CNS疾患を治療するための単離された細胞および単離された細胞を含む集団
少なくとも1つの星状細胞表現型と、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型とを含む単離されたヒト細胞およびその集団が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CNS疾患を治療するために使用することができる細胞およびその集団に関連する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、振せん、硬直および運動失調などの症状によって現れる運動機能の進行性の喪失をやがてはもたらす、中脳の黒質におけるドーパミン産生ニューロンの進行性の喪失によって特徴づけられる加齢性障害である。
【0003】
PDのための現在の治療法は、一般にはドーパミン前駆体のL−DOPA(L−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン)の投与によって、ドーパミンの枯渇を回復することに集中する。L−DOPA(血液脳関門(BBB)を透過するドーパミン前駆体)はドーパミンの合成および放出を首尾よく増大させる。しかしながら、疾患が進行するに従い、ドーパミンを前駆体から合成するために利用することができるドーパミン作動性ニューロンが少なくなり、治療の有効性が低下し、その一方で、L−DOPAにより誘導されるジスキネジーが現れる。ドーパミンアゴニスト、モノアミンオキシダーゼ阻害剤またはCOMT阻害剤による他の治療でもまた、部分的な改善が明らかにされるが、それらは疾患の進行を防止することができない。
【0004】
細胞移植が、失われつつあるドーパミン作動性ニューロンを修復および代用するための代替治療選択肢として提案されている。そのような細胞置換治療が機能するためには、移植された細胞が、損傷を受けた組織の内部において、生存し、かつ、機能的および構造的の両方で一体化しなければならない。
【0005】
幹細胞をパーキンソン病のための細胞置換治療での細胞源として使用することが近年、提案されている。幹細胞には、未分化の状態でインビボで存在し、かつ、自己再生する能力がある。幹細胞は、起源となった組織に対して特異的な細胞タイプに限定されず、従って、他の組織からの局所的な環境的合図に応答して分化することができる。自己再生および分化のこの能力は、様々な疾患を治療する際において最大の治療可能性を有する。
【0006】
パーキンソン病において、幹細胞置換法は、ドーパミン(DA)神経伝達の回復が、残存する組織に時間とともに一体化し、長く持続する機能的な組織を生じさせる細胞移植片によって達成されるという考えに基づく。PDにおける移植のために幹細胞を処理する方法が2つある。第1の方法では、移植前に、細胞がドーパミン作動性ニューロンにインビトロで分化させられる。これは、関連する細胞の標準化および品質管理を可能にする。第2の方法は、線条体または黒質に埋め込まれた後でドーパミン作動性ニューロンにインビボで分化すると考えられる未分化幹細胞を移植することを含む。
【0007】
理論的には、PDにおける細胞治療のためのDAニューロンは、下記の4つの異なる源に由来する幹細胞から作製することができる:胎児のドーパミン作動性ニューロン、神経幹細胞、胚性幹細胞および骨髄幹細胞。
【0008】
骨髄は幹細胞の2つの大きな集団を含有する:造血幹細胞(HSC)、および、骨髄間質細胞と呼ばれることがある間葉性幹細胞(MSC)。
【0009】
ラットのBMSCは、分化後、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、コリンアセチルトランスエステラーゼおよびβ−IIIチューブリンを発現することが示された[Woodbury,D.他、J Neurosci Res、69(6):908〜17、2002]。PDにおけるマウスBMSCの臨床での治療可能性が、マウスBMSCをPDの1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)マウスモデルに線条体内注入することによって明らかにされた。移植された細胞は生存し、THを発現した。そのうえ、移植後35日でのロータロッド試験に対する改善が示された[Li,Y.他、Neurosci Lett、316(2):67〜70、2001]。
【0010】
本発明者らの米国特許出願公開20050265983は、中脳のDAニューロンを特徴づけるニューロンマーカーおよび転写因子をニューロン分化の誘導の後で発現したヒトのドーパミン合成MSCを教示する。
【0011】
細胞置換法の代替法として、移植された細胞が生存し、形態学的、電気生理学的および機能的なドーパミン作動特性を有しなければならない場合、細胞治療は、線条体の正常な解剖学的構造(結合性)および生理学(適切なシナプス接触および機能発現)を回復または再確立することに向けられ得る。
【0012】
神経栄養因子(NTF)は、ニューロン細胞の生存、機能維持および表現型発達を調節する分泌型タンパク質である。NTFレベルでの変化が、ニューロンにおけるプログラム化された細胞死の引き金となることに関与し、従って、パーキンソン病および他の神経変性疾患の病理発生の一因である。
【0013】
ドーパミン作動性ニューロンに対する最も強力なNTFの1つがグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)と呼ばれる。これは、黒質におけるドーパミン作動性ニューロの生存を促進すること、神経突起の成長を促進すること、細胞体サイズを増大させること、同様にまた、THのレベルを上昇させることが知られている。GDNFは、現時点では下記の4つの神経栄養因子からなる、TGF−βスーパーファミリーに関連するタンパク質ファミリーに属する:GDNF、ニュールチュリン(NTN)、ペルセフィンおよびアルテミン/ニューブラスチン。これらの因子は、細胞増殖および細胞分化の調節因子として働くことが知られている。
【0014】
神経前駆体細胞(ST14A)の分析により、GDNFの過剰産生が、軸索の出芽、神経突起の成長、棘形成、小胞輸送およびシナプス可塑性に関与する遺伝子のアップレギュレーションに関連し得ることが解明された[Pahnke J他、Exp Cell Res、297(2):484〜94、2004]。GDNFの神経保護活性が、抗酸化性の酵素系(例えば、グルタチオンペルオキシダーゼ活性、スーパーオキシドディスムターゼ活性およびカタラーゼ活性など)のその活性化を介することもまた示唆された[Chao CC、Lee EH、Neuropharmacology、38(6):913〜6、1999]。
【0015】
様々な細胞のタイプがGDNFを産生しており、これらには、グリア細胞(乏突起神経膠細胞および星状細胞)、神経芽細胞腫細胞株および神経膠芽細胞腫細胞株が含まれる。20%ウシ胎児血清が補充されたDMEMで培養されたラットBMSCが、6回目の継代培養を行ったとき、GDNFおよびNGFを発現することが近年、示されている[Garcia R他、Biochem Biophys Res Commun、316(3):753〜4、2004]。
【0016】
GDNFの合成は、様々な増殖因子、ホルモン、サイトカインおよび神経伝達物質によって調節され得る。例えば、腫瘍壊死因子−αまたはインターロイキン−1は神経膠芽細胞腫細胞からのGDNFの放出を誘導する。フォルスコリンまたはcAMPは、神経芽細胞腫および神経膠芽細胞腫の両方の細胞株によるGDNF放出における増大を引き起こす。これらの細胞は、神経伝達物質がストレス条件下での増殖因子の産生を調節することを可能にする神経伝達物質受容体を含む。
【0017】
GDNFを直接に脳内に投与することが、PDの様々な動物モデルにおいて効果的であることが示されている。加えて、細胞を移植前にGDNFにさらすことが有益であると判明している。例えば、400000個の胎児ドーパミン作動性ニューロンを移植前にグラフト化することにより、障害ラットの回旋行動が著しく改善された[Mehta V他、J Neurosurg、1999(Apr)、90(4):804〜6]。
【0018】
様々な方法が、GDNFを脳内に投与することを助けるために使用されており、それらには、浸透圧ポンプ、カプセルおよびミクロスフェアが含まれる。GDNF送達のための別の方法がインビボ遺伝子治療である。GDNFを発現するように遺伝子操作され、MPTP障害マウスに移植された骨髄間葉性細胞は黒質ニューロンならびに線条体繊維を保護することができた[Park,K.、Neurosci.Res.、40:315〜323、2001]。
【0019】
いくつかの研究では、種々の因子にインビトロでさらされた後のMSCはその表現型を変化させ、ニューロンマーカーおよび神経膠マーカーを明らかにすることが示されている[Kopen,G.C.他、Proc Natl Acad Sci USA、96(19):10711〜6、1999;Sanchez−Ramos他、Exp Neurol、164(2):247〜56、2000;Woodbury、D.他、J Neurosci Res、61(4):364〜70、2000;Woodbury、D.、J Neurosci Res、69(6):908〜17、2002;Black,I.B.、Woodbury、D.、Blood Cells Mol Dis、27(3):632〜6、2001;Kohyama,J.他、Differentiation、68(4−5):235〜44、2001;Levy,Y.S.、J Mol Neurosci、21(2):121〜32、2003]。
【0020】
しかしながら、これらの研究はどれも、著しいレベルの神経栄養因子を分泌することができるヒトMSCを示していない。
【0021】
従って、神経変性障害を治療するために神経栄養因子(例えば、GDNFなど)を合成することができる移植可能な細胞が必要であることが広く認識されており、そのような移植可能な細胞を有することは非常に好都合である。
【発明の開示】
【0022】
本発明によれば、少なくとも1つの星状細胞表現型と、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型とを含む単離されたヒト細胞が提供される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、星状細胞型構造的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型と、少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型とを含む単離されたヒト細胞が提供される。
【0024】
本発明のさらに別の態様によれば、星状細胞型機能的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型と、少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型とを含む単離されたヒト細胞が提供される。
【0025】
本発明のなおさらに別の態様によれば、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含み、少なくとも1つの神経栄養因子を発現する単離されたヒト細胞が提供され、この場合、その発現は、間葉性幹細胞におけるその神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きい。
【0026】
本発明のさらなる態様によれば、
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞表現型を含む;
(ii)ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが、少なくとも1つの星状細胞表現型と、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団が提供される。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの神経栄養因子を発現し、この場合、その発現は間葉性幹細胞におけるその神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きい;
(ii)ヒト細胞の少なくともM%が少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが少なくとも1つの神経栄養因子および少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を発現する;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団が提供される。
【0028】
本発明のなおさらなる態様によれば、
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型を含む;
(ii)ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞型構造的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが、少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型と、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団が提供される。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型を含む;
(ii)ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞型機能的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが、少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型と、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団が提供される。
【0030】
本発明のさらなる態様によれば、間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)およびヒトニューレグリン1−β1を含む分化培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法が提供される。
【0031】
本発明のなおさらなる態様によれば、間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)、ヒトニューレグリン1−β1、FGF2、EGF、N2、IBMXおよびcAMPからなる群から選択される少なくとも1つの分化因子を含む培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法が提供される。
【0032】
本発明のなおさらなる態様によれば、治療効果的な量の星状細胞様細胞をその必要性のある個体に投与し、それにより、CNS疾患またはCNS障害を治療することを含む、CNS疾患またはCNS障害を治療する方法が提供される。
【0033】
本発明のなおさらなる態様によれば、CNS疾患またはCNS障害を治療するための星状細胞様細胞の使用が提供される。
【0034】
本発明のなおさらなる態様によれば、請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれかに記載される細胞または細胞集団のいずれかを活性な作用因として含み、かつ、医薬的に許容され得るキャリアを含む医薬組成物が提供される。
【0035】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、細胞は遺伝子操作されない。
【0036】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つの星状細胞表現型は構造的表現型である。
【0037】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つの星状細胞表現型は機能的表現型である。
【0038】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞はさらに星状細胞型機能的表現型を含む。
【0039】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型機能的表現型は間葉性幹細胞表現型ではない。
【0040】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞はさらに星状細胞型構造的表現型を含む。
【0041】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞はさらに星状細胞型構造的表現型を含む。
【0042】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型構造的表現型は間葉性幹細胞表現型ではない。
【0043】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型構造的表現型は、細胞サイズ、細胞形状、オルガネラサイズおよびオルガネラ数である。
【0044】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型構造的表現型は少なくとも1つの星状細胞マーカーの発現である。
【0045】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞マーカーは表面マーカーである。
【0046】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞マーカーは内部マーカーである。
【0047】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型機能的表現型は、少なくとも1つの神経栄養因子を間葉性幹細胞におけるその神経栄養因子の基礎的産生よりも少なくとも2倍大きいレベルで発現することである。
【0048】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つの神経栄養因子は、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、ニューロトロフィン−4/5、ニュールツリン(NTN)、ペルセフィン、脳由来神経栄養因子(BDNF)、アルテミン(ART)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インスリン様成長因子−I(IGF−1)およびニューブラスチンからなる群から選択される。
【0049】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つの神経栄養因子はGDNFである。
【0050】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞マーカーは、S100β、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、グルタミンシンセターゼ、GLT−1およびGLASTからなる群から選択される。
【0051】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、GDNFの分泌がIL−1βおよび/またはカベルゴリンによって調節される。
【0052】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、インキュベーションの継続期間が約48時間である。
【0053】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、PDGFの濃度が約5ng/mlである。
【0054】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、ヒトニューレグリン1−β1の濃度が約50ng/mlである。
【0055】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、分化培地はさらに、L−グルタミン、ジブチリル環状AMPおよびイソブチルメチルキサンチンIBMXを含む。
【0056】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、本発明の方法はさらに、細胞を、インキュベーションする前にさらなる培地で培養し、それにより、細胞を星状細胞様細胞に分化しやくすることを含む。
【0057】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、さらなる培地はヒト上皮増殖因子(hEGF)およびヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)を含む。
【0058】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、hEGFの濃度が約20ng/mlである。
【0059】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、hbFGFの濃度が約20ng/mlである。
【0060】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、さらなる培地はさらに、L−グルタミン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、セレンおよびトランスフェリンを含む。
【0061】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、培養の継続期間は約48時間である。
【0062】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、間葉性幹細胞が、(a)間葉性幹細胞を含む細胞の集団を、間葉性幹細胞を維持および/または拡大培養することができる増殖培地で培養する工程;および(b)間葉性幹細胞を工程(a)から得られる細胞から選択する工程によって得られる。
【0063】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、工程(b)が、表面に接着している細胞を集めることによって行われる。
【0064】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、本発明の方法はさらに、少なくとも1つの神経伝達物質を内因的に合成することができる幹細胞を個体に投与することを含む。
【0065】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、CNS疾患またはCNS障害は神経変性疾患または神経変性障害である。
【0066】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、CNS疾患またはCNS障害は、運動障害、解離性障害、気分障害、情動障害、常習性障害および痙攣性障害からなる群から選択される。
【0067】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、神経変性障害は、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかん、筋萎縮性側索硬化症、卒中、自己免疫性脳脊髄炎、糖尿病性神経障害、緑内障性神経障害、アルツハイマー病およびハンチングトン病からなる群から選択される。
【0068】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞は自己の細胞である。
【0069】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞は非自己の細胞である。
【0070】
本発明は、神経栄養因子を分泌することができる細胞およびその集団を提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。
【0071】
別途定義されない場合、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と同様または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。本明細書中で言及された全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、全体を参考として援用される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。また、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【0072】
図面の簡単な記述
本発明は、例示のみを目的とし、添付されている図面を参照して、本明細書中に記載される。次に図面を詳しく具体的に参照して、示されている項目は、例としてであり、また、本発明の好ましい実施形態の例示的な議論のためのものであり、従って、本発明の原理および概念的態様の最も有用かつ容易に理解された記述であると考えられるものを提供するために示されていることが強調される。これに関して、記述を図面と一緒に理解することにより、本発明のいくつかの形態が実際にどのように具体化され得るかが当業者には明らかになるので、発明の構造的詳細を、発明の基本的な理解のために必要であるよりも詳細に示すことは試みられていない。
図1A〜図1Bは、5日目の分化したヒトMSCおよび分化していないヒトMSCの光学顕微鏡観察画像である。分化したヒトMSCは星状細胞様の形態学(例えば、典型的な星状体様構造など)を明らかにする(光学顕微鏡観察)。
図2A〜図2Dは、5日目の分化したヒトMSC(図2B〜図2D)および分化していないヒトMSC(図2A)の走査電子顕微鏡観察画像である。分化したヒトMSCは星状細胞様の形態を明らかにする。
図3A〜図3Bは、分化したヒトMSCにおける星状細胞マーカーの発現を例示する顕微鏡写真である。免疫染色を、抗S100β(図3A)および抗グルタミンシンセターゼ(図3B)を用いて、分化したヒトhBMScに対して行った。細胞の核を、DAPIを使用して染色した(青色)。
図4A〜図4Bは、分化したヒトMSCにおける星状細胞マーカーのグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現を例示する顕微鏡写真および棒グラフである。免疫染色を、抗GFAPを用いて、分化したヒトhBMScに対して行い、また、細胞の核を、DAPIを使用して染色した(青色)(図4A)。図4Bは、プライマー(配列番号11および配列番号12)を使用してリアルタイムPCRによって分析されたときの、分化したヒトMSCの細胞抽出物におけるGFAPのレベルを例示する棒グラフである。
図5は、分化していないヒトMSCと比較して、分化したヒトMSCにおける神経栄養因子転写物の量を例示する棒グラフである。細胞抽出物を、GDNF転写物(配列番号3および配列番号4)、NGF転写物(配列番号9および配列番号10)およびBDNF転写物(配列番号5および配列番号6)についてのリアルタイムPCRアッセイに供した。
図6A〜図6Bは、分化したヒトMSCにおけるGDNFの発現を例示する顕微鏡写真および棒グラフである。免疫染色を、抗GDNFを用いて、分化したヒトhBMScに対して行った。細胞の核を、DAPIを使用して染色した(青色)(図6A)。図6Bは、抗GDNFにより陽性に染色された細胞の数が約30%であったことを例示する(*P<0.05、n=3、nあたりの計数された平均細胞=415.5±37.5)。GDNF細胞の数を、3つの独立した培養物からの15の視野を調べることによって評価した。これらのサンプルにおける細胞総数を、DAPI染色された細胞の核を計数することによって求めた。結果が陽性細胞の(平均±SEM)パーセントとして表される。
図7は、分化したヒトMSCにおいて細胞に存在するGDNFの量を例示する棒グラフである。GDNFの産生を、ELISAによって、分化したhBMScの細胞抽出物においてアッセイした。結果は3つの独立した実験の平均±S.D.である。p<0.05である差(*)は、コントロールと比較したときに有意であった。分化した細胞を、分化を48時間にわたって開始させた後24時間、カベルゴリン(130pg/ml)およびIL−1β(100pg/ml)とインキュベーションした。
図8A〜図8Dは、分化したヒトMSCによって分泌されたGDNF、BDNFおよびNGFの量を例示する棒グラフである。図8Aは、GDNFの分泌に対する、カベルゴリン(130pg/ml)およびIL−1β(100pg/ml)の48時間のインキュベーションの影響を例示する。培養培地を72時間の分化の後で集め、ELISAを使用して分析した。結果は3つの独立した実験の平均±S.D.である。p<0.05である差(*)は、コントロールと比較したときに有意であった。分化した細胞の培地はまた、GDNF(図8B)およびNGF(図8C)についてもアッセイした(ドナー#14−2、ドナー#8−10またはドナー#H1−2−7)。青色の棒は分化後の分泌を示し、赤色の棒は分化前の分泌を示す。図8Dは、3名の異なるドナーに由来するMSCにおけるBDNF分泌に対する48時間の分化の影響を例示する。
図9は、MSCの分化の後におけるグルタミン酸輸送体(GLASTおよびGLT−1)の発現を例示する棒グラフである。これらのグルタミン酸輸送体の発現を、血清非含有培地で成長させたhBMSc、および、星状細胞に分化したhBMScから抽出された総RNAに対して行われたリアルタイムPCRによって評価した。GLASTのためのプライマーが配列番号7および配列番号8であり、GLT−1のためのプライマーが配列番号13および配列番号14であった。サンプルはまた、任意の単位(独立した培養物に対して行われた三連の測定からの平均±SEM)で表されるPCR生成物の定量的分析を可能にするGAPDHのPCR増幅において使用された。統計学的分析を、一元配置anova、それに続く、多重比較のためのニューマン・クールズ検定によって行った。*(p<0.05)は、血清非含有培地で維持された細胞からの有意な差を示す。
図10は、hBMSCの星状細胞分化の前後におけるグルタミン酸輸送体の機能的活性を例示する棒グラフである。[3H]d−アスパラギン酸の取り込み(20nm)を、血清非含有培地で成長させた細胞と比較して、分化培地で成長させたhBMSCにおいて測定した。示されたデータは、3つの独立した培養物に対して行われた三連の測定からの平均±SEMである。統計学的分析を、一元配置anova、それに続く、多重比較(p<0.05)のためのニューマン・クールズ検定によって行った。
