説明

CO2を吸収する能力を有するシート

【課題】海水中に設置して、海水に溶け込んだCOを吸収させ、場合によってはさらに、海水中の窒素化合物やリン化合物を吸収させるための、円石藻の培養装置となる、COを吸収する能力を有するシートを提供する。
【解決手段】このCOを吸収する能力を有するシートは、プラスチックフィルムを加工して多数のキャップ(2)状の突起を、相互に連通する流路(3)を設けて形成したキャップフィルム(1)のキャップの底面に、平坦で多数の微細な孔を有するシート状物を材料とするバックフィルム(4)を貼り合わせてプラスチック気泡シートを構成し、このプラスチック気泡シートを培養装置として、そのキャップの内部に海水(5)と円石藻(6)とを封入してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水中に設置して、海水に溶け込んだCOを吸収する能力を有し、場合によってはさらに、海水中の窒素化合物やリン化合物を吸収する能力を有するシートに関する。
【背景技術】
【0002】
海洋性の植物プランクトンであって、細胞の表面に炭酸カルシウムからなる「円石」(Coccolith)を生産する、「円石藻」とよばれる一群の微生物がある。円石藻は、ハプト植物門(Haptophyta)の円石綱目(Coccolithales)に属し、世界中の海洋に広く分布している。細胞の直径は5〜100μm程度、細胞内に葉緑体をもち、炭酸同化作用を行なう。多数の属が知られ、それぞれの円石の形状で区別される。
【0003】
円石藻に連続的に円石を生産させて採取する、円石の製造方法が開示された(特許文献1)。その製造方法は、円石藻類の培養液を、孔径4〜7μmの微孔性膜を用いて濾過することを特徴とする。そこで使用する培養液は、円石藻の増殖を助ける見地から調合された「エプレイの培地」と呼ばれる、海水にKNOおよびKHPOの水溶液、Cu,Zn,Co,Mnの化合物およびマンガン酸、Fe化合物などの微量元素の混液にビタミン混液を添加したものである。
【特許文献1】特開平6−113866
【0004】
発明者らは、円石藻が、貧栄養の海洋にも存在し、また富栄養の海洋にも存在することから、これを海水中で増殖させるときは、海水中に溶け込んだCOを吸収し、炭酸カルシウムとして固定させること、さらには、窒素化合物および(または)リン化合物の吸収にも有用であることを着想した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の着想を工業的に具体化し、海水中に設置して、海水に溶け込んだCOを円石藻に吸収させ、場合によってはさらに、海水中の窒素化合物やリン化合物を吸収させる円石藻の培養装置である、COを吸収する能力を有するシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のCOを吸収する能力を有するシートは、図1および図2に示すように、プラスチックフィルムを加工して多数のキャップ(2)状の突起を、相互に連通する流路(3)を設けて形成したキャップフィルム(1)のキャップの底面に、平坦で多数の微細な孔を有するシート状物を材料とするバックフィルム(4)を貼り合わせてプラスチック気泡シートを構成し、このプラスチック気泡シートを培養装置としてそのキャップの内部に海水(5)と円石藻(6)とを封入してなり、海中に設置して円石藻に海水中のCOを固定させるために使用する、COを吸収する能力を有するシートである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のCOを吸収する能力を有するシートは、これを海水中に設置して、キャップの内部に封入された円石藻に炭酸同化作用を行なわせることにより、
CO→CaCO
という変換をさせ、海水中に溶解して存在するCOを炭酸カルシウムとして固定することによって海水中のCO濃度を低減させ、その結果として、空気中から海水中に溶け込むCOの量を増加させることができる。これは、環境中のCOの濃度を低下させ、CO濃度の増大が引き起こす温暖化現象を緩和するのに寄与する。
【0008】
本発明のCOを吸収する能力を有するシートを海水中に設置すれば、その周囲の海水中に溶けている窒素化合物たとえば硝酸塩や、リン化合物たとえばリン酸塩を、円石藻の増殖に必要な栄養素として吸収し、海水の富栄養化が引き起こす赤潮や青潮の発生、すなわち有害な微生物の増殖を、未然に防止する上でも役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
キャップフィルム(1)の仕様は、広い範囲から選択できるが、円石藻を分散した海水の収容能力と充填しやすさの点から、キャップ(2)が大きめのもの、たとえば径20mm以上で高さが7mm以上であるものをえらぶ。連通の流路(3)は、断面積は十分にとり、一方で長さは短くして、培養容器のシートの単位面積当たりにキャップが占める割合を、なるべく大きくする。材料とするフィルムの厚さは、過度に厚くすることはコスト面で不利になるが、あまり薄いと海水を充填したときの取り扱いに注意を要するから、主として強度を考慮して適切に選択する。
【0010】
バックフィルム(4)の材料である多数の微細な孔を有するシート状物としては、熱可塑性樹脂の不織布を使用するのが有利である。この不織布は、キャップに封入した円石藻が外部に漏れ出ないように、微細な隙間のサイズが、円石藻より小さい4μm以下であるように製造することが好ましい。熱可塑性樹脂としてはポリオレフィン、とくにポリエチレンが好都合に使用できる。場合によっては、キャップフィルムのキャップの頂を連ねるようにもう1枚の平坦なフィルムであるライナーフィルム(図示してない)を貼り合わせて、三層構成としたプラスチック気泡シートを使用してもよい。
【0011】
