説明

CNTを用いた低抵抗素線及びその製造方法

【課題】CNTを利用して低抵抗素線を提供する。
【解決手段】金属6内にCNT5の方向を揃えて埋め込み、素線とする。金属は、銅やアルミ、金、銀など展性の良い材料を使う。CNTは、金属ワイヤー2表面に付着され、巻かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低抵抗素線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導素線について説明する。図11は、液体ヘリウム温度で利用する超伝導素線(多芯線)の断面を示す図である。図11の超伝導素線の直径は例えば1mm程度である。超伝導素線は、銅(「マトリックス材」という)に超伝導フィラメント101が埋め込まれている。超伝導フィラメント101は、太さが数μmから数十μm程度であり、例えばNbTiが用いられる。直流の応用では太いフィラメントを利用し、交流の応用では、細いフィラメントを利用して交流損を低減している。高温超伝導材HTSは、セラミックス系材料であり、フィラメントの太さの制御が困難であり、素線の断面は一般に矩形とされ、素線としては、テープ状である。
【0003】
直流では、超伝導は完全に抵抗が完全にゼロ(銅の抵抗率より10桁以上低いことが実験的に確認されている)になるため、素線に直流電流を流すと、銅マトリックス部には流れず、超伝導フィラメント101にのみ電流が流れる。
【0004】
図12に、超伝導フィラメントに電流が流れる状況を模式的に示す。図12には、フィラメントの長手方向の断面が示されており、フィラメント内部での磁場の分布も示されている。フィラメント中心の磁場は、最外層のフィラメントの磁場に比べて低くなる(非特許文献1)。
【0005】
これは、フィラメント内部に均一、フィラメント表面付近に多くの電流が流れるからである。
【0006】
超伝導素線の典型的な作製の一例を図13を用いて説明する。断面が正六角形の銅ロッド203及び超伝導ロッド202(長さは例えば0.2m程度)の材料を用意する。断面の大きさは例えば1〜2cm程度である。正六角形は、空間を隙間無く埋める(稠密充填構造)である。銅パイプ201に入れるロッドの数は超伝導フィラメントの数となる。銅はフィラメントの間に入るマトリックス材となる。直流では純銅が用いられるが、交流では例えば銅合金等が用いられる。同じ長さの銅パイプを用意し内部に銅ロッド203及び超伝導ロッド202が隙間無く積み重ねるように銅パイプ201内面を挿入し、ロッド(断面が正六角形)が隙間無く積み上げることが出来るように加工する。銅パイプ201の直径は例えば60cm程度である。これをダイスに入れて引き延ばす。ロッド間の僅かな隙間は圧縮すると同時に、引き延ばすことによって潰れ、超伝導ロッド202と銅ロッド203が密着する。直径が1mm程度まで引き延ばすことによって長さが数km以上の超伝導素線が製作されることになる。直径60cmの銅パイプ201が直径1mmになる場合、断面は1/600となる。2cmの超伝導ロッド202が銅パイプ201に入れてあると、それの直径は、2/600=33.3μmになる。また、長さは、この比の2乗に比例するので、0.2x600=7.2×10=72kmとなる。
【0007】
図11に示したように、超伝導素線は、マトリックス材(常伝導金属マトリックス)と超伝導フィラメントからなる。超伝導は、不安定になることがある。銅マトリックス(常伝導金属マトリックス)102を全体に取り付けることによって、超伝導フィラメント101が常伝導転位したときに、超伝導フィラメント101に流れている電流が銅マトリックス(常伝導金属マトリックス)102に流れ、素線全体がクエンチすることを防ぐ。
【0008】
電気抵抗が低いため、外部から電場を印加して電流を流す場合、素線の外側から電流が流れ出す。超伝導の部分が太いと、ヒステリシス損(交流損)が大となり、発熱によって温度が上昇し、超伝導が破れる。このため、銅マトリックス(常伝導金属マトリックス)102に埋めることによって、細い超伝導フィラメント101を使えるようにしている。
【0009】
【非特許文献1】舟木和夫ほか、「超伝導工学の基礎 多心線と導体」、第31頁、産業図書、1995年4月
【非特許文献2】春山純志、「カーボンナノチューブにおける超伝導」日本物理学会誌, vol.61, no.11, pp.826-830, 2006.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
