説明

CO吸脱着剤の製造方法

【課題】COを含む混合ガスから高純度のCOを効率よく分離回収できるCO吸脱着性能の優れた吸脱着剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のCO吸脱着剤の製造方法は、多孔質担体と、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液とを接触させた後、溶媒を除去するCO吸脱着剤の製造方法において、多孔質担体に無機酸を含浸させる処理を施し、次いで、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液と接触させるか、或いは、前記溶液または分散液に無機酸を含有させておき、前記担体と前記溶液または分散液とを接触させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO吸脱着剤の製造方法に関するものであり、より詳細には、CO吸脱着性能が高いCO分離回収用吸脱着剤の製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
COを主成分とするガスの代表的なものとして、製鉄所の転炉から得られる転炉ガス、高炉から得られる高炉ガス、電気炉から得られる電気炉ガス、コークスをガス化して得られる発生炉ガスなどがある。これらのガスは通常そのほとんどが燃料として使用されているが、これらのガスの中にはCOがたとえば70vol%前後あるいはそれ以上も含まれているものもあるので、これらのガス中に含まれるCOを高純度で分離回収することができれば、ギ酸、酢酸等の合成原料、有機化合物の還元用などとして用いることができ、化学工業上非常に有益である。
【0003】
従来、COを主成分とするガスからCOを分離回収する方法として、深冷分離法、銅アンモニア法、コソーブ(COSORB)法などが知られているが、これらの方法は設備費がかさむ上、電力、蒸気等の熱エネルギーに要する費用が大きいという問題があり、大容量のCOの分離回収には適していても、中容量または小容量のCOの分離回収には必ずしも適していなかった。さらに、これらの方法により分離して得られるCOにはO2、CO2など有機合成反応上障害となるガス成分が混在してくるため、そのままでは有機合成用には適用できないという欠点があった。
【0004】
ところで、中容量または小容量の原料ガスから特定ガスを選択分離する方法としてPSA法およびTSA法が知られている。PSA法とは、混合ガスから特定ガスを選択分離する方法の一つであって、高い圧力で被吸着物を吸脱着剤に吸着させ、ついで吸着系の圧力を下げることによって吸脱着剤に吸着した被吸着物を脱離し、吸着物および非吸着物を分離する方法であって、工業的には吸脱着剤を充填した塔を複数個設け、それぞれ吸着塔において、昇圧→吸着→洗浄→脱気の一連の操作を繰り返すことにより、装置全体としては連続的に分離回収を行うことができるようにしたものである。また、TSA法も上記PSA法と同様に混合ガスから特定ガスを選択分離する方法の一つであって、低温で被吸着物を吸脱着剤に吸着させ、ついで吸着系の温度を上げることによって吸脱着剤に吸着した被吸着物を脱離し、吸着物および非吸着物を分離する方法である。
【0005】
従来、このPSA法によりCOを含む混合ガスからCOを分離回収する方法として、モルデナイト系ゼオライトを吸脱着剤として用いる方法が提案されている(特許文献1、2)。また、PSA法またはTSA法によりCOを含む混合ガスからCOを分離回収する方法として、ハロゲン化銅(I)、酸化銅(I)、銅(II)化合物、酸化銅(II)などの銅化合物を活性炭に担持させたものを吸脱着剤として用いる方法が提案されている(特許文献3〜6)。同様に、PSA法又はTSA法によりCOを含む混合ガスからCOを分離回収するために用いるCO吸収分離剤の製造法として、ハロゲン化銅(I)およびハロゲン化アルミニウム(III)の有機溶媒溶液をアルミナ、シリカ、シリカ/アルミナなどの多孔性無機酸化物に接触させ、ついで遊離有機溶媒を除去する方法が提案されている(特許文献7,8)。
【0006】
また、本出願人は、アルミナまたはシリカ/アルミナよりなる担体に、銅(II)塩および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液を接触させた後、溶媒を除去することを特徴とするCO分離回収用吸着剤の製造法についてすでに特許出願を行っている(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−222625号公報
【特許文献2】特開昭59−49818号公報
【特許文献3】特開昭58−156517号公報
【特許文献4】特開昭59−69414号公報
【特許文献5】特開昭59−105841号公報
【特許文献6】特開昭59−136134号公報
【特許文献7】特開昭60−90036号公報
【特許文献8】特開昭60−90037号公報
