CO2センサ及びその製造方法
【解決手段】Li化合物とNd化合物の混合物をCO2中850〜900℃で焼成し、Liイオンを層間に含有するNdのオキシ炭酸塩とLi2CO3との混合物とする。この混合物とPtとを用いてNASICON表面に作用極を成膜し、次いでCO2中700〜850℃で再焼成し、作用極とする。これにより、作用極で発生する遊離LiイオンをNdのオキシ炭酸塩の層間に吸収され、Naイオン導電体との反応を防止できる。
【効果】CO2センサの経時安定性を改善する。
【効果】CO2センサの経時安定性を改善する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、Naイオン導電体と、Li2CO3と希土類化合物と、電子導電性物質を含む作用極とを用いた、ポテンショメトリック型のCO2センサとその製造方法に関し、特にその安定性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
Li2CO3とPtやAuなどの混合物から成る作用極をNASICONの一面に設け、NASICONの裏面に被検出雰囲気から遮断してAuやPtの参照極を設けたCO2センサが用いられている。このCO2センサの問題点は、無加熱で放置すると、特に無加熱で湿中雰囲気に放置すると、起電力が低下することにある。そしてこのような起電力の低下を補うため、実用的には、大気中での起電力を学習することが行われている。即ち、起電力が高くかつ安定していることを検出すると、これを大気中での起電力と見なして、この起電力との差によりCO2濃度を求める。以上のように、CO2センサの起電力を安定にすることは、CO2センサでの基本的な課題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の課題は、CO2センサの安定性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3と希土類化合物と電子導電性物質とを含み,かつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサにおいて、
前記作用極が、原子番号57〜64の軽希土類元素の,Liイオンを層間に含有するオキシ炭酸塩と、Li2CO3との混合物を含むことを特徴とする。
【0005】
またこの発明は、Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3とNd化合物と電子導電性物質とを含みかつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサの製造方法において、
Li化合物とNd化合物の混合物をCO2中850〜900℃で焼成することにより、Liイオンを層間に含有するNdのオキシ炭酸塩とLi2CO3との混合物とし、
該混合物と前記電子伝導性物質とを用いて、前記Naイオン導電体の表面に作用極を成膜し、次いでCO2中700〜850℃で再焼成することを特徴とする。
【0006】
この発明は、Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3と希土類化合物と電子導電性物質とを含みかつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサにおいて、
前記作用極が、Y及び原子番号65〜71の重希土類元素からなる群の少なくとも一員の元素の表面にCO32−イオンが吸着した酸化物と、Li2CO3との混合物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
発明者は、CO2センサの起電力が経時的に変化する原因は、作用極でのLiイオンの活量が変化することにあることを見出した。即ちLiイオンはNASICONなどのNaイオン導電体と反応し、作用極とNaイオン導電体との界面に中間層を形成する。LiイオンがNASICONなどと反応すると、作用極でのLiイオンの活量が低下し起電力が変化する。
【0008】
発明者は、原子番号57〜64の軽希土類元素がオキシ炭酸塩を形成し、かつオキシ炭酸塩の層間にLiイオンを包含することを見出した。層間のスペースはオキシ炭酸塩中のCO3イオンによるスペースで、CO3イオンが大きなサイズを持つため、Liイオンは層間に自由に出入りできる。
【0009】
CO2センサが無加熱放置などを経験し、作用極が水蒸気に触れると、Li2CO3の一部が水酸化Liなどに分解する。水酸化LiはLi2CO3に比べて活性で遊離のLiイオンが生じるが、生成したLiイオンは軽希土類元素のオキシ炭酸塩の層間に吸収され、Naイオン導電体との反応を防止できる。以上のメカニズムにより、CO2センサの起電力の変化を防止できる。
【0010】
軽希土類元素として特にNdが好ましく、これ以外にLaやPr,Sm,Euなどでもよい。作用極ではLi元素の一部が希土類元素のオキシ炭酸塩中に包含され、残部がLi2CO3の形態で存在し、特に700℃以上での焼成を施すと、Li2CO3は融解して希土類のオキシ炭酸塩粒子の表面に層状に分布する。Li2CO3と希土類のオキシ炭酸塩との比率はモル比で、例えば1:1〜1:5程度とし、好ましくは3:4〜1:5程度とする。
【0011】
図8,図9などに示すように、Li化合物とNd化合物の混合物をCO2中850〜900℃で焼成することにより、作用極の安定性が増す。言い換えると作用極からCO2が脱離し難くなる。ここで850〜900℃で焼成したLi2CO3とNdのオキシ炭酸塩との混合物は、CO2中700〜850℃でさらに重量が増加する。このことは当初の焼成でCO2が脱離し、700〜850℃で再度CO2を吸収するものと考えられる。当初の焼成温度が800℃や700℃の場合、800℃付近でのCO2の再吸収は見られない。なおこの明細書において、CO2中は200KPa(0.2気圧)以上のCO2分圧を意味し、好ましくは1気圧以上のCO2分圧を意味する。
【0012】
これらのため、Li化合物とNd化合物の混合物をCO2中850〜900℃で焼成し、次いでこの混合物にPtやAuなどの電子導電性物質を混合して作用極を成膜し、成膜後に700〜850℃でCO2中の再焼成を行うと、Ndのオキシ炭酸塩に取り込まれていないLi化合物はほとんど全量Li2CO3となる。
【0013】