図11は、星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの行動における改善を例示する線グラフである。ラットには、5X105個の細胞が障害後6週間で同側の線条体に注入されて移植された。アポモルヒネ(0.15mg/kg、s.c.)により誘導された旋回行動を60分あたりの平均旋回数について記録した。移植ラットは、移植後75日で、回転における顕著な減少(p<0.05)を示した。
図12は、星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットのロータロッドアッセイにおける改善を例示する棒グラフである。ロータロッド成績(ロッド上での秒数)を同じラットにおいて移植後95日で観察した。移植ラットは顕著な改善(p<0.05)を示した(フリードマンanovaの後での多重比較検定、P<0.05)。
図13は、星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの微妙な運動機能における改善を例示する線グラフである。ヒマワリ種子摂食試験を移植後100日で行った。星状細胞が移植されたラットは、生理的食塩水により治療されたラットと比較して、はるかに速く、5分の期間中に種子を開け、食べた。結果は、2日続けて行われた2回試験の平均±SEMである。
図14A〜図14Eは、星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの細胞に対する共焦点顕微鏡観察画像である。移植後110日で、動物を屠殺し、組織化学研究を行った。図14AはDAPI染色を例示する。図14Bはヒト核抗原染色を例示する。図14CはGFAP染色を例示する。図14Dは、3つの染色のすべてを重ねたものである。免疫染色および共焦点顕微鏡観察による研究により、ヒト抗原について陽性であった細胞の25%までがGFAPについてもまた陽性であったことが明らかにされた。
図15は、ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが疾患の発症を遅らせ、ロータロッドにおけるその運動成績を改善することを例示する線グラフである(n=8、p<0.05)。
図16は、ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが体重減少を遅らせることを例示する線グラフである。
図17A〜図17Cは、星状細胞に分化したhBMScが移植されたALSマウスの細胞に対する共焦点顕微鏡観察画像であり、ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが移植後110日を生存することを例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
本発明は、数多くの神経変性疾患を治療するために患者に移植することができる細胞およびその集団に関連する。
【0074】
本発明の原理および操作は、図面および付随する記述を参照してより良好に理解され得る。
【0075】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施または実行されることが可能である。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであり、限定であるとして見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0076】
神経栄養因子(NTF)は、ニューロン細胞の生存、機能維持および表現型発達を調節する分泌型タンパク質である。NTFレベルでの変化が、ニューロンにおけるプログラム化された細胞死の引き金となることに関与し、従って、パーキンソン病および他の神経変性疾患の病理発生の一因である。
【0077】
ドーパミン作動性ニューロンに対する最も強力なNTFの1つがグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)と呼ばれる。これは、黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの生存を促進すること、神経突起の成長を促進すること、細胞体サイズを増大させること、同様にまた、THのレベルを上昇させることが知られている。
【0078】
しかしながら、一般には神経栄養因子の直接的な使用、具体的にはGDNFの直接的な使用は、それらが全身的注射の後で血液脳関門を通過せず、また、適切に分布しないので阻まれている。従って、他の方策を、それらの治療的特性を活用するために開発しなければならない。
【0079】
本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、特定の培養条件のもとで、間葉性幹細胞(MSC)が、神経栄養因子を分泌することができる星状細胞表現型を有する細胞に分化し得ることを見出している。この結果は、ドナーおよび継代培養の両方に依存しないことが示された。それに従って、本発明者らは、そのような分化したMSCが、移植後、神経変性疾患の患者を治療するために使用できることを示している。
【0080】
本発明者らは、新規な2段階プロトコルに従って分化させたMSCが、星状細胞マーカーの存在(図3A〜図3Bおよび図4A〜図4B)を伴う星状細胞様の形状(図1A〜図1Bおよび図2A〜図2D)を表すことを示している。このような星状細胞様細胞は、著しいレベルのGDNF、BDNFおよびNGFの発現(図5)および分泌(図8A〜図8D)をもたらすことが示された。そのうえ、NTFの産生がカベルゴリン(D2受容体アゴニスト)およびIL−1によってさらにアップレギュレーションされた(図7および図8A)。加えて、この星状細胞様細胞はグルタミン酸クリアランス機構を有していた(図10)。
【0081】
6−OHDA障害ラット(パーキンソン病についてのラットモデル)の線条体およびALSトランスジェニックマウスの足筋肉に移植した後、そのような細胞は生存し、ロータロッド試験によって調べられた行動欠損、および、アポモルヒネにより誘導された回旋行動を改善した(図11〜図17A〜図17C)。
【0082】
従って、本発明の1つの態様によれば、間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)およびヒトニューレグリン1−β1を含む分化培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法が提供される。
【0083】
本明細書中で使用される表現「星状細胞様細胞」は、星状細胞様細胞が星状細胞の活性(すなわち、ニューロンの支援)をインビボで媒介することを可能にする少なくとも1つの星状細胞表現型を含む細胞を示す。
【0084】
そのような表現型が本明細書中下記においてさらに記載される。
【0085】
用語「間葉性幹細胞」または用語「MSC」は、最終分化していない成熟細胞、すなわち、幹細胞である細胞を生じさせるために分裂することができる成熟細胞、または、間葉性細胞系譜の細胞を生じさせるために不可逆的に分化する成熟細胞について交換可能に使用される。本発明の間葉性幹細胞は供給源が同系または同種であってもよいが、同系の供給源が好ましい。
【0086】
本発明のこの態様の好ましい実施形態によれば、間葉性幹細胞は、本明細書中に記載される細胞および細胞集団を作製するために遺伝子操作されない(すなわち、発現構築物により形質転換されない)。
【0087】
本発明の細胞は、好ましくはES細胞に由来しないが、任意の幹細胞に由来し得ることが理解される。
【0088】
間葉性幹細胞を、骨髄、末梢血、血液、胎盤および脂肪組織(これらに限定されない)をはじめとする様々な組織から単離することができる。間葉性幹細胞を末梢血から単離する方法がKassis他によって記載される[Bone Marrow Transplant、2006(May);37(10):967〜76]。間葉性幹細胞を胎盤組織から単離する方法がZhang他によって記載される[Chnese Medical Journal、2004、117(6):882〜887]。脂肪組織、胎盤および臍帯血の間葉性幹細胞を単離および培養する方法がKern他によって記載される[Stem Cells、2006、24:1294〜1301]。
【0089】
本発明のこの態様の好ましい実施形態によれば、間葉性幹細胞はヒト由来である。
【0090】
骨髄を吸引によって個体の腸骨稜から単離することができる。低密度BM単核細胞(BMMNC)をFICOL−PAGUE密度勾配によって分離することができる。間葉性幹細胞を得るために、間葉性幹細胞(例えば、BMMNC)を含む細胞集団を、細胞を維持および/または拡大培養することができる増殖培地で培養することができる。1つの実施形態によれば、そのような集団は(例えば、フラスコにおける)ポリスチレンプラスチック表面に置かれ、間葉性幹細胞が、非接着性細胞を除くことによって単離される。あるいは、間葉性幹細胞を、間葉性幹細胞マーカーを使用してFACSによって単離することができる(本明細書中下記における表1を参照のこと)。
【0091】
好ましくは、MSCは少なくとも50%精製され、より好ましくは、少なくとも75%精製され、一層より好ましくは、少なくとも90%精製される。
【0092】
単離後、細胞は、典型的には、単離された細胞を、本明細書中下記において実施例1に記載されるように、エクスビボで維持および/または拡大培養することができる増殖培地で培養することによって拡大培養される。増殖培地は、DMEM、α−MEMまたはDMEM/F12であり得る。好ましくは、増殖培地はDMEMである。好ましくは、増殖培地はさらに、例えば、下記の実施例の節の実施例1に記載されるように、SPN、L−グルタミンおよび血清(例えば、ウシ胎児血清またはウマ血清など)を含む。
【0093】
星状細胞様細胞への分化を、MSCを分化培地(例えば、米国特許第6528245号に記載される分化培地、および、Sanchez−Ramos他(2000);Woodburry他(2000);Woodburry他(J.Neurisci.Res.、96:908〜917、2001);BlackおよびWoodbury(Blood Cells Mol.Dis.、27:632〜635、2001);Deng他(2001);Kohyama他(2001);ReyesおよびVerfatile(Ann.N.Y.Acad.Sci.、938:231〜235、2001);Jiang他(Nature、418:47〜49、2002)によって記載される分化培地など)でインキュベーションすることによって行うことができる。
【0094】
BMScは、好ましくは、「分化培地」におけるそのインキュベーションに先立って、少なくとも24時間、好ましくは48時間、「さらなる培地」でインキュベーションされる。「分化培地」におけるインキュベーションは少なくとも24時間続き、好ましくは、少なくとも48時間続く。
【0095】
分化培地(さらなる分化培地を含む)はDMEMまたはDMEM/F12であってもよく、好ましくはDMEMである。好適な「さらなる培地」は、細胞に星状細胞様の分化を受けやすくすることができる任意の成長培地(例えば、上皮増殖因子hEGF(例えば、20ng/ml)および/または塩基性線維芽細胞増殖因子(例えば、20ng/ml)が補充された成長培地など)であり得る。好ましくは、さらなる培地はまた、N2補充物(インスリン、プロゲステロン、プトレシン、セリンおよびトランスフェリン)を含む。
【0096】
本発明の分化培地は、好ましくは、血小板由来増殖因子(例えば、5ng/ml)およびヒトニューレグリン1−β1(例えば、50ng/ml)を含む。「分化培地」は、好ましくは、分化因子(例えば、IL−1βおよび/またはdbcAMPなど)を含む。
【0097】
好ましくは、分化培地はさらに、SPN、L−グルタミン、補充物(例えば、N2またはB27など)、抗生物質(例えば、IBMX)および血清(ウシ胎児血清(FCS、FBS)またはウマ血清など)を含む。
【0098】
本発明の別の態様によれば、間葉性幹細胞は、本発明の星状細胞様細胞を作製するために、少なくとも1つの分化因子を含む培地でインキュベーションされる。分化因子の例には、血小板由来増殖因子(PDGF)、ヒトニューレグリン1−β1、FGF2、EGF、N2補充物、IBMXおよびcAMPが含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
分化培地(さらなる分化培地を含む)はまた、他の因子、例えば、神経栄養因子(例えば、BDNF、CNTF、GDNF、NTN、NT3またはLIF)、ホルモン、増殖因子(例えば、GGF2、TGF−β3、TGF−α、FGF−8およびbFGF)、ビタミン、ホルモン(例えば、インスリン、プロゲステロン)および他の因子(例えば、ソニックヘッジホッグなど)、骨形態形成タンパク質、フォルスコリン、レチノイン酸、アスコルビン酸、プトレシン、セレンおよびトランスフェリン)を含むことができる。
【0100】
例示的な分化培地が本明細書中下記において実施例1に記載される。
【0101】
本明細書中に記載される方法に従って得られた細胞集団は典型的には均一でない。
【0102】
従って、本発明の別の態様によれば、
(i)細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞表現型を含む;
(ii)細胞の少なくともM%が、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが、少なくとも1つの星状細胞表現型と、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞の単離された集団が提供される。
【0103】
本明細書中で使用される用語「単離された」は、そのインビボでの存在位置(例えば、骨髄、神経組織)から取り出されている細胞の集団を示す。好ましくは、単離された細胞集団は、そのインビボでの存在位置に存在する他の物質(例えば、他の細胞)を実質的に含まない。
【0104】
本明細書中で使用される表現「星状細胞表現型」は、本発明の分化したMSCと、分化していないMSCとを識別するために使用することができる、星状細胞に典型的である(例えば、特有である)構造的パラメーターおよび/または機能的パラメーターを示す。星状細胞表現型は、本発明の分化したMSCと、分化していないMSCとを識別するために使用することができる1つだけの特徴または多数の特徴を含むことができる。
【0105】
機能的パラメーターは構造的パラメーター(例えば、分泌小胞の存在)と重なり得ることが理解される。
【0106】
好ましくは、機能的な星状細胞表現型は、神経栄養因子を、分化していないヒト間葉性幹細胞におけるその神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きいレベルで発現する能力を含む。
【0107】
本明細書中で使用される用語「発現する」は、上記で述べられた神経栄養因子の合成および/または分泌を示す。神経栄養因子はその影響を細胞外で誘発するので、好ましくは、神経栄養因子の分泌が本発明の集団の細胞では増大する。好ましい実施形態によれば、分泌は、分化していないヒト間葉性幹細胞において分泌される神経栄養因子の量と比較して少なくとも2倍増大し、一層より好ましくは5倍増大する。
【0108】
本明細書中で使用される表現「神経栄養因子」は、ニューロンに対する、成長、分化、機能的維持および/または生存の様々な影響を含む、脳神経系に対して作用する細胞因子を示す。神経栄養因子の例には、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、GenBankアクセション番号L19063、同L15306;神経成長因子(NGF)、GenBankアクセション番号CAA37703;脳由来神経栄養因子(BDNF)、GenBankアクセション番号CAA62632;ニューロトロフィン−3(NT−3)、GenBankアクセション番号M37763;ニューロトロフィン−4/5;ニュールツリン(NTN)、GenBankアクセション番号NP_004549;ニューロトロフィン−4、GenBankアクセション番号M86528;ペルセフィン、GenBankアクセション番号AAC39640;脳由来神経栄養因子(BDNF)、GenBankアクセション番号CAA42761;アルテミン(ART)、GenBankアクセション番号AAD13110;毛様体神経栄養因子(CNTF)、GenBankアクセション番号NP_000605;インスリン様成長因子−I(IGF−1)、GenBankアクセション番号NP_000609;およびニューブラスチン、GenBankアクセション番号AAD21075が含まれるが、これらに限定されない。
【0109】
機能的な星状細胞表現型のさらなる一例が、IL−1βおよびカベルゴリンの添加の後での神経栄養因子の発現および/または分泌の増強である。
【0110】
星状細胞は、高親和性のグルタミン酸輸送体によるグルタミン酸のクリアランスによって、低い細胞外グルタミン酸濃度の維持において重要な役割を果たす。従って、本発明の集団の細胞の別の機能的な星状細胞表現型はグルタミン酸輸送体の増大した活性であり得る。そのようなグルタミン酸輸送体の活性は、標識されたアスパラギン酸(例えば、細胞の培養培地からの[3H]−d−アスパラギン酸取り込み)を測定することによって分析することができる。
【0111】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の細胞集団の細胞のある割合は、さらに、または、代わりに、構造的な星状細胞表現型を含むことができる。
【0112】
構造的な星状細胞表現型の例には、細胞サイズ、細胞形状、オルガネラサイズおよびオルガネラ数が含まれる。従って、星状細胞の構造的表現型には、丸い核、「星型形状」体、および、脈管足板としてCNSの小血管において終わる多くの長いプロセスが含まれる(図1A〜図1Bおよび図2A〜図2Dを参照のこと)。構造的な星状細胞表現型のさらなる例を下記において見出すことができる:ReynoldsおよびWeiss、Science(1992)、255:1707〜1710;Reynolds、TetzlaffおよびWeiss、J.Neurosci(1992)、12:4565〜4574;Kandel他、Principles of Neuroscience、第3版(1991)、Appleton&Lange、Norwalk、Conn.。これらの構造的表現型は、顕微鏡技術(例えば、走査電子顕微鏡観察)を使用して分析することができる。抗体または色素を使用して、分析を助けるために、特徴的な特徴を強調することができる。
【0113】
構造的な星状細胞表現型はまた、星状細胞マーカーの発現を含むことができる。
【0114】
本明細書中で使用される表現「星状細胞マーカー」は、星状細胞において選択的または非選択的のいずれでも発現されるポリペプチドを示す。星状細胞マーカーは細胞表面または内部で発現されてもよい。星状細胞マーカーの例には、S100β、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、グルタミンシンセターゼ、GLASTおよびGLT−1が含まれる。
【0115】
本明細書中上記で述べられたように、細胞集団の細胞のある割合は、典型的な星状細胞には存在しない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む。そのような幹細胞表現型は典型的には構造的である。例えば、本発明の細胞は、間葉性幹細胞の形態と類似する形態(例えば、紡錘体様の形態)を示すことができる。代わりに、または、さらに、本発明の細胞は、間葉性幹細胞に対しては典型的であるが、生来的な星状細胞に対しては典型的でないマーカー(例えば、表面マーカー)を発現することができる。間葉性幹細胞表面マーカーの例には、CD105+、CD29+、CD44+、CD90+、CD34−、CD45−、CD19−、CD5−、CD20−、CD11B−およびFMC7−が含まれるが、これらに限定されない。他の間葉性幹細胞マーカーには、チロシンヒドロキシラーゼ、ネスチンおよびH−NFが含まれるが、これらに限定されない。
【0116】
本発明の細胞集団にはまた、星状細胞表現型および間葉性幹細胞表現型の両方を呈示する細胞が含まれる。間葉性幹細胞表現型は、好ましくは、星状細胞表現型ではない。従って、表3に例示されるように、本発明の細胞集団の細胞は、間葉性幹細胞マーカーのチロシンヒドロキシラーゼ、CD90およびH−NF、すなわち、星状細胞では発現しないことが知られている3つのマーカーを発現することが示された。
【0117】
好ましくは、細胞が、本明細書中上記で記載された星状細胞表現型および間葉性幹細胞表現型の両方を含むとき、それらの星状細胞表現型は星状細胞に特有である。細胞は、星状細胞に特有な1つの星状細胞表現型(例えば、星型形状の形態)、または、星状細胞に特有な表現型を組合せで表す非特有な星状細胞表現型の組合せを含むことができる。
【0118】
本発明の1つの実施形態によれば、本発明の集団の細胞のいずれかの星状細胞表現型は生来的な星状細胞に可能な限り近い。従って、下記の実施例の節で例示されるように、本発明の方法に従って分化した細胞は星状細胞様の形状を示し(図1A〜1Bおよび図2A〜図2D)、星状細胞マーカーの存在が付随し(図3A〜図3Bおよび図4A〜図4B)、著しいレベルのGDNF、BDNFおよびNGFの発現(図5)および分泌(図8A〜図8D)を有し、カベルゴリン(D2受容体アゴニスト)およびIL−1によってさらにアップレギュレーションされるNTF産生を含み(図7および図8A)、かつ、グルタミン酸クリアランス機構を有する(図10)。
【0119】
星状細胞表現型を含む細胞の割合は、意図された必要性に従って増減させることができる。従って、例えば、細胞集団を、特定の星状細胞表現型(例えば、GDNFの発現)を有する細胞について濃縮することができる。これは、星状細胞の細胞マーカーに対して特異的な抗体を使用してFACSによって行うことができる。そのような星状細胞マーカーの例が本明細書中上記に記載される。細胞マーカーが内部マーカーであるならば、好ましくは、FACS分析は、細胞の中に容易に浸透することができ、および、検出後に細胞から容易に洗い出すことができる抗体またはそのフラグメントを含む。FACSプロセスは、最終産物として要求される濃縮度および細胞表現型に依存して、同じマーカーまたは異なるマーカーを使用して何回も繰り返すことができる。
【0120】
本発明のこの態様の別の実施形態によれば、細胞集団は、細胞の均一な集団が作製されるように、星状細胞表現型および間葉性幹細胞表現型の両方を含む細胞について濃縮することができる。
【0121】
従って、本発明のさらなる態様によれば、少なくとも1つの星状細胞表現型と、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型とを含む単離されたヒト細胞が提供される。
【0122】
分化され、また、場合により単離されると、細胞はそれらの星状細胞表現型(例えば、機能的な神経栄養因子を分泌する能力)について(培養状態で)調べることができる。培養物を、下記の実施例の節の実施例1において記載されるような生化学な分析方法(例えば、免疫アッセイ、ウエスタンブロットおよびリアルタイムPCRなど)を使用して、または、酵素活性バイオアッセイによって星状細胞表現型について比較分析することができる。
【0123】
星状細胞表現型に従って、本発明の細胞および細胞集団は、特定の疾患または障害を治療するために使用することができる。細胞集団は分化後そのまま使用することができ、または、本明細書中上記で記載されたように、特定の星状細胞表現型について濃縮することができる。本明細書中下記の表1に要約されるように、ある種の神経栄養因子またはある1組の神経栄養因子は、特定の疾患を治療するために特に有益であることが示されている。例えば、NGF、BDNF、FGFおよびGDNFを分泌する本発明の細胞は、パーキンソン病を治療するために特に好適であると考えられる。
【0124】
星状細胞は、モノアミンオキシダーゼ−Bおよびカテコール−O−メチルトランスフェラーゼを発現するので、ドーパミンを代謝することによってニューロンにおける酸化性ストレスを軽減させ得ることが提案されている。加えて、星状細胞は、NOにより生じる神経毒性をグルタチオン依存的な機構によって防止し得ることが提案されている(Chen他、2004、Curr Drug Targets、2005(Nov)、6(7):821〜33)。従って、除去機能を含み、および/または、ドーパミン代謝酵素を発現する本発明の細胞もまた、パーキンソン病を治療するために好適であり得る。
【0125】
グルタミン酸輸送体の不十分なクリアランスまたは低下のために、グルタミン酸の興奮毒性がALSについての原因因子の1つとして示唆されている[Bendotti他、2001、J.Neurochem、79(4):737〜746、2001]。従って、上昇したグルタミン酸輸送体活性を示す本発明の細胞はまた、ALSを治療するために好適であり得る。
【0126】
従って、本発明の別の態様によれば、CNS疾患またはCNS障害を治療する方法が提供される。
【0127】
本明細書中で使用される表現「CNS疾患」は、本発明の細胞により治療することができる中枢神経系の任意の障害、疾患または状態を示す。
【0128】
従って、本発明の細胞は、医薬品(これは交換可能に医薬組成物と呼ばれる)を調製するために使用することができ、それにより、そのような医薬品は、CNS疾患またはCNS障害を治療するために配合される。
【0129】
本明細書中に記載される細胞により有益に治療することができるCNS疾患またはCNS障害の代表的な例には、痛み障害、運動障害、解離性障害、気分障害、情動障害、神経変性疾患または神経変性障害、および、痙攣性障害が含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
そのような状態のより具体的な例には、パーキンソン病、ALS、多発性硬化症、ハンチングトン病、自己免疫性脳脊髄炎、糖尿病性神経障害、緑内障性神経障害、黄斑変性、動作時振せんおよび遅発性ジスキネジア、パニック、不安、うつ病、アルコール中毒、不眠症、躁病的行動、アルツハイマー病およびてんかんが含まれるが、これらに限定されない。
【0131】
本明細書中に記載される方法のいずれにおいても、細胞は、任意の自己または非自己(すなわち、同種または異種)のヒトドナーから得ることができる。例えば、細胞をヒト死体またはドナー対象者から単離することができる。
【0132】
本発明の細胞は、様々な移植法(その性質は埋め込み部位に依存する)を使用して個体を治療するために投与することができる。
【0133】
「移植」、「細胞置換」または「グラフト化する」の用語または表現は、本明細書中では交換可能に使用され、本発明の細胞を標的組織に導入することを示す。細胞は被移植者に由来し得るか、あるいは、同種ドナーまたは異種ドナーに由来し得る。
【0134】
細胞を、中枢神経系内に、または、脳室腔内に、または、宿主の脳の表面での硬膜下に移植することができる。成功した移植のための条件には、(i)移植体の生存性;(ii)移植部位における移植体の保持;および(iii)移植部位における最小量の病理学的反応が含まれる。様々な神経組織(例えば、胚の脳組織)を宿主の脳に移植するための様々な方法が、“Neural grafting in the mammamalian CNS”、BjorklundおよびStenevi編(1985);Freed他、2001;Olanow他、2003に記載されている。これらの手法には、移植時に脳実質に向かい合わせにされるように組織を宿主の脳の内部に注入または設置することによって達成される実質内移植、すなわち、(脳の外側または実質外移植と比較されるような)宿主の脳の内部での移植が含まれる。
【0135】
実質内移植を、2つの方法を使用して行うことができる:(i)宿主の脳実質の中への細胞の注入、または(ii)宿主の脳実質を露出するための外科的手段によって腔を調製し、その後、移植体を腔内に置くこと。両方の方法は、移植体と、宿主の脳組織との間での実質への設置を移植時にもたらし、また、両方の方法は、移植体と、宿主の脳組織との間での解剖学的一体化を容易にする。このことは、移植体が宿主の脳の不可分の一部となり、宿主の生涯にわたって生存することが要求されるならば、重要である。
【0136】
代替として、移植体を脳室(例えば、大脳脳室)に置くことができ、あるいは、移植体が、介在する軟膜またはクモ膜および軟膜によって宿主の脳実質から隔てられる場合には硬膜下に、すなわち、宿主の脳の表面に置くことができる。脳室への移植は、ドナー細胞を注入することによって、または、移植体の転位を防止するために、細胞を基体(例えば、3%コラーゲンなど)において成長させて、脳室内にその後で埋め込むことができる充実組織の栓子を形成することによって達成することができる。硬膜下移植するために、細胞を、硬膜に細長い切り口を作製した後、脳の表面の周りに注入することができる。宿主の脳の選択された領域への注入を、ドリルで穴を開け、硬膜を貫いて、マイクロシリンジのニードルを挿入することを可能にすることによって行うことができる。マイクロシリンジは、好ましくは、定位固定フレームに取り付けられ、三次元での定位固定座標が、ニードルを脳または脊髄の所望される場所に設置するために選択される。細胞はまた、脳の被殻、基底核、海馬皮質、線条体、黒質または尾状核の領域、ならびに、脊髄に導入することができる。
【0137】
細胞はまた、組織の健康な領域に移植されることがある。一部の場合には、損傷を受けた組織区域の正確な場所が不明であることがあり、細胞が健康な領域に気づかずに移植されることがある。他の場合には、細胞を健康な領域に投与し、それにより、その領域に対する何らかのさらなる損傷を避けることが好ましい場合がある。いずれにせよ、移植後、細胞は、好ましくは、損傷を受けた区域に移動する。
【0138】
移植するために、細胞懸濁物がシリンジの中に引き込まれ、麻酔された被移植者に投与される。多数回の注入を、この手順を使用して行うことができる。
【0139】
従って、細胞懸濁物による手法は、細胞を脳または脊髄における任意の所定の部位に移植することを可能にし、および、比較的に非外傷性であり、および、同じ細胞懸濁物を使用していくつかの異なる部位または同じ部位における多数回の移植を同時に可能にし、および、異なる解剖学的領域からの細胞の混合物を可能にする。多数の移植体は、いくつかの細胞タイプの混合物、および/または、細胞に挿入された導入遺伝子の混合物からなり得る。好ましくは、約104個〜約108個の細胞が1つの移植体について導入される。
