11b細胞と結合する、というものである。高puroと貴信濃度では、プロCyaAの凝集体および/またはオリゴマーは細胞と結合し、その結果として、より多量のプロCyaAが抗体検出系により結合されることが見出される。これに対比して、対照CHO細胞とのCyaAまたはプロCyaAの極低結合が検出された(図2B)。
【0123】
B.3 アシル化はCD11b+細胞とのCyaAの相互作用を安定化する
CD11b+細胞との毒素の相互作用におけるCyaAアシル化の役割をさらに分析するために、CHO−CD11b細胞との結合に関してCyaAと競合する非アシル化プロCyaAの能力をわれわれは試験した。図3Aに示したように、アシル化CyaAと比較した場合、非アシル化プロCyaAは、CD11b+細胞との結合に関してビオチニル化CyaAと競合する能力の有意の低減を示した。抑制の欠如がCD11bとの非効率的相互作用のためであったか否かを確定するために、CHO−CD11b細胞との抗CD11b結合を遮断するプロCyaAの能力を、われわれは評価した.実際、CyaAと比較して、プロCyaAはCHO−CD11b細胞との抗CD11b結合を抑制できなかった(図3B)。
【0124】
cAMPの超生理学的産生および細胞中毒がCD11b+細胞とのCyaA相互作用の結果であるため、次に、CHO−CD11b細胞を用いて、これらの毒素機能がCyaAアシル化によるものか否かを、われわれは分析した。予測どおり、アシル化毒素と対照的に、プロCyaAはCHO−CD11b細胞中のいかなるcAMP増大も誘導せず(図4A)、そしてこれらの細胞に及ぼす有意の細胞傷害性作用も示さなかった(図4B)。合わせて考えると、CyaAのアシル化はCD11b+細胞との毒素の機能的相互作用のために必要であり、そしてCD11bとのプロCyaAの結合はCD11b発現細胞に及ぼす細胞傷害性作用を誘発するには不十分である、ということをこれらの結果は明らかに実証する。
【0125】
B.4 触媒ドメインはCD11bとのCyaA相互作用を必要としない
帰納的には、CyaAは個々の活性を保有する2つの主要とメインからなる。N末端ドメインは、アデニレートシクラーゼ活性を保有し(アミノ酸1〜400)、一方、カルボキシ末端ヘモリシン部分(アミノ酸400〜1706)は、標的細胞へのACドメインの送達および百日咳菌の溶血活性に関与する。CD11b+細胞との結合におけるCyaAの2つの機能性ドメインの役割を調べるために、CHO−CD11b細胞との結合に関してCyaA−ビオチンと競合する残基1〜384によりコードされる触媒ドメイン、CyaA1〜384の、ならびに残基373〜1706によりコードされる溶血性部分CyaA373〜1706の能力を、われわれは試験した。図5Aに示したように、触媒ドメインはCHO−CD11b細胞とのCyaA−ビオチン結合を抑制できなかったが、一方、CyaA373〜1706は全長CyaAと同一結合抑制を示した。同様に触媒ドメインは、CHO−CD11b細胞との抗CD11b Mabの結合も抑制できなかった(図5B)。さらに、触媒ドメインに特異的な抗CyaA Mab(5G12)を用いた直接結合検定はCHO−CD11b細胞の表面とのCyaA1〜384のいかなる有意の会合も明示できなかったが、一方、CyaAの結合は容易に検出された(図6A)。CHO−CD11b細胞とのCyaA373〜1706の直接結合は、CyaAの最初の200アミノ酸内に位置するエピトープを認識する5G12Mabを用いて検出され得なかったが、しかし反復ドメインに特異的な別の抗CyaA Mab(6D7)を用いることにより、明らかに実証された(図6C)。さらにまたCyaAまたはCyaA373〜1706の極弱結合のみが、CD11bを欠くCHO細胞に関して6D7を用いて検出された(図6BおよびD)。要するに、これらの結果は、触媒ドメインがCD11bとのCyaA相互作用を必要としないということを、そしてCyaA/CD11b相互作用ドメインがCyaA373〜1706断片中に位置するということを明白に実証する。
【0126】
B.5 CD11bと相互作用するCyaAドメインはCyaA反復領域内に位置する