【特許文献9】特開平1−155945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、COを含む混合ガスから高純度のCOを効率よく分離回収できるCO吸脱着性能の優れた吸脱着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のCO吸脱着剤の製造方法は、多孔質担体と、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液とを接触させた後、溶媒を除去するCO吸脱着剤の製造方法において、多孔質担体に無機酸を含浸させる処理を施し、次いで、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液と接触させるか、或いは、前記溶液または分散液に無機酸を含有させておき、前記担体と前記溶液または分散液とを接触させることを特徴とする。また、本発明製法は、溶媒を除去して乾燥し、さらに不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱処理することが好ましい。
【0010】
前記多孔質担体としては、アルミナからなる担体、シリカ−アルミナ複合物からなる担体および活性炭よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記還元剤としては、酸化階程の低い有機化合物が好ましい。前記銅(II)化合物としては、塩化銅(II)が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、CO吸脱着性能が高いCO吸脱着剤が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のCO吸脱着剤の製造方法は、多孔質担体と、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液とを接触させた後、溶媒を除去するCO吸脱着剤の製造方法において、多孔質担体に無機酸を含浸させる処理を施し、次いで、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液また分散液と接触させるか、或いは、前記溶液または分散液に無機酸を含有させておき、前記担体と前記溶液または分散液とを接触させることを特徴とする。
【0013】
まず、本発明で使用する多孔質担体について説明する。
【0014】
前記多孔質担体の粒子径は0.3mm以上が好ましく、より好ましくは1mm以上、さらに好ましくは2mm以上であり、10mm以下が好ましく、より好ましくは6mm以下、さらに好ましくは4mm以下である。粒子径が上記範囲内である多孔質担体を用いることにより、吸脱着剤充填層の圧力損失を許容範囲に調節しやすくなり、容易に所望の吸脱着速度を得ることができる。なお、粒子径は光学顕微鏡などを用いて確認することができる。
【0015】
前記多孔質担体の細孔容積は0.1cm3/g以上が好ましく、より好ましくは0.2cm3/g以上、さらに好ましくは0.3cm3/g以上であり、0.7cm3/g以下が好ましい。多孔質担体の細孔容積が0.1cm3/g以上であれば、銅(II)化合物などを含む溶液または分散液の保持に有利であり、また、0.7cm3/g以下であれば、多孔質担体の物理的強度がより良好となる。
【0016】
前記多孔質担体の比表面積は150m2/g以上が好ましく、より好ましくは250m2/g以上、さらに好ましくは300m2/g以上であり、1800m2/g以下が好ましく、より好ましくは1600m2/g以下、さらに好ましくは1300m2/g以下である。比表面積が上記範囲内である多孔質担体を用いることにより、銅(II)化合物の保持および分散がより良好となる。
【0017】
前記多孔質担体の材料としては、アルミナ、シリカまたはこれらの複合物などの金属酸化物からなる多孔質担体、活性炭などが挙げられる。これらの多孔質担体は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、金属酸化物からなる多孔質担体が好ましく、アルミナまたはシリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体が好適である。
【0018】
アルミナまたはシリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体について説明する。アルミナからなる多孔質担体は、たとえば可溶性のアルミニウム塩の水溶液から水酸化アルミニウムを沈澱させてろ過し、これを強熱することにより取得される。シリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体の製法としては、シリカとアルミナとを単に機械的混合する方法;シリカゲルとアルミナゲルとを湿った状態で練り合せる方法;シリカゲルにアルミニウム塩を浸漬する方法;シリカとアルミナとを水溶液から同時にゲル化させる方法;シリカゲル上にアルミナゲルを沈着させる方法;などが採用される。これらのアルミナからなる多孔質担体およびシリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体は、いずれも市販されており、本発明においては、これを必要に応じて乾燥してから使用することが好ましい。
【0019】