【0140】
腔内への移植(これは、脊髄に移植するために好ましい場合がある)のために、組織が、例えば、Stenevi他(Brain Res、114:1〜20、1976)によって記載されるように、脳を覆う骨を除き、出血をゲルフォームのような材料で止めることによって、移植腔を形成するために中枢神経系(CNS)の外側表面に近い領域から除かれる。吸引を、腔を作製するために使用することができる。その後、移植体が腔に置かれる。2つ以上の移植体を、細胞または固体の組織インプラントを使用して同じ腔に置くことができる。好ましくは、埋め込み部位は、治療されているCNS障害、および、細胞に含まれる星状細胞表現型(例えば、特定の神経栄養因子が本発明の細胞により分泌されること)によって決定される。例えば、GDNFを分泌する細胞は、好ましくは、パーキンソン病患者の黒質に埋め込まれる。
【0141】
非自己の細胞は、身体に投与されたとき、免疫反応を誘導する可能性があるので、いくつかの方法が、非自己細胞の拒絶の可能性を低下させるために開発されている。これらには、被移植者の免疫系を抑制すること、または、非自己細胞を移植前に免疫隔離性の半透過性膜でカプセル化することのいずれかが含まれる。
【0142】
カプセル化技術は、一般には、マイクロカプセル化(これは小さい球状のビヒクルを伴う)およびマクロカプセル化(これはより大きい平坦シート膜および中空膜を伴う)として分類される(Uludag、H.他、哺乳動物細胞カプセル化の技術、Adv Drug Deliv Rev、2000、42:29〜64)。
【0143】
マイクロカプセルを調製する様々な方法がこの分野で知られており、これらには、例えば、Lu MZ他(アルギン酸塩およびα−フェノキシシンナミリデン−アセチル化ポリ(アリルアミン)による細胞カプセル化、Biotechnol Bioeng、2000、70:479〜83)によって開示される方法、Chang TMおよびPrakash S(酵素、細胞および遺伝子操作微生物のマイクロカプセル化のための手順、Mol Biotechnol、2001、17:249〜60)によって開示される方法、Lu MZ他(光感受性ポリ(アリルアミンα−シアノシンナミリデンアセタート)を使用する新規な細胞カプセル化方法、J Microencapsul、2000、17:245〜51)によって開示される方法が含まれる。
【0144】
例えば、マイクロカプセルが、修飾されたコラーゲンを、メチルアクリル酸2−ヒドロキシルエチル(HEMA)、メタクリル酸(MAA)およびメタクリル酸メチル(MMA)のターポリマー外皮により複合体化し、それにより、2μm〜5μmのカプセル厚さを生じさせることによって調製される。そのようなマイクロカプセルはさらに、負荷電のなめらかな表面を与えるために、また、血漿タンパク質の吸収を最小限に抑えるために、さらなる2μm〜5μmのターポリマー外皮によりカプセル化することができる(Chia,S.M.他、細胞カプセル化のための多層マイクロカプセル、Biomaterials、2002、23:849〜56)。
【0145】
他のマイクロカプセルがアルギン酸塩(海洋多糖)(Sambanis,A.、糖尿病の治療におけるカプセル化された小島、Diabetes Technol.Ther.、2003、5:665〜8)またはその誘導体に基づいている。例えば、マイクロカプセルを、塩化カルシウムの存在下でのポリカチオンのポリ(メチレン−co−グアニジン)塩酸塩を用いたポリアニオンのアルギン酸ナトリウムおよび硫酸セルロースナトリウムの間での高分子電解質複合体化によって調製することができる。
【0146】
細胞カプセル化は、より小さいカプセルが使用されるときには改善されることが理解される。従って、カプセル化された細胞の品質管理、機械的安定性、拡散特性およびインビトロ活性が、カプセルサイズが1mmから400μmに低下したときに改善された(Canaple L.他、サイズ制御による細胞カプセル化の改善、J Biomater Sci Polym Ed、2002、13:783〜96)。そのうえ、7nmもの小さい十分に制御された細孔サイズ、細かく調節された表面化学および精密な微細構造を有するナノ多孔性バイオカプセルは、細胞のための微小環境を首尾よく免疫隔離することが見出された(Williams D.、小さいことは美しい:医療用デバイスにおけるマイクロ粒子技術およびナノ粒子技術、Med Device Technol、1999、10:6〜9;Desai,T.A.、膵臓細胞カプセル化のための微細製造技術、Expert Opin Biol Ther、2002、2:633〜46)。
【0147】
免疫抑制剤の例には、メトトレキサート、シクロホスファミド、シクロスポリン、シクロスポリンA、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン(スルファサラゾピリン)、金塩、D−ペニシラミン、レフルノミド、アザチオプリン、アナキンラ、インフリキシマブ(REMICADE(登録商標))、エタネルセプト、TNFα遮断剤、炎症性サイトカインを標的とする生物学的薬剤、および、非ステロイド系抗炎症性薬物(NSAID)が含まれるが、これらに限定されない。NSAIDの例には、アセチルサリチル酸、サリチル酸コリンマグネシウム、ジフルニサル、サリチル酸マグネシウム、サルサラート、サリチル酸ナトリウム、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナマート、ナプロキセン、ナブメトン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、Cox−2阻害剤およびトラマドールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
本明細書中に記載される方法のいずれにおいても、細胞は、それ自体で、または、好ましくは、医薬的に許容され得るキャリアをさらに含む医薬組成物の一部として、そのいずれでも投与することができる。
【0149】
本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される化学的コンジュゲートの1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、医薬的に好適なキャリアおよび賦形剤)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、対象に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0150】
以降、用語「医薬的に許容され得るキャリア」は、対象に対する著しい刺激を生じさせず、かつ、投与された調合物の生物学的活性および生物学的性質を阻害しないキャリアまたは希釈剤を示す。キャリアの非限定的な例には、プロピレングリコール、生理食塩水、有機溶媒と水の混合物およびエマルジョンがある。
【0151】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、化合物の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0152】
本発明の好ましい実施形態によれば、医薬用キャリアは塩類の水溶液である。
【0153】
薬物の配合および投与のための様々な技術が“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)(これは参考として本明細書中に組み込まれる)に見出され得る。
【0154】
好適な投与経路には、目的の組織または器官への直接投与が含まれる。したがって、例えば細胞は上記のように脳に直接投与されてもよいし、下記の実施例3において記述されるように筋肉に直接投与されてもよい。
【0155】
本発明の方法において使用される任意の調製物について、治療効果的な量または用量をインビトロアッセイおよび細胞培養アッセイから最初に推定することができる。好ましくは、用量が、所望される濃度または力価を達成するために動物モデルにおいて定められる。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。
【0156】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療的効力を、標準的な薬学的手法によって、インビトロで、あるいは、細胞培養または実験動物において求めることができる。例えば、6−OHDA障害マウスをパーキンソン病の動物モデルとして使用することができる。加えて、ヒマワリ試験を、ヒマワリの種子を特定の期間の間に開けるように動物をし向けることによって微妙な運動機能における改善を試験するために使用することができる。
【0157】
ハンチングトン病についてのモデルとして、増大した数のCAG反復を含み、脳幹、視床または脊髄においてではなく、線条体および大脳皮質(これらはこの疾患におけるニューロン細胞喪失部位によく一致する)のニューロンにおけるハンチンチンおよびユビキチンの核内封入体を有するトランスジェニックマウスを使用することができる。
【0158】
SOD−1の変異を含むトランスジェニックマウスを、ALS疾患についてのモデルとして使用することができる。
【0159】
中隔海馬経路は、海馬采を切断することによって片側性に横方向に切断された場合、アルツハイマー病における中隔海馬経路喪失のコリン作動性欠如を模倣する。従って、この障害を含む動物モデルは、アルツハイマー病を治療するための本発明の細胞を試験するために使用することができる。
【0160】
動物の生存および回旋行動(例えば、ロータロッド上での回旋行動)を、本発明の細胞を投与した後で(実施例2および実施例3でのように)分析することができる。
【0161】
これらのインビトロアッセイおよび細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投薬量の範囲を定める際に使用することができる。投薬量は、用いられた投薬形態物および利用された投与経路に依存して変化し得る。正確な処方、投与経路および投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選ぶことができる(例えば、Fingl他、1975、“The Pharmacological Basis of Therapeutics”、第1章、1頁を参照のこと)。例えば、パーキンソン病患者は、治療に対する陽性の応答を示す改善された運動機能について症状的にモニターすることができる。
【0162】
注射のために、医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは、生理学的に適合し得る緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液または生理学的塩緩衝液など)において配合することができる。
【0163】
投薬量および投薬間隔は、移植された細胞による神経伝達物質の合成を効果的に調節するために十分である有効成分のレベルに合わせて個々に調製され得る。所望される効果を達成するために必要な投薬量は、個体の特性および投与経路に依存する。検出アッセイを、血漿濃度を測定するために使用することができる。
【0164】
治療される状態の重篤度および応答性に依存して、服薬は単回または複数回の投与が可能であり、治療の経過は、数日から数週間まで、または、疾患状態の縮小が達成されるまで続く。
【0165】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、治療されている個体、病気の重篤度、投与様式、処方医師の判断などに依存する。投薬量および投与時期は、個体の変化する状態の注意深い継続したモニターリングに応答する。例えば、治療されているパーキンソン病患者には、モニターリング中の表示値に基づいて、所望されるレベルにドーパミン合成を促進または抑制するために十分である量の作用物が投与される。
【0166】
本発明の細胞は、神経変性障害を治療することにおいて有用な治療剤(例えば、ガングリオシド、抗生物質、神経伝達物質、神経ホルモン、トキシン、神経突起促進分子、ならびに、神経伝達物質分子の代謝拮抗剤および前駆体(例えば、L−DOPAなど)など)と同時に投与することができる。加えて、本発明の細胞は、神経伝達物質を合成することができる他の細胞と同時に投与することができる。そのような細胞が本発明者らの米国特許出願公開第20050265983号に開示される。
【0167】
移植後、本発明の細胞は、好ましくは、一定の期間(例えば、少なくとも6ヶ月)にわたって疾患領域において生存し、その結果、治療的効果が観測されるようになる。実施例2に記載されるように、本発明の細胞は、6−OHDA障害マウスの脳半球において移植後16週で生存可能であること、また、ALSについてのトランスジェニックマウスモデルにおいて移植後110日で生存可能であることが示された。
【0168】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を意味する。
【0169】
本発明のさらなる目的、利点および新規な特徴が、限定であることが意図されない下記の実施例を検討したとき、当業者には明らかになる。また、本明細書中上記に描かれ、また、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、下記の実施例において実験的裏付けが見出される。
【実施例】
【0170】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なお、これら実施例によって本発明は限定されない。
【0171】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている[例えば以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel,R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号および5272057号に記載される方法;Cellis,J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号および5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.およびHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.およびHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである]。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0172】
(実施例1)
星状細胞に分化したBMSCの特徴化
材料および方法
ヒトBMSCの単離および培養:骨髄吸引物(10ml〜30ml)を、インフォームドコンセントを得た健康な成人ドナーの後部腸骨稜から集めた。低密度BM単核細胞(BMMNC)をFICOL−PAGUE密度勾配(1.077g/ml)によって分離し、HBSSにより洗浄した。次いで、細胞をポリスチレン製プラスチックフラスコにおいて成長培地に入れた。成長培地は、15%のウシ胎児血清(FCS)、2mMのL−グルタミン、100μg/mlのストレプトマイシン、100U/mlのペニシリン、12.5ユニット/mlのナイスタチン(SPN)が補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)からなった。非接着性細胞を培地置換とともに除いた。コンフルエンス後、接着性の層をトリプシン処理し、再接種し、コンフルエンスに成長させて、2回〜6回の継代培養を行い、その後、実験に使用した。成長培地を1週間に2回交換し、細胞を加湿5%CO2インキュベーターにおいて37℃で維持した。
【0173】
星状細胞分化:星状細胞分化を誘導するために、1X106個の細胞を10mmのディッシュで培養した。細胞を48時間、予備分化培地とともに再置床した(SPN、2mMのL−グルタミン、20ng/mlのヒト上皮増殖因子(hEGF)(R&D Systems、Minneapolis、MN)、20ng/mlのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)およびN2補充物(インスリン:5μg/ml、プロゲステロン:20nM、プトレシン:100μM、セレン:30nM、トランスフェリン:100μg/ml)が補充されたDMEM)。48時間後、予備分化培地を分化培地に交換した(SPN、2mMのL−グルタミン、1mMのジブチリル環状AMP(dbcAMP)、0.5mMのイソブチルメチルキサンチン(IBMX)(Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri、米国)、5ng/mlのヒト血小板由来増殖因子(PDGF)(peprotech)および50ng/mlのヒトニューレグリン1−β1(NRG1−β1−GGF−2)が補充されたDMEM)。いくつかの実験では、IL−1β(100pg/ml)またはカベルゴリン(130pg/ml)を分化開始後24時間で培地に加えた。
【0174】
免疫細胞化学:免疫細胞化学分析のために、細胞を12mmの円形のポリ−L−リシン被覆されたガラス製カバースリップで成長させた。実験が終了した時、培地を除き、細胞を室温で20分間、4%(v/v)のパラホルムアルデヒドにより固定処理し、その後、20分間、0.1M PBSにおける0.25%(v/v)のTriton X−100により透過処理した。非特異的な結合を、5%正常ヤギ血清(NGS)および1%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma)を含有する0.1M PBS溶液において細胞を37℃で1時間インキュベーションすることによって阻止した。続いて、細胞を、一次抗体、すなわち、ウサギ抗グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)(1:100、DAKO)、ウサギ抗GDNF(1:100、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、California、米国)、マウス抗ヒト核h−Nuc(1:30)、ウサギ抗グルタミンシンセターゼ(1:200、Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri、米国)、マウス抗S100β(1:200、Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri、米国)とともに、0.25%(v/v)のTriton X−100、5%のNGSおよび1%のBSAを含有する0.1M PBS溶液においてインキュベーションした。二次抗体、例えば、GDNF染色については、ヤギ抗ウサギビオチン化体(1:200)を1時間加え、続いて、ストレプトアビジン−Alexa−488コンジュゲート化ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:200、Molecular Probes、Eugene、OR、米国)を加えた。他の染色については、Alexa−488コンジュゲート化ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:200)およびローダミン−Rxコンジュゲート化体(1:200、Jackson ImmunoResearch Laboratories、West Grove、PA、米国)を、0.25%(v/v)のTriton X−100、5%のNGSおよび1%のBSAを含有する0.1M PBS溶液で希釈し、室温で1時間加えた。核を、核色素DAPI(1:200、Sigma,Aldrich)により5分間染色した。PBSにおける3回の洗浄の後、調製物をAntifaiding(Sigma、イスラエル)で固定し、CCDカメラ(T.I.L.L.photonics、Martinsried、ドイツ)に接続された蛍光顕微鏡を使用して調べた。励起波長(Alexa488、DAPIおよびAlexa568についてそれぞれ、488nm、405nmおよび568nm)を、モノクロメーター(T.I.L.L.photonics、Martinsried、ドイツ)に接続されたキセノンランプを使用して発生させた。デジタル画像を、適切なフィルターを使用して取得し、TILLvisIONソフトウエアを使用して組み合わせた。
【0175】
GDNFおよびBDNFの分析:上記の分化手順が終了したとき、上清をプレートから回収し、また、細胞を集め、計数した。細胞溶解物および細胞培養上清におけるGDNFまたはBDNFの量を、GDNF ImmunoAssay SystemまたはBDNF ImmunoAssay System(Promega)を製造者のプロトコルに従って使用することによって定量した。450nmでの吸光度をMicroplate Reader(BioRad Model550)で記録し、その値を使用して、GDNF標準物またはBDNF標準物の曲線を作製した。GDNF標準曲線は15.6pg/ml〜1000pg/mlの間で直線であった。ELISAの結果を、プレートあたり106個の細胞に従って計算した。
【0176】
細胞カウント評価:特定の抗原を発現する陽性細胞の数を求めるために、データを、サンプルあたり3つの独立した培養物からの15の視野を注意深く調べることから集めた。これらのサンプルにおけるMSCの総数を、DAPI染色された細胞の核を計数することによって求めた。結果が、GDNF、グルタミンシンセターゼまたはS100βのいずれかについての陽性細胞の百分率として表される。
【0177】
mRNAの調製:総RNAを、ChomczynskiおよびSacchi(Anal Biochem、162:156〜159、1987)によって記載されるように単離した。細胞を200μlの溶液D(4Mのチオシアン酸グアニジニウム、25mMのクエン酸ナトリウム、0.5%のサルコシル、0.1Mの2−メルカプトエタノール)により破壊した。続いて、0.1体積の2M酢酸ナトリウム(pH4)、1体積のフェノール(飽和)および0.2体積のクロロホルム:イソアミルアルコール(49:1)を加えた。サンプルを4℃で30分間静置し、その後、4℃で20分間、10000Xgで遠心分離した。上部の水相を2体積のエタノールと混合し、RNAを−20℃で一晩沈殿させた。最終的なRNAペレットを75%エタノールで洗浄し、空気乾燥した。ペレットをDEPC処理水に溶解した。RNAの量を、ND−1000分光光度計(Nano−drop)を使用して分光光学的に求めた。RNAの品質を、OD260/OD280の比率を測定することによって確認した。RNAを使用まで−80℃で保存した。
【0178】
リアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応:所望される遺伝子のリアルタイム定量的PCRを、SybrグリーンPCRマスターミックス(Applied biosystems)および下記のプライマーを使用してABI Prism7700配列検出システム(Applied biosystems)で行った。
GAPDH遺伝子は、転写プロファイリングのための有効な基準の「ハウスキーピング」遺伝子として役立った。
【0179】
定量化のために、リアルタイム定量的PCR(qPCR)を二連で行った。qPCR増幅を、増幅されたそれぞれの遺伝子についての標準曲線およびテンプレート非含有コントロール(NTC)もまた含有した同じPCR反応プレートの別個のウエルにおいてそれぞれのサンプルについて行った。最適な実験パラメーター(ハイブリダイゼーション温度、伸長時間およびプライマー濃度)をそれぞれのプライマー対について決定した。それぞれの遺伝子について、1つだけのピークを融解曲線分析で確認することにより、PCR生成物の特異性が評価された。
【0180】
PCRを、1μlの上記cDNA、それぞれ1μlの3’プライマーおよび5’プライマー(500nmmol/Lの最終濃度)、10μlのAbsolute(商標)QPCR SYBR(登録商標)Green ROX Mixおよび8μlのDEPC水を含有する20μlの総体積で行った。
【0181】
増幅プロトコルは、それぞれ95℃を15秒間、その後、60℃を1分間の40サイクルであった。GAPDHに対する目的とする遺伝子の定量的計算を、ユーザーブレティン#2 ABIprism7700配列決定システム(2001年10月更新)に指示されるように、ddCT法を使用して行った。
【0182】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR):RT−PCRを、1.3μMのオリゴ−dT12〜18(Sigma、米国)、製造者によって供給される1x緩衝液、10mMのDTT、20μMの各dNTP、および、RNase阻害剤(RNAguard、amersham pharmacia biotech、英国)を含有する混合物において10Uの酵素RT−superscriptII(Gibco−BRL、MD、米国)を使用して、0.5マイクログラムのRNAサンプルに対して行った。逆転写を42℃で2時間行った。所望される遺伝子のPCRを、Thermocyclerでの25サイクル〜30サイクル(94℃を30秒間、55℃での30秒間のアニーリング、72℃での45秒間のDNA伸長)により、2μlのRT、1X緩衝液(Takara、日本)、200μMの各dNTP、1μMの各プライマーおよび5UユニットのTaqポリメラーゼ(Takara、日本)を含有する混合物において特異的なプライマーを用いて行った。これらの実験条件のもとで、増幅の直線性が観測された。
【0183】
RT−PCRを、分化していないhBMSC、および、本発明の方法による分化したBMSCに対して行った。遺伝子の発現をこれら2つの細胞タイプの間で比較し、また、(文献から得られる情報からの)星状細胞における発現と比較した。プライマー配列が本明細書中下記の表2に詳しく記載される。
【0184】
走査電子顕微鏡観察:細胞をリン酸塩緩衝液(pH7.2)における2.5%グルタルアルデヒドにより固定し、同じ緩衝液で洗浄し、2%OsO4により後固定した。固定処理の第3工程を、タンニン酸およびグアニジン塩酸塩の溶液を使用して行った。三重に固定処理された細胞を段階的なアルコール溶液において脱水した。その後、アルコールを、段階的なFreon溶液を使用してFreon−112に交換した。細胞を空気乾燥し、金被覆し、Jeol840走査電子顕微鏡を使用して調べた。
【0185】
グルタミン酸取り込み:グルタミン酸輸送体の機能的特徴化を、トリプシン処理された分化後の細胞に対して行った。輸送速度を、Na+を含有する緩衝液における37℃での6分間のインキュベーションの後での[3H]−d−アスパラギン酸(20nM)の取り込みを測定することによって推定した。グルタミン酸輸送体の比活性をmg単位でのタンパク質の量に対する取り込み速度として表した。
【0186】
結果
本発明の方法に従って分化したhBMScは、星状細胞に類似する衛星様の形態を獲得し、これに対して、血清非含有培地だけで成長させたコントロール細胞は、hBMScに特徴的な平坦な線維芽細胞様の形態を示した(図1A〜図1B)。分化した細胞はまた、走査電子顕微鏡を使用して分析され、これにより、その特有な星状細胞型の衛星形態が確認された(図2A〜図2D)。
【0187】
細胞の星状細胞表現型がさらに、典型的な星状細胞マーカーによる免疫蛍光分析を使用して確認された。図3A〜図3Bに例示されるように、形態学的な変化には、S100β(星状細胞のCa+チャネルのサブユニット)およびグルタミンシンセターゼ(GS)(グルタミン酸を代謝する特有の星状細胞酵素)についての陽性の免疫染色が伴った。加えて、細胞はグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)について陽性に染色された(図4A)。
【0188】
免疫細胞化学染色データの定量化により、S100β、GFAPおよびGSについての陽性細胞の割合が20%〜30%の範囲にあることが明らかにされた。
【0189】
星状細胞マーカーの発現をさらに確認するために、リアルタイムPCR分析を行った。図4Bに明らかにされるように、GFAP転写物が10倍〜20倍アップレギュレーションされた。類似した値がS100β転写物およびGS転写物において示された。
【0190】
星状細胞は様々な神経栄養因子(NTF)のその分泌について知られているので、NTF(例えば、GDNF、NGFおよびBDNFなど)のmRNAレベルを分析した。リアルタイムPCR分析により、星状細胞に分化したhBMScは、血清非含有培地で成長させたMSCではこれらの転写物が低いか、または存在しないことと比較されるように、多量のNTF転写物を発現することが明らかにされた(図5)。抗GDNFによる免疫染色により、培養された細胞の30%がこの抗体により陽性に染色されたが明らかにされた(図6A〜図6B)。
【0191】
特異的な抗体によるELISAアッセイを使用して、NTFの産生および分泌を定量した。GDNF産生の測定を細胞抽出物(図7)および成長培地(図8A)において調べた。GDNF産生の基礎的レベルが、培養されたMSCおよび神経芽細胞腫細胞株(ラサゲレインにより処理されたSH−SY5Y)において検出されたが、培養培地では、GDNFが、分化したMSCにおいて検出されただけであった。
【0192】
そのうえ、GDNFの顕著な高まった産生および分泌が、IL−1βおよびカベルゴリン(GDNFをアップレギュレーションすることが知られている因子)を加えた後で検出された。この現象は、分化した細胞が星状細胞として応答するという考えを支持する。分泌されたGDNFおよびNGFのレベルをいくつかのドナーで比較した。分泌レベルが、GDNF(図8B)については106個の細胞あたり69pg〜140pgの間で変化し、NGF(図8C)については106個の細胞あたり356pg〜875pgの間で変化することを認めることができる。
【0193】
星状細胞は、高親和性のグルタミン酸輸送体を介するグルタミン酸のクリアランスによって、また、グルタミン酸をグルタミンシンセターゼにより代謝することによって、低い細胞外グルタミン酸濃度の維持において重要な役割を果たす。従って、分化した細胞を、グルタミン酸輸送体およびグルタミンシンセターゼの発現についてRT−PCR分析を使用して分析した。GLT−1/EAAT−2転写物の高い発現が、星状細胞に分化したhBMScにおいて見出された(図9)。グルタミン酸輸送体の活性が、MSCからではなく、分化した細胞の培養培地からの3H−グルタミン酸取り込みによって明らかであった(p<0.005)(図10)。