CD11bと相互作用するCyaAの領域を同定するために、競合検定で試験されたC末端領域CyaA373〜1706の異なる亜断片(残基373〜1490または700〜1706または700〜1490または1006〜1706)を、われわれは発現し、精製した。しかしながらこれらのポリペプチドのうち、CHO−CD11b細胞とのCyaA−ビオチンの結合と有意なように競合し得るものはない。これは、これらの単離断片が変更された立体配座を取る、という事実のためである。したがってCyaAのCD11b結合ドメインを配置するための突然変異アプローチを、われわれは用いた。材料および方法の抗で詳述したように、毒性ポリペプチド全体を通した種々の限定位置でのFLAGエピトープ(アミノ酸配列:DYKDDDDKの)の挿入により、17の異なる修飾CyaA分子を構築した。CD11b結合ドメインのある位置での異種および高荷電ペプチドの挿入は、CD11bと相互作用するその能力を崩壊し得る、とわれわれは仮定した。17のFLAGタグ化CyaA分子を発現し、均質に精製して、CHO−CD11b細胞とのCyaA−ビオチンの結合を抑制する能力に関して試験した(2つの場合(CyaAΔ510〜515/FLAGおよびCyaAΔ1245〜1273/FLAG)、それぞれCyaAのアミノ酸510〜515または1245〜1273を欠失し、挿入FLAGエピトープに取り換えた、ということに留意)。図7に示したように、残基1166〜1281間に位置する3つの異なる部位でのFLAGエピトープの挿入は、CD11bとの相互作用を全体的に阻止した。対応する修飾CyaAは、30 nM濃度で試験した場合、本質的にはCD11b結合に関してCyaA−ビオチンと競合できなかった。これに対比して、全ての他のFLAGタグ化組換えCyaAはCD11b+細胞との結合に関してCyaA−ビオチンと競合し得たが、しかし種々の効率を有した。注目すべきは、タンパク質のカルボキシ末端近くに(即ち、位置1416、1623および1648)挿入されたFLAGエピトープを有する3つの組換えCyaA構築物もCD11b結合に関してCyaA−ビオチンと競合するそれらの能力も部分的に減損された。
【0127】
CD11bと相互作用するCyaAドメインをさらに特性化するために、無傷CyaAと同様に効率的にCD11b+細胞を結合することが示された4つの他のCyaA/FLAG分子のほかに、CD11b+細胞とのCyaA−ビオチン結合を抑制することができなかった3つのCyaA/FLAG分子に焦点を合わせた.これらのCyaA分子を再び発現し、精製して均質に近づけ(図8A)、ヒツジ赤血球膜(RBC)に浸透する、そして外部に付加されたトリプシンに近づきがたい区画に触媒ドメインをデリバリーするそれらの能力を分析することにより、それらの細胞侵襲活性を調べた。図8Bに示したように、CyaA1387/FLAGを除いて、他の全ての試験されたCyaA/FLAG分子の侵襲活性は、ある程度までFLAGペプチドの挿入により影響を及ぼされた。赤血球に触媒ドメインを転位するCyaAの能力を反映するCyaA524/FLAGの侵襲性活性は、残基524でのFLAGペプチドの挿入により完全に除去された。しかしながらRBC中に浸透するその他のタンパク質、CyaA424/FLAG、CyaA722/FLAGおよびCyaA1166/FLAGの、そして小程度にCyaAΔ1245〜1273/FLAGおよびCyaA1281/FLAGタンパク質の能力は、共通点があった。
【0128】
CHO−CD11b細胞との結合に関してCyaA−ビオチンと競合するこれらの分子の能力を、図9に示したように用量依存的方法で試験した。予測どおり、CyaA1166/FLAG、CyaAΔ1245〜1273/FLAGおよびCyaA1281/FLAGタンパク質は、240 nMという高い濃度でさえ、CD11b+細胞とのCyaA−ビオチン結合を抑制することができなかった。これに対比して、他の全てのCyaA/FLAG構築物は、無傷CyaAと同様に、用量依存的方法でCyaA−ビオチン結合を抑制した。それゆえCyaA1166/FLAG、CyaAΔ1245〜1273/FLAGおよびCyaA1281/FLAGによる結合の抑制の欠如は、RBC上のこれらの構築物の侵襲性活性がCD11b+細胞と非常に効率的に相互作用したCyaA424/FLAGタンパク質の活性に匹敵したため、FLAG挿入により引き起こされる毒素の全般的立体配座崩壊に起因すると考えられなかった。
【0129】