本発明においては、前記多孔質担体に、銅(II)化合物と還元剤とを溶媒に溶解または分散させた溶液または分散液を接触させた後、溶媒を除去して吸脱着剤を製造する。アルミナまたはシリカ−アルミナ複合物からなる担体に担持された銅(II)化合物は、同時に担持された還元剤によって効率良く還元され、銅(I)化合物と銅(II)化合物との混合物、あるいは、I価とII価の中間の原子価を持つものになるものと推定される。また、加熱処理を行うときは、還元されていない銅(II)化合物が該加熱処理によりさらに還元され、COの吸脱着に有効な銅(I)化合物に変化するものと考えられる。
【0020】
例えば、多孔質担体に塩化銅(II)と還元剤とを含有する混合液に接触させて、溶媒を除去して得られたCO吸脱着剤について、X線回折により銅塩化物を定性分析すると以下のようになった。200℃以下で溶媒を除去した後では、銅(I)化合物と銅(II)化合物との混合物であり、その比率は銅(I)化合物>銅(II)化合物であった。230℃〜400℃で加熱処理を行った後では、銅(I)化合物のみであった。400℃超で加熱処理を行った後では、銅(I)化合物と金属銅が検出された。なお、X線回折では銅化合物の成長した結晶が検出される、換言するとある化合物が存在しても結晶が小さいと検出しにくい。そのため、上記の定性分析結果は各温度域の主たる化合物と理解される。
【0021】
(銅(II)化合物)
本発明で使用する銅(II)化合物としては、例えば、塩化銅(II)、フッ化銅(II)、臭化銅(II)等のハロゲン化銅(II);酸化銅(II);シアン化銅(II);ギ酸銅(II)、酢酸銅(II)、シュウ酸銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、リン酸銅(II)、炭酸銅(II)等の銅(II)の酸素酸塩または有機酸塩;水酸化銅(II);硫化銅(II);トリフルオロ銅(II)酸塩、テトラフルオロ銅(II)酸塩、トリクロロ銅(II)酸塩、テトラクロロ銅(II)酸塩、テトラシアノ銅(II)酸塩、テトラヒドロオクソ銅(II)酸塩、ヘキサヒドロオクソ銅(II)酸塩、アンミン錯塩等の錯塩;などが例示される。前記銅(II)化合物は、単独若しくは2種以上を組合せて使用しても良い。これらの中でも、ハロゲン化銅(II)が好ましく、塩化銅(II)が最も実用的である。
【0022】
担体を接触させる溶液または分散液中の銅(II)化合物の濃度は、2mol/l以上とすることが好ましく、より好ましくは3mol/l以上、さらに好ましくは3.5mol/l以上であり、7.5mol/l以下とすることが好ましく、より好ましくは7mol/l以下、さらに好ましくは5mol/l以下である。銅(II)化合物の濃度を2mol/l以上とすることにより、溶媒を除去する際に必要なエネルギーをより減少させることができ、7.5mol/l以下とすることにより、溶媒または分散液に銅(II)化合物を溶解させる際の加温(加熱)エネルギーをより減少させることができる。
【0023】
多孔質担体に対する銅(II)化合物の担持量は、0.5mmol/g以上が好ましく、より好ましくは1mmol/g以上であり、10mmol/g以下が好ましく、より好ましくは5mmol/g以下である。銅(II)化合物の担持量が余りに少ないとCO吸着能力が不足し、一方、その担持量が余りに多いとかえって分離効率が低下する。ここで、多孔質担体に対する銅(II)化合物の担持量は、多孔質担体および銅(II)化合物の仕込み量より下記式により求める。
【0024】
多孔質担体に対する銅(II)化合物の担持量=銅(II)化合物の仕込み量/多孔質担体の仕込み量
【0025】
(還元剤)
本発明で使用する還元剤としては、低原子価状態にある金属の塩または酸化階程の低い有機化合物が用いられる。低原子価状態にある金属の塩としては、鉄(II)、スズ(II)、チタン(III)またはクロム(II)の塩などが挙げられ、酸化階程の低い有機化合物としては、アルデヒド類、糖類、ギ酸、シュウ酸などが挙げられる。前記糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、プシコース、マンノース、アロース、タガトース、リボース、デオキシリボース、キシロース、アラビノース、マルトース、ラクトースなどを挙げることができ、D−グルコース(ブドウ糖)を好適に使用できる。また、糖類には、加水分解して還元性を発現するものも使用することができ、例えば、スクロース(グラニュ糖)を好適に使用できる。
【0026】
担体を接触させる溶液または分散液中の還元剤の濃度は、例えばグルコースの場合、0.4mol/l以上とすることが好ましく、より好ましくは0.6mol/l以上、さらに好ましくは1mol/l以上であり、4mol/l以下とすることが好ましく、より好ましくは3mol/l以下、さらに好ましくは2mol/l以下である。還元剤の濃度を0.4mol/l以上とすることにより、銅(II)化合物の還元を速やかに進行させることができる。一方、4mol/lを超えると、グルコースを溶解させるために加熱温度の上昇や、溶解時間を長くすることが必要となり、また、加熱焼成後、過剰のグルコースが銅化合物の表面を覆ってしまい、COの吸脱着を妨害する。
【0027】