キャップフィルム(1)を形成するプラスチックとしても、ポリエチレンが好適である。この種の熱可塑性樹脂で多数のキャップ状の突起を有するフィルムを加工するには、緩衝包装材や養生材として使用されているプラスチック気泡シートの製造技術が利用できる。代表的な製造方法を挙げれば、多数のキャップ形状の凹みがあって、それらを相互に連通させる流路の凹みとを有し、キャップ状の凹みの底に真空吸引手段を設けた真空成形ロールを回転可能に設置しておき、Tダイから押し出した溶融プラスチックのフィルムを真空成形し、ただちにそのキャップの底となる面にバックフィルムを熱融着または接着して貼り合わせることにより、上記の円石藻培養容器を形成する。バックフィルム(4)を熱融着するためには、その表面を、キャップフィルムと接触する直前に加熱して、融着可能な限度で溶融させるという手法をとるとよい。
【0012】
このようにして形成したシート状の円石藻培養容器は、つぎに、図1に示すように、シートを垂直に保持しておき、一方の出入口(7)から、中に円石藻を分散させた海水を注入し、必要により他方の出入口(8)から空気を吸引除去して、キャップおよび流路に海水を充填する。このとき海水には、円石藻にとって栄養となる諸成分を配合しておくことが望ましい。
【0013】
円石藻にとって栄養となる諸成分は、硝酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオンなどのアニオンと、種々の金属イオンのようなカチオンの両方が含まれる。そこで、バックフィルム(4)の材料である多数の微細な孔を有するシート状物に、アニオン交換樹脂およびカチオン交換樹脂を配合して用いることが好ましい。イオン交換樹脂は、繊維状にして不織布の製造に当たってポリオレフィン樹脂繊維と混合し、抄紙することにより、バックフィルムに配合することができる。
【0014】
キャップ(2)および流路(3)の部分に円石藻を分散させた海水を充填した培養容器は、適宜の大きさのものを適宜の枚数、あまり近接しない距離で平行に並べた形で、海水中に配置する。培養容器が相互に接触し、それによる破損を防ぐために、各培養容器がほぼ垂直に海中に保持されるよう、必要な錘やセパレータを設けるとよい。海水中に設置する位置は、海面の波浪による影響を実質上受けない深さで、しかし光合成を行なうのには不利でないような、適切な深さを選択する。
【0015】
上記の不織布に配合されたイオン交換樹脂は、当初充填された海水中のアニオンおよびカチオンをイオン交換により保持しているが、それらが栄養分として円石藻に消費され、またはそれらアニオンおよびカチオンが外部の海水中に流出し去って交換量が減少したのちは、周囲の海水からのイオンの補充が行なわれ、それらがまた円石藻の栄養として役立つ。
【0016】
本発明の培養容器内で、海水中に分散させて増殖させる円石藻は、任意のものを選択できるが、海水中の過剰な栄養分を除去する作用を期待する場合には、とくに富栄養環境に適応するもの、たとえばイソクリシス(Isochrysidales)目の Emiliania huxleyi や Gephyrocapsa oceania などが適切である。
【0017】
円石藻の増殖は、培養条件にもよるが、キャップへの充填後、数日で対数的増殖期に入り、急速に進行する。ある程度増殖が進んで、キャップ内部に円石藻の細胞が充満すると、増殖の進行度合が鈍ってくるので、そのときは、前記の出入口を利用して海水を押し込み、キャップ内部の円石藻を海水とともに押し出すことによって入れ替え、円石藻の細胞の数を減らすとよい。押し出された円石藻の一部は、ふたたび海水とともにキャップ内部に充填して「種子」として利用することができるが、その操作を行なわなくても、キャップ内部に残留していた円石藻の細胞から次の増殖が開始される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のCOを吸収する能力を有するシート、すなわち、円石藻を培養する容器であるプラスチック気泡シートのキャップの内部に海水と円石藻とを封入したものを概念的に示した平面図。
【図2】図1のI−I方向の縦断面図。
【符号の説明】
【0019】
1 キャップフィルム
2 キャップ
3 流路
4 バックフィルム
5 海水
6 円石藻
7 一方の出入口
8 他方の出入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムを加工して多数のキャップ(2)状の突起を、相互に連通する流路(3)を設けて形成したキャップフィルム(1)のキャップの底面に、平坦で多数の微細な孔を有するシート状物を材料とするバックフィルム(4)を貼り合わせてプラスチック気泡シートを構成し、このプラスチック気泡シートを培養装置としてそのキャップの内部に海水(5)と円石藻(6)とを封入してなり、海中に設置して、円石藻に海水中のCOを固定させるために使用する、COを吸収する能力を有するシート。
【請求項2】
バックフィルム(4)の材料である多数の微細な孔を有するシート状物として、熱可塑性樹脂の不織布を使用した請求項1のシート。
【請求項3】
バックフィルム(4)の材料である多数の微細な孔を有するシート状物に、アニオン交換樹脂およびカチオン交換樹脂を配合して用いる請求項1のシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−136842(P2009−136842A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318870(P2007−318870)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000199979)川上産業株式会社 (203)
【Fターム(参考)】