要するにこれらの結果は、残基1166および1281により限定され、2つの保存RTX反復ブロックを含むCyaARTX反復ドメインの部分(Osicka et al., 2000)は、CD11b+細胞とのCyaA相互作用のために重要であり、それはほとんどCyaAの主要インテグリン結合ドメインを表す、という説得力のある証拠を提供する。
【0130】
C.考察
アデニレートシクラーゼ毒素(ACTまたはCyaA)の生物学的活性は、完全に共有結合的翻訳後脂肪アシル化によっている。保存Lys−983残基のアシル化の不存在下では、CyaAはその触媒ドメインを赤血球サイトゾルにデリバリーできず、溶血性チャンネルを形成できない(Barry et al., 1991; Basar et al., 2001 Hackett et al., 1994)。CyaAは、さまざまな種類の赤血球に検出可能効率で浸透することが示された。しかしながら、その主要標的細胞は、CyaAに特に感受性である骨髄性細胞、例えば好中球および肺マクロファージであり、CyaAへの曝露時に無力化され、アポトーシスに委ねられるということが実証された(Confer and Eaton, 1982; Khelef and Guiso, 1995; Khelef et al., 1993)。実際近年、毒素は特定の細胞受容体αMβ2インテグリン(CD11b/CD18)を有し、これは免疫細胞、例えば好中球、マクロファージまたは樹状細胞上で専ら発現されるということ、そしてCD11bの発現はほとんどCyaAに対するこれらの細胞の高感受性を説明する、ということをわれわれは示した(Guermonprez et al., 2001)。本試験において、CyaAアシル化はCD11b+細胞とのその相互作用に主要な役割を演じる、ということを本発明者らは示した。実際、非アシル化プロCyaAはCyaAと同様に効率的にCD11b+細胞と結合し得るが、しかしそれはCHO−CD11b+細胞との結合に関してアシル化CyaAと競合するのに不十分であり、これらの細胞との抗CD11b Mab結合を完全に遮断し得た.これは、依然としてCD11bと相互作用しながら、相互作用の性質、特にプロCyaA−CD11b複合体の親和性および/または安定性が成熟CyaAのCD11b相互作用に関与するものとは有意に異なる、ということを示唆する。さらにプロCyaAは依然としてCD11b受容体と結合し得るが、しかしこの相互作用はプロトキシンの膜透過を可能にしない。それゆえ、それがcAMPへのATPの転化を触媒し得る細胞サイトゾルへの触媒ドメインのデリバリーに必要とされるCyaAの転位に足る立体配座を付与するために、アシル化が必要とされ得る。
【0131】
機能的には、CyaAは2つの主要ドメインに分けられ得る:即ち、残基1〜400間に位置するアデニレートシクラーゼ活性ドメインと、残基400〜1706間に位置する溶血活性に関与するものである(Ladant and Ullmann, 1999)。標的細胞との毒素相互作用後、触媒ドメインは、赤血球の形質膜を横断して直接転位され得る。本データは、触媒ドメインがcAMPへのATPの転化を食倍することによりCyaAの細胞傷害性活性に重要な役割を演じるが、しかしこのドメインはCyaAがその受容体と結合するためには必要でない、ということを示す。これらの結果はさらに、CyaA/CD11b相互作用ドメインがヘモリシン部分に、さらに精確にはCD11b+細胞との強力作用結合を有する構築物中のFLAGエピトープの挿入部位により表されるような残基1166〜1281を含む富グリシン−および富アスパルテートRTX反復領域の部分に位置する、ということを示す。特に2つのRTX反復ブロック間に差し挟まれ、残基1208〜1243を含む予測ループ構造(Osicka et al., 2000)は、CD11b+細胞とのCyaAの相互作用において重要な役割を演じ得た。CD11bと、それぞれCyaA1166/FLGA、CyaAΔ1245〜1273およびCyaA1281/FLAG構築物との相互作用の損失は、構造変化によるもので、CD11bとのCyaAタンパク質の相互作用に特に関与する帰納的に不可欠なセグメントに選択的に影響を及ぼし得る。これは、CD11bと結合できない3つの構築物全てが依然として赤血球上の代理検定系において実質的細胞侵襲性活性を示す(無傷CyaAの20%〜50%)ため、一見信頼できそうであるが、この場合、毒素活性はCD11bとの相互作用によらない。これは、位置1166、1245および1281でのFLAG挿入がCyaAの全体的構造を減損せず、むしろCD11b+細胞と相互作用するそれらの構築物の能力を選択的に除去する、ということを示す。要するにこれらの結果は、CyaAの残基1166〜1281がαMβ2インテグリン(CD11b/CD18)との毒素相互作用に関与するインテグリン結合ドメインの必須部分を表す、ということを示唆する。