【0194】
より詳しいRT−PCR分析を、どの間葉性細胞マーカーが、また、どの星状細胞マーカーが本発明の細胞によって発現されたかを明らかにするために行った。これら2つの細胞タイプにおける遺伝子の発現もまた、星状細胞における遺伝子の発現(文献から得られる情報)と比較した。結果が本明細書中下記の表3にまとめられる。
【0195】
従って、本発明の分化した細胞は、間葉性幹細胞および星状細胞の両方に対して異なる特定の表現型を示すことを認めることができる。例えば、本発明の細胞は、本発明の細胞を星状細胞から区別するCD90、チロシンヒドロキシラーゼおよびH−NFを発現する。加えて、本発明の細胞は高レベルの神経栄養因子および星状細胞マーカーを発現し、このことにより、本発明の細胞は間葉性幹細胞とは区別される。
【0196】
(実施例2)
星状細胞様の分化したhBMScの線条体内移植による障害ラットの運動機能の改善
【0197】
本発明の細胞の可能な治療可能性を探るために、本発明の方法に従って分化させたHBMSCをパーキンソン病の確立されたラットモデルにおいて移植した。
【0198】
材料および方法
動物:体重が220g〜280gであるオスのSprague−Dawleyラット(Harlan、イスラエル)を6−OHDA障害実験のために使用した。すべての動物を標準的な条件で飼育した:一定の温度(22±1℃)、湿度(相対、30%)、12時間の照明:12時間の消灯のサイクル、ならびに、餌および水の自由な摂取。手術手順を、Rabin Medical CenterおよびTel Aviv University(Tel Aviv、イスラエル)の動物管理委員会の管理のもとで行った。
【0199】
6−OHDA障害:ラットをクロラール水和物(350mg/kg、i.p.)で麻酔し、定位固定フレーム(Stoeling、米国)に固定した。動物に、片側において、6−OHDA臭化水素酸塩(12μg/6μl、アスコルビン酸塩−生理的食塩水に溶解したもの)を、26ゲージのニードルを付けたHamilton 10μlシリンジを使用して、左側の線条体に2カ所で注射した(2つの深さでそれぞれの部位について6μl)。注射の座標は下記の通りであった:(1)AP:ブレグマから+0.5mm、L:側方から中央に−2.5mm、V:腹側から硬膜表面に−6.5mm、および(2)AP:−0.5mm、L:−3.7mm、V:−6.0mm(これらは定位固定アトラス(Paxinos&Watson、1986)に基づいた)。注射が完了したとき、減圧を防止するために、カニューレを、1mm/分で引き抜く前に、さらに3分間、その位置に置いたままにした。
【0200】
回旋行動の測定:障害ラットを6−OHDAの脳内注射の後の14日で回旋行動について試験した。運動の非対称性を、DAアゴニストのアポモルヒネ(Sigma、0.15mg/kg、規定生理的食塩水に溶解)を皮下注射した後1時間にわたって、自動化された回転測定装置でモニターした。線条体のDA受容体が6−OHDA障害の結果として過敏性になるので、アポモルヒネは最初の障害側に対して対側性の回旋行動を誘導する。1分あたり5回の回転速度のラットを、確立されたPDモデルであると見なし、移植実験のために使用した。この試験は、線条体におけるドーパミン欠乏の信頼できる指標として広く使用される。
【0201】
移植:6−OHDA障害後6週間で、PDモデルラットをコントロール群および実験群の2つの群に分けた。コントロール群におけるラット(n=7)には、0.9%生理的食塩水が注射された。実験群におけるラット(n=6)には、GDNF産生細胞が移植された。hBMSC星状細胞様細胞を移植前に集め、生理的食塩水において5μlあたり5x105個の生細胞で再懸濁した。細胞を、10μlのHamiltonシリンジの26ゲージニードルによって左側の線条体に一方の部位において2つの深さで定位固定により注入した(それぞれについて2.5μl)。注入のために使用された座標は下記の通りであった:(1)AP:+1.0mm、L:+3.0mm、V:−5.0mm;および(2)AP:+1.0mm、L:+3.0mm、V:−4.1mm(トゥースバー(tooth−bar)が両耳間線のレベルで設定された)。手術後、動物は、上記で記載されたように、2週間毎に回転試験を受けた。ヒトMSCが移植された場合、動物はSandimune(10mg/kg/日;Novartis)の毎日の皮下注射によって免疫抑制された。
【0202】
ロータロッド:ロータロッド課題に対する成績を移植後3ヶ月で試験した。課題は、ラットがロッドに載せられ、加速するロッドから落ちないように(16RPMまで)挑戦する3回の連続する実験からなった。それぞれの実験が、最大で2分まで続けられた。実験間の間隔は30秒であった。結果が2回の毎週の試験から得られた。
【0203】
ヒマワリ試験:この試験の目的は、ヒマワリの種子を最大で5分の期間中に開けることを動物に挑戦させることであった。この試験を行うために、動物には、過度な餌が与えられず、45mg/gk/日のみが、モニターリングを開始する前の3日間与えられた。動物を3日間訓練し、4日目および5日目に測定を行った。動物を空のゲージに入れ、種子を5分間与えた。開けて、食べた種子の数を測定した。[Gonzalez C.、Kolb B.、行動および脳形態学に対する卒中の異なるモデルの比較、E.J.Neuroscience、18(1950−1962)、2003]。
【0204】
免疫組織化学:移植後16週で、コントロール群および治療群の両方を免疫染色に供した。ラットをクロラール水和物(350mg/kg、i.p.)で深く麻酔し、65mlの冷生理的食塩水により、その後、0.1mol/lのPBS(pH7.4)における冷4%パラホルムアルデヒドの250mlにより心臓を介して灌流した。脳を取り出し、4%PFA/PBSに48時間入れ、その後、48時間、20%スクロース/PBSにおいて凍結保護し、その後、ドライアイス上のイソペンタンで凍結した。脳の連続する冠状切片をミクロトームクライオスタットで20μmの厚さで切断した。切片をPBSで3回洗浄し、続いて、PBSにおける5%正常ウマ血清(Biological Industries)において1時間ブロッキング処理した。続いて、切片を、ヒトの核に対する一次抗体(1:30、マウスモノクローナル;Chemicon International、Temecula、CA、米国)、GDNFに対する一次抗体(1:200、ウサギポリクローナル、Santa Cruz)、および、GFAPに対する一次抗体(1:100、ウサギ、DAKO)を含有する同じ溶液において24時間インキュベーションした。その後、切片をPBSで3回洗浄し、下記の二次抗体に室温で1時間さらした:ローダミンにカップリングされたヤギ抗マウスIgG(1:500;Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc.、West Grove、PA、米国)、および、Alexa−488にコンジュゲート化されたヤギ抗ウサギIgG(1:500;Molcular Probes、Eugene、OR、米国)。核を核色素のDAPI(1:200)(Sigma)により5分間染色した。最後に、切片を0.1M PBSで洗浄し、95%グリセロールとともにカバーグラスを載せた。コントロールの免疫染色実験を、(i)一次抗体、(ii)二次抗体、および、(iii)一次抗体および二次抗体の両方のいずれかを省くことによって行った。
【0205】
結果
6−ヒドロキシドーパミンを、線条体におけるドーパミン作動性ニューロンの中程度の障害を誘導するためにラットの脳に線条体内注入した。障害の程度を、同側性の回転をもたらすアポモルヒネの注入によって3週間後に測定した。星状細胞様細胞(5X105個)を、その回旋成績に基づいて事前に選択されたラットの同側の線条体に移植した。薬理学的に誘導された回旋行動を、植え付け後60日、75日および105日で、移植を受けたラット、ならびに、生理的食塩水が注入されたラットにおいて測定した。実験期間中、両方の群には、シクロスポリンが、移植体の拒絶を防止するために毎日注射された。図11に例示されるように、アポモルヒネにより誘導される回転が、移植を受けたラット(n=8)において、75日では、ベースライン状態での1時間あたり160回の回転の平均値から、1時間あたり60回の回転に、また、移植後105日では、1時間あたり50回の回転に低下した(68%および75%の低下、p<0.05)。コントロール群(n=8)は、ベースライン状態で1時間あたり155回、回転し、105日後では140回、回転した(有意な減少ではなかった)。
【0206】
移植後95日で、非薬理学的ロータロッド試験を、運動欠如の直接的な測定を得るために行った。星状細胞様細胞が移植された動物は、コントロールよりも長い期間、加速するロッドの上を歩くことができた(図12)。
【0207】
ヒマワリ摂食試験もまた、動物に適用された。移植後100日で、動物を、ヒマワリの種子を制限時間において開けるその能力について評価した(方法を参照のこと)。移植を受けた動物は、同じ時間で44個を開けたコントロールと比較して、5分間で44個の種子を開けた(p<0.05)(図13)。
【0208】
移植後110日で、動物を屠殺し、組織学研究を、移植された細胞を特定および特徴づけるために行った。抗ヒト核抗原抗体および抗GDNF抗体を、移植されている分化した細胞を特定するために使用した(図14A〜図14E)。免疫染色および共焦点顕微鏡観察による研究により、ヒト抗原について陽性であった細胞の25%までがGFAPについてもまた陽性であったことが明らかにされた。これらの結果は、星状細胞様細胞が線条体におけるドーパミン欠乏を回復することができ、また、おそらくは、他の神経変性疾患において有益であることを示している。
【0209】
(実施例3)
星状細胞様の分化したhBMScの筋肉内移植によるALSのトランスジェニックマウスモデルの運動機能の改善
【0210】
材料および方法
動物モデル:TgN(SOD1−G93A)1Gurトランスジェニックマウス(Gurney、1994)のコロニーをJackson Laboratory(米国)から得た。マウスをCSJLF1において交配し、1月齢で、子孫を、下記のPCRプライマーを使用してPCR分析によって遺伝子型決定した。
アニーリング温度は53℃であり、PCR生成物は、236bp(hSOD1)、324bp(IL2)であった。この研究で使用されることになったマウスは3月齢までは健康であり、4月齢〜5月齢の間で完全に麻痺した。動物実験はTel−Aviv Universityによって承認および管理された。
【0211】
細胞移植および行動:40日目に、0.5x106個の、ヒト星状細胞に分化した細胞(これは実施例1に記載されるように調製された)を2本の足において腓腹筋内に移植した。運動成績を、加速された回転によるロータロッド装置によって2週間毎に評価した。
【0212】
組織病理学的評価:マウスを110日目に屠殺し、足を4℃で4%パラホルムアルデヒド/0.1Mリン酸塩緩衝液(pH7.4)に入れた。パラフィンブロックを調製し、抗ヒト抗原抗体により免疫染色した。
【0213】
統計学的分析:比較を、3つ以上の群が関わったとき、事後ダネット検定によるANOVAによって行った。データが正規分布でなかったならば、ノンパラメトリック検定(マン・ホィットニーのU検定)を結果の比較のために使用した。データを平均±s.e.m.として表した。
【0214】
結果
星状細胞に分化した細胞(0.5x106個)を、40日目に、hmSODマウス(n=8)に筋肉内移植した(足)。並行群には生理的食塩水を注射した。加えて、野生型マウス(n=8)およびmhSOD Tgマウス(n=8)を陽性コントロールおよび陰性コントロールとして使用した。
【0215】
行動評価を、40日目から死亡まで(120日目〜140日目まで)、2週間毎にロータロッドで行った(M&Mを参照のこと)。図15に示されるように、運動成績における低下(すなわち、ALSの症状)が細胞移植マウスでは著しく遅れた。
【0216】
動物の体重を測定し、移植群と、コントロールとの間で比較し、統計学的に分析した。コントロール群は、移植群よりも著しく大きい(p<0.05)体重減少を示した(図16)。
【0217】
組織学的研究を抗ヒト核抗原抗体により110日目に行い、植え付けられた細胞が生存していたことが示された(図17A〜図17C)。
【0218】
分かりやすくするため別個の実施態様で説明されている本発明のいくつもの特徴は、組み合わせて単一の実施態様にして提供することもできることは分かるであろう。逆に簡略化するため単一の実施態様で説明されている本発明の各種特徴は、別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0219】
本発明を、その具体的実施態様とともに説明してきたが、多くの代替、変形および変更が当業技術者には明らかであることは明白である。したがって、本発明は、本願の特許請求の範囲の精神と広い範囲内に入っているこのような代替、変形および変更をすべて含むものであることを意図する。本明細書に記載のすべての刊行物、特許および特許出願は、あたかも、個々の刊行物、特許または特許出願各々が、本願に具体的にかつ個々に参照して示されているように、本願に援用するものである。さらに、本願における任意の文献の引用もしくは確認は、このような文献が本発明に対する従来技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0220】
【図1】5日目の分化したヒトMSCおよび分化していないヒトMSCの光学顕微鏡観察画像である。
【図2】5日目の分化したヒトMSC(図2B〜図2D)および分化していないヒトMSC(図2A)の走査電子顕微鏡観察画像である。
【図3】分化したヒトMSCにおける星状細胞マーカーの発現を例示する顕微鏡写真である。
【図4】分化したヒトMSCにおける星状細胞マーカーのグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現を例示する顕微鏡写真および棒グラフである。
【図5】分化していないヒトMSCと比較して、分化したヒトMSCにおける神経栄養因子転写物の量を例示する棒グラフである。
【図6】分化したヒトMSCにおけるGDNFの発現を例示する顕微鏡写真および棒グラフである。
【図7】分化したヒトMSCにおいて細胞に存在するGDNFの量を例示する棒グラフである。
【図8A−C】分化したヒトMSCによって分泌されたGDNF、BDNFおよびNGFの量を例示する棒グラフである。
【図8D】分化したヒトMSCによって分泌されたGDNF、BDNFおよびNGFの量を例示する棒グラフである。
【図9】MSCの分化の後におけるグルタミン酸輸送体(GLASTおよびGLT−1)の発現を例示する棒グラフである。
【図10】hBMSCの星状細胞分化の前後におけるグルタミン酸輸送体の機能的活性を例示する棒グラフである。
【図11】星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの行動における改善を例示する線グラフである。
【図12】星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットのロータロッドアッセイにおける改善を例示する棒グラフである。
【図13】星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの微妙な運動機能における改善を例示する線グラフである。
【図14】星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの細胞に対する共焦点顕微鏡観察画像である。
【図15】ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが疾患の発症を遅らせ、ロータロッドにおけるその運動成績を改善することを例示する線グラフである(n=8、p<0.05)。
【図16】ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが体重減少を遅らせることを例示する線グラフである。
【図17】星状細胞に分化したhBMScが移植されたALSマウスの細胞に対する共焦点顕微鏡観察画像であり、ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが移植後110日を生存することを例示する。
【配列表フリーテキスト】
【0221】
配列番号1〜56は一本鎖DNAオリゴヌクレオチドの配列である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、CNS疾患を治療するために使用することができる細胞およびその集団に関連する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、振せん、硬直および運動失調などの症状によって現れる運動機能の進行性の喪失をやがてはもたらす、中脳の黒質におけるドーパミン産生ニューロンの進行性の喪失によって特徴づけられる加齢性障害である。
【0003】
PDのための現在の治療法は、一般にはドーパミン前駆体のL−DOPA(L−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン)の投与によって、ドーパミンの枯渇を回復することに集中する。L−DOPA(血液脳関門(BBB)を透過するドーパミン前駆体)はドーパミンの合成および放出を首尾よく増大させる。しかしながら、疾患が進行するに従い、ドーパミンを前駆体から合成するために利用することができるドーパミン作動性ニューロンが少なくなり、治療の有効性が低下し、その一方で、L−DOPAにより誘導されるジスキネジーが現れる。ドーパミンアゴニスト、モノアミンオキシダーゼ阻害剤またはCOMT阻害剤による他の治療でもまた、部分的な改善が明らかにされるが、それらは疾患の進行を防止することができない。
【0004】
細胞移植が、失われつつあるドーパミン作動性ニューロンを修復および代用するための代替治療選択肢として提案されている。そのような細胞置換治療が機能するためには、移植された細胞が、損傷を受けた組織の内部において、生存し、かつ、機能的および構造的の両方で一体化しなければならない。
【0005】
幹細胞をパーキンソン病のための細胞置換治療での細胞源として使用することが近年、提案されている。幹細胞には、未分化の状態でインビボで存在し、かつ、自己再生する能力がある。幹細胞は、起源となった組織に対して特異的な細胞タイプに限定されず、従って、他の組織からの局所的な環境的合図に応答して分化することができる。自己再生および分化のこの能力は、様々な疾患を治療する際において最大の治療可能性を有する。
【0006】
パーキンソン病において、幹細胞置換法は、ドーパミン(DA)神経伝達の回復が、残存する組織に時間とともに一体化し、長く持続する機能的な組織を生じさせる細胞移植片によって達成されるという考えに基づく。PDにおける移植のために幹細胞を処理する方法が2つある。第1の方法では、移植前に、細胞がドーパミン作動性ニューロンにインビトロで分化させられる。これは、関連する細胞の標準化および品質管理を可能にする。第2の方法は、線条体または黒質に埋め込まれた後でドーパミン作動性ニューロンにインビボで分化すると考えられる未分化幹細胞を移植することを含む。
【0007】
理論的には、PDにおける細胞治療のためのDAニューロンは、下記の4つの異なる源に由来する幹細胞から作製することができる:胎児のドーパミン作動性ニューロン、神経幹細胞、胚性幹細胞および骨髄幹細胞。
【0008】
骨髄は幹細胞の2つの大きな集団を含有する:造血幹細胞(HSC)、および、骨髄間質細胞と呼ばれることがある間葉性幹細胞(MSC)。
【0009】
ラットのBMSCは、分化後、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、コリンアセチルトランスエステラーゼおよびβ−IIIチューブリンを発現することが示された[Woodbury,D.他、J Neurosci Res、69(6):908〜17、2002]。PDにおけるマウスBMSCの臨床での治療可能性が、マウスBMSCをPDの1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)マウスモデルに線条体内注入することによって明らかにされた。移植された細胞は生存し、THを発現した。そのうえ、移植後35日でのロータロッド試験に対する改善が示された[Li,Y.他、Neurosci Lett、316(2):67〜70、2001]。
【0010】
本発明者らの米国特許出願公開20050265983は、中脳のDAニューロンを特徴づけるニューロンマーカーおよび転写因子をニューロン分化の誘導の後で発現したヒトのドーパミン合成MSCを教示する。
【0011】
細胞置換法の代替法として、移植された細胞が生存し、形態学的、電気生理学的および機能的なドーパミン作動特性を有しなければならない場合、細胞治療は、線条体の正常な解剖学的構造(結合性)および生理学(適切なシナプス接触および機能発現)を回復または再確立することに向けられ得る。
【0012】
神経栄養因子(NTF)は、ニューロン細胞の生存、機能維持および表現型発達を調節する分泌型タンパク質である。NTFレベルでの変化が、ニューロンにおけるプログラム化された細胞死の引き金となることに関与し、従って、パーキンソン病および他の神経変性疾患の病理発生の一因である。
【0013】
ドーパミン作動性ニューロンに対する最も強力なNTFの1つがグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)と呼ばれる。これは、黒質におけるドーパミン作動性ニューロの生存を促進すること、神経突起の成長を促進すること、細胞体サイズを増大させること、同様にまた、THのレベルを上昇させることが知られている。GDNFは、現時点では下記の4つの神経栄養因子からなる、TGF−βスーパーファミリーに関連するタンパク質ファミリーに属する:GDNF、ニュールチュリン(NTN)、ペルセフィンおよびアルテミン/ニューブラスチン。これらの因子は、細胞増殖および細胞分化の調節因子として働くことが知られている。
【0014】
神経前駆体細胞(ST14A)の分析により、GDNFの過剰産生が、軸索の出芽、神経突起の成長、棘形成、小胞輸送およびシナプス可塑性に関与する遺伝子のアップレギュレーションに関連し得ることが解明された[Pahnke J他、Exp Cell Res、297(2):484〜94、2004]。GDNFの神経保護活性が、抗酸化性の酵素系(例えば、グルタチオンペルオキシダーゼ活性、スーパーオキシドディスムターゼ活性およびカタラーゼ活性など)のその活性化を介することもまた示唆された[Chao CC、Lee EH、Neuropharmacology、38(6):913〜6、1999]。
【0015】
様々な細胞のタイプがGDNFを産生しており、これらには、グリア細胞(乏突起神経膠細胞および星状細胞)、神経芽細胞腫細胞株および神経膠芽細胞腫細胞株が含まれる。20%ウシ胎児血清が補充されたDMEMで培養されたラットBMSCが、6回目の継代培養を行ったとき、GDNFおよびNGFを発現することが近年、示されている[Garcia R他、Biochem Biophys Res Commun、316(3):753〜4、2004]。
【0016】
GDNFの合成は、様々な増殖因子、ホルモン、サイトカインおよび神経伝達物質によって調節され得る。例えば、腫瘍壊死因子−αまたはインターロイキン−1は神経膠芽細胞腫細胞からのGDNFの放出を誘導する。フォルスコリンまたはcAMPは、神経芽細胞腫および神経膠芽細胞腫の両方の細胞株によるGDNF放出における増大を引き起こす。これらの細胞は、神経伝達物質がストレス条件下での増殖因子の産生を調節することを可能にする神経伝達物質受容体を含む。
【0017】
GDNFを直接に脳内に投与することが、PDの様々な動物モデルにおいて効果的であることが示されている。加えて、細胞を移植前にGDNFにさらすことが有益であると判明している。例えば、400000個の胎児ドーパミン作動性ニューロンを移植前にグラフト化することにより、障害ラットの回旋行動が著しく改善された[Mehta V他、J Neurosurg、1999(Apr)、90(4):804〜6]。
【0018】
様々な方法が、GDNFを脳内に投与することを助けるために使用されており、それらには、浸透圧ポンプ、カプセルおよびミクロスフェアが含まれる。GDNF送達のための別の方法がインビボ遺伝子治療である。GDNFを発現するように遺伝子操作され、MPTP障害マウスに移植された骨髄間葉性細胞は黒質ニューロンならびに線条体繊維を保護することができた[Park,K.、Neurosci.Res.、40:315〜323、2001]。
【0019】
いくつかの研究では、種々の因子にインビトロでさらされた後のMSCはその表現型を変化させ、ニューロンマーカーおよび神経膠マーカーを明らかにすることが示されている[Kopen,G.C.他、Proc Natl Acad Sci USA、96(19):10711〜6、1999;Sanchez−Ramos他、Exp Neurol、164(2):247〜56、2000;Woodbury、D.他、J Neurosci Res、61(4):364〜70、2000;Woodbury、D.、J Neurosci Res、69(6):908〜17、2002;Black,I.B.、Woodbury、D.、Blood Cells Mol Dis、27(3):632〜6、2001;Kohyama,J.他、Differentiation、68(4−5):235〜44、2001;Levy,Y.S.、J Mol Neurosci、21(2):121〜32、2003]。
【0020】
しかしながら、これらの研究はどれも、著しいレベルの神経栄養因子を分泌することができるヒトMSCを示していない。
【0021】
従って、神経変性障害を治療するために神経栄養因子(例えば、GDNFなど)を合成することができる移植可能な細胞が必要であることが広く認識されており、そのような移植可能な細胞を有することは非常に好都合である。
【発明の開示】
【0022】
本発明によれば、少なくとも1つの星状細胞表現型と、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型とを含む単離されたヒト細胞が提供される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、星状細胞型構造的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型と、少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型とを含む単離されたヒト細胞が提供される。
【0024】
本発明のさらに別の態様によれば、星状細胞型機能的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型と、少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型とを含む単離されたヒト細胞が提供される。
【0025】
本発明のなおさらに別の態様によれば、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含み、少なくとも1つの神経栄養因子を発現する単離されたヒト細胞が提供され、この場合、その発現は、間葉性幹細胞におけるその神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きい。
【0026】
本発明のさらなる態様によれば、
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞表現型を含む;
(ii)ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが、少なくとも1つの星状細胞表現型と、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団が提供される。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの神経栄養因子を発現し、この場合、その発現は間葉性幹細胞におけるその神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きい;
(ii)ヒト細胞の少なくともM%が少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが少なくとも1つの神経栄養因子および少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を発現する;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団が提供される。
【0028】
本発明のなおさらなる態様によれば、
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型を含む;
(ii)ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞型構造的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが、少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型と、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団が提供される。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型を含む;
(ii)ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞型機能的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが、少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型と、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団が提供される。
【0030】
本発明のさらなる態様によれば、間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)およびヒトニューレグリン1−β1を含む分化培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法が提供される。