担体に対する還元剤の担持量は、基本的には銅(II)イオンを銅(I)イオンに変換させる量が必要であり、通常は担持させる銅(II)化合物と同モル量程度を用いるが、還元させたい銅(II)化合物の量に応じて適宜担持量を変えてもよい。例えば、銅(II)化合物に対するスクロース(グラニュ糖)の担持量(スクロース/銅(II)化合物)は、0.01mol/mol以上が好ましく、より好ましくは0.05mol/mol以上であり、0.25mol/mol以下が好ましく、より好ましくは0.2mol/mol以下である。
【0028】
(溶媒)
本発明で使用する溶媒としては、たとえば、水、酢酸、ギ酸、アンモニア性ギ酸水溶液、アンモニア水、含ハロゲン溶剤(クロロホルム、四塩化炭素、二塩化エチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、塩化メチレン、フッ素系溶剤等)、炭化水素(ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、デカリン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、イソホロン、シクロヘキサノン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸アミル等)、エーテル類(イソプロピルエーテル、ジオキサン等)、セロソルブ類(セロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルアセテート等)、カルビトール類などが用いられる。
【0029】
本発明のCO吸脱着剤の製造方法では、多孔質担体に無機酸を含浸させる処理を施し、次いで、前記担体と銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液また分散液とを接触させるか、或いは、前記溶液または分散液に無機酸を含有させておき、前記担体と前記溶液または分散液とを接触させることを特徴とする。
【0030】
すなわち、本発明は、多孔質担体に無機酸を含浸させて、その後、無機酸で含浸された担体と、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液また分散液とを接触させる態様(以下、「態様1」という場合がある)、および、多孔質担体と、銅(II)化合物、還元剤、および、無機酸を溶媒に溶解または分散した溶液また分散液とを接触させる態様(以下、「態様2」という場合がある)を含む。
【0031】
(無機酸)
本発明で使用する無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸などが挙げられる。無機酸は、単独または2つ以上を組合せて使用しても良い。これらの中でも、無機酸としては、塩酸または硫酸が好ましい。
【0032】
以下、「態様1」および「態様2」の詳細について説明する。
【0033】
(1)多孔質担体に無機酸を含浸させて、その後、無機酸で含浸された担体と、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液また分散液とを接触させる態様1について
【0034】
多孔質担体に無機酸を含浸させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、多孔質担体を無機酸の溶液に浸漬して、その後、前記担体を無機酸の溶液から分離し、乾燥する方法を挙げることができる。このように予め多孔質担体に無機酸を含浸させることにより、製造されたCO吸脱着剤において、銅(II)化合物の多孔質担体での分散が促進されたため、得られるCO吸脱着剤の性能が向上すると考えられる。
【0035】
無機酸溶液の濃度は、0.5N以上が好ましく、1N以上がより好ましく、4N以下が好ましく、3N以下がより好ましい。また、浸漬時間は、5分間以上が好ましく、10分間以上がより好ましく、100分間以下が好ましく、60分間以下がより好ましい。なお、無機酸溶液の溶媒は、通常、脱塩水が用いられる。
【0036】
含浸(浸漬)時間は、5分間〜100分間が好ましく、10分間〜60分間がより好ましい。乾燥温度としては、例えば、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。乾燥時間としては、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、4時間以下がより好ましく、3時間以下がより好ましい。
【0037】
本態様では、次いで、無機酸で含浸された多孔質担体と、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液また分散液とを接触させる。多孔質担体と前記溶液または分散液との接触は、通常、含浸またはスプレーにより行う。この場合、多孔質担体細孔に存在する気体を完全に溶液または分散液で置換するため、真空脱気した多孔質担体に溶液または分散液を接触させたり、多孔質担体に溶液または分散液を接触させた後、減圧条件下に脱気したりしてもよい。
【0038】
