説明

CD40−CD154シグナル阻害による抗線維化剤

【課題】肺線維症、皮膚硬化、腎硬化症といった病的線維化を抑制する抗線維化剤を提供すること。
【解決手段】抗CD154抗体、抗CD40抗体、又は可溶性CD40等の細胞表面のCD40とCD154(CD40L)との相互作用をブロックするCD40−CD154シグナル阻害剤有効成分とする抗線維化剤を投与する。上記抗CD154抗体及び抗CD40抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等を例示することができる。また、これら抗体のFab断片やF(ab’)断片等も、上記抗体と同様に用いることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD40−CD154シグナルが関与する肺線維症、皮膚硬化、腎硬化症といった病的線維化を抑制する抗線維化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肺線維症、肝硬変、動脈硬化症、強皮症、経皮経管冠動脈血管拡張術(PTCA)後の冠動脈再狭窄、間質性心筋炎、間質性膀胱炎、糸球体腎炎、血管炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、HIV腎症、IgA腎症、ループス腎症、間質性腎炎、尿管閉塞による閉塞腎、熱傷後の皮膚はんこん化、中毒等に伴う線維症の予防・進行抑制剤として、ストレス蛋白質(熱ショック蛋白質)HSP47遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、特許文献1参照)、レシチン化スーパーオキシドジスムターゼとステロイド系薬剤との併用(例えば、特許文献2参照)、ケラタン硫酸オリゴ糖(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0003】
他方、CD40−CD154シグナルは免疫応答に重要な役割を果たすため、その阻害は獲得免疫応答を抑制することが知られている。そのため、臓器移植後の拒絶反応や自己免疫疾患に対する治療薬として創薬の標的となってきた(例えば、特許文献4〜6参照)。すでに複数の製薬会社がCD40−CD154シグナルを阻害する治療薬(抗CD154抗体、抗CD40抗体、可溶性CD40など)を開発し、臓器移植後の拒絶反応や自己免疫疾患を対象とした臨床試験を実施している。しかし、CD40−CD154シグナル阻害が病的線維化を抑制することに関する報告はこれまで知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−159087号公報
【特許文献2】特開2001−2585号公報
【特許文献3】特開平11−269076号公報
【特許文献4】特表2002−500648号公報
【特許文献5】特表2002−504120号公報
【特許文献6】特表2002−506446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の医学に進歩はめざましいものがあり、特に特定の分子を標的とした創薬の結果により多くの疾患で患者予後の改善がみられている。しかしながら、肺線維症、皮膚硬化、腎硬化症など線維化が中心となる病態に対して有効性が証明された治療法は現時点で知られていない。線維化にかかわる重要な液性因子としてTGF−βが知られており、TGF−βあるいはその受容体や下流シグナルを標的とした治療法が競って開発されている。しかし、TGF−βは線維化以外にも発生、分化、免疫、発癌抑制など多様な作用があり、これら生体に必須な作用と線維化促進作用の区別が困難な点が大きな課題となっている。一方、最近の知見からTGF−β単独では病的線維化の誘導に不十分で、他の因子の存在が必要なことが明らかにされている。したがって、TGF−β以外にも抗線維化療法の標的分子は存在すると考えられる。
【0006】
TGF−β以外の抗線維化療法の標的分子の同定が現時点の大きな課題である。病的な線維化組織では線維芽細胞増生と細胞外マトリックスの蓄積に加えてT細胞を中心とした炎症性細胞浸潤を伴う。これら浸潤細胞は液性因子産生や細胞間接着を介して線維芽細胞の活性化に寄与すると考えられてきたが、その詳細は明らかでない。特に、局所の線維芽細胞と浸潤細胞との直接的な細胞接着による相互作用に関する知見は少ない。これまで強皮症、肺線維症、造血幹細胞移植後の慢性移植片対宿主病などの線維化疾患における病理組織学的検討が行われ、病変部の線維芽細胞がHLAクラスII、CD40、ICAM−1分子など炎症細胞上にリガンドが存在する分子を発現することが報告された。線維芽細胞は本来HLAクラスII、CD40、ICAM−1分子などを発現しないため、病的プロセスにより線維芽細胞上に発現誘導されたHLAクラスII、CD40、ICAM−1分子などを介したシグナルが線維芽細胞の活性化にかかわる可能性を想定した。