【0132】
この結論は、CyaAの最初の800残基内に挿入されたFLAGペプチドを有する全てのCyaA変異体がCD11bとの結合に関してビオチニル化無傷CyaAと完全に競合する、ということを示す結果により支持される。これに対比して、CD11b結合能力は、タンパク質CyaA1416/FLAG、CyaA/FLAG1623およびCyaA/FLAG1648に関しても多少低減されたが、このことは、CyaAの副CD11b相互作用ドメインが毒素のRTX反復部分のカルボキシ末端に向けて配置され得る、ということを示唆する。
【0133】
CyaAの主要CD11b結合モチーフとして領域1166〜1287を同定する本結果は、CD11bとのCyaAの結合が厳密にカルシウム依存性であったという従来の観察に関する興味深い説明を提供する(Guermonprez et al., 2001)。RTXドメインはカルシウム結合に関与し、カルシウム結合時に主要構造再配列を受ける(Rose et al., 1995)ので、領域1166〜1287に存在するCD11b結合モチーフはRTXドメインのカルシウム結合立体配座においてのみ曝露され得る、と推測され得る。CyaAのアミノ酸領域1166〜1287内のここで同定されたCD11b結合モチーフは、RTX反復の第二および第三ブロック間に正確に局在される。このセグメントのαらせん構造がCD11bに関するドッキング部位の形成に関与する、と仮定し得る。
【0134】
CyaAは、百日咳のマウスモデルにおけるいくつかの受動的および能動的防御プロトコールに用いられてきた。抗CyaA特異的抗体を用いた、または精製CyaAを用いた免疫感作は、百日咳菌による気道コロニー形成の時間経過を低減し、そして致死的鼻内感染に対してマウスを防御した(Guiso et al., 1989; Guiso et al., 1991)。さらにCyaAに特異的な抗体は、百日咳菌に感染したヒト乳児の血清中に検出された(Arciniega et al., 1991; Guiso et al., 1993)。本結果は、CyaA/CD11b相互作用ドメインを欠くCyaA分子が百日咳菌感染に対する防御のための安全無細胞ワクチンとして製造するために設計され得る、ということを示唆する。このような分子の触媒活性は、CyaAの残基188および189間に位置するATP結合部位内のジペプチド挿入により容易に不活性化され得る(Fayolle et al., 1996)が、一方、CD11b相互作用ドメイン内の欠失は、潜在的陰性作用、例えばトキソイドによるインテグリン嵌入時のシグナル伝達および/または補体受容体CR3としても役立つCD11bへの結合に関するCyaAトキソイドとの競合のためのなんらかの機能的妨害から免疫細胞を保護し得る。
【0135】
要するに、本発明のデータは、CD11b+細胞とのその相互作用における、ならびにその後のこの相互作用により誘発される生物学的活性における、百日咳菌のアデニレートシクラーゼのアシル化の、および異なるドメインの役割に重要な新規の洞察を提供する。
【0136】
【化1】

【0137】
【化2】

【0138】
【化3】

【0139】
【化4】

【0140】
【化5】

【0141】
【化6】

【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】図1. CyaAはCD11b細胞と特異的に結合し、そしてこれらの細胞と結合するCyaA−ビオチンおよび抗CD11bモノクローナル抗体をともに抑制する (A)CHO細胞またはCHO−CD11b細胞を、指示濃度のCyaAとともにインキュベートした。抗CyaA Mab(5G12)を用いたFACSにより、表面結合CyaAを検出した。結果は、ΔMFI=(CyaAとともにインキュベートされた細胞のMFI値)−(CyaAを伴わずにインキュベートされた細胞のMFI値)として表わされ、少なくとも2つの個々の実験を代表するものである。 (B)CHO−CD11b細胞を、指示濃度のCyaAとともに予備インキュベートした。次にCyaA−ビオチン(30 nM)または抗CD11b Mab(2 μg/ml)を毒素の連続存在下で別々に付加して、FACSによりそれらの結合を測定した。 (C)指示濃度のCyaAとともに予備インキュベーション後、CHO−CD11b細胞またはCHO−CD11c細胞を、毒素の連続存在下で、それぞれ抗CD11bまたは抗CD11cモノクローナル抗体とともにインキュベートした。次に、FACSにより抗体結合を確定した。 (B)および(C)に関しては、結果は、結合パーセンテージ=(試料結合)/(最大結合)×100として表され、少なくとも2つの個々の実験を代表するものである。
【図2】図2. CHOトランスフェクト体へのCyaAまたはプロCyaAの直接結合 CHO−CD11b細胞(A)またはCHO細胞(B)を指示濃度のCyaAまたはプロCyaAとともにインキュベートした。抗−CyaA Mab(5G12)を用いて、表面結合CyaAを検出した。結果は、ΔMFI=(CyaAとともにインキュベートされた細胞のMFI値)−(CyaAを伴わずにインキュベートされた細胞のMFI値)として表わされ、少なくとも2つの個々の実験を代表するものである。
【図3】図3. CyaAアシル化はCHO−CD11b細胞との安定会合のために必要である CHO−CD11b細胞を指示濃度のCyaAまたはプロCyaAとともに予備インキュベートした。次にCyaAまたはプロCyaAの連続存在下で、CyaA−ビオチン(A)または抗CD11b Mab(B)を付加した。FACSにより、表面結合CyaA−ビオチンまたは抗CD11b Mabを測定した。結果は、結合パーセンテージ=(試料結合)/(最大結合)×100として表され、少なくとも2つの個々の実験を代表するものである。
【図4】図4. CyaAアシル化はCyaA誘導性cAMP蓄積および細胞傷害性に必要である CHO−CD11b細胞を、37℃で20分間、指示濃度でのCyaAまたはプロCyaAとともにインキュベートした。次に細胞を溶解し、cAMPを測定した(A)。平行して、指示濃度のCyaAまたはプロCyaAの存在下で37℃で4時間のCHO−CD11b細胞のインキュベーション後に培地中に放出されるラクテートデヒドロゲナーゼの量を測定することにより、毒性を確定した(B)。結果は、少なくとも2つの個々の実験を代表するものである。
【図5】図5. 触媒ドメインはCD11b細胞とのCyaA相互作用のために必要でない CHO−CD11b細胞を指示濃度のCyaA、CyaA 1−384またはCyaA 373−1706とともに予備インキュベートした。次にCyaA−ビオチン(A)または抗CD11b Mab(B)とともに細胞をインキュベートした。FACSにより、CyaA−ビオチンおよび抗CD11b Mabの結合を測定した。結果は、結合パーセンテージ=(試料結合)/(最大結合)×100として表され、少なくとも2つの個々の実験を代表するものである。
【図6】図6. CD11b細胞へのCyaA断片の直接結合 CHO−CD11b細胞(A、C)またはCHO細胞(B、D)を指示濃度のCyaA、CyaA 1−384およびCyaA 373−1706とともにインキュベートした。次に、触媒ドメインを認識する抗−CyaA 5G12 Mab(A)、または反復ドメインを認識する抗CyaA 6D7 Mab(C、D)を用いて、表面結合CyaAを検出した。結果は、ΔMFI=(CyaAまたはCyaA断片とともにインキュベートされた細胞のMFI値)−(CyaAまたはCyaA断片を伴わずにインキュベートされた細胞のMFI値)として表わされ、少なくとも2つの個々の実験を代表するものである。
【図7】図7. CyaA−FLAG突然変異体の存在下でのCHO−CD11b細胞とのCyaA−ビオチン結合 CHO−CD11b細胞をCyaAまたはCyaA FLAG突然変異体(30 nM)とともに予備インキュベートした。次にCyaAまたはCyaA−FLAG分子の連続存在下で、CyaA−ビオチンを付加した。ストレプタビジン−PEを用いたFACSにより、表面結合CyaA−ビオチンを検出した。結果は、結合パーセンテージ=(試料結合)/(最大結合)×100として表され、少なくとも2つの個々の実験を代表するものである。