発明者は軽希土類元素に代えて、重希土類元素の酸化物やY2O3をLi2CO3と混合しても、CO2センサの特性が安定化することを見出した(図11〜図13)。なお以下では原子番号65〜71の重希土類元素にYを加えて、単に重希土類元素という。重希土類元素は一般にオキシ炭酸塩を形成しないので、CO2センサの特性を安定化するメカニズムは、オキシ炭酸塩の層間へのLiイオンの取り込みとは異なったものである。発明者は、Li2CO3と重希土類元素の酸化物とをCO2中ないしは空気中で焼成すると、重希土類元素の酸化物表面にCO3イオンに由来する赤外吸収が生じることを見出した。このことは、重希土類酸化物表面がCO3イオンで覆われており、CO3イオンからなる負に帯電した場が、遊離のLiイオンを捕捉することを示唆している。そして事実、重希土類酸化物とLi2CO3とを含む作用極は、電子導電性物質の他はLi2CO3のみからなる作用極に比べ安定である(図13)。これらのことは、重希土類の酸化物表面のCO3イオンの場が遊離のLiイオンを吸着し、作用極でのLiイオンの活量を一定に近づけることにより、起電力を安定化できることを示唆する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0015】
CO2センサの構造
図1〜図13に実施例のCO2センサ2とその特性とを示す。図1はCO2センサ2の構造を模式的に示し、4はペレット状のNASICONで、Na3Zr2Si2PO12の組成で表される。6は作用極で、内部に多孔質Pt層8を含み、多孔質Pt層8はNASICON4の表面に形成され、これを覆うように作用極6が形成されている。なお作用極6の全体にPtを分散させても良く、またPtに代えてAuなどを用いてもよい。以下、作用極6からPtを除いて説明する。作用極6はLi2CO3とNdなどの軽希土類元素のオキシ炭酸塩、例えばNd2O2CO3との混合物で、オキシ炭酸塩はLiイオンを含有している。またLi2CO3はその融点以上の温度で熱処理されるので、オキシ炭酸塩の表面に層状に分布している。
【0016】
軽希土類元素のオキシ炭酸塩を用いる代わりに、重希土類の酸化物を用いてもよく、この場合、重希土類酸化物表面にCO3イオンを吸着させ、軽希土類の場合と同様に、Li2CO3を酸化物表面に層状に分布させる。10は参照極で、多孔質のPtやAuなどから成り、ガラス管12で被検出雰囲気から遮断する。実施例ではペレット状のNASICON4を用いたが、例えばアルミナ基板の表面にNASICON膜を設け、その表面の一部に作用極6を、他の部分に参照極10を設けて、参照極10をガラスなどにより雰囲気から遮断しても良い。
【0017】
材料調製
以下に材料調製について示す。NASICONは、オキシ硝酸Zrと硝酸Na並びにテトラエチルシリケートの硝酸酸性溶液、並びにリン酸アンモニウム水素((NH4)2HPO4)から調製した。リン酸アンモニウム水素を除く出発材料を、Na3Zr2Si2PO12の組成に応じた割合で混合し、リン酸アンモニウム水素を添加して沈殿させ、空気中600℃で焼成した。得られた生成物をボールミル粉砕し、ペレット状に加圧成形して1200℃で焼成し、ペレット状のNASICON4とした。参照極10や多孔質Pt層8にはPtペーストを用い、NASICON4の両面に塗布して、例えば空気中600℃で焼成して焼き付けた。
【0018】
作用極6に軽希土類元素を用いる場合、軽希土類酸化物あるいはNd2O2CO3などの軽希土類元素のオキシ炭酸塩、あるいは軽希土類元素の炭酸塩と、Li2CO3とを混合し、例えば最高温度の850〜900℃までCO2中で加熱して、1時間程度保持し、冷却後に粉砕する。粉砕済みの生成物にグリセリンなどを添加してペースト状とし、多孔質Pt層8と参照極10とを形成済みのNASICON4に対し、作用極6を覆うように塗布し、CO2で例えば最高温度700〜850℃で1時間程度保つように再焼成する。
【0019】
希土類化合物として重希土類の酸化物を用いる場合、重希土類の酸化物とLi2CO3とを混合し、CO2中で例えば最高温度800℃程度まで加熱して1時間程度保持し、冷却後に粉砕して作用極材料とする。得られた作用極材料をペースト化して、多孔質Pt層8を覆うようにNASICON4の表面に塗布し、再度例えば700℃程度で焼成する。再焼成雰囲気はCO2中が好ましい。
【0020】
Li2CO3とNASICONとの反応
図2に、Li2CO3とNASICONとの混合物を熱処理した際の生成物を示す。Li2CO3とNASICONとを混合し、図中に示した温度まで加熱した後に、室温へ冷却しX線回折を行った。600℃付近ではNa3.4Zr2Si2.4P0.6O12に対応するピークが見られ、800℃付近ではNa4Zr2Si3O12に対応するピークが見られる。そして1000℃程度では、ZrO2のピークが検出できる。図2から、NASICONとLi2CO3との混合物を600℃以上で加熱すると、NASICONよりもNaリッチな化合物のピークが生成し、Li2CO3のピークが消失することが分かる。従ってLi2CO3がNASICONと反応し、Liイオンを含む化合物が生成しているものと推定できる。
【0021】
CO2センサ2の動作温度は400〜500℃程度、実施例では460℃で、この温度で長時間使用すると、Li2CO3の一部がNASICONと反応し、Liイオンを含有する中間層を形成するものと考えられる。またLi2CO3とNASICONとの反応は、無加熱放置などによりLi2CO3が分解して生じた遊離のLiイオンを経由するものと考えられる。そこで発明者は、作用極とNASICON界面でのLiイオンとNASICONとの反応を抑制すれば、CO2センサの長期安定性を改善し得るものと推定した。
【0022】
軽希土類のオキシ炭酸塩
図3に酸化ネオジウム(Nd2O3)とLi2CO3とのモル比での1:1混合物を、CO2(1気圧)中で加熱した際のX線回折結果を示す。図の300〜1000の数字は加熱温度を示し、1時間この温度に保持した後に室温まで冷却してX線回折を行った。図から、600℃付近でNdのオキシ炭酸塩(Nd2O2CO3)が生成し、700℃付近でLi2CO3のピークが消滅し、800℃付近ではNdのオキシ炭酸塩の格子定数が僅かに変化している。格子定数の変化(図4)は、Liイオンを包含するNdのオキシ炭酸塩(Nd2O2+2x(CO3)1-xLi2x)が生成していることを示す。1000℃程度の加熱によりオキシ炭酸塩は分解し、Ndの酸化物に変化している。なおLi2CO3は600℃強で融解するので、冷却後のオキシ炭酸塩の表面にはLi2CO3が層状に分布しているものと考えられる。
【0023】