多孔質担体と溶液または分散液とを接触させた後は、望ましくは系の温度を下げることなく、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下に加熱乾燥することにより溶媒を留出除去する。溶媒の除去は単なる加熱乾燥のほか、減圧乾燥によってもなされる。このような方法により、効率よく銅(II)化合物を担体に担持させることができる。乾燥温度は、50℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上であり、300℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以下である。乾燥時間は、1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましく、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましい。
【0039】
上述の乾燥だけではCO吸着能が不足する場合が多い。そこで、乾燥後の吸脱着剤をさらにN2、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスまたはCO、H2などの還元性ガス雰囲気下に加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理温度は、不活性ガスまたは還元性ガスのいずれを使用する場合も、100℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上であり、500℃以下が好ましく、より好ましくは350℃以下である。この温度範囲以外では所期の活性化が十分には達成できない。また、加熱処理時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、12時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましい。
【0040】
なお、上記の溶媒を除去するための乾燥処理と、乾燥後の吸着剤に対する加熱処理は、異なる熱処理装置を用いてもよいし、同一の熱処理装置を用いて乾燥処理と加熱処理とを連続して行ってもよい。
【0041】
(2)多孔質担体と、銅(II)化合物、還元剤、および、無機酸を溶媒に溶解または分散した溶液また分散液とを接触させる態様2について
【0042】
本態様では、予め、無機酸を、銅(II)化合物および還元剤とともに、溶媒に溶解または分散した溶液または分散液を調製し、多孔質担体と前記溶液または分散液とを接触させるようにすれば良い。このように溶液または分散液に無機酸を含有させることにより、製造されたCO吸脱着剤において、銅(II)化合物の多孔質担体での分散が促進されたため、得られるCO吸脱着剤の性能が向上すると考えられる。
【0043】
なお、多孔質担体と前記溶液または分散液とを接触させる方法、および、多孔質担体と前記溶液または分散液とを接触させた後の処理は、態様1で記載した方法と同一の方法および処理を採用することができる。
【0044】
(COの分離回収)
上記のようにして得られた吸脱着剤は、吸着塔に充填され、PSA法またはTSA法により、COを含む混合ガスからのCOの分離回収が遂行される。
【0045】
CO含む混合ガスの処理量は、特に限定されるものではないが、2000m3/h以下が好ましく、1000m3/h以下がより好ましい。
【0046】
PSA法によりCOの分離回収を行う場合は、吸着工程における吸着圧力は大気圧以上、たとえば0kPa[gage]〜600kPa[gage]とすることが望ましく、真空脱気工程における真空度は大気圧以下、たとえば30kPa[abs]〜1.0kPa[abs]とすることが望ましい。TSA法によりCOの分離回収を行う場合は、吸着工程における吸着温度はたとえば0℃〜40℃程度、脱気工程における脱気温度はたとえば60℃〜180℃程度とすることが望ましい。また、PSA法とTSA法とを併用し、吸着を大気圧以上で低温条件下に行い、脱気を大気圧以下で高温条件下に行うこともできる。なお、TSA法はエネルギー消費の点でPSA法に比しては不利であるため、工業的にはPSA法を採用するか、PSA−TSA併用法を採用することが望ましい。
【0047】
適用できるCOを含む混合ガスとしては、たとえば、製鉄所の転炉から発生する転炉ガスが用いられる。転炉ガスは、通常、主成分としてCOのほか、O2、メタンその他の炭化水素、水および少量のH2S、NH3等を含んでいる。転炉ガス以外に、高炉ガス、電気炉ガス、発生炉ガスなども原料ガスとして用いることができる。この場合、CO分離回収工程に先立ち、上記吸脱着剤を被毒し、あるいはその寿命を縮めるおそれのある成分、すなわちイオウ化合物、NH3等の不純物の吸着除去工程、水分除去工程およびO2除去工程を設けることが望ましい。ただし、CO2除去工程やN2除去工程は設けるには及ばない。
【0048】
本発明の方法により得られた固体吸脱着剤によるCO吸脱着現象は、主として担体に担持された銅(II)化合物が同時に担持された還元剤によって効率よく還元された銅化合物とCOとの可逆的な化学反応(錯体形成反応と解離反応)に基づくものであり(N2、CO2との化学反応は起こらない)、副次的に担体の細孔表面上へのCO2等の物理的な吸着およびそこからの脱離に基くものであると考えられる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
[CO可逆吸着性能の評価方法]