【図8】図8. 精製CyaA調製物のSDS−Page分析ならびに赤血球に及ぼすそれらの侵襲性活性 (A)CyaA/FLAG分子を野生型CyaAと一緒に、前に記載されたようにDEAE−およびフェニルセファロースクロマトグラフィーにより尿素抽出物から精製した(Karimova et al., 1998)。クーマシーブルーで染色した7.5%アクリルアミドゲル上で、約3 μgの各タンパク質を分析した。(B)ヒツジ赤血球に及ぼすCyaA/FLAG分子の侵襲性活性。2 μgの種々のCyaAタンパク質を5×108個の洗浄ヒツジ赤血球とともに30分間インキュベートし、細胞中に転位されたAC活性の量を前に記載されたように確定した(Osicka et al., 2000)。値は、二重反復実験(n=6)で実施された3つの実験からの平均を表す。
【図9】図9. CyaA−FLAG突然変異体の存在下でのCHO−CD11b細胞とのCyaA結合 CHO−CD11b細胞を、7.5 nM〜240 nMの範囲の種々の濃度でのCyaAまたはCyaA FLAG突然変異体とともに予備インキュベートした。CyaA分子の連続存在下で、CyaA−ビオチンを付加し、表面結合CyaA−ビオチンを明示した。結果は、結合パーセンテージ=(試料結合)/(最大結合)×100として表され、少なくとも2つの個々の実験を代表するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数のアミノ酸欠失、置換または挿入によりCD11b/CD18相互作用ドメイン内で修飾されるボルデテラアデニレートシクラーゼから成るタンパク質であって、CD11b/CD18結合を欠き、そして野生型ボルデテラアデニレートシクラーゼを認識する抗血清と特異的に反応する前記タンパク質。
【請求項2】
前記ボルデテラアデニレートシクラーゼがCD11b/CD18相互作用ドメインの完全欠失により修飾される、請求項1記載のタンパク質。
【請求項3】
CD11b/CD18相互作用ドメインがその中へのペプチドの挿入により修飾される、請求項1または2記載のタンパク質。
【請求項4】
ボルデテラアデニレートシクラーゼがN末端触媒ドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸の挿入、欠失または置換によりさらに修飾される請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンパク質であって、前記修飾ボルデテラアデニレートシクラーゼが野生型ボルデテラアデニレートシクラーゼ活性と比較して低減される触媒活性を有する前記タンパク質。
【請求項5】
前記ボルデテラアデニレートシクラーゼがN末端触媒ドメインの少なくともアミノ酸残基1〜300の欠失、好ましくはアミノ酸残基1〜373の欠失により修飾される、請求項4記載のタンパク質。
【請求項6】
前記ボルデテラアデニレートシクラーゼが翻訳後アシル化されるアミノ酸において修飾され、これらのアミノ酸が百日咳菌Bordetella pertussisアデニレートシクラーゼのLys983およびLys860に対応する、請求項4記載のタンパク質。
【請求項7】
前記ボルデテラアデニレートシクラーゼが百日咳菌Bordetella pertussisアデニレートシクラーゼである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項8】
製薬上許容可能なビヒクルと組合せて請求項1〜7のいずれか一項に記載のタンパク質を含む医薬組成物。
【請求項9】
免疫防御および非毒性量の請求項1〜7のいずれか一項に記載のタンパク質を含む、ワクチンとして用いるための、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
1つまたは複数の適切なプライミングアジュバントをさらに含む、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
百日咳に関連した疾患症候のヒトまたは動物における予防または治療のための、および/またはボルデテラ感染に関連した疾患症候に対してヒトまたは動物を防御するための医薬の製造における請求項1〜7のいずれか一項に記載のタンパク質の使用。
【請求項12】