図4に、NdやLaの酸化物と、Li2CO3とをモル比で1:1に混合し、CO2中で焼成した際の格子定数の変化を示し、オキシ炭酸Ndではc軸パラメータを、オキシ炭酸Laではab面のパラメータを示す。図の700〜900などの数字は最高加熱温度を示し、縦軸のxは図3でオキシ炭酸Ndの組成を示すために用いたLi化度を示すパラメータである。Ndのオキシ炭酸塩にLiが取り込まれると、組成がNd2O2+2x(CO3)1-xLi2xとなることが知られており、全体の組成はNd2O2+2x(CO3)1-xLi2xと(1-x)Li2CO3となる。このことと後述の熱試料分析とから、Li化度を推定した。焼成温度を増すに伴って、オキシ炭酸塩中にLiイオンが取り込まれ、Ndの場合800〜900℃の焼成で、多量のLiイオンがオキシ炭酸塩中に取り込まれる。なおNd酸化物とNa2CO3との混合物をCO2中で焼成しても、オキシ炭酸塩へのNaイオンの取り込みは生じなかった。
【0024】
図5はLi2CO3とNd2O3とのモル比で1:1混合物を、CO2中(実線)及び空気中(破線)で焼成した際の、生成物のFTIRスペクトルを示す。CO2中で600℃以上で焼成することにより、3600cm-1付近の水酸基の吸収が消滅する。これに対して空気中の焼成では、800℃付近でも水酸基の吸収は消滅していない。従ってCO2中での焼成によるNdのオキシ炭酸塩の形成が、水酸化Liの生成を効果的に防止することが分かる。
【0025】
重希土類のオキシ炭酸塩のFTIRスペクトル
図6,図7は、モル比で1:1のLi2CO3とY2O3の混合物を、400〜800℃で加熱した後室温まで冷却した後のFTIRスペクトルを示す。Y2O3とLi2CO3との混合物を焼成すると、焼成温度が400℃と低い場合でも、また焼成雰囲気を空気中としても、3600cm-1付近の水酸基の吸収が消滅する。また900cm-1付近にY2O3上に吸着したCO3イオンの吸収が見られ、550cm-1付近にもY2O3上の吸着COの吸収が見られる。これらのことから、Y2O3とLi2CO3を混合して焼成すると、焼成雰囲気がCO2中でも空気中でも、Y2O3の表面はCO3イオンで覆われることが分かる。即ち、空気中の焼成でもCO2中の焼成でも、Y2O3上のCO3イオンやCOに対応する吸収が見られる。なお空気中焼成の場合のCO3イオンはLi2CO3から供給されたものと考えられる。重希土類の酸化物とLi2CO3の混合物を焼成した場合も、600℃以上でLi2CO3は溶融して重希土類の酸化物表面に層状に分布するものと考えられる。
【0026】
熱質量分析
図8に、モル比で1:1のNd2O3とLi2CO3とをCO2中で700〜900℃の各温度で事前に焼成し、再度CO2中で加熱した際の熱質量分析の結果を示す。図の黒抜きのマークは昇温側を、白抜きのマークは降温側を示し、図中の数字は事前の焼成温度を示し、900℃以上で系の状態はLi2OとNd2O3との混合物である。事前の焼成温度が800℃や700℃の場合、900℃以上の温度を経験すると、冷却しても元の質量に戻らない。これに対して事前に900℃で焼成した試料の場合、700〜850℃で一旦質量が増加し、冷却すると元の質量に復帰する。
【0027】
図9に同じサンプルについて、空気中で再加熱を行った際の特性を示す。いずれの場合も冷却後は元の質量に復帰しないが、事前の焼成温度が900℃の場合、800℃焼成や700℃焼成に比べて、Li2CO3の分解が緩やかである。図8及び図9の結果を総合すると、事前に900℃で焼成することによりLi2CO3の安定性が増す。しかしながらこの試料では、Li2CO3などからCO2が脱離して不足しており、700〜850℃でCO2の再吸収が生じる。そこでNd2O3などの軽希土類の酸化物とLi2CO3とを850〜900℃で焼成して、軽希土類元素のオキシ炭酸塩にLiイオンを含有させると共に、その表面にLi2CO3を付着させる。次に得られた生成物を粉砕し、作用極を成膜した後CO2中で再度700〜850℃で焼成すると、CO3イオンの含有量が高く、かつ熱的に安定な作用極が得られる。
【0028】
図10に、Y,Er,Yb,Luの4種類の重希土類元素の酸化物とLi2CO3とをモル比で1:1に混合し、空気中で焼成した際の質量変化を示す。図の黒抜きの記号は混合物を予め900℃のCO2中で焼成した際の結果を示し、白抜きの記号は予備焼成を行わなかった際の結果を示す。図10の焼成雰囲気は空気中である。いずれの試料も、900℃程度の温度よりも高温側で、Liと重希土類元素の複酸化物に変化し、オキシ炭酸塩の生成は検出できなかった。生じた複酸化物は不安定で、CO2中で加熱すると300℃以上で分解して、重希土類の酸化物とLi2CO3とに変化した。CO2中での予備焼成によりLi2CO3の分解温度が高温側にシフトし、このことは重希土類の酸化物とLi2CO3との間に強い相互作用があることを示す。そしてFTIRの結果から、重希土類酸化物表面のCO3イオンの層がLi2CO3の分解を遅らせているものと推定できる。
【0029】
Ndのオキシ炭酸塩を用いた作用極の特性
図11,図12に、Li2CO3とNd2O3との混合物から出発した作用極の特性を示す。作用極はNd2O3とLi2CO3との混合物をCO2中800℃で焼成し、成膜後にCO2中700℃で再焼成したものである。図12の0.25:1などの割合は、Li2CO3とNd2O3とのモル比を示し、なお図12の最下部での割合1:0は、Nd2O3を用いずLi2CO3のみで調製した作用極を示す。また図11の中段はLi2CO3とNd2O3とのモル比で1:1の混合物を、CO2中で予備焼成せず、成膜後に空気中600℃で焼成した試料を示す。
【0030】
図11,図12でのプロットの上下の幅はCO2感度を示し、Li2CO3のみを用いた作用極では、当初の100時間程度の間起電力は急激に低下し、その後増加する。Li2CO3とNd2O3との混合物や、Ndのオキシ炭酸塩(Liイオンを包含するもの)とLi2CO3との混合物の場合、初期的に起電力が変化するが、数十時間程度で特性は安定する。そしてNdのオキシ炭酸塩とLi2CO3との混合物では、60時間程度経過すると、その後の起電力のドリフトが特に小さくなる。
【0031】
図12に示すように、Li2CO3に対してNd2O3を過剰にした方が、起電力の安定性が増加する。起電力の安定性はLi2CO3 1モルに対し、Nd2O3 4モルの出発材料で最も優れ、図12から作用極でのLiとNdとの比は原子比で1:5〜3:4が好ましいことが分かり、特に好ましくは1:4程度とする。
【0032】
重希土類の酸化物を用いた作用極の特性