CNT(carbon nanotube)の電気伝導については,2次元電子ガス(2DEG)系でのナノ物性現象の一つとして、メゾスコピック系の研究として理論実験が行われている。電子散乱の2大要素である、フォノン散乱と不純物散乱のうち、後者がほとんどなくなっていることが特長であり、バリスティック伝導性を示す。この特性を利用して、トランジスタ等のスイッチング・デバイスを作る応用研究が行われている。理論的には、抵抗が低いことが分かっている。CNTを利用してトランジスタ等の特性の測定も行われており、実験的にCNTの低抵抗性が観測され、CNTが半導体素子の主要な材料として利用される可能性もある。実験的には、常温で、数nmの直径のCNTにμAの電流を流すことができる。これは、古典的な意味で、高電流密度である。流れる電流を1μA, CNTの直径を4nm(SWCNT(Single Walled CNT;単層CNT)では2nm程度)とすると、



である。
【0011】
この値は、銅線の電流密度の4桁から5桁高い値である。実際、このような高密度電流を銅に流すと、銅は溶融し、瞬時に、プラズマ化して放電が始まる。逆に、このことから、CNTは銅に比べて電気抵抗が極めて低いことができる。
【0012】
小さな素子で大きな電流を制御することが、原理的に可能であることを意味し、CNTを用いて、スイッチング・デバイスを開発する大きな理由になっている。炭素原子が強く結合しているCNTは、常温付近でも熱振動(フォノン)によるキャリア散乱が大きくないことや、CNTには不純物がその構造中に入りにくいので不純物散乱が低くなるため、抵抗が小さくなることは理論的にも予測されている。
【0013】
メゾスコピック系物理の検討によって、一本のCNTの量子抵抗は、電流の流れるチャンネルが2つあり、



程度であることが知られている。
【0014】
本発明は、CNTを用いて低抵抗化を図る素線およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決する本発明は、概略以下の構成とされる。
【0016】
本発明は、金属内にCNTの方向を揃えて埋め込み素線としたものである。金属は、銅やアルミ、金、銀など展性の良い材料が用いられる。
【0017】
本発明において、CNTの長さは限られているので、CNTが互いに長手方向に重なるようにする。CNT間を電流が渡るときに大きな抵抗が発生しないようにするために、十分にゴミ対策を施す。
【0018】
このような素線を作るために、金属ワイヤー表面に電場を利用してCNTを接着させる。
【0019】
本発明によれば、誘電体溶液中にCNTを混入させ、電位を容器と金属ワイヤーの間に印加し、CNTを電気化学的に接着させる製造方法が提供される。
【0020】
金属ロッドを複数本集め、それを金属パイプ中に入れてから、ダイスで圧縮させながら引き延ばす。
【0021】
本発明によれば、別の製造方法として、金属板表面にCNT層を作り、それを、海苔巻きのように丸めて太いワイヤーを作り、これをダイスで圧縮させながら引き延ばす。丸めるときに、中心に金属棒を入れて丸めると作業性が向上する。この時、金属表面に溝を作り、CNTの方向を揃えるようにしてもよい。
【0022】
更に、繊維状のCNTの場合には、機械的にその溝にCNT繊維を入れて、同様に丸め、ダイスで圧縮させながら引き延ばす。
【0023】
本発明の1つのアスペクトに係る素線は、前記CNTは長手方向に互いに重なりあっている。本発明において、素線を構成する金属に、方向を揃えて埋め込んでなる複数のCNT(カーボンナノチューブ)を備えている。前記CNTは、金属マトリックス内に、素線の長手方向に沿って埋め込めまれている。前記CNTは長手方向に互いに重なりあっている。
【0024】
本発明において、前記CNTは、金属ワイヤー又は金属ロッドの表面に、CNT層を付着させてなるものである。
【0025】
本発明において、前記CNTは、素線断面に対して所定の割合で含まれる。
【0026】
本発明において、前記金属は、銅、アルミニウム、金、銀の少なくとも1つを含む。
【0027】
本発明においては、前記CNTは、ワイヤー又はロッド状の金属部材の表面にCNTペーストが流し込まれ乾燥させて形成してもよい。
【0028】
本発明においては、前記CNTは、誘電体溶液中にCNTを混入させ、電位を容器と金属部材の間に印加してCNTを電気化学的に前記金属部材表面に接着させ乾燥加熱処理して形成してもよい。