CD11b/CD18と結合し得るポリペプチドであって、以下の:
a. 30〜500アミノ酸、好ましくは50〜300、さらに好ましくは50〜150アミノ酸を有するボルデテラアデニレートシクラーゼの断片であって、前記ボルデテラアデニレートシクラーゼの野生型CD11b/CD18相互作用ドメインを含むか、またはCD11b/CD18と結合する能力を保有するのに十分な前記野生型CD11b/CD18相互作用ドメインの断片を含む断片、
b. 前記断片と少なくとも70%の同一性、好ましくは80%、さらに好ましくは90%の同一性を有する前記断片の変異体であって、CD11b/CD18と結合する能力を保有する変異体
である前記ポリペプチド。
【請求項13】
ボルデテラ属アデニレートシクラーゼ、好ましくは百日咳菌アデニレートシクラーゼを特異的に認識する抗体を産生し得る、請求項12記載のポリペプチド。
【請求項14】
百日咳菌アデニレートシクラーゼの断片、好ましくは百日咳菌アデニレートシクラーゼのアミノ酸1166からアミノ酸1281に及ぶ断片、好ましくは百日咳菌アデニレートシクラーゼのアミノ酸1208からアミノ酸1243に及ぶ領域を含む断片である、請求項12または13のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項15】
アデニレートシクラーゼのアシル化ドメインおよび/または疎水性ドメインをさらに含む、請求項12〜14のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項16】
哺乳類にin vivoで投与された場合に有毒でない、請求項12〜15のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項17】
百日咳に関連した疾患症候のヒトまたは動物における予防または治療のための、および/またはボルデテラ感染に関連した疾患症候に対してヒトまたは動物を防御するための医薬の製造における請求項12〜16のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項18】
CD11b発現細胞に対して特異的に当該分子をターゲッティングするためのベクターの製造における、請求項12〜16のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項19】
CD11b発現細胞に対して当該分子をターゲッティングするためのベクターであって、当該分子に結合された請求項12〜16のいずれか一項に記載のCD11b/CD18と結合し得るポリペプチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項20】
前記当該分子が、以下の:ペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、多糖、オリゴ糖、核酸、脂質および化学物質からなる群の中から選択される、請求項19記載のベクター。
【請求項21】
前記当該分子が薬剤の有効成分である、請求項19または20記載のベクター。
【請求項22】
前記当該分子が化学結合により結合される、請求項19〜21のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項23】
前記当該分子が抗原またはエピトープを含む、請求項19〜22のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項24】
前記当該分子が抗原またはエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドである、請求項23記載のベクター。
【請求項25】
以下のポリペプチド:
a. 請求項1〜7のいずれか一項に記載のタンパク質;
b. 請求項12〜16のいずれか一項に記載のポリペプチド;
c. 請求項24記載のベクター
のうちの1つをコードする核酸。
【請求項26】
宿主細胞中のコード化ポリペプチドの発現に適した発現ベクター中でクローン化される、請求項25記載の核酸により構成される組換え核酸。
【請求項27】
前記発現ベクターがプラスミド、コスミド、ファージミドまたはウイルスDNAである、請求項26記載の組換え核酸。
【請求項28】
請求項25記載の核酸あるいは請求項26または27記載の組換え核酸を含む宿主細胞。