図13に、重希土類元素の酸化物とLi2CO3との、モル比で1:1の混合物を用いた作用極での特性を示す。なおLi2CO3と重希土類酸化物をCO2中900℃で予備焼成し、粉砕後にペースト化して成膜して作用極とし、CO2中700℃で再焼成した。Li2CO3単味に対し、Y2O3との混合物の場合も、Yb2O3の混合物との場合も、起電力が安定になる。また重希土類の酸化物を混合することにより起電力が安定することは、TbやDy,Tmでも確認できた。
【0033】
CO2センサの安定化機構
センサ特性の安定化の機構について検討する。CO2の検出において、作用極での反応は式(1)により表され、NASICONと参照極との界面での反応は式(2)で表される。
Li2CO3→2Li++CO2+1/2 O2+2e- (1)
2Na++1/2 O2+2e-→Na2O (2)
そこで反応に関与する各成分の電気化学ポテンシャルをμで表わし、作用極を添字aで、参照極を添字rで表し、作用極での平衡や参照極とNASICON界面での平衡を仮定すると、作用極で式(3)が、参照極で式(4)が成立する。
μaLi2CO3=2μaLi++μaCO2+1/2μaO2+2μae- (3)
2μrNa++1/2μrO2+2μre-=μrNa2O (4)
【0034】
活量を記号aで表し、ギブスの自由エネルギーの変化をΔG0で、Farady定数をFで表すと、式(3),(4)からCO2センサの起電力は式(5)で表される。ここからCO2感度に関する項と他の項とを分離すると、起電力は式(6)で表される。
EMF=−ΔG0/2F−(RT/2F)ln[(aaLi+2・PaCO2・aaO20.5・arNa2O)/
(aaLi2CO3・arNa+2・arO20.5)] (5)
EMF=−(RT/2F)ln[PaCO2]−(RT/2F)ln[(aaLi+2・arNa2O)/(aaLi2CO3・arNa+2)]
+constant (6)
作用極側でのLi2CO3の活量はほぼ一定と考えられ、参照極側でのNa2Oの活量とNaイオンの活量の比も、参照極での酸素の活量が一定であれば、式(4)からほぼ一定と考えられる。すると起電力の変化をもたらしているものは、Liイオンの活量の変化となる。そしてこのことは、図2で確認したNASICONとLi2CO3との反応によるLiイオンの活動どの変化と対応し、また軽希土類のオキシ炭酸塩や重希土類の酸化物がLiイオンのバッファとして作用し、起電力のドリフトを防止するとの結果とも一致する。
【0035】
実施例では、軽希土類元素のオキシ炭酸塩により遊離のLiイオンを吸収し、NASICONとの反応を防止すると共に、Liイオンの活量を安定化する。これによって起電力が安定化する。重希土類の酸化物の場合、酸化物表面にCO3イオンの層が形成されている。作用極のLi2CO3から遊離のLiイオンが生じると、重希土類酸化物表面のCO3イオンにより吸着される。このため遊離のLiイオンがトラップされ、同様にLiイオンの活量の変化を防止すると共に、NASICONとの反応を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例のCO2センサを模式的に示す図
【図2】NASICONとLiイオンとの反応を示すX線回折図
【図3】Nd2O3とLi2CO3とをCO2中で焼成した際の、Liイオン含有のNdのオキシ炭酸塩の生成を示すX線回折図
【図4】図3における、c軸方向パラメータとLiイオン含有量との関係を示す図
【図5】Li2CO3とNd2O3とのモル比で1:1混合物を、CO2中(実線)及び空気中(破線)で焼成した際の、FTIRスペクトル
【図6】Li2CO3とY2O3とのモル比で1:1混合物を、CO2中(実線)及び空気中(破線)で焼成した際の、FTIRスペクトル
【図7】図6と同じ試料のFTIRスペクトルで、波数400cm−1〜2000cm−1の範囲を拡大して示す
【図8】CO2中で予め700〜900℃で反応させたNd2O3とLi2CO3との混合物を、CO2中で温度変化させた際の質量変化パターンを示す図
【図9】図8と同じ試料を、空気中で温度変化させた際の質量変化パターンを示す図
【図10】CO2中で焼成した重希土類酸化物とLi2CO3との混合物を、空気中で温度変化させた際の質量変化パターンを示す図
【図11】Li2CO3とNd2O3のモル比で1:1混合物をCO2中800℃で焼成した作用極を用いたセンサでの、CO2検出特性を示す図で、30分毎に雰囲気をCO2 370ppmと10000ppmとに切り替えた際の起電力を示し、図の空白の区間は無加熱放置を示す
【図12】図11と同様の特性図で、Li2CO3とNd2O3のモル比を0.25:1〜1:1の範囲で変更した際の結果を示す
【図13】図11と同様の特性図で、Li2CO3とYb2O3との1:1混合物を出発材料とする作用極、及びLi2CO3とY2O3との1:1混合物を出発材料とする作用極を用いた際の結果を示す
【符号の説明】
【0037】
2 CO2センサ
4 NASICON
6 作用極
8 多孔質Pt層
10 参照極
12 ガラス管
【技術分野】
【0001】
この発明は、Naイオン導電体と、Li2CO3と希土類化合物と、電子導電性物質を含む作用極とを用いた、ポテンショメトリック型のCO2センサとその製造方法に関し、特にその安定性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
Li2CO3とPtやAuなどの混合物から成る作用極をNASICONの一面に設け、NASICONの裏面に被検出雰囲気から遮断してAuやPtの参照極を設けたCO2センサが用いられている。このCO2センサの問題点は、無加熱で放置すると、特に無加熱で湿中雰囲気に放置すると、起電力が低下することにある。そしてこのような起電力の低下を補うため、実用的には、大気中での起電力を学習することが行われている。即ち、起電力が高くかつ安定していることを検出すると、これを大気中での起電力と見なして、この起電力との差によりCO2濃度を求める。以上のように、CO2センサの起電力を安定にすることは、CO2センサでの基本的な課題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の課題は、CO2センサの安定性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3と希土類化合物と電子導電性物質とを含み,かつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサにおいて、