【0029】
本発明においては、ワイヤー又はロッド状の金属部材の表面に電場を利用してCNTを付着させ、表面にCNTが付着した金属部材を複数作り、表面にCNTが付着した複数の金属部材と、表面にCNTを付着させる処理を行わない金属部材を金属パイプ内に積み、ダイスで圧縮させながら引き延ばして形成してもよい。
【0030】
本発明においては、金属部材表面にCNT層を配し前記金属部材を巻回してワイヤーを作り、前記ワイヤーをダイスで圧縮させながら引き延ばして形成してもよい。
【0031】
本発明においては、前記CNT層は、CNT繊維であってもよい。
【0032】
本発明においては、一の方向に延在されるガイド(溝又は側壁等)に沿って配置され、前記一の方向に沿った一の位置に配置される一のCNT部材と、前記一の方向に沿った前記一の位置とは別の位置に配置される他のCNT部材の少なくとも端部同士が、前記一の方向に、互いに重なり合って配設されている。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、CNTを用いることで、素線の抵抗を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
上記した本発明についてさらに詳細に説述すべく添付図面を参照して説明する。本発明においては、金属(例えば銅マトリックス)に、CNTが、図11の超伝導フィラメントのように、埋め込まれており、CNTの断面積の全体の1%になる素線を考える(なお、CNTは全てチューブ状になった種類だけでなく内部にカーボン原子が詰まっているような構造のCNTもある。このようなCNTに大きな電流を流すことができる。また、van der Waals力は小さくなるようである)。
【0035】
素線(直径1mm)の断面の1%になる2nmのCNTの本数Nは次のとおりである。


【0036】

したがって、CNTの抵抗Rsは、次式で与えられる。

【0037】
これは、前述したように、バリスティック伝導であり、CNTの長さ程度の抵抗値になるが、現在のCNTでは、長さlが1mm程度までとされる。抵抗率に直すと、


【0038】
これは、常温の銅の電気抵抗率より2桁低い値である。
【0039】
つまり、導線の体積に対して、1%程度のCNTを混入させることで、銅の抵抗率の1/100程度になる可能性があることを示唆している。
【0040】
近時、超伝導を利用した送電、モータ等、超伝送システムの各種応用研究が行われているが、超伝送システムは低温で利用する必要がある。このため、超伝導部を低温に保持するために冷凍機を用いており、これが電力を消費する。したがって、実効的にはケーブルに抵抗があることと等価である。その損失は、銅ケーブルの1/2〜1/10程度である。超伝導の特長は損失が少なくなるほかに電流密度が高く取れることがある。これはエネルギー損失とは別で、超伝導マグネットは同じ磁場を発生できる銅マグネットに比べて1/100以下の体積になる。
【0041】
一方、上記の見積もりから、CNTを断面の1%程度混ぜることで、銅の抵抗率の1/10〜1/100程度となれば、実質的に、超伝導素線と同等な素線を作ることができることになる。
【0042】
更に、本発明によれば、冷凍機や低温に保持するためのクライオスタットが不要になるため、装置設計も含め、実質的には、本発明の方がはるかに使いやすい。つまり、このような導線を作ってもCNTのコストを負担することが原理的に可能になる。
【0043】
また、CNTの超伝導特性に関する実験・研究において、例えばCNTの両端に、金属電極を取り付けて電流電圧特性の測定が行われており(非特許文献2参照)、超伝導が発現した温度は、数K以下である場合が多い。このようにすれば、確かに超伝導であるかが確かめることができるが、一般に、電極を、このような小さいCNTに取り付けることは、技術的に困難な場合が多い。
【0044】
このため、サンプルの製作に労力を必要とし、再現性ある実験は比較的困難である。
【0045】