【請求項29】
請求項12〜16のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項19〜24のいずれか一項に記載のベクターを製薬上許容可能なビヒクルと組合せて含む医薬組成物。
【請求項30】
請求項23または24のいずれか一項に記載のベクターを含む医薬組成物であって、当該分子が薬剤の有効成分である前記組成物。
【請求項31】
前記組成物がワクチンである、請求項30記載の医薬組成物。
【請求項32】
請求項12〜16のいずれか一項に記載のポリペプチドを用いた、あるいは請求項29〜31のいずれか一項に記載の組成物を用いた動物またはヒトの免疫感作により得られるポリクローナル血清。
【請求項33】
請求項12〜16記載のポリペプチドに対して特異的に向けられるモノクローナル抗体。
【請求項34】
請求項32記載のポリクローナル血清、あるいは請求項33記載のモノクローナル抗体であって、アデニレートシクラーゼとCD11b/CD18の結合を遮断し得るポリクローナル結成またはモノクローナル抗体。
【請求項35】
請求項32記載のポリクローナル血清または請求項33記載のモノクローナル抗体を製薬上許容可能なビヒクルと組合せて含む医薬組成物。
【請求項36】
百日咳に関連した疾患症候のヒトまたは動物における予防または治療のための、および/またはボルデテラ感染に関連した疾患症候に対してヒトまたは動物を防御するための医薬の製造における請求項35記載のポリクローナル血清またはモノクローナル抗体の使用。
【請求項37】
CD11b発現細胞に対して当該分子をin vitroターゲッティングするための方法であって、以下の:
a. 生体から抽出されるCD11b発現細胞を提供し、
b. 前記CD11b発現細胞に対して前記ベクターをターゲッティングするための適切な条件下で請求項19〜24のいずれかに記載のベクターとともに前記CD11b発現細胞を培養する
ことを包含する前記方法。
【請求項38】
前記当該分子が抗原またはエピトープを含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記CD11b発現細胞が骨髄系樹状細胞である、請求項37または38記載の方法。
【請求項40】
請求項37〜39のいずれかに記載の方法により得られる当該分子を含むCD11b発現細胞。
【請求項41】
請求項38記載の方法により得られる抗原またはエピトープを含むCD11b発現細胞。
【請求項42】
抗原に対してヒトまたは動物を免疫感作するための細胞療法物質であって、効率的量の請求項41記載のCD11b発現細胞を製薬上許容可能なビヒクルと組合せて含むことを特徴とする前記物質。
【請求項43】
抗原に対してヒトまたは動物を免疫感作するための細胞療法物質の製造における、請求項41記載のCD11b発現細胞の使用。
【請求項44】
抗原に対して患者を免疫感作するための方法であって、以下の:
a. 前記患者からCD11b発現細胞を抽出し;
b. 前記細胞に対して前記ベクターをターゲッティングするのに適した条件下で請求項23または24記載のベクターとともに前記CD11b発現細胞をin vitro培養し;
c. 前記ベクターを含む効率的量の前記細胞を前記患者に再投与して、CD4+および/またはCD8+応答を初回刺激して、それにより前記抗原に対して前記患者を免疫感作する
ことを包含する前記方法。
【請求項45】
前記CD11b発現細胞が骨髄系樹状細胞である、請求項44記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−527697(P2007−527697A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516098(P2006−516098)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007811
【国際公開番号】WO2004/113372
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(591282984)アンスティテュ パストゥール (17)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】