前記作用極が、原子番号57〜64の軽希土類元素の,Liイオンを層間に含有するオキシ炭酸塩と、Li2CO3との混合物を含むことを特徴とする。
【0005】
またこの発明は、Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3とNd化合物と電子導電性物質とを含みかつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサの製造方法において、
Li化合物とNd化合物の混合物をCO2中850〜900℃で焼成することにより、Liイオンを層間に含有するNdのオキシ炭酸塩とLi2CO3との混合物とし、
該混合物と前記電子伝導性物質とを用いて、前記Naイオン導電体の表面に作用極を成膜し、次いでCO2中700〜850℃で再焼成することを特徴とする。
【0006】
この発明は、Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3と希土類化合物と電子導電性物質とを含みかつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサにおいて、
前記作用極が、Y及び原子番号65〜71の重希土類元素からなる群の少なくとも一員の元素の表面にCO32−イオンが吸着した酸化物と、Li2CO3との混合物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
発明者は、CO2センサの起電力が経時的に変化する原因は、作用極でのLiイオンの活量が変化することにあることを見出した。即ちLiイオンはNASICONなどのNaイオン導電体と反応し、作用極とNaイオン導電体との界面に中間層を形成する。LiイオンがNASICONなどと反応すると、作用極でのLiイオンの活量が低下し起電力が変化する。
【0008】
発明者は、原子番号57〜64の軽希土類元素がオキシ炭酸塩を形成し、かつオキシ炭酸塩の層間にLiイオンを包含することを見出した。層間のスペースはオキシ炭酸塩中のCO3イオンによるスペースで、CO3イオンが大きなサイズを持つため、Liイオンは層間に自由に出入りできる。
【0009】
CO2センサが無加熱放置などを経験し、作用極が水蒸気に触れると、Li2CO3の一部が水酸化Liなどに分解する。水酸化LiはLi2CO3に比べて活性で遊離のLiイオンが生じるが、生成したLiイオンは軽希土類元素のオキシ炭酸塩の層間に吸収され、Naイオン導電体との反応を防止できる。以上のメカニズムにより、CO2センサの起電力の変化を防止できる。
【0010】
軽希土類元素として特にNdが好ましく、これ以外にLaやPr,Sm,Euなどでもよい。作用極ではLi元素の一部が希土類元素のオキシ炭酸塩中に包含され、残部がLi2CO3の形態で存在し、特に700℃以上での焼成を施すと、Li2CO3は融解して希土類のオキシ炭酸塩粒子の表面に層状に分布する。Li2CO3と希土類のオキシ炭酸塩との比率はモル比で、例えば1:1〜1:5程度とし、好ましくは3:4〜1:5程度とする。
【0011】
図8,図9などに示すように、Li化合物とNd化合物の混合物をCO2中850〜900℃で焼成することにより、作用極の安定性が増す。言い換えると作用極からCO2が脱離し難くなる。ここで850〜900℃で焼成したLi2CO3とNdのオキシ炭酸塩との混合物は、CO2中700〜850℃でさらに重量が増加する。このことは当初の焼成でCO2が脱離し、700〜850℃で再度CO2を吸収するものと考えられる。当初の焼成温度が800℃や700℃の場合、800℃付近でのCO2の再吸収は見られない。なおこの明細書において、CO2中は200KPa(0.2気圧)以上のCO2分圧を意味し、好ましくは1気圧以上のCO2分圧を意味する。
【0012】
これらのため、Li化合物とNd化合物の混合物をCO2中850〜900℃で焼成し、次いでこの混合物にPtやAuなどの電子導電性物質を混合して作用極を成膜し、成膜後に700〜850℃でCO2中の再焼成を行うと、Ndのオキシ炭酸塩に取り込まれていないLi化合物はほとんど全量Li2CO3となる。
【0013】
発明者は軽希土類元素に代えて、重希土類元素の酸化物やY2O3をLi2CO3と混合しても、CO2センサの特性が安定化することを見出した(図11〜図13)。なお以下では原子番号65〜71の重希土類元素にYを加えて、単に重希土類元素という。重希土類元素は一般にオキシ炭酸塩を形成しないので、CO2センサの特性を安定化するメカニズムは、オキシ炭酸塩の層間へのLiイオンの取り込みとは異なったものである。発明者は、Li2CO3と重希土類元素の酸化物とをCO2中ないしは空気中で焼成すると、重希土類元素の酸化物表面にCO3イオンに由来する赤外吸収が生じることを見出した。このことは、重希土類酸化物表面がCO3イオンで覆われており、CO3イオンからなる負に帯電した場が、遊離のLiイオンを捕捉することを示唆している。そして事実、重希土類酸化物とLi2CO3とを含む作用極は、電子導電性物質の他はLi2CO3のみからなる作用極に比べ安定である(図13)。これらのことは、重希土類の酸化物表面のCO3イオンの場が遊離のLiイオンを吸着し、作用極でのLiイオンの活量を一定に近づけることにより、起電力を安定化できることを示唆する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0015】
CO2センサの構造
図1〜図13に実施例のCO2センサ2とその特性とを示す。図1はCO2センサ2の構造を模式的に示し、4はペレット状のNASICONで、Na3Zr2Si2PO12の組成で表される。6は作用極で、内部に多孔質Pt層8を含み、多孔質Pt層8はNASICON4の表面に形成され、これを覆うように作用極6が形成されている。なお作用極6の全体にPtを分散させても良く、またPtに代えてAuなどを用いてもよい。以下、作用極6からPtを除いて説明する。作用極6はLi2CO3とNdなどの軽希土類元素のオキシ炭酸塩、例えばNd2O2CO3との混合物で、オキシ炭酸塩はLiイオンを含有している。またLi2CO3はその融点以上の温度で熱処理されるので、オキシ炭酸塩の表面に層状に分布している。
【0016】
軽希土類元素のオキシ炭酸塩を用いる代わりに、重希土類の酸化物を用いてもよく、この場合、重希土類酸化物表面にCO3イオンを吸着させ、軽希土類の場合と同様に、Li2CO3を酸化物表面に層状に分布させる。10は参照極で、多孔質のPtやAuなどから成り、ガラス管12で被検出雰囲気から遮断する。実施例ではペレット状のNASICON4を用いたが、例えばアルミナ基板の表面にNASICON膜を設け、その表面の一部に作用極6を、他の部分に参照極10を設けて、参照極10をガラスなどにより雰囲気から遮断しても良い。