【0031】
本発明のなおさらなる態様によれば、間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)、ヒトニューレグリン1−β1、FGF2、EGF、N2、IBMXおよびcAMPからなる群から選択される少なくとも1つの分化因子を含む培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法が提供される。
【0032】
本発明のなおさらなる態様によれば、治療効果的な量の星状細胞様細胞をその必要性のある個体に投与し、それにより、CNS疾患またはCNS障害を治療することを含む、CNS疾患またはCNS障害を治療する方法が提供される。
【0033】
本発明のなおさらなる態様によれば、CNS疾患またはCNS障害を治療するための星状細胞様細胞の使用が提供される。
【0034】
本発明のなおさらなる態様によれば、請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれかに記載される細胞または細胞集団のいずれかを活性な作用因として含み、かつ、医薬的に許容され得るキャリアを含む医薬組成物が提供される。
【0035】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、細胞は遺伝子操作されない。
【0036】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つの星状細胞表現型は構造的表現型である。
【0037】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つの星状細胞表現型は機能的表現型である。
【0038】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞はさらに星状細胞型機能的表現型を含む。
【0039】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型機能的表現型は間葉性幹細胞表現型ではない。
【0040】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞はさらに星状細胞型構造的表現型を含む。
【0041】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞はさらに星状細胞型構造的表現型を含む。
【0042】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型構造的表現型は間葉性幹細胞表現型ではない。
【0043】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型構造的表現型は、細胞サイズ、細胞形状、オルガネラサイズおよびオルガネラ数である。
【0044】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型構造的表現型は少なくとも1つの星状細胞マーカーの発現である。
【0045】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞マーカーは表面マーカーである。
【0046】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞マーカーは内部マーカーである。
【0047】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞型機能的表現型は、少なくとも1つの神経栄養因子を間葉性幹細胞におけるその神経栄養因子の基礎的産生よりも少なくとも2倍大きいレベルで発現することである。
【0048】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つの神経栄養因子は、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、ニューロトロフィン−4/5、ニュールツリン(NTN)、ペルセフィン、脳由来神経栄養因子(BDNF)、アルテミン(ART)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インスリン様成長因子−I(IGF−1)およびニューブラスチンからなる群から選択される。
【0049】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つの神経栄養因子はGDNFである。
【0050】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、星状細胞マーカーは、S100β、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、グルタミンシンセターゼ、GLT−1およびGLASTからなる群から選択される。
【0051】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、GDNFの分泌がIL−1βおよび/またはカベルゴリンによって調節される。
【0052】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、インキュベーションの継続期間が約48時間である。
【0053】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、PDGFの濃度が約5ng/mlである。
【0054】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、ヒトニューレグリン1−β1の濃度が約50ng/mlである。
【0055】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、分化培地はさらに、L−グルタミン、ジブチリル環状AMPおよびイソブチルメチルキサンチンIBMXを含む。
【0056】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、本発明の方法はさらに、細胞を、インキュベーションする前にさらなる培地で培養し、それにより、細胞を星状細胞様細胞に分化しやくすることを含む。
【0057】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、さらなる培地はヒト上皮増殖因子(hEGF)およびヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)を含む。
【0058】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、hEGFの濃度が約20ng/mlである。
【0059】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、hbFGFの濃度が約20ng/mlである。
【0060】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、さらなる培地はさらに、L−グルタミン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、セレンおよびトランスフェリンを含む。
【0061】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、培養の継続期間は約48時間である。
【0062】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、間葉性幹細胞が、(a)間葉性幹細胞を含む細胞の集団を、間葉性幹細胞を維持および/または拡大培養することができる増殖培地で培養する工程;および(b)間葉性幹細胞を工程(a)から得られる細胞から選択する工程によって得られる。
【0063】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、工程(b)が、表面に接着している細胞を集めることによって行われる。
【0064】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、本発明の方法はさらに、少なくとも1つの神経伝達物質を内因的に合成することができる幹細胞を個体に投与することを含む。
【0065】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、CNS疾患またはCNS障害は神経変性疾患または神経変性障害である。
【0066】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、CNS疾患またはCNS障害は、運動障害、解離性障害、気分障害、情動障害、常習性障害および痙攣性障害からなる群から選択される。
【0067】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、神経変性障害は、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかん、筋萎縮性側索硬化症、卒中、自己免疫性脳脊髄炎、糖尿病性神経障害、緑内障性神経障害、アルツハイマー病およびハンチングトン病からなる群から選択される。
【0068】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞は自己の細胞である。
【0069】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、細胞は非自己の細胞である。
【0070】
本発明は、神経栄養因子を分泌することができる細胞およびその集団を提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。
【0071】
別途定義されない場合、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と同様または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。本明細書中で言及された全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、全体を参考として援用される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。また、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【0072】
図面の簡単な記述
本発明は、例示のみを目的とし、添付されている図面を参照して、本明細書中に記載される。次に図面を詳しく具体的に参照して、示されている項目は、例としてであり、また、本発明の好ましい実施形態の例示的な議論のためのものであり、従って、本発明の原理および概念的態様の最も有用かつ容易に理解された記述であると考えられるものを提供するために示されていることが強調される。これに関して、記述を図面と一緒に理解することにより、本発明のいくつかの形態が実際にどのように具体化され得るかが当業者には明らかになるので、発明の構造的詳細を、発明の基本的な理解のために必要であるよりも詳細に示すことは試みられていない。
図1A〜図1Bは、5日目の分化したヒトMSCおよび分化していないヒトMSCの光学顕微鏡観察画像である。分化したヒトMSCは星状細胞様の形態学(例えば、典型的な星状体様構造など)を明らかにする(光学顕微鏡観察)。
図2A〜図2Dは、5日目の分化したヒトMSC(図2B〜図2D)および分化していないヒトMSC(図2A)の走査電子顕微鏡観察画像である。分化したヒトMSCは星状細胞様の形態を明らかにする。
図3A〜図3Bは、分化したヒトMSCにおける星状細胞マーカーの発現を例示する顕微鏡写真である。免疫染色を、抗S100β(図3A)および抗グルタミンシンセターゼ(図3B)を用いて、分化したヒトhBMScに対して行った。細胞の核を、DAPIを使用して染色した(青色)。
図4A〜図4Bは、分化したヒトMSCにおける星状細胞マーカーのグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現を例示する顕微鏡写真および棒グラフである。免疫染色を、抗GFAPを用いて、分化したヒトhBMScに対して行い、また、細胞の核を、DAPIを使用して染色した(青色)(図4A)。図4Bは、プライマー(配列番号11および配列番号12)を使用してリアルタイムPCRによって分析されたときの、分化したヒトMSCの細胞抽出物におけるGFAPのレベルを例示する棒グラフである。
図5は、分化していないヒトMSCと比較して、分化したヒトMSCにおける神経栄養因子転写物の量を例示する棒グラフである。細胞抽出物を、GDNF転写物(配列番号3および配列番号4)、NGF転写物(配列番号9および配列番号10)およびBDNF転写物(配列番号5および配列番号6)についてのリアルタイムPCRアッセイに供した。
図6A〜図6Bは、分化したヒトMSCにおけるGDNFの発現を例示する顕微鏡写真および棒グラフである。免疫染色を、抗GDNFを用いて、分化したヒトhBMScに対して行った。細胞の核を、DAPIを使用して染色した(青色)(図6A)。図6Bは、抗GDNFにより陽性に染色された細胞の数が約30%であったことを例示する(*P<0.05、n=3、nあたりの計数された平均細胞=415.5±37.5)。GDNF細胞の数を、3つの独立した培養物からの15の視野を調べることによって評価した。これらのサンプルにおける細胞総数を、DAPI染色された細胞の核を計数することによって求めた。結果が陽性細胞の(平均±SEM)パーセントとして表される。
図7は、分化したヒトMSCにおいて細胞に存在するGDNFの量を例示する棒グラフである。GDNFの産生を、ELISAによって、分化したhBMScの細胞抽出物においてアッセイした。結果は3つの独立した実験の平均±S.D.である。p<0.05である差(*)は、コントロールと比較したときに有意であった。分化した細胞を、分化を48時間にわたって開始させた後24時間、カベルゴリン(130pg/ml)およびIL−1β(100pg/ml)とインキュベーションした。
図8A〜図8Dは、分化したヒトMSCによって分泌されたGDNF、BDNFおよびNGFの量を例示する棒グラフである。図8Aは、GDNFの分泌に対する、カベルゴリン(130pg/ml)およびIL−1β(100pg/ml)の48時間のインキュベーションの影響を例示する。培養培地を72時間の分化の後で集め、ELISAを使用して分析した。結果は3つの独立した実験の平均±S.D.である。p<0.05である差(*)は、コントロールと比較したときに有意であった。分化した細胞の培地はまた、GDNF(図8B)およびNGF(図8C)についてもアッセイした(ドナー#14−2、ドナー#8−10またはドナー#H1−2−7)。青色の棒は分化後の分泌を示し、赤色の棒は分化前の分泌を示す。図8Dは、3名の異なるドナーに由来するMSCにおけるBDNF分泌に対する48時間の分化の影響を例示する。
図9は、MSCの分化の後におけるグルタミン酸輸送体(GLASTおよびGLT−1)の発現を例示する棒グラフである。これらのグルタミン酸輸送体の発現を、血清非含有培地で成長させたhBMSc、および、星状細胞に分化したhBMScから抽出された総RNAに対して行われたリアルタイムPCRによって評価した。GLASTのためのプライマーが配列番号7および配列番号8であり、GLT−1のためのプライマーが配列番号13および配列番号14であった。サンプルはまた、任意の単位(独立した培養物に対して行われた三連の測定からの平均±SEM)で表されるPCR生成物の定量的分析を可能にするGAPDHのPCR増幅において使用された。統計学的分析を、一元配置anova、それに続く、多重比較のためのニューマン・クールズ検定によって行った。*(p<0.05)は、血清非含有培地で維持された細胞からの有意な差を示す。
図10は、hBMSCの星状細胞分化の前後におけるグルタミン酸輸送体の機能的活性を例示する棒グラフである。[3H]d−アスパラギン酸の取り込み(20nm)を、血清非含有培地で成長させた細胞と比較して、分化培地で成長させたhBMSCにおいて測定した。示されたデータは、3つの独立した培養物に対して行われた三連の測定からの平均±SEMである。統計学的分析を、一元配置anova、それに続く、多重比較(p<0.05)のためのニューマン・クールズ検定によって行った。
図11は、星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの行動における改善を例示する線グラフである。ラットには、5X105個の細胞が障害後6週間で同側の線条体に注入されて移植された。アポモルヒネ(0.15mg/kg、s.c.)により誘導された旋回行動を60分あたりの平均旋回数について記録した。移植ラットは、移植後75日で、回転における顕著な減少(p<0.05)を示した。
図12は、星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットのロータロッドアッセイにおける改善を例示する棒グラフである。ロータロッド成績(ロッド上での秒数)を同じラットにおいて移植後95日で観察した。移植ラットは顕著な改善(p<0.05)を示した(フリードマンanovaの後での多重比較検定、P<0.05)。
図13は、星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの微妙な運動機能における改善を例示する線グラフである。ヒマワリ種子摂食試験を移植後100日で行った。星状細胞が移植されたラットは、生理的食塩水により治療されたラットと比較して、はるかに速く、5分の期間中に種子を開け、食べた。結果は、2日続けて行われた2回試験の平均±SEMである。
図14A〜図14Eは、星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの細胞に対する共焦点顕微鏡観察画像である。移植後110日で、動物を屠殺し、組織化学研究を行った。図14AはDAPI染色を例示する。図14Bはヒト核抗原染色を例示する。図14CはGFAP染色を例示する。図14Dは、3つの染色のすべてを重ねたものである。免疫染色および共焦点顕微鏡観察による研究により、ヒト抗原について陽性であった細胞の25%までがGFAPについてもまた陽性であったことが明らかにされた。
図15は、ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが疾患の発症を遅らせ、ロータロッドにおけるその運動成績を改善することを例示する線グラフである(n=8、p<0.05)。
図16は、ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが体重減少を遅らせることを例示する線グラフである。
図17A〜図17Cは、星状細胞に分化したhBMScが移植されたALSマウスの細胞に対する共焦点顕微鏡観察画像であり、ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが移植後110日を生存することを例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
本発明は、数多くの神経変性疾患を治療するために患者に移植することができる細胞およびその集団に関連する。
【0074】
本発明の原理および操作は、図面および付随する記述を参照してより良好に理解され得る。
【0075】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施または実行されることが可能である。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであり、限定であるとして見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0076】
神経栄養因子(NTF)は、ニューロン細胞の生存、機能維持および表現型発達を調節する分泌型タンパク質である。NTFレベルでの変化が、ニューロンにおけるプログラム化された細胞死の引き金となることに関与し、従って、パーキンソン病および他の神経変性疾患の病理発生の一因である。
【0077】
ドーパミン作動性ニューロンに対する最も強力なNTFの1つがグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)と呼ばれる。これは、黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの生存を促進すること、神経突起の成長を促進すること、細胞体サイズを増大させること、同様にまた、THのレベルを上昇させることが知られている。
【0078】
しかしながら、一般には神経栄養因子の直接的な使用、具体的にはGDNFの直接的な使用は、それらが全身的注射の後で血液脳関門を通過せず、また、適切に分布しないので阻まれている。従って、他の方策を、それらの治療的特性を活用するために開発しなければならない。
【0079】
本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、特定の培養条件のもとで、間葉性幹細胞(MSC)が、神経栄養因子を分泌することができる星状細胞表現型を有する細胞に分化し得ることを見出している。この結果は、ドナーおよび継代培養の両方に依存しないことが示された。それに従って、本発明者らは、そのような分化したMSCが、移植後、神経変性疾患の患者を治療するために使用できることを示している。
【0080】
本発明者らは、新規な2段階プロトコルに従って分化させたMSCが、星状細胞マーカーの存在(図3A〜図3Bおよび図4A〜図4B)を伴う星状細胞様の形状(図1A〜図1Bおよび図2A〜図2D)を表すことを示している。このような星状細胞様細胞は、著しいレベルのGDNF、BDNFおよびNGFの発現(図5)および分泌(図8A〜図8D)をもたらすことが示された。そのうえ、NTFの産生がカベルゴリン(D2受容体アゴニスト)およびIL−1によってさらにアップレギュレーションされた(図7および図8A)。加えて、この星状細胞様細胞はグルタミン酸クリアランス機構を有していた(図10)。
【0081】
6−OHDA障害ラット(パーキンソン病についてのラットモデル)の線条体およびALSトランスジェニックマウスの足筋肉に移植した後、そのような細胞は生存し、ロータロッド試験によって調べられた行動欠損、および、アポモルヒネにより誘導された回旋行動を改善した(図11〜図17A〜図17C)。
【0082】
従って、本発明の1つの態様によれば、間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)およびヒトニューレグリン1−β1を含む分化培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法が提供される。
【0083】
本明細書中で使用される表現「星状細胞様細胞」は、星状細胞様細胞が星状細胞の活性(すなわち、ニューロンの支援)をインビボで媒介することを可能にする少なくとも1つの星状細胞表現型を含む細胞を示す。
【0084】
そのような表現型が本明細書中下記においてさらに記載される。
【0085】
用語「間葉性幹細胞」または用語「MSC」は、最終分化していない成熟細胞、すなわち、幹細胞である細胞を生じさせるために分裂することができる成熟細胞、または、間葉性細胞系譜の細胞を生じさせるために不可逆的に分化する成熟細胞について交換可能に使用される。本発明の間葉性幹細胞は供給源が同系または同種であってもよいが、同系の供給源が好ましい。
【0086】
本発明のこの態様の好ましい実施形態によれば、間葉性幹細胞は、本明細書中に記載される細胞および細胞集団を作製するために遺伝子操作されない(すなわち、発現構築物により形質転換されない)。
【0087】
本発明の細胞は、好ましくはES細胞に由来しないが、任意の幹細胞に由来し得ることが理解される。
【0088】
間葉性幹細胞を、骨髄、末梢血、血液、胎盤および脂肪組織(これらに限定されない)をはじめとする様々な組織から単離することができる。間葉性幹細胞を末梢血から単離する方法がKassis他によって記載される[Bone Marrow Transplant、2006(May);37(10):967〜76]。間葉性幹細胞を胎盤組織から単離する方法がZhang他によって記載される[Chnese Medical Journal、2004、117(6):882〜887]。脂肪組織、胎盤および臍帯血の間葉性幹細胞を単離および培養する方法がKern他によって記載される[Stem Cells、2006、24:1294〜1301]。
【0089】
本発明のこの態様の好ましい実施形態によれば、間葉性幹細胞はヒト由来である。
【0090】
骨髄を吸引によって個体の腸骨稜から単離することができる。低密度BM単核細胞(BMMNC)をFICOL−PAGUE密度勾配によって分離することができる。間葉性幹細胞を得るために、間葉性幹細胞(例えば、BMMNC)を含む細胞集団を、細胞を維持および/または拡大培養することができる増殖培地で培養することができる。1つの実施形態によれば、そのような集団は(例えば、フラスコにおける)ポリスチレンプラスチック表面に置かれ、間葉性幹細胞が、非接着性細胞を除くことによって単離される。あるいは、間葉性幹細胞を、間葉性幹細胞マーカーを使用してFACSによって単離することができる(本明細書中下記における表1を参照のこと)。
【0091】
好ましくは、MSCは少なくとも50%精製され、より好ましくは、少なくとも75%精製され、一層より好ましくは、少なくとも90%精製される。
【0092】
単離後、細胞は、典型的には、単離された細胞を、本明細書中下記において実施例1に記載されるように、エクスビボで維持および/または拡大培養することができる増殖培地で培養することによって拡大培養される。増殖培地は、DMEM、α−MEMまたはDMEM/F12であり得る。好ましくは、増殖培地はDMEMである。好ましくは、増殖培地はさらに、例えば、下記の実施例の節の実施例1に記載されるように、SPN、L−グルタミンおよび血清(例えば、ウシ胎児血清またはウマ血清など)を含む。
【0093】
星状細胞様細胞への分化を、MSCを分化培地(例えば、米国特許第6528245号に記載される分化培地、および、Sanchez−Ramos他(2000);Woodburry他(2000);Woodburry他(J.Neurisci.Res.、96:908〜917、2001);BlackおよびWoodbury(Blood Cells Mol.Dis.、27:632〜635、2001);Deng他(2001);Kohyama他(2001);ReyesおよびVerfatile(Ann.N.Y.Acad.Sci.、938:231〜235、2001);Jiang他(Nature、418:47〜49、2002)によって記載される分化培地など)でインキュベーションすることによって行うことができる。
【0094】
BMScは、好ましくは、「分化培地」におけるそのインキュベーションに先立って、少なくとも24時間、好ましくは48時間、「さらなる培地」でインキュベーションされる。「分化培地」におけるインキュベーションは少なくとも24時間続き、好ましくは、少なくとも48時間続く。
【0095】
分化培地(さらなる分化培地を含む)はDMEMまたはDMEM/F12であってもよく、好ましくはDMEMである。好適な「さらなる培地」は、細胞に星状細胞様の分化を受けやすくすることができる任意の成長培地(例えば、上皮増殖因子hEGF(例えば、20ng/ml)および/または塩基性線維芽細胞増殖因子(例えば、20ng/ml)が補充された成長培地など)であり得る。好ましくは、さらなる培地はまた、N2補充物(インスリン、プロゲステロン、プトレシン、セリンおよびトランスフェリン)を含む。
【0096】
本発明の分化培地は、好ましくは、血小板由来増殖因子(例えば、5ng/ml)およびヒトニューレグリン1−β1(例えば、50ng/ml)を含む。「分化培地」は、好ましくは、分化因子(例えば、IL−1βおよび/またはdbcAMPなど)を含む。
【0097】
好ましくは、分化培地はさらに、SPN、L−グルタミン、補充物(例えば、N2またはB27など)、抗生物質(例えば、IBMX)および血清(ウシ胎児血清(FCS、FBS)またはウマ血清など)を含む。
【0098】
本発明の別の態様によれば、間葉性幹細胞は、本発明の星状細胞様細胞を作製するために、少なくとも1つの分化因子を含む培地でインキュベーションされる。分化因子の例には、血小板由来増殖因子(PDGF)、ヒトニューレグリン1−β1、FGF2、EGF、N2補充物、IBMXおよびcAMPが含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
分化培地(さらなる分化培地を含む)はまた、他の因子、例えば、神経栄養因子(例えば、BDNF、CNTF、GDNF、NTN、NT3またはLIF)、ホルモン、増殖因子(例えば、GGF2、TGF−β3、TGF−α、FGF−8およびbFGF)、ビタミン、ホルモン(例えば、インスリン、プロゲステロン)および他の因子(例えば、ソニックヘッジホッグなど)、骨形態形成タンパク質、フォルスコリン、レチノイン酸、アスコルビン酸、プトレシン、セレンおよびトランスフェリン)を含むことができる。
【0100】
例示的な分化培地が本明細書中下記において実施例1に記載される。
【0101】
本明細書中に記載される方法に従って得られた細胞集団は典型的には均一でない。
【0102】
従って、本発明の別の態様によれば、
(i)細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞表現型を含む;
(ii)細胞の少なくともM%が、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)ヒト細胞の少なくとも1つが、少なくとも1つの星状細胞表現型と、少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞の単離された集団が提供される。
【0103】
本明細書中で使用される用語「単離された」は、そのインビボでの存在位置(例えば、骨髄、神経組織)から取り出されている細胞の集団を示す。好ましくは、単離された細胞集団は、そのインビボでの存在位置に存在する他の物質(例えば、他の細胞)を実質的に含まない。
【0104】