一方、工学系の応用超伝導の分野では、図11に示したような素線を作ってから超伝導特性を測定することが一般的である。細い超伝導フィラメントだけに、直接、電極を取り付けて特性を測定することは、一般的に行われない。したがって、CNTの超伝導特性を実験する場合には、金属などのマトリックス材にCNTを埋めて測定を行った方が良いのではないかと思料される。但し、このようなサンプルを作った場合には、CNTを渡って電子が流れるときの散乱を検討しなければならない。その意味で、上記の抵抗率の見積もりは、低めに見積もっている可能性もあるが、この問題は、高温超伝導体が1986年に発見されてから、しばらく議論されていたことが参考になる。高温超伝導体を作る結晶中では、完全な超伝導になるが、セラミックス系材料であるため、実際の状態は、小さな結晶粒が多く集まった状態になっており、結晶粒の間で電子が散乱されて、電気抵抗が発生する可能性がある。
【0046】
実際、セラミックス系高温超伝導体では、金属系超伝導体に比べて、臨界電流密度は1桁以上低く、臨界温度以下でも、完全に電気抵抗がゼロにならないことが、実験的にも観測されている。
【0047】
しかしながら、上記のような問題は、超伝導応用では、あまり問題にされていない。それは、超伝導体結晶粒子間での電子の散乱による抵抗は、ケーブルやモータ応用に用いるレベルでは問題にならないからである。
【0048】
したがって、CNTを用いて電気抵抗の低い導体を開発する場合では、CNTを渡って流れる電子の散乱による抵抗増大が、目的とする応用分野で問題にならない程度に低いレベルであれば、実使用に供し得る。
【0049】
これは、例えばCNTでは、現在長さが1〜数十μmとなっているが、高温超伝導体の結晶粒子の大きさが同程度であることや、CNTが繊維状になっているため、電子がCNT間を渡る面積が大きくなることから、それほど厳しい問題にならないと期待できる。
【0050】
なお、この問題の一般的な解決は、
・結晶粒子間距離を短くするか、
・結晶粒子を電流が流れる方向に大きくすることであり、
現在の応用超伝導の分野では、後者の方法がとられている。
【0051】
これはCNTの場合には、長い繊維を作ることが求められることに対応する。以上、本発明の理論背景を説明したが、次に具体的な素線製造に関する具体例について説明する。
【実施例】
【0052】
本発明の実施例として、CNTを金属マトリックス材に入れて常温で低抵抗の素線を作る方法について説明する。
【0053】
<電気泳動金属ロッド法>
本発明によれば、前述した図11の超伝導フィラメント101の部分を、複数のCNTで置換した素線を作る。
【0054】
この時、CNTは電流を流す方向にある程度揃っている必要がある。更に、CNTの長さが有限であるため、複数のCNTが集まって繊維状になっている事が必要である。
【0055】
CNTには、van der Waals力が働くため、電場中に入れると、CNTに電磁力が働く。Van der Waals力は分子の周りの電子に空間的偏りが生じて、その結果分極が発生することによって生じる力である。その意味で広義のクーロン力である。これは、時間的にも変化する場合がある。分子は内部に多くの電子や原子核があるため、2重極や3重極以上になるため、この力のポテンシャルは距離の6乗以上に反比例するのが一般的である。また、これはモノが接着するときの物理プロセスの最も重要な力である。
【0056】
また、ピンセットなどでCNTに接触すると接着され、CNTをピンセットから完全に剥がすことはかなり困難である。そして、空気中にCNTを放置すると、空気中のゴミを吸着する。一方、このような物質を、誘電体中に入れると、誘電体が分極を生じ、CNT周辺の電場をシールドする。したがって、ピンセットなどでも扱いやすくなる。
【0057】
SWCNTをエチルアルコールに入れると、ピンセットで接触しても、簡単にCNT繊維を剥がすことが出来る。
【0058】
そこで、今回、図1に示すような実験装置を作った。誘電体溶液(例えばエチルアルコール)にCNTを入れ、それを金属など導体で作った容器1に入れる。内部に、金属ワイヤー又は金属ロッド2を入れ、容器1とは電気的に接触しないようにする。外部から電源3を接続し、容器1と、金属ワイヤー又は金属ロッド2の間に電位差を設ける。すると、誘電体中に発生する電場のためCNTには電磁力が働き、金属ワイヤー又は金属ロッド2か容器1側に吸引される。
【0059】
金属ワイヤー又は金属ロッド2側に、CNTが吸引されるように、極性を決めると、金属ワイヤー又は金属ロッド2の表面は、CNTでメッキをされたような状態になる。
【0060】
この時、CNT繊維の長さより直径の小さな金属ワイヤー又は金属ロッド2であれば、CNT繊維は、金属ワイヤー又は金属ロッド2の長手方向に沿って接着する傾向が強くなる。これは、CNTの方向を揃えることになるので、素線を作る場合に効果的である。