実際に、線維化組織に浸潤するCD4陽性T細胞やマスト細胞はCD154を発現している。したがって、CD40−CD154の結合により導入されるシグナルが線維化に貢献している可能性があり、その阻害が抗線維化療法になりうる。本発明の課題は、肺線維症、皮膚硬化、腎硬化症といった病的線維化を抑制する抗線維化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、病的線維化組織の線維芽細胞が発現するCD40と浸潤細胞が一過性に発現するCD154の結合により導入されるシグナルに着目し,その線維化病態に及ぼす作用を追究した。アデノウイルスベクターを用いてCD40を強制発現させた培養ヒト線維芽細胞に可溶性CD154による刺激を加えると細胞増殖が誘導され、mRNAおよび蛋白レベルでIL−6,IL−8,RANTES,MCP−1,ICAM−1の発現が増強された。さらに,ブレオマイシン投与により誘導したマウス皮膚線維化モデルでは、線維化組織中の線維芽細胞におけるCD40、マスト細胞におけるCD154の発現が検出された。マウスにブレオマイシンとともに抗CD154抗体を投与すると,コントロール抗体投与群に比べて組織学的な真皮膠原線維やヒドロキシプロリンの増加が抑制された。以上の結果から,線維芽細胞におけるCD40を介したシグナルは線維化誘導に重要な役割を果たすことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、(1)CD40−CD154シグナル阻害剤を有効成分とすることを特徴とする抗線維化剤や、(2)CD40−CD154シグナル阻害剤が、抗CD154抗体、抗CD40抗体、又は可溶性CD40であることを特徴とする前記(1)記載の抗線維化剤や、(3)肺線維症、腎不全(腎硬化症)、肝硬変、強皮症、ケロイドから選ばれる1又は2以上の疾患に伴う線維化の予防薬または進行抑制薬であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の抗線維化剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本研究では、CD154を発現するCD4陽性T細胞やマスト細胞がCD40−CD154の結合を介して線維芽細胞の活性化、さらには病的線維化の誘導に関与する可能性を追究した。アデノウイルスベクターを用いてin vitroでCD40を強制発現させたヒト線維芽細胞を用いた検討では、CD40からの刺激により線維芽細胞の増殖と特定の分子の発現誘導がみられた。発現増強がみられた分子として線維芽細胞からの細胞外マトリックス産生を増強する作用が知られているIL−6、末梢血からの炎症細胞や線維芽細胞前駆細胞を末梢組織に引き寄せるケモカイン(IL−8,RANTES,MCP−1),T細胞との細胞接着を強めるICAM−1が同定された。ブレオマイシンにより誘発されるマウス皮膚線維化モデルでは、線維化組織でCD40、CD154に発現増強がみられ、線維化細胞の増殖、RANTESの発現増強が観察された。これらin vivoでの所見は、in vitroで観察された線維芽細胞におけるCD40刺激結果と一致する。さらに,マウスモデルにおける皮膚線維化を抗CD154抗体が抑制したことは、CD40−CD154シグナルが線維化誘導に重要な役割を果たしていることを示す。実際の線維化組織ではTGF−βやPDGFなど他の刺激も同時に存在することから、CD40を介したシグナルが他のシグナルと協調的に作用して病的線維化を誘導すると考えられる。すでにCD40−CD154シグナルを標的とした分子標的療法(抗CD154抗体、抗CD40抗体、可溶性CD40)が臨床試験段階にあることから、それらを抗線維化療法へと応用することは比較的容易である。現状で病的線維化を抑制する効果が実証された治療法がないことから、本発明の抗線維化剤は、肺線維症、腎不全(腎硬化症)、肝硬変、強皮症、ケロイド等の疾患に伴う線維化の予防薬または進行抑制薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の抗線維化剤としては、CD40−CD154シグナル阻害剤を有効成分とするものであれば特に制限されず、上記CD40−CD154シグナル阻害剤としては、細胞表面のCD40とCD154(CD40L)との相互作用をブロックするものであれば公知の物質を含め特に制限されず、抗CD154抗体、抗CD40抗体、可溶性CD40を具体的に挙げることができる。上記抗CD154抗体及び抗CD40抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等を例示することができる。また、これら抗体のFab断片やF(ab’)断片等も、上記抗体と同様に用いることもできる。
【0011】