本明細書中で使用される表現「星状細胞表現型」は、本発明の分化したMSCと、分化していないMSCとを識別するために使用することができる、星状細胞に典型的である(例えば、特有である)構造的パラメーターおよび/または機能的パラメーターを示す。星状細胞表現型は、本発明の分化したMSCと、分化していないMSCとを識別するために使用することができる1つだけの特徴または多数の特徴を含むことができる。
【0105】
機能的パラメーターは構造的パラメーター(例えば、分泌小胞の存在)と重なり得ることが理解される。
【0106】
好ましくは、機能的な星状細胞表現型は、神経栄養因子を、分化していないヒト間葉性幹細胞におけるその神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きいレベルで発現する能力を含む。
【0107】
本明細書中で使用される用語「発現する」は、上記で述べられた神経栄養因子の合成および/または分泌を示す。神経栄養因子はその影響を細胞外で誘発するので、好ましくは、神経栄養因子の分泌が本発明の集団の細胞では増大する。好ましい実施形態によれば、分泌は、分化していないヒト間葉性幹細胞において分泌される神経栄養因子の量と比較して少なくとも2倍増大し、一層より好ましくは5倍増大する。
【0108】
本明細書中で使用される表現「神経栄養因子」は、ニューロンに対する、成長、分化、機能的維持および/または生存の様々な影響を含む、脳神経系に対して作用する細胞因子を示す。神経栄養因子の例には、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、GenBankアクセション番号L19063、同L15306;神経成長因子(NGF)、GenBankアクセション番号CAA37703;脳由来神経栄養因子(BDNF)、GenBankアクセション番号CAA62632;ニューロトロフィン−3(NT−3)、GenBankアクセション番号M37763;ニューロトロフィン−4/5;ニュールツリン(NTN)、GenBankアクセション番号NP_004549;ニューロトロフィン−4、GenBankアクセション番号M86528;ペルセフィン、GenBankアクセション番号AAC39640;脳由来神経栄養因子(BDNF)、GenBankアクセション番号CAA42761;アルテミン(ART)、GenBankアクセション番号AAD13110;毛様体神経栄養因子(CNTF)、GenBankアクセション番号NP_000605;インスリン様成長因子−I(IGF−1)、GenBankアクセション番号NP_000609;およびニューブラスチン、GenBankアクセション番号AAD21075が含まれるが、これらに限定されない。
【0109】
機能的な星状細胞表現型のさらなる一例が、IL−1βおよびカベルゴリンの添加の後での神経栄養因子の発現および/または分泌の増強である。
【0110】
星状細胞は、高親和性のグルタミン酸輸送体によるグルタミン酸のクリアランスによって、低い細胞外グルタミン酸濃度の維持において重要な役割を果たす。従って、本発明の集団の細胞の別の機能的な星状細胞表現型はグルタミン酸輸送体の増大した活性であり得る。そのようなグルタミン酸輸送体の活性は、標識されたアスパラギン酸(例えば、細胞の培養培地からの[3H]−d−アスパラギン酸取り込み)を測定することによって分析することができる。
【0111】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の細胞集団の細胞のある割合は、さらに、または、代わりに、構造的な星状細胞表現型を含むことができる。
【0112】
構造的な星状細胞表現型の例には、細胞サイズ、細胞形状、オルガネラサイズおよびオルガネラ数が含まれる。従って、星状細胞の構造的表現型には、丸い核、「星型形状」体、および、脈管足板としてCNSの小血管において終わる多くの長いプロセスが含まれる(図1A〜図1Bおよび図2A〜図2Dを参照のこと)。構造的な星状細胞表現型のさらなる例を下記において見出すことができる:ReynoldsおよびWeiss、Science(1992)、255:1707〜1710;Reynolds、TetzlaffおよびWeiss、J.Neurosci(1992)、12:4565〜4574;Kandel他、Principles of Neuroscience、第3版(1991)、Appleton&Lange、Norwalk、Conn.。これらの構造的表現型は、顕微鏡技術(例えば、走査電子顕微鏡観察)を使用して分析することができる。抗体または色素を使用して、分析を助けるために、特徴的な特徴を強調することができる。
【0113】
構造的な星状細胞表現型はまた、星状細胞マーカーの発現を含むことができる。
【0114】
本明細書中で使用される表現「星状細胞マーカー」は、星状細胞において選択的または非選択的のいずれでも発現されるポリペプチドを示す。星状細胞マーカーは細胞表面または内部で発現されてもよい。星状細胞マーカーの例には、S100β、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、グルタミンシンセターゼ、GLASTおよびGLT−1が含まれる。
【0115】
本明細書中上記で述べられたように、細胞集団の細胞のある割合は、典型的な星状細胞には存在しない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む。そのような幹細胞表現型は典型的には構造的である。例えば、本発明の細胞は、間葉性幹細胞の形態と類似する形態(例えば、紡錘体様の形態)を示すことができる。代わりに、または、さらに、本発明の細胞は、間葉性幹細胞に対しては典型的であるが、生来的な星状細胞に対しては典型的でないマーカー(例えば、表面マーカー)を発現することができる。間葉性幹細胞表面マーカーの例には、CD105+、CD29+、CD44+、CD90+、CD34−、CD45−、CD19−、CD5−、CD20−、CD11B−およびFMC7−が含まれるが、これらに限定されない。他の間葉性幹細胞マーカーには、チロシンヒドロキシラーゼ、ネスチンおよびH−NFが含まれるが、これらに限定されない。
【0116】
本発明の細胞集団にはまた、星状細胞表現型および間葉性幹細胞表現型の両方を呈示する細胞が含まれる。間葉性幹細胞表現型は、好ましくは、星状細胞表現型ではない。従って、表3に例示されるように、本発明の細胞集団の細胞は、間葉性幹細胞マーカーのチロシンヒドロキシラーゼ、CD90およびH−NF、すなわち、星状細胞では発現しないことが知られている3つのマーカーを発現することが示された。
【0117】
好ましくは、細胞が、本明細書中上記で記載された星状細胞表現型および間葉性幹細胞表現型の両方を含むとき、それらの星状細胞表現型は星状細胞に特有である。細胞は、星状細胞に特有な1つの星状細胞表現型(例えば、星型形状の形態)、または、星状細胞に特有な表現型を組合せで表す非特有な星状細胞表現型の組合せを含むことができる。
【0118】
本発明の1つの実施形態によれば、本発明の集団の細胞のいずれかの星状細胞表現型は生来的な星状細胞に可能な限り近い。従って、下記の実施例の節で例示されるように、本発明の方法に従って分化した細胞は星状細胞様の形状を示し(図1A〜1Bおよび図2A〜図2D)、星状細胞マーカーの存在が付随し(図3A〜図3Bおよび図4A〜図4B)、著しいレベルのGDNF、BDNFおよびNGFの発現(図5)および分泌(図8A〜図8D)を有し、カベルゴリン(D2受容体アゴニスト)およびIL−1によってさらにアップレギュレーションされるNTF産生を含み(図7および図8A)、かつ、グルタミン酸クリアランス機構を有する(図10)。
【0119】
星状細胞表現型を含む細胞の割合は、意図された必要性に従って増減させることができる。従って、例えば、細胞集団を、特定の星状細胞表現型(例えば、GDNFの発現)を有する細胞について濃縮することができる。これは、星状細胞の細胞マーカーに対して特異的な抗体を使用してFACSによって行うことができる。そのような星状細胞マーカーの例が本明細書中上記に記載される。細胞マーカーが内部マーカーであるならば、好ましくは、FACS分析は、細胞の中に容易に浸透することができ、および、検出後に細胞から容易に洗い出すことができる抗体またはそのフラグメントを含む。FACSプロセスは、最終産物として要求される濃縮度および細胞表現型に依存して、同じマーカーまたは異なるマーカーを使用して何回も繰り返すことができる。
【0120】
本発明のこの態様の別の実施形態によれば、細胞集団は、細胞の均一な集団が作製されるように、星状細胞表現型および間葉性幹細胞表現型の両方を含む細胞について濃縮することができる。
【0121】
従って、本発明のさらなる態様によれば、少なくとも1つの星状細胞表現型と、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型とを含む単離されたヒト細胞が提供される。
【0122】
分化され、また、場合により単離されると、細胞はそれらの星状細胞表現型(例えば、機能的な神経栄養因子を分泌する能力)について(培養状態で)調べることができる。培養物を、下記の実施例の節の実施例1において記載されるような生化学な分析方法(例えば、免疫アッセイ、ウエスタンブロットおよびリアルタイムPCRなど)を使用して、または、酵素活性バイオアッセイによって星状細胞表現型について比較分析することができる。
【0123】
星状細胞表現型に従って、本発明の細胞および細胞集団は、特定の疾患または障害を治療するために使用することができる。細胞集団は分化後そのまま使用することができ、または、本明細書中上記で記載されたように、特定の星状細胞表現型について濃縮することができる。本明細書中下記の表1に要約されるように、ある種の神経栄養因子またはある1組の神経栄養因子は、特定の疾患を治療するために特に有益であることが示されている。例えば、NGF、BDNF、FGFおよびGDNFを分泌する本発明の細胞は、パーキンソン病を治療するために特に好適であると考えられる。
【0124】
星状細胞は、モノアミンオキシダーゼ−Bおよびカテコール−O−メチルトランスフェラーゼを発現するので、ドーパミンを代謝することによってニューロンにおける酸化性ストレスを軽減させ得ることが提案されている。加えて、星状細胞は、NOにより生じる神経毒性をグルタチオン依存的な機構によって防止し得ることが提案されている(Chen他、2004、Curr Drug Targets、2005(Nov)、6(7):821〜33)。従って、除去機能を含み、および/または、ドーパミン代謝酵素を発現する本発明の細胞もまた、パーキンソン病を治療するために好適であり得る。
【0125】
グルタミン酸輸送体の不十分なクリアランスまたは低下のために、グルタミン酸の興奮毒性がALSについての原因因子の1つとして示唆されている[Bendotti他、2001、J.Neurochem、79(4):737〜746、2001]。従って、上昇したグルタミン酸輸送体活性を示す本発明の細胞はまた、ALSを治療するために好適であり得る。
【0126】
従って、本発明の別の態様によれば、CNS疾患またはCNS障害を治療する方法が提供される。
【0127】
本明細書中で使用される表現「CNS疾患」は、本発明の細胞により治療することができる中枢神経系の任意の障害、疾患または状態を示す。
【0128】
従って、本発明の細胞は、医薬品(これは交換可能に医薬組成物と呼ばれる)を調製するために使用することができ、それにより、そのような医薬品は、CNS疾患またはCNS障害を治療するために配合される。
【0129】
本明細書中に記載される細胞により有益に治療することができるCNS疾患またはCNS障害の代表的な例には、痛み障害、運動障害、解離性障害、気分障害、情動障害、神経変性疾患または神経変性障害、および、痙攣性障害が含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
そのような状態のより具体的な例には、パーキンソン病、ALS、多発性硬化症、ハンチングトン病、自己免疫性脳脊髄炎、糖尿病性神経障害、緑内障性神経障害、黄斑変性、動作時振せんおよび遅発性ジスキネジア、パニック、不安、うつ病、アルコール中毒、不眠症、躁病的行動、アルツハイマー病およびてんかんが含まれるが、これらに限定されない。
【0131】
本明細書中に記載される方法のいずれにおいても、細胞は、任意の自己または非自己(すなわち、同種または異種)のヒトドナーから得ることができる。例えば、細胞をヒト死体またはドナー対象者から単離することができる。
【0132】
本発明の細胞は、様々な移植法(その性質は埋め込み部位に依存する)を使用して個体を治療するために投与することができる。
【0133】
「移植」、「細胞置換」または「グラフト化する」の用語または表現は、本明細書中では交換可能に使用され、本発明の細胞を標的組織に導入することを示す。細胞は被移植者に由来し得るか、あるいは、同種ドナーまたは異種ドナーに由来し得る。
【0134】
細胞を、中枢神経系内に、または、脳室腔内に、または、宿主の脳の表面での硬膜下に移植することができる。成功した移植のための条件には、(i)移植体の生存性;(ii)移植部位における移植体の保持;および(iii)移植部位における最小量の病理学的反応が含まれる。様々な神経組織(例えば、胚の脳組織)を宿主の脳に移植するための様々な方法が、“Neural grafting in the mammamalian CNS”、BjorklundおよびStenevi編(1985);Freed他、2001;Olanow他、2003に記載されている。これらの手法には、移植時に脳実質に向かい合わせにされるように組織を宿主の脳の内部に注入または設置することによって達成される実質内移植、すなわち、(脳の外側または実質外移植と比較されるような)宿主の脳の内部での移植が含まれる。
【0135】
実質内移植を、2つの方法を使用して行うことができる:(i)宿主の脳実質の中への細胞の注入、または(ii)宿主の脳実質を露出するための外科的手段によって腔を調製し、その後、移植体を腔内に置くこと。両方の方法は、移植体と、宿主の脳組織との間での実質への設置を移植時にもたらし、また、両方の方法は、移植体と、宿主の脳組織との間での解剖学的一体化を容易にする。このことは、移植体が宿主の脳の不可分の一部となり、宿主の生涯にわたって生存することが要求されるならば、重要である。
【0136】
代替として、移植体を脳室(例えば、大脳脳室)に置くことができ、あるいは、移植体が、介在する軟膜またはクモ膜および軟膜によって宿主の脳実質から隔てられる場合には硬膜下に、すなわち、宿主の脳の表面に置くことができる。脳室への移植は、ドナー細胞を注入することによって、または、移植体の転位を防止するために、細胞を基体(例えば、3%コラーゲンなど)において成長させて、脳室内にその後で埋め込むことができる充実組織の栓子を形成することによって達成することができる。硬膜下移植するために、細胞を、硬膜に細長い切り口を作製した後、脳の表面の周りに注入することができる。宿主の脳の選択された領域への注入を、ドリルで穴を開け、硬膜を貫いて、マイクロシリンジのニードルを挿入することを可能にすることによって行うことができる。マイクロシリンジは、好ましくは、定位固定フレームに取り付けられ、三次元での定位固定座標が、ニードルを脳または脊髄の所望される場所に設置するために選択される。細胞はまた、脳の被殻、基底核、海馬皮質、線条体、黒質または尾状核の領域、ならびに、脊髄に導入することができる。
【0137】
細胞はまた、組織の健康な領域に移植されることがある。一部の場合には、損傷を受けた組織区域の正確な場所が不明であることがあり、細胞が健康な領域に気づかずに移植されることがある。他の場合には、細胞を健康な領域に投与し、それにより、その領域に対する何らかのさらなる損傷を避けることが好ましい場合がある。いずれにせよ、移植後、細胞は、好ましくは、損傷を受けた区域に移動する。
【0138】
移植するために、細胞懸濁物がシリンジの中に引き込まれ、麻酔された被移植者に投与される。多数回の注入を、この手順を使用して行うことができる。
【0139】
従って、細胞懸濁物による手法は、細胞を脳または脊髄における任意の所定の部位に移植することを可能にし、および、比較的に非外傷性であり、および、同じ細胞懸濁物を使用していくつかの異なる部位または同じ部位における多数回の移植を同時に可能にし、および、異なる解剖学的領域からの細胞の混合物を可能にする。多数の移植体は、いくつかの細胞タイプの混合物、および/または、細胞に挿入された導入遺伝子の混合物からなり得る。好ましくは、約104個〜約108個の細胞が1つの移植体について導入される。
【0140】
腔内への移植(これは、脊髄に移植するために好ましい場合がある)のために、組織が、例えば、Stenevi他(Brain Res、114:1〜20、1976)によって記載されるように、脳を覆う骨を除き、出血をゲルフォームのような材料で止めることによって、移植腔を形成するために中枢神経系(CNS)の外側表面に近い領域から除かれる。吸引を、腔を作製するために使用することができる。その後、移植体が腔に置かれる。2つ以上の移植体を、細胞または固体の組織インプラントを使用して同じ腔に置くことができる。好ましくは、埋め込み部位は、治療されているCNS障害、および、細胞に含まれる星状細胞表現型(例えば、特定の神経栄養因子が本発明の細胞により分泌されること)によって決定される。例えば、GDNFを分泌する細胞は、好ましくは、パーキンソン病患者の黒質に埋め込まれる。
【0141】
非自己の細胞は、身体に投与されたとき、免疫反応を誘導する可能性があるので、いくつかの方法が、非自己細胞の拒絶の可能性を低下させるために開発されている。これらには、被移植者の免疫系を抑制すること、または、非自己細胞を移植前に免疫隔離性の半透過性膜でカプセル化することのいずれかが含まれる。
【0142】
カプセル化技術は、一般には、マイクロカプセル化(これは小さい球状のビヒクルを伴う)およびマクロカプセル化(これはより大きい平坦シート膜および中空膜を伴う)として分類される(Uludag、H.他、哺乳動物細胞カプセル化の技術、Adv Drug Deliv Rev、2000、42:29〜64)。
【0143】
マイクロカプセルを調製する様々な方法がこの分野で知られており、これらには、例えば、Lu MZ他(アルギン酸塩およびα−フェノキシシンナミリデン−アセチル化ポリ(アリルアミン)による細胞カプセル化、Biotechnol Bioeng、2000、70:479〜83)によって開示される方法、Chang TMおよびPrakash S(酵素、細胞および遺伝子操作微生物のマイクロカプセル化のための手順、Mol Biotechnol、2001、17:249〜60)によって開示される方法、Lu MZ他(光感受性ポリ(アリルアミンα−シアノシンナミリデンアセタート)を使用する新規な細胞カプセル化方法、J Microencapsul、2000、17:245〜51)によって開示される方法が含まれる。
【0144】
例えば、マイクロカプセルが、修飾されたコラーゲンを、メチルアクリル酸2−ヒドロキシルエチル(HEMA)、メタクリル酸(MAA)およびメタクリル酸メチル(MMA)のターポリマー外皮により複合体化し、それにより、2μm〜5μmのカプセル厚さを生じさせることによって調製される。そのようなマイクロカプセルはさらに、負荷電のなめらかな表面を与えるために、また、血漿タンパク質の吸収を最小限に抑えるために、さらなる2μm〜5μmのターポリマー外皮によりカプセル化することができる(Chia,S.M.他、細胞カプセル化のための多層マイクロカプセル、Biomaterials、2002、23:849〜56)。
【0145】
他のマイクロカプセルがアルギン酸塩(海洋多糖)(Sambanis,A.、糖尿病の治療におけるカプセル化された小島、Diabetes Technol.Ther.、2003、5:665〜8)またはその誘導体に基づいている。例えば、マイクロカプセルを、塩化カルシウムの存在下でのポリカチオンのポリ(メチレン−co−グアニジン)塩酸塩を用いたポリアニオンのアルギン酸ナトリウムおよび硫酸セルロースナトリウムの間での高分子電解質複合体化によって調製することができる。
【0146】
細胞カプセル化は、より小さいカプセルが使用されるときには改善されることが理解される。従って、カプセル化された細胞の品質管理、機械的安定性、拡散特性およびインビトロ活性が、カプセルサイズが1mmから400μmに低下したときに改善された(Canaple L.他、サイズ制御による細胞カプセル化の改善、J Biomater Sci Polym Ed、2002、13:783〜96)。そのうえ、7nmもの小さい十分に制御された細孔サイズ、細かく調節された表面化学および精密な微細構造を有するナノ多孔性バイオカプセルは、細胞のための微小環境を首尾よく免疫隔離することが見出された(Williams D.、小さいことは美しい:医療用デバイスにおけるマイクロ粒子技術およびナノ粒子技術、Med Device Technol、1999、10:6〜9;Desai,T.A.、膵臓細胞カプセル化のための微細製造技術、Expert Opin Biol Ther、2002、2:633〜46)。
【0147】
免疫抑制剤の例には、メトトレキサート、シクロホスファミド、シクロスポリン、シクロスポリンA、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン(スルファサラゾピリン)、金塩、D−ペニシラミン、レフルノミド、アザチオプリン、アナキンラ、インフリキシマブ(REMICADE(登録商標))、エタネルセプト、TNFα遮断剤、炎症性サイトカインを標的とする生物学的薬剤、および、非ステロイド系抗炎症性薬物(NSAID)が含まれるが、これらに限定されない。NSAIDの例には、アセチルサリチル酸、サリチル酸コリンマグネシウム、ジフルニサル、サリチル酸マグネシウム、サルサラート、サリチル酸ナトリウム、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナマート、ナプロキセン、ナブメトン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、Cox−2阻害剤およびトラマドールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
本明細書中に記載される方法のいずれにおいても、細胞は、それ自体で、または、好ましくは、医薬的に許容され得るキャリアをさらに含む医薬組成物の一部として、そのいずれでも投与することができる。
【0149】
本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される化学的コンジュゲートの1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、医薬的に好適なキャリアおよび賦形剤)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、対象に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0150】
以降、用語「医薬的に許容され得るキャリア」は、対象に対する著しい刺激を生じさせず、かつ、投与された調合物の生物学的活性および生物学的性質を阻害しないキャリアまたは希釈剤を示す。キャリアの非限定的な例には、プロピレングリコール、生理食塩水、有機溶媒と水の混合物およびエマルジョンがある。
【0151】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、化合物の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0152】
本発明の好ましい実施形態によれば、医薬用キャリアは塩類の水溶液である。
【0153】
薬物の配合および投与のための様々な技術が“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)(これは参考として本明細書中に組み込まれる)に見出され得る。
【0154】
好適な投与経路には、目的の組織または器官への直接投与が含まれる。したがって、例えば細胞は上記のように脳に直接投与されてもよいし、下記の実施例3において記述されるように筋肉に直接投与されてもよい。
【0155】
本発明の方法において使用される任意の調製物について、治療効果的な量または用量をインビトロアッセイおよび細胞培養アッセイから最初に推定することができる。好ましくは、用量が、所望される濃度または力価を達成するために動物モデルにおいて定められる。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。
【0156】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療的効力を、標準的な薬学的手法によって、インビトロで、あるいは、細胞培養または実験動物において求めることができる。例えば、6−OHDA障害マウスをパーキンソン病の動物モデルとして使用することができる。加えて、ヒマワリ試験を、ヒマワリの種子を特定の期間の間に開けるように動物をし向けることによって微妙な運動機能における改善を試験するために使用することができる。
【0157】
ハンチングトン病についてのモデルとして、増大した数のCAG反復を含み、脳幹、視床または脊髄においてではなく、線条体および大脳皮質(これらはこの疾患におけるニューロン細胞喪失部位によく一致する)のニューロンにおけるハンチンチンおよびユビキチンの核内封入体を有するトランスジェニックマウスを使用することができる。
【0158】
SOD−1の変異を含むトランスジェニックマウスを、ALS疾患についてのモデルとして使用することができる。
【0159】
中隔海馬経路は、海馬采を切断することによって片側性に横方向に切断された場合、アルツハイマー病における中隔海馬経路喪失のコリン作動性欠如を模倣する。従って、この障害を含む動物モデルは、アルツハイマー病を治療するための本発明の細胞を試験するために使用することができる。
【0160】
動物の生存および回旋行動(例えば、ロータロッド上での回旋行動)を、本発明の細胞を投与した後で(実施例2および実施例3でのように)分析することができる。
【0161】
これらのインビトロアッセイおよび細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投薬量の範囲を定める際に使用することができる。投薬量は、用いられた投薬形態物および利用された投与経路に依存して変化し得る。正確な処方、投与経路および投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選ぶことができる(例えば、Fingl他、1975、“The Pharmacological Basis of Therapeutics”、第1章、1頁を参照のこと)。例えば、パーキンソン病患者は、治療に対する陽性の応答を示す改善された運動機能について症状的にモニターすることができる。
【0162】
注射のために、医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは、生理学的に適合し得る緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液または生理学的塩緩衝液など)において配合することができる。
【0163】
投薬量および投薬間隔は、移植された細胞による神経伝達物質の合成を効果的に調節するために十分である有効成分のレベルに合わせて個々に調製され得る。所望される効果を達成するために必要な投薬量は、個体の特性および投与経路に依存する。検出アッセイを、血漿濃度を測定するために使用することができる。
【0164】
治療される状態の重篤度および応答性に依存して、服薬は単回または複数回の投与が可能であり、治療の経過は、数日から数週間まで、または、疾患状態の縮小が達成されるまで続く。
【0165】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、治療されている個体、病気の重篤度、投与様式、処方医師の判断などに依存する。投薬量および投与時期は、個体の変化する状態の注意深い継続したモニターリングに応答する。例えば、治療されているパーキンソン病患者には、モニターリング中の表示値に基づいて、所望されるレベルにドーパミン合成を促進または抑制するために十分である量の作用物が投与される。
【0166】
本発明の細胞は、神経変性障害を治療することにおいて有用な治療剤(例えば、ガングリオシド、抗生物質、神経伝達物質、神経ホルモン、トキシン、神経突起促進分子、ならびに、神経伝達物質分子の代謝拮抗剤および前駆体(例えば、L−DOPAなど)など)と同時に投与することができる。加えて、本発明の細胞は、神経伝達物質を合成することができる他の細胞と同時に投与することができる。そのような細胞が本発明者らの米国特許出願公開第20050265983号に開示される。
【0167】
移植後、本発明の細胞は、好ましくは、一定の期間(例えば、少なくとも6ヶ月)にわたって疾患領域において生存し、その結果、治療的効果が観測されるようになる。実施例2に記載されるように、本発明の細胞は、6−OHDA障害マウスの脳半球において移植後16週で生存可能であること、また、ALSについてのトランスジェニックマウスモデルにおいて移植後110日で生存可能であることが示された。
【0168】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を意味する。
【0169】
本発明のさらなる目的、利点および新規な特徴が、限定であることが意図されない下記の実施例を検討したとき、当業者には明らかになる。また、本明細書中上記に描かれ、また、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、下記の実施例において実験的裏付けが見出される。
【実施例】
【0170】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なお、これら実施例によって本発明は限定されない。