【0061】
印加する電圧は、時間的に変化させるようにしてもよい。これは、電場と相互作用してモノが動くような場合には、位相差が発生することが一般的であるからである。
【0062】
金属ワイヤー又は金属ロッド2表面にCNT繊維が完全に密着する状態を作る。
【0063】
金属ワイヤー又は金属ロッド2の断面は、円形でも良いが、正六角形としてもよい。
【0064】
また、この様に、電場を利用して金属表面に、CNT繊維を取り付ける場合には、強い電場を持っているCNTが効果的であろう。
【0065】
SWCNT(単層DNT)は、MWCNT(多層CNT)よりも強いvan der Waals力があるので、良く吸着する。
【0066】
更に、このように、CNT繊維が、金属ワイヤー又は金属ロッド2表面に接着すると、電源によって印加された電場をシールドするので、ある一定以上は、CNT繊維が表面には接着しない。外部電源電圧を制御することによって、CNT層の厚さを制御することができる。
【0067】
表面に、一定の厚さでCNT繊維が付着された、金属ワイヤー又は金属ロッド2を、CNTを混ぜた誘電体溶液から取り出す。
【0068】
そして、金属ワイヤー又は金属ロッド2の乾燥・加熱処理を行い、誘電体溶液を蒸発させる。すると、CNTは、より強固に、金属ワイヤー又は金属ロッド2表面に強く接着する。
【0069】
また、CNT繊維間も同様に強く接着する。なお、不純物が混入しないように注意する必要がある。
【0070】
次に、表面にCNTが付着した金属ワイヤー又は金属ロッド2を複数作り、図2に示すように、銅パイプ内に積み上げる。これは超伝導素線を作る方法と同じである。異なっているのは、積み上げるロッド材料が超伝導体か表面に電気抵抗率の低いCNT繊維が接着されているかの違いだけである。また、CNTが表面に付いていない金属ロッドも同様に用意し、一緒に積み上げる。このようにして出来た円柱状の金属ロッドをダイスに通して圧縮をかけながら引き延ばして低抵抗素線を製作する。
【0071】
図2は、このようにして製作された低抵抗素線の断面図である。
【0072】
銅パイプ7内のそれぞれの金属ワイヤー部2の断面は小さくなり、その表面にCNT層(CNT繊維層)5があり、その外側に銅マトリックス材部6は、CNTが接着していない金属ロッドが起源である。ダイスで圧縮を印加しながら引き延ばしする際に注意すべきことは、引き延ばしをすることによってCNT繊維層5も薄くなるが、CNT繊維が互いに重なるような構造を保持することが必要である。更に、CNT繊維の方向が揃うことも必要である。このため、CNT繊維層5の厚さが、例えばCNT直径の数倍あるように制御することが必要となる。また、ダイスで引き延ばす過程でCNTの繊維は引き延ばす方向に揃って来る。これは、低抵抗素線を作る上で大変重要なことである。
【0073】
<金属板法>
次に、金属板法について説明する。図3に示すように、CNTペースト12を金属板11の上に流し入れる。なお、CNTは溶媒に溶かした状態でCNTペーストやCNT溶媒として販売されている。この後、高温で乾燥処理を行うと、溶媒は蒸発して、表面にCNTのみが残る。その後、このような板を複数枚重ねてから寿司の海苔巻きのように巻き上げ、円柱状にする。
【0074】
図4に、円柱の断面の一例を示す。金属板11とCNT層12が交互に入れ替わり、全体として断面が丸い円柱が出来る。断面直径は、その後のダイスにかけて引き延ばすかによるが、断面直径が1/100倍程度にする引き延ばしが必要になる。これによって、内部にある隙間が圧縮によって潰れることと、同時にCNTの方向が揃うからである。そして、この細くなった素線が目的とするCNTを用いた低抵抗素線となる。
【0075】
CNT層が表面にある金属板を巻き上げるときに、金属板の上に断面が丸い円柱状の金属棒13を置いて、それに巻き込んでいくと、図5のような断面を持った円柱が出来上がる また、中心金属丸棒13を入れた方が作業性は改善する。
【0076】
以上の図4と図5は、図11において、超伝導フィラメント101の部分がCNT層になったと考えることができる。したがって、もしこの層の電気抵抗が極めて低くなれば、電流はCNT層に主に流れ、素線としての抵抗は低減される。
【0077】
<金属板溝法>