本発明の抗線維化剤は、抗腫瘍剤、抗生剤、抗菌剤、抗不整脈剤、消炎剤、抗リウマチ剤、インターフェロン又は小柴胡湯等の薬剤の投与により引き起こされる線維化も含め、肺線維症、腎不全(腎硬化症)、肝硬変、強皮症、ケロイド、動脈硬化症、経皮経管冠動脈血管拡張術後の冠動脈再狭窄、間質性心筋炎、間質性膀胱炎等の疾患に伴う線維化の予防薬または進行抑制薬として使用することができる。
【0012】
本発明においては、対象となる疾患の性質や進行状況、投与方法などに応じて、任意の剤形を本発明抗線維化剤の剤形として適宜選択することができる。すなわち、本発明の抗線維化剤は注射(静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内等)、経口、経皮、吸入などにより投与することができ、これらの投与方法に応じて適宜製剤化することができる。また、選択し得る剤形も特に限定されず、例えば注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、軟膏剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤等から広く選択することができる。また、これらの製剤調製にあたり、慣用の賦形剤、安定化剤、結合剤、滑沢剤、乳化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、その他着色剤、崩壊剤等、通常医薬に用いられる成分を使用することができる。
【0013】
本発明の抗線維化剤中の有効成分であるCD40−CD154シグナル阻害剤の配合量、及び本発明の抗線維化剤の投与量は、CD40−CD154シグナル阻害剤の種類や、その製剤の投与方法、投与形態、使用目的、患者の具体的症状、患者の体重等に応じて個別的に決定されるべき事項であり、特に限定はされないが、CD40−CD154シグナル阻害剤の臨床投与量として1日当り概ね10〜20mg/kg/ヒト/日を例示することができる。また、上記製剤の投与間隔は1日1回程度でも可能であり、1日2〜3回に分けて投与することもできる。
【0014】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
[培養線維芽細胞におけるCD40発現誘導]
Stratagene社(La Jolla, CA)のAdEasyTM Adenoviral Vector Systemを用いてヒトCD40の全長cDNAを組み込んだアデノウイルスベクター(CD40−AdV)を作製した。また、インサートを挿入していないコントロールベクター(Control−AdV)も同時に作製し、対照として用いた。これらウイルスベクターはCD40と異なるプロモーター下にGFP遺伝子を持つ。生検により得られた健常人皮膚から樹立したヒト線維芽細胞の一次培養株は10%仔牛胎児血清添加DMEM中で培養し、CD40−AdVまたはControl−AdVを感染させ(100MOI)、CD40を強制発現させた。感染効率はフローサイトメトリーによるGFPおよび抗CD40抗体による染色後のCD40蛋白の発現により確認した。
【0016】
強制発現させたCD40を介した細胞内へのシグナル伝達を評価するため、CD154刺激後のIκBリン酸化を調べた。すなわち、CD40−AdV感染後2日目にCD40発現を確認した線維芽細胞の培地を無血清培地に換え、可溶性CD154(PeproTech, London, UK)(0.5μg/ml)により10分間刺激した。細胞回収後にSDSポルアクリルアミド電気泳動により分画し(各ウェル1.25x10個)、抗リン酸化IκB抗体または抗IκB抗体(Cell Signaling Technology, Beverly, MA)をプローブとした免疫ブロットを行った。抗体の結合は LumiGLO chemiluminescence detection system(Cell Signaling Technology)を用いて可視化した。
【0017】
GFP発現を指標とすると、CD40−AdVおよびControl−AdVはほぼ100%の効率で培養ヒト線維芽細胞に感染した。CD40−AdV感染細胞の98%以上では、フローサイトメトリーによりCD40蛋白の細胞膜上への発現を確認した。また、CD40強制発現線維芽細胞では可溶性CD154刺激によりIκBのリン酸化および総IκBの減少が確認され、CD40を介して細胞内にシグナルが伝達されることが確認された。
【実施例2】
【0018】
[培養線維芽細胞におけるCD154刺激後の細胞増殖の評価]
培養線維芽細胞にCD40−AdVまたはControl−AdVを感染させ、2日後に培地を無血清培地に換えた上で可溶性CD154(0.5μg/ml)を添加した。CD154刺激後にH-サイミジン(1μCi/ml)を添加し、72時間の培養におけるH-サイミジンの取り込みにより細胞増殖能を評価した。また、一部の実験では可溶性CD154(sCD154)をマウス抗ヒトCD154抗体(anri−CD154)またはマウスコントロール抗体(mouse IgG)と30分間、室温でプレインキュベートしたものを用いた。