高精度比表面積・細孔分布測定装置(日本ベル社製、「BELSORP−max」)を用いて、CO可逆吸着量を測定した。測定は、装置の専用セルに吸脱着剤を充填し、200℃で1時間真空排気(10-6Pa)した後に、40℃、常圧(約90kPa)でCOを吸着させ、その後排気減圧(約10-2kPa)することを繰返して、80kPa〜0.02kPa間のCO可逆吸着量を測定した。
【0051】
製造例1(態様1)
500mlのフラスコに、予め120℃で4時間以上乾燥させたアルミナからなる多孔質担体(住友化学社製、活性アルミナ(品名「NKHD−24」、粒子径2mm〜4mm、細孔容積0.56cm3/g、比表面積340m2/g))を75g入れ、そこに1N−硫酸水溶液を100ml加えて、60分間含浸させた。この多孔質担体を金網で分離し表面に付着した硫酸水溶液を拭き取った後、200℃で3時間以上乾燥した。
【0052】
200mlの三角フラスコに塩化銅(II)2水和物(キシダ化学社製、特級試薬)を41.3g、グラニュ糖9.8gを入れ、ここに脱塩水39.5gを入れて溶解させ、混合溶液を調製した。この混合溶液に上記の硫酸処理多孔質担体75gを加え、60分間時々撹拌しながら液を含浸させた。それを回分式リフター付回転レトルトに仕込み6rpmで回転させながら、N2−1L/min流通下にこのレトルトを外部加熱して乾燥させることにより吸脱着剤を得た。外部加熱炉の運転条件は、5℃/minで200℃まで昇温、5時間保持後、自然冷却した。
【0053】
冷却後の吸脱着剤をN気流中で5℃/minで230℃まで昇温し10時間保持後冷却して、CO吸脱着剤を得た。得られたCO吸脱着剤について、CO可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0054】
製造例2(態様1)
製造例1において、1N−硫酸水溶液に換えて、1N−塩酸水溶液を用いたこと以外は同様にしてCO吸脱着剤を製造した。得られたCO吸脱着剤について、CO可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0055】
製造例3(態様1)
500mlのフラスコに、予め120℃で4時間以上乾燥させたアルミナからなる多孔質担体(住友化学社製、活性アルミナ(品名「NKHD−24」))を75g入れ、そこに1N−硫酸水溶液を100ml加えて、60分間含浸させた。この多孔質担体を金網で分離し表面に付着した硫酸水溶液を拭き取った後、200℃で3時間以上乾燥した。
【0056】
200mlの三角フラスコに塩化銅(II)2水和物(キシダ化学社製、特級試薬)を41.3g、グルコース(キシダ化学社製、特級試薬)10.3gを入れ、ここに脱塩水39.5gを入れて溶解させ、混合溶液を調製した。この混合溶液に上記の硫酸処理多孔質担体75gを加え、60分間時々撹拌しながら液を含浸させた。それを回分式リフター付回転レトルトに仕込み6rpmで回転させながら、N2−1L/min流通下にこのレトルトを外部加熱して乾燥させることにより吸脱着剤を得た。外部加熱炉の運転条件は、5℃/minで200℃まで昇温、5時間保持後、自然冷却した。
【0057】
冷却後の吸脱着剤をN2気流中で5℃/minで230℃まで昇温し10時間保持後冷却して、CO吸脱着剤を得た。得られたCO吸脱着剤について、CO可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0058】
製造例4(態様1)
製造例3において、1N−硫酸水溶液に換えて、1N−塩酸水溶液を用いたこと以外は同様にしてCO吸脱着剤を製造した。得られたCO吸脱着剤について、CO可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0059】
製造例5(態様2)
200mlの三角フラスコに塩化銅(II)2水和物(キシダ化学社製、特級試薬)を41.3g、グルコース(キシダ化学社製、特級試薬)10.3gを入れ、ここに1N−硫酸水溶液40.8gを入れて40℃に加温して溶解させ、混合溶液を調製した。
【0060】
この混合溶液に、予め120℃で4時間以上乾燥したアルミナからなる多孔質担体(住友化学社製、活性アルミナ(品名「NKHD−24」))を75g入れ、60分間時々撹拌しながら液を含浸させた。それを回分式リフター付回転レトルトに仕込み6rpmで回転させながら、N2−1L/min流通下にこのレトルトを外部加熱して乾燥させることによりCO吸脱着剤を得た。外部加熱炉の運転条件は、5℃/minで200℃まで昇温、5時間保持後、自然冷却した。
【0061】
冷却後の吸脱着剤をN気流中で5℃/minで230℃まで昇温し、10時間保持後、自然冷却した。得られたCO吸脱着剤について、CO可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0062】
製造例6(態様2)
200mlの三角フラスコに塩化銅(II)2水和物(キシダ化学社製、特級試薬)を41.3g、グルコース(キシダ化学社製、特級試薬)10.3gを入れ、ここに3N−硫酸水溶液43.3gを入れて55℃に加温して溶解させて混合溶液を調製したこと以外は実施例3と同様にして、CO吸脱着剤を製造した。得られたCO吸脱着剤について、CO可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0063】