【0171】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている[例えば以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel,R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号および5272057号に記載される方法;Cellis,J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号および5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.およびHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.およびHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである]。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0172】
(実施例1)
星状細胞に分化したBMSCの特徴化
材料および方法
ヒトBMSCの単離および培養:骨髄吸引物(10ml〜30ml)を、インフォームドコンセントを得た健康な成人ドナーの後部腸骨稜から集めた。低密度BM単核細胞(BMMNC)をFICOL−PAGUE密度勾配(1.077g/ml)によって分離し、HBSSにより洗浄した。次いで、細胞をポリスチレン製プラスチックフラスコにおいて成長培地に入れた。成長培地は、15%のウシ胎児血清(FCS)、2mMのL−グルタミン、100μg/mlのストレプトマイシン、100U/mlのペニシリン、12.5ユニット/mlのナイスタチン(SPN)が補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)からなった。非接着性細胞を培地置換とともに除いた。コンフルエンス後、接着性の層をトリプシン処理し、再接種し、コンフルエンスに成長させて、2回〜6回の継代培養を行い、その後、実験に使用した。成長培地を1週間に2回交換し、細胞を加湿5%CO2インキュベーターにおいて37℃で維持した。
【0173】
星状細胞分化:星状細胞分化を誘導するために、1X106個の細胞を10mmのディッシュで培養した。細胞を48時間、予備分化培地とともに再置床した(SPN、2mMのL−グルタミン、20ng/mlのヒト上皮増殖因子(hEGF)(R&D Systems、Minneapolis、MN)、20ng/mlのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)およびN2補充物(インスリン:5μg/ml、プロゲステロン:20nM、プトレシン:100μM、セレン:30nM、トランスフェリン:100μg/ml)が補充されたDMEM)。48時間後、予備分化培地を分化培地に交換した(SPN、2mMのL−グルタミン、1mMのジブチリル環状AMP(dbcAMP)、0.5mMのイソブチルメチルキサンチン(IBMX)(Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri、米国)、5ng/mlのヒト血小板由来増殖因子(PDGF)(peprotech)および50ng/mlのヒトニューレグリン1−β1(NRG1−β1−GGF−2)が補充されたDMEM)。いくつかの実験では、IL−1β(100pg/ml)またはカベルゴリン(130pg/ml)を分化開始後24時間で培地に加えた。
【0174】
免疫細胞化学:免疫細胞化学分析のために、細胞を12mmの円形のポリ−L−リシン被覆されたガラス製カバースリップで成長させた。実験が終了した時、培地を除き、細胞を室温で20分間、4%(v/v)のパラホルムアルデヒドにより固定処理し、その後、20分間、0.1M PBSにおける0.25%(v/v)のTriton X−100により透過処理した。非特異的な結合を、5%正常ヤギ血清(NGS)および1%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma)を含有する0.1M PBS溶液において細胞を37℃で1時間インキュベーションすることによって阻止した。続いて、細胞を、一次抗体、すなわち、ウサギ抗グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)(1:100、DAKO)、ウサギ抗GDNF(1:100、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Santa Cruz、California、米国)、マウス抗ヒト核h−Nuc(1:30)、ウサギ抗グルタミンシンセターゼ(1:200、Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri、米国)、マウス抗S100β(1:200、Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri、米国)とともに、0.25%(v/v)のTriton X−100、5%のNGSおよび1%のBSAを含有する0.1M PBS溶液においてインキュベーションした。二次抗体、例えば、GDNF染色については、ヤギ抗ウサギビオチン化体(1:200)を1時間加え、続いて、ストレプトアビジン−Alexa−488コンジュゲート化ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:200、Molecular Probes、Eugene、OR、米国)を加えた。他の染色については、Alexa−488コンジュゲート化ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:200)およびローダミン−Rxコンジュゲート化体(1:200、Jackson ImmunoResearch Laboratories、West Grove、PA、米国)を、0.25%(v/v)のTriton X−100、5%のNGSおよび1%のBSAを含有する0.1M PBS溶液で希釈し、室温で1時間加えた。核を、核色素DAPI(1:200、Sigma,Aldrich)により5分間染色した。PBSにおける3回の洗浄の後、調製物をAntifaiding(Sigma、イスラエル)で固定し、CCDカメラ(T.I.L.L.photonics、Martinsried、ドイツ)に接続された蛍光顕微鏡を使用して調べた。励起波長(Alexa488、DAPIおよびAlexa568についてそれぞれ、488nm、405nmおよび568nm)を、モノクロメーター(T.I.L.L.photonics、Martinsried、ドイツ)に接続されたキセノンランプを使用して発生させた。デジタル画像を、適切なフィルターを使用して取得し、TILLvisIONソフトウエアを使用して組み合わせた。
【0175】
GDNFおよびBDNFの分析:上記の分化手順が終了したとき、上清をプレートから回収し、また、細胞を集め、計数した。細胞溶解物および細胞培養上清におけるGDNFまたはBDNFの量を、GDNF ImmunoAssay SystemまたはBDNF ImmunoAssay System(Promega)を製造者のプロトコルに従って使用することによって定量した。450nmでの吸光度をMicroplate Reader(BioRad Model550)で記録し、その値を使用して、GDNF標準物またはBDNF標準物の曲線を作製した。GDNF標準曲線は15.6pg/ml〜1000pg/mlの間で直線であった。ELISAの結果を、プレートあたり106個の細胞に従って計算した。
【0176】
細胞カウント評価:特定の抗原を発現する陽性細胞の数を求めるために、データを、サンプルあたり3つの独立した培養物からの15の視野を注意深く調べることから集めた。これらのサンプルにおけるMSCの総数を、DAPI染色された細胞の核を計数することによって求めた。結果が、GDNF、グルタミンシンセターゼまたはS100βのいずれかについての陽性細胞の百分率として表される。
【0177】
mRNAの調製:総RNAを、ChomczynskiおよびSacchi(Anal Biochem、162:156〜159、1987)によって記載されるように単離した。細胞を200μlの溶液D(4Mのチオシアン酸グアニジニウム、25mMのクエン酸ナトリウム、0.5%のサルコシル、0.1Mの2−メルカプトエタノール)により破壊した。続いて、0.1体積の2M酢酸ナトリウム(pH4)、1体積のフェノール(飽和)および0.2体積のクロロホルム:イソアミルアルコール(49:1)を加えた。サンプルを4℃で30分間静置し、その後、4℃で20分間、10000Xgで遠心分離した。上部の水相を2体積のエタノールと混合し、RNAを−20℃で一晩沈殿させた。最終的なRNAペレットを75%エタノールで洗浄し、空気乾燥した。ペレットをDEPC処理水に溶解した。RNAの量を、ND−1000分光光度計(Nano−drop)を使用して分光光学的に求めた。RNAの品質を、OD260/OD280の比率を測定することによって確認した。RNAを使用まで−80℃で保存した。
【0178】
リアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応:所望される遺伝子のリアルタイム定量的PCRを、SybrグリーンPCRマスターミックス(Applied biosystems)および下記のプライマーを使用してABI Prism7700配列検出システム(Applied biosystems)で行った。
GAPDH遺伝子は、転写プロファイリングのための有効な基準の「ハウスキーピング」遺伝子として役立った。
【0179】
定量化のために、リアルタイム定量的PCR(qPCR)を二連で行った。qPCR増幅を、増幅されたそれぞれの遺伝子についての標準曲線およびテンプレート非含有コントロール(NTC)もまた含有した同じPCR反応プレートの別個のウエルにおいてそれぞれのサンプルについて行った。最適な実験パラメーター(ハイブリダイゼーション温度、伸長時間およびプライマー濃度)をそれぞれのプライマー対について決定した。それぞれの遺伝子について、1つだけのピークを融解曲線分析で確認することにより、PCR生成物の特異性が評価された。
【0180】
PCRを、1μlの上記cDNA、それぞれ1μlの3’プライマーおよび5’プライマー(500nmmol/Lの最終濃度)、10μlのAbsolute(商標)QPCR SYBR(登録商標)Green ROX Mixおよび8μlのDEPC水を含有する20μlの総体積で行った。
【0181】
増幅プロトコルは、それぞれ95℃を15秒間、その後、60℃を1分間の40サイクルであった。GAPDHに対する目的とする遺伝子の定量的計算を、ユーザーブレティン#2 ABIprism7700配列決定システム(2001年10月更新)に指示されるように、ddCT法を使用して行った。
【0182】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR):RT−PCRを、1.3μMのオリゴ−dT12〜18(Sigma、米国)、製造者によって供給される1x緩衝液、10mMのDTT、20μMの各dNTP、および、RNase阻害剤(RNAguard、amersham pharmacia biotech、英国)を含有する混合物において10Uの酵素RT−superscriptII(Gibco−BRL、MD、米国)を使用して、0.5マイクログラムのRNAサンプルに対して行った。逆転写を42℃で2時間行った。所望される遺伝子のPCRを、Thermocyclerでの25サイクル〜30サイクル(94℃を30秒間、55℃での30秒間のアニーリング、72℃での45秒間のDNA伸長)により、2μlのRT、1X緩衝液(Takara、日本)、200μMの各dNTP、1μMの各プライマーおよび5UユニットのTaqポリメラーゼ(Takara、日本)を含有する混合物において特異的なプライマーを用いて行った。これらの実験条件のもとで、増幅の直線性が観測された。
【0183】
RT−PCRを、分化していないhBMSC、および、本発明の方法による分化したBMSCに対して行った。遺伝子の発現をこれら2つの細胞タイプの間で比較し、また、(文献から得られる情報からの)星状細胞における発現と比較した。プライマー配列が本明細書中下記の表2に詳しく記載される。
【0184】
走査電子顕微鏡観察:細胞をリン酸塩緩衝液(pH7.2)における2.5%グルタルアルデヒドにより固定し、同じ緩衝液で洗浄し、2%OsO4により後固定した。固定処理の第3工程を、タンニン酸およびグアニジン塩酸塩の溶液を使用して行った。三重に固定処理された細胞を段階的なアルコール溶液において脱水した。その後、アルコールを、段階的なFreon溶液を使用してFreon−112に交換した。細胞を空気乾燥し、金被覆し、Jeol840走査電子顕微鏡を使用して調べた。
【0185】
グルタミン酸取り込み:グルタミン酸輸送体の機能的特徴化を、トリプシン処理された分化後の細胞に対して行った。輸送速度を、Na+を含有する緩衝液における37℃での6分間のインキュベーションの後での[3H]−d−アスパラギン酸(20nM)の取り込みを測定することによって推定した。グルタミン酸輸送体の比活性をmg単位でのタンパク質の量に対する取り込み速度として表した。
【0186】
結果
本発明の方法に従って分化したhBMScは、星状細胞に類似する衛星様の形態を獲得し、これに対して、血清非含有培地だけで成長させたコントロール細胞は、hBMScに特徴的な平坦な線維芽細胞様の形態を示した(図1A〜図1B)。分化した細胞はまた、走査電子顕微鏡を使用して分析され、これにより、その特有な星状細胞型の衛星形態が確認された(図2A〜図2D)。
【0187】
細胞の星状細胞表現型がさらに、典型的な星状細胞マーカーによる免疫蛍光分析を使用して確認された。図3A〜図3Bに例示されるように、形態学的な変化には、S100β(星状細胞のCa+チャネルのサブユニット)およびグルタミンシンセターゼ(GS)(グルタミン酸を代謝する特有の星状細胞酵素)についての陽性の免疫染色が伴った。加えて、細胞はグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)について陽性に染色された(図4A)。
【0188】
免疫細胞化学染色データの定量化により、S100β、GFAPおよびGSについての陽性細胞の割合が20%〜30%の範囲にあることが明らかにされた。
【0189】
星状細胞マーカーの発現をさらに確認するために、リアルタイムPCR分析を行った。図4Bに明らかにされるように、GFAP転写物が10倍〜20倍アップレギュレーションされた。類似した値がS100β転写物およびGS転写物において示された。
【0190】
星状細胞は様々な神経栄養因子(NTF)のその分泌について知られているので、NTF(例えば、GDNF、NGFおよびBDNFなど)のmRNAレベルを分析した。リアルタイムPCR分析により、星状細胞に分化したhBMScは、血清非含有培地で成長させたMSCではこれらの転写物が低いか、または存在しないことと比較されるように、多量のNTF転写物を発現することが明らかにされた(図5)。抗GDNFによる免疫染色により、培養された細胞の30%がこの抗体により陽性に染色されたが明らかにされた(図6A〜図6B)。
【0191】
特異的な抗体によるELISAアッセイを使用して、NTFの産生および分泌を定量した。GDNF産生の測定を細胞抽出物(図7)および成長培地(図8A)において調べた。GDNF産生の基礎的レベルが、培養されたMSCおよび神経芽細胞腫細胞株(ラサゲレインにより処理されたSH−SY5Y)において検出されたが、培養培地では、GDNFが、分化したMSCにおいて検出されただけであった。
【0192】
そのうえ、GDNFの顕著な高まった産生および分泌が、IL−1βおよびカベルゴリン(GDNFをアップレギュレーションすることが知られている因子)を加えた後で検出された。この現象は、分化した細胞が星状細胞として応答するという考えを支持する。分泌されたGDNFおよびNGFのレベルをいくつかのドナーで比較した。分泌レベルが、GDNF(図8B)については106個の細胞あたり69pg〜140pgの間で変化し、NGF(図8C)については106個の細胞あたり356pg〜875pgの間で変化することを認めることができる。
【0193】
星状細胞は、高親和性のグルタミン酸輸送体を介するグルタミン酸のクリアランスによって、また、グルタミン酸をグルタミンシンセターゼにより代謝することによって、低い細胞外グルタミン酸濃度の維持において重要な役割を果たす。従って、分化した細胞を、グルタミン酸輸送体およびグルタミンシンセターゼの発現についてRT−PCR分析を使用して分析した。GLT−1/EAAT−2転写物の高い発現が、星状細胞に分化したhBMScにおいて見出された(図9)。グルタミン酸輸送体の活性が、MSCからではなく、分化した細胞の培養培地からの3H−グルタミン酸取り込みによって明らかであった(p<0.005)(図10)。
【0194】
より詳しいRT−PCR分析を、どの間葉性細胞マーカーが、また、どの星状細胞マーカーが本発明の細胞によって発現されたかを明らかにするために行った。これら2つの細胞タイプにおける遺伝子の発現もまた、星状細胞における遺伝子の発現(文献から得られる情報)と比較した。結果が本明細書中下記の表3にまとめられる。
【0195】
従って、本発明の分化した細胞は、間葉性幹細胞および星状細胞の両方に対して異なる特定の表現型を示すことを認めることができる。例えば、本発明の細胞は、本発明の細胞を星状細胞から区別するCD90、チロシンヒドロキシラーゼおよびH−NFを発現する。加えて、本発明の細胞は高レベルの神経栄養因子および星状細胞マーカーを発現し、このことにより、本発明の細胞は間葉性幹細胞とは区別される。
【0196】
(実施例2)
星状細胞様の分化したhBMScの線条体内移植による障害ラットの運動機能の改善
【0197】
本発明の細胞の可能な治療可能性を探るために、本発明の方法に従って分化させたHBMSCをパーキンソン病の確立されたラットモデルにおいて移植した。
【0198】
材料および方法
動物:体重が220g〜280gであるオスのSprague−Dawleyラット(Harlan、イスラエル)を6−OHDA障害実験のために使用した。すべての動物を標準的な条件で飼育した:一定の温度(22±1℃)、湿度(相対、30%)、12時間の照明:12時間の消灯のサイクル、ならびに、餌および水の自由な摂取。手術手順を、Rabin Medical CenterおよびTel Aviv University(Tel Aviv、イスラエル)の動物管理委員会の管理のもとで行った。
【0199】
6−OHDA障害:ラットをクロラール水和物(350mg/kg、i.p.)で麻酔し、定位固定フレーム(Stoeling、米国)に固定した。動物に、片側において、6−OHDA臭化水素酸塩(12μg/6μl、アスコルビン酸塩−生理的食塩水に溶解したもの)を、26ゲージのニードルを付けたHamilton 10μlシリンジを使用して、左側の線条体に2カ所で注射した(2つの深さでそれぞれの部位について6μl)。注射の座標は下記の通りであった:(1)AP:ブレグマから+0.5mm、L:側方から中央に−2.5mm、V:腹側から硬膜表面に−6.5mm、および(2)AP:−0.5mm、L:−3.7mm、V:−6.0mm(これらは定位固定アトラス(Paxinos&Watson、1986)に基づいた)。注射が完了したとき、減圧を防止するために、カニューレを、1mm/分で引き抜く前に、さらに3分間、その位置に置いたままにした。
【0200】
回旋行動の測定:障害ラットを6−OHDAの脳内注射の後の14日で回旋行動について試験した。運動の非対称性を、DAアゴニストのアポモルヒネ(Sigma、0.15mg/kg、規定生理的食塩水に溶解)を皮下注射した後1時間にわたって、自動化された回転測定装置でモニターした。線条体のDA受容体が6−OHDA障害の結果として過敏性になるので、アポモルヒネは最初の障害側に対して対側性の回旋行動を誘導する。1分あたり5回の回転速度のラットを、確立されたPDモデルであると見なし、移植実験のために使用した。この試験は、線条体におけるドーパミン欠乏の信頼できる指標として広く使用される。
【0201】
移植:6−OHDA障害後6週間で、PDモデルラットをコントロール群および実験群の2つの群に分けた。コントロール群におけるラット(n=7)には、0.9%生理的食塩水が注射された。実験群におけるラット(n=6)には、GDNF産生細胞が移植された。hBMSC星状細胞様細胞を移植前に集め、生理的食塩水において5μlあたり5x105個の生細胞で再懸濁した。細胞を、10μlのHamiltonシリンジの26ゲージニードルによって左側の線条体に一方の部位において2つの深さで定位固定により注入した(それぞれについて2.5μl)。注入のために使用された座標は下記の通りであった:(1)AP:+1.0mm、L:+3.0mm、V:−5.0mm;および(2)AP:+1.0mm、L:+3.0mm、V:−4.1mm(トゥースバー(tooth−bar)が両耳間線のレベルで設定された)。手術後、動物は、上記で記載されたように、2週間毎に回転試験を受けた。ヒトMSCが移植された場合、動物はSandimune(10mg/kg/日;Novartis)の毎日の皮下注射によって免疫抑制された。
【0202】
ロータロッド:ロータロッド課題に対する成績を移植後3ヶ月で試験した。課題は、ラットがロッドに載せられ、加速するロッドから落ちないように(16RPMまで)挑戦する3回の連続する実験からなった。それぞれの実験が、最大で2分まで続けられた。実験間の間隔は30秒であった。結果が2回の毎週の試験から得られた。
【0203】
ヒマワリ試験:この試験の目的は、ヒマワリの種子を最大で5分の期間中に開けることを動物に挑戦させることであった。この試験を行うために、動物には、過度な餌が与えられず、45mg/gk/日のみが、モニターリングを開始する前の3日間与えられた。動物を3日間訓練し、4日目および5日目に測定を行った。動物を空のゲージに入れ、種子を5分間与えた。開けて、食べた種子の数を測定した。[Gonzalez C.、Kolb B.、行動および脳形態学に対する卒中の異なるモデルの比較、E.J.Neuroscience、18(1950−1962)、2003]。
【0204】
免疫組織化学:移植後16週で、コントロール群および治療群の両方を免疫染色に供した。ラットをクロラール水和物(350mg/kg、i.p.)で深く麻酔し、65mlの冷生理的食塩水により、その後、0.1mol/lのPBS(pH7.4)における冷4%パラホルムアルデヒドの250mlにより心臓を介して灌流した。脳を取り出し、4%PFA/PBSに48時間入れ、その後、48時間、20%スクロース/PBSにおいて凍結保護し、その後、ドライアイス上のイソペンタンで凍結した。脳の連続する冠状切片をミクロトームクライオスタットで20μmの厚さで切断した。切片をPBSで3回洗浄し、続いて、PBSにおける5%正常ウマ血清(Biological Industries)において1時間ブロッキング処理した。続いて、切片を、ヒトの核に対する一次抗体(1:30、マウスモノクローナル;Chemicon International、Temecula、CA、米国)、GDNFに対する一次抗体(1:200、ウサギポリクローナル、Santa Cruz)、および、GFAPに対する一次抗体(1:100、ウサギ、DAKO)を含有する同じ溶液において24時間インキュベーションした。その後、切片をPBSで3回洗浄し、下記の二次抗体に室温で1時間さらした:ローダミンにカップリングされたヤギ抗マウスIgG(1:500;Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc.、West Grove、PA、米国)、および、Alexa−488にコンジュゲート化されたヤギ抗ウサギIgG(1:500;Molcular Probes、Eugene、OR、米国)。核を核色素のDAPI(1:200)(Sigma)により5分間染色した。最後に、切片を0.1M PBSで洗浄し、95%グリセロールとともにカバーグラスを載せた。コントロールの免疫染色実験を、(i)一次抗体、(ii)二次抗体、および、(iii)一次抗体および二次抗体の両方のいずれかを省くことによって行った。
【0205】
結果
6−ヒドロキシドーパミンを、線条体におけるドーパミン作動性ニューロンの中程度の障害を誘導するためにラットの脳に線条体内注入した。障害の程度を、同側性の回転をもたらすアポモルヒネの注入によって3週間後に測定した。星状細胞様細胞(5X105個)を、その回旋成績に基づいて事前に選択されたラットの同側の線条体に移植した。薬理学的に誘導された回旋行動を、植え付け後60日、75日および105日で、移植を受けたラット、ならびに、生理的食塩水が注入されたラットにおいて測定した。実験期間中、両方の群には、シクロスポリンが、移植体の拒絶を防止するために毎日注射された。図11に例示されるように、アポモルヒネにより誘導される回転が、移植を受けたラット(n=8)において、75日では、ベースライン状態での1時間あたり160回の回転の平均値から、1時間あたり60回の回転に、また、移植後105日では、1時間あたり50回の回転に低下した(68%および75%の低下、p<0.05)。コントロール群(n=8)は、ベースライン状態で1時間あたり155回、回転し、105日後では140回、回転した(有意な減少ではなかった)。
【0206】
移植後95日で、非薬理学的ロータロッド試験を、運動欠如の直接的な測定を得るために行った。星状細胞様細胞が移植された動物は、コントロールよりも長い期間、加速するロッドの上を歩くことができた(図12)。
【0207】
ヒマワリ摂食試験もまた、動物に適用された。移植後100日で、動物を、ヒマワリの種子を制限時間において開けるその能力について評価した(方法を参照のこと)。移植を受けた動物は、同じ時間で44個を開けたコントロールと比較して、5分間で44個の種子を開けた(p<0.05)(図13)。
【0208】
移植後110日で、動物を屠殺し、組織学研究を、移植された細胞を特定および特徴づけるために行った。抗ヒト核抗原抗体および抗GDNF抗体を、移植されている分化した細胞を特定するために使用した(図14A〜図14E)。免疫染色および共焦点顕微鏡観察による研究により、ヒト抗原について陽性であった細胞の25%までがGFAPについてもまた陽性であったことが明らかにされた。これらの結果は、星状細胞様細胞が線条体におけるドーパミン欠乏を回復することができ、また、おそらくは、他の神経変性疾患において有益であることを示している。
【0209】
(実施例3)
星状細胞様の分化したhBMScの筋肉内移植によるALSのトランスジェニックマウスモデルの運動機能の改善
【0210】
材料および方法
動物モデル:TgN(SOD1−G93A)1Gurトランスジェニックマウス(Gurney、1994)のコロニーをJackson Laboratory(米国)から得た。マウスをCSJLF1において交配し、1月齢で、子孫を、下記のPCRプライマーを使用してPCR分析によって遺伝子型決定した。
アニーリング温度は53℃であり、PCR生成物は、236bp(hSOD1)、324bp(IL2)であった。この研究で使用されることになったマウスは3月齢までは健康であり、4月齢〜5月齢の間で完全に麻痺した。動物実験はTel−Aviv Universityによって承認および管理された。
【0211】
細胞移植および行動:40日目に、0.5x106個の、ヒト星状細胞に分化した細胞(これは実施例1に記載されるように調製された)を2本の足において腓腹筋内に移植した。運動成績を、加速された回転によるロータロッド装置によって2週間毎に評価した。
【0212】
組織病理学的評価:マウスを110日目に屠殺し、足を4℃で4%パラホルムアルデヒド/0.1Mリン酸塩緩衝液(pH7.4)に入れた。パラフィンブロックを調製し、抗ヒト抗原抗体により免疫染色した。
【0213】
統計学的分析:比較を、3つ以上の群が関わったとき、事後ダネット検定によるANOVAによって行った。データが正規分布でなかったならば、ノンパラメトリック検定(マン・ホィットニーのU検定)を結果の比較のために使用した。データを平均±s.e.m.として表した。
【0214】
結果
星状細胞に分化した細胞(0.5x106個)を、40日目に、hmSODマウス(n=8)に筋肉内移植した(足)。並行群には生理的食塩水を注射した。加えて、野生型マウス(n=8)およびmhSOD Tgマウス(n=8)を陽性コントロールおよび陰性コントロールとして使用した。
【0215】
行動評価を、40日目から死亡まで(120日目〜140日目まで)、2週間毎にロータロッドで行った(M&Mを参照のこと)。図15に示されるように、運動成績における低下(すなわち、ALSの症状)が細胞移植マウスでは著しく遅れた。
【0216】
動物の体重を測定し、移植群と、コントロールとの間で比較し、統計学的に分析した。コントロール群は、移植群よりも著しく大きい(p<0.05)体重減少を示した(図16)。
【0217】
組織学的研究を抗ヒト核抗原抗体により110日目に行い、植え付けられた細胞が生存していたことが示された(図17A〜図17C)。
【0218】
分かりやすくするため別個の実施態様で説明されている本発明のいくつもの特徴は、組み合わせて単一の実施態様にして提供することもできることは分かるであろう。逆に簡略化するため単一の実施態様で説明されている本発明の各種特徴は、別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0219】
本発明を、その具体的実施態様とともに説明してきたが、多くの代替、変形および変更が当業技術者には明らかであることは明白である。したがって、本発明は、本願の特許請求の範囲の精神と広い範囲内に入っているこのような代替、変形および変更をすべて含むものであることを意図する。本明細書に記載のすべての刊行物、特許および特許出願は、あたかも、個々の刊行物、特許または特許出願各々が、本願に具体的にかつ個々に参照して示されているように、本願に援用するものである。さらに、本願における任意の文献の引用もしくは確認は、このような文献が本発明に対する従来技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0220】
【図1】5日目の分化したヒトMSCおよび分化していないヒトMSCの光学顕微鏡観察画像である。
【図2】5日目の分化したヒトMSC(図2B〜図2D)および分化していないヒトMSC(図2A)の走査電子顕微鏡観察画像である。
【図3】分化したヒトMSCにおける星状細胞マーカーの発現を例示する顕微鏡写真である。
【図4】分化したヒトMSCにおける星状細胞マーカーのグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現を例示する顕微鏡写真および棒グラフである。
【図5】分化していないヒトMSCと比較して、分化したヒトMSCにおける神経栄養因子転写物の量を例示する棒グラフである。