【0019】
CD40シグナルが線維芽細胞の増殖能に与える効果を調べた結果、可溶性CD154刺激によりCD40を強制発現させたCD40−AdV感染線維芽細胞は細胞増殖が誘導されたが、この効果はControl−AdV感染線維芽細胞ではみられなかった。可溶性CD154により誘導される細胞増殖は可溶性CD154を前もって抗CD154抗体と結合させるとほぼ完全に抑制された(図1)。
【実施例3】
【0020】
[培養線維芽細胞におけるCD154刺激後の遺伝子発現変化の評価]
培養線維芽細胞にCD40−AdVまたはControl−AdVを感染させ、2日後に培地を無血清培地に換えた上で可溶性CD154(0.5μg/ml)を添加した。刺激3、6、12、24、48、72時間後に細胞を回収し、トータルRNAを分離後に逆転写酵素によりcDNAを作製し、PCRにより遺伝子発現を調べた。解析した遺伝子はI型およびIII型コラーゲン、フィブロネクチン、TGF−βRII、PDGFRα、HLA−DR、CTGF、IL−6、IL−8、RANTES、MCP−1、ICAM−1、Smad2、Smad4、Smad7、GAPDHであり、PCRにおける特異的プライマー、アニーリング温度、サイクル数は表1にまとめた。各遺伝子の発現レベルは、アガロース電気泳動後のエチジウムブロミド染色によるバンドの強度により半定量的に評価した。さらに、I型およびIII型コラーゲン、IL−6、IL−8、ICAM−1、RANTES、MCP−1遺伝子の発現についてはTaqman real−time PCRを用いた定量的PCR法により調べた。各遺伝子の検出に用いたプライマーおよびTaqmanプローブの塩基配列は表2に示した。各遺伝子の発現レベルはGAPDHの発現レベルにより補正した。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
CD40シグナルが線維芽細胞における遺伝子発現プロファイルに及ぼす効果について、線維化病態に関連する候補遺伝子に絞って検討した結果、CD40−AdV感染線維芽細胞では可溶性CD154刺激24時間後にIL−6,IL−8,RANTES,MCP−1,ICAM−1のmRNAレベルが増強したが,他の遺伝子では再現性のある発現変化は観察されなかった(図2A)。これら遺伝子の発現増強は刺激後3時間で観察され、48時間まで持続した。一方、Control−AdV感染線維芽細胞ではCD154刺激による遺伝子発現の変化はみられなかった。定量的PCRによる解析では、CD40強制発現細胞にCD154刺激を加えた場合にのみIL−6,IL−8,RANTES,MCP−1,ICAM−1遺伝子の発現が上昇することが確認されたが、IおよびIII型コラーゲン遺伝子発現に対する影響はみられなかった(図2B)。
なお、図2中、1:コントロール線維芽細胞、2:コントロール線維芽細胞に可溶性CD154添加、3:CD40強制発現線維芽細胞、4:CD40強制発現線維芽細胞に可溶性CD154添加、をそれぞれ表す。
【実施例4】
【0024】
[培養線維芽細胞におけるCD154刺激後の蛋白発現変化の評価]
遺伝子レベルでの発現亢進が蛋白レベルでもみられるかを検討した。培養線維芽細胞にCD40−AdVまたはControl−AdVを感染させ、2日後に培地を無血清培地に換えた上で可溶性CD154(0.5μg/ml)を添加した。48時間後に細胞および培養上清を回収した。線維芽細胞上のICAM−1の発現量は抗ICAM−1抗体を用いたフローサイトメトリー法により検討した。また、培養上清中のIL−6、IL−8、RANTES、MCP−1の濃度は市販のELISAキットを用いて測定した。
【0025】
まず、mRNAレベルでの発現亢進がみられた分泌蛋白IL−6,IL−8,RANTES,MCP−1の産生を培養上清中に産生された蛋白濃度で検討したところ、培養線維芽細胞にCD40を強制発現させることによりIL−6、IL−8、RANTES、MCP−1の分泌がやや上昇したが、CD154刺激によりさらなる増強が認められた(図3A)。また、膜蛋白ICAM−1の発現も同様に、CD40の強制発現により軽度の発現が認められ、CD154刺激によりさらに発現が増強された(図3B−D)。ただし,培養線維芽細胞にCD40−AdVを感染させただけでもControl−AdVに比べてIL−6,IL−8,RANTES,MCP−1,ICAM−1のmRNAの軽度の発現増強がみられた。この現象は、リガンド非依存性に細胞質内で形成されたCD40の3量体によると推測された。同様の結果は2つの線維芽細胞一次培養株で同様に観察された。なお、図3A(ELISA)中、1:コントロール線維芽細胞、2:コントロール線維芽細胞に可溶性CD154添加、3:CD40強制発現線維芽細胞、4:CD40強制発現線維芽細胞に可溶性CD154添加、をそれぞれ表し、図3B:コントロール線維芽細胞に可溶性CD154添加、図3C:CD40強制発現線維芽細胞、図3D:CD40強制発現線維芽細胞に可溶性CD154添加、をそれぞれ表し、図3B−D(フローサイトメトリー)の各グラフには比較のためコントロール線維芽細胞の蛍光強度曲線をオーバーレイしている。