【0017】
材料調製
以下に材料調製について示す。NASICONは、オキシ硝酸Zrと硝酸Na並びにテトラエチルシリケートの硝酸酸性溶液、並びにリン酸アンモニウム水素((NH4)2HPO4)から調製した。リン酸アンモニウム水素を除く出発材料を、Na3Zr2Si2PO12の組成に応じた割合で混合し、リン酸アンモニウム水素を添加して沈殿させ、空気中600℃で焼成した。得られた生成物をボールミル粉砕し、ペレット状に加圧成形して1200℃で焼成し、ペレット状のNASICON4とした。参照極10や多孔質Pt層8にはPtペーストを用い、NASICON4の両面に塗布して、例えば空気中600℃で焼成して焼き付けた。
【0018】
作用極6に軽希土類元素を用いる場合、軽希土類酸化物あるいはNd2O2CO3などの軽希土類元素のオキシ炭酸塩、あるいは軽希土類元素の炭酸塩と、Li2CO3とを混合し、例えば最高温度の850〜900℃までCO2中で加熱して、1時間程度保持し、冷却後に粉砕する。粉砕済みの生成物にグリセリンなどを添加してペースト状とし、多孔質Pt層8と参照極10とを形成済みのNASICON4に対し、作用極6を覆うように塗布し、CO2で例えば最高温度700〜850℃で1時間程度保つように再焼成する。
【0019】
希土類化合物として重希土類の酸化物を用いる場合、重希土類の酸化物とLi2CO3とを混合し、CO2中で例えば最高温度800℃程度まで加熱して1時間程度保持し、冷却後に粉砕して作用極材料とする。得られた作用極材料をペースト化して、多孔質Pt層8を覆うようにNASICON4の表面に塗布し、再度例えば700℃程度で焼成する。再焼成雰囲気はCO2中が好ましい。
【0020】
Li2CO3とNASICONとの反応
図2に、Li2CO3とNASICONとの混合物を熱処理した際の生成物を示す。Li2CO3とNASICONとを混合し、図中に示した温度まで加熱した後に、室温へ冷却しX線回折を行った。600℃付近ではNa3.4Zr2Si2.4P0.6O12に対応するピークが見られ、800℃付近ではNa4Zr2Si3O12に対応するピークが見られる。そして1000℃程度では、ZrO2のピークが検出できる。図2から、NASICONとLi2CO3との混合物を600℃以上で加熱すると、NASICONよりもNaリッチな化合物のピークが生成し、Li2CO3のピークが消失することが分かる。従ってLi2CO3がNASICONと反応し、Liイオンを含む化合物が生成しているものと推定できる。
【0021】
CO2センサ2の動作温度は400〜500℃程度、実施例では460℃で、この温度で長時間使用すると、Li2CO3の一部がNASICONと反応し、Liイオンを含有する中間層を形成するものと考えられる。またLi2CO3とNASICONとの反応は、無加熱放置などによりLi2CO3が分解して生じた遊離のLiイオンを経由するものと考えられる。そこで発明者は、作用極とNASICON界面でのLiイオンとNASICONとの反応を抑制すれば、CO2センサの長期安定性を改善し得るものと推定した。
【0022】
軽希土類のオキシ炭酸塩
図3に酸化ネオジウム(Nd2O3)とLi2CO3とのモル比での1:1混合物を、CO2(1気圧)中で加熱した際のX線回折結果を示す。図の300〜1000の数字は加熱温度を示し、1時間この温度に保持した後に室温まで冷却してX線回折を行った。図から、600℃付近でNdのオキシ炭酸塩(Nd2O2CO3)が生成し、700℃付近でLi2CO3のピークが消滅し、800℃付近ではNdのオキシ炭酸塩の格子定数が僅かに変化している。格子定数の変化(図4)は、Liイオンを包含するNdのオキシ炭酸塩(Nd2O2+2x(CO3)1-xLi2x)が生成していることを示す。1000℃程度の加熱によりオキシ炭酸塩は分解し、Ndの酸化物に変化している。なおLi2CO3は600℃強で融解するので、冷却後のオキシ炭酸塩の表面にはLi2CO3が層状に分布しているものと考えられる。
【0023】
図4に、NdやLaの酸化物と、Li2CO3とをモル比で1:1に混合し、CO2中で焼成した際の格子定数の変化を示し、オキシ炭酸Ndではc軸パラメータを、オキシ炭酸Laではab面のパラメータを示す。図の700〜900などの数字は最高加熱温度を示し、縦軸のxは図3でオキシ炭酸Ndの組成を示すために用いたLi化度を示すパラメータである。Ndのオキシ炭酸塩にLiが取り込まれると、組成がNd2O2+2x(CO3)1-xLi2xとなることが知られており、全体の組成はNd2O2+2x(CO3)1-xLi2xと(1-x)Li2CO3となる。このことと後述の熱試料分析とから、Li化度を推定した。焼成温度を増すに伴って、オキシ炭酸塩中にLiイオンが取り込まれ、Ndの場合800〜900℃の焼成で、多量のLiイオンがオキシ炭酸塩中に取り込まれる。なおNd酸化物とNa2CO3との混合物をCO2中で焼成しても、オキシ炭酸塩へのNaイオンの取り込みは生じなかった。
【0024】
図5はLi2CO3とNd2O3とのモル比で1:1混合物を、CO2中(実線)及び空気中(破線)で焼成した際の、生成物のFTIRスペクトルを示す。CO2中で600℃以上で焼成することにより、3600cm-1付近の水酸基の吸収が消滅する。これに対して空気中の焼成では、800℃付近でも水酸基の吸収は消滅していない。従ってCO2中での焼成によるNdのオキシ炭酸塩の形成が、水酸化Liの生成を効果的に防止することが分かる。
【0025】
重希土類のオキシ炭酸塩のFTIRスペクトル
図6,図7は、モル比で1:1のLi2CO3とY2O3の混合物を、400〜800℃で加熱した後室温まで冷却した後のFTIRスペクトルを示す。Y2O3とLi2CO3との混合物を焼成すると、焼成温度が400℃と低い場合でも、また焼成雰囲気を空気中としても、3600cm-1付近の水酸基の吸収が消滅する。また900cm-1付近にY2O3上に吸着したCO3イオンの吸収が見られ、550cm-1付近にもY2O3上の吸着COの吸収が見られる。これらのことから、Y2O3とLi2CO3を混合して焼成すると、焼成雰囲気がCO2中でも空気中でも、Y2O3の表面はCO3イオンで覆われることが分かる。即ち、空気中の焼成でもCO2中の焼成でも、Y2O3上のCO3イオンやCOに対応する吸収が見られる。なお空気中焼成の場合のCO3イオンはLi2CO3から供給されたものと考えられる。重希土類の酸化物とLi2CO3の混合物を焼成した場合も、600℃以上でLi2CO3は溶融して重希土類の酸化物表面に層状に分布するものと考えられる。