【図6】分化したヒトMSCにおけるGDNFの発現を例示する顕微鏡写真および棒グラフである。
【図7】分化したヒトMSCにおいて細胞に存在するGDNFの量を例示する棒グラフである。
【図8A−C】分化したヒトMSCによって分泌されたGDNF、BDNFおよびNGFの量を例示する棒グラフである。
【図8D】分化したヒトMSCによって分泌されたGDNF、BDNFおよびNGFの量を例示する棒グラフである。
【図9】MSCの分化の後におけるグルタミン酸輸送体(GLASTおよびGLT−1)の発現を例示する棒グラフである。
【図10】hBMSCの星状細胞分化の前後におけるグルタミン酸輸送体の機能的活性を例示する棒グラフである。
【図11】星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの行動における改善を例示する線グラフである。
【図12】星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットのロータロッドアッセイにおける改善を例示する棒グラフである。
【図13】星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの微妙な運動機能における改善を例示する線グラフである。
【図14】星状細胞に分化したhBMScが移植された6−OHDA障害ラットの細胞に対する共焦点顕微鏡観察画像である。
【図15】ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが疾患の発症を遅らせ、ロータロッドにおけるその運動成績を改善することを例示する線グラフである(n=8、p<0.05)。
【図16】ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが体重減少を遅らせることを例示する線グラフである。
【図17】星状細胞に分化したhBMScが移植されたALSマウスの細胞に対する共焦点顕微鏡観察画像であり、ALSマウスの腓腹筋に移植された星状細胞分化BMSCが移植後110日を生存することを例示する。
【配列表フリーテキスト】
【0221】
配列番号1〜56は一本鎖DNAオリゴヌクレオチドの配列である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの星状細胞表現型と、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型とを含む単離されたヒト細胞。
【請求項2】
星状細胞型構造的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型と、少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型とを含む単離されたヒト細胞。
【請求項3】
星状細胞型機能的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型と、少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型とを含む単離されたヒト細胞。
【請求項4】
少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含み、少なくとも1つの神経栄養因子を発現する単離されたヒト細胞であって、前記発現は、間葉性幹細胞における前記神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きい単離されたヒト細胞。
【請求項5】
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞表現型を含む;
(ii)前記ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)前記ヒト細胞の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの星状細胞表現型と、前記少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団。
【請求項6】
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの神経栄養因子を発現し、前記発現は間葉性幹細胞における前記神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きい;
(ii)前記ヒト細胞の少なくともM%が少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)前記ヒト細胞の少なくとも1つが前記少なくとも1つの神経栄養因子および前記少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を発現する;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団。
【請求項7】
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型を含む;
(ii)前記ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞型構造的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)前記ヒト細胞の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型と、前記少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団。
【請求項8】
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型を含む;
(ii)前記ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞型機能的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)前記ヒト細胞の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型と、前記少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団。
【請求項9】
細胞は遺伝子操作されない、請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または単離された細胞集団。
【請求項10】
前記少なくとも1つの星状細胞表現型は構造的表現型である、請求項1または5に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項11】
前記少なくとも1つの星状細胞表現型は機能的表現型である、請求項1または5に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項12】
前記細胞はさらに星状細胞型機能的表現型を含む、請求項2または7に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項13】
前記星状細胞型機能的表現型は前記間葉性幹細胞表現型ではない、請求項12に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項14】
前記細胞はさらに星状細胞型構造的表現型を含む、請求項3または8に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項15】
前記細胞はさらに星状細胞型構造的表現型を含む、請求項4または6に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項16】
前記星状細胞型構造的表現型は前記間葉性幹細胞表現型ではない、請求項14または15に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項17】
前記星状細胞型構造的表現型は、細胞サイズ、細胞形状、オルガネラサイズおよびオルガネラ数である、請求項2、7、10、14または15のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項18】
前記星状細胞型構造的表現型は少なくとも1つの星状細胞マーカーの発現である、請求項2、7、10、14または15のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項19】
前記星状細胞マーカーは表面マーカーである、請求項18に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項20】
前記星状細胞マーカーは内部マーカーである、請求項18に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項21】
前記星状細胞型機能的表現型は、少なくとも1つの神経栄養因子を間葉性幹細胞における前記神経栄養因子の基礎的産生よりも少なくとも2倍大きいレベルで発現することである、請求項3、8、11または12のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項22】
前記少なくとも1つの神経栄養因子は、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、ニューロトロフィン−4/5、ニュールツリン(NTN)、ペルセフィン、脳由来神経栄養因子(BDNF)、アルテミン(ART)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インスリン様成長因子−I(IGF−1)およびニューブラスチンからなる群から選択される、請求項4、6または21のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項23】
前記少なくとも1つの神経栄養因子はGDNFである、請求項22に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項24】
前記星状細胞マーカーは、S100β、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、グルタミンシンセターゼ、GLT−1およびGLASTからなる群から選択される、請求項18に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項25】
前記GDNFの分泌がIL−1βおよび/またはカベルゴリンによって調節される、請求項23に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項26】
間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)およびヒトニューレグリン1−β1を含む分化培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法。
【請求項27】
前記インキュベーションの継続期間が約48時間である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記PDGFの濃度が約5ng/mlである、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒトニューレグリン1−β1の濃度が約50ng/mlである、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記分化培地はさらに、L−グルタミン、ジブチリル環状AMPおよびイソブチルメチルキサンチンIBMXを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記インキュベーションの前に細胞をさらなる培地で培養し、それにより、前記細胞を星状細胞様細胞に分化しやくすることをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記さらなる培地はヒト上皮増殖因子(hEGF)およびヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
hEGFの濃度が約20ng/mlである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
hbFGFの濃度が約20ng/mlである、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記さらなる培地はさらに、L−グルタミン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、セレンおよびトランスフェリンを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記培養の継続期間は約48時間である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記間葉性幹細胞が、
(a)前記間葉性幹細胞を含む細胞の集団を、前記間葉性幹細胞を維持および/または拡大培養することができる増殖培地で培養する工程;および
(b)前記間葉性幹細胞を工程(a)から得られる細胞から選択する工程
によって得られる、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
工程(b)が、表面に接着している細胞を集めることによって行われる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)、ヒトニューレグリン1−β1、FGF2、EGF、N2、IBMXおよびcAMPからなる群から選択される少なくとも1つの分化因子を含む培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法。
【請求項40】
治療効果的な量の星状細胞様細胞をその必要性のある個体に投与し、それにより、CNS疾患またはCNS障害を治療することを含む、CNS疾患またはCNS障害を治療する方法。
【請求項41】
CNS疾患またはCNS障害を治療するための星状細胞様細胞の使用。
【請求項42】
少なくとも1つの神経伝達物質を内因的に合成することができる幹細胞を個体に投与することをさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
CNS疾患またはCNS障害は神経変性疾患または神経変性障害である、請求項40または41に記載の方法または使用。
【請求項44】
CNS疾患またはCNS障害は、運動障害、解離性障害、気分障害、情動障害、常習性障害および痙攣性障害からなる群から選択される、請求項40または41に記載の方法または使用。
【請求項45】
神経変性障害は、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかん、筋萎縮性側索硬化症、卒中、自己免疫性脳脊髄炎、糖尿病性神経障害、緑内障性神経障害、アルツハイマー病およびハンチングトン病からなる群から選択される、請求項43に記載の方法または使用。
【請求項46】
前記細胞は自己の細胞である、請求項40または41に記載の方法または使用。
【請求項47】
前記細胞は非自己の細胞である、請求項40または41に記載の方法または使用。
【請求項48】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれかに記載される細胞または細胞集団のいずれかを活性な作用因として含み、かつ、医薬的に許容され得るキャリアを含む医薬組成物。
【請求項1】
少なくとも1つの星状細胞表現型と、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型とを含む単離されたヒト細胞。
【請求項2】
星状細胞型構造的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型と、少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型とを含む単離されたヒト細胞。
【請求項3】
星状細胞型機能的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型と、少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型とを含む単離されたヒト細胞。
【請求項4】
少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含み、少なくとも1つの神経栄養因子を発現する単離されたヒト細胞であって、前記発現は、間葉性幹細胞における前記神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きい単離されたヒト細胞。
【請求項5】
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞表現型を含む;
(ii)前記ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)前記ヒト細胞の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの星状細胞表現型と、前記少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団。
【請求項6】
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの神経栄養因子を発現し、前記発現は間葉性幹細胞における前記神経栄養因子の基礎的発現よりも少なくとも2倍大きい;
(ii)前記ヒト細胞の少なくともM%が少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)前記ヒト細胞の少なくとも1つが前記少なくとも1つの神経栄養因子および前記少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を発現する;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団。
【請求項7】
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型を含む;
(ii)前記ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞型構造的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)前記ヒト細胞の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの星状細胞型構造的表現型と、前記少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団。
【請求項8】
(i)ヒト細胞の少なくともN%が少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型を含む;
(ii)前記ヒト細胞の少なくともM%が、星状細胞型機能的表現型でない少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型を含む;および
(iii)前記ヒト細胞の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの星状細胞型機能的表現型と、前記少なくとも1つの間葉性幹細胞表現型との両方を含む;
ただし、MおよびNはそれぞれが独立して、1〜99の間で選択される、
ヒト細胞を含む単離された細胞集団。
【請求項9】
細胞は遺伝子操作されない、請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または単離された細胞集団。
【請求項10】
前記少なくとも1つの星状細胞表現型は構造的表現型である、請求項1または5に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項11】
前記少なくとも1つの星状細胞表現型は機能的表現型である、請求項1または5に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項12】
前記細胞はさらに星状細胞型機能的表現型を含む、請求項2または7に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項13】
前記星状細胞型機能的表現型は前記間葉性幹細胞表現型ではない、請求項12に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項14】
前記細胞はさらに星状細胞型構造的表現型を含む、請求項3または8に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項15】
前記細胞はさらに星状細胞型構造的表現型を含む、請求項4または6に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項16】
前記星状細胞型構造的表現型は前記間葉性幹細胞表現型ではない、請求項14または15に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項17】
前記星状細胞型構造的表現型は、細胞サイズ、細胞形状、オルガネラサイズおよびオルガネラ数である、請求項2、7、10、14または15のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項18】
前記星状細胞型構造的表現型は少なくとも1つの星状細胞マーカーの発現である、請求項2、7、10、14または15のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項19】
前記星状細胞マーカーは表面マーカーである、請求項18に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項20】
前記星状細胞マーカーは内部マーカーである、請求項18に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項21】
前記星状細胞型機能的表現型は、少なくとも1つの神経栄養因子を間葉性幹細胞における前記神経栄養因子の基礎的産生よりも少なくとも2倍大きいレベルで発現することである、請求項3、8、11または12のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項22】
前記少なくとも1つの神経栄養因子は、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、ニューロトロフィン−4/5、ニュールツリン(NTN)、ペルセフィン、脳由来神経栄養因子(BDNF)、アルテミン(ART)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インスリン様成長因子−I(IGF−1)およびニューブラスチンからなる群から選択される、請求項4、6または21のいずれかに記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項23】
前記少なくとも1つの神経栄養因子はGDNFである、請求項22に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項24】
前記星状細胞マーカーは、S100β、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、グルタミンシンセターゼ、GLT−1およびGLASTからなる群から選択される、請求項18に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項25】
前記GDNFの分泌がIL−1βおよび/またはカベルゴリンによって調節される、請求項23に記載の単離されたヒト細胞または細胞集団。
【請求項26】
間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)およびヒトニューレグリン1−β1を含む分化培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法。
【請求項27】
前記インキュベーションの継続期間が約48時間である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記PDGFの濃度が約5ng/mlである、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒトニューレグリン1−β1の濃度が約50ng/mlである、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記分化培地はさらに、L−グルタミン、ジブチリル環状AMPおよびイソブチルメチルキサンチンIBMXを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記インキュベーションの前に細胞をさらなる培地で培養し、それにより、前記細胞を星状細胞様細胞に分化しやくすることをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記さらなる培地はヒト上皮増殖因子(hEGF)およびヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
hEGFの濃度が約20ng/mlである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
hbFGFの濃度が約20ng/mlである、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記さらなる培地はさらに、L−グルタミン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、セレンおよびトランスフェリンを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記培養の継続期間は約48時間である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記間葉性幹細胞が、
(a)前記間葉性幹細胞を含む細胞の集団を、前記間葉性幹細胞を維持および/または拡大培養することができる増殖培地で培養する工程;および
(b)前記間葉性幹細胞を工程(a)から得られる細胞から選択する工程
によって得られる、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
工程(b)が、表面に接着している細胞を集めることによって行われる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
間葉性幹細胞を、血小板由来増殖因子(PDGF)、ヒトニューレグリン1−β1、FGF2、EGF、N2、IBMXおよびcAMPからなる群から選択される少なくとも1つの分化因子を含む培地でインキュベーションし、それにより、星状細胞様細胞を作製することを含む、星状細胞様細胞を作製する方法。
【請求項40】
治療効果的な量の星状細胞様細胞をその必要性のある個体に投与し、それにより、CNS疾患またはCNS障害を治療することを含む、CNS疾患またはCNS障害を治療する方法。
【請求項41】
CNS疾患またはCNS障害を治療するための星状細胞様細胞の使用。
【請求項42】
少なくとも1つの神経伝達物質を内因的に合成することができる幹細胞を個体に投与することをさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
CNS疾患またはCNS障害は神経変性疾患または神経変性障害である、請求項40または41に記載の方法または使用。
【請求項44】
CNS疾患またはCNS障害は、運動障害、解離性障害、気分障害、情動障害、常習性障害および痙攣性障害からなる群から選択される、請求項40または41に記載の方法または使用。
【請求項45】
神経変性障害は、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかん、筋萎縮性側索硬化症、卒中、自己免疫性脳脊髄炎、糖尿病性神経障害、緑内障性神経障害、アルツハイマー病およびハンチングトン病からなる群から選択される、請求項43に記載の方法または使用。
【請求項46】
前記細胞は自己の細胞である、請求項40または41に記載の方法または使用。
【請求項47】
前記細胞は非自己の細胞である、請求項40または41に記載の方法または使用。
【請求項48】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれかに記載される細胞または細胞集団のいずれかを活性な作用因として含み、かつ、医薬的に許容され得るキャリアを含む医薬組成物。
【図5】
【図7】
【図8A−C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図14】
【図17】
【図7】
【図8A−C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図14】
【図17】
【公表番号】特表2008−546385(P2008−546385A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516505(P2008−516505)
【出願日】平成18年6月18日(2006.6.18)
【国際出願番号】PCT/IL2006/000699
【国際公開番号】WO2006/134602
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(503255958)ラモト アット テル アヴィヴ ユニヴァーシティ リミテッド (14)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月18日(2006.6.18)
【国際出願番号】PCT/IL2006/000699
【国際公開番号】WO2006/134602
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(503255958)ラモト アット テル アヴィヴ ユニヴァーシティ リミテッド (14)
【Fターム(参考)】
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