次に、金属板の上にCNTを乗せるときにその方向を揃えるための手法を説明する。図6は、金属表面に溝を作るための加工用金属丸棒(セラミック丸棒でもよい)22であり、表面には拡大図に示すように表面に溝が掘られている。
【0078】
金属板21の表面を、図7に示すように、金属を押しながら転がして、表面に溝をつける。このため、加工用丸棒22の材料は、金属板21の材料に対して、より硬くなければならない。展性の高い材料を金属板21に用いる。展性の高い材料は柔らかいので、多くの材料がこの様な加工用丸棒22に使える。このように加工すると、金属板22表面は溝が出来上がるので、そこにCNTペーストなどを流し込む。この時、CNTペーストを溝の深さ以下にする。
【0079】
図8は、CNTペーストを流し込んだ状態を示している。この状態で加熱乾燥させ、溶媒を蒸発させると、金属板21の溝表面にCNTが接着した状態になる。この時、CNT繊維の長さが溝幅より長ければ、溝に沿ってCNT繊維が並ぶので、方向が揃うことになる。そして、これを、図4、図5のように、巻いて断面が丸い円柱を作る。そして、ダイスに入れて引き延ばす。
【0080】
<CNT>
次に、CNTについて説明する。CNTは現在色々なタイプがあり、上述したように溶媒に溶かしてペースト状に出来る材料から、図9に示すような繊維状のCNTがある。図9には、エチルアルコールを入れてシャーレとSWCNT繊維が示されている。SWCNTであるため、van der Waals力が強く、繊維状になっている。エチルアルコールを入れたシャーレに入っているCNTは、ピンセットで簡単につまむことが出来る。ペースト状になるCNT(多層CNT)はピンセットでつまむとバラバラになりやすく、つまむことが出来ない。これは、van der Waals力が弱いため、CNT間の結合力が弱いためと思われる。一方、このような繊維状のCNTは、本発明の実施例には、使いやすい形状をしていると考えられる。それは、CNTの方向を揃いやすいからである。エチルアルコールを用いた理由は、これは誘電体であるため、これに入れるとvan der Waals力をシールドするので、ピンセットにCNTが接着する強度が落ちる。このため、エチルアルコールを入れると、ピンセットでこの繊維を扱うことが容易になる。
【0081】
CNTの強い接着力を得るためには、エチルアルコールから取り出せば良い。また、このvan der Waals力は金属表面には強い力で接着するので、本実施例には好適である。
【0082】
このような繊維状のCNTを使う場合には、図10に示すように、金属板21の表面に溝を作り、そこにCNT繊維24を入れ込む。この作業は機械的に行われる。この時、金属板21にエチルアルコールのような誘電体に入れておいてから作業を行うと、作業性が向上する。これは、CNT繊維24が、金属板21表面の溝からずれたときに、修正しやすいからである。そして、CNT繊維24を入れ終わると、液体誘電体を加熱乾燥して蒸発させる。そして、図4、又は図5に示したように、このような金属板21を巻き上げ、円柱状にしてからダイスにかけて引き延ばす。以上の方法が溝無しの金属板で行っても
よい。
【0083】
なお、上記の非特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施例の装置構成を支援す図である。
【図2】本発明の一実施例においてCNTを利用した低抵抗素線の断面を示す図である。
【図3】本発明の一実施例において金属板にCNTペーストを流し込んだ状態を示す図である。
【図4】本発明の一実施例においてCNT層が表面にある金属板を丸く巻き上げたときの断面を示す図である。
【図5】本発明の一実施例においてCNT層が表面にある金属板を丸棒に乗せて巻き上げたときの断面を示す図である。
【図6】本発明の一実施例における金属板表面溝加工用丸棒を示す図である。
【図7】本発明の一実施例における金属板表面溝加工を説明する図である。
【図8】本発明の一実施例において溝付金属板にCNTペーストを流し込んだ状態を示す図である。
【図9】エチルアルコールを入れてシャーレとSWCNT繊維を示す図である。
【図10】本発明の一実施例においてCNT繊維を金属表面溝に入れ込む様子を説明する図である。
【図11】マルチフィラメント素線断面を示す図である。
【図12】フィラメント電流と磁場分布を示す図である。
【図13】超伝導素線母材の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1 容器