【0026】
熱質量分析
図8に、モル比で1:1のNd2O3とLi2CO3とをCO2中で700〜900℃の各温度で事前に焼成し、再度CO2中で加熱した際の熱質量分析の結果を示す。図の黒抜きのマークは昇温側を、白抜きのマークは降温側を示し、図中の数字は事前の焼成温度を示し、900℃以上で系の状態はLi2OとNd2O3との混合物である。事前の焼成温度が800℃や700℃の場合、900℃以上の温度を経験すると、冷却しても元の質量に戻らない。これに対して事前に900℃で焼成した試料の場合、700〜850℃で一旦質量が増加し、冷却すると元の質量に復帰する。
【0027】
図9に同じサンプルについて、空気中で再加熱を行った際の特性を示す。いずれの場合も冷却後は元の質量に復帰しないが、事前の焼成温度が900℃の場合、800℃焼成や700℃焼成に比べて、Li2CO3の分解が緩やかである。図8及び図9の結果を総合すると、事前に900℃で焼成することによりLi2CO3の安定性が増す。しかしながらこの試料では、Li2CO3などからCO2が脱離して不足しており、700〜850℃でCO2の再吸収が生じる。そこでNd2O3などの軽希土類の酸化物とLi2CO3とを850〜900℃で焼成して、軽希土類元素のオキシ炭酸塩にLiイオンを含有させると共に、その表面にLi2CO3を付着させる。次に得られた生成物を粉砕し、作用極を成膜した後CO2中で再度700〜850℃で焼成すると、CO3イオンの含有量が高く、かつ熱的に安定な作用極が得られる。
【0028】
図10に、Y,Er,Yb,Luの4種類の重希土類元素の酸化物とLi2CO3とをモル比で1:1に混合し、空気中で焼成した際の質量変化を示す。図の黒抜きの記号は混合物を予め900℃のCO2中で焼成した際の結果を示し、白抜きの記号は予備焼成を行わなかった際の結果を示す。図10の焼成雰囲気は空気中である。いずれの試料も、900℃程度の温度よりも高温側で、Liと重希土類元素の複酸化物に変化し、オキシ炭酸塩の生成は検出できなかった。生じた複酸化物は不安定で、CO2中で加熱すると300℃以上で分解して、重希土類の酸化物とLi2CO3とに変化した。CO2中での予備焼成によりLi2CO3の分解温度が高温側にシフトし、このことは重希土類の酸化物とLi2CO3との間に強い相互作用があることを示す。そしてFTIRの結果から、重希土類酸化物表面のCO3イオンの層がLi2CO3の分解を遅らせているものと推定できる。
【0029】
Ndのオキシ炭酸塩を用いた作用極の特性
図11,図12に、Li2CO3とNd2O3との混合物から出発した作用極の特性を示す。作用極はNd2O3とLi2CO3との混合物をCO2中800℃で焼成し、成膜後にCO2中700℃で再焼成したものである。図12の0.25:1などの割合は、Li2CO3とNd2O3とのモル比を示し、なお図12の最下部での割合1:0は、Nd2O3を用いずLi2CO3のみで調製した作用極を示す。また図11の中段はLi2CO3とNd2O3とのモル比で1:1の混合物を、CO2中で予備焼成せず、成膜後に空気中600℃で焼成した試料を示す。
【0030】
図11,図12でのプロットの上下の幅はCO2感度を示し、Li2CO3のみを用いた作用極では、当初の100時間程度の間起電力は急激に低下し、その後増加する。Li2CO3とNd2O3との混合物や、Ndのオキシ炭酸塩(Liイオンを包含するもの)とLi2CO3との混合物の場合、初期的に起電力が変化するが、数十時間程度で特性は安定する。そしてNdのオキシ炭酸塩とLi2CO3との混合物では、60時間程度経過すると、その後の起電力のドリフトが特に小さくなる。
【0031】
図12に示すように、Li2CO3に対してNd2O3を過剰にした方が、起電力の安定性が増加する。起電力の安定性はLi2CO3 1モルに対し、Nd2O3 4モルの出発材料で最も優れ、図12から作用極でのLiとNdとの比は原子比で1:5〜3:4が好ましいことが分かり、特に好ましくは1:4程度とする。
【0032】
重希土類の酸化物を用いた作用極の特性
図13に、重希土類元素の酸化物とLi2CO3との、モル比で1:1の混合物を用いた作用極での特性を示す。なおLi2CO3と重希土類酸化物をCO2中900℃で予備焼成し、粉砕後にペースト化して成膜して作用極とし、CO2中700℃で再焼成した。Li2CO3単味に対し、Y2O3との混合物の場合も、Yb2O3の混合物との場合も、起電力が安定になる。また重希土類の酸化物を混合することにより起電力が安定することは、TbやDy,Tmでも確認できた。
【0033】
CO2センサの安定化機構
センサ特性の安定化の機構について検討する。CO2の検出において、作用極での反応は式(1)により表され、NASICONと参照極との界面での反応は式(2)で表される。
Li2CO3→2Li++CO2+1/2 O2+2e- (1)
2Na++1/2 O2+2e-→Na2O (2)
そこで反応に関与する各成分の電気化学ポテンシャルをμで表わし、作用極を添字aで、参照極を添字rで表し、作用極での平衡や参照極とNASICON界面での平衡を仮定すると、作用極で式(3)が、参照極で式(4)が成立する。
μaLi2CO3=2μaLi++μaCO2+1/2μaO2+2μae- (3)
2μrNa++1/2μrO2+2μre-=μrNa2O (4)
【0034】
活量を記号aで表し、ギブスの自由エネルギーの変化をΔG0で、Farady定数をFで表すと、式(3),(4)からCO2センサの起電力は式(5)で表される。ここからCO2感度に関する項と他の項とを分離すると、起電力は式(6)で表される。
EMF=−ΔG0/2F−(RT/2F)ln[(aaLi+2・PaCO2・aaO20.5・arNa2O)/
(aaLi2CO3・arNa+2・arO20.5)] (5)
EMF=−(RT/2F)ln[PaCO2]−(RT/2F)ln[(aaLi+2・arNa2O)/(aaLi2CO3・arNa+2)]
+constant (6)
作用極側でのLi2CO3の活量はほぼ一定と考えられ、参照極側でのNa2Oの活量とNaイオンの活量の比も、参照極での酸素の活量が一定であれば、式(4)からほぼ一定と考えられる。すると起電力の変化をもたらしているものは、Liイオンの活量の変化となる。そしてこのことは、図2で確認したNASICONとLi2CO3との反応によるLiイオンの活動どの変化と対応し、また軽希土類のオキシ炭酸塩や重希土類の酸化物がLiイオンのバッファとして作用し、起電力のドリフトを防止するとの結果とも一致する。