製造例7(態様2)
製造例6において、グルコース(キシダ化学社製、特級試薬)に代えて、グラニュ糖9.8gを用いたこと以外は同様にして、CO吸脱着剤を製造した。得られたCO吸脱着剤について、CO可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0064】
製造例8
200mlの三角フラスコに塩化銅(II)2水和物(キシダ化学社製、特級試薬)を41.3g、グラニュ糖9.8gを入れ、ここに脱塩水39.5gを入れて溶解させ、混合溶液を調製した。この混合溶液に予め120℃で4時間以上乾燥したアルミナからなる多孔質担体(住友化学社製、活性アルミナ(品名「NKHD−24」))75gを加え、60分間時々撹拌しながら液を含浸させた。それを回分式リフター付回転レトルトに仕込み6rpmで回転させながら、N2−1L/min流通下にこのレトルトを外部加熱して乾燥させることによりCO吸脱着剤を得た。外部加熱炉の運転条件は、5℃/minで200℃まで昇温、5時間保持後、自然冷却した。
【0065】
冷却後の吸脱着剤をN気流中で230℃まで昇温し、10時間保持後自然冷却した。得られたCO吸脱着剤について、CO可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0066】
製造例9
製造例8において、グラニュ糖に代えて、グルコース(キシダ化学社製特級試薬)10.3gを用いた以外は同様として、CO吸脱着剤を製造した。得られたCO吸脱着剤について、CO可逆吸着性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
製造例1〜4は本発明製法の態様1であり、製造例5〜7は本発明製法の態様2である。これらの製造方法により得られたCO吸脱着剤と、無機酸を用いない製造例8,9により得られたCO吸脱着剤とを比較すると、同じ銅(II)化合物と還元剤を用いた場合、本発明製法により得られたCO吸脱着剤の方が、優れたCO吸脱着性能を有していることがわかる。
【0069】
同じ銅(II)化合物、還元剤および無機酸を用いた場合における、本発明製法の態様1(製造例3)と態様2(製造例5)とを比較すると、態様1の方がより可逆吸着量が向上していることがわかる。
【0070】
還元剤と無機酸の組合せについて検討すると、製造例2と製造例4との比較から、無機酸として塩酸を用いた場合には、還元剤としてグラニュ糖を用いた場合とグルコースを用いた場合のCO可逆吸着量の差異は少ない。しかし、製造例1と製造例3、製造例6と製造例7との比較から、無機酸として硫酸を用いた場合には、還元剤としてグルコースを用いた方が、CO可逆吸着量がより向上していることがわかる。すなわち、本発明製法においては、無機酸として硫酸、還元剤としてグルコースの組合せが優れていることがわかる。
【0071】
また、製造例5と製造例6とから、混合溶液に使用する無機酸の濃度を高めることによって、CO可逆吸着量がより高くなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、CO分離回収吸脱着剤の製造方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体と、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液とを接触させた後、溶媒を除去するCO吸脱着剤の製造方法において、
多孔質担体に無機酸を含浸させる処理を施し、次いで、銅(II)化合物および還元剤を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液と接触させるか、或いは、前記溶液または分散液に無機酸を含有させておき、前記担体と前記溶液または分散液とを接触させることを特徴とするCO吸脱着剤の製造方法。
【請求項2】
溶媒を除去して乾燥し、さらに不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で加熱処理することを特徴とする請求項1に記載のCO吸脱着剤の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質担体として、アルミナからなる担体、シリカ−アルミナ複合物からなる担体および活性炭よりなる群から選択される少なくとも1種を使用する請求項1または2に記載のCO吸脱着剤の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤として、酸化階程の低い有機化合物を使用する請求項1〜3のいずれか一項に記載のCO吸脱着剤の製造方法。
【請求項5】
前記銅(II)化合物として、塩化銅(II)を用いる請求項1〜4のいずれか一項に記載のCO吸脱着剤の製造方法。

【公開番号】特開2010−269264(P2010−269264A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124049(P2009−124049)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】