2 金属ワイヤー(金属ロッド)
3 電源
5 CNT繊維層
6 銅マトリックス材部
7 銅パイプ
11 金属板
12 CNTペースト層(CNT層)
21 金属板
22 丸棒
23 CNT含有液体
24 CNT繊維
101 超伝導フィラメント
102 銅(常伝導金属)マトリクス
201 銅パイプ
202 超伝導ロッド
203 銅ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線を構成する金属に、方向を揃えて埋め込んでなる複数のCNT(カーボンナノチューブ)を備えている、ことを特徴とする素線。
【請求項2】
前記CNTは、金属マトリックス内に、素線の長手方向に沿って埋め込めまれている、ことを特徴とする請求項1記載の素線。
【請求項3】
前記CNTは長手方向に互いに重なりあっている、ことを特徴とする請求項1又は2記載の素線。
【請求項4】
前記CNTは、金属ワイヤー又は金属ロッドの表面に、CNT層を付着させてなるものである、ことを特徴とする請求項1記載の素線。
【請求項5】
前記CNTは、素線断面に対して所定の割合で含まれる、ことを特徴とする請求項1記載の素線。
【請求項6】
前記金属は、銅、アルミニウム、金、銀の少なくとも1つを含む、ことを特徴とする請求項1記載の素線。
【請求項7】
前記CNTは、ワイヤー又はロッド状の金属部材の表面にCNTペーストが流し込まれ乾燥させて形成されたものである、ことを特徴とする請求項1記載の素線。
【請求項8】
前記CNTは、誘電体溶液中にCNTを混入させ、電位を容器と金属部材の間に印加してCNTを電気化学的に前記金属部材表面に接着させ乾燥加熱処理して、形成されたものである、ことを特徴とする請求項1記載の素線。
【請求項9】
ワイヤー又はロッド状の金属部材の表面に電場を利用してCNTを付着させ、表面にCNTが付着した金属部材を複数作り、表面にCNTが付着した複数の金属部材と、表面にCNTを付着させる処理を行わない金属部材を金属パイプ内に積み、ダイスで圧縮させながら引き延ばしてなる、ことを特徴とする請求項1記載の素線。
【請求項10】
金属部材表面にCNT層を配し前記金属部材を巻回してワイヤーを作り、前記ワイヤーをダイスで圧縮させながら引き延ばしてなる、ことを特徴とする請求項1記載の素線。
【請求項11】
前記CNT層は、CNT繊維である、ことを特徴とする請求項10記載の素線。
【請求項12】
案内に従って一の方向に沿って配置され、前記一の方向に沿った一の位置に配置される一のCNT部材と、前記一の方向に沿った前記一の位置とは別の位置に配置される他のCNT部材の少なくとも端部同士が、前記一の方向に、互いに重なり合って配設されてなるCNTを含む素線。
【請求項13】
ワイヤー又はロッド状の金属部材の表面に電場を利用してCNT(カーボンナノチューブ)を付着させ、表面にCNTが付着した金属部材を複数作り、
表面にCNTが付着した複数の金属部材と、表面にCNTを付着させる処理を行わない金属部材を金属パイプ内に積み、ダイスで圧縮させながら引き延ばして素線を製作する、
ことを特徴とする素線の製造方法。
【請求項14】
誘電体溶液中にCNTを混入させ、電位を容器と前記金属部材の間に印加し、CNTを電気化学的に、前記金属部材表面に接着させる、ことを特徴とする請求項13記載の素線の製造方法。
【請求項15】
金属部材表面にCNT層を配し、
前記金属部材を巻回してワイヤーを作り、
前記ワイヤーをダイスで圧縮させながら引き延ばす、ことを特徴とする素線の製造方法。
【請求項16】
中心に丸棒を入れて前記金属部材を巻回する、ことを特徴とする請求項15記載の素線の製造方法。
【請求項17】
前記金属部材の表面に溝を作り、CNTの方向を揃える、ことを特徴とする請求項15記載の素線の製造方法。
【請求項18】
前記溝に繊維状のCNTを配し、ダイスで圧縮させながら引き延ばす、ことを特徴とする請求項17記載の素線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−277077(P2008−277077A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118219(P2007−118219)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(597008728)株式会社ワイ・ワイ・エル (16)
【Fターム(参考)】