【0035】
実施例では、軽希土類元素のオキシ炭酸塩により遊離のLiイオンを吸収し、NASICONとの反応を防止すると共に、Liイオンの活量を安定化する。これによって起電力が安定化する。重希土類の酸化物の場合、酸化物表面にCO3イオンの層が形成されている。作用極のLi2CO3から遊離のLiイオンが生じると、重希土類酸化物表面のCO3イオンにより吸着される。このため遊離のLiイオンがトラップされ、同様にLiイオンの活量の変化を防止すると共に、NASICONとの反応を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例のCO2センサを模式的に示す図
【図2】NASICONとLiイオンとの反応を示すX線回折図
【図3】Nd2O3とLi2CO3とをCO2中で焼成した際の、Liイオン含有のNdのオキシ炭酸塩の生成を示すX線回折図
【図4】図3における、c軸方向パラメータとLiイオン含有量との関係を示す図
【図5】Li2CO3とNd2O3とのモル比で1:1混合物を、CO2中(実線)及び空気中(破線)で焼成した際の、FTIRスペクトル
【図6】Li2CO3とY2O3とのモル比で1:1混合物を、CO2中(実線)及び空気中(破線)で焼成した際の、FTIRスペクトル
【図7】図6と同じ試料のFTIRスペクトルで、波数400cm−1〜2000cm−1の範囲を拡大して示す
【図8】CO2中で予め700〜900℃で反応させたNd2O3とLi2CO3との混合物を、CO2中で温度変化させた際の質量変化パターンを示す図
【図9】図8と同じ試料を、空気中で温度変化させた際の質量変化パターンを示す図
【図10】CO2中で焼成した重希土類酸化物とLi2CO3との混合物を、空気中で温度変化させた際の質量変化パターンを示す図
【図11】Li2CO3とNd2O3のモル比で1:1混合物をCO2中800℃で焼成した作用極を用いたセンサでの、CO2検出特性を示す図で、30分毎に雰囲気をCO2 370ppmと10000ppmとに切り替えた際の起電力を示し、図の空白の区間は無加熱放置を示す
【図12】図11と同様の特性図で、Li2CO3とNd2O3のモル比を0.25:1〜1:1の範囲で変更した際の結果を示す
【図13】図11と同様の特性図で、Li2CO3とYb2O3との1:1混合物を出発材料とする作用極、及びLi2CO3とY2O3との1:1混合物を出発材料とする作用極を用いた際の結果を示す
【符号の説明】
【0037】
2 CO2センサ
4 NASICON
6 作用極
8 多孔質Pt層
10 参照極
12 ガラス管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3と希土類化合物と電子導電性物質とを含み,かつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサにおいて、
前記作用極が、原子番号57〜64の軽希土類元素の,Liイオンを層間に含有するオキシ炭酸塩と、Li2CO3との混合物を含むことを特徴とする、CO2センサ。
【請求項2】
Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3とNd化合物と電子導電性物質とを含みかつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサの製造方法において、
Li化合物とNd化合物の混合物をCO2中850〜900℃で焼成することにより、Liイオンを層間に含有するNdのオキシ炭酸塩とLi2CO3との混合物とし、
該混合物と前記電子伝導性物質とを用いて、前記Naイオン導電体の表面に作用極を成膜し、次いでCO2中700〜850℃で再焼成することを特徴とする、CO2センサの製造方法。
【請求項3】
Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3と希土類化合物と電子導電性物質とを含みかつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサにおいて、
前記作用極が、Y及び原子番号65〜71の重希土類元素からなる群の少なくとも一員の元素の表面にCO32−イオンが吸着した酸化物と、Li2CO3との混合物を含むことを特徴とする、CO2センサ。
【請求項1】
Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3と希土類化合物と電子導電性物質とを含み,かつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサにおいて、
前記作用極が、原子番号57〜64の軽希土類元素の,Liイオンを層間に含有するオキシ炭酸塩と、Li2CO3との混合物を含むことを特徴とする、CO2センサ。
【請求項2】
Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3とNd化合物と電子導電性物質とを含みかつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサの製造方法において、
Li化合物とNd化合物の混合物をCO2中850〜900℃で焼成することにより、Liイオンを層間に含有するNdのオキシ炭酸塩とLi2CO3との混合物とし、
該混合物と前記電子伝導性物質とを用いて、前記Naイオン導電体の表面に作用極を成膜し、次いでCO2中700〜850℃で再焼成することを特徴とする、CO2センサの製造方法。
【請求項3】
Naイオン導電体に接触するように、被検出雰囲気から遮断した参照極と、Li2CO3と希土類化合物と電子導電性物質とを含みかつ被検出雰囲気に接触する作用極、とを設けたCO2センサにおいて、
前記作用極が、Y及び原子番号65〜71の重希土類元素からなる群の少なくとも一員の元素の表面にCO32−イオンが吸着した酸化物と、Li2CO3との混合物を含むことを特徴とする、CO2センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−8527(P2009−8527A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170025(P2007−170025)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]