【0026】
以上の実施例3及び実施例4の結果より、CD40からのシグナルはin vitroで線維芽細胞に増殖および特定の分子(IL−6,IL−8,RANTES,MCP−1,ICAM−1)の発現を誘導することが示された。
【実施例5】
【0027】
[マウス皮膚線維化モデルに対する抗CD154抗体の線維化抑制効果の評価]
山本らの方法に従って、C3H/Heマウス(メス、6週齢)の背部に100μgのブレオマイシンを3週間連日投与することで皮膚線維化モデルを作製した。皮膚真皮層の線維化はHEおよびマロリー染色による組織学検討により確認した。C3H/Heマウスへのブレオマイシン投与1週間前から,マウス腹腔内に500μg/個体のハムスター抗CD154モノクローナル抗体(クローンMR1),コントロールのハムスター由来IgG,リン酸緩衝液(PBS)のみを隔日投与した3群を作製した。皮膚線維化の程度はマロリー染色した皮膚組織切片における皮膚全層および真皮層の厚みをNIHイメージにより計測し、真皮層の皮膚全層に占める比率を求めた。ヒドロキシプロリン量は、各群2匹ずつでブレオマイシン注入部位および対側の無処置部位における皮膚単位面積あたりのヒドロキシプロリン量を測定し、対側部位に対するブレイマイシン注入部位における比として表した。
【0028】
皮膚線維化モデルに対する抗CD154抗体の線維化抑制効果について調べたところ、ブレオマイシンの連日投与によりマウス皮膚真皮の過剰な膠原線維の蓄積、それに伴う脂肪および筋層の減少が観察された。HE染色、マロリー染色による経時的検討では、皮膚線維化は1週間後に出現し、その後ゆっくりと増加した。浸潤単核細胞やマスト細胞が1−2週間で増加し、その後は減少した。
【0029】
ブレオマイシン誘発皮膚線維化モデルの線維化病態におけるCD40−CD154相互作用の役割を検討するため、ブレオマイシン投与マウスに抗CD154抗体、コントロールIgG、PBSを隔日投与した3群を作製した。各群の3週目の皮膚切片のマロリー染色像を図4(A−C)に示す。抗CD154抗体投与群ではコントロールIgG群、PBS群に比べて真皮膠原線維が少なく、皮下脂肪、筋層も残存していた。3週目の皮膚真皮線維化の程度を3群間で比較すると、抗CD154抗体投与群で他の2群に比べて有意に少なかった(図4D)。さらに、皮膚ヒドロキシプロリン量も抗CD154抗体投与群でコントロールIgG群、PBS群に比べて有意に少なかった(図4E)。以上より、抗CD154抗体処理により、ブレオマイシンにより誘発されるin vivoでの皮膚線維化が抑制されることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】CD154刺激から72時間後のH-サイミジンの取り込み結果を表す図である。
【図2】CD40シグナルが線維芽細胞における遺伝子発現プロファイルに及ぼす効果についてRT−PCRを行った結果(A)及び、定量的RT−PCR解析結果(B)を示す図である。
【図3】CD40シグナルが線維芽細胞における遺伝子発現プロファイルに及ぼす効果について、ELISA(A)及びフローサイトメトリー(B−D)を用いた蛋白レベルの解析結果を表す図である。
【図4】皮膚線維化モデルに対する抗CD154抗体の線維化抑制効果を検討するために、ブレオマイシン投与マウスに抗CD154抗体、コントロールIgG、PBSを隔日投与した3群の皮膚切片のマロリー染色像(A−C)と、皮膚真皮線維化の程度(D)及び皮膚ヒドロキシプロリン量(E)のコントロールとの比を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD40−CD154シグナル阻害剤を有効成分とすることを特徴とする抗線維化剤。
【請求項2】
CD40−CD154シグナル阻害剤が、抗CD154抗体、抗CD40抗体、又は可溶性CD40であることを特徴とする請求項1記載の抗線維化剤。
【請求項3】
肺線維症、腎不全(腎硬化症)、肝硬変、強皮症、ケロイドから選ばれる1又は2以上の疾患に伴う線維化の予防薬または進行抑制薬であることを特徴とする請求項1又は2記載の抗線維化剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−186448(P2007−186448A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5422(P2006−5422)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】